説明

クッション材支持機構及びシート

【課題】シートバックがリクライニングしない固定式のものにおいて、通常姿勢と休息姿勢(通常の後傾姿勢に相当)をとることができるようにする。
【解決手段】クッションフレーム30に、シートクッション用クッション材200を支持するクッション材支持機構300が設けられ、クッション材支持機構300が、シートクッション用クッション材200を支持したままで、後方斜め上方と前方斜め下方との間でスライドするように設定されたスライドフレーム310を有している。スライドフレーム310が前方斜め下方にシートクッション用クッション材200を支持した状態でスライドするため、座面角度は変化しない。座面角度が変化しないにもかかわらず、シートクッション用クッション材200が前方に移動するため、着座者のトルソーアングルが大きくなり、実質的に従来のシートバックを後傾させた場合と同様の姿勢となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロアに、前後に所定間隔毎に複数設置される際に用いられるシートに適用されるクッション材支持機構及び該クッション材支持機構を備えたシートに関し、特に、航空機、列車、船舶、バスなどの自動車などの乗物におけるシートに適用され、さらには、映画館や劇場などにおいて用いられるシートにも適用可能なクッション材支持機構及び該クッション材支持機構を備えたシートに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機などにおいては複数の座席を縦列方向にも相当数連設し、限られたスペース内で所定数の座席を配置している。従って、各乗客の着座スペースも所定の大きさに限定されており、特に、前席においてシートバックをリクライニングさせて後傾させると、後席の着座者の脚を配置するスペースが大きく制限され、快適性を損なうという問題がある。このため、航空機などにおいては、乗客の快適性を向上させるに当たって、前席との間の脚配置スペースを含む着座スペースをより広く確保するための工夫が求められている。この点に鑑み本出願人は、特許文献1,2として、クッションフレームを後方位置と前方位置との間で変位可能とすることで、バックフレームを後傾させずに通常姿勢、休息姿勢をとることができ、後席の脚配置スペースを含む着座スペースを制限しない座席構造を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−181617号公報
【特許文献2】特開2007−236554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2の構造によれば、バックフレームを後傾させずに、休息姿勢にすることができるが、クッションフレームが前方位置にあるときには、クッションフレームの座面角度が、後方位置にあるときよりも大きくなる構造である。このため、休息姿勢にした場合に、大腿部の傾斜角度(サイアングル)が大きくなり、使用者によっては腹部に圧迫を感じることがあった。また、通常姿勢から休息姿勢に移行する際、着座者は、脚を踏ん張って臀部を前方に押し出すようにするが、特許文献1,2の場合、座面角度が大きくなる方向となるため、臀部を前方に押し出すのに所定の力が必要である。
【0005】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、シートバックがリクライニングしない固定式のものにおいて、通常姿勢と休息姿勢(通常の後傾姿勢に相当)をとることができ、しかも、休息姿勢をとった際にも腹部の圧迫感を与えることがないと共に、休息姿勢へ移行する際に必要な力を従来よりも小さくできるクッション材支持機構及び該クッション材支持機構を用いたシートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のクッション材支持機構は、バックフレームとクッションフレームとを有すると共に、前記バックフレームがリクライニングしない固定式となっている架台フレームにおいて、シートクッション用クッション材を支持するクッション材支持機構であって、前記シートクッション用クッション材を支持した状態で、後方斜め上方と前方斜め下方との間でスライド可能となるようにスライド方向が設定されたスライドフレームを有することを特徴とする。
【0007】
幅方向に所定間隔をおいて設けられる一対の前記スライドフレームが、前記架台フレームのクッションフレームの一対のサイドフレームのそれぞれに係合されており、前記各サイドフレームに対して前記各スライドフレームが前記スライド方向にスライド可能である構成とすることが好ましい。前記各スライドフレームが、長孔状に開設されたガイド孔を有すると共に、このガイド孔が前下がりとなるように設けられ、前記クッションフレームの各サイドフレームに、前記ガイド孔に案内されて相対変位するガイドピンが設けられていることが好ましい。前記スライドフレームのスライド方向は、前記フロアに平行な面に対する前下がり角度で10度以下の範囲であることが好ましい。
【0008】
前記一対のスライドフレームの後部間に掛け渡された後部連結シャフト又は前記シートクッション用クッション材の後部に、前記バックフレームに支持されるシートバック用クッション材の下端縁が連結されており、前記スライドフレームの変位に応じて、前記シートバック用クッション材の下端縁が変位する構成であることが好ましい。
【0009】
前記架台フレームのクッションフレームの前縁部に、基端部を中心として上下に回動可能な一対のアーム部を備え、このアーム部の先端部間に配置され、大腿部を下方から弾性的に支持する大腿部支持フレームを備えた大腿部支持機構が設けられており、前記各スライドフレームの前端部に基端部を中心として上下に回動可能なスライドアームがそれぞれ連結され、前記スライドフレームのスライドに伴って、前記スライドアームが、前記大腿部支持フレームに対してスライドする構成であることが好ましい。前記大腿部支持機構は、前記架台フレームのクッションフレームの前縁部であって、前記各アーム部の基端部間に配設されたトーションバーにより弾性的に支持されていることが好ましい。
【0010】
また、本発明のシートは、上記いずれかのクッション材支持機構を備えていることを特徴とする。このクッション材支持機構に支持されるシートクッション用クッション材は、直径98mmの加圧板の中心を該シートクッション用クッション材におけるヒップポイント直下に一致させて500Nまで加圧した際の荷重−たわみ特性が、500Nでたわみ量70mm以下であり、たわみ量30mm以下ではバネ定数が5N/mm以下で推移し、たわみ量40mm以上でバネ定数が10N/mm以上で推移する非線形特性を有することが好ましい。前後に所定間隔毎に複数設置されるシートに適用されることが好ましい。特に、本発明のシートは、乗物のフロアに所定間隔毎に設けられるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、バックフレームがクッションフレームとのなす角度が変化しない固定式で設けられている一方、クッションフレームに、シートクッション用クッション材を支持するクッション材支持機構が設けられ、このクッション材支持機構が、シートクッション用クッション材を支持したままで、後方斜め上方と前方斜め下方との間でスライドするように設定されたスライドフレームを有している。つまり、スライドフレームのスライド方向が前下がり方向となるように設定されている。従って、通常姿勢からスライドフレームが前方斜め下方にスライドすると休息姿勢をとることができる。この場合、スライドフレームが前方斜め下方にシートクッション用クッション材を支持した状態でスライドするため、座面角度は変化しない。座面角度が変化しないにもかかわらず、シートクッション用クッション材が前方に移動するため、着座者のトルソーアングルが大きくなり、実質的に従来のシートバックを後傾させた場合と同様の姿勢となる。また、休息姿勢となっても座面角度が変化せず、サイアングルが大きくならないため、トルソー−サイアングル(トルソーラインと大腿部とのなす角)が大きくなり、腹部に圧迫を感じさせることもなくなる。
【0012】
また、通常姿勢から休息姿勢に変化する際のスライドフレームのスライド方向が前下がり方向であるため、前方にスライドさせるために着座者が臀部を前方に押し出す力は従来と比較して小さくてよく、操作が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の一の実施形態に係るシートを正面側から見た外観斜視図である。
【図2】図2は、図1のシートのフレーム構造を示した図である。
【図3】図3は、上記実施形態に係るシートの要部分解斜視図である。
【図4】図4(a)は、通常位置におけるシートクッション用クッション材、クッション用支持機構の状態を示した図であり、図4(b)は、休息姿勢(リクライニング姿勢)におけるシートクッション用クッション材、クッション用支持機構の状態を示した図である。
【図5】図5(a)は、通常位置におけるクッション用支持機構の状態を示した図であり、図5(b)は、図の左側のシートが休息姿勢(リクライニング姿勢)となっている場合のクッション用支持機構の状態を示した図である。
【図6】図6(a)は、通常位置におけるシートクッション用クッション材、クッション用支持機構、シートバック用クッション材及び着座者の状態を示した図であり、図6(b)は、休息姿勢(リクライニング姿勢)におけるシートクッション用クッション材、クッション用支持機構、シートバック用クッション材及び着座者の状態を示した図である。
【図7】図7は、本実施形態のシートと従来のファーストクラスの航空機のシートについて、直径98mmの加圧板により加圧した際の荷重−たわみ特性を示した図である。
【図8】図8は、指尖容積脈波により算出した疲労度の時間変化を示した図である。
【図9】図9は、ふくらはぎ表面血流量の時間変化を示した図である。
【図10】図10は、指尖容積脈波のウェーブレット解析により求めたHF・LF/HF成分変動を示した図である。
【図11】図11は、脳波分布率の時間変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に示した実施形態に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。図1は、本発明の一の実施形態に係るシート(航空機の客室用座席)1の外観を正面側から見た斜視図であり、図2はシートクッション用クッション材400の表層クッション材420及びシートバック用クッション材200を取り外したシート1のフレーム構造を示した図である。
【0015】
図2に示したように、シート1の架台フレーム10は、バックフレーム20とクッションフレーム30とを有しており、これらは脚部フレーム40により乗物のフロアに固定されている。バックフレーム20は、リクライニングしない固定式、すなわち、クッションフレーム30とのなす角度が変化しないように設けられている。
【0016】
クッションフレーム30には、クッション材支持機構300が設けられる。クッション材支持機構300は、クッションフレーム30の幅方向に所定間隔をおいて、クッションフレーム30の各サイドフレーム31,31の上部に設けられた一対のスライドフレーム310,310を有している。
【0017】
スライドフレーム310,310は、図2及び図3に示したように、前端付近と後端付近とに2つの長孔状のガイド孔311,312が開設されている。一方、クッションフレーム30の各サイドフレーム31,31の前後には所定間隔をおいて上方に突出するブラケット313a,314aが取り付けられており、このブラケット313a,314aにガイドピン313,314が取り付けられ、このガイドピン313,314が上記したガイド孔311,312に係合し、ガイドされるようになっている。
【0018】
ここで、サイドフレーム31,31は、それらの上縁が側面視で水平ではなく、後部位置が高く、前部位置が低くなるように形成されている(図4参照)。このため、ブラケット313a,314aに取り付けられたガイドピン313,314も後部に位置するガイドピン314の位置が、前部に位置するガイドピン313よりも高い位置となっている。これにより、これらのガイドピン313,314にガイド孔311,312が係合するスライドフレーム310,310は、側面視で前下がりに傾斜して設けられる。そのため、長孔状のガイド孔311,312も、結果的に、側面視で前下がりに傾斜して設けられる。これにより、スライドフレーム310,310は、後方斜め上方と前方斜め下方との間でスライドすることになる。すなわち、スライドフレーム310,310が前方に移動する際には前下がり方向となる。この前下がり角度(図6(a)のフロアとの平行面に対する角度)θ1は、10度以下が好ましく、さらには、2〜8度の範囲がより好ましく、3〜6度の範囲が最も好ましい。なお、スライドフレーム310,310を後方斜め上方と前方斜め下方との間でスライドできれば構造はこれに限るものではなく、例えば、サイドフレーム31,31の上縁が傾斜していることは必須ではない。
【0019】
サイドフレーム31,31の内側面には、それぞれロック用爪315,315が付設されている(図3,図6参照)。ロック用爪315,315は、前端部間が連結ロッド316により連結されている。ロック用爪315,315の後端部付近には、上縁部から下方に向かって切り欠かれたロック溝315a,315aが設けられており、このロック溝315a,315aに、スライドフレーム310,310に下方に向かって取り付けられたブラケット317a,317aに設けられたロックピン317,317が係合することによりロックされる。連結ロッド316の一端側には、ロック解除用レバー318が連結されており、このロック解除用レバー318を上動させると、ロック用爪315,315の後端部側が下方に下がり、ロック用爪315,315からロックピン317,317が離脱する。ロックピン317,317がロック溝315a,315aから離脱した状態で、臀部を前方に動かすと、ロックピン317,317は、ロック用爪315,315の上縁部315b,315bに沿って前方に移動する。一方、着座者が立ち上がると、ロックピン317,317は所定量後方に移動すると、ロック溝315a,315a内に落ち込み、それにより、再びロックがなされることになる。すなわち、ロックピン317,317には、リターンスプリング319の一端が係合されており、このリターンスプリング319の他端が、架台フレーム10の後部付近、例えば、サイドフレーム31の後端部に係合されている。これにより、着座者が立ち上がると、ロックピン317,317は後方に移動する。
【0020】
ここで、本実施形態においてはクッションフレーム30の前縁部に大腿部支持機構を備えている。大腿部支持機構は、具体的には、前縁部に位置する前縁フレーム32に所定間隔をおいて付設されたブラケット32a,32a間に支持されたトーションバー35と、トーションバー35の両端に連結されたアーム部36,36と、該アーム部36,36の先端部間に配置された大腿部支持フレーム37とを備えて構成されている。これにより、トーションバー35の弾性力によって、大腿部支持フレーム37が常に、着座者の大腿部を下方から上方に付勢するように支持している。トーションバー35の弾性力は、大腿部を下方から付勢することにより着座姿勢に安定感を付与すると共に、振動吸収、衝撃吸収にも寄与する。なお、アーム部36,36と大腿部支持フレーム37とは、別部材を連結するのではなく、略コ字状に形成した一体のフレームとすることもできる。
【0021】
上記した大腿部支持機構をクッションフレーム30の前縁部に有しているため、各スライドフレーム310,310の前端部310a,310aには、スライドアーム320,320が設けられている。スライドアーム320,320の基端部320a,320a間には、前部連結シャフト331が挿通され、この前部連結シャフト331の各端部が各スライドフレーム310,310の前端部310a,310aに連結され、これにより、スライドアーム320,320は上下に回動可能になっている。スライドアーム320,320には前後方向に沿って長孔321,321が形成されている。そして、この長孔321,321内に上記した大腿部支持フレーム37を挿通し、アーム部36,36が長孔321,321の外側に位置するように設けることで、スライドフレーム310,310が前後方向へスライドすると、それに伴って、スライドアーム320,320が大腿部支持フレーム37に対して前後方向にスライドする。
【0022】
スライドアーム320,320間には、扁平な略筒状に形成されたカバーアーム330が設けられている。カバーアーム330の中空部330aも、側面視で長孔状に設けられ、該中空部330a内にも大腿部支持フレーム37が挿通される。カバーアーム330の各端部は、スライドアーム320,320に連結され、スライドアーム320,320間の距離を保つと共に、所定の強度を確保している。
【0023】
クッション材支持機構300には、シートクッション用クッション材400が支持される(図6参照)。シートクッション用クッション材400は、スライドフレーム310,310の後端部310b,310b間に設けられた後部連結シャフト332(図3参照)と上記した前部連結シャフト331との間に掛け渡された二次元ネット材や三次元立体編物からなるベースネット410と、このベースネット410の上部であって、後縁部が後部連結シャフト332に支持され、前縁部がスライドアーム320,320間のカバーアーム330を上面側から下面側に被覆するように支持される表層クッション材420とを有して構成される。これにより、スライドフレーム310,310の後方斜め上方と前方斜め下方との間でのスライドに伴って、シートクッション用クッション材400も同方向にスライドする。なお、表層クッション材420は、三次元立体編物、発泡ウレタン、ビーズ発泡体等のうちのいずれか1種、あるいは、これらの2種以上の積層体等から構成される。
【0024】
ここで、シートクッション用クッション材400は、図7で示した特性を有するものが好ましい。すなわち、荷重500Nでたわみ量70mm以下であり、たわみ量30mm以下ではバネ定数が5N/mm以下で推移し、たわみ量40mm以上でバネ定数が10N/mm以上で推移する非線形特性を有するものであるが、詳細については後述する。
【0025】
バックフレーム20には、シートバック用クッション材200が支持される。シートバック用クッション材200は、バックフレーム20の上部フレーム21と上記したスライドフレーム310,310の後端部310b,310b間に設けられた後部連結シャフト332との間に掛け回されるベースネット210とこのベースネット210を被覆する表層クッション材220とを備えて構成される。ベースネット210が、後部連結シャフト332に連結されているため、スライドフレーム310,310が前方への移動に応じて、ベースネット210の下部が前方にせり出てくる(図6(b)参照)。なお、表層クッション材220はベースネット210の動きに追随するように、ベースネット210に縫製等により連結されている。また、シートバック用クッション材200のベースネット210の下縁部は、上記した後部連結シャフト332ではなく、シートクッション用クッション材400のベースネット410自体に縫製等により連結してもよい。
【0026】
次に、本実施形態の作用を説明する。通常姿勢では、図4(a)、図5(a)、図6(a)に示したように、クッション材支持機構300のスライドフレーム310及びスライドアーム320、並びに、シートクッション用クッション材400が、いずれも、最も後方に位置している。すなわち、図6(a)に示したように、スライドフレーム310のガイドピン313,314がガイド孔311,312内で最も後方に位置し、ロックピン317がロック用爪315のロック溝315aに係合してロックされている。この姿勢で、着座者が脚部を伸ばすと、スライドアーム320及びカバーフレーム330が大腿部支持フレーム37の弾性力に抗して下方に回動する。このとき、大腿部支持フレーム37は、スライドアーム320の長孔321及びカバーアーム330の中空部330aの前方に位置しているため、トーションバー35から、スライドアーム320及びカバーアーム330の前端縁までの距離が近いため、トーションバー35による弾性力を相対的に硬めに感じ、大腿部をしっかり支持し、相対的にアップライトな通常姿勢の維持を行いやすくする。
【0027】
通常姿勢から休息姿勢(リラックス姿勢)に移行する際には、図4(b)に示したように、ロック解除用レバー318を上方に引く。それにより、ロック用爪315の後端部が下降し、ロック溝315aからロックピン317が離脱する。その状態で着座者が臀部を前方にずらすと、ロックピン317は、ロック用爪315の上縁部315bに沿って前方斜め下方に向かって移動する。それに伴って、シートクッション用クッション材400も前方斜め下方に向かってスライドする。
【0028】
大腿部支持フレーム37が、スライドアーム320の長孔321及びカバーアーム330の中空部330aの後方に至り、スライドフレーム310のガイド孔311,312内でガイドピン313,314の後方に至ると、前方斜め下方に向かってのスライドが停止する。スライドフレーム310が前下がりに傾斜しているため、臀部を前方に押し出す力が従来よりも小さな力で容易にスライドさせることができる。
【0029】
この際、シートバック用クッション材200がスライドフレーム310と共に前方にせり出す。これにより、着座者の臀部、骨盤、腰部が前方にスライドしても臀部から腰部にかけての部分を後ろから支え、休息姿勢(リラックス姿勢)を安定して支持できる。また、最も前方斜め下方に位置した際には、図6(b)に示したように、サイアングルは変化しないものの、トルソーアングルは通常位置よりも大きくなる。サイアングルが変化せず、トルソーアングルのみが変化するため、両者間の角度であるトルソー−サイアングルが大きくなり、腹部の圧迫を感じることなく、休息姿勢に移ることができる。
【0030】
休息姿勢では、大腿部支持フレーム37がスライドアーム320の長孔321及びカバーアーム330の中空部330aの後方に位置しているため、トーションバー35から、スライドアーム320及びカバーアーム330の前端縁までの距離が通常位置よりも相対的に遠くなる。このため、トーションバー35による弾性力を相対的に柔らかめに感じ、リラックス姿勢に適した支持感が得られる。
【0031】
休息姿勢において、臀部を後方に移動させるか、あるいは、立ち上がりにより臀部をシートクッション用クッション材400から離間させる。これにより、ロックピン317は、リターンスプリング319の復帰力により、ロック用爪315の上縁部315bに沿って後方に向かって移動し、それにより、スライドフレーム310が後方に自動的に移動する。所定量後方に移動すると、ロック用爪315の後端部付近に上縁部から下方に向かってロック溝315aが切り欠かれているため、ロックピン317がロック溝315a内に特別な外力を付与しなくても落ち込み、通常姿勢位置でのロックがなされる。
【0032】
(試験例)
図7は、本実施形態のシート1について、通常姿勢(アップライト姿勢:図6(a)の状態)と休息姿勢(リラックス姿勢:図6(b)の状態)に対応するようにクッション材支持機構300及びシートクッション用クッション材400を設定して、直径98mmの加圧板の中心を該シートクッション用クッション材400におけるヒップポイント直下に一致させて500Nまで加圧した際の荷重−たわみ特性である。また、航空機に採用されている従来のファーストクラス座席(1stクラス座席)についても同様の測定を行い、その荷重−たわみ特性を図7に示した。なお、図7の「臀部筋肉特性」は、直径98mmの加圧板で100Nまで人の臀部を加圧した際の荷重−たわみ特性を示す代表的なデータである。
【0033】
図7から、いずれも、臀部筋肉特性と同様の傾きを有しているが、荷重120Nを超えた付近からのたわみ方に大きな差があった。
【0034】
すなわち、本実施形態のシート1では、「アップライト」及び「リラックス」共に、荷重500Nでたわみ量70mm以下、好ましくは65mm以下であり、たわみ量30mm以下ではバネ定数が5N/mm以下、好ましくは1〜5N/mmの範囲で推移し、たわみ量40mm以上でバネ定数が10N/mm以上、好ましくは10〜20N/mmの範囲で推移する非線形特性を有している。これに対し、従来の1stクラス座席では、荷重500Nのたわみ量が約75mmであると共に、たわみ量60mm付近までバネ定数が5N/mmと低いままで、本実施形態よりもストロークが大きいことがわかる。
【0035】
図8〜図11は、30歳代の健康な男性被験者2名が、本発明のシート1にアップライト姿勢とリラックス姿勢で着座した場合、及び、従来の1stクラス座席に基本姿勢(リラックス姿勢)で着座した場合の、疲労度、ふくろはぎの表面血流量、HF・LF/HF成分変動、脳波分布率を示したものである。
【0036】
なお、指尖容積脈波は、指尖容積脈波収集装置((株)アムコ製フィンガークリッププローブSR-5C)で計測し、疲労度は、指尖容積脈波のパワー値の積分値(本出願人提案の国際公開番号:WO2005/039415号公報参照)と官能評価手法に基づいて求めた。官能評価は積分筋電図と相関性の高いBorgの指標を用いた。ふくらはぎの表面血流量は血流量収集装置((株)サイバーファーム製レーザー血流計CDF-2000)で計測した。
【0037】
図8に示した指尖容積脈波により算出した疲労度の時間変化を見ると、本実施形態のアップライト姿勢とリラックス姿勢の疲労の進行は同等に小さく、1stクラス座席で疲労度が大きかった。
【0038】
図9は、ふくらはぎ表面血流量の時間変化を示す。アップライト姿勢とリラックス姿勢の血流量の変化は小さく安定している。一方、1stクラス座席では、1200秒を経過した時点で血流量の変化が大きくなり、被験者に無意識の体動が生じたものと考えられる。これは、図8の疲労曲線でも同じ時間帯で傾きの変化が生じた(矢印a)。図10は、指尖容積脈波のウェーブレット解析により求めたHF・LF/HF成分変動を示す。本実施形態のシート1におけるアップライト姿勢は、副交感神経優位となり、リラックス状態に誘導され、900秒と1200秒の2回のタイミングでマイクロスリープが生じた。そして、同シート1でのリラックス姿勢は、交感神経と副交感神経のバランスの良い状態が作られ、リラックスして覚醒度の高い状態となり、疲労回復効果の可能性が示唆される。
【0039】
一方、1stクラス座席では、リラックス状態に誘導された後に、睡眠状態に移行したが、被験者に痛みが生じ、中途覚醒が生じた可能性が高い。1200秒〜1500秒間での交感神経のバースト波の発現から、痛みにより体動が生じたものと考えられる。これも、図8及び図9と同じ時間帯で被験者の体内で何らかの変化が生じたことが示唆される。図11に脳波分布率の時間変化を示す。1stクラス座席では、θ波の分布率が常時20%を超えており、睡眠状態にあったものと考えられる。なお、本実施形態のシート1と1stクラス座席の差は、図7に示すクッションストロークの差が顕著に認められ、比較指標で生じた差はクッションストロークの差が原因と考えられる。体感では、1stクラス座席は、重心移動により体が埋り込み、姿勢を変えるのに筋力を必要とし、末梢系の神経系の圧迫、
【0040】
上記した説明では、航空機の客室に適用した場合を例に挙げたが、航空機に限らず、列車、船舶、バスを含む自動車等の乗物のシートにももちろん適用可能である。また、映画館や劇場などにおいて前後に複数所定間隔毎に設けられたシートにも適用可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 シート
10 架台フレーム
20 バックフレーム
200 シートバック用クッション材
210 ベースネット
220 表層クッション材
30 クッションフレーム
35 トーションバー
36 アーム部
37 大腿部支持フレーム
40 脚部フレーム
300 クッション材支持機構
310 スライドフレーム
315 ロック用爪
317 ロックピン
318 ロック解除用レバー
319 リターンスプリング
320 スライドアーム
330 カバーアーム
331 前部連結シャフト
332 後部連結シャフト
400 シートクッション用クッション材
410 ベースネット
420 表層クッション材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックフレームとクッションフレームとを有すると共に、前記バックフレームがリクライニングしない固定式となっている架台フレームにおいて、シートクッション用クッション材を支持するクッション材支持機構であって、
前記シートクッション用クッション材を支持した状態で、後方斜め上方と前方斜め下方との間でスライド可能となるようにスライド方向が設定されたスライドフレームを有することを特徴とするクッション材支持機構。
【請求項2】
幅方向に所定間隔をおいて設けられる一対の前記スライドフレームが、前記架台フレームのクッションフレームの一対のサイドフレームのそれぞれに係合されており、前記各サイドフレームに対して前記各スライドフレームが前記スライド方向にスライド可能である請求項1記載のクッション材支持機構。
【請求項3】
前記各スライドフレームが、長孔状に開設されたガイド孔を有すると共に、このガイド孔が前下がりとなるように設けられ、前記クッションフレームの各サイドフレームに、前記ガイド孔に案内されて相対変位するガイドピンが設けられている請求項1又は2記載のクッション材支持機構。
【請求項4】
前記スライドフレームのスライド方向は、前記フロアに平行な面に対する前下がり角度で10度以下の範囲である請求項1〜3のいずれか1に記載のクッション材支持機構。
【請求項5】
前記一対のスライドフレームの後部間に掛け渡された後部連結シャフト又は前記シートクッション用クッション材の後部に、前記バックフレームに支持されるシートバック用クッション材の下端縁が連結されており、
前記スライドフレームの変位に応じて、前記シートバック用クッション材の下端縁が変位する請求項1〜4のいずれか1に記載のクッション材支持機構。
【請求項6】
前記架台フレームのクッションフレームの前縁部に、基端部を中心として上下に回動可能な一対のアーム部を備え、このアーム部の先端部間に配置され、大腿部を下方から弾性的に支持する大腿部支持フレームを備えた大腿部支持機構が設けられており、
前記各スライドフレームの前端部に基端部を中心として上下に回動可能なスライドアームがそれぞれ連結され、前記スライドフレームのスライドに伴って、前記スライドアームが、前記大腿部支持フレームに対してスライドする構成である請求項1〜5のいずれか1に記載のクッション材支持機構。
【請求項7】
前記大腿部支持機構は、前記架台フレームのクッションフレームの前縁部であって、前記各アーム部の基端部間に配設されたトーションバーにより弾性的に支持されている請求項6記載のクッション材支持機構。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1に記載のクッション材支持機構を備えていることを特徴とするシート。
【請求項9】
前記クッション材支持機構に支持されるシートクッション用クッション材は、直径98mmの加圧板の中心を該シートクッション用クッション材におけるヒップポイント直下に一致させて500Nまで加圧した際の荷重−たわみ特性が、500Nでたわみ量70mm以下であり、たわみ量30mm以下ではバネ定数が5N/mm以下で推移し、たわみ量40mm以上でバネ定数が10N/mm以上で推移する非線形特性を有する請求項8記載のシート。
【請求項10】
前後に所定間隔毎に複数設置されるものである請求項8又は9記載のシート。
【請求項11】
乗物のフロアに所定間隔毎に設けられるものである請求項10記載のシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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