説明

クジラ目生物探知機

【課題】クジラやイルカなどのクジラ目生物の存在の有無および方角を探知し、その生物の種類を特定して種類名称を表示する、クジラ目生物探知機を提供する。
【解決手段】クジラ目生物の発する超音波の波形情報を生物の種類毎のデータベースとして持ち、超音波マイクを設け、受信した超音波の波形情報を前記データベースと照合し、その照合での合致の有無によりクジラ目生物の存在の有無を探知する。超音波マイクとして指向性があるものを採用し、超音波の発信源であるクジラ目生物の存在する方角を特定する。前記データベースにクジラ目生物の種類名称の項目を持たせ、照合結果として、合致した生物の種類名称をも出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クジラやイルカなどのクジラ目生物の存在の有無および方角を探知し、その生物の種類を特定して種類名称を表示する、クジラ目生物探知機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、クジラ目生物の存在の有無および方角を探知するには、次のような方法が採られていた。
(イ)水上からの目視による探知方法。
(ロ)水中での目視による探知方法。
(ハ)魚群探知機を使用し、超音波の反射物の大きさ、密度(固さ)、動きから判断する探知方法。
【0003】
また、クジラ目生物の種類を特定するには、対象生物の姿から判断する方法が採られていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の背景技術には、次のような問題点があった。
【0005】
(イ)水上からの目視による探知方法では、クジラ目生物が水中に潜行し続けている場合には、その生物の姿が見えず、その存在を探知できなかった。また、気象などによる水上の視界の悪化に影響され易かった。
【0006】
(ロ)水中での目視による探知方法では、水中の透視度に影響され易く、また、数十メートル先程度までしか見通すことができず、場所を移動せずに行える探知の範囲が狭かった。
【0007】
(ハ)魚群探知機による探知方法では、対象物の形や色が判らないため、クジラ目生物以外の生物や物質をクジラ目生物であるかのように誤認してしまう場合があった。生物の種類を特定することも困難であった。また、魚群探知機は能動的に超音波を発するため、その超音波を聞くことのできるクジラ目生物への悪影響が懸念されていた。
【0008】
また、クジラ目生物の種類を姿から特定する方法では、対象生物の姿が十分確認できる必要があり、クジラ目生物に関する知識も必要であった。
【0009】
本発明は、以上の問題点を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるクジラ目生物探知機は、クジラ目生物の発する超音波の波形情報を生物の種類毎のデータベースとして持ち、超音波マイクを設け、受信した超音波の波形情報を前記データベースと照合し、その照合結果を出力することを特徴とし、前記照合での合致の有無によりクジラ目生物の存在の有無を探知する。
【0011】
前記超音波マイクとして指向性があるものを採用し、その超音波マイクの向いている方角を基に、超音波の発信源であるクジラ目生物の存在する方角を特定するように構成されていてもよい。
【0012】
前記データベースがクジラ目生物の種類名称の項目を含み、前記照合結果の出力内容が前記種類名称を含むように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以下のような効果がある。
【0014】
(1)目視に頼らないため、対象のクジラ目生物が水中に潜行し続けていても探知することができ、水上の視界や、水中の透視度の影響を排除することができる。また、水中においては光よりも超音波の方が到達距離が長いため、場所を移動せずに行える探知の範囲が広がる。
【0015】
(2)クジラ目生物の発する超音波の波形情報を判定に利用しているため、外見が似ているなどの理由によりクジラ目生物以外の生物や物質をクジラ目生物であるかのように誤認してしまうことを防ぐことができる。
【0016】
(3)本発明は超音波を発しないため、クジラ目生物への悪影響を排除することができる。
【0017】
(4)指向性のある超音波マイクを採用することで、超音波マイクの向いている方角を基に、超音波の発信源であるクジラ目生物の存在する方角を特定することができる。
【0018】
(5)特定したクジラ目生物の種類名称を表示することで、クジラ目生物の知識を持たない人でもその種類名称を知ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の一形態について図面を参照して説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施の一形態におけるクジラ目生物探知機の構成を示すブロック図である。超音波マイク101は、受信した超音波の振幅を電気信号に変換し、アナログ信号201として出力する。信号増幅器102は、信号処理を容易にするためにアナログ信号201を信号増幅し、増幅済みアナログ信号202として出力する。バンドパスフィルタ103は、増幅済みアナログ信号202を入力し、クジラ目生物の発する周波数帯域である20KHz〜160KHzのみを通過させ、濾波済みアナログ信号203として出力する。
【0021】
A/D(アナログ/デジタル)変換器104は、濾波済みアナログ信号203を入力し、その信号振幅を標本化・量子化する。マイコン107は、バス204を介して、A/D変換器104に対して任意のタイミングで前記標本化・量子化を起動することができ、また、A/D変換器104から前記標本化・量子化されたデータを読み出すことができる。
【0022】
データベースROM105は、クジラ目生物の発する超音波の波形情報および生物の種類名称を、予め生物の種類毎にデータベース化して格納したROM(Read Only Memory)である。マイコン107は、バス204を介して、データベースROM105の内容を読み出すことができる。
【0023】
表示器106は、マイコン107からバス204を介して与えられた情報を表示する。
【0024】
バッテリー108は、電源ライン205を通して、信号増幅器102、バンドパスフィルタ103、A/D変換器104、データベースROM105、表示器106、マイコン107に、電力を供給する。
【0025】
防水容器109は、本発明によるクジラ目生物探知機を水中でも使用可能とするための密閉容器であり、表示器106の表示内容が外側から読み取れるように透明のアクリル樹脂で構成されている。防水窓110は、防水容器109に取り付けられた窓であり、超音波などの音波は通すが水は通さないような柔らかい膜状のポリエチレンで構成され、超音波マイク101の前面に配置されている(後述)。
【0026】
図2は、図1で示したクジラ目生物探知機の超音波マイク101周辺の断面図である。超音波マイク本体101aは、超音波マイク101の本体部分である。超音波マイク開口部101bは、超音波マイク101において超音波を取り込む面である。超音波マイク端子101cは、超音波マイク101としての出力端子であり、信号増幅器102に接続されている。防水窓110は、超音波を通すために防水容器109に取り付けられた窓であり、超音波マイク開口部101bの前面に配置されている。超音波マイク101は指向性があり、受信可能角度101dの内側から飛来する超音波は受信するが、その外側から飛来する超音波は受信しない。
【0027】
図3は、図1で示したクジラ目生物探知機のデータベースROM105に予め格納されるデータベースの構成図である。本データベースは複数のレコードで構成されている。前記レコードは、クジラ目生物の種類毎となっており、クジラ目生物の発する超音波の波形情報の項目、およびその生物の種類名称の項目で構成されている。なお、格納する前記波形情報の一例として、波形の標本化・量子化データ、周波数、周波数の変化量、振幅の変化量、発生と休止の時間間隔が挙げられるが、本実施の一形態では周波数のみとしている。
【0028】
図4は、図1で示したクジラ目生物探知機のマイコン107の動作を示すフロー図である。マイコン107は、受信した超音波を標本化・量子化する処理を実行し(ステップS1)、ステップS1で得られた標本化・量子化データ群をフーリエ変換し、受信した超音波の周波数を算出する(ステップS2)。そしてマイコン107は、前記ステップS2で算出した周波数を、データベースROM105と照合する処理を実行し(ステップS3)、照合の結果、合致するレコードが有れば(ステップS4の有)文字列“存在有り”および合致したレコードの生物の種類名称を表示器106へ出力し(ステップS5)、合致するレコードが無ければ(ステップS4の無)文字列“存在無し”を表示器106へ出力する(ステップS6)。そしてマイコン107は、ステップS1からの処理を繰り返し実行する。
【0029】
図5は、図4で示した、受信した超音波を標本化・量子化する処理(ステップS1)を示すフロー図である。マイコン107は、A/D変換器104に対して標本化・量子化を起動し(ステップS11)、3マイクロ秒の待ち合わせを行い(ステップS12)、A/D変換器からの標本化・量子化データを読み出す(ステップS13)。そしてマイコン107は、1個の標本化・量子化データの取得(ステップS11、S12、S13)を10000回繰り返し終えていなければ(ステップS14のNO)ステップS11からの処理を行い、繰り返し終えていれば(ステップS14のYES)本処理を終了する。なお、ステップS12の3マイクロ秒は、160KHz(クジラ目生物の発する超音波の周波数上限)の2倍を標本化周波数としたときの標本化周期である。以上のようにして、マイコン107は10000個の一連の標本化・量子化データ群を得る。
【0030】
図6は、図4で示した、算出した周波数をデータベースと照合する処理(ステップS3)を示すフロー図である。マイコン107は、比較対象のレコードをデータベース先頭のレコードとし(ステップS21)、ステップS2で算出した周波数と比較対象のレコードの周波数とを比較し(ステップS22)、周波数の差が±3%以内であれば(ステップS23のYES)照合の結果を合致レコード有として(ステップS25)処理を終了し、差が±3%以内でなければ(ステップS23のNO)全てのレコードについて比較し終えたかの判定(ステップS24)を行う。そしてマイコン107は、全てのレコードについて比較し終えていれば(ステップS24のYES)照合の結果を合致レコード無として(ステップS26)処理を終了し、比較し終えていなければ(ステップS24のNO)比較対象を次のレコードとし(ステップS27)、ステップS22からの処理を行う。
【0031】
図7は、図1で示したクジラ目生物探知機の使用状態を説明する図である(ただし図1記載の一部のブロックについては図示省略)。本発明によるクジラ目生物探知機を使用するときは、操作者が手に持つなどして、主に水中で使用する。超音波マイク101が任意の方角を向くようにするには、本発明によるクジラ目生物探知機自体の向きを操作者が手などで変更して行う。
【0032】
まず操作者は、超音波マイク101を任意の方角へ向ける。その向けた方角にクジラ目生物302が存在しており、そのクジラ目生物302の発した超音波303が防水窓110を通して超音波マイク101に受信されるとき、前述の本発明の仕組みにより、クジラ目生物302の存在を示す“存在有り”という文字列、およびその生物の種類名称が表示器106に表示される。このため操作者は、その表示された生物の種類名称を持つクジラ目生物302の存在を知ることができる。また、超音波マイク101は指向性があるため、そのクジラ目生物302が存在する方角は、超音波マイク101の向いている方角であると、操作者は特定することができる。
【0033】
もし、表示器106に“存在無し”と表示された場合には、何れのクジラ目生物の存在を確認できなかったと操作者は判断できる。この場合には、超音波マイク101を別の任意の方角へ向けて、同様に探知を続行してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の一形態におけるクジラ目生物探知機の構成を示すブロック図である。
【図2】図1で示したクジラ目生物探知機の超音波マイク周辺の断面図である。
【図3】図1で示したクジラ目生物探知機のデータベースROMに予め格納されるデータベースの構成図である。
【図4】図1で示したクジラ目生物探知機のマイコンの動作を示すフロー図である。
【図5】図4で示した、受信した超音波を標本化・量子化する処理(ステップS1)を示すフロー図である。
【図6】図4で示した、算出した周波数をデータベースと照合する処理(ステップS3)を示すフロー図である。
【図7】図1で示したクジラ目生物探知機の使用状態を説明する図である。
【符号の説明】
【0035】
101 超音波マイク
101a 超音波マイク本体
101b 超音波マイク開口部
101c 超音波マイク端子
101d 受信可能角度
102 信号増幅器
103 バンドパスフィルタ
104 A/D変換器
105 データベースROM
106 表示器
107 マイコン
108 バッテリー
109 防水容器
110 防水窓
201 アナログ信号
202 増幅済みアナログ信号
203 濾波済みアナログ信号
204 バス
205 電源ライン
301 水面
302 クジラ目生物
303 超音波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クジラ目生物の発する超音波の波形情報をデータベースとして持ち、超音波マイクを設け、受信した超音波の波形情報を前記データベースと照合し、その照合結果を出力することを特徴とするクジラ目生物探知機。
【請求項2】
超音波マイクとして指向性があるものを採用し、超音波の発信源であるクジラ目生物の存在する方角を特定する請求項1記載のクジラ目生物探知機。
【請求項3】
データベースにはクジラ目生物の種類名称の項目を含み、照合結果の出力内容には前記種類名称を含む請求項1記載のクジラ目生物探知機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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