説明

キャンドモータ及び真空ポンプ

【課題】簡単な構成で固定子のコアとコイルエンドを十分に冷却することができるキャンドモータを安価に提供する。
【解決手段】本発明のキャンドモータ1は、ケーシング2と、ケーシング2内に設けられ、シャフト9に取り付けられた回転子10を収容する気密構造のキャン5と、ケーシング2内のキャン5によって隔離された固定子空間4Aに配置された固定子4とを有する。ケーシング2に、固定子空間4Aに連通し、ケーシング2の外部の空気を固定子空間4Aに導入するための第1の通気口11が設けられるとともに、第1の通気口11に対して送風するファン13が設けられている。ケーシング2のキャン5を挟んで反対側の位置には、ケーシング2内の空気を排出するための第2の通気口12が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば真空ポンプを駆動するために用いられるキャンドモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、真空ポンプを駆動するモータとして、回転子の部分が密閉されたキャンドモータが用いられている。
図3は、特許文献1に記載された従来のキャンドモータの内部構成を示す断面図である。
【0003】
図3に示すように、このキャンドモータ101は、円筒状のモータフレーム102を有し、その一端はポンプ取付用フランジ103の側部に圧入して溶着され、他端は反負荷側フランジ104に圧入して溶着されている。
【0004】
モータフレーム102の外周には、ジャケット105が設けられている。このジャケット105は円筒状に形成され、モータフレーム102の外周面との間に空隙Aを隔てて配置される。
【0005】
ジャケット105の一端はポンプ取付用フランジ103に圧入して溶着され、他端は反負荷側フランジ104に圧入して溶着されている。
ジャケット105には、空隙Aに連通するソケット106が2個溶着されている。
【0006】
これら2個のソケット106のうち、一方が冷却水の入口配管(図示せず)に接続され、もう一方は冷却水の出口配管(図示せず)に接続されている。すなわち、モータフレーム102の外周とジャケット105の内周とポンプ取付用フランジ103と反負荷側フランジ104で囲まれた空隙Aによって水冷室が構成されている。
【0007】
モータフレーム102の内壁には、固定子107が固定されており、この固定子107の内側円筒面には、円筒状のキャン108が挿入されている。
キャン108の一端部はポンプ取付用フランジ103の内径部に圧入溶着され、他端は反負荷側フランジ104に圧入溶着されている。
【0008】
ポンプ取付用フランジ103のモータ側側面には環状の溝109が形成され、この環状の溝109の固定子107側の開口部には閉止板110を圧入してポンプ取付用フランジ103の内径部に空隙Bが形成されている。
【0009】
また、ポンプ取付用フランジ103には、この空隙Bに連通するプラグ穴111が2個設けられ(図中では1個省略)、その一方が上述した冷却水の入口配管に接続され、他方が冷却水の出口配管に接続されている。これにより、ポンプ取付用フランジ103内の空隙Bによって水冷室が構成されている。
【0010】
反負荷側フランジ104の外側面には、Oリング112を介在させて円板状の反負荷側カバー113がボルト114により固定され、真空ポンプ取付け時にポンプ室(図示せず)及びキャン108の内側の室内の密封状態が確保されるように構成されている。
そして、キャン108の内部には、回転子115が設けられ、この回転子115は、図示しない真空ポンプの回転軸に直結した回転軸116に圧入されている。
【0011】
このような構成を有するキャンドモータ101によれば、ポンプ取付用フランジ103に伝えられた真空ポンプ(図示せず)からの熱及びキャン108に発生しポンプ取付用フランジ103に伝えられた渦流損による熱は、モータフレーム102の外周とジャケット105の間の空隙Aに流れ込む冷水によって冷却されるとともに、ポンプ取付用フランジ103の内の空隙Bに流れ込む冷水により効率良く外部に放出することができるので、キャンドモータ101全体の温度上昇を低く抑えることが可能となる。
【0012】
一方、特許文献2に記載された発明においては、水冷ジャケット内に水流規制部材を設けて、冷却水をらせん状に流すように構成されている。
しかしながら、上述した従来技術は、冷却水流路を構成する部品が必要で、気密性を要する構造とする必要があるため、コストアップの原因となる。
【0013】
また、このような従来技術では、固定子のコアは比較的容易に冷却されるが、コイルエンドを冷却することは困難である。
また、冷却水が使用できない環境下では、運転することができないという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平5−223097号公報
【特許文献2】特開平10−318197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、このような従来の技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、簡単な構成で固定子のコアとコイルエンドを十分に冷却することができるキャンドモータを安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するためになされた本発明は、ケーシングと、前記ケーシング内に設けられ、シャフトに取り付けられた回転子を収容する気密構造のキャンと、前記ケーシング内の前記キャンによって隔離された固定子空間に配置された固定子とを有し、前記ケーシングに、前記固定子空間に連通し、当該ケーシングの外部の空気を当該固定子空間に導入するための導入用通気口が設けられるとともに、前記ケーシングの通気口に対して送風する送風手段が設けられているキャンドモータである。
本発明では、前記ケーシングに、前記固定子空間に連通し、当該固定子空間内の空気を当該ケーシングの外部に排出するための排出用通気口が設けられている場合にも効果的である。
また、本発明は、ケーシングと、前記ケーシング内に設けられ、シャフトに取り付けられた回転子を収容する気密構造のキャンと、前記ケーシング内の前記キャンによって隔離された固定子空間に配置された固定子とを有し、前記ケーシングに、前記固定子空間に連通し、当該固定子空間内の空気を当該ケーシングの外部に排出するための排出用通気口が設けられるとともに、当該排出用通気口の近傍に空気を吸引する吸引手段が設けられているキャンドモータである。
本発明では、前記ケーシングに、前記固定子空間に連通し、当該ケーシングの外部の空気を当該固定子空間に導入するための導入用通気口が設けられている場合にも効果的である。
本発明では、前記ケーシングにおいて、前記導入用通気口と前記排出用通気口とが、前記キャンを挟んで反対側の位置に設けられている場合にも効果的である。
また、本発明は、上述したいずれかのキャンドモータを有し、当該キャンドモータによって駆動されるように構成された真空ポンプである。
【0017】
本発明の場合、ケーシングに、固定子空間に連通し、ケーシングの外部の空気を当該固定子空間に導入するための導入用通気口が設けられるとともに、ケーシングの通気口に対して送風する送風手段が設けられていることから、固定子空間に導入された冷却風によって、固定子のコア部分、コイルエンド、キャンを直接冷却することができるので、固定子とコイルエンド、キャンの冷却効率が飛躍的に向上する。
特に、コイルエンドを直接空冷できるので除熱効果が高い。また、ケーシング等の内側部分を直接冷却することにより、モータ駆動軸を支持する軸受からの伝熱をより効率良く除去することができる。
また、本発明によれば、冷却水流路を構成する部品は必要なく、コストダウンを図ることができるとともに、冷却水が使用できない環境下においても運転することができる。
本発明において、ケーシングに、固定子空間に連通し、当該固定子空間内の空気を当該ケーシングの外部に排出するための排出用通気口が設けられている場合には、ケーシング内に連続的に冷却風が導入され、排出用通気口から連続的に排出されるので、常に新たな冷却風によって冷却が行われ、これにより効率良く各部分を冷却することができる。
また、本発明では、ケーシングに、前記固定子空間に連通し、当該固定子空間内の空気を当該ケーシングの外部に排出するための排出用通気口が設けられるとともに、当該排出用通気口を介して当該固定子空間内の空気を吸引する吸引手段が設けられていることから、ケーシング内の熱せられた空気が排出用通気口を介してケーシングの外部に排出されるので、ケーシング内を冷却することができる。
この場合、ケーシングに、前記固定子空間に連通し、当該ケーシングの外部の空気を当該固定子空間に導入するための導入用通気口が設けられていれば、ケーシングの導入用通気口から冷却風が連続的に固定子空間に導入され、この冷却風によって、固定子のコア部分、コイルエンド、キャンを直接連続的に冷却することができるので、固定子とコイルエンド、キャンの冷却効率を飛躍的に向上させることができる。
本発明の場合、ケーシングにおいて、導入用通気口と排出用通気口とが、キャンを挟んで反対側の位置に設けられている場合には、送風手段からの冷却風又は吸引手段による冷却風がケーシング内において円滑に流れるので、より効率良く冷却を行うことができる。
このように、本発明によれば、簡単な構成で固定子のコアとコイルエンドを十分に冷却することができるキャンドモータを備えた真空ポンプを安価に提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡単な構成で固定子のコアとコイルエンドを十分に冷却することができるキャンドモータを安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a):本発明に係るキャンドモータの実施の形態の内部構成を示す断面図(b):同キャンドモータの動作を示す部分断面図
【図2】(a):本発明に係るキャンドモータの他の実施の形態の内部構成を示す断面図(b):同キャンドモータの動作を示す部分断面図
【図3】従来のキャンドモータの内部構成を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
図1(a)は、本発明に係るキャンドモータの実施の形態の内部構成を示す断面図、図1(b)は、同キャンドモータの動作を示す部分断面図である。
【0021】
本実施の形態のキャンドモータ1は、図1(a)に示すように、例えば真空ポンプの壁面50に取り付けられるもので、例えば円筒形状のケーシング2を有している。
ケーシング2の一方の開口端部には、この開口端部を塞ぐようにカバー3が取り付けられている。
ケーシング2内の例えば内壁には、固定子4が取り付けられ固定されている。
【0022】
一方、ケーシング2内の中心部分には、円筒形状のキャン5が設けられている。
そして、このキャン5によって、ケーシング2の内部は、回転子空間10Aと固定子空間4Aとに区分けされている。
【0023】
このキャン5内には、ケーシング2の真空ポンプ側の内壁のフランジ部2aに取り付けられた軸受7と、カバー3内壁のフランジ部3aに取り付けられた軸受8とによって回転可能に支持されたシャフト9が設けられている。
このシャフト9は、真空ポンプの回転軸(図示せず)に連結され、シャフト9の周囲で固定子4の近傍の部分に回転子10が取り付けられている。
【0024】
さらに、ケーシング2の側壁部に、以下に説明する通気口が設けられている。本実施の形態の場合、通気口は、導入用通気口である第1の通気口11と、排出用通気口である第2の通気口12を有している。
【0025】
本発明の場合、通気口を設ける位置については特に限定されることはないが、放熱効果をより向上させる観点からは、発熱部分に近い位置、例えば図1(a)に示すように、固定子4のコイルエンド4aの近くに、固定子空間4Aと連通する第1の通気口11を設けることが好ましい。
【0026】
本実施の形態の場合は、固定子4の二つのコイルエンド4aの近傍にそれぞれ第1の通気口11が設けられている。
本発明の場合、放熱効果をより向上させる観点からは、第1の通気口11が設けられたケーシング2の側壁部に対し、キャン5を挟んで反対側のケーシング2の側壁部に第2の通気口12を設けることがより好ましい。
なお、第1及び第2の通気口11、12の数は1個又は複数個のいずれでもよい。
【0027】
さらに、本実施の形態では、ケーシング2に設けた第1の通気口11の近傍にファン(送風手段)13が設けられている。
この場合、第1の通気口11がそれぞれファン13の送風部分と対向するようにファン13及び第1の通気口11の位置が設定されている。
【0028】
このような構成を有する本実施の形態において、キャンドモータ1を動作させると、以下のような発熱源で熱が発生し、これらの熱は以下のような経路で伝達される。
・固定子4のコア部分の発熱 → ケーシング2
・コイルエンド4aの発熱 → 固定子4のコア部分 → ケーシング2
・キャン5の発熱 → カバー3とケーシング2
・軸受7の発熱 → ケーシング2
・軸受8の発熱 → カバー3
・ロータの発熱 → シャフト9 → 軸受7、8 → カバー3とケーシング2
・負荷側の発熱 → シャフト9 → 軸受7、8 → カバー3とケーシング2
【0029】
本実施の形態では、ファン13を動作させて送風することにより、ケーシング2やカバー3の外側部分を冷却することができる。これにより、キャンドモータ1自身の発熱と負荷側から伝達された熱の一部が冷却される。
【0030】
加えて、本実施の形態では、図1(b)に示すように、ケーシング2の第1の通気口11から冷却風20を固定子空間4Aに導入するようにしている。そして、この冷却風20によって、固定子4のコア部分、コイルエンド4a、キャン5を直接冷却することができるので、固定子4とコイルエンド4a、キャン5の冷却効率が飛躍的に向上する。
【0031】
特に、コイルエンド4aを直接空冷できるので除熱効果が高い。また、ケーシング2やカバー3の内側部分を直接冷却することにより、軸受7、8からの伝熱をより効率良く除去することができる。
これに伴い、軸受7、8を通して除熱される回転子10の発熱や負荷側の発熱に関してもより効率良く除去することができる。
【0032】
さらに、本実施の形態では、ケーシング2内に連続的に冷却風20が導入され、第2の通気口12から連続的に排出されるので、常に新たな冷却風20によって冷却が行われ、これにより効率良く各部分を冷却することができる。
また、本実施の形態によれば、冷却水流路を構成する部品は必要なく、コストダウンを図ることができるとともに、冷却水が使用できない環境下においても運転することができる。
【0033】
なお、本発明は上記実施の形態に限られることはなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、上記実施の形態では、第1の通気口11から冷却風20を導入して第2の通気口12から冷却風20を排出するようにしたが、本発明はこれに限られず、第2の通気口12から冷却風20を導入して第1の通気口11から冷却風20を排出することもできる。
【0034】
また、ファン13の配置位置についても、上記実施の形態には限られず、モータの反負荷側、即ちカバー3側に配置することもできる。
この場合には、カバー3に導入側通気口を設けるとよい。
さらに、第1及び第2の通気口11、12に加えて新たな通気口を追加することもできる。
【0035】
図2(a)(b)は、本発明の他の実施の形態を示すものであり、以下、上記実施の形態と対応する部分には同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
本実施の形態のキャンドモータ1Aは、吸引手段として、例えば上述したファン13と送風方向が逆であるファン13Aを有している。
そして、固定子4の二つのコイルエンド4aの近傍にそれぞれ排出用通気口である第2の通気口12が設けられている。
【0036】
さらに、放熱効果をより向上させる観点から、第2の通気口12が設けられたケーシング2の側壁部に対し、キャン5を挟んで反対側のケーシング2の側壁部に第1の通気口11が設けられている。
なお、第1及び第2の通気口11、12の数は1個又は複数個のいずれでもよい。
【0037】
このような構成を有する本実施の形態では、ファン13Aを動作させて空気を吸引することにより、ケーシング2内の熱せられた空気が第2の通気口12を介してケーシング2の外部に排出されるので、ケーシング2内を冷却することができる。
【0038】
さらに、本実施の形態では、図2(b)に示すように、ケーシング2の第1の通気口11から冷却風20が連続的に固定子空間4Aに導入され、この冷却風20によって、固定子4のコア部分、コイルエンド4a、キャン5を直接連続的に冷却することができるので、固定子4とコイルエンド4a、キャン5の冷却効率を飛躍的に向上させることができる。
【0039】
その他の構成及び作用効果については上述の実施の形態と同一であるのでその詳細な説明を省略する。
なお、本発明は、ビルトインタイプ及びスタンドアロンタイプのいずれにも適用することができるものである。
【符号の説明】
【0040】
1…キャンドモータ
2…ケーシング
3…カバー
4…固定子
4a…コイルエンド
4A…固定子空間
5…キャン
9…シャフト
10…回転子
10A…回転子空間
11…第1の通気口(導入用通気口)
12…第2の通気口(排出用通気口)
13…ファン(送風手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、
前記ケーシング内に設けられ、シャフトに取り付けられた回転子を収容する気密構造のキャンと、
前記ケーシング内の前記キャンによって隔離された固定子空間に配置された固定子とを有し、
前記ケーシングに、前記固定子空間に連通し、当該ケーシングの外部の空気を当該固定子空間に導入するための導入用通気口が設けられるとともに、前記ケーシングの導入用通気口に対して送風する送風手段が設けられているキャンドモータ。
【請求項2】
前記ケーシングに、前記固定子空間に連通し、当該固定子空間内の空気を当該ケーシングの外部に排出するための排出用通気口が設けられている請求項1記載のキャンドモータ。
【請求項3】
ケーシングと、
前記ケーシング内に設けられ、シャフトに取り付けられた回転子を収容する気密構造のキャンと、
前記ケーシング内の前記キャンによって隔離された固定子空間に配置された固定子とを有し、
前記ケーシングに、前記固定子空間に連通し、当該固定子空間内の空気を当該ケーシングの外部に排出するための排出用通気口が設けられるとともに、当該排出用通気口を介して当該固定子空間内の空気を吸引する吸引手段が設けられているキャンドモータ。
【請求項4】
前記ケーシングに、前記固定子空間に連通し、当該ケーシングの外部の空気を当該固定子空間に導入するための導入用通気口が設けられている請求項3記載のキャンドモータ。
【請求項5】
前記ケーシングにおいて、前記導入用通気口と前記排出用通気口とが、前記キャンを挟んで反対側の位置に設けられている請求項2又は4のいずれか1項記載のキャンドモータ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載のキャンドモータを有し、
当該キャンドモータによって駆動されるように構成された真空ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−90469(P2013−90469A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229600(P2011−229600)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】