説明

クライオポンプ及び真空排気方法

【課題】クライオポンプが排気すべき気体の種類は用途によって異なる。さらにほとんどの場合において排気すべき気体は複数種類の気体の混合気体であり、クライオポンプには複数種類の気体それぞれを同時に効率よく排気することが要求される。
【解決手段】クライオポンプ10は、クライオポンプ容器12と、冷凍機14と、低温パネル16と、中間パネル18と、放射シールド20とを含んで構成される。クライオポンプ容器12は、排気されるべき気体が進入する吸気口を有する。放射シールド20は一端に開口部を有する。低温パネル16は、放射シールド20の内部に配置され、放射シールド20よりも低温に冷却される。中間パネル18は、放射シールド20よりも低温、かつ低温パネル16よりも高温に冷却される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クライオポンプ及び真空排気方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クライオポンプは、気体分子を、極低温に冷却されたクライオパネルで凝縮または吸着させることにより捕捉して排気する真空ポンプである。クライオポンプは、たとえば半導体回路製造プロセス等に要求される清浄な真空環境を実現するために利用される。
【0003】
クライオポンプは、第1のクライオパネルと、第1のクライオパネルよりも低温に冷却される第2のクライオパネルと、を備える。典型的には、放射シールド及び放射シールドの開口部に配置されるバッフルが第1の冷却パネルとして機能し、水蒸気、二酸化炭素などの沸点の比較的高い気体分子を凝縮させ、捕捉する。そして第2のクライオパネルにおいて、窒素、アルゴン等の沸点が比較的低い気体分子が凝縮され、捕捉される。さらに沸点の低い水素やヘリウムなどの気体分子は、第2の冷却パネルに貼付された活性炭、ゼオライトなどの吸着剤において吸着されることにより、捕捉される。
【0004】
たとえば、特許文献1に開示されるクライオポンプは、活性炭が貼付された冷却パネルと、これを囲む放射シールド及びシェブロンバッフルを備える。このクライオポンプにおいては、熱伝導率0.01w/cmK程度以上の活性炭を用いることで、ポンプを大型化することなく水素やヘリウム等を確実かつ効率よく吸着できる高い排気能力が実現される。
【特許文献1】特開2005−54689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、クライオポンプが排気すべき気体の種類は用途によって異なる。たとえば半導体製造工程におけるスパッタリング工程においては、アルゴンなどの希ガスを排気することが求められる。一方、同じく半導体製造工程におけるイオン注入工程では、水素、及びイオン注入に用いられるドーパントガスを排気することが求められる。気体の種類により、その特性も異なるため、排気すべき気体の組成に応じてクライオポンプを最適化する必要がある。さらに、ほとんどの場合において、排気すべき気体は複数種類の気体の混合気体であるため、クライオポンプには、複数種類の気体それぞれを同時に効率よく排気することが要求される。
【0006】
そこで、本発明は、効果的に複数種類の気体を排気する実用性の高いクライオポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のクライオポンプは、排気されるべき気体が進入する吸気口を有するクライオポンプ容器と、クライオポンプ容器内部に配置され、吸気口側の端部に開口を有する放射シールドと、放射シールド内部に配置され、放射シールドよりも低温に冷却される低温パネルと、放射シールド内部に配置され、放射シールドよりも低温、かつ低温パネルよりも高温に冷却される中間パネルと、を備える。
【0008】
この態様によると、放射シールド、低温パネル、中間パネルが異なる温度に冷却され、異なる特性を持つ異なる種類の気体を凝縮または吸着させ、排気することができる。
【0009】
ここで「低温パネル」及び「中間パネル」は、板状の形状の部材に限られず、曲面や格子、ルーバ、複数のパネルの配列など、さまざまな形状の部材をも含む概念である。
【0010】
本発明の別の態様は、真空排気方法である。この方法は、クライオポンプ容器と、クライオポンプ容器内部に配置される第1のクライオパネルと、クライオポンプ容器内部に配置され、第1のクライオパネルより低温に冷却される第2のクライオパネルと、第1のクライオパネルと第2のクライオパネルとを冷却する冷凍機と、を備え、冷凍機はシリンダによる気体の膨張作用により冷却を実現するタイプのクライオポンプを使用して排気をする。この方法では、第3のクライオパネルを冷凍機のシリンダに熱的に接続し、シリンダからの伝熱により第3のクライオパネルが第1のクライオパネルよりも低温となり、かつ第2のクライオパネルよりも高温となるよう冷却動作を実行せしめる。
【0011】
この態様によると、例えば、第3のクライオパネルを冷凍機のシリンダに熱的に接続する位置を調整することで、第3のクライオパネルの冷却温度を調整することができるため、排気すべき気体を、その種類や特性に応じて効率的に排気することができる。
【0012】
ここで「クライオパネル」とは、板状の形状の部材に限られず、曲面や格子、ルーバ、複数のパネルの配列など、さまざまな形状に構成された部材をも含む概念である。
【0013】
本発明のさらに別の態様は、クライオポンプである。このクライオポンプは、排気されるべき気体が進入する吸気口を有するクライオポンプ容器と、クライオポンプ容器内部に配置され、吸気口側の端部に開口を有し、冷凍機の第1の個所によって冷却される放射シールドと、放射シールド内部に配置され、冷凍機の第2の個所によって冷却される低温パネルと、放射シールド内部に配置され、冷凍機の第3の個所によって冷却される中間パネルと、を備え、冷凍機の最も低温な個所から見て、第2の個所、第3の個所、第1の個所の順に遠ざかるよう位置決めがなされている。
【0014】
ここで「低温パネル」及び「中間パネル」は、前述の通り、さまざまな形状の部材をも含む概念である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数種類の気体を効率的に排気するクライオポンプを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
クライオポンプは、気体を凝縮または吸着させ、ポンプ内部にため込むことで排気する。排気性能を維持するためには適宜、凝縮または吸着された気体を放出することによりクライオポンプを再生させる必要がある。再生は、クライオポンプの温度を上げて凝縮または吸着された気体を気化させ、放出することにより行う。
【0017】
ところでイオン注入装置用のクライオポンプにおいては、水素に加えて、イオン注入工程に用いられる三フッ化ホウ素、ホスフィン、アルシン等のドーパントガス、およびフォトレジストから放出される芳香族、直鎖炭化水素、アルコール、ケトン、エーテル等の有機系ガスを排気することが要求される。有機系ガスの例としては、ベンゼン、トルエン、フルオロベンゼン、イソブタン、アセトン、メタノール、ジメトキシメタン等が挙げられる。クライオポンプでこれらのドーパントガスや有機系ガスを排気する際に、その一部が、冷却パネルに貼付された吸着剤に不可逆的に吸着されることがある。この場合、クライオポンプを再生しても完全にガスを放出することはできない。その結果、排出すべき気体のわずかな割合を占めるにすぎないドーパントガスや有機系ガスのために、吸着剤が貼付された全ての冷却パネルを頻繁に交換しなければならないという事態が生じていた。
【0018】
本願発明者は、クライオポンプにおいて、異なる温度に冷却される第1のクライオパネルと第2のクライオパネルに加えて、これらの冷却温度の中間の温度に冷却される第3のクライオパネルを備えることに想到した。第1のクライオパネルは、典型的には放射シールドとその開口部に配設されるバッフルの形で実現され、その中に極低温の第2のクライオパネル及び中間の温度の第3のクライオパネルが設置される。この態様によれば、水蒸気など、沸点の比較的高い気体の分子は主に前段のバッフルで凝縮されることで捕捉され、これより沸点の低いドーパントガスなどの分子は中間の温度の第3のクライオパネルで捕捉される。そして水素などのさらに沸点の低い気体の分子は、極低温の第2のクライオパネルで凝縮または吸着される。
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るクライオポンプについて詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係るクライオポンプ10を模式的に示す図である。クライオポンプ10は、例えばイオン注入装置やスパッタリング装置等の高真空環境を要する装置の真空チャンバに取り付けられて、真空チャンバ内部の真空度を所望のプロセスに要求されるレベルまで高めるために使用される。例えば10^−5Pa乃至10^−8Pa程度の高い真空度が実現される。
【0021】
クライオポンプ10は、クライオポンプ容器12と、冷凍機14と、低温パネル16と、中間パネル18と、放射シールド20とを含んで構成される。図1に示されるクライオポンプ10は、いわゆる横型のクライオポンプである。横型のクライオポンプとは一般に、筒状の放射シールドの軸方向に交差する方向(通常は直交方向)に沿って冷凍機の第2冷却ステージが放射シールドの内部に挿入され配置されているクライオポンプである。
【0022】
なお、本発明はいわゆる縦型のクライオポンプにも同様に適用することができる。縦型のクライオポンプとは、放射シールドの軸方向に沿って冷凍機が挿入されて配置されているクライオポンプである。
【0023】
クライオポンプ容器12は、一端に開口32を有し他端が閉塞されている円筒状の形状に形成された部位(以下、「胴部」と呼ぶ)を有する。クライオポンプ容器12の内部に低温パネル16、中間パネル18及び放射シールド20が配設されている。開口32は、排気されるべき気体が進入する吸気口として設けられている。開口32はクライオポンプ容器12の胴部の上端部内面により画定される。
【0024】
本明細書では便宜上、クライオポンプ容器内部において吸気口近傍を上部または上方と呼び、その反対側すなわちクライオポンプ容器内部の底部近傍を下部または下方と呼ぶ。同様に、クライオポンプ容器内部から吸気口に向かう向きを上向きと呼び、逆に吸気口からクライオポンプ容器内部へと向かう向きを下向きと呼ぶ。
【0025】
クライオポンプ容器12の上端部には径方向外側に向けて取付フランジ34が延びている。クライオポンプ10は、排気対象容器であるイオン注入装置等の真空チャンバに、取付フランジ34を用いて取り付けられる。なおクライオポンプ容器12の断面は円形状には限られず、他の形状、例えば楕円形状や多角形形状であってもよい。
【0026】
冷凍機14は、例えばギフォード・マクマホン式冷凍機(いわゆるGM冷凍機)など2段式の冷凍機であり、シリンダ30、第1冷却ステージ28及び第2冷却ステージ24を有する。もちろん、3段式の冷凍機が用いられてもよい。冷凍機14は配管40を介して圧縮機42に接続されており、圧縮機42から供給される例えばヘリウム等の作動流体を内部で断熱膨張させて第1冷却ステージ28及び第2冷却ステージ24を冷却させる。第2冷却ステージ24は、クライオポンプ容器12及び放射シールド20に包囲され、クライオポンプ容器12及び放射シールド20の内部空間の中心部に配置されている。第1冷却ステージ28は第1の冷却温度レベルに冷却され、第2冷却ステージ24は第1の冷却温度レベルよりも低温の第2の冷却温度レベルに冷却される。例えば、第1冷却ステージ28は80K〜100K程度に冷却され、第2冷却ステージ24は10K〜20K程度に冷却される。
【0027】
放射シールド20は、冷凍機14の第1冷却ステージ28に熱的に接続された状態で固定され、第1冷却ステージ28と同程度の温度に冷却される。放射シールド20は、低温パネル16、中間パネル18、及び第2冷却ステージ24を周囲の輻射熱から保護する輻射シールドとして設けられている。放射シールド20は、一端に開口を有し他端が閉塞されている円筒状の形状、すなわちカップ状の形状に形成されている。クライオポンプ容器12の胴部及び放射シールド20はともに略円筒状に形成されており、同軸に配設されている。クライオポンプ容器12の胴部の内径が放射シールド20の外径を若干上回っており、放射シールド20はクライオポンプ容器12の胴部の内面との間に若干の間隔をもってクライオポンプ容器12とは非接触の状態で配置される。
【0028】
放射シールド20の内部空間の中心部に冷凍機14の第2冷却ステージ24が配置されている。冷凍機14は放射シールド20の側面の開口から挿入され、その開口部に第1冷却ステージ28が取り付けられる。冷凍機14の第2冷却ステージ24は、放射シールド20のほぼ中心軸上に配置される。
【0029】
なお、放射シールド20の形状は、円筒形状には限られず、角筒形状や楕円筒形状などいかなる断面の筒形状でもよい。典型的には、放射シールド20の形状はクライオポンプ容器12の内面形状に相似する形状とされる。また、放射シールド20は、図1に示されるような一体の筒状に構成されていてもよく、また、複数のパーツにより全体として筒状の形状をなすように構成されていてもよい。これら複数のパーツは互いに間隙を有して配設されていてもよい。
【0030】
また放射シールド20の開口にはバッフル22が設けられている。バッフル22は、たとえばシェブロン構造に形成される。バッフル22は、放射シールド20の開口側の端部に取り付けられており、放射シールド20と同程度の温度に冷却される。バッフル22は、上から見たときに、例えば同心円状に形成されていてもよいし、あるいは格子状等他の形状に形成されていてもよい。なお、バッフル22と真空チャンバとの間にはゲートバルブ(図示せず)が設けられている。このゲートバルブは例えばクライオポンプ10を再生するときに閉とされ、クライオポンプ10により真空チャンバを排気するときに開とされる。
【0031】
低温パネル16は、放射シールド20の中心軸上に配置される。低温パネル16は、冷凍機14の第2冷却ステージ24に熱的に接続された状態で固定され、第2冷却ステージ24と同程度の温度に冷却される。低温パネル16の表面には気体を凝縮または吸着させて排気するための極低温面が形成される。低温パネル16の表面の少なくとも一部には気体を吸着するための吸着剤が取り付けられて吸着領域が形成される。吸着剤としては、例えば活性炭が使用される。
【0032】
図1においては、複数のクライオパネルが、気体進入方向に対して開放された形態の低温パネル16の例が示されている。中間パネル18を低温パネル16とバッフル22との間に設けることで、低温パネル16が、バッフル22から進入した気体分子の流れに直接さらされることを防ぐことができる。これにより低温パネル16を開放型にすることが可能となり、効率的に気体を流通させることができる。もちろん、低温パネル16は、気体進入方向に対して閉じた形状でもよく、他のいかなる形状で構成されてもよい。
【0033】
中間パネル18は、典型的には、バッフル22と低温パネル16の間に配置される。中間パネル18は、シリンダ30の第2冷却ステージ24と第1冷却ステージ28との間に、取り付け部材26により熱的に接続された状態で固定される。一般的に2段式冷凍機のシリンダは、第1冷却ステージの冷却温度から第2冷却ステージの冷却温度まで連続的に変化する温度勾配を有する。したがって、中間パネル18は、第1冷却ステージ28より低く、第2冷却ステージ24より高い温度に冷却される。また、中間パネル18と冷凍機14のシリンダ30とを接続する位置を調整することで、中間パネル18の冷却温度を所望の温度に調整することができる。
【0034】
中間パネル18は、取り付け部材26、支柱、連結部材などを介してシリンダ30と接続されてもよく、これらの部材と一体として形成され、シリンダ30と接続されてもよい。中間パネル18及びこれらの部材は、ボルト及びナット等の適宜の固定手段により互いに接続され、またシリンダ30に取り付けられる。中間パネル及びこれらの部材は、たとえば銅、アルミなど、熱伝導性能に優れた材質で形成される。
【0035】
なお、本実施形態に係るクライオポンプ10において、三以上の冷却ステージを有する冷凍機を用いることも可能である。この場合、中間パネル18は、第1の冷却温度レベルよりも低温かつ第2の冷却温度レベルより高温に冷却される第3の冷却ステージに熱的に接続される。これにより、中間パネル18の冷却温度をより正確に管理することが可能となる。また、二の冷却ステージを有する冷凍機を用いる場合であっても、シリンダ30に所定の熱容量およびシリンダ30の軸方向の幅を有する取り付け部材26を設置し、これを介して中間パネル18を取り付けてもよい。これにより、中間パネル18との接続部位におけるシリンダ30の温度変動による影響を緩和することができる。この場合、取り付け部材26の好適な熱容量および幅は、冷凍機14の性能、中間パネル18の熱容量、熱負荷などにより異なるため、個々の場合に応じて計算または実験により決定する。
【0036】
中間パネル18は、クライオポンプ10の開口32に対向し、かつ平行に配置される円形、多角形等の平板として形成されてもよいし、カップ状、円錐側面状などの、曲面板またはこれらの組み合わせで構成されてもよい。これらの平板、曲面板には、複数のクライオパネルの配列が配設されてもよい。または複数のクライオパネル等の部材の組み合わせとして、厚みのある円板状形態、曲面板状等の形態が形成されてもよい。
【0037】
中間パネル18は、例えばスリットや穴を有してもよいし、網状、格子状に形成されてもよい。図1は、同心円状のシェブロン構造に形成された中間パネル18の取り付け例を示す。中間パネル18はこの他にも格子状、ハニカム構造などとしてもよく、互いに間隙を有して構成される複数のパネルの集合体あるいは配列などとして構成されてもよい。このような構成とすることにより、バッフル22から低温パネル16へ、中間パネル18を経て円滑に気体を流通させることができる。
【0038】
また、クライオポンプ10の用途によって、網、ルーバの細かさ、厚みなどを調整したり、中間パネル18を複数重ねて設置したりしてもよい。これにより、排気速度と中間パネル18における気体捕捉率とのトレードオフを考慮しつつ、クライオポンプ10をその用途に最適な構成とすることが可能となる。例えばイオン注入工程に用いるときには、水素などの中間パネル18を通過して低温パネル16にて捕捉されるべき気体の排気速度を確保しつつ、可能な限り多くのドーパントガス分子を中間パネル18にて捕捉するよう調整する。
【0039】
図1の例においては、バッフル22と中間パネル18について粗密が同じ程度、すなわちバッフル22と中間パネル18とで、シェブロンの細かさがほぼ同じ場合が示されている。一方、バッフル22と中間パネル18とで、これらを構成するシェブロン、ルーバ、網などの粗密を変えてもよい。たとえば、バッフル22は粗いルーバで構成し、中間パネル18はこれより細かいシェブロンで構成してもよい。また、図1の例においてはバッフル22と中間パネル18の径がほぼ同じ場合が示されているが、バッフル22と中間パネル18との径は、別個に定めてよい。たとえば、中間パネル18の径を、放射シールド20の内径程度とし、バッフル22の径はこれより小さくしてもよい。
【0040】
バッフル22を粗くしたり、小さくしたりすることにより排気速度は早くなる。一方、これにより、水蒸気や有機系ガスなどがバッフル22を通過したり、バッフル22と放射シールド20の隙間から放射シールド20内部に進入したりしても、中間パネル18で凝縮させることができれば低温パネル16には到達しない。したがって、排気速度とバッフル22、中間パネル18における気体捕捉率とのトレードオフを考慮しつつ、クライオポンプ10をその用途に最適な構成とすることが可能となる。たとえば、バッフル22よりも、中間パネル18の径を大きく、かつそのルーバ等の間隔を密にしてもよい。これにより、排気速度を確保しつつ、水蒸気や有機系ガスが低温パネル16まで到達しにくい構造とすることができる。バッフル22および中間パネル18の径や粗密は、実験によりその用途に最適な構造を定めてもよい。
【0041】
もちろん、中間パネル18は、気体が通過可能でないような構造に形成されてもよい。この場合には、真空チャンバから排気された気体は、バッフル22を通過後、中間パネル18を迂回してはじめて低温パネルに到達することができる。これにより、確実に中間パネルで捕捉すべき気体の中間パネルにおける捕捉率を高めることができる。
【0042】
さらには、活性炭やゼオライトなどの吸着剤が、中間パネル18の一部または全部に貼付されてもよい。これにより、捕捉したい気体の物性に合わせて、中間パネル18の冷却温度と吸着剤の有無、種類、形状などの両面から調整することが可能となり、捕捉率を高めることができる。また、中間パネル18とシリンダ30との接続部位において温度に変動があっても、変動幅を考慮に入れた設計とすることができる。さらに、中間パネル18において複数種類の気体を捕捉したい場合にも、複数の蒸気圧または吸着平衡圧力に対応した設計とすることが可能となる。
【0043】
なお中間パネル18は、放射シールド20と同様に、低温パネル16及び第2冷却ステージ24を取り囲むほぼ円筒状の形状をなすように構成されてもよい。この場合、底面を有してもよく、底面を有さず、開放された形状としてもよい。一端または両端が開放さた筒状の形状とする場合には、開放された端部にバッフルが取り付けられてもよい。また中間パネル18の形状は、円筒形状には限られず、角筒形状や楕円筒形状などいかなる断面の筒形状でもよい。筒状の中間パネル18を設けることにより、外部または放射シールド20から低温パネル16に入射する輻射熱を低減することができる。
【0044】
中間パネル18は、気体が通過可能であるように、スリットや穴を有してもよいし、網状、格子状、ルーバ状に形成されてもよい。また互いに間隙を有して配設された複数のパーツにより構成されてもよく、複数のパネルの集合体あるいは配列などとして構成されてもよい。中間パネル18の全面を同じ構造とすることにより、気体が通過可能であるような構成としてもよく、上面と側面、あるいは底面の構造が異なっていてもよい。たとえば、上面はルーバ形状で、側面はハニカム構造、底面は網状の構造を有する円筒形状で構成されてもよい。さらに、円筒面上の位置によって、構造を変えてもよい。たとえば、横型の冷凍機の場合、シリンダのある側とシリンダのない側で、網状構造のメッシュ度を変えてもよい。これにより、クライオポンプの用途や目的に応じて気体の流通量、流通経路を調整することができる。
【0045】
もちろん、活性炭やゼオライトなどの吸着剤が、筒状の中間パネル18の一部または全部に貼付されていてもよい。
【0046】
なお、横型の冷凍機を用いる場合、筒状の中間パネル18は側面に開口部を有し、その開口部から冷凍機の第2冷却ステージ24が挿入される。縦型の冷凍機を用いる場合には、中間パネル18の底部から冷凍機の第2冷却ステージ24が挿入される。
【0047】
図2は、下端が開放された円筒状の中間パネル18の取り付け例を示す。図2においては、中間パネル18とシリンダ30とを取り付け部材26により熱的に接続する箇所と、円筒形状の中間パネル18の側面がシリンダ30と交差する箇所が一致している例が示されている。中間パネル18はまた、中間パネル18の側面がシリンダ30と交差する箇所から中間パネル18の径方向に離れた箇所において、シリンダ30と熱的に接続されてもよい。これにより、中間パネル18の中心軸状に第2冷却ステージ24を配置した上で、中間パネル18の直径とは独立に中間パネル18とシリンダ30とを熱的に接続する位置を決定することができ、中間パネル18を任意の設定温度に冷却することが可能となる。
【0048】
上述のクライオポンプ10の作動に際しては、まずその作動前に他の適当な粗引きポンプを用いて排気対象、例えばイオン注入装置の真空チャンバ内部を1Pa程度にまで粗引きする。その後、クライオポンプ10を作動させる。冷凍機14の駆動により第1冷却ステージ28及び第2冷却ステージ24が冷却され、放射シールド20、バッフル22、及び低温パネル16も接続先の冷却ステージの冷却温度レベルに冷却される。中間パネル18は、シリンダ30の、中間パネル18と熱的に接続する部位の冷却温度レベルに冷却される。
【0049】
冷却されたバッフル22は、排気対象容器からクライオポンプ10の内部へ向かって飛来する気体分子を冷却し、その冷却温度で蒸気圧が充分に低くなる気体、例えば水蒸気などの気体を表面に凝縮させて捕捉することで排気する。バッフル22の冷却温度では蒸気圧が充分に低くならない気体はバッフル22を通過して放射シールド20内部へと進入する。進入した気体分子のうち中間パネル18の冷却温度で蒸気圧が充分に低くなる気体分子は、中間パネル18の表面に凝縮されて捕捉される。中間パネル18に吸着剤が貼付されている場合には、中間パネル18の冷却温度で吸着平衡圧が充分に低くなる気体分子も中間パネル18の表面に吸着されて捕捉される。中間パネル18で捕捉されずに低温パネル16に到達した気体分子は、低温パネル16の表面で凝縮され、または低温パネル16の表面に貼付された吸着剤により吸着されることで排気される。
【0050】
このようにしてクライオポンプ10は、それぞれの気体分子を、その気体の種類によって異なるパネルまたはパネルの異なる部位において捕捉することで排気し、真空チャンバ内部の真空度を所望のレベルに到達させることができる。
【0051】
前述のように、中間パネル18とシリンダ30とを熱的に接続させる位置を調整することによって、中間パネル18を第1の冷却温度レベルと第2の冷却温度レベルの間の任意の温度に冷却することができる。また、接続させる位置を変更することで、中間パネル18の冷却温度を変更可能であるような構成としてもよい。これにより、排気すべき気体をその種類や特性に応じて効率的に排気させることができる。取り付け位置と中間パネル18の冷却温度との関係は、冷凍機14の性能、中間パネル18の熱容量、熱負荷などにより異なるため、個々の場合に応じて計算または実験により取り付け位置を決定する。
【0052】
中間パネル18の冷却温度は、用途、排気すべき気体の種類、組成にもとづいて決定する。もちろん、実験により最適な温度を決定してもよい。以下に、クライオポンプ10をイオン注入工程に用いる場合について、中間パネル18の冷却温度を決定する方法の例を示す。前述のように、ドーパントガスの一部が冷却パネルに貼付された吸着剤に不可逆的に吸着すると、その冷却パネルを交換しなければならない。このため、ドーパントガスを中間パネル18において、集中的に凝縮または吸着させたい。
【0053】
図3は、ドーパントガスである三フッ化ホウ素、ホスフィンおよびアルシンについての飽和蒸気圧曲線を示す。各気体の飽和蒸気圧は、式log10(P)=A-(B/(T+C))を用いて計算することにより求めた。ここで、Pは圧力、Tは温度、A、B、Cは気体によるパラメータで、Stullによる(Stull, D.R., Vapor Pressure of Pure Substances Organic Compounds Ind. Eng. Chem., 1947, 39, 517-540)。
【0054】
説明の便宜上、以下においては凝縮についてのみ述べる。この場合、たとえば、中間パネル18を、実現したい真空度である希望到達真空度とドーパントガスの飽和蒸気圧が一致する温度以下に冷却すればよい。
【0055】
たとえば、10^−8Pa程度の真空度を実現したい場合、中間パネル18を、ドーパントガスの飽和蒸気圧が、10^−8Paとなる温度以下に冷却すればよい。
【0056】
三フッ化ホウ素を排気する場合、中間パネル18を、希望到達真空度と三フッ化ホウ素の飽和蒸気圧が一致する温度以下に冷却すればよい。たとえば、10^−8Pa程度の真空度を実現したい場合、三フッ化ホウ素の飽和蒸気圧が10^−8Paとなる温度は図3より約68Kであるので、中間パネル18を68K以下に冷却すればよい。
【0057】
また、ホスフィンを排気する場合、中間パネル18を、希望到達真空度とホスフィンの飽和蒸気圧が一致する温度以下に冷却すればよい。たとえば、10^−8Pa程度の真空度を実現したい場合、ホスフィンの飽和蒸気圧が10^−8Paとなる温度は図3より約52Kであるので、中間パネル18を52K以下に冷却すればよい。
【0058】
また、アルシンを排気する場合、中間パネル18を、希望到達真空度とアルシンの飽和蒸気圧が一致する温度以下に冷却すればよい。たとえば、10^−8Pa程度の真空度を実現したい場合、アルシンの飽和蒸気圧が10^−8Paとなる温度は図3より約71Kであるので、中間パネル18を71K以下に冷却すればよい。
【0059】
上の例では希望到達真空度を10^−8Paとして説明したが、希望到達真空度は例えば10^−4から10^−8Paの範囲から選択し、中間パネル18の冷却温度を、その真空度に対応する温度に設定してもよい。上記の範囲の希望到達真空度で三フッ化ホウ素を排気する場合、中間パネル18を65〜80Kに冷却すればよい。同じくホスフィンを排気する場合は50〜70K程度、アルシンを排気する場合には、70〜85K程度に冷却すればよい。
【0060】
このように中間パネル18の冷却温度を定めることにより、排気すべきドーパントガスを中間パネル18で集中的に凝縮させ、排気することできる。したがってメンテナンスの際にも、中間パネル18のみ交換すればよく、効率的、経済的なクライオポンプを実現することができる。
【0061】
ところで、これらのドーパントガスの沸点は、たとえば典型的な希望到達真空度である10^−8Paにおいて50〜70K程度である。従来のクライオポンプにおいては、本来、第2のクライオパネルにて凝縮されるべきドーパントガスが、排気過程において不安定な状態で、たとえば70K程度でバッフルなどで凝縮されることがあった。この場合、たとえば製造プロセスを停止したため圧力がさらに下がったときなどに、凝縮または吸着された分子が気化してしまう。そうすると、前段のバッフルで凝縮したドーパントガスの分子が順次、気化して第2のクライオパネルにて再凝縮されるまでの間圧力が上がってしまう、いわゆる「ハングアップ」現象が起こり、その間、充分な真空圧が得られないという問題があった。
【0062】
中間パネル18を設けることにより、第1の冷却パネルとして機能する放射シールドおよびバッフル22の温度を、80〜100Kと、高めに設定することも可能となる。クライオポンプ10をイオン注入工程に用いる場合には、たとえば、放射シールドは、80〜100Kに冷却し、中間パネル18は、40〜50Kに冷却し、低温パネルは、10〜20Kに冷却する。
【0063】
第1の冷却パネルの温度を高めに設定することで、排気過程においてドーパントガスが第1の冷却パネルで不安定な状態で凝縮、吸着されることを防止し、確実に第2の冷却パネルにて、凝縮、吸着させることができる。また仮にドーパントガスが第1の冷却パネルにおいて凝縮、吸着された場合にも、所望の真空度に到達する前の段階で第1の冷却パネルから第2の冷却パネルに移動されることになる。これにより、ドーパントガス分子は中間パネル18で確実に捕捉され、真空度がさらに上がったようなときにも再び気化することなく保持される。したがって、ドーパントガスによるハングアップを防止することができる。
【0064】
この他にも、用途、排気すべき気体の種類、組成にもとづいて、各パネルの温度を適宜定めればよい。たとえば、排気すべき気体にキセノンが含まれるときには、クライオポンプ10において、放射シールドを80〜100Kに冷却し、中間パネル18を40〜60Kに冷却し、低温パネル16を10〜20Kに冷却してもよい。これにより、キセノンを中間パネル18上で確実に凝縮させことができ、キセノンによるハングアップを防止することができる。
【0065】
このように、各パネルの冷却温度を3段階構成とすることで、用途、排気すべき気体の種類、組成などに応じてクライオポンプ10を適宜、カスタマイズすることが可能となる。
【0066】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0067】
たとえば、本発明は、特に冷凍機つきクライオポンプに限定されるものではなく、各パネルを冷媒によって冷却する場合にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施形態に係るクライオポンプを模式的に示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係るクライオポンプにおいて、筒状に形成された中間パネルを配置した例を模式的に示す図である。
【図3】ドーパントガスである三フッ化ホウ素、ホスフィンおよびアルシンについての飽和蒸気圧曲線を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
10 クライオポンプ、 12 クライオポンプ容器、 14 冷凍機、 16 低温パネル、 18 中間パネル、20 放射シールド、 22 バッフル、 24 第2冷却ステージ、 28 第1冷却ステージ、 32 開口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気されるべき気体が進入する吸気口を有するクライオポンプ容器と、
前記クライオポンプ容器内部に配置され、前記吸気口側の端部に開口を有する放射シールドと、
前記放射シールド内部に配置され、前記放射シールドよりも低温に冷却される低温パネルと、
前記放射シールド内部に配置され、前記放射シールドよりも低温、かつ低温パネルよりも高温に冷却される中間パネルと、
を備えることを特徴とするクライオポンプ。
【請求項2】
冷凍機をさらに備え、
前記冷凍機は前記クライオポンプ容器内部に配設され、かつ、気体の膨張作用によって冷却を実現するシリンダを含み、
前記シリンダは、第1冷却ステージと第2冷却ステージとを有し、
前記第1冷却ステージは前記放射シールドと接続し、
前記第2冷却ステージは前記低温パネルと接続し、
前記中間パネルは、前記シリンダの、前記第1冷却ステージと、前記第2冷却ステージとの間に熱的に接続されることを特徴とする請求項1に記載のクライオポンプ。
【請求項3】
前記放射シールドの開口部に設置されるバッフルをさらに備え、
前記中間パネルは、前記バッフルと前記低温パネルとの間に配置されることを特徴とする請求項2に記載のクライオポンプ。
【請求項4】
前記中間パネルは、半導体製造におけるイオン注入工程に用いられるドーパントガスの飽和蒸気圧と、希望到達真空度とが一致する温度以下に冷却されることを特徴とする請求項3に記載のクライオポンプ。
【請求項5】
前記中間パネルは、希望到達真空度と三フッ化ホウ素の飽和蒸気圧が一致する温度以下に冷却されることを特徴とする請求項3に記載のクライオポンプ。
【請求項6】
前記中間パネルは、希望到達真空度とホスフィンの飽和蒸気圧が一致する温度以下に冷却されることを特徴とする請求項3に記載のクライオポンプ。
【請求項7】
前記中間パネルは、希望到達真空度とアルシンの飽和蒸気圧が一致する温度以下に冷却されることを特徴とする請求項3に記載のクライオポンプ。
【請求項8】
前記放射シールドは、80〜100Kに冷却され、
前記中間パネルは、40〜50Kに冷却され、
前記低温パネルは、10〜20Kに冷却されることを特徴とする請求項3に記載のクライオポンプ。
【請求項9】
クライオポンプ容器と、クライオポンプ容器内部に配置される第1のクライオパネルと、クライオポンプ容器内部に配置され、第1のクライオパネルより低温に冷却される第2のクライオパネルと、前記第1のクライオパネルと前記第2のクライオパネルとを冷却する冷凍機と、を備え、前記冷凍機はシリンダによる気体の膨張作用により冷却を実現するタイプのクライオポンプであり、当該クライオポンプを使用して排気をする方法であって、
第3のクライオパネルを前記冷凍機のシリンダに熱的に接続し、
前記シリンダからの伝熱により前記第3のクライオパネルが前記第1のクライオパネルよりも低温となり、かつ前記第2のクライオパネルよりも高温となるよう冷却動作を実行せしめることを特徴とする真空排気方法。
【請求項10】
排気されるべき気体が進入する吸気口を有するクライオポンプ容器と、
前記クライオポンプ容器内部に配置され、前記吸気口側の端部に開口を有し、冷凍機の第1の個所によって冷却される放射シールドと、
前記放射シールド内部に配置され、冷凍機の第2の個所によって冷却される低温パネルと、
前記放射シールド内部に配置され、冷凍機の第3の個所によって冷却される中間パネルと、
を備え、冷凍機の最も低温な個所から見て、第2の個所、第3の個所、第1の個所の順に遠ざかるよう位置決めがなされていることを特徴とするクライオポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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