説明

クラッチを備えた圧縮機の起動方法

【課題】 軸封装置を構成するOリングが低温硬化した状態での圧縮機起動に伴う不具合発生を防止することができるとともに、軸封装置からの冷媒の漏れを防止することができる圧縮機の起動方法を提供すること。
【解決手段】 駆動源からの駆動力を圧縮機10の回転軸13に伝達したり、あるいは前記駆動源からの駆動力を遮断したりするクラッチ30を備えた圧縮機10の起動方法であって、前記圧縮機10の起動時において、前記圧縮機10のハウジング11の温度が、所定値よりも高い場合に、前記クラッチ30を繋いで前記駆動源を起動し、前記圧縮機10のハウジング11の温度が、所定値以下の場合、前記クラッチ30を繋がずに前記ハウジング11の温度を上昇させるようにし、前記圧縮機10のハウジング11の温度が、所定値よりも高くなったら、前記クラッチ30を繋いで前記駆動源を起動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調装置や陸上輸送用冷凍ユニット等に適用される、クラッチを備えた圧縮機の起動方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空調装置や陸上輸送用冷凍ユニット等に適用される圧縮機としては、ベルトを介して伝達されたエンジンや電動モータ等からの駆動力を圧縮機の回転軸に伝達したり、あるいはエンジンや電動モータ等からの駆動力を遮断したりするクラッチを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−256274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このようなクラッチを備えた圧縮機では、起動時、ハウジングの温度(あるいは環境温度)が低いにもかかわらずクラッチが繋がれてしまうことがある。圧縮機の回転軸の周りには、冷媒がハウジングの外に漏れだしてしまうのを防止するための軸封装置(例えば、メカニカルシール)が設けられており、ハウジングの温度が低い場合、この軸封装置を構成しているOリングが低温硬化しているおそれがある。このような状態でクラッチが繋がれると、回転軸の軸方向に衝撃力が加わり、これによってOリングが軸方向にずれてしまい、この部分から冷媒が外に漏れ出てしまうおそれがある。
また、圧縮機のノーズ部(軸受筒)とクラッチの駆動ロータ(駆動輪)との間に配置されたクラッチ軸受は、手で容易に着脱できるよう、軸受筒の外径が軸受の内径よりも小さくなるように構成されているため、クラッチ軸受がノーズ部に対してがたつくことがあり、これによってOリングが軸方向と直交する方向にずれてしまい、この部分から冷媒が外に漏れ出てしまうおそれもあった。
【0004】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、軸封装置を構成するOリングが低温硬化している場合の圧縮機起動に伴う不具合発生を防止することができるとともに、軸封装置からの冷媒の漏れを防止することができる圧縮機の起動方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用した。
本発明による圧縮機の起動方法は、駆動源からの駆動力を圧縮機の回転軸に伝達したり、あるいは前記駆動源からの駆動力を遮断したりするクラッチを備えた圧縮機の起動方法であって、前記圧縮機の起動時において、前記圧縮機のハウジングの温度が、所定値よりも高い場合に、前記クラッチを繋いで前記駆動源を起動し、前記圧縮機のハウジングの温度が、所定値以下の場合、前記クラッチを繋がずに前記ハウジングの温度を上昇させるようにし、前記圧縮機のハウジングの温度が、所定値よりも高くなったら、前記クラッチを繋いで前記駆動源を起動するものである。
このような圧縮機の起動方法によれば、ハウジングの温度が、所定値(例えば、−10℃)以下の場合(すなわち、圧縮機内に設けられた軸封装置を構成するOリングが低温硬化してしまい、クラッチが入るときに加わる回転軸の軸方向の移動に追従できないような場合)には、クラッチが入らず、ハウジング温度が、所定値(例えば、−10℃)よりも高い場合(すなわち、圧縮機内に設けられた軸封装置を構成するOリングが低温硬化するおそれがなく、クラッチが入るときに加わる回転軸の軸方向の移動に追従できるような場合)にのみクラッチが入るようになっている。
これにより、軸封装置を構成するOリングが低温硬化した状態で圧縮機を起動することによって、これらOリングが回転軸の軸方向にずれてしまうことを防止することができて、軸封装置から冷媒が外に漏れ出てしまうことを防止することができる。
【0006】
本発明による圧縮機の起動方法は、前記クラッチとして電磁クラッチが設けられており、当該電磁クラッチは、前記圧縮機の軸受筒に圧入されたクラッチ軸受を介して前記軸受筒に取り付けられている。
このような圧縮機の起動方法によれば、軸受筒とクラッチ軸受、およびクラッチ軸受と電磁クラッチの駆動ロータが、それぞれ密着するように構成されているので、これらの間に生じるガタツキをなくすことができ、軸封装置を構成するOリングが、回転軸の軸方向と直交する方向にずれてしまうことを防止することができて、軸封装置から冷媒が外に漏れ出てしまうことを防止することができる。
また、軸受筒とクラッチ軸受、およびクラッチ軸受と電磁クラッチの駆動ロータが、それぞれ密着するように構成されているので、これら部材間の熱伝導を向上させることができるので、ハウジング温度が所定値よりも低い場合でも、ハウジング温度を素早く上昇させることができる。
【0007】
本発明による圧縮機の起動方法は、前記圧縮機のハウジング温度が、前記駆動源のアイドル運転により上昇させられる。
このような圧縮機の起動方法によれば、アイドル運転中の駆動源から発せられる熱により圧縮機のハウジングが暖められることとなる。
【0008】
本発明による圧縮機の起動方法は、前記圧縮機のハウジング温度が、前記電磁クラッチの電磁コイルに微弱電流を流すことにより上昇させられる。
このような圧縮機の起動方法によれば、コイルに流れる微弱電流のジュール熱により圧縮機のハウジングが暖められることとなる。
【0009】
本発明による空調装置は、駆動源からの駆動力を圧縮機の回転軸に伝達したり、あるいは前記駆動源からの駆動力を遮断したりするクラッチを備えた圧縮機と、前記圧縮機の起動時において、前記圧縮機のハウジングの温度が、所定値よりも高い場合に、前記クラッチを繋いで前記駆動源を起動し、前記圧縮機のハウジングの温度が、所定値以下の場合、前記クラッチを繋がずに前記ハウジングの温度を上昇させるようにし、その後、前記圧縮機のハウジングの温度が、所定値よりも高くなったら、前記クラッチを繋いで前記駆動源を起動する制御器とを具備している。
このような空調装置によれば、ハウジングの温度が、所定値(例えば、−10℃)以下の場合(すなわち、圧縮機内に設けられた軸封装置を構成するOリングが低温硬化してしまい、クラッチが入るときに加わる回転軸の軸方向の移動に追従できないような場合)には、クラッチが入らず、ハウジング温度が、所定値(例えば、−10℃)よりも高い場合(すなわち、圧縮機内に設けられた軸封装置を構成するOリングが低温硬化するおそれがなく、クラッチが入るときに加わる回転軸の軸方向の移動に追従できるような場合)にのみクラッチが入るようになっている。
これにより、圧縮機に内蔵された軸封装置を構成するOリングが低温硬化した状態で圧縮機を起動することによって、これらOリングが回転軸の軸方向にずれてしまうことを防止することができて、軸封装置から冷媒が外に漏れ出てしまうことを防止することができる。
【0010】
本発明による空調装置は、前記クラッチとして電磁クラッチが設けられており、当該電磁クラッチは、前記圧縮機の軸受筒に圧入されたクラッチ軸受を介して前記軸受筒に取り付けられている。
このような空調装置によれば、圧縮機の軸受筒とクラッチ軸受、およびクラッチ軸受と電磁クラッチの駆動ロータが、それぞれ密着するように構成されているので、これらの間に生じるガタツキをなくすことができ、圧縮機の軸封装置を構成するOリングが、回転軸の軸方向と直交する方向にずれてしまうことを防止することができて、軸封装置から冷媒が外に漏れ出てしまうことを防止することができる。
また、軸受筒とクラッチ軸受、およびクラッチ軸受と電磁クラッチの駆動ロータが、それぞれ密着するように構成されているので、これら部材間の熱伝導を向上させることができるので、ハウジング温度が所定値よりも低い場合でも、ハウジング温度を素早く上昇させることができる。
【0011】
本発明による空調装置は、前記制御器は、前記圧縮機のハウジングの温度が、所定値以下の場合、前記駆動源をアイドル運転する機能を有していることが望ましい。
このような空調装置によれば、前記圧縮機のハウジングの温度が所定値以下の場合には、制御器からの信号により駆動源のアイドル運転が行われ、この駆動源から発せられる熱により圧縮機のハウジングが暖められることとなる。
【0012】
本発明による空調装置は、前記圧縮機のハウジングの温度が、所定値以下の場合、前記電磁クラッチに微弱電流を流す機能を有していることが望ましい。
このような空調装置によれば、前記圧縮機のハウジングの温度が所定値以下の場合には、制御器からの信号により電磁クラッチのコイルに微弱電流が流され、このコイルに流れる微弱電流のジュール熱により圧縮機のハウジングが暖められることとなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明による圧縮機の起動方法によれば、軸封装置を構成するOリングが低温硬化しているケースでの圧縮機起動に伴う不具合発生を防止することができるとともに、軸封装置からの冷媒の漏れを防止することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明による圧縮機(以下、「スクロール圧縮機」という)の一実施形態を、図面を参照しながら説明するが、本発明がこれに限定解釈されるものでないことは勿論である。なお、図1は、本実施形態のスクロール圧縮機10を示す図であって、その回転軸の軸線を含む断面で見た場合の断面図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態によるスクロール圧縮機10は、内部に密閉空間mを有するハウジング11と、このハウジング11内に配置され、密閉空間m内に取り込まれた冷媒ガスを圧縮するスクロール圧縮機構12と、このスクロール圧縮機構12を駆動する回転軸13と、この回転軸13の駆動により密閉空間m内に潤滑油を供給する潤滑油供給ポンプ14とを主たる要素として構成されたものである。
【0016】
ハウジング11は、フロントハウジング15と、リアハウジング16とを備えてなり、これらを組み合わせてから複数本のボルト17で結合することにより、内部に密閉空間mが形成されるようになっている。なお、符号18は、これらフロントハウジング15およびリアハウジング16間の接合部分をシールして、密閉空間mの密閉状態を保つOリングである。
フロントハウジング15の開放端(リアハウジング16と反対側の端面)は、複数本のボルト17aを介して取り付けられた閉鎖体15aにより塞がれている。また、この閉鎖体15aには、回転軸13の軸線方向に沿って突出するノーズ部(軸受筒)15bが設けられているとともに、この軸受筒15bの中心部(すなわち、閉鎖体15aの中心部)には、回転軸13の一端部が貫通する貫通孔15cが形成されている。
フロントハウジング15には、当該ハウジング15の温度を測定する温度センサTが取り付けられており、この温度センサTで測定された測定データ(測定値)は、制御器CDに出力されるようになっている。
【0017】
リアハウジング16の上部には、冷媒ガスを吸入する吸入ポート16aが、密閉空間mに連通するように形成されており、リアハウジング16の側部には、スクロール圧縮機構12で圧縮された後の圧縮流体を吐出する吐出ポート16bが形成されている。また、リアハウジング16の下方空間(すなわち、密閉空間mの下方)は、スクロール圧縮機構12や各軸受等の各摺動部分を潤滑した後の潤滑油を集める集油部16cとなっている。
【0018】
スクロール圧縮機構12は、固定スクロール20と、旋回スクロール21と、オルダムリング22とを備えるものである。
固定スクロール20は、固定端板20aとその内面に立設された渦巻状壁体20bとを備え、固定端板20aの中央部には、吐出ポート20cが形成されている。この吐出ポート20cは、吐出弁23により開閉される。
【0019】
旋回スクロール21は、旋回端板21aとその内面に立設された渦巻状壁体21bとを備えている。旋回端板21aの外面に立設されたボス21c内には、偏心ブッシュ24が、軸受メタル(軸受ブッシュ)25を介して回転自在に嵌合され、この偏心ブッシュ24に穿設された穴に、回転軸13の端部から突出した偏心ピン13aが嵌合されている。そして、固定スクロール20と旋回スクロール21とを相互に所定距離だけ偏心させ、かつ180度だけ角度をずらして噛み合わせることにより、複数の圧縮室Cが形成されるようになっている。
また、旋回スクロール21は、リアハウジング16の内部に固定されたケーシング26に摺動自在に支持されており、旋回スクロール21とケーシング26との間には、旋回スクロール21の公転旋回運動を許容するがその自転を阻止するオルダムリング22が設けられている。
【0020】
回転軸13は、エンジンや電動モータ等の図示しない駆動機構により、その軸線回りに回転するロータシャフトであり、その先端には、偏心した軸線を有する前述した偏心ピン13aが突出形成されている。そして、この回転軸13は、フロントハウジング15側に設けられた第1軸受27と、ケーシング26に固定され、旋回スクロール21のスラスト力を受ける第2軸受28とにより、その軸線回りに回転可能に支持されている。また、第1軸受27と第2軸受28との間に位置する回転軸13の外周面には、バランスウェイト(「カウンターウェイト」ともいう)Wが取り付けられている。
回転軸13の内部には、前述した潤滑油供給ポンプ14からの潤滑油を、前述したボス24内や、スクロール圧縮機構12、第2軸受28等の潤滑を要する各摺動部分に向かって供給する潤滑油供給路13bが形成されている。
【0021】
つぎに、図1に符号30で示した電磁クラッチについて説明する。この電磁クラッチ30は、クラッチ軸受31と、駆動ロータ32と、コイル33と、カバ34と、ハブ35と、板バネ36と、ピン37,38と、アーマチュア板39とを主たる要素として構成されたものである。
クラッチ軸受31は、その内輪の内周面とノーズ部15bの外周面とが密着するように、ノーズ部15bの外周面に(プレスで打ち込む程度に)圧入されている。
【0022】
駆動ロータ32は、その内周面とクラッチ軸受31の外輪の外周面とが密着するように、クラッチ軸受31の外輪の外周面に取り付けられている。また、この駆動ロータ32には、コイル33が内蔵されており、これらコイル33と対向する位置にアーマチュア板39が配置されている。そして、これらコイル33には、制御器CDからの出力信号に基づいて電流が流されるようになっている。
ハブ35は、ボルト40およびストッパ41を介して回転軸13の一端部先端に取り付けられている。
【0023】
カバ34および板バネ36はそれぞれ、それらの一端部がピン38を介してハブ35のフランジ部に取り付けられており、板バネ36の他端部には、ピン37を介してアーマチュア板39が取り付けられている。
また、貫通孔15c内には、二本のOリング42,43を備えたメカニカルシール(軸封装置)44が設けられており、これにより貫通孔15cからの冷媒の漏れ(流出)が防止されるようになっている。
【0024】
このような構成を有する電磁クラッチ30は、駆動ロータ32が図示しないVベルト等を介してエンジンや電動モータ等の駆動源に連結されており、これによりエンジンや電動モータ等の回転中は、駆動ロータ32が常時回転するようになっている。
そして、制御器CDからの出力信号に基づいてコイル33に電流が流されると、アーマチュア板39が板バネ36の弾発力に抗して駆動ロータ32に密着し、駆動ロータ32の回転は、アーマチュア板39、ピン37、板バネ36、ピン38、ハブ35をこの順に経て回転軸13に伝達されて回転軸13が回転する。また、コイル33への通電が停止されると、板バネ36の復元力によってアーマチュア板39は駆動ロータ32から離間し、回転軸13への動力伝達が遮断される。
【0025】
図2に示すように、電磁クラッチ30は、起動指令が発せられ、かつハウジング温度(本実施形態ではフロントハウジング15の温度)が、所定値(例えば、−10℃)よりも高ければ、制御器CDからの信号に基づいてコイル33に電流が流されて、クラッチONの状態となる。そして、電磁クラッチ30がクラッチONの状態となったら、エンジンや電動モータ等の駆動源が起動され、エンジンや電動モータ等からの駆動力が回転軸13に伝達されるとともに回転軸13が回転されて、スクロール圧縮機10が通常制御されるようになっている。
【0026】
一方、起動指令が発せられても、ハウジング温度が、所定値(例えば、−10℃)以下の場合には、電磁クラッチ30を切った状態でエンジンや電動モータ等の駆動源が起動され、アイドル運転が行われて、駆動源から発せられる熱でハウジングが暖められるか、あるいはコイル33に微弱電流が流され、そのジュール熱によってハウジングが暖められるようになっている。その結果、ハウジング温度が所定値(例えば、−10℃)よりも高くなれば、一旦エンジンや電動モータ等の駆動源が停止され、あるいはコイル33への通電が停止され、制御器CDからの信号に基づいてコイル33に電流が流されて、クラッチONの状態となる。そして、電磁クラッチ30がクラッチONの状態となったら、エンジンや電動モータ等の駆動源が起動され、エンジンや電動モータ等からの駆動力が回転軸13に伝達されるとともに回転軸13が回転されて、スクロール圧縮機10が通常制御されるようになっている。
【0027】
電磁クラッチ30がクラッチONの状態となると、スクロール圧縮機10の側では、エンジンや電動モータ等からの駆動力が回転軸13に伝達されるとともに回転軸13が回転され、この回転が偏心ピン13a、偏心ブッシュ24、およびボス21cを介してスクロール圧縮機構12の旋回スクロール21に伝達される。旋回スクロール21はオルダムリング22により自転を阻止されながら公転旋回半径を半径とする円軌道上で公転旋回運動を行うようになっている。
【0028】
そうすると、冷媒ガスが吸入ポート16aを介してハウジング11の密閉空間mに入り、図示省略の経路を経てスクロール圧縮機構12の圧縮室Cに吸入される。そして、旋回スクロール19の公転旋回運動によって圧縮室Cの容積が減少するのに伴い冷媒ガスが圧縮されながら中央部に至り、吐出ポート20cからリアハウジング16の吐出ポート16bを経て冷媒が外部に吐出されるようになっている。
【0029】
また、集油部16cに貯溜された潤滑油LOは、図示しない油溜まりを通ってフロントハウジング15の前側(図1において左側)内部に設けられた、潤滑油供給ポンプ14の図示しない吸入孔と油溜まりの底部とを連通する連通路29を介して、潤滑油供給ポンプ14の吸引力により潤滑油供給ポンプ14に吸い上げられるようになっている。
潤滑油供給ポンプ14に吸い上げられた潤滑油LOは、潤滑油供給ポンプ14の図示しない吐出孔を通って、潤滑油供給路13bに吐出された後、メカニカルシール(軸封装置)42、第2軸受28、スクロール圧縮機構12、およびボス24内等の潤滑を要する各摺動部分を潤滑し、その自重によって下方に落下して油溜まりに再び戻されるようになっている。
【0030】
本実施形態によるスクロール圧縮機10によれば、ハウジング温度(本実施形態ではフロントハウジング15の温度)が、所定値(例えば、−10℃)以下の場合(すなわち、メカニカルシール44を構成するOリング42,43が低温硬化してしまい、電磁クラッチ30が入るときに加わる回転軸13の軸方向の移動に追従できないような場合)には、電磁クラッチ30が入らず、ハウジング温度が、所定値(例えば、−10℃)よりも高い場合(すなわち、メカニカルシール44を構成するOリング42,43が低温硬化するおそれがなく、電磁クラッチ30が入るときに加わる回転軸13の軸方向の移動に追従できるような場合)にのみ電磁クラッチ30が入るようになっている。
これにより、メカニカルシール44を構成するOリング42,43が低温硬化した状態で圧縮機を起動することによって、これらOリング42,43が回転軸13の軸方向にずれてしまうことを防止することができて、貫通孔15cから冷媒が外に漏れ出てしまうことを防止することができる。
また、ノーズ部15bとクラッチ軸受31、およびクラッチ軸受31と駆動ロータ32は、それぞれ密着するように構成されているので、これらの間に生じるガタツキをなくすことができ、メカニカルシール44を構成するOリング42,43が、回転軸13の軸方向と直交する方向にずれてしまうことを防止することができて、貫通孔15cから冷媒が外に漏れ出てしまうことを防止することができる。
さらに、ノーズ部15bとクラッチ軸受31、およびクラッチ軸受31と駆動ロータ32が、それぞれ密着するように構成されていることにより、これら部材間の熱伝導を向上させることができるので、ハウジング温度が所定値よりも低い場合でも、ハウジング温度を素早く上昇させることができる。
【0031】
なお、上述したスクロール圧縮機は、上述したような密閉型だけでなく、半密閉型や開放型のスクロール圧縮機とすることもできる。
また、圧縮機としては上述したようなスクロール圧縮機に限定されるものではなく、斜板式圧縮機や往復動式圧縮機等とすることもできる。
さらに、圧縮機としては上述したような横置き型のものに限定されるものではなく、縦置き型のものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明による圧縮機の一実施形態を示す概略側断面図である。
【図2】本発明による圧縮機の起動時における手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0033】
10 スクロール圧縮機
13 回転軸
15b ノーズ部(軸受筒)
30 電磁クラッチ
31 クラッチ軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からの駆動力を圧縮機の回転軸に伝達したり、あるいは前記駆動源からの駆動力を遮断したりするクラッチを備えた圧縮機の起動方法であって、
前記圧縮機の起動時において、前記圧縮機のハウジングの温度が、所定値よりも高い場合に、前記クラッチを繋いで前記駆動源を起動し、
前記圧縮機のハウジングの温度が、所定値以下の場合、前記クラッチを繋がずに前記ハウジングの温度を上昇させるようにし、その後、前記圧縮機のハウジングの温度が、所定値よりも高くなったら、前記クラッチを繋いで前記駆動源を起動することを特徴とするクラッチを備えた圧縮機の起動方法。
【請求項2】
前記クラッチとして電磁クラッチが設けられており、当該電磁クラッチは、前記圧縮機の軸受筒に圧入されたクラッチ軸受を介して前記軸受筒に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載のクラッチを備えた圧縮機の起動方法。
【請求項3】
前記圧縮機のハウジング温度を前記駆動源のアイドル運転により上昇させることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のクラッチを備えた圧縮機の起動方法。
【請求項4】
前記圧縮機のハウジング温度を前記電磁クラッチの電磁コイルに微弱電流を流すことにより上昇させることを特徴とする請求項2に記載のクラッチを備えた圧縮機の起動方法。
【請求項5】
駆動源からの駆動力を圧縮機の回転軸に伝達したり、あるいは前記駆動源からの駆動力を遮断したりするクラッチを備えた圧縮機と、
前記圧縮機の起動時において、前記圧縮機のハウジングの温度が、所定値よりも高い場合に、前記クラッチを繋いで前記駆動源を起動し、前記圧縮機のハウジングの温度が、所定値以下の場合、前記クラッチを繋がずに前記ハウジングの温度を上昇させるようにし、その後、前記圧縮機のハウジングの温度が、所定値よりも高くなったら、前記クラッチを繋いで前記駆動源を起動する制御器とを具備していることを特徴とする空調装置。
【請求項6】
前記クラッチとして電磁クラッチが設けられており、当該電磁クラッチは、前記圧縮機の軸受筒に圧入されたクラッチ軸受を介して前記軸受筒に取り付けられていることを特徴とする請求項5に記載の空調装置。
【請求項7】
前記制御器は、前記圧縮機のハウジングの温度が、所定値以下の場合、前記駆動源をアイドル運転する機能を有することを特徴とする請求項5または6のいずれかに記載の空調装置。
【請求項8】
前記制御器は、前記圧縮機のハウジングの温度が、所定値以下の場合、前記電磁クラッチに微弱電流を流す機能を有することを特徴とする請求項6に記載の空調装置。

【図1】
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【図2】
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