説明

キャリヤー組成物および付加価値が付与された繊維材料の製造方法

【課題】 繊維材料に付加価値を付与するために繊維加工剤と共に使用され、染色性等の繊維加工剤処理によって得られる諸物性を向上することができ、その処理による繊維材料の劣化等が生じにくく、環境や人体への負荷を低減可能なキャリヤー組成物を提供する。
【解決手段】 キャリヤー組成物は、繊維材料に付加価値を付与するために繊維加工剤と共に使用される組成物であって、安息香酸エステルとノニオン界面活性剤とを必須成分として含む。付加価値が付与された繊維材料の製造方法は、安息香酸エステルおよびノニオン界面活性剤の存在下、繊維材料を繊維加工剤で処理する加工工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリヤー組成物と、このキャリヤー組成物を用いて行われる、付加価値が付与された繊維材料の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維材料に付加価値を付与するために、染色処理、紫外線吸収性付与処理、難燃化処理、親水化処理等の各種処理方法が知られている。たとえば、代表的な合成繊維であるポリエステルやアセテートからなる繊維材料を染色処理するためには、一般には分散染料を使用するが、これらの繊維材料では結晶領域が多くて染着しにくいので、通常、染色性を高めるために、高圧下で染色され、その際、キャリヤー剤が分散染料とともに使用される。
公知のキャリヤー剤としては、たとえば、芳香族ハロゲン化合物、N−アルキルフタルイミド、メチルナフタレン、ジフェニル、ジフェニルエステル、ナフトールエステル、フェノールエーテルおよびヒドロキシジフェニル等を挙げることができる(特許文献1および特許文献2を参照)。しかしながら、芳香族ハロゲン化合物には特有臭があり、環境や人体に悪影響を与える。メチルナフタレンおよびヒドロキシジフェニルは、羊毛に対する耐汚染性および日光堅牢度に劣る。ジフェニルエステルは、染料の種類により性能が大きく変化し、染色再現性が低い。N−アルキルフタルイミドは、アセテートを劣化させるとともに100℃以下の低温では染色性が著しく低下する。このように、従来のキャリヤー剤の物性は必ずしも満足できるものではない。
また、結晶領域の多い繊維の代表であるポリエステルと非結晶領域の多い繊維の代表である羊毛とが混紡または交織された繊維材料を分散染料で染色する場合、分散染料が羊毛を汚染するので、繊維材料の色合いが大きく損なわれるという問題があった。
【特許文献1】特開平2−229280号公報
【特許文献2】特開平7−003662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、繊維材料に付加価値を付与するために繊維加工剤と共に使用され、染色性等の繊維加工剤処理によって得られる諸物性を向上することができ、その処理による繊維材料の劣化等が生じにくく、環境や人体への負荷を低減可能なキャリヤー組成物を提供することである。
本発明の別の課題は、環境や人体への負荷が低減され、染色性等の繊維加工剤処理によって得られる諸物性が向上し、繊維材料の劣化等が生じにくい、付加価値が付与された繊維材料を容易に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、繊維加工剤と共に、安息香酸エステルおよびノニオン界面活性剤を併用することによって、繊維加工剤処理によって得られる諸物性が向上し、上記問題点が解決できることを見出し、本発明に到達した。
したがって、本発明にかかるキャリヤー組成物は、繊維材料に付加価値を付与するために繊維加工剤と共に使用される組成物であって、安息香酸エステルとノニオン界面活性剤とを必須成分として含む。
【0005】
また、本発明にかかる付加価値が付与された繊維材料の製造方法は、安息香酸エステルおよびノニオン界面活性剤の存在下、繊維材料を繊維加工剤で処理する加工工程を含む製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のキャリヤー組成物は、繊維材料に付加価値を付与するために繊維加工剤と共に使用され、染色性等の繊維加工剤処理によって得られる諸物性を向上することができ、その処理による繊維材料の劣化等が生じにくく、環境や人体への負荷を低減可能である。
本発明の製造方法は、環境や人体への負荷が低減され、染色性等の繊維加工剤処理によって得られる諸物性が向上し、繊維材料の劣化等が生じにくい、付加価値が付与された繊維材料を容易に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明にかかるキャリヤー組成物は、繊維材料に付加価値を付与するために用いられる繊維加工剤と共に使用される組成物である。
繊維材料としては特に限定はないが、結晶領域の多い繊維(たとえば、芳香族ポリエステル、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、ジアセテート、トリアセテート、その単量体の共重合体等)を少なくとも含む繊維材料であると、染色性等の繊維加工剤処理によって得られる諸物性が向上するために好ましい。繊維材料は、上記結晶領域の多い繊維と非結晶領域の多い繊維(たとえば、木綿、麻、羊毛等の天然繊維;ナイロン等)とを含む場合でもよい。ここで、結晶領域とは、たとえば、合成繊維等の製造工程中で延伸等の物理的処理をした場合に形成されるような、繊維を構成する分子鎖が相対的に規則正しく配向した領域を意味し、非結晶領域とは、上記の説明とは逆で、繊維を構成する分子鎖が相対的に規則正しくなく、ランダムに配向した領域を意味することとする。
【0008】
繊維材料は、1種のみから構成されていてもよく、複数種から構成されていてもよい。後者の場合は、混紡または交織のいずれであってもよい。たとえば、ポリエステル/羊毛、ポリエステル/綿、ポリエステル/アセテート等の混紡または交織の繊維材料は、繊維加工剤が後述の染料(特に分散染料)の場合に好適である。
繊維加工剤としては特に限定はないが、たとえば、染料、紫外線吸収剤、難燃剤および親水化剤等を挙げることができる。これらの繊維加工剤は、1種または2種以上を併用してもよい。これらの繊維加工剤を複数使用することによって、1回の処理で複数の機能を繊維材料に付与することが可能になる。たとえば、染料と難燃剤、染料と紫外線吸収剤のように、2種類の繊維加工剤を使用することによって、染色加工と難燃加工、染色加工と紫外線吸収加工を1回の処理で行うことが可能になる。
【0009】
染料としては、たとえば、アゾ、トリアリールメタン、アンスラキノン染料等の酸性染料;トリフェニルメタン、チアジン染料等の塩基性染料;スルホン化アゾ染料等の直接染料;媒染染料;バット染料;ニトロアリールアミン、アゾまたはアミノ基を有するアンスラキノン染料等の分散染料;直接染料;反応染料;これらの染料の混合物等を挙げることができる。これらの染料は1種または2種以上を併用してもよい。これらの染料のうちでも分散染料が繊維材料の染色性を向上させる効果が大きいために好ましい。
【0010】
紫外線吸収剤としては、たとえば、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤;2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−(ヘキシルオキシ)−フェノール、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン等のトリアジン系紫外線吸収剤;2,2’−(p−フェニレン)ジ−3,1−ベンゾキサジン−4−オン等のベンゾキサジノン系紫外線吸収剤;エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、(2−エチルヘキシル)−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート等のシアノアクリレート系紫外線吸収剤;p−t−ブチルフェニルサリシレート等のサリシレート系紫外線吸収剤等を挙げることができる。これらの紫外線吸収剤は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0011】
難燃剤としては、たとえば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、キシレニルフェニルホスフェート、クレジルキシレニルホスフェート等のリン酸エステル;レゾルシノールビス(ジフェニル)ホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニル)ホスフェート、レゾルシノールビス(ジキシレニル)ホスフェート等の縮合リン酸エステル;亜リン酸エステル;次亜リン酸エステル;ホスフィンオキシド;リン酸エステルアミド;含塩素リン酸エステル;含塩素縮合リン酸エステル;リン含有ポリエステル樹脂;ホスファゼン;デカブロモジフェニルエーテル、エチレンビス(ペンタブロモジフェニル)、エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)、トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジン等の臭素系難燃剤等を挙げることができる。これらの難燃剤は、1種または2種以上を併用してもよい。
親水化剤としては、たとえば、防汚性、帯電防止性、柔軟性または吸水性等を付与することのできる親水性官能基(ポリアルキレングリコール基、スルホン酸基、カルボキル基等)を有するポリエステル樹脂からなる親水化処理剤等を挙げることができる。ポリエステル樹脂の分子量については特に限定はないが、1000〜20000の範囲であれば好ましい。これらの親水化剤は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0012】
本発明にかかるキャリヤー組成物は、安息香酸エステルとノニオン界面活性剤とを必須成分として含む。これらの成分は、いずれも、ハロゲンを含まず、環境や人体への負荷を低減することができる成分である。
【0013】
本発明で用いられる安息香酸エステルは、染色性等の繊維加工剤処理によって得られる諸物性を向上させることができ、繊維材料にアセテートを含む場合には繊維の耐劣化性を高める主要成分である。
安息香酸エステルとしては特に限定はなく、たとえば、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル等の安息香酸アルキル;安息香酸ヒドロキシエチル等の安息香酸置換アルキル;安息香酸ベンジル、安息香酸2−フェニルエチル等の安息香酸アリールアルキル;安息香酸フェニル等のその他の安息香酸エステル等を挙げることができる。なお、安息香酸エステルはその芳香核に置換基を有する安息香酸エステルでもよい。これらの安息香酸エステルは、1種または2種以上を併用してもよい。
安息香酸エステルとしては、安息香酸アルキルおよび安息香酸アリールアルキルから選ばれた少なくとも1種であると、繊維加工剤が染料の場合、繊維材料の染色性が優れ、さらに繊維材料にアセテートを含む場合、繊維の耐劣化性が優れる点で好ましい。また、安息香酸エステルが安息香酸ベンジルであると、繊維加工剤が染料で、繊維材料が非結晶領域の多い繊維を含み、それが羊毛の場合、羊毛に対する耐汚染性が高く、臭気が小さい点でさらに好ましい。
【0014】
本発明で用いられるノニオン界面活性剤は、繊維加工剤と共に使用される際に安息香酸エステルの分散性を向上させ、繊維加工剤が染料で、繊維材料が非結晶領域の多い繊維を含み、それが羊毛の場合、羊毛に対する耐汚染性を高めることができる成分である。
ノニオン界面活性剤としては特に限定はないが、たとえば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、ポリオキシアルキレンアルキルアミド、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンヒマシ油エーテル、ポリオキシアルキレン多価アルコールエーテル等を挙げることができる。これらのノニオン界面活性剤は、1種または2種以上を併用してもよい。ノニオン界面活性剤のグリフィンの式で表されるHLBが、全体で12〜14の範囲であると、安息香酸エステルの分散性が優れるために好ましい。本発明で使用したノニオン界面活性剤の1重量%水溶液について、曇点が30〜80℃の間にあることが好ましい。これらのノニオン界面活性剤のうちでも、ポリオキシアルキレントリスチレン化フェノール等のポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルが、繊維加工剤が染料で、繊維材料が非結晶領域の多い繊維を含み、それが羊毛の場合、結晶領域の多い繊維について均染性に優れ、また、羊毛に対する耐汚染性が高いため、さらに好ましい。
【0015】
本発明のキャリヤー組成物は、安息香酸エステルとノニオン界面活性剤とを含むものであれば、特に限定はないが、安息香酸エステルが安息香酸メチルおよび安息香酸ベンジルから選ばれた少なくとも1種であり、安息香酸エステルとノニオン界面活性剤との比率(重量比率)が85:15〜98:2であると、染色性等の繊維加工剤処理によって得られる諸物性が高く、しかも、繊維加工剤が染料で、繊維材料が非結晶領域の多い繊維を含み、それが羊毛の場合、羊毛に対する耐汚染性に優れるため好ましい。また、安息香酸エステルが安息香酸ベンジルであると、臭気が低いためさらに好ましい。
本発明のキャリヤー組成物は、安息香酸エステルとノニオン界面活性剤とを含むものであれば、特に限定はないが、本発明の効果を損なわない範囲でこれ以外の他の成分を含んでいてもよい。
【0016】
他の成分としては、たとえば、水;アルコール(エチレングリコール、ブチルカービトール、ポリアルキレングリコール等)、芳香族炭化水素(トルエン、キシレン等)等の溶剤;アルキルサルフェート、アルキルアリールサルフェート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルサルフェート、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルサルフェート、アルキルホスフェート、アルキルアリールホスフェート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルホスフェート、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルホスフェート等のアニオン界面活性剤;芳香族ハロゲン化合物、N−アルキルフタルイミド、芳香族カルボン酸エステル、メチルナフタレン、ジフェニル、ジフェニルエステル、ナフトールエステル、フェノールエーテル、ヒドロキシジフェニル等の一般に使用される他のキャリヤー剤等を挙げることができる。
本発明のキャリヤー組成物が上記他の成分を含む場合、その配合量については特に限定はない。アニオン界面活性剤は羊毛を汚染する性質を有するので、繊維加工剤が染料で、繊維材料が非結晶領域の多い繊維を含み、それが羊毛の場合は、含有しないことが望ましいが、使用時における安息香酸エステルの分散性および染色性向上のために、キャリヤー組成物全体に対して0〜5重量%の範囲で含有しても良い。アニオン界面活性剤のうちでも、ポリオキシアルキレントリスチレン化フェノールサルフェートが結晶領域の多い繊維について均染性に優れる点で好ましい。他のキャリヤー剤は、安息香酸エステル自体の性能が損なわれるおそれがあるので、含有しないことが望ましいが、安息香酸エステル単独による性能不足を補うため安息香酸エステルと他のキャリヤー剤との合計に対して0〜10重量%の範囲で含有しても良い。
【0017】
本発明のキャリヤー組成物は、繊維材料に付加価値を付与するために繊維加工剤と共に使用されるが、その使用形態については特に限定はなく、以下に示す付加価値が付与された繊維材料の製造方法と同様の形態で使用される。
本発明の付加価値が付与された繊維材料の製造方法は、安息香酸エステルおよびノニオン界面活性剤の存在下、繊維材料を繊維加工剤で処理する加工工程を含む方法である。
【0018】
加工工程において、安息香酸エステルおよびノニオン界面活性剤として、上記で説明した本発明のキャリヤー組成物を使用することが簡便であり好ましいが、加工工程を行う処理浴に安息香酸エステルおよびノニオン界面活性剤を別々または同時に添加して加工工程を行ってもよく、本発明のキャリヤー組成物を使用しなければならないわけではない。
本発明の付加価値が付与された繊維材料の製造方法における個々の実施形態については、上記で説明したキャリヤー組成物の実施形態をそのまま適用することができる。前記加工工程は、バッチ式、連続式のいずれの形態で行ってもよい。
【0019】
前記加工工程において、本発明のキャリヤー組成物で説明した他の成分をさらに使用してもよい。中でも、アニオン界面活性剤は羊毛を汚染する性質を有するので、繊維加工剤が染料で、繊維材料が非結晶領域の多い繊維を含み、それが羊毛の場合は、含有しないことが望ましいが、使用時における安息香酸エステルの分散性および染色性向上のために、加工工程において、安息香酸エステル、ノニオン界面活性剤およびアニオン界面活性剤の合計量に対して0〜5重量%の範囲で含有しても良い。アニオン界面活性剤のうちでも、ポリオキシアルキレントリスチレン化フェノールサルフェートが結晶領域の多い繊維について均染性に優れる点で好ましい。他のキャリヤー剤は、安息香酸エステル自体の性能が損なわれるおそれがあるので、使用しないことが望ましいが、安息香酸エステル単独による性能不足を補うため安息香酸エステルと他のキャリヤー剤との合計に対して0〜10重量%の範囲で使用しても良い。
以下に、繊維加工剤が分散染料で、結晶領域の多い繊維としてのポリエステル織物と非結晶領域の多い繊維としての羊毛織物とからなる繊維材料に対して、バッチ式の場合における加工工程を、代表例として説明する。
最初に、処理浴に水および酢酸等を加えてpH4.5〜5に調節し、安息香酸エステルおよびノニオン界面活性剤の量を、処理対象の繊維材料のうち結晶領域の多い繊維の重量に対してそれぞれ1〜12重量%(好ましくは3〜8重量%)および0.1〜4重量%(好ましくは0.1〜0.5重量%)になるように添加する。安息香酸エステルおよびノニオン界面活性剤の量が少なすぎると染色性および羊毛に対する耐汚染性が低下することがある。また、安息香酸エステルおよびノニオン界面活性剤の量が多すぎると均染性は向上するが、染色性が低下し脱色することがある。さらに、染浴中にアニオン界面活性剤が存在すると羊毛が染料によって汚染されることがあるので、アニオン界面活性剤の量を処理対象の繊維材料のうち結晶領域の多い繊維の重量に対して0〜0.5重量%(好ましくは0〜0.2重量%)になるようにする。次に、色調や浴比に応じてあらかじめ少量の水に分散させた分散染料と、処理対象の繊維材料とを処理浴に投入し、30〜60分間にわたり、高圧下、80〜135℃で30〜90分間にわたって加熱し、染色する。染色温度については繊維材料が温度により劣化しない範囲内で高温であることが好ましいが、上記のように繊維材料が羊毛を含む場合、染色温度が100〜110℃であることが羊毛に対する劣化が小さく、染着性が優れるため好ましい。染色後に、必要に応じて、ハイドロサルファイト、苛性ソーダ等の還元洗浄剤を用いて、75〜85℃で20分間にわたり還元洗浄を行ってもよい。なお、染色時には、紫外線吸収剤、難燃剤、親水化剤や、別の一般的な助剤(分散剤、均染剤等)を併用することも可能である。
【0020】
上記代表例の加工工程においては、安息香酸エステルとノニオン界面活性剤とを処理浴に別々に投入すると、安息香酸エステルの分散性が悪く、染め斑や羊毛汚染等を引き起こすおそれがある。したがって、あらかじめ安息香酸エステルとノニオン界面活性剤を混合して得られる本発明のキャリヤー組成物を調製し、処理浴に添加することが好ましい。
【実施例】
【0021】
以下の実施例で本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例では、代表的な繊維加工剤である染料を使用した例を挙げるが、これ以外の紫外線吸収剤、難燃剤、親水化剤等の繊維加工剤を使用しても同様に実施でき、その効果を確認できる。
【0022】
〔実施例1〜6〕
表1に示す安息香酸エステルとノニオン界面活性剤とをそれぞれ混合し、必要に応じて他の成分を混合して、キャリヤー組成物(1)〜(6)を調製した。なお、表1に示したPOE(16)トリスチレン化フェノールとは、ポリオキシエチレントリスチレン化フェノールであって、そのオキシエチレン基の繰返し数が16であるという意味である。
得られたキャリヤー組成物(1)〜(6)を使用して、以下に示す条件で染色加工(ソーピングを含む)をそれぞれ行った。得られた染色繊維材料について、染色性、羊毛に対する耐汚染性および耐光堅牢度を測定し、結果を表1に示した。
<染色加工>
繊維材料:ポリエステルトロピカルおよび羊毛モスリン(それぞれの重量比率:50/50)
試験機:ミニカラー染色機
染料:KayalonMicroester Red C−LS(日本化薬株式会社製)2%owf
キャリヤー組成物:3%owf
pH:4.5
浴比:1:30
染色条件:105℃×30分間
ソーピング剤:マーベリンDS−100(松本油脂製薬株式会社製) 1g/L
ソーピング条件:80℃×20分間
<染色性>
得られたポリエステル染色布を分光測色計CM−3600d(コニカミノルタセンシング株式会社製)により400〜700nmのK/S値を10nmごとに求め、その積分値により染色性を評価した。なお、積分値が大きいほど、染色性が高い。
<羊毛に対する耐汚染性>
得られた羊毛汚染布を分光測色計CM−3600d(コニカミノルタセンシング株式会社製)により400〜700nmのK/S値を10nmごとに求め、その積分値により羊毛に対する耐汚染性を評価した。なお、積分値が小さいほど、羊毛に対する耐汚染性が高い。
<耐光堅牢度>
JIS−L−0842により、得られたポリエステル染色布をカーボンアーク燈光で40時間照射し、級数で評価した。級数が大きいほど耐光堅牢性が良い。
【0023】
次に、得られたキャリヤー組成物(1)〜(6)を使用して、以下に示す条件で染色加工(ソーピングを含む)をそれぞれさらに行い、得られた染色繊維材料について、トリアセテートに対する耐劣化性を測定し、結果を表1に示した。
<染色加工>
繊維材料:ポリエステルトロピカル/トリアセテート羽二重(繊維の重量比率:50/50)
試験機:ミニカラー染色機
染料:KayalonPolyester RedAL(日本化薬株式会社製)2%owf
キャリヤー組成物:3%owf
pH:4.5
浴比:1:30
染色条件:100℃×60分間
ソーピング剤:マーベリンS−1000(松本油脂製薬株式会社製) 1g/L
ハイドロサルファイト 2g/L
苛性ソーダ 2g/L
ソーピング条件:80℃×20分間
<トリアセテートに対する耐劣化性>
JIS−L−1004引裂強さC法(ペンジュラム法)により、得られたトリアセテート染色布について、その縦方向および横方向引裂試験をそれぞれ3回行い、それぞれの最大荷重の平均値をg数で評価した。なお、値が大きいほどトリアセテートに対する耐劣化性が高い。
【0024】
【表1】

〔比較例1〜2〕
【0025】
実施例1と同様に、表2に示す成分をそれぞれ混合して、比較キャリヤー組成物(1)〜(2)を調製した。次いで、得られた比較キャリヤー組成物(1)〜(2)をそれぞれ使用し、実施例1と同様にして、染色性、羊毛に対する耐汚染性、耐光堅牢度およびトリアセテートに対する耐劣化性を測定した。
【0026】
【表2】

【0027】
実施例1〜6では染色性、耐光堅牢性およびトリアセテートに対する耐劣化性に優れているが、比較例1および2ではいずれも劣っている。さらに、実施例1〜5では羊毛に対する耐汚染性についても優れている。比較例1ではトリクロロベンゼンを使用しているので、特有臭が気になるが、実施例1〜6では気になることはない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維材料に付加価値を付与するために繊維加工剤と共に使用される組成物であって、安息香酸エステルとノニオン界面活性剤とを必須成分として含むキャリヤー組成物。
【請求項2】
前記繊維材料が結晶領域の多い繊維を少なくとも含み、非結晶領域の多い繊維をさらに含むことがある繊維材料である、請求項1に記載のキャリヤー組成物。
【請求項3】
前記繊維加工剤が、染料、紫外線吸収剤、難燃剤および親水化剤から選ばれた少なくとも1種である、請求項1または2に記載のキャリヤー組成物。
【請求項4】
前記安息香酸エステルが安息香酸メチルおよび安息香酸ベンジルから選ばれた少なくとも1種であり、前記安息香酸エステルと前記ノニオン界面活性剤との比率(重量比率)が85:15〜98:2である、請求項1〜3のいずれかに記載のキャリヤー組成物。
【請求項5】
前記安息香酸エステルが安息香酸ベンジルである、請求項4に記載のキャリヤー組成物。
【請求項6】
安息香酸エステルおよびノニオン界面活性剤の存在下、繊維材料を繊維加工剤で処理する加工工程を含む、付加価値が付与された繊維材料の製造方法。
【請求項7】
前記繊維材料が結晶領域の多い繊維を少なくとも含み、非結晶領域の多い繊維をさらに含むことがある繊維材料である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記繊維加工剤が、染料、紫外線吸収剤、難燃剤および親水化剤から選ばれた少なくとも1種である、請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記安息香酸エステルが安息香酸メチルおよび安息香酸ベンジルから選ばれた少なくとも1種である、請求項6〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記安息香酸エステルが安息香酸ベンジルである、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記安息香酸エステルおよびノニオン界面活性剤として、請求項1〜5のいずれかに記載のキャリヤー組成物を用いて加工工程を行う、請求項6〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
前記繊維加工剤が分散染料であり、処理温度が80〜135℃である、請求項6〜11のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−100284(P2007−100284A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322839(P2005−322839)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】