説明

ギャップ結合を含有する生化学活性検出用装置

本発明は、分析反応によって生化学活性を検出する装置および方法であって、該検出可能な生化学活性が該分析反応から隔てられた空間で生じる装置および方法に関する。該空間的隔たりは脂質膜およびギャップ結合により得られる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は検出反応によって生化学活性を検出するための装置および方法であって、検出する該生化学活性が該検出反応と空間的に隔てられた状態で進行する装置および方法に関する。該空間的隔たりは脂質膜とギャップ結合によって形成される。
【背景技術】
【0002】
コネキシン、コネクソンおよびギャップ結合
生細胞間のコミュニケーションに特別な役割を持つコネキシンという名の生体タンパク質分子は、当業者によく知られている。これまで、アミノ酸配列に基づいて約15種のコネキシンが確認されている[1][2]。コネキシンは全脊椎動物において見られ、通例Cx26などの略称で示される。略称中の数字はコネキシンのクロマトグラフサイズをkD単位で示している。これまで知られているコネキシンは、26から56kD範囲の分子量を持つ。この命名法の他に、第二の命名法が受け入れられつつあり、後者ではコネキシンを構造特性に基いて少なくともa、bおよびcの3クラスに分割した後、個々のクラスに対応するコネキシンに一連の番号を付ける。
【0003】
細胞膜では、いずれの場合も6のコネキシンが関係してコネクソンを形成している。コネクソンは細胞膜を貫通する環状構造であり、原理上非常に広範な、非選択的イオンチャネルまたは水で満たされた孔を形成することができる。しかし、これらの孔は原則として、コネクソンが単一の健常細胞の膜に存在する限りでは閉じられている。しかし、相互に適合可能なコネクソンを膜に持つ2つの細胞が接触すると、ギャップ結合(もしくは電気シナプスと呼ぶ)が互いの細胞の2つのコネクソン間に形成され、このギャップ結合が該2膜と細胞膜間空間を繋ぐ。通例、接触が起こると数分でギャップ結合が形成される。形成されたギャップ結合チャネルは、通常12の同一または異種コネキシン、または2つのコネクソンからなる構造物である。該チャネルは状況に応じて閉鎖可能な直径約1.5から2nmの中央孔を持つ。他の膜チャネルと比較して本質的に異なるところは、ギャップ結合チャネルが2の並列細胞膜を貫通し、それにより細胞内と細胞外基質間の連結というよりむしろ2つの細胞の細胞内基質間の連結が構築されるところである。
【0004】
ここで、ギャップ結合チャネルにより、無機イオンおよび分子量が約1000ダルトンまでの水溶性小分子が、一方の細胞の細胞質から他方の細胞の細胞質へ直接移動することが可能となる。ここでは、2つの細胞は機械的および電気的に、また代謝的にも連結している。ギャップ結合チャネルは上皮細胞同士の連結であり、ほとんどすべての上皮および多くの他種組織に見られる。通例、多数のギャップ結合チャネルが帯域形態で組織化されており、これらの構造が真の意味でギャップ結合と呼ばれている。
【0005】
通例、連結した細胞群に属するギャップ結合チャネルは開いており、コネキシンが伸展している。しかし、例えば損傷などの結果、細胞が細胞外から大量のカルシウム流入を受けると、コネキシンが互いにアロステリックに絡み合い、隣接する細胞との連結が遮断される。
【0006】
コネキシンは、コネキシンを含む細胞、例えば眼水晶体、心筋、平滑筋組織または上皮細胞などの細胞膜から精製により得ることができ、また遺伝子操作により細菌、酵母または他の細胞でコネキシンを発現させて得ることもできる。さらに、コネキシンに蛍光タンパク質断片などの標識を組み合わせて導入し、細胞膜におけるそれらの存在を簡単な可視的方法で検出できることが知られている[3]。
【0007】
人工膜または他の細胞不含系へのコネクソンの導入に使用できる方法が、当業者によく知られている[4]。これらのコネクソンおよびギャップ結合は、孔の大きさ、イオン選択性および電気的動向といった特性を、多くの場合自然環境で示されるのと同じに保っている。膜表面を接触させると、人工膜に埋め込まれた2つのコネクソン間で作動可能なギャップ結合チャネルが形成されることも既知である[5]。
【0008】
さらに、無脊椎動物は機能的に同様のクラスであるイネキシン(innexin)と呼ばれる膜タンパク質を持つことが知られている[6]。しかし、該タンパク質から形成されるチャネルは、2000ダルトンまでの分子を通過させる、より大きな孔を有する。イネキシンもまた本発明の意義の範囲におけるギャップ結合を形成する。
【0009】
さらに、細胞間連結は植物においても存在し、これらはギャップ結合と同様の特性を持ち、原形質連絡(plasmodesmata)と呼ばれている。これらの連結は同様に隣接細胞間の隔壁をまたがり、限られた数のイオンと小分子を細胞から細胞へ通過させることができる。しかし、動物におけるチャネルとは対照的に、原形質連絡には原形質膜が結合している。本発明の意義の範囲において、これらの構造物もまた、総称としてのギャップ結合に包含される。
【0010】
細胞アッセイ
生細胞内で生じる特定の生化学活性を、同様に生細胞内で起こる適切な検出反応を用いて検出する細胞アッセイも既知である。特に、例えば反応後に光シグナルまたは色変化などの容易に検出可能なシグナルを生じる指標分子と、生化学活性反応生成物を生細胞内で反応させる方法が知られている。よく用いられる指標分子の例はエクオリン(aequorin)である[7]。
【0011】
これらの細胞アッセイに共通して見られる特徴は、それらのアッセイが、細胞に対する毒性を何ら持たず、生細胞内でその機能を果たすことが可能な指標分子を使用することに限定されていることである。そうしなければ、該細胞は毒性の指標分子によって、アッセイの前または最中に、もはやいかにしても活性テストが実行不可能なほどに損傷されるであろう。
【0012】
人工脂質膜上で行うアッセイ
チャネル、レセプターおよび他の標的分子を人工脂質膜に導入し、脂質膜におけるそれらの機能を適切な実験によって調査できることもまた知られている[8]。機械的な強さ、耐久性および再現性を高めるために、適切な基質を用いて人工脂質膜を固定する方法が、特に興味を持たれている[9]。この観点で用いられている基質の例に、膜の安定性および流動性の改善を目的として必要に応じてポリマー中間層を導入したシリカゲルがある[10]。適切な高分子を用いて基質上に二重層(繋留二重層(tethered bilayer))を固定することもできる[11]。
【0013】
先行技術には、球状の固体基質上に固定された脂質二重層に標的分子(例えばイオンチャネル、レセプター、酵素など)を導入する方法が含まれる。次いでこれら標的分子の生化学活性を脂質二重層の下に配置した指標分子を用いて検出することができる[10]。基質は、大部分が固体であり、例えばレシチン脂質二重層を適用したシリカ担体などである。そのような処置体は市販されており、特にNimbus Biotechnologie(Leipzig、ドイツ)からTransil(登録商標)の名で売り出されている。この処置体では、脂質二重層の下に固定されたカルシウム感受性またはリン酸感受性色素によって、(脂質二重層に直接包埋された)標的分子の生化学活性を検出する。
【0014】
しかし、上記の方法には、適切に被覆し、標的分子を豊富に含ませた基質を、全ての標的分子を調査するためにその都度調製しなければならないという欠点がある。また、この「人工的な」環境では、「自然の」細胞環境において標的分子が示すのと同じ生化学活性が示されることを常に保証することはできない。
【発明の開示】
【0015】
上記の先行技術に基づき、本明細書で示す技術的目的は、一方で、細胞アッセイに用いることができない指標系(例えば、毒性検出試薬)を使用でき、他方で、自然の細胞環境で調査標的分子を解析することができる、改良方法および装置を提供することである。
【0016】
本発明によると、該技術的目的は、調査したい生化学活性が、該生化学活性を検出する反応と空間的に隔てられた状態で生じる装置または方法を用いることにより達成される。これにより、例えば、検出する生化学活性を標的分子が自然細胞環境で示している間に、該生化学活性の検出に毒性検出試薬を用いることが可能になる。該生化学活性および検出反応は空間的に隔てられている。
【0017】
本発明によると、該空間的な隔たりは、調査する生化学活性およびその検出反応のそれぞれが少なくとも2の脂質膜によって隔てられて生じる部位によりなされる。膜間にギャップ結合が形成されるように該脂質膜にはいずれにもコネキシンまたはイネキシンを導入し、これらのギャップ結合により分子または他のシグナルが生化学活性部位および検出反応部位間を通過できるようになる。
【0018】
本発明の意義の範囲において、「生化学活性」は、生物系(例えば細胞)の中または上、または表面で、生じる、生じ得る、または生物系により触媒され得る、あらゆる生化学活性である。生化学活性の例は、タンパク質が触媒する化学反応、シグナル伝達過程または物理的または化学的状態変数(pH、イオン濃度、代謝物濃度など)の変化である。標的分子を構成するタンパク質は、例えば細胞質に遊離しているなどの溶解状態で存在するか、もしくは例えば細胞膜またはオルガネラなどの膜に結合している可能性がある。
【0019】
本発明の意義の範囲において、「検出反応」は、生化学活性またはその結果の検出が可能な、または検出を可能にする化学または生化学反応である。好ましい検出反応は、生化学活性を検出可能にする色反応、蛍光または発光現象または複合生化学反応である。
【0020】
本発明の意義の範囲において、「脂質膜」は、生物学または非生物学系の技術者に知られる通りの脂質膜である。脂質膜は好ましくは、親水性物質の自由な通過を妨げる脂質二重層を含む。本発明の意義の範囲における脂質膜は、タンパク質などの分子をその中に包埋する形で含むことができる。脂質膜は球状または平面的な形状であり得る。それらはまた特に、固体またはゼラチン質の基質上に存在できる。脂質膜の具体的な一態様は、レシチンで構成される脂質膜である。
【0021】
本発明の意義の範囲において、「ギャップ結合」は、脂質膜によって互いに隔てられている2つの3次元領域間の連結である。ギャップ結合は2の脂質膜と膜間空間を繋ぐタンパク質から形成され、このようにして物質および電荷移動の通路を創出している。
【0022】
本発明の意義の範囲において、「膜体(membrane body)」は、膜に包まれ、液体で満たされている体積要素(volume element)である。本発明における膜体は好ましくは生細胞のような生体膜体である。これらの生細胞は、解離(dissociation)によって生組織から単離された細胞(初代培養)を含む。それらはまた、CHO細胞、HEK細胞、NIH3T3細胞およびHeLa細胞のような株化細胞系として培養中で維持された細胞、および一時的に形質移入した細胞または初代細胞も含む。本発明の意義の範囲において、生体膜体はまた、例えば脂質二重層が限定体積の水性培地(小胞(vesicle))を包んでいるような、人工的に作成した膜体である。これらの膜体はまた好ましくは、例えば脂質二重層に包埋されたポリペプチド、膜に存在する酵素、イオンチャネルまたはGタンパク質結合レセプターなど、少なくとも1の生体成分を含む。本発明の意義の範囲において、生体膜体はまた、細菌細胞、真菌細胞または他の単細胞または多細胞生物の細胞であり得る。本発明の意義の範囲において、生体膜体はまた、例えば外側の細胞壁または類似構造物を除去して得られる真菌細胞または植物細胞のプロトプラストである。本発明の意義の範囲において、生体膜体はさらにまた、例えば切断または融合によって生きた生物の膜から作成した、シナプトソームのような膜体、またはそのような調製物と合成脂質小胞とを組み合わせることにより得られた膜体である。
【0023】
本発明の意義の範囲において、「色素」は、その色素が取り除いた、または吸収しなかった電磁放射を検出することにより光学的に検出することができる物質である。
【0024】
本発明の意義の範囲において、「電位感受性指示薬」は、かけられた電位差または存在する電位に従って、その物理的、光学的または触媒特性が変化し、それらが検出可能シグナルを導くような物質である。
【0025】
DIBACのような電位感受性指示薬は当業者によく知られている[14]。
【0026】
本発明の意義の範囲において、「pH感受性指示薬」は、pHに従って、その物理的、光学的または触媒特性が変化し、それらが検出可能シグナルを導くような物質である。多数のそのような指標色素が当業者に知られており、例えばフェノールレッド、ブロモチモールブルー、ブロモフェノールブルーがあり、その他にも多数ある。
【0027】
本発明の意義の範囲において、「カルシウム感受性指示薬」は、カルシウムの存在下でその物理的、光学的または触媒特性が変化し、それらが検出可能シグナルを導くような物質である。当業者に知られているカルシウム感受性指示薬の例は、エクオリンおよびFURA-2のような他のカルシウム感受性色素である。
【0028】
「支持二重層(Supported bilayer)」は、その一方の側面が、適切な固体、多孔性またはゼラチン状物質と接触しているかまたは非常に接近して存在している膜である。これにより、支持二重層は非支持膜に比べより機械的に安定し、またより高い負荷をかけられるようになる。
【0029】
本発明の意義の範囲において、「活性化合物」は、生体分子の活性に影響を及ぼすことが可能な物質である。本発明の意義の範囲における好ましい活性化合物は、個々の生体分子または生体分子群の活性に特異的に作用する活性化合物である。それらの活性化合物のうち、レセプターおよび/またはイオンチャネルの活性に作用するものが特に好ましい。ヒトまたは動物における特定の疾病症候群(disease syndrome)を回復、軽減または予防することができる活性化合物が特に非常に好ましい。
【0030】
本発明の意義の範囲において、「活性化合物スクリーニング」は、特定の生物系において特定の生理学的効果を引き起こす化学または生体物質を選択的に探索することである。この効果は好ましくは、標的分子の活性の調節または生物における特定疾病症候群の回復、軽減または予防である。活性化合物スクリーニングは好ましくは、ハイスループットスクリーニング(HTS)形式で行う。この場合、スクリーニング処理の間多数の化学物質を標的に接触させ、標的に対する該化学物質の効果を評価する。
【0031】
本発明は特に以下の項目に関する:
1.生化学活性に対する検出反応によって該生化学活性を検出するための検査用構成物(Test set-up)であって、該検査用構成物において、該生化学活性は該検出反応と空間的に隔てられた状態で生じ、該空間的隔たりはギャップ結合で連結される少なくとも2の脂質膜によって形成されることを特徴とする検査用構成物。
【0032】
該生化学活性によって導かれる変化(例えば化学物質濃度の変化または電位の変化)は、該ギャップ結合を通じて該生化学活性部位から該検出反応部位まで進む。後者の部位において、該変化は必要に応じて増幅されるかまたは該検出反応による検出が可能な状態にされ、最終的に検出される。検出それ自体はどこでも行うことができる。
【0033】
2.該生化学活性が膜体において生じる、項目1に記載の検査用構成物。
【0034】
3.該生化学活性が生細胞において生じる、項目1に記載の検査用構成物。
【0035】
使用可能な生細胞は、例えば生組織から解離によって単離された細胞(初代培養)である。さらに、CHO細胞、HEK細胞、NIH3T3細胞またはHeLa細胞などの株化細胞系として培養中で維持される細胞、もしくは一時的に形質移入された細胞または初代細胞を用いることが可能である。
【0036】
4.該検出反応が色素との反応である、項目1ないし3のいずれかに記載の検査用構成物。
【0037】
5.該検出反応がカルシウム感受性指示薬との反応である、項目1ないし3のいずれかに記載の検査用構成物。
【0038】
6.該検出反応が電位感受性指示薬との反応である、項目1ないし3のいずれかに記載の検査用構成物。
【0039】
7.該検出反応がpH感受性指示薬との反応である、項目1ないし3のいずれかに記載の検査用構成物。
【0040】
8.該脂質膜のいずれかが支持二重層の形態である、項目1ないし7のいずれかに記載の検査用構成物。
【0041】
9.該支持二重層が平面状支持二重層の形態である、項目8に記載の検査用構成物。
【0042】
10.該支持二重層が球状支持二重層の形態である、項目8に記載の検査用構成物。
【0043】
11.該支持二重層が球状シリカ担体に適用されている、項目8に記載の検査用構成物。
【0044】
12.該支持二重層がTransil(登録商標)粒子上に配置されている、項目8に記載の検査用構成物。
【0045】
13.少なくとも1の脂質膜がキャピラリーの末端を覆っている、項目1ないし7のいずれかに記載の検査用構成物。そのような構成物を用いると、例えば近年「パッチクランプ」法と呼ばれる方法に用いられるようなガラスキャピラリーで検出反応を行うことができる[12]。
【0046】
14.生化学活性を測定するための装置であって、項目1ないし13のいずれかに記載の検査用構成物を複数含む装置。
【0047】
15.検出反応によって生化学活性を検出する方法であって、該生化学活性が該検出反応と空間的に隔てられた状態で生じ、該空間的隔たりが少なくとも2の脂質膜によって形成されており、該脂質膜はギャップ結合によって連結していることを特徴とする方法。
【0048】
16.該生化学活性が活性化合物の存在に対する反応を構成する、項目15に記載の方法。
【0049】
17.項目1ないし13のいずれかに記載の検査用構成物または項目14に記載の装置の、活性化合物スクリーニングのための使用。
【実施例】
【0050】
[実施例1]:挿入コネキシンを含有する支持二重層膜
文献[4]に記載のように、肝臓からコネキシンを精製し再生する。NIMBUS法を用いて、Transil(登録商標)粒子上に支持されている二重層膜にコネキシンを挿入する。該方法は当然ながら、肝臓由来のコネキシンCx32に限らず、心筋由来のコネキシンCx43などの他のコネキシンおよび事実上全ての他のコネキシン、並びに非脊椎動物のイネキシンまたは植物の原形質連絡のような他の生物由来の相当構造物のタンパク質を用いても類似の方法で行うことができる。
【0051】
多くの場合、重要なのは膜電位を調節できることである。従って、同じ方法を用いて膜内にカリウム選択性イオンチャネルをさらに挿入し、外部のカリウム濃度によるTransil(登録商標)粒子膜電位の大まかな調節を可能にするのが便利である。この方法で修飾したTransil(登録商標)粒子を以後「コネクソン−カリウムチャネル粒子」と記載する。
【0052】
[実施例2]:Transil(登録商標)粒子の肝細胞へのカップリング
上記のコネクソン−カリウムチャネル粒子を解離肝細胞と接触させる。当業者は解離肝細胞を単離する方法を熟知している。肝細胞もコネキシンCx32を含むので、肝細胞は粒子に付着し、ギャップ結合を形成する。該ギャップ結合が開き、肝細胞と粒子の間に伝導性の連結が形成される。このことは、粒子に前もってルシファーイエローなどの色素を添加しておくと、色素が細胞内に拡散するのでこれにより実証される。
【0053】
[実施例3]:ニコチン作動性アセチルコリンレセプターの活性測定
HEK細胞にコネキシン32を発現するためのcDNAを形質移入し、同時またはその後にリガンド制御性イオンチャネル、すなわちニコチン作動性アセチルコリンレセプターを発現するためのcDNAを形質移入する。そのような細胞を調製し、イオンチャネルを機能的に発現する方法はよく知られており、一般的な当業者の知識に含まれる。
【0054】
ここで両タンパク質を発現する細胞を実施例1の粒子と接触させる。粒子および細胞の両方がコネキシン32を持つので、細胞は粒子に付着しギャップ結合を形成する。
【0055】
ニコチンのような適切なアゴニストを用いてニコチン作動性アセチルコリンレセプターを活性化すると、膜電位に変化が生じる。この電位変化はギャップ結合によって粒子膜に伝達され、光学的に検出される。このことを可能にするため、粒子に前もって電位感受性膜可溶性色素(例えばDIBAC[14])を添加する。
【0056】
[実施例4]:第二メッセンジャー結合性レセプター
第二メッセンジャー結合性レセプターを持つ細胞に同様にコネキシンを形質移入し、細胞が、天然状態で存在する膜タンパク質に加え、コネキシンを膜に形成するようにする。次いで、細胞に形質移入したコネキシンと適合するコネキシンを用いて調製した実施例1の粒子と細胞を接触させる。細胞が粒子に付着する。細胞と粒子内部の間にギャップ結合による連結が構築される。ここで第二メッセンジャー結合性レセプターが細胞において活性化すると、細胞内反応生成物が粒子内に拡散し、適切な化学反応により粒子内で該生成物を検出することができる。この反応には例えばFURA-2を用いてカルシウム濃度の増加を検出する方法などがあり、この検出法は広く文献に詳細に記載されている。
【0057】
[実施例5]:解離心臓細胞に対する実験
天然の状態において、解離心臓細胞はコネキシンCx43を含む[15]。従って細胞はコネキシンCx43を用いて調製した実施例1の粒子に付着できる。ここで心臓細胞に存在するレセプターを活性化する活性化合物で該細胞を処置すると、例えば実施例3および4に記載の方法によって効果を検出することができる。
【0058】
[参考文献]
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[10] Loidl-Stahlhofen et al. (2001) Solid-Supported Biomolecules on Modified Silica Surfaces - A Tool for Fast Physicochemical Characterization and High-Throughput Screening, Advanced Materials 13, 1829-1834

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[14] Whiteaker et al. 2001. Journal of Biomolecular Screening 6, 305-312

[15] Yeager et al. 1998. Current Opinion Struct. Biol. 8, 517-524
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、標的分子(同時に生化学活性部位)(1)、生化学活性部位から空間的に隔てられている検出反応部位(2)、第一(3)および第二(4)脂質膜、コネキシン(5)およびギャップ結合(6)を有する、生物活性を測定するための本発明による構成物を示す。生化学反応部位(1)は検出反応部位(2)と空間的に隔てられているが、しかしギャップ結合(6)によって機能的に連結されている。第一脂質膜(3)は平面状形態である。
【図2】図2は、標的分子(同時に生化学活性部位)(1)、生化学活性部位から空間的に隔てられている検出反応部位(2)、第一(3)および第二(4)脂質膜、コネキシン(5)およびギャップ結合(6)を有する、生物活性を測定するための本発明による構成物を示す。該検出反応は、芯(core)(7)および脂質膜(3)を持つ粒子(例えばTransil(登録商標)粒子)上の脂質膜(3)の下で起こる。ギャップ結合で粒子と結合している2つの膜体が描かれている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生化学活性に対する検出反応によって該生化学活性を検出するための検査用構成物であって、該検査用構成物において、該生化学活性は該検出反応と空間的に隔てられた状態で生じ、該空間的隔たりはギャップ結合で連結される少なくとも2の脂質膜によって形成されることを特徴とする検査用構成物。
【請求項2】
該生化学活性が膜体において生じる、請求項1に記載の検査用構成物。
【請求項3】
該生化学活性が生細胞において生じる、請求項1に記載の検査用構成物。
【請求項4】
該検出反応が色素との反応である、請求項1ないし3のいずれかに記載の検査用構成物。
【請求項5】
該検出反応がカルシウム感受性指示薬との反応である、請求項1ないし3のいずれかに記載の検査用構成物。
【請求項6】
該検出反応が電位感受性指示薬との反応である、請求項1ないし3のいずれかに記載の検査用構成物。
【請求項7】
該検出反応がpH感受性指示薬との反応である、請求項1ないし3のいずれかに記載の検査用構成物。
【請求項8】
該脂質膜のいずれかが支持二重層の形態である、請求項1ないし7のいずれかに記載の検査用構成物。
【請求項9】
該支持二重層が平面状支持二重層の形態である、請求項8に記載の検査用構成物。
【請求項10】
該支持二重層が球状支持二重層の形態である、請求項8に記載の検査用構成物。
【請求項11】
該支持二重層が球状シリカ担体に適用されている、請求項8に記載の検査用構成物。
【請求項12】
該支持二重層がTransil(登録商標)粒子上に配置されている、請求項8に記載の検査用構成物。
【請求項13】
少なくとも1の脂質膜がキャピラリーの先端を覆っている、請求項1ないし7のいずれかに記載の検査用構成物。
【請求項14】
生化学活性を測定するための装置であって、請求項1ないし13のいずれかに記載の検査用構成物を複数含む装置。
【請求項15】
検出反応によって生化学活性を検出する方法であって、該生化学活性が該検出反応と空間的に隔てられた状態で生じ、該空間的隔たりが少なくとも2の脂質膜によって形成されており、該脂質膜はギャップ結合によって連結していることを特徴とする方法。
【請求項16】
該生化学活性が活性化合物の存在に対する反応を構成する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項1ないし13のいずれかに記載の検査用構成物または請求項14に記載の装置の、活性化合物スクリーニングのための使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−503207(P2007−503207A)
【公表日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524292(P2006−524292)
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【国際出願番号】PCT/EP2004/009209
【国際公開番号】WO2005/022158
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(504109610)バイエル・テクノロジー・サービシーズ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (75)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Technology Services GmbH
【Fターム(参考)】