説明

クサミズキの栽培方法及びカンプトテシンの製造方法

【課題】カンプトテシンを有利に得る方法の提供。
【解決手段】発酵鶏糞堆肥を施肥し、クサミズキ(Nothapodytes foetida)を栽培し、得られたクサミズキの植物体から、カンプトテシン(CPT)を抽出することを特徴とするカンプトテシンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌剤原料であるカンプトテシン(CPT)が大量に得られる、原料植物の栽培方法及びカンプトテシンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クサミズキ(Nothapodytes foetida)は、亜熱帯産の薬用植物で、次の式で表される抗癌作用を持つカンプトテシンを含有していることはよく知られている(特許文献1参照)。
【0003】
【化1】

【0004】
また、このカンプトテシンから化学構造を変換したCPT-11が抗癌剤として広く用いられるようになり、クサミズキは野生種の採取のみならず、畑での栽培もさかんに行われるようになった。
また、クサミズキ由来のカンプトテシンには、不純物として、デヒドロカンプトテシン(DCPT)が僅かに含まれている。
【0005】
畑でクサミズキを栽培する際、通常よく用いられる化学肥料や牛糞堆肥等を施肥しても、ある程度の成長促進効果はあるが、その程度は無施肥区と比べて1.5〜2重量倍程度であり、著しい効果はなく、肝心なカンプトテシンやデヒドロカンプトテシンの濃度には影響がなかった。
【特許文献1】特公平5−33955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、クサミズキの成長を著しく増進し、しかもカンプトテシン濃度が高く、デヒドロカンプトテシン濃度の低い植物体を得るための栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、発酵鶏糞堆肥を施肥し、クサミズキを栽培すれば、木重量が大きくカンプトテシン濃度が高い植物体が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、発酵鶏糞堆肥を施肥することを特徴とする、クサミズキ(Nothapodytes foetida)の栽培方法を提供するものである。
また、本発明は、発酵鶏糞堆肥を施肥し、クサミズキ(Nothapodytes foetida)を栽培し、得られたクサミズキの植物体から、カンプトテシン(CPT)を抽出することを特徴とするカンプトテシンの製造方法をも提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カンプトテシン含量が多く、しかも、デヒドロカンプトテシン/カンプトテシンの比が小さい植物体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に用いる発酵鶏糞堆肥は、市販のものでも、例えば鶏糞から下記の如くして製造したものでもよい。
発酵鶏糞堆肥の製造法としては、例えば、鶏糞(ブロイラーでもレイヤーでもよい)に、必要によりノコ屑、粉砕木屑、米糠、発酵促進剤等を加え、適当な水分補給(40〜50%が好ましい)と切り替えしを行う方法が挙げられる。堆肥化が十分であるものは、黒色の強い黒褐色を示し、酢酸臭やアンモニア臭等の腐敗臭がない発酵臭を有し、しっとりとしており、ぼろぼろ崩れる感じがないものであるので、これを発酵程度の指標とすることが好ましい。発酵の期間は、約三ヶ月である。
発酵鶏糞堆肥の使用量は、特に限定されないが、1m2当たり1.2〜1.6kgが好ましく、得に、1.35〜1.45kgが好ましく、鉢植えの場合は、土1kgに対し、7〜8gが好ましく、特に7.3〜7.5gが好ましい。
【0011】
クサミズキの栽培方法は、発酵鶏糞堆肥を用いる以外は特に限定されず、常法により栽培できる。
好ましい栽培方法としては、例えば、クサミズキの苗を育成し、これを発酵鶏糞堆肥を施肥した土に植え、育成すればよい。施肥の時期は、植え付け前1ヶ月〜植え付け後5年が好ましいが、特に指定する時期はない。施肥の回数は、植え付け前1回と年1回の合計6回〜植え付け前1回と年2回の合計11回が好ましく、栽培期間は1年以上、望ましくは5年以上である。鉢植えの場合は、苗植え付け前1回でもよい。
【0012】
得られたクサミズキからカンプトテシンを抽出する方法としては、メタノール等の水溶性溶媒を用いて抽出する方法や、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ溶液にカンプトテシンを溶解させる方法が知られている(例えば、特公平5−33955号公報)。
また、カンプトテシンは、一般の有機溶媒にとけにくい性質を有するためカンプトテシンをジメチルスルホキシドのような溶解力の強い水溶性溶剤に溶解させる方法もある(例えば、特公平5−33955号公報)。
さらに、カンプトテシンを含むクサミズキからカンプトテシンを抽出する抽出工程と、抽出液を濃縮した液に第1の非水溶性溶媒を投入し樹脂及び葉緑素を溶解すると共にカンプトテシンを析出させる析出工程と、析出したカンプトテシンを吸着媒に吸着させる吸着工程と、吸着媒に吸着させたカンプトテシンを第2の非水溶性溶媒を用いて溶解抽出し、粗カンプトテシンを得る溶解抽出工程と、を含むカンプトテシンの製造方法(特開2003-128676号公報)も挙げられる。
【0013】
抽出方法は特に限定されないが、より詳細な方法として次のような方法が挙げられる。
まず、原料となるクサミズキを伐採し、そのままカンプトテシンを抽出してもよいが、抽出効率を上げるため、原料は細かく破砕されていることが好ましい。原料としては、クサミズキの木が好ましい。
【0014】
原料を溶媒中に入れることによりカンプトテシンが抽出される。この際に用いられる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クメンなどの芳香族炭化水素類、フェノール、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコール、メチレンクロライドなどのハロゲン化アルキルが挙げられるが、カンプトテシンを溶解するものであれば限定されない。当該溶媒としてトルエンやメチレンクロライドなどの非水溶性溶媒を用いてもよい。これらは、単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。これらのうちで、メタノール、トルエン、メチレンクロライドが入手容易であり、しかもカンプトテシンをよく溶解するため好ましい。原料からカンプトテシンを抽出する際は、不純物が比較的多く含まれるため、入手容易かつ安価なメタノールが特に好ましい。
【0015】
クサミズキからカンプトテシンを抽出する際の温度としては、抽出に用いられる溶液にもよるが、例えばメタノールを用いた場合は、10℃から60℃が好ましく、30℃から55℃であれば更に好ましい。その理由は、低温で抽出を行うとカンプトテシンの溶解量が少なく、高温で行うと、樹脂等のカンプトテシン以外の不純物が多く抽出するからである。更に、植物原料に予め水分を持たせることにより、結果的に抽出工程におけるメタノールの含水量が10から30容量%の範囲内にすることが好ましい。
【0016】
原料からカンプトテシンを抽出した後、これをろ過することが好ましい。ろ液にはカンプトテシンが溶解している。この際、ろ過ケークにもカンプトテシンが残されているので、ろ過ケークから再度カンプトテシンを抽出し、ろ液を集めることも好ましい。
【0017】
カンプトテシン抽出液は、液温を高める、減圧するなどして溶媒を蒸発させ、カンプトテシンの濃度を上昇させることが好ましい。カンプトテシンの濃度が高まると、カンプトテシンの微細結晶が析出してくる。
【0018】
このようにして得られたカンプトテシンは、常法により、精製等を行えば抗癌剤の原料等とすることができる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を、実施例等を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等になんら限定されるものではない。
【0020】
実施例1
下記表1に示す、発酵鶏糞堆肥(実験番号7,8)、その他の市販の肥料(実験番号2〜6)及び無施肥(実験番号1)の条件下、クサミズキを栽培した。
【0021】
【表1】

【0022】
このうち、実験番号8の「自作の鶏糞堆肥*1」は、下記表2に示す処方で下記製造方法により製造したものである。
【0023】
【表2】

【0024】
「自作の鶏糞堆肥」製造方法
1)上記処方の原料をよく混合した後、堆肥化用のバッグに詰める。
2)混合物の水分が約50%になるように加水する。
3)そのまま放置し、5日に一度加水する。
4)1月に1度切り替えしを2度行い、その後一ヶ月は、加水せず放置する。
5)約3ヶ月で完成する。
【0025】
栽培方法
1)直径30cmの鉢に、肥料を加えていない土14kg(水分を含んだ土の比重を0.5とした)を入れ、ここに発芽後3ヶ月を経たクサミズキ苗を植付けた。
2)それぞれの鉢に表1に示す実験番号2〜8の肥料を、窒素分として一鉢当たり3.5gとなるように計算した量を加えた。例えば、実験番号2の「IB化成S−1号」ならば35g、実験番号7の「豊作有機」ならば95gとした。1つの肥料区は3鉢とした。
3)それぞれの鉢を6ヶ月栽培後、成長した地上部の木全ての重量を測定した。また、木全てを乾燥後、微粉砕したもののカンプトテシン(CPT)及びデヒドロカンプトテシン(DCPT)の含量を測定した。抽出、測定方法は、以下のようにした。
【0026】
1.サンプリング方法
(1)サンプリング頻度はロット番号が異なるごとに、同一ロッド内ではフレコン個数をn個とした場合、√n−1個を等間隔で行う。
(2)粉砕物の入っているフレコンバッグ上面の開口部を開ける。
(3)上部開口部分中心直下の粉砕物表面と表面から30cm掘り下げた部分から、約25cm3(約8g)の粉砕物を採取する。また、バッグを転倒させた後、下部開口部を同様に広げ表面と表面から30cm掘り下げた部分から同量の粉砕物を採取する。
(4)4種類のサンプル全てを卓上粉砕機に投入する。
【0027】
2.卓上粉砕機での微粉砕方法
卓上微粉砕機(大阪ケミカル株式会社製のワンダーブレンダー WB−1)に投入したNPF粉砕物は、40秒〜1分程度、微粉砕化し、約100〜200μmの大きさにする。
【0028】
3.メチルセルソルブによる抽出方法
(1) 微粉砕したNPFの0.1gを1サンプルにつき2回づつ試験管に正確に秤量する。
(2)精製水1mLを加えた後に攪拌し、その後5分間の超音波処理を行う。
(3)メチルセロソルブ4mLを加えてスパーテルなどで攪拌する。
(4) 80℃で20分間ブロックヒーターで加熱し、5分毎にスパーテルなどで攪拌する。
(5)20分後、ブロックヒーターから取り出し、よく攪拌した後3000回転で30分遠心分離し、この上清についてHPLCで分析を行う。
【0029】
4.HPLC分析方法
(1)規格試験法を使用し、面積測定範囲は20分とする。
(2)測定項目はCPT、DCPT、9MCP含量とする。
HPLC測定条件
カラム :Develosil C30-UG-3 4.6×75mm
移動相 :MeCN/2%ギ酸/MeOH=10/65/25
カラム温度 :45℃
注入量 :10μL
流速 :2.0mL/min
検出 :254nm
【0030】
結果
以上の栽培の結果を表3及び表4に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
実験区7と8(本発明)の発酵鶏糞堆肥施肥区の木重量は肥料無施肥区と比べ2.4倍以上になっていたが、他の肥料区は1.5倍〜2倍の範囲内であった。
実験区7と8(本発明)の発酵鶏糞堆肥施肥区のCPT含量は、0.26%以上と肥料無施肥区と比べ2倍以上になっていたが、他の肥料区は肥料無施肥区よりやや多い程度であった。
デヒドロカンプトテシンの含量は全ての実験区でほぼ同じであったが、実験区7と8(本発明)の発酵鶏糞堆肥施肥区のカンプトテシン含量が高いため、デヒドロカンプトテシンに対するカンプトテシンの割合は他の施肥区と比べ相対的に低くなる。これは目的物であるカンプトテシンの抽出、精製には有利となる。
【0034】
実施例2
実施例1により、発酵鶏糞堆肥施肥を行った本発明方法が、その他の市販肥料施肥を行ったものより、有利にカンプトテシンを得られることが分かったので、次に、同じ有機肥料である牛糞堆肥を対照として、実際の畑で栽培試験を行った。
【0035】
10000m2の畑を2区に分け、それぞれに窒素が263kgとなるように、牛糞堆肥25000kg、鶏糞堆肥7100kgを散布後、畑をよく耕し、約1ヶ月後に発芽後6ヶ月を経過し高さ50cm程になったクサミズキ苗を植えつけた。それぞれの畑の木を定期的に、木重量並びにカンプトテシン及びデヒドロカンプトテシン含量を測定した。結果を表5に示す。また、表5中のカンプトテシン(CPT)%は図1にも示す。
【0036】
【表5】

【0037】
上記表から、本発明方法によれば、牛糞を施肥した比較例に比べて、カンプトテシン含量、木重量が共に大きいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、カンプトテシン含量及び木重量が多く、かつデヒドロカンプトテシンに対するカンプトテシンの割合は低いハナミズキが得られ、これは、純度の高いカンプトテシンを多量に得るために有利である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】鶏糞堆肥と牛糞堆肥を用いた場合のカンプトテシン濃度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵鶏糞堆肥を施肥することを特徴とする、クサミズキ(Nothapodytes foetida)の栽培方法。
【請求項2】
発酵鶏糞堆肥を施肥し、クサミズキ(Nothapodytes foetida)を栽培し、得られたクサミズキの植物体から、カンプトテシン(CPT)を抽出することを特徴とするカンプトテシンの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−137860(P2007−137860A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−337056(P2005−337056)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(000006884)株式会社ヤクルト本社 (132)
【Fターム(参考)】