説明

キースイッチ装置及びキーボード

【課題】本発明はその一態様において、キートップの打鍵操作時の打鍵音が反響により周囲に伝わることを防止でき、防滴効果により接点障害や絶縁障害を防ぐことができるキースイッチ装置及びキーボードを提供する。
【解決手段】スイッチパネル12と、スイッチパネル12の上方に配置されるキートップ14と、キートップ14とスイッチパネル12との間に設けられ、キートップ14の水平姿勢を保持しつつ、キートップ14を昇降動作可能に支持する一対のリンク部材16と、を備え、一対のリンク部材16とキートップ14とが連動することにより、スイッチパネル12に対してキートップ14が昇降動作するキースイッチ装置において、スイッチパネル14とメンブレンシート58との間で、スイッチパネル12とメンブレンシート58の両対向面に接する弾性堤防部材18を備え、弾性堤防部材18がキートップ14の輪郭に沿って環状に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対のリンク部材とキートップとが連動することにより、スイッチパネルに対してキートップが昇降動作するキースイッチ装置及びキーボードに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、キートップの昇降動作により電気回路の接点を開閉するスイッチ機構を備えたキースイッチ装置は、キートップが一対のリンク部材により昇降自在に支持されている。一対のリンク部材には種々の形式のものがあり、一対のリンク部材が側面視逆V字状に組み合わされ、その交点において互いの歯と歯が噛み合うギヤリンク形式のもの(例えば、特許文献1)や、一対のリンク部材が側面視X字状に組み合わされ、その交点において互いに回動可能又は摺動可能に連結されるパンタグラフ形式のものなどがある。押下操作されるキートップは、一対のリンク部材が互いに連動することにより、ベースに対して平行姿勢を保持しつつ昇降移動できるようになっている。キートップが昇降ストロークの下限位置に到達すると、一対のリンク部材はキートップの下で伏せた状態となり、キートップが昇降ストロークの上限位置に到達すると、一対のリンク部材は側面視逆V字状又は側面視X字状に起立した状態となる。
【0003】
特許文献1の段落番号0020には、キースイッチ装置の構成についての説明があり、「キースイッチ装置10は、ベース12と、ベース12の表面12a上に昇降方向へ移動可能に配置され、オペレータに打鍵操作される操作面14aを有するキートップ14と、キートップ14をベース12上で昇降方向へ案内支持する一対のリンク部材16と、キートップ14の昇降動作に対応して電気回路の接点を開閉するスイッチ機構18とを備えて構成される。」と記載されている。
【0004】
また、特許文献1の段落番号0077には、キートップのがたつきに伴う騒音を低減するための構成についての説明があり、「キースイッチ装置110においては、板金部材からなるベース112に、一対のリンク部材74の動作を補助的に支持する一対の補助支持片118を設けることができる(図16)。各補助支持片118は、各組を成す2個の摺動係合部114の略中間位置で、ベース112の主表面112aから斜めに突設され、両補助支持片118の自由端が互いに正対するように位置決めされる。補助支持片118は、摺動係合部114の立板部分114aと同様に、例えばプレス機械により、ベース112の所定位置に補助支持片118の輪郭を打ち抜いて主表面112a側に折曲することにより、ベース112に一体的に形成される。各補助支持片118は、メンブレンシート52の両シート基板50及びシート部材58に形成された貫通穴(図示せず)を通って、シート部材58の上方に突出する。」と記載されている。
【0005】
また、特許文献1の段落番号0078には、一対の補助支持片118の作用の説明があり、「一対の補助支持片118は、それらの上面で、キートップ72の昇降ストロークの全域に渡って、対応するリンク部材74の連結部82の下面に摺動式に接触する。その目的で、各補助支持片118は、リンク部材74の連結部82の移動軌跡に倣う蛇行形状を有する。それにより、キートップ72の打鍵操作中に生じ得るリンク部材74自体のがたつきが一層効果的に抑制され、キートップ72のがたつきやそれに伴う騒音が可及的に低減される。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−031067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のキースイッチ装置では、一対のリンク部材により支持されたキートップのがたつきに伴う音、いわゆる「がたつき音」を低減するものはあるが、キートップの操作面を指先で比較的強く押下したときに生ずる音、いわゆる「打鍵音」を直接的に低減する方策を採られているものは見当たらない。ここで、打鍵音とは、キートップを押下(打鍵)したときの衝撃がベース(スイッチパネル)に伝わり、メンブレンシートや金属製のサポートパネルで反響することにより発生する操作音である。スイッチパネルとメンブレンシート間の隙間の存在や、メンブレンシートとサポートパネル間の隙間の存在は、打鍵音の反響を巻き起こすことが明らかにされている。
【0008】
一般に、スイッチパネル、メンブレンシート及びサポートパネルを一体的に積層するには、樹脂製のスイッチパネルの裏面に突出形成された複数のピンをメンブレンシート及びサポートパネルの連通孔にメンブレンシートの表面側からサポートパネルの裏面側に挿通させ、連通孔から露出したピン先端をサポートパネルの裏面上で加熱により溶融させて一体化する。ピンは、スイッチパネル、メンブレンシート及びサポートパネルを水平方向で位置決めした状態で一体化するものであり、キートップの周囲に位置するように設けられる。複数のキースイッチ装置を備えたキーボードでは、ピンが隣接するキースイッチ装置の間に配置される。ピンの近傍では上下に重なる積層体が隙間なく一体化されるものの、ピンの無い箇所では上下の積層体の間に隙間が存在することとなる。
【0009】
隙間を小さくするために、ピンの数を増やすことも考えられるが、構造上の制約がある。上下の積層体の界面を接着剤で全面接着することも可能であるが、個々の層間の位置決め性が損なわれるという問題があり、この方法を採用するにも制約がある。また、打鍵音を低減するために、スイッチパネルの材質を軟質化することや、衝撃吸収シートなどを利用することも考えられるが、製造コストが高くなったり、寸法安定性が低下したりすることから、スイッチパネルの材質を軟質化することには制約がある。また、衝撃吸収シートを用いることは、キースイッチ装置及びキーボードが厚くなるため、要求されている仕様を満たすことができなくなるという制約がある。
【0010】
また、従来のキースイッチ装置では、上から液体を零すと、液体がスイッチパネルとメンブレンシートとの界面に入り、液体がスイッチパネルとメンブレンシートとの界面に存する隙間に毛細管現象によって広がり、メンブレンシートのエアベントに液体が侵入することがある。エアベントに液体が侵入すると、液体がエアベントを通って接点まで達し、接点障害が発生したり、キーボード外周から液体が漏れて筐体内部に入り、絶縁障害が発生したりすることもある。
【0011】
また、メンブレンシートとキートップとの間に配置され、キートップの下降動作に伴いメンブレンシートの接点を閉じるように作用するラバードーム(作動部材)をメンブレンシートに接着剤で接着するキースイッチ装置では、ラバードームをメンブレンシート表面に接着剤で接着した後に、メンブレンシート表面にスイッチパネルを積層するため、位置を誤ってラバードームを固定すると、ラバードームとスイッチパネルの両者の位置決めを正確に行うことができない心配がある。
【0012】
また、ラバードームをメンブレンシートに接着するために使用され接着剤には、耐油性能に劣るものがある。耐油性能に優れるフロロシリコン(フッ素化シリコン)を含む接着剤を使用することも可能であるが、フロロシリコンは材料単価が高いという制約がある。
【0013】
本発明は、キートップの打鍵操作時の打鍵音が反響により周囲に伝わることを防止でき、防滴効果により接点障害や絶縁障害を防ぐことができるキースイッチ装置及びキーボードを提供する。
また、本発明は、互いに別部品である作動部材(ラバードーム)とスイッチパネルとの位置決めを容易に行うことができ、油分を有する環境でも問題なく使用することができるキースイッチ装置及びキーボードを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、請求項1記載のキースイッチ装置は、中央に開口を有するスイッチパネルと、該スイッチパネルの上方に配置されるキートップと、該キートップと前記スイッチパネルとの間に設けられ、前記キートップの水平姿勢を保持しつつ、該キートップを昇降動作可能に支持する一対のリンク部材と、前記スイッチパネルの下に配置され、前記キートップの昇降動作により電気回路の接点を開成又は閉成するメンブレンシートと、該メンブレンシートと前記キートップとの間に配置され、該キートップの下降動作に伴い前記接点を閉じるように作用する作動部材と、を備えたキースイッチ装置において、前記スイッチパネルと前記メンブレンシートとの間で、前記スイッチパネルと前記メンブレンシートの両対向面に接する弾性堤防部材を備え、該弾性堤防部材が前記キートップの輪郭に沿って環状に配置されている、キースイッチ装置を提供する。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のキースイッチ装置において、前記スイッチパネルの前記対向面に環状に配置された溝が設けられ、該溝に前記弾性堤防部材が係合する。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のキースイッチ装置において、前記弾性堤防部材がスクリーン印刷することにより形成されている。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか1項に記載のキースイッチ装置において、前記作動部材の外周壁に設けられた外周溝が、前記スイッチパネルの開口端に係合することにより、前記作動部材が前記スイッチパネルに装着される。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4の何れか1項に記載のキースイッチ装置において、前記キートップの周囲に枠状に配置され、該キートップの外周面に当接可能な内面を有する枠壁を備えた。
【0019】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5の何れか1項に記載のキースイッチ装置を複数備えたキーボードを提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によるキースイッチ装置及びキーボードによれば、スイッチパネルとメンブレンシートの両対向面に接する弾性堤防部材が、スイッチパネルとメンブレンシートとの間に設けられ、弾性堤防部材がキートップの輪郭に沿って配置されているから、キートップの打鍵操作時に発生した打鍵音の周囲への伝達が堤防部材によって遮られる。これにより、打鍵音がスイッチパネルとメンブレンシートとの間で反響することが防止される。また、スイッチパネルとメンブレンシートとの間で、堤防部材の外側領域から内側領域へ液体が侵入することが防止され、堤防部材の内側領域に存するメンブレンシートの接点部の障害などを防ぐことができる。
【0021】
また、弾性堤防部材が、スイッチパネルに設けられた溝に係合することにより、メンブレンシートとスイッチパネルとが一体化されたときの厚みの増加を抑制することができ、キースイッチ装置及びキーボードの低背化を妨げられない。
【0022】
また、スクリーン印刷により弾性堤防部材を形成することで、作動部材接着用の接着剤を印刷する工程を利用でき、キースイッチ装置の製造工程に新たな工程を加える必要がない。これにより、コストアップを招くことなく、弾性堤防部材を形成することができる。
【0023】
また、スイッチパネルの開口端に作動部材の外周壁に設けられた外周溝を係合させることで、作動部材とスイッチパネルとが互いに位置決めされ、キースイッチ装置の組立性が高まる。また、接着剤を使用せずに作動部材をスイッチパネルに装着することができるから、油分を有する環境でも問題なく使用することができ、キースイッチ装置及びそれを有するキーボードの適用範囲を広げることができる。
【0024】
キートップの外周面に当接可能な内面を有する枠壁を備え、この枠壁がキートップの周囲に枠状に配置されているから、キートップの外周面が枠壁の内面に当接することにより、キートップが傾いたときの姿勢を直すことが可能となり、キートップの姿勢安定性が高まり、キートップの操作性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るキースイッチ装置の分解斜視図である。
【図2】図1のキースイッチ装置の平面図である。
【図3】図2のキースイッチ装置をA−A線に沿って切断した断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るキースイッチ装置の分解斜視図である。
【図5】図4に示すキースイッチ装置のキートップを外した状態を示す斜視図である。
【図6】同じく図4に示すキースイッチ装置の断面図である。
【図7】同じく図4に示すキースイッチ装置の変形例を示す断面図である。
【図8】図7に示すキースイッチ装置の分解斜視図である。
【図9】図8に示すキースイッチ装置を組み立てた状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のキースイッチ装置は、単独で使用されることも可能であるが、ノートタイプやパームトップタイプなどのパーソナルコンピュータの技術分野において、キースイッチ装置を複数備えたキーボートに好適に使用されることができる。キースイッチ装置は、中央に開口を有するスイッチパネルと、スイッチパネルの上方に配置されるキートップと、キートップとスイッチパネルとの間に配置され、キートップの水平姿勢を保持しつつキートップを昇降自在に支持する一対のリンク部材と、スイッチパネルの下方に配置され、キートップの昇降動作により電気回路の接点を開閉するメンブレンシートと、メンブレンシートとキートップとの間に配置され、キートップの下降動作に伴い接点を閉じるように作用する作動部材と、を備えている。また、本発明のキースイッチ装置は、スイッチパネルとメンブレンシートの両対向面間で圧縮された状態で設けられ、一対のリンク部材の周囲に環状に配置された弾性を有する堤防部材を備えている。本発明では、この堤防部材を設けることにより、キートップの打鍵操作時に発生した打鍵音の周囲への伝達が遮られ、打鍵音がスイッチパネルとメンブレンシートとの間で反響することが防止され、また、堤防部材の外側領域から内側領域へ侵入した液体によるメンブレンシートの接点部の障害が防止されるようになっている。
【0027】
一対のリンク部材には、ギヤリンク形式のものやパンタグラフリンク形式のものを適用することができ、適用されるリンク形式は制限されるものではない。ギヤリンク形式のものは、側面視逆V字状に組み合う交差点において、一方のリンク部材の歯と他方のリンク部材の歯とが互いに噛合することにより回転自在に連結される。パンタグラフリンク形式のものは、一対のリンク部材が側面視X字状に組み合わされ、その交点において互いに回動可能又は摺動可能に連結される。作動部材は、その固定方法が制限されず、作動部材の下端をメンブレンシートに接着剤で接着したり、作動部材をスイッチパネルの開口端に係合させたりして固定することができる。また、作動部材はラバーシートの一部として形成することもできる。
【0028】
以下図面を参照しながら、本発明に係るキースイッチ装置の第1の実施形態を説明する。図1〜図3には、第1の実施形態のキースイッチ装置が示されている。図1に示すように、本実施形態のキースイッチ装置10では、スイッチパネル12と、スイッチパネル12の上方に配置されるキートップ14と、キートップ14を昇降自在に支持する一対のリンク部材16と、キートップ14の昇降動作により電気回路の接点を開閉するメンブレンシート58と、キートップ14に押されてメンブレンシート58の接点を閉じるように作用する作動部材54と、メンブレンシート58上で一対のリンク部材16の周囲に環状に配置された堤防部材18を備えている。一対のリンク部材16にはギヤリンク形式のリンク部材が適用され、作動部材54には、メンブレンシート58とは別部品であるラバードームが適用されている。ラバードーム54は、その下端が接着剤によりメンブレンシート58の表面に接着される。接着剤には、シリコン系接着剤などを適用できるが、これに限定されるものではない。
【0029】
スイッチパネル12は、キートップ14によって遮蔽される略矩形の中心開口部20を備える枠状部材である。スイッチパネル12の下面には、堤防部材18に係合する環状の溝19(図3)が形成されている。スイッチパネル12の上面には、中心開口部20を画成する一対の内周面に沿って、二組(計4個)のスライド案内部22が設けられている。スライド案内部22は、案内溝22aを有し、この案内溝22aに一対のリンク部材16の基端側がそれぞれにスライド自在に係合するようになっている。各リンク部材16の基端側には、一対の案内溝22aにそれぞれ係合する一対のスライド軸部32が突設されている。各一組のスライド案内部22は、リンク部材16のスライド方向に離間して配置されている。一対のリンク部材16の基端側が、一対のスライド軸部32のスライド案内部22に案内されることで、キートップ14が昇降ストロークの下限位置まで押下された際に、一対のリンク部材16が互いに重なることなくスイッチパネル12上で伏せた状態となる。
【0030】
キートップ14は、平面視略矩形状をなし、操作面14aとしての上面の反対側の下面14bに、一対のリンク部材16の先端側に係合する二組(計4個)の回転軸係合部24が設けられている。各一組の回転軸係合部24は、軸受孔24aを有し、この軸受孔24aにリンク部材16の先端側がそれぞれに回転自在に係合するようになっている。各一組の回転軸係合部24は、隣接して互いに並置されている。各回転軸係合部24は、キートップ14の下面14bに垂設されており、軸受孔24aに連通する切欠き24bを有している。一対のリンク部材16の回動軸部34が、回転軸係合部24の軸受孔24aに回転自在に係合することにより、一対のリンク部材16とキートップ14とが連動してキートップ14の昇降動作が可能となる。
【0031】
一対のリンク部材16は、樹脂成形により一体的に形成されたものであり、それぞれ同一寸法及び同一形状をなし、相手方のリンク部材16の歯36,38と回転自在に係合させた状態で使用される。リンク部材16は、胴部30と、胴部30の両側で互いに平行に延びる一対の腕部26、28とを有している。基端側において、胴部30と一対の腕部26、28との間にはスリット42が形成されている。一対の腕部26、28の基端側は、スリット42により画定される撓み空間を狭めるように、胴部30と一対の腕部26、28とを繋ぐ部分を支点として弾性変形可能になっている。リンク部材16は、一対の腕部26、28が胴部30に接近する方向に撓んだ状態でスイッチパネル12に取り付けられるため、一対の腕部26、28が元位置に戻ろうとする弾性復元力により、リンク部材16がスイッチパネル12に押し付けられ、リンク部材16がスイッチパネル12にがたつきなく取り付けられるようになっている。
【0032】
一対の腕部26、28の基端側の外面には、枠状のスイッチパネル12の中心開口部20のコーナ部に設けられたスライド案内部22の案内溝22aに係合するスライド軸部32が突設されている。スライド案内部22は、中心開口部20の4つのコーナ部に設けられている。各リンク部材16の二つのスライド軸部32が、対向する一対のスライド案内部22の案内溝22aに係合することにより、リンク部材16がスライド自在にスイッチパネル12に連結される。スライド軸部32は、案内溝22aの一端と他端との間をベース12に沿って水平方向にスライドする。図3は、スライド軸部32が案内溝22aの一端に位置して、リンク部材16が起立した状態を示している。リンク部材16は、スイッチパネル12上で案内溝22aの一端と他端との間を往復移動することにより、キートップ14が昇降動作可能となる。
【0033】
一対の腕部26、28の基端側に続いて延長形成された先端側の外面には、キートップ16の下面14bに設けられた回転軸係合部24の軸受孔24aに係合する回動軸部34が突設されている。二つの回転軸部34が、対向する一対の回転軸係合部24の軸受孔24aに係合することにより、リンク部材16がキートップ14に回転自在に連結される。これにより、リンク部材16は、スライド軸部32が水平方向に往復移動すると、回転軸部34がキートップ14と共に上下方向に移動し、キートップ14が所定の位置でベース12に対して水平状態を維持したまま上下方向に昇降動作する。
【0034】
メンブレンシート58は、3層構造のフレキシブル印刷回路体(FPC)であり、上下の両シート基板(図示せず)の対向する内面に電気接点が設けられ、シート状のスイッチを構成する。一対の上下のシート基板の間には、一対のシート基板を所定間隔に支持して両接点を開状態に保持するスペーサ(図示せず)が介設される。メンブレンシート58は、サポートパネル56上で支持され、両電気接点がスイッチパネル12の中心開口部20の略中心に位置決めされる。
【0035】
また、メンブレンシート58の上面には、堤防部材18がラバードーム54の外側に配置され、スイッチパネル12の輪郭に沿って無端状に形成されている。図2及び3に示すように、堤防部材18は、キートップ14の内側領域内で、一対のリンク部材16及びスライド案内部22の周囲に環状に配置される。堤防部材18の材質は制限されるものではなく、例えば弾性を有する接着剤、シリコンゴムや弾性を有するエラストマなどを適用することができる。堤防部材18は、メンブレンシート58に接着剤や両面テープなどで固定される。弾性を有する接着剤を堤防部材18として使用する場合には、ラバードーム54用の接着剤の印刷と同時にスクリーン印刷で堤防部材18を形成することができる。この場合、堤防部材18の厚み寸法は、例えば、ラバードーム54の下端54bをメンブレンシート58に接着する際に使用される接着剤の厚みと同程度の寸法とすることができる。これにより、1回の印刷で堤防部材18を形成でき、製造が容易となる。一方、スクリーン印刷される堤防部材18の厚み寸法をラバードーム54用の接着剤の厚みより厚くする場合には、スクリーン印刷を数回繰り返すことにより形成することができる。厚み寸法は、制限されるものではないが、0.1〜0.2mm程度を目安とすることができる。図3には、堤防部材18がスイッチパネル12の環状の溝19内で圧縮された状態が示されているように、堤防部材18はスイッチパネル12とメンブレンシート58の両対向面に接触することが必要とされる。これにより、環状を成す堤防部材18の内側領域において、キートップ14の押下操作時に発生した打鍵音が、スイッチパネル12とメンブレンシート58の対向面で反響して、環状を成す堤防部材18の外側領域に拡がることが妨げられる。また、メンブレンシート58の堤防部材18がスイッチパネル12の溝19に係合することで、メンブレンシート58とスイッチパネル12とが一体化されたときの厚みの増加を抑制することができ、キースイッチ装置の低背化を妨げることが防止される。堤防部材18の幅寸法は、特に制限されるものではなく、堤防部材18をメンブレンシート58に接着できる程度の寸法があれば十分である。スクリーン印刷で堤防部材18を形成する場合は、ラバードーム54用の接着剤と同程度の幅寸法とすることができる。
【0036】
なお、本実施形態では、メンブレンシート58の堤防部材18がスイッチパネル12の溝19に係合するように構成されているが、第2の実施形態の図4及び図5に示すように、スイッチパネル12に溝を形成せずに、堤防部材18をスイッチパネル12の平坦面とメンブレンシート58の対向面との間で圧縮することもできる。
【0037】
ラバードーム54は、キートップ14とメンブレンシート58との間に配置され、キートップ14の昇降動作に伴い両電気接点を開成し又は閉成する。ラバードーム54は、弾性を有する材料からドーム状に一体成形され、頂部54aをキートップ14側に向けた姿勢で、スイッチパネル12の中心開口部20内に配置される。ラバードーム54は、その下端の開口端54bがメンブレンシート58の表面に接着剤で接着される。
【0038】
一対のシート基板に担持された接点は、スペーサを介して通常は開状態に保持される。キートップ14が押下されることにより、ラバードーム54の頂部54aにシート基板に接近する方向への外力が加わると、ラバードーム54は弾性変形し、上側のシート基板を外面から押圧することにより、一対の接点を閉成する。
【0039】
すなわち、キースイッチ装置10では、キートップ14に外力が加わらないときには、ラバードーム54が頂部54aの外面でキートップ14をスイッチパネル12から鉛直上方へ離れた上限位置まで付勢する。このときメンブレンシート52は、一対の接点が開成した状態にある。また、オペレータの打鍵操作によりキートップ14が押下げられたときには、ラバードーム54はキートップ14に上方への弾性復元力を及ぼしつつ変形し、キートップ14が下限位置に達する直前に上側のシート基板を外面から押圧して接点を閉成する。キートップ14への押下げ力が解除されると、ラバードームタ54が弾性的に復元し、キートップ14が上限位置へ復帰するとともに、上側のシート基板が復元して接点48が開成する。
【0040】
次に、本発明のキースイッチ装置の第2の実施形態を説明する。図4〜図7に示すように、第2の実施形態のキースイッチ装置10Aは、主として、ラバードーム54Aがスイッチパネル12Aの円形の開口端に装着される点と、メンブレンシート58の堤防部材18がスイッチパネル12Aの平坦な対向面で圧縮される点で、第1の実施形態のキースイッチ装置10と相違している。その他の構成は、ほぼ共通するため、本実施形態での説明は省略することとする。
【0041】
本実施形態のラバードーム54Aは、上端と下端との間でドーム状の壁部60に外周溝62を備えている。ラバードーム54Aは、外周溝62をスイッチパネル12Aの円形の開口20Aに係合させることにより装着される。外周溝62の溝幅は、スイッチパネル12Aの厚み寸法に対して、同程度ないしはそれより狭い幅寸法に形成されているため、ラバードーム54Aはスイッチパネル12Aの開口20Aから外れないように固定されると共に、スイッチパネル12Aに対して上下方向(厚み方向)に位置決めされるようになっている。また、ラバードーム54Aは、外周溝62の外径寸法がスイッチパネル12Aの開口20Aの内径寸法と同程度であるため、ラバードーム54Aがスイッチパネル12Aの開口20Aに装着されることで、ラバードーム54Aはスイッチパネル12Aに対して水平方向で位置決めされるようになっている。このため、ラバードーム54Aとスイッチパネル12Aとがそれぞれに別部品であっても、キースイッチ装置10Aの組立時において、ラバードーム54Aとスイッチパネル12Aの位置決めを慎重に行う煩わしさから解放され、キースイッチ装置10Aの組み立てを容易に行うことができる。なお、ラバードーム54Aの下端は、メンブレンシート58の上面に接着剤で接着されることは必ずしも必要とされないが、ラバードーム54Aが装着されたスイッチパネル12Aとメンブレンシート58を積層する際に、ラバードーム54Aの下端をメンブレンシート58の上面に接着することも可能である。すなわち、ラバードーム54Aをスイッチパネル12Aに仮固定した後に、メンブレンシート58に本固定することもできる。
【0042】
堤防部材18は、第1の実施形態で説明したように、スクリーン印刷や接着などの方法によりメンブレンシート58の上面に形成されることができる。メンブレンシート58の上面に積層されるスイッチパネル12Aの下面には、第1の実施形態と同様に堤防部材18に係合する環状の溝を形成することも可能であるが、本実施形態では溝が形成されず平坦面に形成されている。このため、図5及び図6に示すように、キースイッチ装置10Aを組み立てた状態において、堤防部材18はメンブレンシート58の上面とスイッチパネル12Aの平坦な下面とにより圧縮される。これにより、環状を成す堤防部材18の内側領域において、キートップ14Aの押下操作時に発生した打鍵音が、スイッチパネル12Aとメンブレンシート58の対向面で反響して、環状を成す堤防部材18の外側領域に拡がることが妨げられる。また、環状に配置された堤防部材18により、この堤防部材18の外側領域から内側領域へ液体が侵入することが防止され、環状の堤防部材18の内側領域に存するメンブレンシート58の接点部の障害や、キースイッチ装置10Aの下方に配設される図示しない筐体内の電子部品の故障などを防ぐことができる。
【0043】
図7には、第2の実施形態のキースイッチ装置の変形例が示されている。この変形例では、キートップ14Aの姿勢安定性を高めるために、キートップ14Aの外周面から所定のスペースを隔てて、キートップ14Aの周囲を囲むように枠壁70が形成されている。キートップ14Aは、操作面14aの中央が指先で押されるとは限られず、操作面14aの端側が押されることもある。キートップ14Aの操作面14aの端側が指先で押されると、キートップ14Aは傾いた状態で押下する心配があるが、キートップ14Aの周囲を囲むようにして、キートップ14Aの外周面に当接可能な枠壁70を形成することにより、キートップ14Aが傾いたときの姿勢を直すことが可能となる。枠壁70は、図8及び図9に示すように、キートップの上方から装着されるカバー68に一体的に設けることが可能である。この変形例のキースイッチ装置10Bによれば、枠壁70を有するカバー68によりキートップ14Aの姿勢安定性が高まり、キートップ14Aの操作性が向上する。
【0044】
以上、本実施形態では主としてキースイッチ装置10,10A,10Bについて説明したが、本発明は開示した実施形態に制限されるものではなく、実施形態の変更や改良が許容されるものである。本実施形態のキースイッチ装置10,10A,10Bでは、堤防部材がメンブレンシート58の上面に設けられているが、スイッチパネル12,12Aの下面に設けることも可能である。また、本実施形態のキースイッチ装置は、単体で使用されることもできるが、図8及び9に示すように、キースイッチ装置を複数備えたキーボートを構成することもできる。
【符号の説明】
【0045】
10,10A,10B キースイッチ装置
12,12A スイッチパネル
14,14A キートップ
16 リンク部材
18 堤防部材
19 溝
20,20A 中心開口部
54,54A ラバードーム(作動部材)
58 メンブレンシート
62 外周溝
68 カバー
70 枠壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央に開口を有するスイッチパネルと、該スイッチパネルの上方に配置されるキートップと、該キートップと前記スイッチパネルとの間に設けられ、前記キートップの水平姿勢を保持しつつ、該キートップを昇降動作可能に支持する一対のリンク部材と、前記スイッチパネルの下に配置され、前記キートップの昇降動作により電気回路の接点を開成又は閉成するメンブレンシートと、該メンブレンシートと前記キートップとの間に配置され、該キートップの下降動作に伴い前記接点を閉じるように作用する作動部材と、を備えたキースイッチ装置において、
前記スイッチパネルと前記メンブレンシートとの間で、前記スイッチパネルと前記メンブレンシートの両対向面に接する弾性堤防部材を備え、該弾性堤防部材が前記キートップの輪郭に沿って環状に配置されている、キースイッチ装置。
【請求項2】
前記スイッチパネルの前記対向面に環状に配置された溝が設けられ、該溝に前記弾性堤防部材が係合する、請求項1に記載のキースイッチ装置。
【請求項3】
前記弾性堤防部材がスクリーン印刷により形成されている、請求項1又は2に記載のキースイッチ装置。
【請求項4】
前記作動部材の外周壁に設けられた外周溝が、前記スイッチパネルの開口端に係合することにより、前記作動部材が前記スイッチパネルに装着される、請求項1〜3の何れか1項に記載のキースイッチ装置。
【請求項5】
前記キートップの周囲に枠状に配置され、該キートップの外周面に当接可能な内面を有する枠壁を備えた、請求項1〜4の何れか1項に記載のキースイッチ装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載のキースイッチ装置を複数備えたキーボード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−60601(P2011−60601A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209464(P2009−209464)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(501398606)富士通コンポーネント株式会社 (848)
【Fターム(参考)】