クラッド材と合成樹脂部品の複合品及びその製造方法
【課題】このような事情を鑑みてなされたものであり、アルミニウム材を有するクラッド材に合成樹脂部品を効率良く製造できるようにする。
【解決手段】ステンレス材2にアルミニウム材3を重ね合わせたクラッド材1において、ステンレス材2及びアルミニウム材3のそれぞれの全面に塗装皮膜4を電着塗装により形成する。その後に、アルミニウム材3の一部の塗装皮膜4をレーザ光の照射により除去し、この領域のアルミニウム材3を露出させる。露出させたアルミニウム材3に陽極酸化皮膜5を形成してから射出成形機に導入し、陽極酸化皮膜5の孔6に合成樹脂を侵入させながら、合成樹脂部品7を形成する。これより、クラッド材1と合成樹脂部品2の複合品8が製造される。
【解決手段】ステンレス材2にアルミニウム材3を重ね合わせたクラッド材1において、ステンレス材2及びアルミニウム材3のそれぞれの全面に塗装皮膜4を電着塗装により形成する。その後に、アルミニウム材3の一部の塗装皮膜4をレーザ光の照射により除去し、この領域のアルミニウム材3を露出させる。露出させたアルミニウム材3に陽極酸化皮膜5を形成してから射出成形機に導入し、陽極酸化皮膜5の孔6に合成樹脂を侵入させながら、合成樹脂部品7を形成する。これより、クラッド材1と合成樹脂部品2の複合品8が製造される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム材に合成樹脂成形体が接合されたクラッド材と合成樹脂部品の複合品とその製造法に関する
【背景技術】
【0002】
金属材料に合成樹脂部品を接合する方法としては、インサート成形用金型を用いることが知られている。具体的には、鉄又は鋼鉄製の金属部品の一部を金型のキャビティ内に挿入し、この状態で溶融させた合成樹脂をキャビティ内に射出し、所定形状の合成樹脂部品内に金属部品の一部をインサート成形する。
【0003】
また、アルミニウム素材に合成樹脂部品を接合する方法としては、アルミニウム素材の表面に孔径が25nm以上の孔を多数有する陽極酸化皮膜を形成し、射出成形などで合成樹脂の一部を陽極酸化皮膜の孔内に食い込ませることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開番号2004/055248号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、金属製の外装部品には、金属の質感として所望の質感を得るために、又は軽量化や強度を確保するために、複数の金属板を重ね合わせたクラッド材が使用されることがある。そこで、クラッド材に対しても合成樹脂部品を接合できるようにすることが望まれていた。
本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、アルミニウム材を有するクラッド材に合成樹脂部品を効率良く製造できるようにすることを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決する本発明は、少なくとも1つの面にアルミニム材を有するクラッド材の全面に対し、電着塗装による皮膜を形成する工程と、前記アルミニウム材の表面に形成された前記皮膜の一部を除去する工程と、前記皮膜を除去することで露出させた前記アルミニウム材の表面に陽極酸化皮膜を形成する工程と、前記陽極酸化皮膜の多数の孔に合成樹脂部品の一部を浸入させることで前記クラッド材と前記合成樹脂部品を接合して複合品を形成する工程と、を有することを特徴とするクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法とした。
このクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法では、クラッド材のアルミニウム材側の一部のみに陽極酸化皮膜が形成される。アルミニウム材以外の材料からなる部分は皮膜で保護されているので、陽極酸化皮膜を形成するときの薬液や電流によってアルミニウム材以外の材料からなる部分がダメージを受けることがない。
【0007】
また、請求項1に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法において、前記皮膜の一部を除去する工程は、CO2レーザの照射により前記皮膜を除去する工程であることを特徴とする。
このクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法では、CO2レーザを照射した領域の皮膜だけが除去される。
【0008】
また、請求項2に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法において、前記
レーザ光を第1の方向にライン状に照射すると共に、前記レーザ光を前記第1の方向に略直交する第2の方向に0.01mm〜0.2mmのピッチで送りながら、前記皮膜を除去することを特徴とする。
このクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法では、ピッチを小さくすることで皮膜がより正確に除去されるので、陽極酸化皮膜を確実に形成できる。
【0009】
また、請求項1に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法において、前記アルミニム材の表面の一部に部分マスクを形成した後、前記電着塗装による皮膜を形成する工程で前記部分マスクの上を含む前記クラッド材の全面に前記皮膜を形成し、前記皮膜の一部を除去する工程では前記部分マスクを溶解させることで前記皮膜の一部を除去することを特徴とする。
このクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法は、薬液処理のみで皮膜の一部を除去することが可能になる。部分マスクのみを溶解させるので、皮膜に覆われている他の領域を確実に保護できる。
【0010】
また、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法において、前記陽極酸化皮膜は、直径が40nm〜100nmの孔を多数有することを特徴とする。
このクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法では、陽極酸化皮膜の孔径が大きいので、合成樹脂部品を接合したときの強度が大きくなる。
【0011】
また、請求項1又は請求項5に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法において、前記合成樹脂部品は、射出成形により形成されることを特徴とする。
このクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法では、陽極酸化皮膜の孔に溶融した合成樹脂が侵入することで合成樹脂部品を接合することが可能になる。
【0012】
請求項1又は請求項5に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法において、前記合成樹脂部品を加熱しながら前記陽極酸化皮膜に押し付けて接合することを特徴とする。
このクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法では、陽極酸化皮膜と合成樹脂部品の接触面において合成樹脂部品が部分的に溶融して陽極酸化皮膜の孔内に浸入する。これにより、合成樹脂部品がクラッド材に接合される。
【0013】
また、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法において、前記クラッド材は、前記アルミニウム材にステンレス材を重ね合わせたクラッド材であることを特徴とする。
このクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法では、ステンレス材の質感と強度を有しながらも、アルミニウム材を用いることによる軽量化が図れる。
【0014】
さらに、ステンレス材にアルミニウム材が重ね合わされたクラッド材と、前記アルミニウム材の一部に形成された陽極酸化皮膜と、前記陽極酸化皮膜の孔に一部が侵入することで前記クラッド材に接合された合成樹脂部品と、を有することを特徴とするクラッド材と合成樹脂部品の複合品とした。
このクラッド材と合成樹脂部品の複合品では、外側面にステンレス材を用いることで、ステンレス材の質感と強度が得られる。内側面にアルミニウム材を用いることによる軽量化を図ると共に、アルミニウム材を用いて合成樹脂部品を接合できる。合成樹脂部品は、例えば、他の部品との間に係合させたり、スペーサに使用したりできる。
【0015】
請求項9に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品において、前記陽極酸化皮膜は、前記クラッド材の周縁部に形成され、前記樹脂部材は他の部品に前記クラッド材を係合さ
せるために用いられる爪であることを特徴とする。
このクラッド材と合成樹脂部品の複合品では、合成樹脂部品を他の部材に係合させることで着脱自在に取り付けることが可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、クラッド材のアルミニウム材の所定位置に陽極酸化皮膜を形成するようにしたので、合成樹脂部品を接合しない面の金属を保護しつつ、陽極酸化皮膜を用いて合成樹脂部品をクラッド材に接合できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の第1の実施の形態に係るクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法のフローチャートである。
【図2】図2は、クラッド材の断面図である。
【図3】図3は、クラッド材の全面に塗装層を形成した工程を説明する断面図である。
【図4】図4は、レーザ照射によって塗装層の一部を除去する工程を説明する断面図である。
【図5】図5は、レーザ照射によって塗装層の一部を除去したときのクラッド材の一例を示す平面図である。
【図6】図6は、塗装層が除去された領域に陽極酸化皮膜を形成する工程を説明する断面図である。
【図7】図7は、陽極酸化皮膜を形成したクラッド材の平面図である。
【図8】図8は、陽極酸化皮膜上に合成樹脂部品を成形する工程を説明する断面図である。
【図9】図9は、クラッド材上に合成樹脂部品を成形することで製造された複合品の平面図である。
【図10】図10は、レーザ照射の軌跡を模式的に示す図である。
【図11】図11は、射出成形機の断面図である。
【図12】図12は、複合品の一例であるカバーの平面図である。
【図13】図13は、図12のI−I線に沿った断面図である。
【図14】図14は、本発明の第2の実施の形態に係るクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法のフローチャートである。
【図15】図15は、部分マスクを形成したクラッド材の一例を示す平面図である。
【図16】図16は、図15のII−II線に沿った断面図である。
【図17】図17は、部分マスク上を含むクラッド材の全面に電着塗装による塗装膜を形成する工程を説明する断面図である。
【図18】図18は、部分マスクを除去した領域に合成樹脂部品を成形して製造した複合品の平面図である。
【図19】図19は、加熱圧着式により合成樹脂部品をクラッド材に接合する装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための形態について以下に説明する。なお、各実施の形態で同じ構成要素には同一の符号を付してある。また、実施の形態で重複する説明は省略する。
【0019】
(第1の実施の形態)
図1にクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法のフローチャートを示す。
最初に、ワークであるクラッド材に対して前処理を行う(ステップS101)。図2に示すように、クラッド材1は、ステンレス材2にアルミニウム材3を重ね合わせて一体にした構成を有する。例えば、ステンレス材2の肉厚は0.2mm〜0.4mm程度で、ア
ルミニウム材3の肉厚は0.1mm〜0.2mm程度である。
【0020】
前処理工程では、主にステンレス材2に対して表面処理が行われる。ステンレス材2の表面処理としては、例えば、ステンレス材2の表面にエッチングにより模様を形成したり、ヘアライン加工等による機械加工で模様を形成したりすることがあげられる。なお、アルミニウム材3側に表面処理を施しても良い。
【0021】
次に、クラッド材1をプレス加工して、所定の形状に成形する(ステップS102)。なお、ステップS101とステップS102は順番が逆でも良いし、2つのステップを同時に実施しても良い。また、ステップS101とステップS102の一方のみを実施しても良い。
【0022】
さらに、クラッド材1の全面に対して電着塗装を行う(ステップS103)。図3に示すように、電着塗装によってクラッド材1の表面に均質な塗装皮膜4が形成される。塗装皮膜4は、後の工程でマスクとして使用される。また、塗装皮膜4を装飾としてそのまま用いても良い。
この後、クラッド材1の表面のうち、アルミニウム材3の表面に形成されている塗装皮膜4の一部を除去する(ステップS104)。図4及び図5に示すように、塗装皮膜4に開口部4Aが形成され、開口部4Aを通してアルミニウム材3が露出する。図5では、クラッド材1の周縁部の塗装皮膜4が部分的に除去されているが、塗装皮膜4を除去する場所や大きさ、数は、これに限定されない。
【0023】
さらに、クラッド材1に対して接合用皮膜の形成処理を実施する(ステップS105)。図6及び図7に示すように、塗装皮膜4でマスクされていない領域、つまり塗装皮膜4を除去することで露出させたアルミニウム材3の表面に、接合用皮膜としてポーラスな陽極酸化皮膜5を形成する。ここで、陽極酸化皮膜5は、表面に開口する細長い孔6が密集する多孔質層5Aと、多孔質層5Aの底部から金属面までの薄い緻密な絶縁層5Bとを有する。また、陽極酸化皮膜5が形成される領域は、塗装皮膜4を除去した領域と一致する。
【0024】
次に、陽極酸化皮膜5を形成した領域に合成樹脂部品を接合する(ステップS106)。図8及び図9に示すように、合成樹脂部品7は、陽極酸化皮膜5の孔6に食い込むようにしてクラッド材1に接合され、これによりクラッド材1と合成樹脂部品7の複合品8が形成される。なお、合成樹脂部品7は、陽極酸化皮膜5の面積より小さい面積でクラッド材1に接合されているが、陽極酸化皮膜5と同じ面積、又は陽極酸化皮膜5を越えて一部が塗装皮膜4を覆うように成形しても良い。
【0025】
さらに、複合品8に対して後処理を行う(ステップS107)。後処理としては、ステンレス材2の塗装があげられる。また、マスクとして使用した塗装皮膜4を全て除去した後に、新たな塗装を行っても良い。さらに、アルミニウム材3の塗装皮膜4を除去せずに、ステンレス材2の塗装皮膜4のみを除去し、新たな塗装を行っても良い。
なお、ステップS107を実施せずに処理を終了しても良い。また、ステップS101と同様の処理をステップS107と共に実施しても良い。
【0026】
次に、ステップS103の電着塗装工程の詳細について説明する。
まず、クラッド材1を約5%の水酸化ナトリウム水溶液を60℃に加熱した温液で洗浄して脱脂する。又は、クラッド材1に対して強アルカリ液を用いた電解脱脂を行う。脱脂処理の後はクラッド材1を水洗する。さらに、5%〜10%の硫酸水溶液にクラッド材1を浸漬させて中和処理した後水洗する。
電着塗装を行うときは、水溶性塗料を溶解させた塗装槽にクラッド材1を浸漬させる。
そして、クラッド材1を陽極とし、陰極にアルミニウム板やステンレス板などを用いて電圧を印加する。電着作用により水溶性塗料がクラッド材1の表面に塗装皮膜4を形成する。図3に示すように、塗装皮膜4は、ステンレス材2の露出面と、アルミニウム材3の露出面のそれぞれに略均一に形成される。
【0027】
ここで、塗装皮膜4は、後の工程でマスクとして使用される他、加飾の仕上げ面としても使用することができる。このような塗装皮膜4を形成するための水溶性塗料としては、例えば、アニオンタイプの電着塗料があげられる。
また、電着塗装の条件としては、例えば50V〜200Vの電圧を1分〜3分印加することがあげられる。この場合には、膜厚が10μm〜20μmの塗装皮膜4が形成される。
【0028】
次に、ステップS104の塗装皮膜4の一部を除去する工程の詳細について説明する。
塗装皮膜4を一部除去するときには、レーザ加工機を用いることができる。この工程で使用されるレーザ光としては、例えば、CO2レーザや、YAGレーザがあげられる。レーザ光は、クラッド材1のアルミニウム材3側の所定の表面に照射される。レーザ照射の手順について、図10に模式図を参照して説明する。
【0029】
レーザ照射は、後に合成樹脂部品7を接合する領域に対して実施される。最初に、所定の第1の方向d1にレーザ光の照射位置を移動させる。これにより、塗装皮膜4が直線状に除去される。
さらに、レーザ光を照射した部分から第2の方向d2に所定ピッチP1だけ移動させ、再び第1の方向d1にレーザ光を直線に沿って照射する。例えば、図10において左側から順番にレーザ照射を行い、ラインBL1に示す位置まで塗装皮膜4を除去したとき、次のレーザ照射位置は、ピッチP1だけ右に移動させたラインBL2上の位置になる。以降、これらの動作を繰り返し、予定された領域、例えばラインL1に示す位置まで塗装皮膜4を除去する。これにより、図7に示すような開口部4Aが塗装皮膜4に形成され、この領域のアルミニウム素材2が露出する。
【0030】
例えば、レーザ加工機は、CO2レーザをパルス周波数20Hzで出力させながら、照射位置を800mm/分〜1200mm/分の速度で移動させる。クラッド材1の表面におけるレーザ光の照射幅(第2の方向d2における長さ)が0.1mmであった場合、ピッチP1は0.01〜0.2mmであることが好ましい。ピッチP1がこの範囲より小さいと、塗装皮膜4の除去に時間がかかりすぎるので効率的でない。ピッチP1がこの範囲より大きいと、合成樹脂部品7の接合強度が低下する。
【0031】
ここで、クラッド材1に合成樹脂を接合した試験片を作製し、クラッド材1と合成樹脂の接合強度を引張試験機により調べた。なお、クラッド材1と合成樹脂の接合部分の大きさは、引張方向に5mm、引張方向と直交する方向に10mmとした。
ピッチP1が0.01mmのときは、120kgfの引張強度が得られた。ピッチP1が0.1mmのときは、100kgfの引張強度が得られた。ピッチP1が0.2mmのときは、90kgfの引張強度が得られた。つまり、ピッチP1がCO2レーザの照射幅の2倍以下の場合には、90kgf以上の引張強度が得られる。さらに、ピッチP1をCO2レーザの照射幅以下にすると、100kgf以上の引張強度が得られる。なお、CO2レーザの代わりにYAGレーザを用いた場合には、引張強度が少し小さくなる。
【0032】
次に、ステップS105の接合用皮膜の形成処理の詳細について説明する。
まず、クラッド材1の脱脂処理及び中和処理を必要に応じて行う。次いで、クラッド材1を液温約18〜20℃、濃度30%前後の燐酸水溶液からなる燐酸浴の陽極とする。陰極には、アルミニウム板やステンレス板などを用いる。そして、電圧35V〜55Vの範
囲で直流法による電気分解を、例えば1分〜5分行う。
【0033】
これにより、図6に示すように、クラッド材1のアルミニウム材3の表面であって、塗装皮膜4のマスクが除去された領域に、深さ1〜1.5μ程度のポーラスな陽極酸化皮膜5が形成される。陽極酸化皮膜5の表面に形成された多数の孔6の直径は約40〜100nmであった。
【0034】
なお、燐酸浴に代えて、水酸化ナトリウム浴を用いても良い。この場合には、0.2モルの水酸化ナトリウムの水溶液から成る液温約18〜20℃の電解浴を用いる。処理条件は、燐酸水溶液を用いる場合と同じとする。これにより、クラッド材1のアルミニウム材3の表面で、塗装皮膜4のマスクが除去された領域に深さ0.5〜1μで、直径約30〜50nmの孔6を多数有するポーラスな陽極酸化皮膜5が形成される。
【0035】
このように、燐酸浴又は水酸化ナトリウムを用いた電解浴を用いて陽極酸化皮膜5を形成したら、クラッド材1を硝酸水溶液で洗浄した後、熱風で乾燥する。
【0036】
ここで、燐酸浴が水酸化ナトリウム浴に比べて、短時間に且つ孔径がより大きい孔が得られる。また、燐酸浴を用いた例では、電気分解時間を短縮すると、孔6の直径が25〜30nmの陽極酸化皮膜5が得られた。なお、電気分解は、孔25の直径が25nm以上になるような条件で、且つ多孔質層5Aが500nm以上の深さになる条件で実施することが望ましい。陽極酸化皮膜5の孔径や深さがこれより小さいと、合成樹脂部品7の接合強度が低下するからである。
【0037】
次に、ステップS106のクラッド材1に接合用の皮膜を形成した領域に合成樹脂部品を接合する工程について説明する。
図11にこの工程で使用される射出成形機の一例を示す。射出成形機20は、上下に方開き可能な金型21を有し、下型21Aと上型21Bの間に、クラッド材1を設置するスペース22が形成されている。さらに、上型21Bには、合成樹脂部品7の形状に合わせたキャビティ23と、キャビティ23に充填する合成樹脂24が通るゲート25とが形成されている。なお、ゲート25は、図示を省略する合成樹脂24の供給源に接続されている。
【0038】
合成樹脂24としては、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂),PPS(ポリフェニレンスルフィド)などの各種樹脂が使用できる。なお、アルミニウム材3と合成樹脂24の線膨張の違いを考慮し、前記の射出成形により合成樹脂成形体とする合成樹脂材として、その線膨張の差を吸収できる弾性率、好ましくは、10000Mpa以下の弾性率を有し、且つ耐熱水性と耐薬品性を有する樹脂を選択することが好ましい。これに好適な合成樹脂24としては、PBTやPE、PPなどのオレフィン系樹脂があげられる。
【0039】
合成樹脂部品7を成形するときは、金型21を型開きしてスペース22にクラッド材1を設置する。クラッド材1は、陽極酸化皮膜5が上向き、即ち陽極酸化皮膜5がゲート25に対向するように配置する。金型21を閉じた後、溶融させた合成樹脂24をゲート25からキャビティ23内に射出させる。これにより、溶融した合成樹脂24がキャビティ23内に加圧充填されると共に、陽極酸化皮膜5の多数の孔6内に侵入する。
この状態で金型21を冷却水により冷却させ、合成樹脂を凝固させる。この後、型開きすると、図8及び図9に示すような複合品8が得られる。複合品8は、陽極酸化皮膜5の多数の孔6内に合成樹脂部品7を構成する合成樹脂2が一部食い込んで接合された構成を有する。
【0040】
ここで、射出成形時の成形圧力は約700kg以上が好ましい。例えば、金型21の温度は80〜150℃とし、成形圧力は700〜1200kgとする。なお、金型21にヒーターを取り付けて金型21を加熱しながら成形を行うと、溶融合成樹脂24と加熱されたクラッド材1との接合がさらに容易になる。
【0041】
このようにして製造した複合品8におけるクラッド材1と合成樹脂部品7の接合強度を、引張試験機を用いた引張強度として測定した。燐酸浴により陽極酸化皮膜5を形成した場合には最小でも30kgfの引張強さが得られた。また、水酸化ナトリウム浴により陽極酸化皮膜5を形成した場合には、最小でも20kgfの引張強さが得られた。
【0042】
このようにして製造された複合品8は、表面にステンレスの質感が得られると共に、十分な強度が得られる。また、アルミニム材3が複合されているので、部品の軽量化が図れる。
【0043】
以上、説明したように、この実施の形態では、合成樹脂部品7を接合する領域以外の領域を塗装皮膜4でマスクするようにしたので、ステンレス材3を保護しながら陽極酸化皮膜5を形成することができる。ステンレス材3を露出させていると、電流密度が高くなってステンレス材3がダメージを受けることがあるが、この製造方法ではステンレス材3が塗装皮膜4で保護される。また、塗装皮膜4でマスクすることで、必要な領域のみに陽極酸化皮膜5が形成されるので、作業の効率が良い。
さらに、塗装皮膜5を一部除去する工程にレーザ光を用いるので、必要な領域だけを簡単に処理できる。塗装皮膜5を除去する領域の大きさや形状の変化にも容易に対応できる。ここにおいて、レーザ照射時のピッチP1を0.01mm〜0.2mmにしたので、塗装皮膜5を充分に除去することが可能になり、合成樹脂部品7を強固に接合することが可能になる。
そして、陽極酸化皮膜5を利用して合成樹脂部品7をクラッド材1に接合するようにしたので、アルミニウム板に対して実際されている処理を用いて複合品8を簡単に製造することができる。
【0044】
なお、複合品8は、携帯電話や、情報端末、カメラのケース、例えば取り外し可能なカバーなどに使用することができる。図12及び図13に複合品8を携帯電話のケースのカバーとして製造した例を示す。複合品であるカバー30は、細長のクラッド材1の3つの周縁部31,32をアルミニウム材3側に曲げ加工を行った外形を有し、これら周縁部31,32の内側部分には合成樹脂部品33が接合されている。合成樹脂部品33には、内側に突出する爪33Aが一体に形成されている。さらに、曲げ加工がなされていない残りの1つの周縁部34には、2つの樹脂部材35が接合されている。2つの樹脂部材35は、カバー30の曲げ加工がされていない面に略平行なに外向きに突出している。
【0045】
これら合成樹脂部品33,35は、前記した合成樹脂部品7と同様に図1に示すフローチャートに従ってクラッド材1のアルミニウム材3に接合されている。これら樹脂部材33,35をケース本体36側に設けた凹部や溝に嵌め込むことで、カバー30を他の部品であるケース本体36に取り付けることができる。
【0046】
図12及び図13に示すようなカバー30では、ケース本体36に取り付けるために用いられる部分が合成樹脂部品33,35で製造されているので、金属材料から製造した場合に比べて、剛性を下げることができる。このため、ケース本体36へのカバー30の取り付けや取り外しが容易になる。さらに、カバー30の取り付け部分の剛性を下げることで、この部分の耐久性も向上する。また、取り付け部材をステンレス材2で一体に製造する場合には、取り付け部分の複雑な形状を複数の金型を用いてプレス加工しなければなら
ないので、製造コストが高くなる。さらに、取り付け部分をプレス加工によってクラッド材1と一体に成形すると、取り付け部分に連なるクラッド材1に応力が集中して変形してしまうことがあった。この実施の形態では、取り付け部分に合成樹脂部品33,35を用いることで、このような課題を解決することができる。
【0047】
なお、クラッド材1は、アルミニム材3にステンレス材2以外の異種金属材を重ね合わせた構造を有しても良い。さらに、クラッド材1は、アルミニウム材3に、ジュラルミン材と、別のアルミニウム材とを順場に積層させ、ジュラルミンをアルミニウム材で挟み込んだ構成でも良い。
【0048】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態におけるクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法のフローチャートを図14に示す。
最初に、クラッド材1に前処理を行う(ステップS202)。この処理は、第1の実施の形態と同様である。次に、クラッド材1の表面に部分マスクを印刷により形成する(ステップS202)。図15及び図16に示すように、部分マスク41は、クラッド材1のアルミニウム材3の表面上で、後に樹脂部品を接合する部分に形成される。部分マスク41は、例えば、UV(紫外線)硬化型のインクを用いることができる。この場合は、アルミニウム材3の表面にインクを印刷で塗布した後、UV光を照射する。これにより、インクが硬化して部分マスク41が形成される。なお、前処理の前に部分マスク41を形成しても良い。
【0049】
次に、第1の実施の形態と同様にクラッド材1に対してプレス成形を行う(ステップS203)。さらに、電着塗装によるマスキングを行う(ステップS204)。電着塗装は、クラッド材1の全面に対して行われ、これにより均質な塗装皮膜4が形成される。この工程は、第1の実施の形態と同様に行われる。なお、図17に示すように、部分マスク41の上には塗装皮膜4が形成されないので、この領域では部分マスク41が露出する。
【0050】
この後、インク剥離剤を使用して部分マスク41を剥がす(ステップS205)。インク剥離剤は、部分マスク41を溶かすが、塗装皮膜4は溶解させない溶剤、例えば非塩素系の溶剤を使用する。
部分マスク41のみがアルミニウム材1の表面から剥がれると、部分マスク41が形成されていた領域のアルミニウム材1が露出する。その結果、図4と同様な開口部4Aが形成される。
【0051】
そして、部分マスク41を剥がすことでアルミニウム素材が露出した領域に接合用皮膜として陽極酸化皮膜5を形成する(ステップS206)。さらに、陽極酸化皮膜5上に合成樹脂部品7を接合する(ステップS207)。これらの工程は、第1の実施の形態と同様に行われる。
これにより、図18に示すように、クラッド材1のアルミニウム材3の一部の領域上に合成樹脂部品7が接合された複合品8が得られる。
【0052】
以上、説明したように、この実施の形態では、部分マスク41を用いて塗装皮膜4を部分的に除去するようにしたので、薬液処理のみで合成樹脂部品7を接合する流域を画定することができる。
【0053】
(第3の実施形態)
この実施の形態では、ステップS106又はステップS207において、クラッド材1と合成樹脂部品7とを別々に製造し、この両部材を加熱圧着方式により接合して複合品8を製造することを特徴とする。
【0054】
図19に加熱圧着方式により複合品の製造する製造装置の一例を示す。製造装置51は、電磁誘導加熱装置52と昇降自在のプレスヘッド53とを有する。プレスヘッド53は、図示を省略する加圧用シリンダーに接続されている。
電磁誘導加熱装置52は、クラッド材1を収容するホルダ55の底部55Aに平面加熱用のコイル56が埋設されている。コイル56は、外側に設けられた高周波発振器57に接続されている。
【0055】
合成樹脂部品7を接合するときは、先ずクラッド材1をホルダ55に収容する。クラッド材1は、陽極酸化皮膜5が形成された面を上向きに配置する。さらに、合成樹脂部品7を接合位置、即ち陽極酸化皮膜5上に載せる。
次に、プレスヘッド53を下降させ、合成樹脂部品7を上方から加圧して、陽極酸化皮膜5に押し付ける。この状態で、高周波発振器57を作動させてコイル56に通電し、その誘導加熱によりクラッド材1を加熱する。
【0056】
これにより、クラッド材1を介して合成樹脂部品7が加熱され、合成樹脂部品7の陽極酸化皮膜5に圧着している部分が溶融し、陽極酸化皮膜5の孔6内に進入する。この後、クラッド材1及び合成樹脂部品7を冷却すると共に、プレスヘッド53を上昇させると、合成樹脂部品7が陽極酸化皮膜5を介してクラッド材1に接合された複合品8が得られる。
【0057】
ここで、この製造装置51では、高周波発振器57の高周波出力を、例えば500W〜50kW、周波数50kHz〜3MHzにすれば、10〜12秒間程通電すれば十分な接合強度の複合品8が得られる。
【0058】
なお、各実施の形態に係る複合品は、パーソナルコンピュータや携帯電話などの電気機器、電子機器などの部品、建材、建造物の屋内,外装置品、船舶、航空機、鉄道車両及び自動車などの内,外装置品、ナンバープレートなどの装飾品などの種々の大きさと形状を有するクラッド材と合成樹脂部品との複合品に適用できる。
【符号の説明】
【0059】
1 クラッド材
2 ステンレス材
3 アルミニウム材
4 塗装皮膜
5 陽極酸化皮膜
6 孔
7,33,35 合成樹脂部品
8 複合品
30 カバー
31,32 周縁部
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム材に合成樹脂成形体が接合されたクラッド材と合成樹脂部品の複合品とその製造法に関する
【背景技術】
【0002】
金属材料に合成樹脂部品を接合する方法としては、インサート成形用金型を用いることが知られている。具体的には、鉄又は鋼鉄製の金属部品の一部を金型のキャビティ内に挿入し、この状態で溶融させた合成樹脂をキャビティ内に射出し、所定形状の合成樹脂部品内に金属部品の一部をインサート成形する。
【0003】
また、アルミニウム素材に合成樹脂部品を接合する方法としては、アルミニウム素材の表面に孔径が25nm以上の孔を多数有する陽極酸化皮膜を形成し、射出成形などで合成樹脂の一部を陽極酸化皮膜の孔内に食い込ませることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開番号2004/055248号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、金属製の外装部品には、金属の質感として所望の質感を得るために、又は軽量化や強度を確保するために、複数の金属板を重ね合わせたクラッド材が使用されることがある。そこで、クラッド材に対しても合成樹脂部品を接合できるようにすることが望まれていた。
本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、アルミニウム材を有するクラッド材に合成樹脂部品を効率良く製造できるようにすることを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決する本発明は、少なくとも1つの面にアルミニム材を有するクラッド材の全面に対し、電着塗装による皮膜を形成する工程と、前記アルミニウム材の表面に形成された前記皮膜の一部を除去する工程と、前記皮膜を除去することで露出させた前記アルミニウム材の表面に陽極酸化皮膜を形成する工程と、前記陽極酸化皮膜の多数の孔に合成樹脂部品の一部を浸入させることで前記クラッド材と前記合成樹脂部品を接合して複合品を形成する工程と、を有することを特徴とするクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法とした。
このクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法では、クラッド材のアルミニウム材側の一部のみに陽極酸化皮膜が形成される。アルミニウム材以外の材料からなる部分は皮膜で保護されているので、陽極酸化皮膜を形成するときの薬液や電流によってアルミニウム材以外の材料からなる部分がダメージを受けることがない。
【0007】
また、請求項1に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法において、前記皮膜の一部を除去する工程は、CO2レーザの照射により前記皮膜を除去する工程であることを特徴とする。
このクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法では、CO2レーザを照射した領域の皮膜だけが除去される。
【0008】
また、請求項2に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法において、前記
レーザ光を第1の方向にライン状に照射すると共に、前記レーザ光を前記第1の方向に略直交する第2の方向に0.01mm〜0.2mmのピッチで送りながら、前記皮膜を除去することを特徴とする。
このクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法では、ピッチを小さくすることで皮膜がより正確に除去されるので、陽極酸化皮膜を確実に形成できる。
【0009】
また、請求項1に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法において、前記アルミニム材の表面の一部に部分マスクを形成した後、前記電着塗装による皮膜を形成する工程で前記部分マスクの上を含む前記クラッド材の全面に前記皮膜を形成し、前記皮膜の一部を除去する工程では前記部分マスクを溶解させることで前記皮膜の一部を除去することを特徴とする。
このクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法は、薬液処理のみで皮膜の一部を除去することが可能になる。部分マスクのみを溶解させるので、皮膜に覆われている他の領域を確実に保護できる。
【0010】
また、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法において、前記陽極酸化皮膜は、直径が40nm〜100nmの孔を多数有することを特徴とする。
このクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法では、陽極酸化皮膜の孔径が大きいので、合成樹脂部品を接合したときの強度が大きくなる。
【0011】
また、請求項1又は請求項5に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法において、前記合成樹脂部品は、射出成形により形成されることを特徴とする。
このクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法では、陽極酸化皮膜の孔に溶融した合成樹脂が侵入することで合成樹脂部品を接合することが可能になる。
【0012】
請求項1又は請求項5に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法において、前記合成樹脂部品を加熱しながら前記陽極酸化皮膜に押し付けて接合することを特徴とする。
このクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法では、陽極酸化皮膜と合成樹脂部品の接触面において合成樹脂部品が部分的に溶融して陽極酸化皮膜の孔内に浸入する。これにより、合成樹脂部品がクラッド材に接合される。
【0013】
また、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法において、前記クラッド材は、前記アルミニウム材にステンレス材を重ね合わせたクラッド材であることを特徴とする。
このクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法では、ステンレス材の質感と強度を有しながらも、アルミニウム材を用いることによる軽量化が図れる。
【0014】
さらに、ステンレス材にアルミニウム材が重ね合わされたクラッド材と、前記アルミニウム材の一部に形成された陽極酸化皮膜と、前記陽極酸化皮膜の孔に一部が侵入することで前記クラッド材に接合された合成樹脂部品と、を有することを特徴とするクラッド材と合成樹脂部品の複合品とした。
このクラッド材と合成樹脂部品の複合品では、外側面にステンレス材を用いることで、ステンレス材の質感と強度が得られる。内側面にアルミニウム材を用いることによる軽量化を図ると共に、アルミニウム材を用いて合成樹脂部品を接合できる。合成樹脂部品は、例えば、他の部品との間に係合させたり、スペーサに使用したりできる。
【0015】
請求項9に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品において、前記陽極酸化皮膜は、前記クラッド材の周縁部に形成され、前記樹脂部材は他の部品に前記クラッド材を係合さ
せるために用いられる爪であることを特徴とする。
このクラッド材と合成樹脂部品の複合品では、合成樹脂部品を他の部材に係合させることで着脱自在に取り付けることが可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、クラッド材のアルミニウム材の所定位置に陽極酸化皮膜を形成するようにしたので、合成樹脂部品を接合しない面の金属を保護しつつ、陽極酸化皮膜を用いて合成樹脂部品をクラッド材に接合できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の第1の実施の形態に係るクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法のフローチャートである。
【図2】図2は、クラッド材の断面図である。
【図3】図3は、クラッド材の全面に塗装層を形成した工程を説明する断面図である。
【図4】図4は、レーザ照射によって塗装層の一部を除去する工程を説明する断面図である。
【図5】図5は、レーザ照射によって塗装層の一部を除去したときのクラッド材の一例を示す平面図である。
【図6】図6は、塗装層が除去された領域に陽極酸化皮膜を形成する工程を説明する断面図である。
【図7】図7は、陽極酸化皮膜を形成したクラッド材の平面図である。
【図8】図8は、陽極酸化皮膜上に合成樹脂部品を成形する工程を説明する断面図である。
【図9】図9は、クラッド材上に合成樹脂部品を成形することで製造された複合品の平面図である。
【図10】図10は、レーザ照射の軌跡を模式的に示す図である。
【図11】図11は、射出成形機の断面図である。
【図12】図12は、複合品の一例であるカバーの平面図である。
【図13】図13は、図12のI−I線に沿った断面図である。
【図14】図14は、本発明の第2の実施の形態に係るクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法のフローチャートである。
【図15】図15は、部分マスクを形成したクラッド材の一例を示す平面図である。
【図16】図16は、図15のII−II線に沿った断面図である。
【図17】図17は、部分マスク上を含むクラッド材の全面に電着塗装による塗装膜を形成する工程を説明する断面図である。
【図18】図18は、部分マスクを除去した領域に合成樹脂部品を成形して製造した複合品の平面図である。
【図19】図19は、加熱圧着式により合成樹脂部品をクラッド材に接合する装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための形態について以下に説明する。なお、各実施の形態で同じ構成要素には同一の符号を付してある。また、実施の形態で重複する説明は省略する。
【0019】
(第1の実施の形態)
図1にクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法のフローチャートを示す。
最初に、ワークであるクラッド材に対して前処理を行う(ステップS101)。図2に示すように、クラッド材1は、ステンレス材2にアルミニウム材3を重ね合わせて一体にした構成を有する。例えば、ステンレス材2の肉厚は0.2mm〜0.4mm程度で、ア
ルミニウム材3の肉厚は0.1mm〜0.2mm程度である。
【0020】
前処理工程では、主にステンレス材2に対して表面処理が行われる。ステンレス材2の表面処理としては、例えば、ステンレス材2の表面にエッチングにより模様を形成したり、ヘアライン加工等による機械加工で模様を形成したりすることがあげられる。なお、アルミニウム材3側に表面処理を施しても良い。
【0021】
次に、クラッド材1をプレス加工して、所定の形状に成形する(ステップS102)。なお、ステップS101とステップS102は順番が逆でも良いし、2つのステップを同時に実施しても良い。また、ステップS101とステップS102の一方のみを実施しても良い。
【0022】
さらに、クラッド材1の全面に対して電着塗装を行う(ステップS103)。図3に示すように、電着塗装によってクラッド材1の表面に均質な塗装皮膜4が形成される。塗装皮膜4は、後の工程でマスクとして使用される。また、塗装皮膜4を装飾としてそのまま用いても良い。
この後、クラッド材1の表面のうち、アルミニウム材3の表面に形成されている塗装皮膜4の一部を除去する(ステップS104)。図4及び図5に示すように、塗装皮膜4に開口部4Aが形成され、開口部4Aを通してアルミニウム材3が露出する。図5では、クラッド材1の周縁部の塗装皮膜4が部分的に除去されているが、塗装皮膜4を除去する場所や大きさ、数は、これに限定されない。
【0023】
さらに、クラッド材1に対して接合用皮膜の形成処理を実施する(ステップS105)。図6及び図7に示すように、塗装皮膜4でマスクされていない領域、つまり塗装皮膜4を除去することで露出させたアルミニウム材3の表面に、接合用皮膜としてポーラスな陽極酸化皮膜5を形成する。ここで、陽極酸化皮膜5は、表面に開口する細長い孔6が密集する多孔質層5Aと、多孔質層5Aの底部から金属面までの薄い緻密な絶縁層5Bとを有する。また、陽極酸化皮膜5が形成される領域は、塗装皮膜4を除去した領域と一致する。
【0024】
次に、陽極酸化皮膜5を形成した領域に合成樹脂部品を接合する(ステップS106)。図8及び図9に示すように、合成樹脂部品7は、陽極酸化皮膜5の孔6に食い込むようにしてクラッド材1に接合され、これによりクラッド材1と合成樹脂部品7の複合品8が形成される。なお、合成樹脂部品7は、陽極酸化皮膜5の面積より小さい面積でクラッド材1に接合されているが、陽極酸化皮膜5と同じ面積、又は陽極酸化皮膜5を越えて一部が塗装皮膜4を覆うように成形しても良い。
【0025】
さらに、複合品8に対して後処理を行う(ステップS107)。後処理としては、ステンレス材2の塗装があげられる。また、マスクとして使用した塗装皮膜4を全て除去した後に、新たな塗装を行っても良い。さらに、アルミニウム材3の塗装皮膜4を除去せずに、ステンレス材2の塗装皮膜4のみを除去し、新たな塗装を行っても良い。
なお、ステップS107を実施せずに処理を終了しても良い。また、ステップS101と同様の処理をステップS107と共に実施しても良い。
【0026】
次に、ステップS103の電着塗装工程の詳細について説明する。
まず、クラッド材1を約5%の水酸化ナトリウム水溶液を60℃に加熱した温液で洗浄して脱脂する。又は、クラッド材1に対して強アルカリ液を用いた電解脱脂を行う。脱脂処理の後はクラッド材1を水洗する。さらに、5%〜10%の硫酸水溶液にクラッド材1を浸漬させて中和処理した後水洗する。
電着塗装を行うときは、水溶性塗料を溶解させた塗装槽にクラッド材1を浸漬させる。
そして、クラッド材1を陽極とし、陰極にアルミニウム板やステンレス板などを用いて電圧を印加する。電着作用により水溶性塗料がクラッド材1の表面に塗装皮膜4を形成する。図3に示すように、塗装皮膜4は、ステンレス材2の露出面と、アルミニウム材3の露出面のそれぞれに略均一に形成される。
【0027】
ここで、塗装皮膜4は、後の工程でマスクとして使用される他、加飾の仕上げ面としても使用することができる。このような塗装皮膜4を形成するための水溶性塗料としては、例えば、アニオンタイプの電着塗料があげられる。
また、電着塗装の条件としては、例えば50V〜200Vの電圧を1分〜3分印加することがあげられる。この場合には、膜厚が10μm〜20μmの塗装皮膜4が形成される。
【0028】
次に、ステップS104の塗装皮膜4の一部を除去する工程の詳細について説明する。
塗装皮膜4を一部除去するときには、レーザ加工機を用いることができる。この工程で使用されるレーザ光としては、例えば、CO2レーザや、YAGレーザがあげられる。レーザ光は、クラッド材1のアルミニウム材3側の所定の表面に照射される。レーザ照射の手順について、図10に模式図を参照して説明する。
【0029】
レーザ照射は、後に合成樹脂部品7を接合する領域に対して実施される。最初に、所定の第1の方向d1にレーザ光の照射位置を移動させる。これにより、塗装皮膜4が直線状に除去される。
さらに、レーザ光を照射した部分から第2の方向d2に所定ピッチP1だけ移動させ、再び第1の方向d1にレーザ光を直線に沿って照射する。例えば、図10において左側から順番にレーザ照射を行い、ラインBL1に示す位置まで塗装皮膜4を除去したとき、次のレーザ照射位置は、ピッチP1だけ右に移動させたラインBL2上の位置になる。以降、これらの動作を繰り返し、予定された領域、例えばラインL1に示す位置まで塗装皮膜4を除去する。これにより、図7に示すような開口部4Aが塗装皮膜4に形成され、この領域のアルミニウム素材2が露出する。
【0030】
例えば、レーザ加工機は、CO2レーザをパルス周波数20Hzで出力させながら、照射位置を800mm/分〜1200mm/分の速度で移動させる。クラッド材1の表面におけるレーザ光の照射幅(第2の方向d2における長さ)が0.1mmであった場合、ピッチP1は0.01〜0.2mmであることが好ましい。ピッチP1がこの範囲より小さいと、塗装皮膜4の除去に時間がかかりすぎるので効率的でない。ピッチP1がこの範囲より大きいと、合成樹脂部品7の接合強度が低下する。
【0031】
ここで、クラッド材1に合成樹脂を接合した試験片を作製し、クラッド材1と合成樹脂の接合強度を引張試験機により調べた。なお、クラッド材1と合成樹脂の接合部分の大きさは、引張方向に5mm、引張方向と直交する方向に10mmとした。
ピッチP1が0.01mmのときは、120kgfの引張強度が得られた。ピッチP1が0.1mmのときは、100kgfの引張強度が得られた。ピッチP1が0.2mmのときは、90kgfの引張強度が得られた。つまり、ピッチP1がCO2レーザの照射幅の2倍以下の場合には、90kgf以上の引張強度が得られる。さらに、ピッチP1をCO2レーザの照射幅以下にすると、100kgf以上の引張強度が得られる。なお、CO2レーザの代わりにYAGレーザを用いた場合には、引張強度が少し小さくなる。
【0032】
次に、ステップS105の接合用皮膜の形成処理の詳細について説明する。
まず、クラッド材1の脱脂処理及び中和処理を必要に応じて行う。次いで、クラッド材1を液温約18〜20℃、濃度30%前後の燐酸水溶液からなる燐酸浴の陽極とする。陰極には、アルミニウム板やステンレス板などを用いる。そして、電圧35V〜55Vの範
囲で直流法による電気分解を、例えば1分〜5分行う。
【0033】
これにより、図6に示すように、クラッド材1のアルミニウム材3の表面であって、塗装皮膜4のマスクが除去された領域に、深さ1〜1.5μ程度のポーラスな陽極酸化皮膜5が形成される。陽極酸化皮膜5の表面に形成された多数の孔6の直径は約40〜100nmであった。
【0034】
なお、燐酸浴に代えて、水酸化ナトリウム浴を用いても良い。この場合には、0.2モルの水酸化ナトリウムの水溶液から成る液温約18〜20℃の電解浴を用いる。処理条件は、燐酸水溶液を用いる場合と同じとする。これにより、クラッド材1のアルミニウム材3の表面で、塗装皮膜4のマスクが除去された領域に深さ0.5〜1μで、直径約30〜50nmの孔6を多数有するポーラスな陽極酸化皮膜5が形成される。
【0035】
このように、燐酸浴又は水酸化ナトリウムを用いた電解浴を用いて陽極酸化皮膜5を形成したら、クラッド材1を硝酸水溶液で洗浄した後、熱風で乾燥する。
【0036】
ここで、燐酸浴が水酸化ナトリウム浴に比べて、短時間に且つ孔径がより大きい孔が得られる。また、燐酸浴を用いた例では、電気分解時間を短縮すると、孔6の直径が25〜30nmの陽極酸化皮膜5が得られた。なお、電気分解は、孔25の直径が25nm以上になるような条件で、且つ多孔質層5Aが500nm以上の深さになる条件で実施することが望ましい。陽極酸化皮膜5の孔径や深さがこれより小さいと、合成樹脂部品7の接合強度が低下するからである。
【0037】
次に、ステップS106のクラッド材1に接合用の皮膜を形成した領域に合成樹脂部品を接合する工程について説明する。
図11にこの工程で使用される射出成形機の一例を示す。射出成形機20は、上下に方開き可能な金型21を有し、下型21Aと上型21Bの間に、クラッド材1を設置するスペース22が形成されている。さらに、上型21Bには、合成樹脂部品7の形状に合わせたキャビティ23と、キャビティ23に充填する合成樹脂24が通るゲート25とが形成されている。なお、ゲート25は、図示を省略する合成樹脂24の供給源に接続されている。
【0038】
合成樹脂24としては、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂),PPS(ポリフェニレンスルフィド)などの各種樹脂が使用できる。なお、アルミニウム材3と合成樹脂24の線膨張の違いを考慮し、前記の射出成形により合成樹脂成形体とする合成樹脂材として、その線膨張の差を吸収できる弾性率、好ましくは、10000Mpa以下の弾性率を有し、且つ耐熱水性と耐薬品性を有する樹脂を選択することが好ましい。これに好適な合成樹脂24としては、PBTやPE、PPなどのオレフィン系樹脂があげられる。
【0039】
合成樹脂部品7を成形するときは、金型21を型開きしてスペース22にクラッド材1を設置する。クラッド材1は、陽極酸化皮膜5が上向き、即ち陽極酸化皮膜5がゲート25に対向するように配置する。金型21を閉じた後、溶融させた合成樹脂24をゲート25からキャビティ23内に射出させる。これにより、溶融した合成樹脂24がキャビティ23内に加圧充填されると共に、陽極酸化皮膜5の多数の孔6内に侵入する。
この状態で金型21を冷却水により冷却させ、合成樹脂を凝固させる。この後、型開きすると、図8及び図9に示すような複合品8が得られる。複合品8は、陽極酸化皮膜5の多数の孔6内に合成樹脂部品7を構成する合成樹脂2が一部食い込んで接合された構成を有する。
【0040】
ここで、射出成形時の成形圧力は約700kg以上が好ましい。例えば、金型21の温度は80〜150℃とし、成形圧力は700〜1200kgとする。なお、金型21にヒーターを取り付けて金型21を加熱しながら成形を行うと、溶融合成樹脂24と加熱されたクラッド材1との接合がさらに容易になる。
【0041】
このようにして製造した複合品8におけるクラッド材1と合成樹脂部品7の接合強度を、引張試験機を用いた引張強度として測定した。燐酸浴により陽極酸化皮膜5を形成した場合には最小でも30kgfの引張強さが得られた。また、水酸化ナトリウム浴により陽極酸化皮膜5を形成した場合には、最小でも20kgfの引張強さが得られた。
【0042】
このようにして製造された複合品8は、表面にステンレスの質感が得られると共に、十分な強度が得られる。また、アルミニム材3が複合されているので、部品の軽量化が図れる。
【0043】
以上、説明したように、この実施の形態では、合成樹脂部品7を接合する領域以外の領域を塗装皮膜4でマスクするようにしたので、ステンレス材3を保護しながら陽極酸化皮膜5を形成することができる。ステンレス材3を露出させていると、電流密度が高くなってステンレス材3がダメージを受けることがあるが、この製造方法ではステンレス材3が塗装皮膜4で保護される。また、塗装皮膜4でマスクすることで、必要な領域のみに陽極酸化皮膜5が形成されるので、作業の効率が良い。
さらに、塗装皮膜5を一部除去する工程にレーザ光を用いるので、必要な領域だけを簡単に処理できる。塗装皮膜5を除去する領域の大きさや形状の変化にも容易に対応できる。ここにおいて、レーザ照射時のピッチP1を0.01mm〜0.2mmにしたので、塗装皮膜5を充分に除去することが可能になり、合成樹脂部品7を強固に接合することが可能になる。
そして、陽極酸化皮膜5を利用して合成樹脂部品7をクラッド材1に接合するようにしたので、アルミニウム板に対して実際されている処理を用いて複合品8を簡単に製造することができる。
【0044】
なお、複合品8は、携帯電話や、情報端末、カメラのケース、例えば取り外し可能なカバーなどに使用することができる。図12及び図13に複合品8を携帯電話のケースのカバーとして製造した例を示す。複合品であるカバー30は、細長のクラッド材1の3つの周縁部31,32をアルミニウム材3側に曲げ加工を行った外形を有し、これら周縁部31,32の内側部分には合成樹脂部品33が接合されている。合成樹脂部品33には、内側に突出する爪33Aが一体に形成されている。さらに、曲げ加工がなされていない残りの1つの周縁部34には、2つの樹脂部材35が接合されている。2つの樹脂部材35は、カバー30の曲げ加工がされていない面に略平行なに外向きに突出している。
【0045】
これら合成樹脂部品33,35は、前記した合成樹脂部品7と同様に図1に示すフローチャートに従ってクラッド材1のアルミニウム材3に接合されている。これら樹脂部材33,35をケース本体36側に設けた凹部や溝に嵌め込むことで、カバー30を他の部品であるケース本体36に取り付けることができる。
【0046】
図12及び図13に示すようなカバー30では、ケース本体36に取り付けるために用いられる部分が合成樹脂部品33,35で製造されているので、金属材料から製造した場合に比べて、剛性を下げることができる。このため、ケース本体36へのカバー30の取り付けや取り外しが容易になる。さらに、カバー30の取り付け部分の剛性を下げることで、この部分の耐久性も向上する。また、取り付け部材をステンレス材2で一体に製造する場合には、取り付け部分の複雑な形状を複数の金型を用いてプレス加工しなければなら
ないので、製造コストが高くなる。さらに、取り付け部分をプレス加工によってクラッド材1と一体に成形すると、取り付け部分に連なるクラッド材1に応力が集中して変形してしまうことがあった。この実施の形態では、取り付け部分に合成樹脂部品33,35を用いることで、このような課題を解決することができる。
【0047】
なお、クラッド材1は、アルミニム材3にステンレス材2以外の異種金属材を重ね合わせた構造を有しても良い。さらに、クラッド材1は、アルミニウム材3に、ジュラルミン材と、別のアルミニウム材とを順場に積層させ、ジュラルミンをアルミニウム材で挟み込んだ構成でも良い。
【0048】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態におけるクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法のフローチャートを図14に示す。
最初に、クラッド材1に前処理を行う(ステップS202)。この処理は、第1の実施の形態と同様である。次に、クラッド材1の表面に部分マスクを印刷により形成する(ステップS202)。図15及び図16に示すように、部分マスク41は、クラッド材1のアルミニウム材3の表面上で、後に樹脂部品を接合する部分に形成される。部分マスク41は、例えば、UV(紫外線)硬化型のインクを用いることができる。この場合は、アルミニウム材3の表面にインクを印刷で塗布した後、UV光を照射する。これにより、インクが硬化して部分マスク41が形成される。なお、前処理の前に部分マスク41を形成しても良い。
【0049】
次に、第1の実施の形態と同様にクラッド材1に対してプレス成形を行う(ステップS203)。さらに、電着塗装によるマスキングを行う(ステップS204)。電着塗装は、クラッド材1の全面に対して行われ、これにより均質な塗装皮膜4が形成される。この工程は、第1の実施の形態と同様に行われる。なお、図17に示すように、部分マスク41の上には塗装皮膜4が形成されないので、この領域では部分マスク41が露出する。
【0050】
この後、インク剥離剤を使用して部分マスク41を剥がす(ステップS205)。インク剥離剤は、部分マスク41を溶かすが、塗装皮膜4は溶解させない溶剤、例えば非塩素系の溶剤を使用する。
部分マスク41のみがアルミニウム材1の表面から剥がれると、部分マスク41が形成されていた領域のアルミニウム材1が露出する。その結果、図4と同様な開口部4Aが形成される。
【0051】
そして、部分マスク41を剥がすことでアルミニウム素材が露出した領域に接合用皮膜として陽極酸化皮膜5を形成する(ステップS206)。さらに、陽極酸化皮膜5上に合成樹脂部品7を接合する(ステップS207)。これらの工程は、第1の実施の形態と同様に行われる。
これにより、図18に示すように、クラッド材1のアルミニウム材3の一部の領域上に合成樹脂部品7が接合された複合品8が得られる。
【0052】
以上、説明したように、この実施の形態では、部分マスク41を用いて塗装皮膜4を部分的に除去するようにしたので、薬液処理のみで合成樹脂部品7を接合する流域を画定することができる。
【0053】
(第3の実施形態)
この実施の形態では、ステップS106又はステップS207において、クラッド材1と合成樹脂部品7とを別々に製造し、この両部材を加熱圧着方式により接合して複合品8を製造することを特徴とする。
【0054】
図19に加熱圧着方式により複合品の製造する製造装置の一例を示す。製造装置51は、電磁誘導加熱装置52と昇降自在のプレスヘッド53とを有する。プレスヘッド53は、図示を省略する加圧用シリンダーに接続されている。
電磁誘導加熱装置52は、クラッド材1を収容するホルダ55の底部55Aに平面加熱用のコイル56が埋設されている。コイル56は、外側に設けられた高周波発振器57に接続されている。
【0055】
合成樹脂部品7を接合するときは、先ずクラッド材1をホルダ55に収容する。クラッド材1は、陽極酸化皮膜5が形成された面を上向きに配置する。さらに、合成樹脂部品7を接合位置、即ち陽極酸化皮膜5上に載せる。
次に、プレスヘッド53を下降させ、合成樹脂部品7を上方から加圧して、陽極酸化皮膜5に押し付ける。この状態で、高周波発振器57を作動させてコイル56に通電し、その誘導加熱によりクラッド材1を加熱する。
【0056】
これにより、クラッド材1を介して合成樹脂部品7が加熱され、合成樹脂部品7の陽極酸化皮膜5に圧着している部分が溶融し、陽極酸化皮膜5の孔6内に進入する。この後、クラッド材1及び合成樹脂部品7を冷却すると共に、プレスヘッド53を上昇させると、合成樹脂部品7が陽極酸化皮膜5を介してクラッド材1に接合された複合品8が得られる。
【0057】
ここで、この製造装置51では、高周波発振器57の高周波出力を、例えば500W〜50kW、周波数50kHz〜3MHzにすれば、10〜12秒間程通電すれば十分な接合強度の複合品8が得られる。
【0058】
なお、各実施の形態に係る複合品は、パーソナルコンピュータや携帯電話などの電気機器、電子機器などの部品、建材、建造物の屋内,外装置品、船舶、航空機、鉄道車両及び自動車などの内,外装置品、ナンバープレートなどの装飾品などの種々の大きさと形状を有するクラッド材と合成樹脂部品との複合品に適用できる。
【符号の説明】
【0059】
1 クラッド材
2 ステンレス材
3 アルミニウム材
4 塗装皮膜
5 陽極酸化皮膜
6 孔
7,33,35 合成樹脂部品
8 複合品
30 カバー
31,32 周縁部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの面にアルミニム材を有するクラッド材の全面に対し、電着塗装による皮膜を形成する工程と、
前記アルミニウム材の表面に形成された前記皮膜の一部を除去する工程と、
前記皮膜を除去することで露出させた前記アルミニウム材の表面に陽極酸化皮膜を形成する工程と、
前記陽極酸化皮膜の多数の孔に合成樹脂部品の一部を浸入させることで前記クラッド材と前記合成樹脂部品を接合して複合品を形成する工程と、
を有することを特徴とするクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法。
【請求項2】
前記皮膜の一部を除去する工程は、CO2レーザの照射により前記皮膜を除去する工程であることを特徴とする請求項1に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法。
【請求項3】
前記レーザ光を第1の方向にライン状に照射すると共に、前記レーザ光を前記第1の方向に略直交する第2の方向に0.01mm〜0.2mmのピッチで送りながら、前記皮膜を除去することを特徴とする請求項2に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法。
【請求項4】
前記アルミニム材の表面の一部に部分マスクを形成した後、前記電着塗装による皮膜を形成する工程で前記部分マスクの上を含む前記クラッド材の全面に前記皮膜を形成し、前記皮膜の一部を除去する工程では前記部分マスクを溶解させることで前記皮膜の一部を除去することを特徴とする請求項1に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法。
【請求項5】
前記陽極酸化皮膜は、直径が40nm〜100nmの孔を多数有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法。
【請求項6】
前記合成樹脂部品は、射出成形により形成されることを特徴とする請求項1又は請求項5に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法。
【請求項7】
前記合成樹脂部品を加熱しながら前記陽極酸化皮膜に押し付けて接合することを特徴とする請求項1又は請求項5に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法。
【請求項8】
前記クラッド材は、前記アルミニウム材にステンレス材を重ね合わせたクラッド材であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法。
【請求項9】
ステンレス材にアルミニウム材が重ね合わされたクラッド材と、
前記アルミニウム材の一部に形成された陽極酸化皮膜と、
前記陽極酸化皮膜の孔に一部が侵入することで前記クラッド材に接合された合成樹脂部品と、
を有することを特徴とするクラッド材と合成樹脂部品の複合品。
【請求項10】
前記陽極酸化皮膜は、前記クラッド材の周縁部に形成され、前記樹脂部材は他の部品に前記クラッド材を係合させるために用いられる爪であることを特徴とする請求項9に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品。
【請求項1】
少なくとも1つの面にアルミニム材を有するクラッド材の全面に対し、電着塗装による皮膜を形成する工程と、
前記アルミニウム材の表面に形成された前記皮膜の一部を除去する工程と、
前記皮膜を除去することで露出させた前記アルミニウム材の表面に陽極酸化皮膜を形成する工程と、
前記陽極酸化皮膜の多数の孔に合成樹脂部品の一部を浸入させることで前記クラッド材と前記合成樹脂部品を接合して複合品を形成する工程と、
を有することを特徴とするクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法。
【請求項2】
前記皮膜の一部を除去する工程は、CO2レーザの照射により前記皮膜を除去する工程であることを特徴とする請求項1に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法。
【請求項3】
前記レーザ光を第1の方向にライン状に照射すると共に、前記レーザ光を前記第1の方向に略直交する第2の方向に0.01mm〜0.2mmのピッチで送りながら、前記皮膜を除去することを特徴とする請求項2に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法。
【請求項4】
前記アルミニム材の表面の一部に部分マスクを形成した後、前記電着塗装による皮膜を形成する工程で前記部分マスクの上を含む前記クラッド材の全面に前記皮膜を形成し、前記皮膜の一部を除去する工程では前記部分マスクを溶解させることで前記皮膜の一部を除去することを特徴とする請求項1に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法。
【請求項5】
前記陽極酸化皮膜は、直径が40nm〜100nmの孔を多数有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法。
【請求項6】
前記合成樹脂部品は、射出成形により形成されることを特徴とする請求項1又は請求項5に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法。
【請求項7】
前記合成樹脂部品を加熱しながら前記陽極酸化皮膜に押し付けて接合することを特徴とする請求項1又は請求項5に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法。
【請求項8】
前記クラッド材は、前記アルミニウム材にステンレス材を重ね合わせたクラッド材であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品の製造方法。
【請求項9】
ステンレス材にアルミニウム材が重ね合わされたクラッド材と、
前記アルミニウム材の一部に形成された陽極酸化皮膜と、
前記陽極酸化皮膜の孔に一部が侵入することで前記クラッド材に接合された合成樹脂部品と、
を有することを特徴とするクラッド材と合成樹脂部品の複合品。
【請求項10】
前記陽極酸化皮膜は、前記クラッド材の周縁部に形成され、前記樹脂部材は他の部品に前記クラッド材を係合させるために用いられる爪であることを特徴とする請求項9に記載のクラッド材と合成樹脂部品の複合品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
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【図12】
【図13】
【図14】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2010−173298(P2010−173298A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21437(P2009−21437)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(391043608)コロナ工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(391043608)コロナ工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】
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