説明

ギヤ付きシャフトの製造方法、ギヤ付きシャフト及びミキサータンク

【課題】耐久性を改善したギヤ付きシャフトの製造方法を提供する。
【解決手段】
軸部(42)における少なくとも一部の外周壁(42b,42d)に精密ショットピーニングを施す工程と、孔(44a,46a)が形成されており外壁の少なくとも一部に歯面(44e,46e)を有するギヤ部(44,46)の内周壁(44b、46b)に精密ショットピーニングを施す工程と、精密ショットピーニングを施された前記軸部と前記ギヤ部とを、嵌合により、前記ギヤ部の前記孔に前記軸部の前記外周壁を挿通させた状態で固定する工程と、を有するギヤ付きシャフトの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギヤ付きシャフトの製造方法、並びにその製造方法によって製造されたギヤ付きシャフト及びミキサータンクに関する。
【背景技術】
【0002】
溶液を攪拌するためのミキサータンクは、各種産業分野において用いられている。ミキサータンクは、攪拌のための動力を発生させるモータと、モータから適切な回転数を得るための減速機と、減速機を介して伝えられるモータの動力によって回転するインペラーを内蔵するタンク等によって構成される。例えば高分子材料の製造において、ミキサータンクは、原材料を攪拌するために、重合工程や、重合後のアグロメレーション(乳化重合後のラテックス粒子の凝集)工程等で使用される(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−237181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来技術に係るミキサータンクでは、減速機内部のシャフト又はギヤが、設計時に想定した耐久時間より大幅に短い時間で破損するという問題が発生している。減速機の内部では、嵌合等によってギヤを軸部に固定したシャフトを用いているが、このようなギヤ付きシャフトが、想定外の短時間で損傷することがあり、ミキサータンクの安全かつ安定的な運転を阻害している。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みてなされ、本発明の目的は、耐久性を改善したギヤ付きシャフトの製造方法、並びにその製造方法によって製造されたギヤ付きシャフト及びミキサータンクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明に係るギヤ付きシャフトの製造方法は、軸部における少なくとも一部の外周壁に精密ショットピーニングを施す工程と、
孔が形成されており外壁の少なくとも一部に歯面を有するギヤ部の内周壁に精密ショットピーニングを施す工程と、
精密ショットピーニングを施された前記軸部と前記ギヤ部とを、嵌合により、前記ギヤ部の前記孔に前記軸部の前記外周壁を挿通させた状態で固定する工程と、を有する。
【0007】
本発明の発明者らは、従来技術に係るミキサータンクに使用されるギヤ付きシャフトに対して鋭意分析を重ねた結果、ギヤ付きシャフトの破損が、軸部とギヤ部との接合部分で発生するフレッティング疲労によって引き起こされることを突き止めた。フレッティング疲労とは、フレッティングによる繰り返し応力により、接触面に摩耗損傷(フレッティング摩耗)が発生し、部材の疲労破壊や大幅な寿命低下を引き起こす現象である。また、フレッティングとは、ある接触面圧で接触している2つの部材の接触面において、外部荷重により1μm〜数10μm程度の小さな振幅を有する相対すべりが生じる現象である。
【0008】
従来技術に係るギヤ付きシャフトは、使用時のねじり応力及び曲げ応力から算出される安全率(余裕率)が1.0を超えているにもかかわらず、軸部とギヤ部との接合面である取付部82cの軸部外周壁82dで、疲労破壊と考えられる損傷を起こしていた。図7は、従来技術に係るギヤ付きシャフトを減速機に組み込んで所定時間使用した後、ギヤ部との接合面である軸部外周壁82dを観察した写真である。
【0009】
ここで、フレッティング疲労による損傷は、嵌合による接合面の接触面圧が大きいほど増大することが知られているが、図7に示す軸部外周壁82dの損傷状況は、軸部とギヤ部との接合面である軸部外周壁82dにおける接触面圧の分布に対応していることが解る。すなわち、軸部外周壁82dでは、接合面における軸方向両端部において最も接触面圧が高く、中央部分において接触面圧が最小となるが、軸部外周壁82dに見られる損傷痕は、接合面である取付部82cの軸部外周壁82dにおける軸方向両端部において最も顕著であり、中央部分では軽微である。このようなことから、従来技術に係るギヤ付きシャフトにおいて発生する破損が、フレッティング疲労によるものであることを突き止めた。
【0010】
本発明に係るギヤ付きシャフトの製造方法では、ギヤ部と軸部との接合面に精密ショットピーニングを施した後、精密ショットピーニング施工後のギヤ部と軸部とを嵌合により固定する。このような製造方法により作製されたギヤ付きシャフトは、軸部とギヤ部との接合部分で起こるフレッティング疲労が抑制され、良好な耐久性能を有する。
【0011】
嵌合方法は、特に限定されず、締り嵌め、中間嵌め、及び隙間嵌め等の常法を用いることができる。ギヤ部と軸部とを締り嵌めする場合は、焼き嵌め等によりギヤ部と軸部とを固定する。
【0012】
また、例えば、本発明に係るギヤ付きシャフトの製造方法において、精密ショットピーニングを施す前における前記軸部の硬さと精密ショットピーニングを施す前における前記ギヤ部の硬さとの差が、ビッカース硬さで160以内であっても良い。
【0013】
ギヤ部と軸部との硬さの差を小さくすることにより、軸部とギヤ部との接合部分で起こるフレッティング疲労が抑制され、上述のような製造方法によって製造されたギヤ付きシャフトは、より良好な耐久性能を有する。なお、ギヤ部と軸部との硬さの差はより小さい方が好ましく、ギヤ部と軸部との硬さを略同一(同一を含む)としても良い。
【0014】
また、例えば、本発明に係るギヤ付きシャフトの製造方法において、前記ギヤ部はベベルギヤであっても良い。
【0015】
ベベルギヤの歯面は軸方向に対して傾いているため、ベベルギヤを有するシャフトは、軸方向成分を含む力を受けて、フレッティング疲労の原因となる軸方向の振動を起こしやすいという問題を有する。しかし、ベベルギヤを有するシャフトであっても、ギヤ部と軸部との接合面に精密ショットピーニングを施した後、精密ショットピーニング施工後のギヤ部と軸部とを嵌合により固定して製造されることにより、良好な耐久性能を奏する。
【0016】
本発明に係るギヤ付きシャフトは、上述のいずれかに記載の製造方法によって製造される。
【0017】
本発明に係るミキサータンクは、上述のギヤ付きシャフトを有する減速機と、
前記減速機に動力を伝達するモータと、
前記減速機から動力を伝達されて回転するインペラーを内部に収納するタンクと、を有する。
【0018】
上述のように、ギヤ部と軸部との接合面に精密ショットピーニングを施した後、精密ショットピーニング施工後のギヤ部と軸部とを嵌合により固定して製造するギヤ付きシャフトを有し、耐久性を向上させた減速機を使用するミキサータンクは、安全かつ安定的な運転を実現することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、フレッティング疲労によって引き起こされる予測の難しい損傷を防止し、良好な耐久性能を有するギヤ付きシャフトの製造方法及びその製造方法によって製造されたギヤ付きシャフトを提供することができる。また、このようなギヤ付きシャフトを用いたミキサータンクは、安全かつ安定的な運転を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るミキサータンクの概略図である。
【図2】図2は、図1に示すミキサータンクにおける減速機の要部を表す図である。
【図3A】図3Aは、第2シャフトの製造のために準備される第2軸部を表す図である。
【図3B】図3Bは、第2シャフトの製造のために準備されるBギヤ部を表す図である。
【図3C】図3Cは、第2シャフトの製造のために準備されるCギヤ部を表す図である。
【図3D】図3Dは、製造後の第2シャフトを表す図である。
【図4】図4は、第2シャフトの製造方法を説明したフローチャートである。
【図5】図5は、実施例に係る各疲労試験の方法を表す概念図である。
【図6】図6は、実施例に係る各疲労試験の結果を表すグラフである。
【図7】図7は、従来技術に係る減速機用シャフトにおける軸部とギヤ部との接合部分の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。図1は、本発明の一実施形態に係るミキサータンク10の概略図である。ミキサータンク10は、動力源であるモータ12と、カップリング14と、減速機16と、タンク22等を有する。
【0022】
カップリング14は、モータ12の出力軸と減速機16の入力軸(第1シャフト30(図2参照))とを接合しており、モータ12で発生した動力は、カップリング14を介して減速機16に伝達される。減速機16は、モータ12による回転を、所定の回転数まで減速して出力する。減速機16は、後述のように、歯面を有するギヤ部及び軸部を有する複数のシャフトを有しており、各ギヤ部等の歯面に形成される歯数は、シャフトを伝わりながら回転数が低減するように調整されている。また、減速機16は、軸の回転方向を、水平方向から鉛直方向に変更する。
【0023】
タンク22の内部には、タンク22の内部に投入される流体を攪拌するためのインペラー20が収納されている。減速機16によって所定の回転数まで減速された動力は、減速機16の出力軸(第4シャフト60(図2参照))に接合されるアウトプットシャフト18等を介してインペラー20に伝達される。インペラー20は、タンク22の内部において回転し、タンク22の内部に存在する流体を攪拌する。
【0024】
ミキサータンク10の用途は特に限定されないが、図1に示すミキサータンク10は、高濃度ラテックスを製造するために行われるアグロメレーション工程において、特に好適に使用される。高濃度ラテックスの製造工程では、まず乳化重合を行う乳化重合工程を実施し、その後にラテックスの高濃度化を目的とするソルベントアグロメレーションを行うアグロメレーション工程を実施する。アグロメレーション工程は、特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(ニトリルゴム)ラテックスの場合には、重合工程で製造されたラテックスをブタジエン存在下で、乳化重合時の撹拌に比べ高速攪拌することによって実施される。アグロメレーション工程では、タンク内の流体を、乳化重合時の撹拌に比べ高速攪拌する必要があるため、減速機16に含まれるシャフトに対する負荷が大きくなる傾向がある。そのため、ミキサータンク10の減速機16は、重合工程で用いられるミキサータンクの減速機よりも大きい負荷に耐える必要がある。
【0025】
図2は、減速機16の要部を表す図であり、減速機16に含まれるシャフトの構成を表したものである。減速機16は、入力軸である第1シャフト30と、第1シャフト30に対してギヤを介して接続される第2シャフト40と、第2シャフト40に対してギヤを介して接続される第3シャフト50と、第3シャフト50に対してギヤを介して接続される第4シャフト60とを有する。
【0026】
第1シャフト30は、ベアリング38,39によって回転自在に支持される第1軸部32と、第1軸部32の一部によって挿通されるAギヤ部34とを有する。Aギヤ部34は、第1軸部32におけるカップリング14側とは反対側の端部に固定されている。第1軸部32のAギヤ部34はベベルギヤであり、第1軸部32の軸方向に対して傾いている歯面を有する。
【0027】
Aギヤ部34には貫通孔が形成されており、Aギヤ部34は、その貫通孔に第1軸部32の一部の外周壁を挿通させた状態で、第1軸部32に対して中間嵌めにより固定されている。Aギヤ部34と第1軸部32との間には、回転止めの為のキー等が挿入されている。第1軸部32は、水平方向に沿って配置されており、第1シャフト30の回転軸は水平方向である。
【0028】
第2シャフト40は、ベアリング48,49によって回転自在に支持される第2軸部42と、第2軸部42の上側の一部によって挿通されるBギヤ部44と、第2軸部42の下側の一部によって挿通されるCギヤ部46とを有する。第2シャフト40のBギヤ部44は、第1シャフト30のAギヤ部34と噛み合っており、第1シャフト30の回転は、Aギヤ部34及びBギヤ部44を介して第2シャフト40に伝達される。
【0029】
Bギヤ部44はベベルギヤであり、第2シャフト40の回転軸は、第1シャフト30の回転軸に対して90度回転した鉛直方向である。すなわち、第2シャフト40の第2軸部42は、鉛直方向に沿って配置されている。Bギヤ部44は、中間嵌めによって第2軸部42に固定されている。Bギヤ部44と第2軸部42との間には、回転止めのためのキー等が挿入されている。
【0030】
Cギヤ部46は、ヘリカルギヤである。Cギヤ部46も、中間嵌めによって第2軸部42に固定されており、Cギヤ部46と第2軸部42との間には、回転止めのためのキー等が挿入されている。なお、第2シャフト40の製造方法については、後ほど詳述する。
【0031】
第3シャフト50は、ベアリング58,59によって回転自在に支持される第3軸部52と、第3軸部52の上側の一部によって挿通されるDギヤ部54とを有する。また、第3軸部52は、第3軸部52における下側の一部の外周壁に形成されたEギヤ歯面56を有する。Dギヤ部54には貫通孔が形成されており、Dギヤ部54は、その貫通孔に第3軸部52の一部の外周壁を挿通させた状態で、第3軸部52に対して中間嵌めにより固定されている。Dギヤ部54と第3軸部52との間には、回転止めのためのキーや、固定を補助するためのスナップリング等が設置されている。
【0032】
第3シャフト50のDギヤ部54は、第2シャフト40のCギヤ部46と噛み合っており、第2シャフト40の回転は、Cギヤ部46及びDギヤ部54を介して第3シャフト50に伝達される。Dギヤ部54が有する歯面に形成される歯数は、Cギヤ部46が有する歯面に形成される歯数より多く、第3シャフト50の回転数は、第2シャフト40の回転数より減少する。
【0033】
Dギヤ部54はヘリカルギヤであり、第3シャフト50の回転軸は、第2シャフト40と同様に鉛直方向である。すなわち、第3シャフト50の第3軸部52は、鉛直方向に沿って配置されている。なお、Cギヤ部46及びDギヤ部54は、スプールギヤであっても良い。Eギヤ歯面56は、Dギヤ部54と同様に、ヘリカルギヤである。
【0034】
第4シャフト60は、ベアリング68,69によって回転自在に支持される第4軸部62と、第4軸部62の上側の一部によって挿通されるFギヤ部64とを有する。Fギヤ部64には、貫通孔が形成されており、Fギヤ部64は、その貫通孔に第4軸部62の一部の外周壁を挿通させた状態で、第4軸部62に対して中間嵌めによって固定されている。
【0035】
第4シャフト60のFギヤ部64は、第3シャフト50のEギヤ歯面56と噛み合っており、第3シャフト50の回転は、Eギヤ歯面56及びFギヤ部64を介して第4シャフト60に伝達される。Fギヤ部64が有する歯面の歯数は、Eギヤ歯面56の歯数より多く、第4シャフト60の回転数は、第3シャフト50の回転数より減少する。
【0036】
Fギヤ部64はヘリカルギヤであり、第4シャフト60の回転軸は、第2シャフト40及び第3シャフト50と同様に、鉛直方向である。すなわち、第4シャフト60の第4軸部62は、鉛直方向に沿って配置されている。なお、Eギヤ歯面56及びFギヤ部64は、スプールギヤであっても良い。
【0037】
第4軸部62は中空円筒状であり、第4軸部62の内部には、アウトプットシャフト18(図1参照)が挿入される。アウトプットシャフト18は、第4軸部62に連結され、第4シャフト60の回転は、タンク22内のインペラー20(図1参照)に伝達される。
【0038】
図3A〜図3Dは、減速機16に含まれる第2シャフト40の構成部品及びこれらを結合した後の第2シャフト40を表す図である。また、図4は、第2シャフトの製造方法を説明したフローチャートである。以下に、図3A〜図3D及び図4を用い、第2シャフト40を例に、減速機16に含まれるシャフト30,40,50,60の製造方法を説明する。
【0039】
図3Aは、第2シャフト40の製造のために準備される第2軸部42を表す図であり、図3Aに示す第2軸部42は、後述する精密ショットピーニングを施す前の第2軸部42である。図3Aに示すように、精密ショットピーニング施工前の第2軸部42は、Bギヤ部44を挿通するB取付部42aのB取付部外周壁42bと、Cギヤ部46を挿通するC取付部42cのC取付部外周壁42dとを有する。
【0040】
精密ショットピーニングを施す前の第2軸部42は、例えば炭素鋼やクロムモリブデン鋼等のような、硬質の金属材料等によって作製されることが好ましいが、特に限定されない。精密ショットピーニング施工前の第2軸部42は、例えば切削または研削によって作製されるが、特に限定されない。精密ショットピーニング施工前の第2軸部42の表面は、必要に応じて研磨紙又は研磨布で研磨されていても良い。
【0041】
図3Bは、第2シャフト40の製造のために準備されるBギヤ部44を表す図であり、図3Bに示すBギヤ部44は、後述する精密ショットピーニングを施す前のBギヤ部44である。図3Bに示すように、Bギヤ部44には、第2軸部42のB取付部外周壁42bを挿通させるためのBギヤ貫通孔44aが形成されている。また、Bギヤ部44は、その外壁の一部に、図2に示すAギヤ部34の歯面と噛み合うBギヤ歯面44eを有する。
【0042】
図3Cは、第2シャフト40の製造のために準備されるCギヤ部46を表す図であり、図3Cに示すCギヤ部46は、後述する精密ショットピーニングを施す前のCギヤ部46である。Cギヤ部46には、Bギヤ部44と同様に、第2軸部42のC取付部外周壁42dを挿通させるためのCギヤ貫通孔46aが形成されている。また、Cギヤ部46は、その外壁の一部に、図2に示すDギヤ部54の歯面と噛み合うCギヤ歯面46eを有する。
【0043】
精密ショットピーニングを施す前のBギヤ部44及びCギヤ部46は、例えば炭素鋼やクロムモリブデン鋼等のような、硬質の金属材料等によって作製されることが好ましいが、特に限定されない。ただし、精密ショットピーニング施工前におけるBギヤ部44及びCギヤ部46の硬さと、精密ショットピーニング施工前における第2軸部42の硬さとの差が、ビッカース硬さで160以内であることが好ましい。Bギヤ部44及びCギヤ部46と第2軸部42との硬さの差を小さくすることによって、Bギヤ部44及びCギヤ部46と第2軸部42との接合部分で起こるフレッティング疲労が抑制されるからである。また、精密ショットピーニング施工前のBギヤ部44及びCギヤ部46と第2軸部42とは、同様の組成の材料から作製され、同様の熱処理を施されたものであることが、接触面の硬度差を小さくしてフレッティング疲労を抑制する観点から好ましい。
【0044】
Bギヤ部44及びCギヤ部46は、例えば切削又は研削等によって作製されるが、特に限定されない。各ギヤ貫通孔44a,46aの壁面であって各ギヤ部44,46の内周壁であるBギヤ内周壁44b及びCギヤ内周壁46bは、必要に応じて研磨紙又は研磨布で表面を研磨される。
【0045】
図4は、図3A〜図3Cに示す第2軸部42、Bギヤ部44及びCギヤ部46を準備してから、図3Dに示す第2シャフト40を作製するまでの工程を表している。図4に示すステップS001では、図3Aに示す第2軸部42を準備し、精密ショットピーニング施工前の第2軸部42に対して、精密ショットピーニングを施す。ここで、精密ショットピーニングとは、金属の表面に、その金属と同等以上の硬度を有する20〜200μmの微粒子を、噴射速度50m/sec以上で噴射させ、局部的に再結晶温度まで高めることにより、熱処理効果、鍛錬効果の加工強化が瞬時に繰り返され、金属表面層の残留オーステナイトのマルテンサイト化や、再結晶、組織の微細化を行う処理である。これにより、金属表面は高硬度で靱性に富んだ微細な組織が形成され、内部圧縮残留応力も高めることができる。
【0046】
精密ショットピーニングは微粒子をたたきつけているため、圧縮残留応力を高めることができる。また、精密ショットピーニングを施した金属表面は非常に微細な炭化物組織になっており、その表面積は大きく結びつきも強いものになる。そのため、金属表面にクラックが入りにくく、入ったとしても広がりにくいので、精密ショットピーニングを施すと疲労に強くなる。精密ショットピーニングする方法として、WPC処理(株式会社不二機販及び株式会社不二製作所の登録商標)が好適に用いられる。
【0047】
図4に示す軸部の精密ショットピーニングを施す工程(ステップS001)では、少なくとも第2軸部42におけるB取付部42aのB取付部外周壁42b及びC取付部42cのC取付部外周壁42dに対して、精密ショットピーニングが施される。ただし、軸部の精密ショットピーニングを施す工程(ステップS001)では、第2軸部42の表面全体に対して精密ショットピーニングが施されても良い。
【0048】
図4に示すステップS002では、図3Bに示すBギヤ部44と図3Cに示すCギヤ部46を準備し、精密ショットピーニング施工前のBギヤ部44及びCギヤ部46に対して、精密ショットピーニングを施す。図4に示すギヤ部の精密ショットピーニングを施す工程(ステップS002)では、Bギヤ部44のBギヤ内周壁44bとCギヤ部46のCギヤ内周壁46bに対して精密ショットピーニングが施される。ただし、ギヤ部の精密ショットピーニングを施す工程(ステップS002)では、Bギヤ部44及びCギヤ部46の表面全体に対して精密ショットピーニングが施されていても良い。また、Bギヤ部44の精密ショットピーニングと、Cギヤ部46の精密ショットピーニングは、別々に行われても良く、まとめて同時に行われても良い。
【0049】
さらに、ギヤ部の精密ショットピーニングを施す工程(ステップS002)は、軸部の精密ショットピーニングを施す工程(ステップS001)とまとめて同時に行われても良く、別々に行われても良い。また、ギヤ部の精密ショットピーニングを施す工程(ステップS002)と軸部の精密ショットピーニングを施す工程(ステップS001)とを別々に行う場合において、その順序は図4に示す例に限定されず、どちらが先に行われても良い。
【0050】
精密ショットピーニングを施す工程(ステップS001及びステップS002)において用いる微粒子としては、例えば、金属の微粒子やセラミックビーズ等を用いることができ、粒径は、通常、20〜200μm、好ましくは40〜100μmのものを用いる。また、精密ショットピーニングを施す工程(ステップS001及びステップS002)における高圧エアーの噴射速度は、通常、50m/sec以上、好ましくは150m/sec以上が好ましく、噴射圧力は、0.2MPa以上が好ましい。また、精密ショットピーニングを施す工程(ステップS001及びステップS002)では、第1段階として金属(例えば高速度鋼等)の微粒子を用いて精密ショットピーニングを行ったのち、第2段階としてセラミックビーズの微粒子を用いて精密ショットピーニングを行っても良い。
【0051】
図4に示すステップ3では、精密ショットピーニングを施す工程(ステップS001及びステップS002)において精密ショットピーニングを施された第2軸部42とBギヤ部44及びCギヤ部46とを、中間嵌めにより固定し、図3Dに示す第2シャフト40を得る。嵌合工程(ステップS003)によって、Bギヤ部44は、Bギヤ貫通孔44aに第2軸部42のB取付部外周壁42bを挿通させた状態で、第2軸部42に対して固定される。また、Cギヤ部46は、Cギヤ貫通孔46aに第2軸部42のC取付部外周壁42dを挿通させた状態で、第2軸部42に対して固定される。なお、中間嵌めの際に、Bギヤ部44及びCギヤ部46と第2軸部42との間には、回転止めのためのキー等が挿入される。
【0052】
図3Dに示すように、第2シャフト40では、中間嵌めによって互いに対向及び接触する双方の面である第2軸部42の外周壁42b,42d及び各ギヤ部44,46の内周壁44b,46bが、いずれも精密ショットピーニングを施されている。このように、嵌合によって接合面となる面に予め精密ショットピーニングを施した後、軸部とギヤ部とを嵌合して固定するギヤ付きシャフトの製造方法は、製造されたギヤ付きシャフトにおける軸部とギヤ部との接合部分で起こるフレッティング疲労を抑制することができる。なお、精密ショットピーニングは、金属材料表面を、結合力の強い組織に改質する作用があると考えられ、このような精密ショットピーニングの作用が、フレッティング疲労の抑制効果をもたらしているものと考えられる。
【0053】
なお、上述の説明では、第2シャフト40を例に挙げて製造方法の説明を行ったが、図2に示す他のシャフト30,50,60についても、同様の製造方法によって作製することができる。すなわち、第1軸部32に対するAギヤ部34の固定、第3軸部52に対するDギヤ部54の固定及び第4軸部62に対するFギヤ部64の固定についても、嵌合によって接合面となる面に、予め精密ショットピーニングを施すことにより、フレッティング疲労の抑制効果を得られる。
【0054】
また、上述の製造方法により製造された第2シャフト40等を有する減速機16は、安全かつ安定的に動力を伝達することが可能である。また減速機16を使用するミキサータンク10は、アグロメレーション工程の場合など、負荷の大きい条件で運転される場合にも、安全かつ安定的な運転を実現することができる。
【0055】
なお、図2に示す第2シャフト40の第2軸部42は、第3シャフト50の第3軸部52と比較して、より内径の小さいベアリング48,49によって支持されており、第2軸部42には、第3軸部52より大きな負荷が加わり易い。従って、減速機16においては、軸部とギヤ部との接合面に精密ショットピーニングを施した後に嵌合により固定して作製したギヤ付きシャフトを第2シャフト40として用いることが、耐久性を確保する観点から特に効果的である。
【0056】
さらに、図2及び図3に示す第2シャフト40は、ベベルギヤであるBギヤ部44を有している。ベベルギヤの歯面は軸方向に対して傾いているため、ベベルギヤを有するシャフトは、軸方向成分を含む力を受けて、フレッティング疲労の原因となる軸方向の振動を発生し易いという問題がある。また、第2シャフト40の回転軸は鉛直方向であり、重力により軸方向の振動が発生しやすいという問題もある。さらに、Bギヤ部44の歯面の法線方向が水平方向より鉛直方向側に傾いており、下方から力を受けることも、振動発生の原因となり得る。従って、第2シャフト40として、軸部とギヤ部との接合面に精密ショットピーニングを施した後に嵌合により固定して作製したギヤ付きシャフトを採用することは、特に効果的である。
【0057】
また、図2に示す減速機16において、第1シャフト30はモータ12側に位置するため、Aギヤ部34も、Cギヤ部46と同様に、起動時の急負荷等の負荷が集中し易い部分である。また、第1シャフト30も、第2シャフト40と同様にベベルギヤを有するため、軸方向の振動が発生し易い傾向にある。したがって、第1シャフト30として、軸部とギヤ部との接合面に精密ショットピーニングを施した後に嵌合により固定して作製したギヤ付きシャフトを採用することは、耐久性を確保する観点から効果的である。
【0058】
実施例
以下にさらに詳細な実施例に基づき説明を行うが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
実施例では、ギヤ付きシャフトの軸部等として一般的に使用される炭素鋼であるS45C(JIS G 4051:2005)で作製された試験片について、フレッティング疲労試験および通常の疲労試験を実施し、ギヤ付きシャフトの接合面に対する精密ショットピーニングの有効性を確認した。実施例では、疲労試験の種類及び試験片及び接触片に対する精密ショットピーニングの有無等を変更し、3種類の評価を行った。本実施例で行った比較例1、実施例1、及び参考例1の各評価条件を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
(比較例1)
表1に示すように、比較例1は、炭素鋼S45Cで作製され、表面を精密ショットピーニングを施していない試験片90を用いて、フレッティング疲労試験を行ったものである。図5(a)は、比較例1として評価を実施したフレッティング疲労試験の試験方法を表す概念図である。
【0062】
比較例1として評価を実施したフレッティング疲労試験は、日本機械学会基準(JSME)のフレッティング疲労試験方法(改訂版)(JSME S 015−2009)に基づくものである。図5(a)に示すように、比較例1に係るフレッティング疲労試験は、試験片90の中央部分に形成される平行部90aに、矢印95で示す繰り返し応力の方向とは直交する方向から、接触片92を押し当てられた状態で実施される。接触片92は、押し付け治具94によって、平行部90aに押し当てられる。なお、比較例1で用いた試験片90および接触片92の表面は、研磨紙による研磨を施されている。
【0063】
比較例1に係るフレッティング疲労試験では、矢印95で示す方向に沿って繰り返し応力を負荷し、試験片90が疲れ破壊を生ずるまでに要した応力の繰り返し数Nを測定した。繰り返し応力の周波数は、3Hzとした。また、押し付け治具94の歪みは100μmとした。なお、試験片90の平行部90aの断面積は150mm、接触片92の押し付け力は一定とした。また、比較例1における繰り返し応力(片振り応力)の最大応力は、250、350、440MPaとし、比較例1では、各最大応力で1回ずつ、計3回のフレッティング疲労試験を実施した。
【0064】
(実施例1)
表1に示すように、実施例1は、試験片90及び接触片92の表面に精密ショットピーニングを施した以外は、比較例1と同様の条件で、フレッティング疲労試験を行ったものである。すなわち、実施例1で用いた試験片90及び接触片92は、比較例1で用いた試験片90及び接触片92と同様に炭素鋼S45Cで作製された後、その表面に更に精密ショットピーニングが施されたものである。実施例1で用いた試験片90に対して行われた精密ショットピーニングは、2段階の精密ショットピーニングであり、第1段階として高速度鋼の微粒子を用いて精密ショットピーニングを行い、第2段階としてセラミックビーズの微粒子を用いて精密ショットピーニングを行ったものである。各段階で用いた微粒子の粒径はいずれも50μmであり、精密ショットピーニングにおける高圧エアーの噴射速度はいずれも200m/secであり、高圧エアーの噴圧はいずれも0.4MPaとした。
【0065】
実施例1に係るフレッティング疲労試験でも、実施例1と同様に、試験片90が疲れ破壊を生ずるまでに要した応力の繰り返し数Nを測定した。試験片90及び接触片92の形状及び接触片92の押し付け力等の評価条件は、比較例1と同様である。なお、精密ショットピーニングによる寸法変化は、大きくても数μm程度であるため、試験片90及び接触片92の形状を算出する際には考慮していない。また、実施例1における繰り返し応力(片振り応力)の最大応力は、250、275、300、325、350、440MPaとし、実施例1では、各最大応力で1回ずつ、計6回のフレッティング疲労試験を実施した。
【0066】
(参考例1)
表1に示すように、参考例1は、比較例1で用いたものと同様の試験片90を用いて、通常の疲労試験(JIS Z 2273:1978)を行ったものである。図5(b)は、参考例1として実施した通常の疲労試験の試験方法を表す概念図である。
【0067】
参考例1として実施した通常の疲労試験は、フレッティング疲労試験で用いたような接触片92(図5(a)参照)を用いずに行われる点を除き、比較例1として実施したフレッティング疲労試験と同様にして行われた。参考例1で用いた試験片90の製造方法及び形状は、比較例1と同様である。また、参考例1に係る通常の疲労試験では、比較例1に係るフレッティング疲労試験と同様に、図5(b)において矢印97で示す方向に、繰り返し応力が加えられた。繰り返し応力の周波数は、比較例1と同様に、3Hzとした。また、参考例1における繰り返し応力(片振り応力)の最大応力は、250、275、300、325、350、440MPaとし、参考例1では、各最大応力で1回ずつ、計6回の通常の疲労試験を実施した。
【0068】
評価結果
図6は、それぞれ、比較例1、実施例1、及び参考例1に係る評価結果を表すS−N線図である。比較例1(実線)と参考例1(破線)とを比較すると、精密ショットピーニングを施していない試験片90を用いた試験では、フレッティング疲労試験の方が、通常の疲労試験に対して、破壊を生じるまでの繰り返し回数Nが著しく低いことが解る。これは、炭素鋼S45Cで作製された材料の接合面において、フレッティング疲労による疲労強度の低下の方が、フレッティング疲労以外の通常の疲労による疲労強度の低下よりも早く起こり得ることを示している。
【0069】
これに対して、精密ショットピーニングを施した試験片90を用いた実施例1(一点鎖線)は、同じフレッティング疲労試験でありながら、精密ショットピーニングを施していない試験片90を用いた比較例1に対して、破壊を生じるまでの繰り返し回数Nが大きく向上していた。このことにより、炭素鋼S45Cで作製された材料の接合面においてフレッティング疲労が発生し得る場合は、接合面に精密ショットピーニングを施すことにより、大幅な疲労強度の向上を図れることを確認できた。
【0070】
また、精密ショットピーニングによる疲労強度の向上は顕著であり、実施例1(一点鎖線)は、通常の疲労試験である参考例1(破線)よりも、破壊を生じるまでの繰り返し回数Nが大きい。このことは、設計時にフレッティング疲労が想定されていなかったギヤ付きシャフトについて、その後にフレッティング疲労の発生が発見されたような場合にでも、接合面に精密ショットピーニングを施すことにより、ほとんど設計変更を行うことなく、精密ショットピーニングを施さないものについてのフレッティング疲労以外の通常の疲労に対する耐久性能と同等以上の耐久性能を、フレッティング疲労に対して有するギヤ付きシャフトを製造し得ることを表している。
【符号の説明】
【0071】
10…ミキサータンク
12…モータ
14…カップリング
16…減速機
18…アウトプットシャフト
20…インペラー
22…タンク
30…第1シャフト
32…第1軸部
34…Aギヤ部
38,39,48,49,58,59,68,69…ベアリング(軸受け部)
40…第2シャフト
42…第2軸部
42a…B取付部
42b…B取付部外周壁
42c…C取付部
42d…C取付部外周壁
44…Bギヤ部
44a…Bギヤ貫通孔
44b…Bギヤ内周壁
44e…Bギヤ歯面
46…Cギヤ部
46a…Cギヤ貫通孔
46b…Cギヤ内周壁
46e…Cギヤ歯面
50…第3シャフト
52…第3軸部
54…Dギヤ部
56…Eギヤ歯面
60…第4シャフト
62…第4軸部
64…Fギヤ部
90…試験片
90a…平行部
92…接触片
94…押し付け治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部における少なくとも一部の外周壁に精密ショットピーニングを施す工程と、
孔が形成されており外壁の少なくとも一部に歯面を有するギヤ部の内周壁に精密ショットピーニングを施す工程と、
精密ショットピーニングされた前記軸部と前記ギヤ部とを、嵌合により、前記ギヤ部の前記孔に前記軸部の前記外周壁を挿通させた状態で固定する工程と、
を有するギヤ付きシャフトの製造方法。
【請求項2】
精密ショットピーニング施工前における前記軸部の硬さと精密ショットピーニング施工前における前記ギヤ部との硬さの差が、ビッカース硬さで160以内であることを特徴とする請求項1に記載のギヤ付きシャフトの製造方法。
【請求項3】
前記ギヤ部はベベルギヤであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のギヤ付きシャフトの製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載のギヤ付きシャフトの製造方法によって製造されたギヤ付きシャフト。
【請求項5】
請求項4に記載のギヤ付きシャフトを有する減速機と、
前記減速機に動力を伝達するモータと、
前記減速機から動力を伝達されて回転するインペラーを内部に収納するタンクと、を有するミキサータンク。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−172716(P2012−172716A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33196(P2011−33196)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】