クラッシュボックス及びその車体への取付け構造
【課題】斜め方向へ負荷される衝撃荷重に対しても、全体での曲がり変形の発生を抑制し、連続的に安定した蛇腹状の塑性座屈変形をするクラッシュボックスを提供する。
【解決手段】対向するコーナー部4、5とコーナー部6、7とを備え、四角形の横断面形状を有する金属製の筒体から構成されるクラッシュボックス3である。コーナー部4、5の成す角度が90°以上150°以下、コーナー部6、7の成す角度が30°以上90°以下であり、かつ横断面形状が、一対のコーナー部4、5を通過する線に対称な形状である。さらに、辺8、9に、長手方向へ延び、内部へ向けて凸となる溝12、13を有する。これらの溝12、13は、板厚t(mm)、辺8〜11の長さW(mm)、溝12、13の個数N、及びN個の溝12、13の開口幅の平均値Wc(mm)が式(1)の関係を充足する。5<(W−N×Wc)/(N+1)/t<50・・・・・・・(1)
【解決手段】対向するコーナー部4、5とコーナー部6、7とを備え、四角形の横断面形状を有する金属製の筒体から構成されるクラッシュボックス3である。コーナー部4、5の成す角度が90°以上150°以下、コーナー部6、7の成す角度が30°以上90°以下であり、かつ横断面形状が、一対のコーナー部4、5を通過する線に対称な形状である。さらに、辺8、9に、長手方向へ延び、内部へ向けて凸となる溝12、13を有する。これらの溝12、13は、板厚t(mm)、辺8〜11の長さW(mm)、溝12、13の個数N、及びN個の溝12、13の開口幅の平均値Wc(mm)が式(1)の関係を充足する。5<(W−N×Wc)/(N+1)/t<50・・・・・・・(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッシュボックス及びその車体への取付け構造に関し、具体的には、その軸方向に対して平行な方向のみならず斜め方向からの衝突による衝撃荷重が入力されても、連続的に安定して蛇腹状に塑性座屈変形することができ、これにより、斜め衝突に対しても優れた衝撃吸収特性、すなわち高い衝撃吸収エネルギー吸収量を有するクラッシュボックス及びその車体への取付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体は、一般的に、フロントサイドメンバーやサイドシル、さらにはリアサイドメンバーといった筒体からなる強度部材を車体の前後方向へ向けて要所に配置したモノコック構造を有する。そして、衝突事故の際には、衝突により負荷される衝撃エネルギーを、これらの強度部材を衝撃吸収部材として利用して吸収することによって、乗員の安全を図っている。
【0003】
近年、衝撃吸収部材の一つとしてクラッシュボックスが用いられる。クラッシュボックスは、例えば、全長が一般的に80〜300mm程度の閉じた横断面形状を有する筒体からなり、バンパーレインフォースを支持しながら、フロントサイドメンバー先端部やリアサイドメンバーの後端部に脱着自在に装着される。クラッシュボックスは、通常、一つのバンパーレインフォースに対して左右一個ずつ合計二個、車体の前後方向へ向けて配置される。
【0004】
クラッシュボックスは、衝突の際、バンパーレインフォースに入力される衝撃荷重によって、ボディシェルをなすフロントサイドメンバーやリアサイドメンバーよりも優先して、蛇腹状に塑性座屈変形して圧壊することにより衝撃エネルギーを吸収し、これにより、ボディシェルの損傷を防いで軽衝突時の修理費の低減を図るとともに、サイドメンバー等と連携して衝撃エネルギーを効果的に吸収して乗員を保護する。
【0005】
筒体であるクラッシュボックスは、例えば、薄鋼板をプレスして成形される半割品である二つの構成部材を溶接することや、中空パイプにハイドロフォーム加工を行うこと、さらにはアルミニウム合金材に熱間押し出しや冷間押し出しを行うこと等によって、所定の形状に製造される。
【0006】
このクラッシュボックスの衝撃吸収特性を高めるために、これまでにも多数の提案がなされている。例えば特許文献1には、直角に交差する4つの同一形状の枝部を有する十字形の横断面形状を備える筒体からなるクラッシュボックスに係る発明が開示され、特許文献2には、等角度で配置された4つのアームを有する断面から構成される中空体からなるクラッシュボックスを備えるバンパビームに係る発明が開示される。
【0007】
本発明者らは、特許文献3により、稜線部を除く外壁に長手方向に延びる溝を備える筒体からなるクラッシュボックスに係る特許発明を開示した。このクラッシュボックスは、特許文献1、2により開示されるクラッシュボックスよりも衝撃吸収性能を向上させたものであり、軸方向へ向けて負荷される衝撃荷重により、フロントサイドメンバーやリアサイドメンバーよりも優先して、軸方向の略全域で蛇腹状に塑性座屈変形して圧壊することにより、衝撃エネルギーを極めて効率的に吸収することができる。
【特許文献1】EP0856681
【特許文献2】特表2003−203272号公報
【特許文献3】WO2005/010398
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
自動車の実際の衝突事故では、衝突による衝撃荷重が、クラッシュボックスの蛇腹状の塑性座屈変形の開始の初期から後期に至るまでの間、継続してクラッシュボックスの軸方向へ向けて入力されることはむしろ少なく、クラッシュボックスの軸方向に対して斜め方向へ入力されることが多い。
【0009】
図1は、いわゆるオフセット衝突の状況を模式的に示す説明図である。また、図2は、クラッシュボックスへの衝撃荷重の入力方向を模式的に示す説明図である。
図1に矢印で示すように、オフット衝突の場合には、車体1の前後方向に対して斜め方向へ向けて衝撃荷重が入力される。また、車対車の衝突事故の場合にも、それぞれの車両のバンパー設置高さの差等に起因して、車高方向に対する斜め方向へ向けて衝撃荷重が入力される。すなわち、図2に示すように、車体1の前後方向を指向するように配置されるクラッシュボックス2に対して、車幅方向及び/又は車高方向に対して斜め方向から衝撃荷重が入力されることが多い。
【0010】
これに対し、特許文献3により開示したクラッシュボックスは、確かに、その軸方向へ向けて負荷される衝撃荷重に対しては軸方向の略全域で安定して蛇腹状に塑性座屈変形を発生することができるものの、軸方向に対して斜め方向へ向けて衝撃荷重が入力されると、筒体に曲げモーメントが発生するので、この曲げモーメントにより、蛇腹状の塑性座屈変形の途中の時点において筒体全体に大きな曲がり変形を発生し易い。このような大きな曲がり変形が発生すると、それ以降に蛇腹状に塑性座屈変形することが難しくなるので、その分だけ衝撃エネルギーの吸収能が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、対向して配置された一対のコーナー部と、この一対のコーナー部同士を結ぶ線に直交して配置された他の一対のコーナー部とを備え、かつ外側にフランジを有さない四角形の横断面形状を有する金属製の筒体から構成されるクラッシュボックスであって、一対のコーナー部の成す角度が90°以上150°以下であるとともに他の一対のコーナー部の成す角度が30°以上90°以下であり、横断面形状が、一対のコーナー部を通過する線に対称な形状であり、かつ一対のコーナー部を通過する線に対称に配置される2組の対をなす辺のうちの少なくとも1組の対をなす辺それぞれに設けられる、一対のコーナー部と、他の一対のコーナー部とを除く位置に長手方向へ延びるとともに内部へ向けて凸となる1又は複数の溝を有するとともに、全ての辺それぞれにおける、板厚t(mm)、辺の長さW(mm)、溝の個数N、及びN個の溝の開口幅の平均値Wc(mm)が、下記式(1)の関係を充足することを特徴とするクラッシュボックスである。
【0012】
5<(W−N×Wc)/(N+1)/t<50 ・・・・・・・(1)
この場合、下記式(1’)の関係を充足することが望ましい。
5<(W−N×Wc)/(N+1)/t<30 ・・・・・・(1’)
これらの本発明に係るクラッシュボックスでは、溝が4つの辺全てに設けられること、又は、溝を設けられない1組の対をなす辺それぞれにおける板厚t(mm)及び辺の長さW(mm)が、下記式(2)の関係を充足することが望ましい。
【0013】
5<(W/t)<50 ・・・・・・・(2)
これらの本発明に係るクラッシュボックスでは、一対のコーナー部の成す角度が、他の一対のコーナー部の成す角度よりも大きいことが望ましい。
【0014】
これらの本発明に係るクラッシュボックスでは、さらに、少なくとも一のコーナー部を含む領域が平面状に切り欠かれて形成される切欠き部を備え、この切欠き部の板厚t(mm)及び長さW’(mm)が、下記式(3)の関係を充足することが望ましい。ただし、上記式(1)における辺の長さW(mm)とは、前記切欠き部を設けられた状態における辺の長さを意味する。
【0015】
5<(W’/t)<50 ・・・・・・・(3)
この場合、下記式(3’)の関係を充足することがさらに望ましい。
【0016】
5<(W’/t)<30 ・・・・・・・(3’)
これらの本発明に係るクラッシュボックスでは、さらに、一対のコーナー部と他の一対のコーナー部のうち少なくとも一のコーナー部を含む領域が平面状に切り欠かれて形成される切欠き部を備え、この切欠き部の長さが筒体の板厚の50倍以上であるとともに、この切欠き部の両端のコーナー部を除く位置に長手方向へ延びるとともに内部へ向けて凸となる1又は複数の溝を有し、かつ、この切欠き部の板厚t(mm)、長さW’(mm)、溝の個数N、及びN個の溝の開口幅の平均値Wc(mm)が、下記式(4)の関係を充足することが望ましい。ただし、この場合、上記式(1)における辺の長さW(mm)とは、切欠き部を設けられた状態における辺の長さを意味する。
【0017】
5<(W’−N×Wc)/(N+1)/t<50 ・・・・・・・(4)
この場合、下記式(4’)の関係を充足することがさらに望ましい。
【0018】
5<(W’−N×Wc)/(N+1)/t<30 ・・・・・・・(4’)
また、切欠き部を設ける場合には、筒体が、一の構成部材の縁部を重ね合わせて接合されること、又は軸方向に沿って分割される複数の構成部材それぞれの縁部を重ね合わせて接合されることによって構成され、切欠き部が、一の構成部材の重ね合わせ接合部、又は複数の構成部材同士の重ね合わせ接合部であることが望ましい。
【0019】
これらの本発明に係るクラッシュボックスでは、全てのコーナー部の曲率半径Rが、溝を構成する複数の角部のいずれの曲率半径Rcより大きいことが望ましい。
これらの本発明に係るクラッシュボックスでは、さらに、他の一対のコーナー部を通過する線に対称な形状であることが望ましい。
【0020】
本発明は、好適には、対向して配置された一対のコーナー部と、この一対のコーナー部同士を結ぶ線に直交して配置された他の一対のコーナー部とを備え、かつ外側にフランジを有さない四角形の横断面形状を有するとともに、軸方向に沿って分割される二つの構成部材それぞれの縁部を部分的に重ね合わせて接合されることにより構成される金属製の筒体から構成されるクラッシュボックスであって、前記一対のコーナー部の成す角度、及び他の一対のコーナー部の成す角度が、いずれも90°であり、横断面形状が、一対のコーナー部を通過する線、及び他の一対のコーナー部を通過する線のいずれにも対称な形状であり、四角形断面を構成する4つのすべての辺において、一対のコーナー部と、他の一対のコーナー部とを除く位置に長手方向へ延びるとともに内部へ向けて凸となる1又は複数の溝を有し、他の一対のコーナー部を含む領域が平面状に切り欠かれて形成される切欠き部を備え、この切欠き部が、複数の構成部材同士の重ね合わせ接合部をなし、かつ全ての辺それぞれにおける、板厚t(mm)、切欠き部を設けられた状態における辺の長さW(mm)、溝の個数N、及びN個の溝の開口幅の平均値Wc(mm)が、下記式(1)の関係を充足し、さらに、切欠き部の板厚t(mm)及び長さW’(mm)が、下記式(3)の関係を充足することを特徴とするクラッシュボックスである。
【0021】
5<(W−N×Wc)/(N+1)/t<50 ・・・・・・・(1)
5<(W’/t)<50 ・・・・・・・(3)
この本発明の好適態様では、全てのコーナー部の曲率半径Rが、溝を構成する複数の角部のいずれの曲率半径Rcより大きいことが望ましい。
【0022】
別の観点からは、本発明は、上述したこれらの本発明に係るクラッシュボックスを、一対のコーナー部を通過する線が指向する方向、又は他の一対のコーナー部を通過する線が指向する方向が上下方向となるようにして、車体に取り付けることを特徴とするクラッシュボックスの車体への取付け構造である。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るクラッシュボックス及びその車体への取付け構造によれば、軸方向に対して斜め方向へ向けて負荷される衝撃荷重に対しても、全体での曲がり変形の発生を抑制でき、これにより、連続的に安定した蛇腹状の塑性座屈変形を発生できることから、斜め衝突に対しても優れた衝撃吸収特性、すなわち高い衝撃吸収エネルギー吸収量を確保することができる。
【0024】
これにより、ボディシェルの損傷を抑制して軽衝突時の修理費の低減を図るとともに、衝撃エネルギーを効果的に吸収して乗員の安全性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に係るクラッシュボックス及びその車体への取付け構造を実施するための最良の形態を、添付図面を参照しながら説明する。はじめに、本発明に係るクラッシュボックスの原理を説明する。
(1)原理
筒体であるクラッシュボックスの横断面形状である多角形断面は、筒体における稜線部をなす角と、筒体における稜線部間の平面部である辺とにより構成される。この筒体の軸方向へ荷重が負荷されてこの断面に荷重が作用する場合、稜線部と平面部とは面外変形(閉じた断面の外部側に向かう変形)を生じるが、剛性が高い稜線部は、剛性が稜線に対して相対的に低い平面部よりも小さい面外変形を発生するとともに、圧縮ひずみを生じる。その後、負荷される荷重が増大するに伴って、稜線部においても面外変形の量が増加していき、やがて稜線部が座屈して稜線部が折れ、塑性座屈変形が発生する。このクラッシュボックスは、これら一連の変形を数回繰り返すことにより、軸方向に蛇腹状に塑性座屈変形して圧壊することにより、衝撃エネルギーを吸収する。
【0026】
この一連の変形挙動は、入力される荷重の方向によって、変化する。例えば、クラッシュボックスの軸方向に対して斜め方向の荷重が入力される場合は、軸方向に荷重が入力される場合に比較して、稜線部の面外変形の量が大きくなるとともに圧縮ひずみが小さくなる。さらに、入力される斜め荷重が大きくなると、稜線部に生じる圧縮ひずみが限りなく小さくなり、大きな面外変形を生じ、稜線部が大きな曲率半径で曲がり、クラッシュボックス全体が折れ曲がる。特に、剛性が低い平面部に作用する斜め方向から入力される荷重が大きくなると、クラッシュボックスは容易に折れ曲がってしまう。
【0027】
このため、クラッシュボックス全体での折れ曲がりを抑制して軸方向に対して斜め方向へ向けて負荷される衝撃荷重に対する衝撃吸収性能を高めるためには、以下の観点に基づいて、クラッシュボックスの横断面形状を決定することが有効である。
【0028】
すなわち、斜め方向からの荷重入力に対して曲げ変形の抑制を可能とするためには、
(I)剛性が高い稜線部における斜め荷重の負担度合いを増加させること、すなわち斜め荷重の入力方向に対して稜線部が配置される横断面形状とすること、及び
(II)稜線部は、斜め方向から入力される荷重に対して生じる面外変形を小さくし、圧縮ひずみが高まる横断面形状とすること
が重要である。
【0029】
また、クラッシュボックスを構成する筒体の軸方向に衝撃荷重が入力されると、筒体は複数回の塑性座屈変形を生じ、その際に生じる荷重履歴によって、衝撃吸収エネルギーが決定される。すなわち、連続的に発生する塑性座屈変形の回数によって衝撃エネルギーの吸収量が決定される。
【0030】
まず、筒体に衝撃荷重が入力されると、筒体の横断面を構成する平面部は面外変形を生じ、稜線部は圧縮ひずみを生じる。その後、入力される衝撃荷重の増大に伴って、平面部での面外変形、及び稜線部での圧縮ひずみはいずれも増加し、やがて、稜線部での面外変形を発生するようになり、稜線部でn回目(nは1以上の自然数)の座屈を生じる。そして、稜線部で生じた座屈変形によって生成した座屈しわが平面部へと拡大され、平面部で座屈しわが生成する。その後、この平面部で生じた座屈しわを重ね、軸方向の他の部位で生じる次の座屈変形(n+1回目)へと移行する。
【0031】
n回目の座屈発生から(n+1)回目の座屈発生までの間隔、すなわち座屈波長は、上述したような変形の稜線部の座屈によって生成したしわの大きさに影響される。また、そのしわの大きさは、平面部で生じる面外変形に支配される。したがって、座屈波長が短い塑性座屈挙動によって衝撃エネルギーの吸収性能を向上させるためには、平面部で生じる面外変形を小さくすることが有効である。
【0032】
すなわち、曲げ変形を抑制しつつ、高い衝撃エネルギー吸収を得るために、座屈波長が短い連続的な塑性座屈変形を生じさせるためには、
(III)面外変形を小さく制御するために平面部の長さを短くすること、及び
(IV)平面部に稜線が存在する凹部を設けることによって所望の短い平面部の長さとすること
が重要である。
(2)本発明に係るクラッシュボックス
つぎに、この原理を前提として、本発明に係るクラッシュボックスを説明する。
【0033】
図3は、本発明に係るクラッシュボックス3の基本的な横断面形状を示す説明図である。図4(a)〜図4(d)は、本発明に係るクラッシュボックス3−1〜3−4の各種の横断面形状例を示す説明図である。
【0034】
本発明のクラッシュボックス3は、図3に示すように、対向して配置された一対のコーナー部4、5と、この一対のコーナー部4、5同士を結ぶ線に直交して配置された他の一対のコーナー部6、7とを備え、かつ外側にフランジを有さないとともにコーナー部4〜7により規定される四角形の横断面形状を有する金属製の筒体から構成される。
【0035】
連続的な塑性座屈変形を安定して発生させるためには、座屈変形によって生じた座屈しわを連続的に重ねることが求められる。外側にフランジを有する横断面形状を有する金属製の筒体では、フランジにおいても座屈しわを重ねる場合に、平面部とは異なる方向でしわを重ねる必要があり、その際の変形抵抗が高くなる。換言すれば、外側にフランジを有する横断面形状を有する金属製の筒体は、容易に座屈しわを重ねることができなくなる。以上の理由により、金属製の筒体は、横断面形状において外側にフランジを有さないほうが、安定して塑性座屈変形を示すことができる。そこで、本発明のクラッシュボックス3は、外側にフランジを有さないとともにコーナー部4〜7により規定される四角形の横断面形状を有する金属製の筒体から構成される。
【0036】
このように、このクラッシュボックス3は、車幅方向(図3における左右方向)又は車高方向(図3における上下方向)に、横断面形状の外郭をなす剛性が高い稜線部であるコーナー部4〜7を配置する四角形の断面形状を有する。
【0037】
このクラッシュボックス3の横断面形状は、一対のコーナー部4、5を通過する仮想の線lに対称な形状である。さらに、他の一対のコーナー部6、7を通過する線に対称な形状であることが望ましい。対称性が高まるほど、それだけ多様な入力方向からの斜め荷重に対する性能が向上するからである。
【0038】
オフセット衝突の場合、車幅方向又は上下方向への斜め荷重が入力されるので、クラッシュボックス3に曲げモーメントが生じる。このような斜め方向からの荷重入力に対してもクラッシュボックス3が安定して塑性座屈変形を発生するためには、曲げモーメントによって生じる全体での曲げ変形(折れ曲がり)を抑制することと、入力された衝撃荷重によって、筒体の軸方向へ衝撃荷重が入力された場合と同様の座屈波長が短い連続的な塑性座屈変形を発生することが重要である。筒体全体での曲げ変形を生じる場合は、座屈波長が長い変形となるからである。そこで、荷重が作用する外郭端に該当する位置に剛性が高いコーナー部6、7を配置する。このため、このクラッシュボックス3では、図4(a)に示すように、断面中心を通る直線上にコーナー部6、7を配置する。
【0039】
また、このクラッシュボックス3では、一対のコーナー部4、5の成す内角の角度θ1、θ2を90°以上150°以下とするとともに、他の一対のコーナー部6、7の成す内角の角度θ3、θ4を30°以上90°以下とする。この理由を説明する。
【0040】
稜線部であるコーナー部4〜7の剛性は、稜線部に存在する円弧長によって決定され、コーナー部4〜7が特定の曲率半径で設定される場合、この円弧長は、コーナー部4〜7の内角によって変化する。したがって、斜め方向から入力される衝撃荷重により生じる曲げモーメントに対してクラッシュボックス3が全体での曲がりを生じることなくこの衝撃荷重により塑性座屈変形を発生するためには、一対のコーナー部4、5の成す内角の角度θ1、θ2を90°以上150°以下とする。θ1、θ2が150°を超えると、クラッシュボックスの製造ならびに設計スペースを考慮に入れた範囲で決定される現実的な曲率半径(1.5〜10.0mm程度)の場合に、コーナー部6、7の円弧長が短くなり過ぎて所望の剛性を確保することができなくなり、狙いとする塑性座屈変形を生じることができなくなる。
【0041】
また、他の一対のコーナー部6、7の成す内角の角度θ3、θ4は、一対のコーナー部4、5の成す内角の角度θ1、θ2と連動するので、角度θ1、θ2を90°以上150°以下とすることに伴って、30°以上90°以下とする。
【0042】
一対のコーナー部4、5に比べ、他の一対のコーナー部6、7がより高い曲げ剛性が要求される場合は、一対のコーナー部4、5の成す角度θ1、θ2が、他の一対のコーナー部6、7の成す角度θ3、θ4よりも大きいことが望ましい。
【0043】
このクラッシュボックス3は、剛性が高い稜線部であるコーナー部4〜7における斜め荷重の負担度合いを増加させることが可能な形状、すなわち斜め荷重の入力方向に対してコーナー部4〜7が配置される横断面形状とする。また、コーナー部4〜7を設ける横断面形状とすることにより、斜め方向から入力される荷重に対して生じる面外変形を小さくすることができるとともにし、コーナー部4〜7に対する圧縮ひずみを高めることができる。
【0044】
さらに、このクラッシュボックス3は、一対のコーナー部4、5を通過する仮想の直線線lに対称に配置される2組の対をなす辺(8、9)、(10、11)のうちの少なくとも1組の対をなす辺8、9それぞれに、一対のコーナー部4、5と、他の一対のコーナー部6、7とを除く位置に、長手方向へ延びるとともに内部へ向けて凸となる1又は複数(図3では一つの場合を示す)の溝12、13を有している。
【0045】
そして、これらの溝12、13は、辺8,9それぞれにおける、板厚t(mm)、辺8〜11の長さW(mm)、溝12、13の個数N、及びN個の溝12、13の開口幅の平均値Wc(mm)が、下記式(1)の関係、望ましくは下記式(1’)の関係を充足するものである。
【0046】
5<(W−N×Wc)/(N+1)/t<50 ・・・・・・・(1)
5<(W−N×Wc)/(N+1)/t<30 ・・・・・・(1’)
これにより、このクラッシュボックス3は、短い座屈波長により蛇腹状に塑性座屈変形することができ、高い衝撃吸収エネルギー吸収性能を得られる。この理由を説明する。
【0047】
クラッシュボックス3が連続的な塑性座屈(進行性座屈)を生じ、その変形によって生じる荷重履歴によって決定される衝撃吸収エネルギー吸収量を高めるためには、座屈発生から次の座屈発生までの荷重変動を抑制すること、すなわち、座屈波長を短くすることが有効である。この座屈波長は、クラッシュボックス3の横断面において衝撃荷重によって生じる面外変形(変位)と密接な関係があり、この面外変形の量が大きいと座屈波長が長くなり、一方面外変形が小さいと座屈波長が短くなる。そのため、クラッシュボックス3の横断面で生じる面外変形を小さくするためには、横断面を構成する辺8〜11の幅、すなわち隣接するコーナー部4〜7間の距離を小さくすればよい。
【0048】
具体的には、コーナー部4〜7の間の距離Wを、筒体の板厚tの50倍未満とする。すなわち、このクラッシュボックス3では、溝12、13を設けられない1組の対をなす辺10、11それぞれにおける板厚t(mm)及び辺の長さW(mm)は、下記式(2)の関係を充足する。
【0049】
5<(W/t)<50 ・・・・・・・(2)
これに対し、コーナー部4〜7の間の距離Wが板厚tの50倍以上となる辺8、9には、図3に示すように、溝12、13をそれぞれ設けることによって、平面部8、9を分断し、溝12、13を除いた辺8、9が上記式(2)の関係を充足する。
【0050】
なお、コーナー部4〜7の間の距離Wが板厚の50倍未満の場合であっても、平面部8、9に溝12、13を設けることにより平面部8、9をさらに細かく分断するようにしてもよい。
【0051】
溝8、9は、斜め荷重が作用した際における全体での曲がり変形の抑制とともに、その荷重によって塑性座屈変形の起点となるコーナー部4〜7を含まない位置に設けることが望ましい。
【0052】
このように、クラッシュボックス3は、平面部8、9の幅Wが大きい横断面形状である場合に、短い座屈波長を得るために平面部8、9に溝12、13を設けて、この溝12、13により新たな稜線部を形成し、平面部8、9の幅を、短い座屈波長を得られる範囲に制御するものである。
【0053】
ここで、上述した効果を確実に得るためには、全ての辺8〜11それぞれにおける、板厚t(mm)、辺8〜11の長さW(mm)、溝12、13の個数N、及びN個の溝12、13の開口幅の平均値Wc(mm)が、式(1):5<(W−N×Wc)/(N+1)/t<50の関係を充足することが望ましく、式(2):5<(W−N×Wc)/(N+1)/t<30の関係を充足することが望ましい。
【0054】
なお、溝12、13の深さdcが浅過ぎると、上述した辺8、9を分断する効果が弱まるため、溝12、13の深さdcは10mm超とすることが望ましい。
このクラッシュボックス3では、全てのコーナー部4〜7の曲率半径Rが、溝12、13を構成する角部14〜21のいずれの曲率半径Rcより大きいことが望ましい。この理由を説明する。
【0055】
薄肉円環の断面2次モーメントは、径及び肉厚によって支配され、径が大きいほど断面2次モーメントは大きくなり、曲げ強度に影響を及ぼす断面係数も同様に径が大きいほど増大する。すなわち、クラッシュボックス3に対し斜め方向から荷重が作用した際に生じる曲げモーメントに対して曲げ変形を抑制するためには、横断面の外郭に位置して入力される荷重を支持するコーナー部4〜7の断面2次モーメントを大きくとることが有効である。また、溝12、13を構成する角部14〜21の曲率半径を大きくすると、溝12、13での変形抵抗が過度に高まり、この部分での塑性座屈変形が生じ難くなる。
【0056】
以上の理由により、本発明では、クラッシュボックス3の全体の曲げ強度を最も支配する全てのコーナー部4〜7の曲率半径Rを、溝12、13を構成する角部14〜21の曲率半径Rcより大きくすることが望ましい。
【0057】
このように、本実施の形態のクラッシュボックス3は、車幅方向又は車高方向にコーナー部4〜7を配置し、そのコーナー部4〜7を形成する内角θ1〜θ4を最適な範囲に制御するとともに、一対のコーナー4、5部を通過する仮想の直線lに対称に配置される2組の対をなす辺(8、9)、(10、11)のうちの少なくとも1組の対をなす辺8、9それぞれに、コーナー部4、6、7を除く位置に長手方向へ延び、内部へ向けて凸となるとともに式(1)を満足する1又は複数の溝を設けることによって、斜め荷重が入力された場合の曲げ強度を向上させるとともにこの衝撃荷重により塑性座屈変形を発生するものである。
【0058】
このため、このクラッシュボックス3は、軸方向に対して斜め方向へ向けて負荷される衝撃荷重に対しても、全体での曲がり変形の発生を抑制でき、蛇腹状に塑性座屈変形することができる。
【0059】
図4(a)〜図4(d)は、図3により示す本発明に係るクラッシュボックス3の基本的な横断面形状を変形した横断面形状を有する各種のクラッシュボックス3−1〜3−4を示す説明図である。以下、これらのクラッシュボックス3−1〜3−4について、クラッシュボックス3と相違する部分を説明し、共通する部分については同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
【0060】
図4(a)に示すクラッシュボックス3−1は、図3に示すクラッシュボックス3において、対をなす辺8、9のみならず対をなす辺10、11にも溝22、23を設けることによって、4つの辺8〜11の全てに溝12、13、22、23を設けたものである。
【0061】
このクラッシュボックス3−1は、クラッシュボックス3と比較すると、横断面形状の対称性がより高まるので、それだけ多様な入力方向からの斜め荷重に対する性能が向上する。
【0062】
図4(b)に示すクラッシュボックス3−2は、クラッシュボックス3において、他の1のコーナー部6、7を含む領域が平面状に切り欠かれて形成される切欠き部24、25を備えるものである。切欠き部24、25の幅W’は、クラッシュボックス3−2をなす筒体の板厚tの5倍以上50倍未満、望ましくは30倍未満になっている。
【0063】
なお、この切欠き部24、25を設ける場合、上記式(1)における辺の長さW(mm)とは、この切欠き部24、25を形成することにより短くなった後における辺の長さを意味する。
【0064】
図4(c)に示すクラッシュボックス3−3は、クラッシュボックス3−2において、1のコーナー部4、5を含む領域が平面状に切り欠かれて形成される切欠き部26、27を備えるものである。切欠き部26、27の幅W’は、クラッシュボックス3−3をなす筒体の板厚tの5倍以上50倍未満、望ましくは30倍未満になっている。
【0065】
なお、この切欠き部26、27を設ける場合にも、上記式(1)における辺の長さW(mm)とは、この切欠き部26、27を形成することにより短くなった後における辺の長さを意味する。
【0066】
図4(d)に示すクラッシュボックス3−3は、クラッシュボックス3−2において切欠き部24〜27を設けることにより形成されるとともにクラッシュボックス3−3の全体の曲げ強度を最も支配する新たな頂点28a〜28hの曲率半径ρbを、溝12、13を構成する角部14〜21の曲率半径Rcより大きくすることによって、塑性座屈変形を確実に発生させるものである。
【0067】
これらの切欠き部24〜27の幅(長さ)W’と板厚tの比(W’/t)が5未満であると、負荷される衝撃荷重により軸方向へ蛇腹状に塑性座屈変形する際に隣接する稜線が同期して変形するようになり、塑性座屈変形が不安定となる。一方、比(W’/t)が50超であると、連続的な塑性座屈変形を生じる際の座屈波長が長くなり、衝撃エネルギーを効果的に吸収することができない。
【0068】
以上説明したクラッシュボックス3〜3−4では、1のコーナー部4、5が上下方向に位置するようにして車体に装着することが望ましい。
なお、図4(b)〜図4(d)に示すクラッシュボックス3−2〜3−4において、切欠き部24〜27に、その長さW’が筒体の板厚tの50倍以上であるものが存在する場合には、この切欠き部24〜27の両端のコーナー部を除く位置に、長手方向へ延びるとともに内部へ向けて凸となる1又は複数の溝を設け、かつ、この切欠き部の板厚t(mm)、長さW’(mm)、溝の個数N、及びN個の溝の開口幅の平均値Wc(mm)が、5<(W’−N×Wc)/(N+1)/t<50の関係、望ましくは5<(W’−N×Wc)/(N+1)/t<30の関係を充足することにより、衝撃荷重を負荷されて圧壊する際に発生する面外変形の量を抑制できるので、望ましい。
【0069】
また、図4(c)〜図4(d)に示すクラッシュボックス3−2〜3−4において、筒体が、一の構成部材の縁部を重ね合わせて接合されること、又は軸方向に沿って分割される複数の構成部材それぞれの縁部を重ね合わせて接合されることによって構成され、上述した切欠き部24〜27の一部、例えば切欠き部24、25又は切欠き部26、27が、一の構成部材の重ね合わせ接合部、又は複数の構成部材同士の重ね合わせ接合部であることが望ましい。
【0070】
特に、切欠き部24、25が、一の構成部材の縁部である重ね合わせ接合部、又は複数の構成部材同士の重ね合わせ接合部であると、特に斜め方向からの衝突による衝撃荷重が負荷された際における筒体の曲げ剛性が向上し、蛇腹状の塑性座屈変形の途中の時点での筒体全体の大きな曲がり変形の発生を抑制することが可能となる。さらに、重ね合わせ接合部の接合を、例えば構造接着剤を用いた接着や、例えばレーザー溶接等の連続溶接といった、連続的な接合とすると、例えばスポット溶接といった断続的な接合とする場合よりも、筒体の曲げ剛性をさらに高めることができるので、望ましい。
【0071】
これらのクラッシュボックス3〜3−4は、一対のコーナー部4、5を通過する線が指向する方向、又は他の一対のコーナー部6、7を通過する線が指向する方向が上下方向となるようにして、車体に取り付けられることにより、車幅又は車高方向に対して斜め方向から入力される衝撃荷重に対しても、全体での曲がり変形の発生を抑制でき、これにより、連続的に安定した蛇腹状の塑性座屈変形を発生できることから、斜め衝突に対しても優れた衝撃吸収特性、すなわち高い衝撃吸収エネルギー吸収量を確保することができる。
【実施例1】
【0072】
さらに、実施例を参照しながら、本発明をより具体的に説明する。
図5(a)〜図5(c)に示す断面形状を有するクラッシュボックス30〜32を用いて、クラッシュボックス30〜32に対して斜め方向からの荷重が入力された場合の塑性座屈挙動について検討した。
【0073】
なお、図5(a)に示すクラッシュボックス30、及び図5(b)に示すクラッシュボックス31は、いずれも、対向して配置された一対のコーナー部33、34と、この一対のコーナー部33、34同士を結ぶ線に直交して配置された他の一対のコーナー部35、36とを備え、かつ外側にフランジを有さない四角形の横断面形状を有するとともに、軸方向に沿って分割される二つの構成部材37a、37bそれぞれを部分的に重ね合わせて接合されることにより構成される金属製の筒体から構成されるクラッシュボックスであって、
(a)図5(b)において、一対のコーナー部33、34の成す角度、及び他の一対のコーナー部35、36の成す角度は、いずれも90°であること、図5(a)において、一対のコーナー部33、34の成す角度は120°で、他の一対のコーナー部35、36の成す角度は60°であること、
(b)横断面形状が、一対のコーナー部33、34を通過する線、及び他の一対のコーナー部35、36を通過する線のいずれにも対称な形状であること、
(c)四角形断面を構成する4つのすべての辺において、一対のコーナー部33、34と、他の一対のコーナー部35、36とを除く位置に長手方向へ延びるとともに内部へ向けて凸となる1の溝38を有すること、
(d)全ての辺それぞれにおける、板厚t(mm)、辺の長さW(mm)、溝38の個数N、及びN個の溝38の開口幅の平均値Wc(mm)が、式(1):5<(W−N×Wc)/(N+1)/t<50の関係を充足すること
(e)他の一対のコーナー部35、36を含む領域が平面状に切り欠かれて形成される切欠き部39を備え、この切欠き部39が、複数の構成部材37a、37b同士の重ね合わせ接合部をなすこと、及び
(f)全てのコーナー部33〜36の曲率半径Rが、溝を構成する複数の角部のいずれの曲率半径Rcより大きいことを特徴とする。
【0074】
図5(a)のModel A、ならびに図5(b)のModel Bは、いずれも本発明例であり、図5(c)のModel Cは比較例である。なお、Model A、Model Bの板厚は1.2mmであり、Model Cの板厚は1.4mmであり、Model A〜Cの軸方向長さは200mmである。また、解析には、440MPa級高張力鋼板を想定した材料特性を用い、さらにひずみ速度依存性はCowper−Symonds則にて考慮した。
【0075】
解析条件は、図6に示すように、図5に示す断面形状を有するクラッシュボックス30〜32をそれぞれ二つずつバンパーレインフォース40aに装着したモジュール部材40に対して、剛体壁41を10度の斜め方向から速度16km/hで衝突させ、クラッシュボックス30〜32の塑性座屈挙動を評価した。なお、剛体壁41のバンパーレインフォース40aに対するオーバーラップ率は40%である。
【0076】
図7は、クラッシュボックス30〜32の荷重履歴を比較して示すグラフである。図8は、クラッシュボックス30〜32の載荷点変位25mm、55mm、90mmにおける変形状態を示す説明図である。
【0077】
図7にグラフで示すように、本発明例であるModel AならびにModel Bは、比較例のModel Cに比べて、薄肉にあるにもかかわらず高荷重を示し、また荷重の変動も小さいことがわかる。
【0078】
また、図8に示すように、比較例のModel Cが載荷点変位δ=55mmにおいて側面に大きな座屈しわが生成し、載荷点変位δ=90mmにおいては、反衝突端で塑性座屈変形を発生しているのに対して、本発明例であるModel A、Model Bは、衝突端から順に細かい座屈しわを生成していることがわかる。すなわち、斜め方向からの荷重が入力することによって曲げモーメントが作用する場合あっても、本発明例によれば、従来例に比較して、安定した塑性座屈変形を生じることがわかる。
【0079】
図9は、クラッシュボックス30〜32について面外変形の量を比較して示すグラフであり、図9(a)は車両幅方向の内側の側面における面外変形の量を示し、図9(b)は車両幅方向の外側の側面における面外変形の量を示す。
【0080】
図9(a)及び図9(b)にグラフで示すように、本発明例であるModel A、Model Bは、比較例であるModel Cに比べて、面外変形の量が小さいことがわかる。
【実施例2】
【0081】
本実施例では、斜め方向からの衝撃荷重がクラッシュボックスに入力した場合の塑性座屈挙動に及ぼす、コーナー部の曲率半径R、及び溝を構成する複数の角部のいずれの曲率半径Rcの影響を明確にするために、数値解析による検討を行った。
【0082】
図10は、この解析に用いたクラッシュボックス50の横断面形状を示す説明図である。解析には、内角α=90度の部材を対象として、溝51ならびにコーナー部52を構成する稜線の曲率半径を、それぞれ、(a部:2mm、b部:2mm)、(a部:2mm、b部:8mm)、(a部:2mm、b部:16mm)とした計3種類の断面形状を有するクラッシュボックス50a〜50cを用いた。なお、a部とは溝51を構成する4つの稜線部を意味し、b部とはコーナー部52を構成する稜線部を意味する。
【0083】
クラッシュボックス50a〜50cの板厚は1.2mmであり、軸方向の長さは200mmである。また、解析には440MPa級高張力鋼板を想定した材料特性を用い、さらにひずみ速度依存性はCowper−Symonds則にて考慮した。
【0084】
解析条件は、図11に示すように、図10に示す横断面形状を有するクラッシュボックス50a〜50cを二つバンパーレインフォース53に装着させたモジュール部材54に対して、剛体壁55を15度、20度の方向から、速度16km/hで衝突させた際のクラッシュボックス50a〜50cの塑性座屈挙動を評価した。なお、剛体壁55のバンパーレインフォース53に対するオーバーラップ率は40%である。
【0085】
図12は、クラッシュボックス50a〜50cについて載荷点変位δ=50mmにおける変形状態を示す説明図である。
図12に示すように、衝突角度が15度から20度になると、クラッシュボックス50a〜50cに作用する斜め方向荷重が大きくなるため、クラッシュボックス50a〜50cには大きい曲げモーメントが作用するようになる。その結果、衝突角度が20度の場合は、衝突角度が15度の場合に比べて、図中の破線からのずれ量が増大することからも理解されるように、全体での曲げ変形量が大きくなっている。
【0086】
さらに、衝突角度20度の場合の変形図に着目し、溝部及びコーナー部を構成する稜線部の曲率半径の影響を解析してみると、コーナー部の曲率半径ρbが小さいクラッシュボックス50aは、曲率半径ρbが大きいクラッシュボックス50b、50cに比較して、軸方向中央から反衝突端側の方向の部材幅方向の内側の稜線(図中矢印)において、大きな曲げ変形部位が発生することがわかる。すなわち、曲率半径ρbが小さい部材は、コーナー部の剛性が低いため、入力された衝撃荷重によってクラッシュボックス50aに生じる曲げモーメントに起因した曲げ変形を抑制することができず、幅方向の側面で大きな面外変位を生じ、その結果、高い衝撃吸収エネルギー吸収量を得るために必要となる軸方向への連続的な塑性座屈変形を発生することができない。
【0087】
図13、14は、クラッシュボックス50a〜50cの幅方向の半割品重ね位置の、幅方向内側の側面の面外変位を比較した結果を示すグラフであり、図13は衝突角度15度の場合を示し、図14は、衝突角度20度の場合の結果を示す。
【0088】
いずれも結果とも、衝突端側(x=0付近側)では、面外変形が正負側に生じ、その面外変形の曲線の山谷が重なった様子を示しており、座屈しわが重なった状態を意味する。
また、図13、14のグラフの結果を比較すると、衝突角度15度の場合は、衝突角度が20度の場合に比較して、面外変形の絶対値が小さく、また反衝突側方向における面外変位はほぼゼロであり、全体での曲がり変形を発生していないことがわかる。
【0089】
これに対し、衝突角度20度の場合は、軸方向の中央から反衝突端側にかけて面外変形を生じており、全体での曲がり変形が発生することがわかる。
次に、各クラッシュボックス50a〜50c間での面外変形の量を比較すると、ρb=16mmであるクラッシュボックス50cは、ρb=2mmであるクラッシュボックス50aや、ρb=8mmであるクラッシュボックス50bに比較して面外変形が小さく、クラッシュボックス50cがもっとも面外変形が抑制され、曲がり変形の程度が軽度であることがわかる。すなわち曲率半径ρbが大きいクラッシュボックスほど、斜め荷重が入力された場合の曲がり変形の程度が小さいことがわかる。
【0090】
このように、全てのコーナー部の曲率半径Rを、溝を構成する複数の角部のいずれの曲率半径Rcより大きくすることにより、クラッシュボックスに対し斜め方向からの荷重が作用した場合の全体での曲がり変形を抑制することが可能となり、これによって、短い座屈波長での塑性座屈変形を維持することができ、高い衝撃エネルギー吸収量を得ることができる。コメント:曲率半径の記号が不統一である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】いわゆるオフセット衝突の状況を模式的に示す説明図である。
【図2】クラッシュボックスへの衝撃荷重の入力方向を模式的に示す説明図である。
【図3】本発明に係るクラッシュボックスの基本的な横断面形状を示す説明図である。
【図4】図4(a)〜図4(d)は、本発明に係るクラッシュボックスの各種の横断面形状例を示す説明図である。
【図5】図5(a)〜図5(c)は、実施例1で解析したクラッシュボックスの断面形状を示す説明図である。
【図6】解析条件を示す説明図である。
【図7】クラッシュボックスの荷重履歴を比較して示すグラフである。
【図8】クラッシュボックスの載荷点変位25mm、55mm、90mmにおける変形状態を示す説明図である。
【図9】クラッシュボックスについて面外変形の量を比較して示すグラフであり、図9(a)は車両幅方向の内側の側面における面外変形の量を示し、図9(b)は車両幅方向の外側の側面における面外変形の量を示す。
【図10】実施例2の解析に用いたクラッシュボックスの横断面形状を示す説明図である。
【図11】解析条件を示す説明図である。
【図12】クラッシュボックスについて載荷点変位δ=50mmにおける変形状態を示す説明図である。
【図13】クラッシュボックスの幅方向の半割品重ね位置の、幅方向内側の側面の面外変位を比較した結果を示すグラフであり、衝突角度15度の場合を示す。
【図14】クラッシュボックスの幅方向の半割品重ね位置の、幅方向内側の側面の面外変位を比較した結果を示すグラフであり、衝突角度20度の場合の結果を示す。
【符号の説明】
【0092】
3,3−1〜3−4 本発明に係るクラッシュボックス
4、5 一対のコーナー部
6、7 他の一対のコーナー部
8〜11 辺(平面部)
12、13、22、23 溝
14〜21 角部
24〜27 切欠き部
28a〜28h 頂点
30〜32 クラッシュボックス
33、34 一対のコーナー部
35、36 他の一対のコーナー部
37a、37b 構成部材
38 溝
39 切欠き部
40a バンパーレインフォース
40 モジュール部材
41 剛体壁
50、50a〜50c クラッシュボックス
51 溝
52 コーナー部
53 バンパーレインフォース
54 モジュール部材
55 剛体壁
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッシュボックス及びその車体への取付け構造に関し、具体的には、その軸方向に対して平行な方向のみならず斜め方向からの衝突による衝撃荷重が入力されても、連続的に安定して蛇腹状に塑性座屈変形することができ、これにより、斜め衝突に対しても優れた衝撃吸収特性、すなわち高い衝撃吸収エネルギー吸収量を有するクラッシュボックス及びその車体への取付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体は、一般的に、フロントサイドメンバーやサイドシル、さらにはリアサイドメンバーといった筒体からなる強度部材を車体の前後方向へ向けて要所に配置したモノコック構造を有する。そして、衝突事故の際には、衝突により負荷される衝撃エネルギーを、これらの強度部材を衝撃吸収部材として利用して吸収することによって、乗員の安全を図っている。
【0003】
近年、衝撃吸収部材の一つとしてクラッシュボックスが用いられる。クラッシュボックスは、例えば、全長が一般的に80〜300mm程度の閉じた横断面形状を有する筒体からなり、バンパーレインフォースを支持しながら、フロントサイドメンバー先端部やリアサイドメンバーの後端部に脱着自在に装着される。クラッシュボックスは、通常、一つのバンパーレインフォースに対して左右一個ずつ合計二個、車体の前後方向へ向けて配置される。
【0004】
クラッシュボックスは、衝突の際、バンパーレインフォースに入力される衝撃荷重によって、ボディシェルをなすフロントサイドメンバーやリアサイドメンバーよりも優先して、蛇腹状に塑性座屈変形して圧壊することにより衝撃エネルギーを吸収し、これにより、ボディシェルの損傷を防いで軽衝突時の修理費の低減を図るとともに、サイドメンバー等と連携して衝撃エネルギーを効果的に吸収して乗員を保護する。
【0005】
筒体であるクラッシュボックスは、例えば、薄鋼板をプレスして成形される半割品である二つの構成部材を溶接することや、中空パイプにハイドロフォーム加工を行うこと、さらにはアルミニウム合金材に熱間押し出しや冷間押し出しを行うこと等によって、所定の形状に製造される。
【0006】
このクラッシュボックスの衝撃吸収特性を高めるために、これまでにも多数の提案がなされている。例えば特許文献1には、直角に交差する4つの同一形状の枝部を有する十字形の横断面形状を備える筒体からなるクラッシュボックスに係る発明が開示され、特許文献2には、等角度で配置された4つのアームを有する断面から構成される中空体からなるクラッシュボックスを備えるバンパビームに係る発明が開示される。
【0007】
本発明者らは、特許文献3により、稜線部を除く外壁に長手方向に延びる溝を備える筒体からなるクラッシュボックスに係る特許発明を開示した。このクラッシュボックスは、特許文献1、2により開示されるクラッシュボックスよりも衝撃吸収性能を向上させたものであり、軸方向へ向けて負荷される衝撃荷重により、フロントサイドメンバーやリアサイドメンバーよりも優先して、軸方向の略全域で蛇腹状に塑性座屈変形して圧壊することにより、衝撃エネルギーを極めて効率的に吸収することができる。
【特許文献1】EP0856681
【特許文献2】特表2003−203272号公報
【特許文献3】WO2005/010398
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
自動車の実際の衝突事故では、衝突による衝撃荷重が、クラッシュボックスの蛇腹状の塑性座屈変形の開始の初期から後期に至るまでの間、継続してクラッシュボックスの軸方向へ向けて入力されることはむしろ少なく、クラッシュボックスの軸方向に対して斜め方向へ入力されることが多い。
【0009】
図1は、いわゆるオフセット衝突の状況を模式的に示す説明図である。また、図2は、クラッシュボックスへの衝撃荷重の入力方向を模式的に示す説明図である。
図1に矢印で示すように、オフット衝突の場合には、車体1の前後方向に対して斜め方向へ向けて衝撃荷重が入力される。また、車対車の衝突事故の場合にも、それぞれの車両のバンパー設置高さの差等に起因して、車高方向に対する斜め方向へ向けて衝撃荷重が入力される。すなわち、図2に示すように、車体1の前後方向を指向するように配置されるクラッシュボックス2に対して、車幅方向及び/又は車高方向に対して斜め方向から衝撃荷重が入力されることが多い。
【0010】
これに対し、特許文献3により開示したクラッシュボックスは、確かに、その軸方向へ向けて負荷される衝撃荷重に対しては軸方向の略全域で安定して蛇腹状に塑性座屈変形を発生することができるものの、軸方向に対して斜め方向へ向けて衝撃荷重が入力されると、筒体に曲げモーメントが発生するので、この曲げモーメントにより、蛇腹状の塑性座屈変形の途中の時点において筒体全体に大きな曲がり変形を発生し易い。このような大きな曲がり変形が発生すると、それ以降に蛇腹状に塑性座屈変形することが難しくなるので、その分だけ衝撃エネルギーの吸収能が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、対向して配置された一対のコーナー部と、この一対のコーナー部同士を結ぶ線に直交して配置された他の一対のコーナー部とを備え、かつ外側にフランジを有さない四角形の横断面形状を有する金属製の筒体から構成されるクラッシュボックスであって、一対のコーナー部の成す角度が90°以上150°以下であるとともに他の一対のコーナー部の成す角度が30°以上90°以下であり、横断面形状が、一対のコーナー部を通過する線に対称な形状であり、かつ一対のコーナー部を通過する線に対称に配置される2組の対をなす辺のうちの少なくとも1組の対をなす辺それぞれに設けられる、一対のコーナー部と、他の一対のコーナー部とを除く位置に長手方向へ延びるとともに内部へ向けて凸となる1又は複数の溝を有するとともに、全ての辺それぞれにおける、板厚t(mm)、辺の長さW(mm)、溝の個数N、及びN個の溝の開口幅の平均値Wc(mm)が、下記式(1)の関係を充足することを特徴とするクラッシュボックスである。
【0012】
5<(W−N×Wc)/(N+1)/t<50 ・・・・・・・(1)
この場合、下記式(1’)の関係を充足することが望ましい。
5<(W−N×Wc)/(N+1)/t<30 ・・・・・・(1’)
これらの本発明に係るクラッシュボックスでは、溝が4つの辺全てに設けられること、又は、溝を設けられない1組の対をなす辺それぞれにおける板厚t(mm)及び辺の長さW(mm)が、下記式(2)の関係を充足することが望ましい。
【0013】
5<(W/t)<50 ・・・・・・・(2)
これらの本発明に係るクラッシュボックスでは、一対のコーナー部の成す角度が、他の一対のコーナー部の成す角度よりも大きいことが望ましい。
【0014】
これらの本発明に係るクラッシュボックスでは、さらに、少なくとも一のコーナー部を含む領域が平面状に切り欠かれて形成される切欠き部を備え、この切欠き部の板厚t(mm)及び長さW’(mm)が、下記式(3)の関係を充足することが望ましい。ただし、上記式(1)における辺の長さW(mm)とは、前記切欠き部を設けられた状態における辺の長さを意味する。
【0015】
5<(W’/t)<50 ・・・・・・・(3)
この場合、下記式(3’)の関係を充足することがさらに望ましい。
【0016】
5<(W’/t)<30 ・・・・・・・(3’)
これらの本発明に係るクラッシュボックスでは、さらに、一対のコーナー部と他の一対のコーナー部のうち少なくとも一のコーナー部を含む領域が平面状に切り欠かれて形成される切欠き部を備え、この切欠き部の長さが筒体の板厚の50倍以上であるとともに、この切欠き部の両端のコーナー部を除く位置に長手方向へ延びるとともに内部へ向けて凸となる1又は複数の溝を有し、かつ、この切欠き部の板厚t(mm)、長さW’(mm)、溝の個数N、及びN個の溝の開口幅の平均値Wc(mm)が、下記式(4)の関係を充足することが望ましい。ただし、この場合、上記式(1)における辺の長さW(mm)とは、切欠き部を設けられた状態における辺の長さを意味する。
【0017】
5<(W’−N×Wc)/(N+1)/t<50 ・・・・・・・(4)
この場合、下記式(4’)の関係を充足することがさらに望ましい。
【0018】
5<(W’−N×Wc)/(N+1)/t<30 ・・・・・・・(4’)
また、切欠き部を設ける場合には、筒体が、一の構成部材の縁部を重ね合わせて接合されること、又は軸方向に沿って分割される複数の構成部材それぞれの縁部を重ね合わせて接合されることによって構成され、切欠き部が、一の構成部材の重ね合わせ接合部、又は複数の構成部材同士の重ね合わせ接合部であることが望ましい。
【0019】
これらの本発明に係るクラッシュボックスでは、全てのコーナー部の曲率半径Rが、溝を構成する複数の角部のいずれの曲率半径Rcより大きいことが望ましい。
これらの本発明に係るクラッシュボックスでは、さらに、他の一対のコーナー部を通過する線に対称な形状であることが望ましい。
【0020】
本発明は、好適には、対向して配置された一対のコーナー部と、この一対のコーナー部同士を結ぶ線に直交して配置された他の一対のコーナー部とを備え、かつ外側にフランジを有さない四角形の横断面形状を有するとともに、軸方向に沿って分割される二つの構成部材それぞれの縁部を部分的に重ね合わせて接合されることにより構成される金属製の筒体から構成されるクラッシュボックスであって、前記一対のコーナー部の成す角度、及び他の一対のコーナー部の成す角度が、いずれも90°であり、横断面形状が、一対のコーナー部を通過する線、及び他の一対のコーナー部を通過する線のいずれにも対称な形状であり、四角形断面を構成する4つのすべての辺において、一対のコーナー部と、他の一対のコーナー部とを除く位置に長手方向へ延びるとともに内部へ向けて凸となる1又は複数の溝を有し、他の一対のコーナー部を含む領域が平面状に切り欠かれて形成される切欠き部を備え、この切欠き部が、複数の構成部材同士の重ね合わせ接合部をなし、かつ全ての辺それぞれにおける、板厚t(mm)、切欠き部を設けられた状態における辺の長さW(mm)、溝の個数N、及びN個の溝の開口幅の平均値Wc(mm)が、下記式(1)の関係を充足し、さらに、切欠き部の板厚t(mm)及び長さW’(mm)が、下記式(3)の関係を充足することを特徴とするクラッシュボックスである。
【0021】
5<(W−N×Wc)/(N+1)/t<50 ・・・・・・・(1)
5<(W’/t)<50 ・・・・・・・(3)
この本発明の好適態様では、全てのコーナー部の曲率半径Rが、溝を構成する複数の角部のいずれの曲率半径Rcより大きいことが望ましい。
【0022】
別の観点からは、本発明は、上述したこれらの本発明に係るクラッシュボックスを、一対のコーナー部を通過する線が指向する方向、又は他の一対のコーナー部を通過する線が指向する方向が上下方向となるようにして、車体に取り付けることを特徴とするクラッシュボックスの車体への取付け構造である。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るクラッシュボックス及びその車体への取付け構造によれば、軸方向に対して斜め方向へ向けて負荷される衝撃荷重に対しても、全体での曲がり変形の発生を抑制でき、これにより、連続的に安定した蛇腹状の塑性座屈変形を発生できることから、斜め衝突に対しても優れた衝撃吸収特性、すなわち高い衝撃吸収エネルギー吸収量を確保することができる。
【0024】
これにより、ボディシェルの損傷を抑制して軽衝突時の修理費の低減を図るとともに、衝撃エネルギーを効果的に吸収して乗員の安全性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に係るクラッシュボックス及びその車体への取付け構造を実施するための最良の形態を、添付図面を参照しながら説明する。はじめに、本発明に係るクラッシュボックスの原理を説明する。
(1)原理
筒体であるクラッシュボックスの横断面形状である多角形断面は、筒体における稜線部をなす角と、筒体における稜線部間の平面部である辺とにより構成される。この筒体の軸方向へ荷重が負荷されてこの断面に荷重が作用する場合、稜線部と平面部とは面外変形(閉じた断面の外部側に向かう変形)を生じるが、剛性が高い稜線部は、剛性が稜線に対して相対的に低い平面部よりも小さい面外変形を発生するとともに、圧縮ひずみを生じる。その後、負荷される荷重が増大するに伴って、稜線部においても面外変形の量が増加していき、やがて稜線部が座屈して稜線部が折れ、塑性座屈変形が発生する。このクラッシュボックスは、これら一連の変形を数回繰り返すことにより、軸方向に蛇腹状に塑性座屈変形して圧壊することにより、衝撃エネルギーを吸収する。
【0026】
この一連の変形挙動は、入力される荷重の方向によって、変化する。例えば、クラッシュボックスの軸方向に対して斜め方向の荷重が入力される場合は、軸方向に荷重が入力される場合に比較して、稜線部の面外変形の量が大きくなるとともに圧縮ひずみが小さくなる。さらに、入力される斜め荷重が大きくなると、稜線部に生じる圧縮ひずみが限りなく小さくなり、大きな面外変形を生じ、稜線部が大きな曲率半径で曲がり、クラッシュボックス全体が折れ曲がる。特に、剛性が低い平面部に作用する斜め方向から入力される荷重が大きくなると、クラッシュボックスは容易に折れ曲がってしまう。
【0027】
このため、クラッシュボックス全体での折れ曲がりを抑制して軸方向に対して斜め方向へ向けて負荷される衝撃荷重に対する衝撃吸収性能を高めるためには、以下の観点に基づいて、クラッシュボックスの横断面形状を決定することが有効である。
【0028】
すなわち、斜め方向からの荷重入力に対して曲げ変形の抑制を可能とするためには、
(I)剛性が高い稜線部における斜め荷重の負担度合いを増加させること、すなわち斜め荷重の入力方向に対して稜線部が配置される横断面形状とすること、及び
(II)稜線部は、斜め方向から入力される荷重に対して生じる面外変形を小さくし、圧縮ひずみが高まる横断面形状とすること
が重要である。
【0029】
また、クラッシュボックスを構成する筒体の軸方向に衝撃荷重が入力されると、筒体は複数回の塑性座屈変形を生じ、その際に生じる荷重履歴によって、衝撃吸収エネルギーが決定される。すなわち、連続的に発生する塑性座屈変形の回数によって衝撃エネルギーの吸収量が決定される。
【0030】
まず、筒体に衝撃荷重が入力されると、筒体の横断面を構成する平面部は面外変形を生じ、稜線部は圧縮ひずみを生じる。その後、入力される衝撃荷重の増大に伴って、平面部での面外変形、及び稜線部での圧縮ひずみはいずれも増加し、やがて、稜線部での面外変形を発生するようになり、稜線部でn回目(nは1以上の自然数)の座屈を生じる。そして、稜線部で生じた座屈変形によって生成した座屈しわが平面部へと拡大され、平面部で座屈しわが生成する。その後、この平面部で生じた座屈しわを重ね、軸方向の他の部位で生じる次の座屈変形(n+1回目)へと移行する。
【0031】
n回目の座屈発生から(n+1)回目の座屈発生までの間隔、すなわち座屈波長は、上述したような変形の稜線部の座屈によって生成したしわの大きさに影響される。また、そのしわの大きさは、平面部で生じる面外変形に支配される。したがって、座屈波長が短い塑性座屈挙動によって衝撃エネルギーの吸収性能を向上させるためには、平面部で生じる面外変形を小さくすることが有効である。
【0032】
すなわち、曲げ変形を抑制しつつ、高い衝撃エネルギー吸収を得るために、座屈波長が短い連続的な塑性座屈変形を生じさせるためには、
(III)面外変形を小さく制御するために平面部の長さを短くすること、及び
(IV)平面部に稜線が存在する凹部を設けることによって所望の短い平面部の長さとすること
が重要である。
(2)本発明に係るクラッシュボックス
つぎに、この原理を前提として、本発明に係るクラッシュボックスを説明する。
【0033】
図3は、本発明に係るクラッシュボックス3の基本的な横断面形状を示す説明図である。図4(a)〜図4(d)は、本発明に係るクラッシュボックス3−1〜3−4の各種の横断面形状例を示す説明図である。
【0034】
本発明のクラッシュボックス3は、図3に示すように、対向して配置された一対のコーナー部4、5と、この一対のコーナー部4、5同士を結ぶ線に直交して配置された他の一対のコーナー部6、7とを備え、かつ外側にフランジを有さないとともにコーナー部4〜7により規定される四角形の横断面形状を有する金属製の筒体から構成される。
【0035】
連続的な塑性座屈変形を安定して発生させるためには、座屈変形によって生じた座屈しわを連続的に重ねることが求められる。外側にフランジを有する横断面形状を有する金属製の筒体では、フランジにおいても座屈しわを重ねる場合に、平面部とは異なる方向でしわを重ねる必要があり、その際の変形抵抗が高くなる。換言すれば、外側にフランジを有する横断面形状を有する金属製の筒体は、容易に座屈しわを重ねることができなくなる。以上の理由により、金属製の筒体は、横断面形状において外側にフランジを有さないほうが、安定して塑性座屈変形を示すことができる。そこで、本発明のクラッシュボックス3は、外側にフランジを有さないとともにコーナー部4〜7により規定される四角形の横断面形状を有する金属製の筒体から構成される。
【0036】
このように、このクラッシュボックス3は、車幅方向(図3における左右方向)又は車高方向(図3における上下方向)に、横断面形状の外郭をなす剛性が高い稜線部であるコーナー部4〜7を配置する四角形の断面形状を有する。
【0037】
このクラッシュボックス3の横断面形状は、一対のコーナー部4、5を通過する仮想の線lに対称な形状である。さらに、他の一対のコーナー部6、7を通過する線に対称な形状であることが望ましい。対称性が高まるほど、それだけ多様な入力方向からの斜め荷重に対する性能が向上するからである。
【0038】
オフセット衝突の場合、車幅方向又は上下方向への斜め荷重が入力されるので、クラッシュボックス3に曲げモーメントが生じる。このような斜め方向からの荷重入力に対してもクラッシュボックス3が安定して塑性座屈変形を発生するためには、曲げモーメントによって生じる全体での曲げ変形(折れ曲がり)を抑制することと、入力された衝撃荷重によって、筒体の軸方向へ衝撃荷重が入力された場合と同様の座屈波長が短い連続的な塑性座屈変形を発生することが重要である。筒体全体での曲げ変形を生じる場合は、座屈波長が長い変形となるからである。そこで、荷重が作用する外郭端に該当する位置に剛性が高いコーナー部6、7を配置する。このため、このクラッシュボックス3では、図4(a)に示すように、断面中心を通る直線上にコーナー部6、7を配置する。
【0039】
また、このクラッシュボックス3では、一対のコーナー部4、5の成す内角の角度θ1、θ2を90°以上150°以下とするとともに、他の一対のコーナー部6、7の成す内角の角度θ3、θ4を30°以上90°以下とする。この理由を説明する。
【0040】
稜線部であるコーナー部4〜7の剛性は、稜線部に存在する円弧長によって決定され、コーナー部4〜7が特定の曲率半径で設定される場合、この円弧長は、コーナー部4〜7の内角によって変化する。したがって、斜め方向から入力される衝撃荷重により生じる曲げモーメントに対してクラッシュボックス3が全体での曲がりを生じることなくこの衝撃荷重により塑性座屈変形を発生するためには、一対のコーナー部4、5の成す内角の角度θ1、θ2を90°以上150°以下とする。θ1、θ2が150°を超えると、クラッシュボックスの製造ならびに設計スペースを考慮に入れた範囲で決定される現実的な曲率半径(1.5〜10.0mm程度)の場合に、コーナー部6、7の円弧長が短くなり過ぎて所望の剛性を確保することができなくなり、狙いとする塑性座屈変形を生じることができなくなる。
【0041】
また、他の一対のコーナー部6、7の成す内角の角度θ3、θ4は、一対のコーナー部4、5の成す内角の角度θ1、θ2と連動するので、角度θ1、θ2を90°以上150°以下とすることに伴って、30°以上90°以下とする。
【0042】
一対のコーナー部4、5に比べ、他の一対のコーナー部6、7がより高い曲げ剛性が要求される場合は、一対のコーナー部4、5の成す角度θ1、θ2が、他の一対のコーナー部6、7の成す角度θ3、θ4よりも大きいことが望ましい。
【0043】
このクラッシュボックス3は、剛性が高い稜線部であるコーナー部4〜7における斜め荷重の負担度合いを増加させることが可能な形状、すなわち斜め荷重の入力方向に対してコーナー部4〜7が配置される横断面形状とする。また、コーナー部4〜7を設ける横断面形状とすることにより、斜め方向から入力される荷重に対して生じる面外変形を小さくすることができるとともにし、コーナー部4〜7に対する圧縮ひずみを高めることができる。
【0044】
さらに、このクラッシュボックス3は、一対のコーナー部4、5を通過する仮想の直線線lに対称に配置される2組の対をなす辺(8、9)、(10、11)のうちの少なくとも1組の対をなす辺8、9それぞれに、一対のコーナー部4、5と、他の一対のコーナー部6、7とを除く位置に、長手方向へ延びるとともに内部へ向けて凸となる1又は複数(図3では一つの場合を示す)の溝12、13を有している。
【0045】
そして、これらの溝12、13は、辺8,9それぞれにおける、板厚t(mm)、辺8〜11の長さW(mm)、溝12、13の個数N、及びN個の溝12、13の開口幅の平均値Wc(mm)が、下記式(1)の関係、望ましくは下記式(1’)の関係を充足するものである。
【0046】
5<(W−N×Wc)/(N+1)/t<50 ・・・・・・・(1)
5<(W−N×Wc)/(N+1)/t<30 ・・・・・・(1’)
これにより、このクラッシュボックス3は、短い座屈波長により蛇腹状に塑性座屈変形することができ、高い衝撃吸収エネルギー吸収性能を得られる。この理由を説明する。
【0047】
クラッシュボックス3が連続的な塑性座屈(進行性座屈)を生じ、その変形によって生じる荷重履歴によって決定される衝撃吸収エネルギー吸収量を高めるためには、座屈発生から次の座屈発生までの荷重変動を抑制すること、すなわち、座屈波長を短くすることが有効である。この座屈波長は、クラッシュボックス3の横断面において衝撃荷重によって生じる面外変形(変位)と密接な関係があり、この面外変形の量が大きいと座屈波長が長くなり、一方面外変形が小さいと座屈波長が短くなる。そのため、クラッシュボックス3の横断面で生じる面外変形を小さくするためには、横断面を構成する辺8〜11の幅、すなわち隣接するコーナー部4〜7間の距離を小さくすればよい。
【0048】
具体的には、コーナー部4〜7の間の距離Wを、筒体の板厚tの50倍未満とする。すなわち、このクラッシュボックス3では、溝12、13を設けられない1組の対をなす辺10、11それぞれにおける板厚t(mm)及び辺の長さW(mm)は、下記式(2)の関係を充足する。
【0049】
5<(W/t)<50 ・・・・・・・(2)
これに対し、コーナー部4〜7の間の距離Wが板厚tの50倍以上となる辺8、9には、図3に示すように、溝12、13をそれぞれ設けることによって、平面部8、9を分断し、溝12、13を除いた辺8、9が上記式(2)の関係を充足する。
【0050】
なお、コーナー部4〜7の間の距離Wが板厚の50倍未満の場合であっても、平面部8、9に溝12、13を設けることにより平面部8、9をさらに細かく分断するようにしてもよい。
【0051】
溝8、9は、斜め荷重が作用した際における全体での曲がり変形の抑制とともに、その荷重によって塑性座屈変形の起点となるコーナー部4〜7を含まない位置に設けることが望ましい。
【0052】
このように、クラッシュボックス3は、平面部8、9の幅Wが大きい横断面形状である場合に、短い座屈波長を得るために平面部8、9に溝12、13を設けて、この溝12、13により新たな稜線部を形成し、平面部8、9の幅を、短い座屈波長を得られる範囲に制御するものである。
【0053】
ここで、上述した効果を確実に得るためには、全ての辺8〜11それぞれにおける、板厚t(mm)、辺8〜11の長さW(mm)、溝12、13の個数N、及びN個の溝12、13の開口幅の平均値Wc(mm)が、式(1):5<(W−N×Wc)/(N+1)/t<50の関係を充足することが望ましく、式(2):5<(W−N×Wc)/(N+1)/t<30の関係を充足することが望ましい。
【0054】
なお、溝12、13の深さdcが浅過ぎると、上述した辺8、9を分断する効果が弱まるため、溝12、13の深さdcは10mm超とすることが望ましい。
このクラッシュボックス3では、全てのコーナー部4〜7の曲率半径Rが、溝12、13を構成する角部14〜21のいずれの曲率半径Rcより大きいことが望ましい。この理由を説明する。
【0055】
薄肉円環の断面2次モーメントは、径及び肉厚によって支配され、径が大きいほど断面2次モーメントは大きくなり、曲げ強度に影響を及ぼす断面係数も同様に径が大きいほど増大する。すなわち、クラッシュボックス3に対し斜め方向から荷重が作用した際に生じる曲げモーメントに対して曲げ変形を抑制するためには、横断面の外郭に位置して入力される荷重を支持するコーナー部4〜7の断面2次モーメントを大きくとることが有効である。また、溝12、13を構成する角部14〜21の曲率半径を大きくすると、溝12、13での変形抵抗が過度に高まり、この部分での塑性座屈変形が生じ難くなる。
【0056】
以上の理由により、本発明では、クラッシュボックス3の全体の曲げ強度を最も支配する全てのコーナー部4〜7の曲率半径Rを、溝12、13を構成する角部14〜21の曲率半径Rcより大きくすることが望ましい。
【0057】
このように、本実施の形態のクラッシュボックス3は、車幅方向又は車高方向にコーナー部4〜7を配置し、そのコーナー部4〜7を形成する内角θ1〜θ4を最適な範囲に制御するとともに、一対のコーナー4、5部を通過する仮想の直線lに対称に配置される2組の対をなす辺(8、9)、(10、11)のうちの少なくとも1組の対をなす辺8、9それぞれに、コーナー部4、6、7を除く位置に長手方向へ延び、内部へ向けて凸となるとともに式(1)を満足する1又は複数の溝を設けることによって、斜め荷重が入力された場合の曲げ強度を向上させるとともにこの衝撃荷重により塑性座屈変形を発生するものである。
【0058】
このため、このクラッシュボックス3は、軸方向に対して斜め方向へ向けて負荷される衝撃荷重に対しても、全体での曲がり変形の発生を抑制でき、蛇腹状に塑性座屈変形することができる。
【0059】
図4(a)〜図4(d)は、図3により示す本発明に係るクラッシュボックス3の基本的な横断面形状を変形した横断面形状を有する各種のクラッシュボックス3−1〜3−4を示す説明図である。以下、これらのクラッシュボックス3−1〜3−4について、クラッシュボックス3と相違する部分を説明し、共通する部分については同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
【0060】
図4(a)に示すクラッシュボックス3−1は、図3に示すクラッシュボックス3において、対をなす辺8、9のみならず対をなす辺10、11にも溝22、23を設けることによって、4つの辺8〜11の全てに溝12、13、22、23を設けたものである。
【0061】
このクラッシュボックス3−1は、クラッシュボックス3と比較すると、横断面形状の対称性がより高まるので、それだけ多様な入力方向からの斜め荷重に対する性能が向上する。
【0062】
図4(b)に示すクラッシュボックス3−2は、クラッシュボックス3において、他の1のコーナー部6、7を含む領域が平面状に切り欠かれて形成される切欠き部24、25を備えるものである。切欠き部24、25の幅W’は、クラッシュボックス3−2をなす筒体の板厚tの5倍以上50倍未満、望ましくは30倍未満になっている。
【0063】
なお、この切欠き部24、25を設ける場合、上記式(1)における辺の長さW(mm)とは、この切欠き部24、25を形成することにより短くなった後における辺の長さを意味する。
【0064】
図4(c)に示すクラッシュボックス3−3は、クラッシュボックス3−2において、1のコーナー部4、5を含む領域が平面状に切り欠かれて形成される切欠き部26、27を備えるものである。切欠き部26、27の幅W’は、クラッシュボックス3−3をなす筒体の板厚tの5倍以上50倍未満、望ましくは30倍未満になっている。
【0065】
なお、この切欠き部26、27を設ける場合にも、上記式(1)における辺の長さW(mm)とは、この切欠き部26、27を形成することにより短くなった後における辺の長さを意味する。
【0066】
図4(d)に示すクラッシュボックス3−3は、クラッシュボックス3−2において切欠き部24〜27を設けることにより形成されるとともにクラッシュボックス3−3の全体の曲げ強度を最も支配する新たな頂点28a〜28hの曲率半径ρbを、溝12、13を構成する角部14〜21の曲率半径Rcより大きくすることによって、塑性座屈変形を確実に発生させるものである。
【0067】
これらの切欠き部24〜27の幅(長さ)W’と板厚tの比(W’/t)が5未満であると、負荷される衝撃荷重により軸方向へ蛇腹状に塑性座屈変形する際に隣接する稜線が同期して変形するようになり、塑性座屈変形が不安定となる。一方、比(W’/t)が50超であると、連続的な塑性座屈変形を生じる際の座屈波長が長くなり、衝撃エネルギーを効果的に吸収することができない。
【0068】
以上説明したクラッシュボックス3〜3−4では、1のコーナー部4、5が上下方向に位置するようにして車体に装着することが望ましい。
なお、図4(b)〜図4(d)に示すクラッシュボックス3−2〜3−4において、切欠き部24〜27に、その長さW’が筒体の板厚tの50倍以上であるものが存在する場合には、この切欠き部24〜27の両端のコーナー部を除く位置に、長手方向へ延びるとともに内部へ向けて凸となる1又は複数の溝を設け、かつ、この切欠き部の板厚t(mm)、長さW’(mm)、溝の個数N、及びN個の溝の開口幅の平均値Wc(mm)が、5<(W’−N×Wc)/(N+1)/t<50の関係、望ましくは5<(W’−N×Wc)/(N+1)/t<30の関係を充足することにより、衝撃荷重を負荷されて圧壊する際に発生する面外変形の量を抑制できるので、望ましい。
【0069】
また、図4(c)〜図4(d)に示すクラッシュボックス3−2〜3−4において、筒体が、一の構成部材の縁部を重ね合わせて接合されること、又は軸方向に沿って分割される複数の構成部材それぞれの縁部を重ね合わせて接合されることによって構成され、上述した切欠き部24〜27の一部、例えば切欠き部24、25又は切欠き部26、27が、一の構成部材の重ね合わせ接合部、又は複数の構成部材同士の重ね合わせ接合部であることが望ましい。
【0070】
特に、切欠き部24、25が、一の構成部材の縁部である重ね合わせ接合部、又は複数の構成部材同士の重ね合わせ接合部であると、特に斜め方向からの衝突による衝撃荷重が負荷された際における筒体の曲げ剛性が向上し、蛇腹状の塑性座屈変形の途中の時点での筒体全体の大きな曲がり変形の発生を抑制することが可能となる。さらに、重ね合わせ接合部の接合を、例えば構造接着剤を用いた接着や、例えばレーザー溶接等の連続溶接といった、連続的な接合とすると、例えばスポット溶接といった断続的な接合とする場合よりも、筒体の曲げ剛性をさらに高めることができるので、望ましい。
【0071】
これらのクラッシュボックス3〜3−4は、一対のコーナー部4、5を通過する線が指向する方向、又は他の一対のコーナー部6、7を通過する線が指向する方向が上下方向となるようにして、車体に取り付けられることにより、車幅又は車高方向に対して斜め方向から入力される衝撃荷重に対しても、全体での曲がり変形の発生を抑制でき、これにより、連続的に安定した蛇腹状の塑性座屈変形を発生できることから、斜め衝突に対しても優れた衝撃吸収特性、すなわち高い衝撃吸収エネルギー吸収量を確保することができる。
【実施例1】
【0072】
さらに、実施例を参照しながら、本発明をより具体的に説明する。
図5(a)〜図5(c)に示す断面形状を有するクラッシュボックス30〜32を用いて、クラッシュボックス30〜32に対して斜め方向からの荷重が入力された場合の塑性座屈挙動について検討した。
【0073】
なお、図5(a)に示すクラッシュボックス30、及び図5(b)に示すクラッシュボックス31は、いずれも、対向して配置された一対のコーナー部33、34と、この一対のコーナー部33、34同士を結ぶ線に直交して配置された他の一対のコーナー部35、36とを備え、かつ外側にフランジを有さない四角形の横断面形状を有するとともに、軸方向に沿って分割される二つの構成部材37a、37bそれぞれを部分的に重ね合わせて接合されることにより構成される金属製の筒体から構成されるクラッシュボックスであって、
(a)図5(b)において、一対のコーナー部33、34の成す角度、及び他の一対のコーナー部35、36の成す角度は、いずれも90°であること、図5(a)において、一対のコーナー部33、34の成す角度は120°で、他の一対のコーナー部35、36の成す角度は60°であること、
(b)横断面形状が、一対のコーナー部33、34を通過する線、及び他の一対のコーナー部35、36を通過する線のいずれにも対称な形状であること、
(c)四角形断面を構成する4つのすべての辺において、一対のコーナー部33、34と、他の一対のコーナー部35、36とを除く位置に長手方向へ延びるとともに内部へ向けて凸となる1の溝38を有すること、
(d)全ての辺それぞれにおける、板厚t(mm)、辺の長さW(mm)、溝38の個数N、及びN個の溝38の開口幅の平均値Wc(mm)が、式(1):5<(W−N×Wc)/(N+1)/t<50の関係を充足すること
(e)他の一対のコーナー部35、36を含む領域が平面状に切り欠かれて形成される切欠き部39を備え、この切欠き部39が、複数の構成部材37a、37b同士の重ね合わせ接合部をなすこと、及び
(f)全てのコーナー部33〜36の曲率半径Rが、溝を構成する複数の角部のいずれの曲率半径Rcより大きいことを特徴とする。
【0074】
図5(a)のModel A、ならびに図5(b)のModel Bは、いずれも本発明例であり、図5(c)のModel Cは比較例である。なお、Model A、Model Bの板厚は1.2mmであり、Model Cの板厚は1.4mmであり、Model A〜Cの軸方向長さは200mmである。また、解析には、440MPa級高張力鋼板を想定した材料特性を用い、さらにひずみ速度依存性はCowper−Symonds則にて考慮した。
【0075】
解析条件は、図6に示すように、図5に示す断面形状を有するクラッシュボックス30〜32をそれぞれ二つずつバンパーレインフォース40aに装着したモジュール部材40に対して、剛体壁41を10度の斜め方向から速度16km/hで衝突させ、クラッシュボックス30〜32の塑性座屈挙動を評価した。なお、剛体壁41のバンパーレインフォース40aに対するオーバーラップ率は40%である。
【0076】
図7は、クラッシュボックス30〜32の荷重履歴を比較して示すグラフである。図8は、クラッシュボックス30〜32の載荷点変位25mm、55mm、90mmにおける変形状態を示す説明図である。
【0077】
図7にグラフで示すように、本発明例であるModel AならびにModel Bは、比較例のModel Cに比べて、薄肉にあるにもかかわらず高荷重を示し、また荷重の変動も小さいことがわかる。
【0078】
また、図8に示すように、比較例のModel Cが載荷点変位δ=55mmにおいて側面に大きな座屈しわが生成し、載荷点変位δ=90mmにおいては、反衝突端で塑性座屈変形を発生しているのに対して、本発明例であるModel A、Model Bは、衝突端から順に細かい座屈しわを生成していることがわかる。すなわち、斜め方向からの荷重が入力することによって曲げモーメントが作用する場合あっても、本発明例によれば、従来例に比較して、安定した塑性座屈変形を生じることがわかる。
【0079】
図9は、クラッシュボックス30〜32について面外変形の量を比較して示すグラフであり、図9(a)は車両幅方向の内側の側面における面外変形の量を示し、図9(b)は車両幅方向の外側の側面における面外変形の量を示す。
【0080】
図9(a)及び図9(b)にグラフで示すように、本発明例であるModel A、Model Bは、比較例であるModel Cに比べて、面外変形の量が小さいことがわかる。
【実施例2】
【0081】
本実施例では、斜め方向からの衝撃荷重がクラッシュボックスに入力した場合の塑性座屈挙動に及ぼす、コーナー部の曲率半径R、及び溝を構成する複数の角部のいずれの曲率半径Rcの影響を明確にするために、数値解析による検討を行った。
【0082】
図10は、この解析に用いたクラッシュボックス50の横断面形状を示す説明図である。解析には、内角α=90度の部材を対象として、溝51ならびにコーナー部52を構成する稜線の曲率半径を、それぞれ、(a部:2mm、b部:2mm)、(a部:2mm、b部:8mm)、(a部:2mm、b部:16mm)とした計3種類の断面形状を有するクラッシュボックス50a〜50cを用いた。なお、a部とは溝51を構成する4つの稜線部を意味し、b部とはコーナー部52を構成する稜線部を意味する。
【0083】
クラッシュボックス50a〜50cの板厚は1.2mmであり、軸方向の長さは200mmである。また、解析には440MPa級高張力鋼板を想定した材料特性を用い、さらにひずみ速度依存性はCowper−Symonds則にて考慮した。
【0084】
解析条件は、図11に示すように、図10に示す横断面形状を有するクラッシュボックス50a〜50cを二つバンパーレインフォース53に装着させたモジュール部材54に対して、剛体壁55を15度、20度の方向から、速度16km/hで衝突させた際のクラッシュボックス50a〜50cの塑性座屈挙動を評価した。なお、剛体壁55のバンパーレインフォース53に対するオーバーラップ率は40%である。
【0085】
図12は、クラッシュボックス50a〜50cについて載荷点変位δ=50mmにおける変形状態を示す説明図である。
図12に示すように、衝突角度が15度から20度になると、クラッシュボックス50a〜50cに作用する斜め方向荷重が大きくなるため、クラッシュボックス50a〜50cには大きい曲げモーメントが作用するようになる。その結果、衝突角度が20度の場合は、衝突角度が15度の場合に比べて、図中の破線からのずれ量が増大することからも理解されるように、全体での曲げ変形量が大きくなっている。
【0086】
さらに、衝突角度20度の場合の変形図に着目し、溝部及びコーナー部を構成する稜線部の曲率半径の影響を解析してみると、コーナー部の曲率半径ρbが小さいクラッシュボックス50aは、曲率半径ρbが大きいクラッシュボックス50b、50cに比較して、軸方向中央から反衝突端側の方向の部材幅方向の内側の稜線(図中矢印)において、大きな曲げ変形部位が発生することがわかる。すなわち、曲率半径ρbが小さい部材は、コーナー部の剛性が低いため、入力された衝撃荷重によってクラッシュボックス50aに生じる曲げモーメントに起因した曲げ変形を抑制することができず、幅方向の側面で大きな面外変位を生じ、その結果、高い衝撃吸収エネルギー吸収量を得るために必要となる軸方向への連続的な塑性座屈変形を発生することができない。
【0087】
図13、14は、クラッシュボックス50a〜50cの幅方向の半割品重ね位置の、幅方向内側の側面の面外変位を比較した結果を示すグラフであり、図13は衝突角度15度の場合を示し、図14は、衝突角度20度の場合の結果を示す。
【0088】
いずれも結果とも、衝突端側(x=0付近側)では、面外変形が正負側に生じ、その面外変形の曲線の山谷が重なった様子を示しており、座屈しわが重なった状態を意味する。
また、図13、14のグラフの結果を比較すると、衝突角度15度の場合は、衝突角度が20度の場合に比較して、面外変形の絶対値が小さく、また反衝突側方向における面外変位はほぼゼロであり、全体での曲がり変形を発生していないことがわかる。
【0089】
これに対し、衝突角度20度の場合は、軸方向の中央から反衝突端側にかけて面外変形を生じており、全体での曲がり変形が発生することがわかる。
次に、各クラッシュボックス50a〜50c間での面外変形の量を比較すると、ρb=16mmであるクラッシュボックス50cは、ρb=2mmであるクラッシュボックス50aや、ρb=8mmであるクラッシュボックス50bに比較して面外変形が小さく、クラッシュボックス50cがもっとも面外変形が抑制され、曲がり変形の程度が軽度であることがわかる。すなわち曲率半径ρbが大きいクラッシュボックスほど、斜め荷重が入力された場合の曲がり変形の程度が小さいことがわかる。
【0090】
このように、全てのコーナー部の曲率半径Rを、溝を構成する複数の角部のいずれの曲率半径Rcより大きくすることにより、クラッシュボックスに対し斜め方向からの荷重が作用した場合の全体での曲がり変形を抑制することが可能となり、これによって、短い座屈波長での塑性座屈変形を維持することができ、高い衝撃エネルギー吸収量を得ることができる。コメント:曲率半径の記号が不統一である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】いわゆるオフセット衝突の状況を模式的に示す説明図である。
【図2】クラッシュボックスへの衝撃荷重の入力方向を模式的に示す説明図である。
【図3】本発明に係るクラッシュボックスの基本的な横断面形状を示す説明図である。
【図4】図4(a)〜図4(d)は、本発明に係るクラッシュボックスの各種の横断面形状例を示す説明図である。
【図5】図5(a)〜図5(c)は、実施例1で解析したクラッシュボックスの断面形状を示す説明図である。
【図6】解析条件を示す説明図である。
【図7】クラッシュボックスの荷重履歴を比較して示すグラフである。
【図8】クラッシュボックスの載荷点変位25mm、55mm、90mmにおける変形状態を示す説明図である。
【図9】クラッシュボックスについて面外変形の量を比較して示すグラフであり、図9(a)は車両幅方向の内側の側面における面外変形の量を示し、図9(b)は車両幅方向の外側の側面における面外変形の量を示す。
【図10】実施例2の解析に用いたクラッシュボックスの横断面形状を示す説明図である。
【図11】解析条件を示す説明図である。
【図12】クラッシュボックスについて載荷点変位δ=50mmにおける変形状態を示す説明図である。
【図13】クラッシュボックスの幅方向の半割品重ね位置の、幅方向内側の側面の面外変位を比較した結果を示すグラフであり、衝突角度15度の場合を示す。
【図14】クラッシュボックスの幅方向の半割品重ね位置の、幅方向内側の側面の面外変位を比較した結果を示すグラフであり、衝突角度20度の場合の結果を示す。
【符号の説明】
【0092】
3,3−1〜3−4 本発明に係るクラッシュボックス
4、5 一対のコーナー部
6、7 他の一対のコーナー部
8〜11 辺(平面部)
12、13、22、23 溝
14〜21 角部
24〜27 切欠き部
28a〜28h 頂点
30〜32 クラッシュボックス
33、34 一対のコーナー部
35、36 他の一対のコーナー部
37a、37b 構成部材
38 溝
39 切欠き部
40a バンパーレインフォース
40 モジュール部材
41 剛体壁
50、50a〜50c クラッシュボックス
51 溝
52 コーナー部
53 バンパーレインフォース
54 モジュール部材
55 剛体壁
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向して配置された一対のコーナー部と、該一対のコーナー部同士を結ぶ線に直交して配置された他の一対のコーナー部とを備え、かつ外側にフランジを有さない四角形の横断面形状を有する金属製の筒体から構成されるクラッシュボックスであって、
前記一対のコーナー部の成す角度は90°以上150°以下であるとともに前記他の一対のコーナー部の成す角度は30°以上90°以下であり、
前記横断面形状は、前記一対のコーナー部を通過する線に対称な形状であり、かつ
該一対のコーナー部を通過する線に対称に配置される2組の対をなす辺のうちの少なくとも1組の対をなす辺それぞれに設けられる、前記一対のコーナー部と、前記他の一対のコーナー部とを除く位置に長手方向へ延びるとともに内部へ向けて凸となる1又は複数の溝を有するとともに、前記全ての辺それぞれにおける、板厚t(mm)、辺の長さW(mm)、溝の個数N、及びN個の溝の開口幅の平均値Wc(mm)が、下記式(1)の関係を充足すること
を特徴とするクラッシュボックス。
5<(W−N×Wc)/(N+1)/t<50 ・・・・・・・(1)
【請求項2】
前記溝は4つの辺全てに設けられる請求項1に記載されたクラッシュボックス。
【請求項3】
前記溝を設けられない1組の対をなす辺それぞれにおける板厚t(mm)及び辺の長さW(mm)が、下記式(2)の関係を充足する請求項1に記載されたクラッシュボックス。
5<(W/t)<50 ・・・・・・・(2)
【請求項4】
前記一対のコーナー部の成す角度は、前記他の一対のコーナー部の成す角度よりも大きい請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載されたクラッシュボックス。
【請求項5】
さらに、少なくとも一のコーナー部を含む領域が平面状に切り欠かれて形成される切欠き部を備え、該切欠き部の板厚t(mm)及び長さW’(mm)が、下記式(3)の関係を充足する請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載されたクラッシュボックス。
5<(W’/t)<50 ・・・・・・・(3)
ただし、上記式(1)における辺の長さW(mm)とは、前記切欠き部を設けられた状態における辺の長さを意味する。
【請求項6】
さらに、前記一対のコーナー部と前記他の一対のコーナー部のうち少なくとも一のコーナー部を含む領域が平面状に切り欠かれて形成される切欠き部を備え、該切欠き部の長さは前記筒体の板厚の50倍以上であるとともに、該切欠き部の両端のコーナー部を除く位置に長手方向へ延びるとともに内部へ向けて凸となる1又は複数の溝を有し、かつ、該切欠き部の板厚t(mm)、長さW’(mm)、溝の個数N、及びN個の溝の開口幅の平均値Wc(mm)が、下記式(4)の関係を充足すること
を特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載されたクラッシュボックス。
5<(W’−N×Wc)/(N+1)/t<50 ・・・・・・・(4)
ただし、上記式(1)における辺の長さW(mm)とは、前記切欠き部を設けられた状態における辺の長さを意味する。
【請求項7】
前記筒体は、一の構成部材の縁部を重ね合わせて接合されること、又は軸方向に沿って分割される複数の構成部材それぞれの縁部を重ね合わせて接合されることによって構成され、前記切欠き部は、該一の構成部材の重ね合わせ接合部、又は複数の構成部材同士の重ね合わせ接合部であること
を特徴とする請求項5又は請求項6に記載されたクラッシュボックス。
【請求項8】
全ての前記コーナー部の曲率半径Rは、前記溝を構成する複数の角部のいずれの曲率半径Rcより大きいこと
を特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載されたクラッシュボックス。
【請求項9】
さらに、他の一対のコーナー部を通過する線に対称な形状であること
を特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載されたクラッシュボックス。
【請求項10】
対向して配置された一対のコーナー部と、該一対のコーナー部同士を結ぶ線に直交して配置された他の一対のコーナー部とを備え、かつ外側にフランジを有さない四角形の横断面形状を有するとともに、軸方向に沿って分割される二つの構成部材それぞれの縁部を部分的に重ね合わせて接合されることにより構成される金属製の筒体から構成されるクラッシュボックスであって、
前記一対のコーナー部の成す角度、及び前記他の一対のコーナー部の成す角度は、いずれも90°であり、
前記横断面形状は、前記一対のコーナー部を通過する線、及び他の一対のコーナー部を通過する線のいずれにも対称な形状であり、
前記四角形断面を構成する4つのすべての辺において、前記一対のコーナー部と、前記他の一対のコーナー部とを除く位置に長手方向へ延びるとともに内部へ向けて凸となる1又は複数の溝を有し、
前記他の一対のコーナー部を含む領域が平面状に切り欠かれて形成される切欠き部を備え、該切欠き部は、前記複数の構成部材同士の重ね合わせ接合部をなし、かつ
前記全ての辺それぞれにおける、板厚t(mm)、前記切欠き部を設けられた状態における辺の長さW(mm)、溝の個数N、及びN個の溝の開口幅の平均値Wc(mm)が、下記式(1)の関係を充足し、さらに
前記切欠き部の板厚t(mm)及び長さW’(mm)が、下記式(3)の関係を充足すること
を特徴とするクラッシュボックス。
5<(W−N×Wc)/(N+1)/t<50 ・・・・・・・(1)
5<(W’/t)<50 ・・・・・・・(3)
【請求項11】
全ての前記コーナー部の曲率半径Rは、前記溝を構成する複数の角部のいずれの曲率半径Rcより大きいこと
を特徴とする請求項10に記載されたクラッシュボックス。
【請求項12】
請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載されたクラッシュボックスを、前記一対のコーナー部を通過する線が指向する方向、又は他の一対のコーナー部を通過する線が指向する方向が上下方向となるようにして、車体に取り付けること
を特徴とするクラッシュボックスの車体への取付け構造。
【請求項1】
対向して配置された一対のコーナー部と、該一対のコーナー部同士を結ぶ線に直交して配置された他の一対のコーナー部とを備え、かつ外側にフランジを有さない四角形の横断面形状を有する金属製の筒体から構成されるクラッシュボックスであって、
前記一対のコーナー部の成す角度は90°以上150°以下であるとともに前記他の一対のコーナー部の成す角度は30°以上90°以下であり、
前記横断面形状は、前記一対のコーナー部を通過する線に対称な形状であり、かつ
該一対のコーナー部を通過する線に対称に配置される2組の対をなす辺のうちの少なくとも1組の対をなす辺それぞれに設けられる、前記一対のコーナー部と、前記他の一対のコーナー部とを除く位置に長手方向へ延びるとともに内部へ向けて凸となる1又は複数の溝を有するとともに、前記全ての辺それぞれにおける、板厚t(mm)、辺の長さW(mm)、溝の個数N、及びN個の溝の開口幅の平均値Wc(mm)が、下記式(1)の関係を充足すること
を特徴とするクラッシュボックス。
5<(W−N×Wc)/(N+1)/t<50 ・・・・・・・(1)
【請求項2】
前記溝は4つの辺全てに設けられる請求項1に記載されたクラッシュボックス。
【請求項3】
前記溝を設けられない1組の対をなす辺それぞれにおける板厚t(mm)及び辺の長さW(mm)が、下記式(2)の関係を充足する請求項1に記載されたクラッシュボックス。
5<(W/t)<50 ・・・・・・・(2)
【請求項4】
前記一対のコーナー部の成す角度は、前記他の一対のコーナー部の成す角度よりも大きい請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載されたクラッシュボックス。
【請求項5】
さらに、少なくとも一のコーナー部を含む領域が平面状に切り欠かれて形成される切欠き部を備え、該切欠き部の板厚t(mm)及び長さW’(mm)が、下記式(3)の関係を充足する請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載されたクラッシュボックス。
5<(W’/t)<50 ・・・・・・・(3)
ただし、上記式(1)における辺の長さW(mm)とは、前記切欠き部を設けられた状態における辺の長さを意味する。
【請求項6】
さらに、前記一対のコーナー部と前記他の一対のコーナー部のうち少なくとも一のコーナー部を含む領域が平面状に切り欠かれて形成される切欠き部を備え、該切欠き部の長さは前記筒体の板厚の50倍以上であるとともに、該切欠き部の両端のコーナー部を除く位置に長手方向へ延びるとともに内部へ向けて凸となる1又は複数の溝を有し、かつ、該切欠き部の板厚t(mm)、長さW’(mm)、溝の個数N、及びN個の溝の開口幅の平均値Wc(mm)が、下記式(4)の関係を充足すること
を特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載されたクラッシュボックス。
5<(W’−N×Wc)/(N+1)/t<50 ・・・・・・・(4)
ただし、上記式(1)における辺の長さW(mm)とは、前記切欠き部を設けられた状態における辺の長さを意味する。
【請求項7】
前記筒体は、一の構成部材の縁部を重ね合わせて接合されること、又は軸方向に沿って分割される複数の構成部材それぞれの縁部を重ね合わせて接合されることによって構成され、前記切欠き部は、該一の構成部材の重ね合わせ接合部、又は複数の構成部材同士の重ね合わせ接合部であること
を特徴とする請求項5又は請求項6に記載されたクラッシュボックス。
【請求項8】
全ての前記コーナー部の曲率半径Rは、前記溝を構成する複数の角部のいずれの曲率半径Rcより大きいこと
を特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載されたクラッシュボックス。
【請求項9】
さらに、他の一対のコーナー部を通過する線に対称な形状であること
を特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載されたクラッシュボックス。
【請求項10】
対向して配置された一対のコーナー部と、該一対のコーナー部同士を結ぶ線に直交して配置された他の一対のコーナー部とを備え、かつ外側にフランジを有さない四角形の横断面形状を有するとともに、軸方向に沿って分割される二つの構成部材それぞれの縁部を部分的に重ね合わせて接合されることにより構成される金属製の筒体から構成されるクラッシュボックスであって、
前記一対のコーナー部の成す角度、及び前記他の一対のコーナー部の成す角度は、いずれも90°であり、
前記横断面形状は、前記一対のコーナー部を通過する線、及び他の一対のコーナー部を通過する線のいずれにも対称な形状であり、
前記四角形断面を構成する4つのすべての辺において、前記一対のコーナー部と、前記他の一対のコーナー部とを除く位置に長手方向へ延びるとともに内部へ向けて凸となる1又は複数の溝を有し、
前記他の一対のコーナー部を含む領域が平面状に切り欠かれて形成される切欠き部を備え、該切欠き部は、前記複数の構成部材同士の重ね合わせ接合部をなし、かつ
前記全ての辺それぞれにおける、板厚t(mm)、前記切欠き部を設けられた状態における辺の長さW(mm)、溝の個数N、及びN個の溝の開口幅の平均値Wc(mm)が、下記式(1)の関係を充足し、さらに
前記切欠き部の板厚t(mm)及び長さW’(mm)が、下記式(3)の関係を充足すること
を特徴とするクラッシュボックス。
5<(W−N×Wc)/(N+1)/t<50 ・・・・・・・(1)
5<(W’/t)<50 ・・・・・・・(3)
【請求項11】
全ての前記コーナー部の曲率半径Rは、前記溝を構成する複数の角部のいずれの曲率半径Rcより大きいこと
を特徴とする請求項10に記載されたクラッシュボックス。
【請求項12】
請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載されたクラッシュボックスを、前記一対のコーナー部を通過する線が指向する方向、又は他の一対のコーナー部を通過する線が指向する方向が上下方向となるようにして、車体に取り付けること
を特徴とするクラッシュボックスの車体への取付け構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−184417(P2009−184417A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−24011(P2008−24011)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】
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