説明

クラリスロマイシンの結晶形態IIの製造

【課題】6−O−メチルエリスロマイシンA結晶形態2及びその製造方法の提供。
【解決手段】(a)エリスロマイシンAを6−O−メチルエリスロマイシンAに変換し;(b)段階(a)において製造された6−O−メチルエリスロマイシンAを、従来使用されていたエタノール、テトラヒドロフラン、イソプロパノール、または酢酸イソプロピル等の溶媒ではない、多くの他の一般的有機溶媒、または一般的有機溶媒の混合物を使用して再結晶することにより、結晶形態2を直接的に単離することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療的有効性を有する化合物およびその製造方法に関する。本発明は特に、6−O−メチルエリスロマイシンA結晶形態IIの直接単離の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
6−O−メチルエリスロマイシンA(クラリスロマイシン、BIAXIN)は、グラム陽性細菌、いくつかのグラム陰性細菌、嫌気性細菌、Mycoplasma、およびChlamidiaに対して優れた抗細菌活性を示す、式:
【0003】
【化1】

で示される半合成マクロライド抗生物質である。それは酸性条件下において安定であり、経口投与した場合に有効である。クラリスロマイシンは、子供および成人における上部気管の治療に有効である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
6−O−メチルエリスロマイシンAが、識別のために「形態I」および「形態II」と称される少なくとも2種の結晶形態で存在しうることを我々は見い出した。これらの結晶形は、それらの赤外スペクトル、示差走査熱量計サーモグラム、および粉末X線回折パターンによって識別される。我々の研究室での調査において、6−O−メチルエリスロマイシンAが、エタノール、テトラヒドロフラン、酢酸イソプロピル、およびイソプロパノール、またはエタノール、テトラヒドロフラン、酢酸イソプロピル、またはイソプロパノールと他の一般的有機溶媒との混合物から再結晶された場合に、これまでに同定されていない形態I結晶が限定的に形成されることが明らかになった。6−O−メチルエリスロマイシンA形態Iは、同日の1996年7月29日に出願の同時係属中の米国出願第08/681723号に開示されている。
【0005】
現在市販されている薬剤は、熱力学的により安定な形態IIから製剤化されている。従って、現在市販されている薬剤の製造は、形態I結晶から形態IIへの変換を必要とする。これは一般に、形態I結晶を80℃より高い温度において真空下で加熱することによって行われる。従って、高温処理を必要としない6−O−メチルエリスロマイシンA形態IIの製造方法は、実質的に処理コストを節減させることになる。
【0006】
エタノール、テトラヒドロフラン、イソプロパノール、または酢酸イソプロピルからの再結晶は、形態I結晶を限定的に形成させるが、6−O−メチルエリスロマイシンA形態IIを、多くの他の一般的有機溶媒、または一般的有機溶媒の混合物を使用することによって直接的に単離することができ、それによって追加的な変換段階を省くことができる。
【0007】
従って、本発明は、
(a) エリスロマイシンAを6−O−メチルエリスロマイシンAに変換し;
(b) 段階(a)において製造された6−O−メチルエリスロマイシンAを、(i)炭素原子1〜5個のアルカノール、但し、該アルカノールがエタノールまたはイソプロパノールではないことを条件とする、(ii)炭素原子5〜12個の炭化水素、(iii)炭素原子3〜12個のケトン、(iv)炭素原子3〜12個のカルボキシルエステル、但し、該カルボキシルエステルが酢酸イソプロピルではないことを条件とする、(v)炭素原子4〜10個のエーテル、(vi)ベンゼン、(vii)炭素原子1〜4個のアルキル、炭素原子1〜4個のアルコキシ、ニトロ、およびハロゲンから成る群から選択される1つまたはそれ以上の置換基で置換されたベンゼン、(viii)極性非プロトン溶媒、(ix)式HNR[式中、RおよびRはそれぞれ、水素および炭素原子1〜4個のアルキルから選択され、但し、RおよびRの両方が水素でないことを条件とする。]で示される化合物、(x)水、ならびに水混和性有機溶媒および水混和性アルカノールから成る群から選択される第二溶媒、(xi)メタノール、ならびに炭素原子5〜12個の炭化水素、炭素原子2〜5個のアルカノール、炭素原子3〜12個のケトン、炭素原子3〜12個のカルボキシルエステル、炭素原子4〜10個のエーテル、ベンゼン、および炭素原子1〜4個のアルキル、炭素原子1〜4個のアルコキシ、ニトロ、およびハロゲンから成る群から選択される1つまたはそれ以上の置換基で置換されたベンゼンから成る群から選択される第二溶媒、および(xii)炭素原子5〜12個の炭化水素、ならびに炭素原子3〜12個のケトン、炭素原子3〜12個のカルボキシルエステル、炭素原子4〜10個のエーテル、ベンゼン、炭素原子1〜4個のアルキル、炭素原子1〜4個のアルコキシ、ニトロ、およびハロゲンから成る群から選択される1つまたはそれ以上の置換基で置換されたベンゼン、および極性非プロトン溶媒から成る群から選択される第二溶媒、から成る群から選択される溶媒で処理し;および
(c) 6−O−メチルエリスロマイシンA形態II結晶を単離する;
ことを含んで成る6−O−メチルエリスロマイシンA形態IIの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
6−O−メチルエリスロマイシンAが、エリスロマイシンAの6−ヒドロキシ基のメチル化によって製造される。しかし、6位の他に、エリスロマイシンAは、11、12、2’および4”位にヒドロキシ基、および3’位に窒素を有し、それらが全てアルキル化剤と潜在的に反応性である。従って、6−ヒドロキシ基のアルキル化の前に、種々の反応性官能基を保護する必要がある。代表的な6−O−メチルエリスロマイシンAの製造が、米国特許第4331803号、第4670549号、第4672109号および第4990602号、ならびに欧州特許明細書第260938B1号に開示されており、これらは参照により本発明に取り込まれる。保護基の最終除去に続き、6−O−メチルエリスロマイシンAが、固形物、半固形物、または脱保護反応からの残留溶媒、無機塩および他の不純物を含有するシロップとして存在する。6−O−メチルエリスロマイシンA形態IIを、前記の溶媒系を使用して、シロップまたは半固形物から直接的に結晶化することができる。あるいは、粗反応生成物が凝固する場合、該固形物を、前記の溶媒系のいずれかから再結晶することができる。純粋6−O−メチルエリスロマイシンA形態IIも、形態I、または形態Iと形態IIとの混合物を、前記の溶媒系のいずれかから再結晶することによって得ることができる。本明細書において使用される「6−O−メチルエリスロマイシンA」という用語は、純粋または混合物形態の6−O−メチルエリスロマイシンA形態IまたはIIを意味する。
【0009】
「処理」という用語は、前記に規定された6−O−メチルエリスロマイシンAを、前記溶媒系のいずれかから結晶化または再結晶することを意味する。
【0010】
本明細書において使用される「炭化水素」という用語は、式C2n+2で示される直鎖または分岐アルカンを意味する。6−O−メチルエリスロマイシンA形態II結晶の単離において使用するのに好適な炭化水素は、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等を包含する。
【0011】
「アルキル」という用語は、1つの水素原子の除去によって直鎖または分岐鎖飽和炭化水素から誘導される一価の基を意味する。アルキル基は、メチル、エチル、n−およびイソ−プロピル、n−、sec−、イソ−およびtert−ブチル等によって例示される。
【0012】
「ケトン」という用語は、RC(O)R’[式中、RおよびR’は直鎖または分岐アルキルである。]で示される溶媒を意味する。6−O−メチルエリスロマイシンA形態II結晶の単離において使用するのに好適なケトンは、アセトン、メチルエチルケトン、2−および3−ペンタノン等を包含する。
【0013】
「カルボキシルエステル」という用語は、式RCOR’[式中、RおよびR’は直鎖または分岐アルキルである。]で示される溶媒を意味する。6−O−メチルエリスロマイシンA形態II結晶の単離において使用するのに好適なカルボキシルエステルは、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル等を包含する。
【0014】
「エーテル」という用語は、式ROR’[式中、RおよびR’は直鎖または分岐アルキルである。]で示される溶媒を意味する。6−O−メチルエリスロマイシンA形態II結晶の単離において使用するのに好適なエーテルは、エチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル等を包含する。
【0015】
「極性非プロトン溶媒」という用語は、ヒドロキシ基を有さないが、比較的高い双極子モーメントを有する溶媒を意味する。6−O−メチルエリスロマイシンA形態II結晶の単離において使用するのに好適な極性非プロトン溶媒は、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、1,1−ジメトキシエタン(DME)、ヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)等を包含する。
【0016】
「水混和性有機溶媒」という用語は、実質的に水と混和性の有機溶媒を意味する。6−O−メチルエリスロマイシンA形態II結晶の水混和性有機溶媒−水混合物からの単離において使用するのに好適な水混和性有機溶媒の例は、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル(グリム)(glyme)、およびジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)(diglyme)を包含する。
【0017】
「アルカノール」という用語は、1つまたはそれ以上のヒドロキシ基で置換された前記に規定された炭化水素を意味する。代表的なアルカノールは、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール等を包含する。
【0018】
「水混和性アルカノール」という用語は、実質的に水と混和性である前記に規定されたアルカノールを意味する。6−O−メチルエリスロマイシンA形態II結晶の水混和性アルカノール−水混合物からの単離において使用するのに好適な水混和性アルカノールの例は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノールおよびtert−ブタノールを包含する。
【0019】
6−O−メチルエリスロマイシンAは、種々の合成経路によって、エリスロマイシンAから製造される。1つの方法においては、エリスロマイシンAが、2’−O−3’−N−ビス(ベンジルオキシカルボニル)−N−ジメチルエリスロマイシンA(I):
【0020】
【化2】

に変換される。次に、6−ヒドロキシ基を、ブロモメタンまたはヨードメタンのようなアルキル化剤および塩基との反応によってメチル化する。触媒水素添加によるベンゾイル基の除去、および3’N−の還元メチル化によって、6−O−メチルエリスロマイシンAを生成する。米国特許第4331803号を参照。
【0021】
他の合成経路は、6−O−メチルエリスロマイシンA−9−オキシムのメチル化に関わる。6−O−メチルエリスロマイシンA−9−オキシムが、塩基の存在下におけるエリスロマイシンAとヒドロキシルアミン塩酸塩との反応のような当分野で既知の方法によって、または米国特許第5274085号に記載のような、酸の存在下におけるヒドロキシルアミンとの反応によって製造される。該オキシムとRX[式中、Rはアリルまたはベンジルであり、Xはハロゲンである。]との反応によって、2’−O,3’−N−ジアリルまたはジベンジルエリスロマイシンA−9−O−アリルまたはベンジルオキシムハライドが生成される。前記のようなこの第四級塩のメチル化、それに続くR基の除去および脱オキシムによって、6−O−メチルエリスロマイシンAが生成される。米国特許第4670549号を参照。
【0022】
【化3】

[式中、Rはアルキル、アルケニル、置換または非置換ベンジル、オキシアルキル、または置換フェニルチオアルキルであり、Rはベンゾイルであり、Rはメチルまたはベンゾイルである。]で示される6−O−メチルエリスロマイシンA−オキシム誘導体のメチル化、それに続く脱保護、脱オキシム、およびRがベンゾイルである場合の還元的メチル化によって、6−O−メチルエリスロマイシンAが生成される。米国特許第4672109号を参照。
【0023】
6−O−メチルエリスロマイシンAの特に有効な製造法は、式III:
【0024】
【化4】

[式中、Rは、アルケニル、置換または非置換ベンジル、またはアルコキシアルキルであり、Rは、置換シリルであり、Rは、RまたはHである。]で示されるオキシム誘導体のメチル化に関わる。次に、保護基の除去および脱オキシムを、酸での処理によって単一段階で行って、6−O−メチルエリスロマイシンAを生成する。欧州特許明細書260938B1号および米国特許第4990602号を参照。
【0025】
6−O−メチルエリスロマイシンAの好ましい経路が、反応式1に略図で示されている。Streptomyces erythreusの発酵によって製造されるエリスロマイシンAをオキシム化して、Rがアルコキシアルキルのオキシム4を得る。基Rは、エリスロマイシンAと置換ヒドロキシルアミンRONHとの反応、または塩基の存在下におけるヒドロキシルアミン塩酸塩または酸の存在下におけるヒドロキシルアミンと、エリスロマイシンAとの反応、それに続くRXとの反応によって導入することができる。次に、RまたはRが同じである場合は、2つのヒドロキシ基を同時に保護し、RおよびRが異なる場合は逐次的に保護する。特に有用な保護基は、トリメチルシリル、tert−ブチルジメチルシリル、tert−ブチルジフェニルシリル等のような置換シリル基である。次に、保護基を除去し、化合物を脱オキシムして、6−O−メチルエリスロマイシンAを生成する。脱保護/脱オキシムの順序は重要ではない。保護基が置換シリルである場合は、脱保護および脱オキシムを、酸での処理によって、例えば蟻酸または亜硫酸水素ナトリウムを用いて、単一段階で行うことができる。米国特許第4990602号を参照。
【0026】
【化5】

【0027】
前記のように製造される6−O−メチルエリスロマイシンAを、所望の溶媒に懸濁し、溶媒の還流温度付近に加熱する。次に、加熱を継続し、固形物のほとんどが溶解するのに充分な時間、一般に約10分〜2時間、懸濁液を攪拌する。次に、懸濁液を熱間濾過する。必要であれば、濾液を溶媒の還流温度かまたは還流温度付近に加熱して、明澄な溶液を形成する。次に、濾液を周囲温度にゆっくり冷まし、任意に氷水浴でさらに冷却してもよい。本明細書の目的のために、周囲温度とは約20℃〜約25℃である。6−O−メチルエリスロマイシンA結晶形態IIを、濾過によって単離し、周囲温度〜約50℃の温度および水銀約2インチ〜気圧の圧力下において真空炉中で乾燥して、残留溶媒を除去する。
【0028】
6−O−メチルエリスロマイシンAを、水混和性有機溶媒および水、または水混和性アルカノールおよび水で処理する場合は、有機溶媒またはアルカノール中の6−O−メチルエリスロマイシンAの懸濁液を加熱還流し、熱間濾過する。必要であれば、明澄な溶液が得られるまで、溶媒の還流温度付近において濾液を加熱する。次に、明澄な溶液を水と混合し、周囲温度に冷まし、任意に氷浴でさらに冷却してもよい。水量の上限は、混合物が2つの液相に分離する点である。好ましい比率は、水の容量部で約1:1である。冷却後、6−O−メチルエリスロマイシンA結晶形態IIを濾過によって単離し、前記のように乾燥する。好ましい水混和性有機溶媒はテトラヒドロフランである。好ましい水混和性アルカノールは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールを包含する。
【0029】
本発明の他の側面においては、6−O−メチルエリスロマイシンAを、メタノールおよび第二溶媒の混合物で処理する。この場合、第二溶媒は、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、および酢酸イソプロピルのような溶媒を包含し、その結果、通常、形態I結晶が形成される。この薬剤は、メタノールおよび第二溶媒中において同等の溶解性を有するので、メタノールの量を、最大回収を確実なものとするように慎重に制御しなければならない。メタノールの好ましい量は、約1:3〜約1:1容量部である。特に好ましい比率は、メタノールの容量部約1:1である。本発明の側面によれば、第二溶媒中の6−O−メチルエリスロマイシンAの懸濁液を、加熱還流し、熱間濾過する。必要であれば、明澄な溶液が得られるまで、第二溶媒の還流温度付近において濾液を加熱する。次に、熱溶液をメタノールと混合し、周囲温度に冷まし、任意に氷浴でさらに冷却してもよい。あるいは、6−O−メチルエリスロマイシンAが、第二溶媒およびメタノールの両方において同等の溶解性を有する場合は、第二溶媒およびメタノールを約1:1容量部の比率で予備混合し、該物質を溶媒混合物に懸濁し、次に、前記のように、加熱し、濾過し、冷却する。冷却後、6−O−メチルエリスロマイシンA結晶形態IIを濾過によって単離し、前記のように乾燥する。
【0030】
6−O−メチルエリスロマイシンAを炭化水素−第二溶媒混合物で処理する本発明の側面によれば、6−O−メチルエリスロマイシンAを、好ましい第二溶媒に懸濁し、第二溶媒の還流温度付近に加熱する。次に、懸濁液を加熱し、固形物のほとんどを溶解するのに充分な時間、一般に約10分〜2時間攪拌する。次に、懸濁液を熱間濾過する。必要であれば、濾液を加熱還流して、明澄な溶液を形成することもできる。次に、炭化水素溶媒を熱濾液に加え、混合物を周囲温度にゆっくり冷まし、任意に氷浴でさらに冷却してもよい。冷却後、6−O−メチルエリスロマイシンA結晶形態IIを濾過によって単離し、前記のように乾燥する。添加される炭化水素溶媒の量は、第二溶媒および炭化水素溶媒中における物質の溶解度に依存し、当業者によって容易に決めることができる。典型的な比率は、炭化水素溶媒の容量部約1:10〜約1:1の範囲である。
【0031】
好ましい実施態様においては、6−O−メチルエリスロマイシンAを、アセトン、ヘプタン、トルエン、メチルtert−ブチルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、酢酸エチル、キシレン、エチルエーテル、酢酸アミル、ジイソプロピルエーテル、および酪酸イソプロピルから成る群から選択される溶媒で処理することによって、6−O−メチルエリスロマイシンA結晶形態IIを単離する。
【0032】
より好ましい実施態様においては、6−O−メチルエリスロマイシンAを、水、ならびに水混和性有機溶媒および水混和性アルカノールから成る郡から選択される溶媒で処理することによって、6−O−メチルエリスロマイシンA結晶形態IIを単離する。特に好ましい水混和性有機溶媒は、テトラヒドロフランである。特に好ましい水混和性アルカノールは、メタノール、エタノール、プロパノール、およびイソプロパノールである。
【0033】
溶媒混合物中において、水をメタノールで置き換える場合に、乾燥時間が短縮されるかまたは乾燥をより低い温度で行うことができる。従って、さらに好ましい実施態様においては、メタノール、ならびに炭素原子5〜12個の炭化水素、炭素原子2〜5個のアルカノール、炭素3〜12個のケトン、炭素原子3〜12個のカルボキシルエステル、炭素原子4〜10個のエーテル、ベンゼン、および炭素原子1〜4個のアルキル、炭素原子1〜4個のアルコキシ、ニトロおよびハロゲンから成る群から選択される1つまたはそれ以上の置換基で置換されたベンゼンから成る群から選択される第二溶媒を含んで成る溶媒で、6−O−メチルエリスロマイシンAを処理することによって、6−O−メチルエリスロマイシンA結晶形態IIを単離することができる。本発明の実施態様の好ましい溶媒はメタノールと炭素2〜5個のアルカノール、及びメタノールと炭素3〜12個のカルボキシルエステルである。特に好ましい溶媒は、メタノール−エタノールおよびメタノール−酢酸イソプロピルである。
【0034】
本発明の最も好ましい実施態様においては、式HNR[式中、RおよびRは独立に、水素および炭素原子1〜4個のアルキルから選択され、但し、RおよびRの両方が水素でないことを条件とする。]で示される溶媒で、6−O−メチルエリスロマイシンAを処理することによって、6−O−メチルエリスロマイシンA結晶形態IIを単離する。アルキルおよびジアルキルアミンが好ましく、その理由は、6−O−メチルエリスロマイシンAがそれらの溶媒中で実質的に可溶性であり、該溶媒が容易に蒸発し、その結果、溶媒およびエネルギーが低コストになるからである。最も好ましい溶媒は、イソプロピルアミンである。
【0035】
例示のために示され、本発明の範囲を限定することを意図するものではない下記の実施例を参照することによって、前記の記載がよりよく理解されるであろう。
【0036】
参考例
C−9カルボニルのオキシム化、C−2’およびC−4”ヒドロキシ基の保護、C−6ヒドロキシ基のメチル化、脱オキシムおよび保護基の除去によって、エリスロマイシンAから6−O−メチルエリスロマイシンAを製造し、米国特許第4990602号の方法によってエタノールから再結晶して、6−O−メチルエリスロマイシンA形態Iを得た。形態I結晶(0.40g)をガラス瓶に入れ、真空炉(4〜9in Hg、100〜110℃)で18時間加熱して、6−O−メチルエリスロマイシンA形態II結晶を得た。
【0037】
6−O−メチルエリスロマイシンA形態IIを、赤外スペクトル、示差走査熱量(DSC)サーモグラムおよび粉末X線回折図形によって特性決定する。
【0038】
示差走査熱量サーモグラムを、当分野で既知の方法によって得、図2cに示す。6−O−メチルエリスロマイシンA形態IIが、223.4℃で溶融することが、図2cから分かる。図2cにおいて、分解による場合もある283.3℃における吸熱ピークも見られる。DSC走査後、試料の色は黒であった。
【0039】
6−O−メチルエリスロマイシンA形態IIの粉末X線回折パターンが、図2aに示されている。粉末X線回折パターンは、Nicolet X線回折計を用いて、当分野で既知の方法によって得られる。粉末X線回折パターンから生じるピーク(最大ピークの15%より上の強度を有する)を、計算粉末回折パターンから得られる対応するピークと比較する。計算粉末回折パターンは、Rigaku AFC5R回折計を用いて当分野で既知の方法によって得られる単結晶X線構造から導かれる。計算粉末パターンは、実験的に観察されるX線パターンにおけるピークが、クラリスロマイシン形態IIによるものであることを確認するために使用される。
【0040】
下記表Iは、選択ピーク(最大ピークの15%より上の強度を有する)の2−Θ位置を示している。表Iにおける標準位置は、少数第二位までで示した実験粉末パターンからのピーク位置を表す。実験粉末パターンにおける1つのピーク(15.280 2−Θ)は、計算粉末パターンに対応するピークを有さず、従って、それの位置は標準位置のリストに含まれていない。
【0041】
【表1】

【0042】
前記表Iからの標準2−Θ角度位置は、8.39、9.33、10.72、11.33、11.74、12.24、13.62、13.97、15.03、16.37、16.80、17.16、17.38、17.97、18.20、18.91、19.75、20.34、22.08、および24.79である。
【0043】
比較において、図1aに示される6−O−メチルエリスロマイシンA形態Iの粉末X線回折パターンにおける2−Θ角度位置は、8.52°±0.2、9.48°±0.2、10.84°±0.2、11.48°±0.2、11.88°±0.2、12.36°±0.2、13.72°±0.2、14.12°±0.2、15.16°±0.2、16.48°±0.2、16.92°±0.2、17.32°±0.2、18.08°±0.2、18.40°±0.2、19.04°±0.2、19.88°±0.2、および20.48°±0.2である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1a】6−O−メチルエリスロマイシンA形態Iの粉末X線回折スペクトルを示す。
【図1b】6−O−メチルエリスロマイシンA形態Iの赤外スペクトルを示す。
【図1c】6−O−メチルエリスロマイシンA形態Iの示差走査熱量計(DSC)のサーモグラムを示す。
【図2a】6−O−メチルエリスロマイシンA形態IIの粉末X線回折スペクトルを示す。
【図2b】6−O−メチルエリスロマイシンA形態IIの赤外スペクトルを示す。
【図2c】6−O−メチルエリスロマイシンA形態IIの示差走査熱量計(DSC)のサーモグラムを示す。
【実施例1】
【0045】
アセトンからの再結晶
アセトン(200mL)中の6−O−メチルエリスロマイシンA(30g)の懸濁液を、還流下に15分間加熱した。熱溶液を濾過し、固形物5.53gを除去した。フィルターフラスコをアセトン(5mL)で濯いだ。合わせた濾液および濯ぎ液を加熱還流し、アセトン(45mL)を加えて全ての残留固形物を溶解した。溶液を周囲温度に冷まし、次に、氷水浴で冷却した。得られる固形物を濾過し、真空炉(4〜9in Hg、40〜45℃)で一晩乾燥して、6−O−メチルエリスロマイシンA形態II(17.8g)を得た。
【実施例2】
【0046】
ヘプタンからの再結晶
ヘプタン(1000mL)中の6−O−メチルエリスロマイシンA(10g)の懸濁液を、還流(98℃)下に1.5時間加熱した。熱溶液を濾過し、固形物1.91gを除去した。濾液を加熱還流し、35分間加熱した。明澄な溶液を周囲温度に冷まし、次に、氷水浴で冷却した。得られる固形物を濾過し、真空炉(4〜9in Hg、40〜45℃)で一晩乾燥して、6−O−メチルエリスロマイシンA形態II(5.7g)を得た。
【実施例3】
【0047】
トルエンからの再結晶
トルエン(100mL)中の6−O−メチルエリスロマイシンA(30g)の懸濁液を、還流(110〜112℃)下に1.5時間加熱した。熱溶液を濾過し、フィルターフラスコをトルエン(10mL)で濯いだ。合わせた濾液および濯ぎ液を加熱還流し(110℃)、35分間加熱した。溶液を周囲温度に冷まし、次に、氷水浴で冷却した。得られる固形物を濾過し、真空炉(4〜9in Hg、40〜45℃)で一晩乾燥して、6−O−メチルエリスロマイシンA形態II(5.7g)を得た。
【実施例4】
【0048】
メチルtert−ブチルエーテルからの再結晶
メチルtert−ブチルエーテル(200mL)中の6−O−メチルエリスロマイシンA(10g)の懸濁液を、還流(55℃)下に15分間加熱した。熱溶液を濾過し、固形物2.6gを除去した。濾液を加熱還流し、メチルtert−ブチルエーテル(70mL)を加えて残留固形物を溶解した。溶液を周囲温度に冷まし、次に、氷水浴で冷却した。得られる固形物を濾過し、真空炉(4〜9in Hg、40〜45℃)で一晩乾燥して、6−O−メチルエリスロマイシンA形態II(4.6g)を得た。
【実施例5】
【0049】
N,N−ジメチルホルムアミドからの再結晶
N,N−ジメチルホルムアミド(200mL)中の6−O−メチルエリスロマイシンA(20g)の懸濁液を、還流(153℃)下に15分間加熱した。熱溶液を濾過し、濾液を加熱還流した。明澄な溶液を周囲温度にゆっくり冷まし、次に、4日間攪拌した。得られる固形物を濾過し、真空炉(4〜9in Hg、40〜45℃)で一晩乾燥して、6−O−メチルエリスロマイシンA形態II(7.4g)を得た。
【実施例6】
【0050】
酢酸エチルからの再結晶
酢酸エチル(100mL)中の6−O−メチルエリスロマイシンA(15g)の懸濁液を、還流(77℃)下に30分間加熱した。熱溶液を濾過し、濾液を加熱還流した。酢酸エチル(15mL)を濁った溶液に加えた。得られる明澄な溶液を、一晩で周囲温度に冷ました。得られる固形物を濾過し、真空炉(4〜9in Hg、40〜45℃)で91時間乾燥して、6−O−メチルエリスロマイシンA形態II(8.7g)を得た。
【実施例7】
【0051】
キシレンからの再結晶
キシレン(105mL)中の6−O−メチルエリスロマイシンA(35g)の懸濁液を、140℃に加熱し、明澄な溶液を得た。追加の6−O−メチルエリスロマイシンA(5.0g)を加え、熱溶液を濾過して、極微量の不溶物を除去した。フィルターフラスコをキシレン(5mL)で濯ぎ、合わせた濾液および濯ぎ液を還流下に15分間加熱した。溶液を周囲温度に冷まし、次に氷水浴で冷却した。得られる固形物を濾過し、真空炉(4〜9in Hg、40〜45℃)で一晩乾燥して、6−O−メチルエリスロマイシンA形態II(29g)を得た。
【実施例8】
【0052】
イソプロパノール−水からの再結晶
6−O−メチルエリスロマイシンA(20g)およびイソプロパノール(100mL)の懸濁液を、加熱還流した(82℃)。熱溶液を濾過し、固形物1.16gを除去した。濾液をイソプロパノール(20mL)で希釈し、再び加熱還流した。熱懸濁液を濾過し、3.5gの6−O−メチルエリスロマイシンAを採集した。イソプロパノール(50mL)を濾液に加え、明澄な溶液が得られるまで混合物を還流下に加熱した。明澄な溶液に水(100mL)を加え、溶液を氷浴で冷却した。得られる固形物を濾過し、真空炉(4〜9in Hg、40〜45℃)で一晩乾燥して、6−O−メチルエリスロマイシンA形態II(9.5g)を得た。
【実施例9】
【0053】
テトラヒドロフラン−水からの再結晶
THF(100mL)中の6−O−メチルエリスロマイシンA(30g)の懸濁液を、還流(66.5℃)下に20分間加熱した。熱溶液を濾過して極微量の不溶物を除去した。濾液を加熱し(66.5℃)、固形物が形成される点で水(100mL)を加えた。懸濁液を周囲温度に冷まし、濾過した。固形物を真空炉(4〜9in Hg、40〜45℃)で4日間乾燥して、6−O−メチルエリスロマイシンA形態II(24g)を得た。
【実施例10】
【0054】
エタノール−水からの再結晶
エタノール(200mL)中の6−O−メチルエリスロマイシンA(20g)の懸濁液を、78℃に加熱した。熱溶液を濾過し、固形物12.6gを除去した。濾液を加熱還流し、水(200mL)を加えた。混合物を周囲温度に冷まし、濾過した。固形物を真空炉(4〜9in Hg、40〜45℃)で乾燥して、6−O−メチルエリスロマイシンA形態II(8.8g)を得た。
【実施例11】
【0055】
エチルエーテルからの再結晶
エチルエーテル(150mL)中の6−O−メチルエリスロマイシンA(5.0g)の懸濁液を、加熱還流した。不溶性固形物を濾過によって除去し、濾液を周囲温度に冷ました。沈殿物がゆっくり現れ、濾過によって単離して、6−O−メチルエリスロマイシンA形態II(0.8g)を得た。濾液を周囲温度で一晩攪拌して、追加の0.65gの6−O−メチルエリスロマイシンA形態IIを得た。
【実施例12】
【0056】
酢酸アミルからの再結晶
酢酸アミル(100mL)中の6−O−メチルエリスロマイシンAの懸濁液を、93℃に加熱し、このときに溶液がほぼ明澄になった。極微量の不溶性固形物を、熱溶液の濾過によって除去し、濾液を周囲温度に冷ました。沈殿物がゆっくり現れ、濾過によって単離し、周囲温度で一晩乾燥した後(4〜9in Hg)、6−O−メチルエリスロマイシンA形態II(6.9g)を得た。
【実施例13】
【0057】
酢酸イソプロピル−メタノールからの再結晶
酢酸イソプロピル(100mL)中の6−O−メチルエリスロマイシンA(12g)の懸濁液を、加熱還流した。熱溶液を濾過し、濾液を他の容器に移した。フィルターフラスコを酢酸イソプロピル(10mL)で濯ぎ、合わせた濾液および濯ぎ液を加熱還流した。メタノール(100mL)を加え、明澄な溶液を周囲温度にゆっくり冷まし、その間に沈殿物が形成された。周囲温度で3時間後、沈殿物を濾過によって採集した。固形物を真空炉(4〜9in Hg、40〜45℃)で乾燥して、6−O−メチルエリスロマイシンA形態II(6.8g)を得た
【実施例14】
【0058】
ジイソプロピルエーテルからの再結晶
6−O−メチルエリスロマイシンA(3.0g)およびジイソプロピルエーテル(150mL)の懸濁液を、加熱還流した。熱溶液を急速に濾過し、濾液を2時間で周囲温度に冷ました。得られる固形物を濾過によって採集し、真空炉(7〜9in Hg、45〜50℃)で乾燥して、6−O−メチルエリスロマイシンA形態II(0.27g)を得た。
【実施例15】
【0059】
酪酸イソプロピルからの再結晶
酪酸イソプロピル(100mL)中の6−O−メチルエリスロマイシンA(5.0g)の懸濁液を、90℃に加熱した。得られる明澄な溶液を3時間で周囲温度に冷まし、次に、氷水浴で30分間冷却した。得られる固形物を濾過によって採集し、真空炉(2〜4in Hg、45〜50℃)で乾燥して、6−O−メチルエリスロマイシンA形態II(2.8g)を得た。
【実施例16】
【0060】
イソプロピルアミンからの再結晶
6−O−メチルエリスロマイシンA(8.0g)をイソプロピルアミン(50mL)に添加することによって得られる明澄な溶液を、周囲温度で一晩攪拌した。沈殿物が形成されない場合は、追加の10.4gの6−O−メチルエリスロマイシンAを添加した。明澄な溶液を周囲温度で一晩攪拌し、その間に沈殿物が形成された。固形物を濾過によって採集し、真空炉(2〜4in Hg、45〜50℃)で乾燥して、6−O−メチルエリスロマイシンA形態II(16.2g)を得た。
【実施例17】
【0061】
メタノール−エタノールからの再結晶
6−O−メチルエリスロマイシンA(15g)、エタノール(100mL)、およびメタノール(100mL)の混合物を、69℃に加熱し、30分間攪拌した。熱溶液を濾過し、濾液を他の容器に移した。明澄な溶液を2時間で周囲温度に冷まし、次に、氷水浴で30分間攪拌した。得られる固形物を濾過によって採集し、真空炉(2〜4in Hg、45〜50℃)で乾燥して、6−O−メチルエリスロマイシンA形態II(7.1g)を得た。
【0062】
前記実施例は、例示のために示されており、本発明の範囲を限定することを意図しない。当業者に明らかな変形および変更も、請求の範囲に規定されている本発明の範囲および本質に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の:
8.39±0.20、9.33±0.20、10.72±0.20、11.33±0.20、11.74±0.20、12.24±0.20、13.62±0.20、13.97±0.20、15.03±0.20、16.37±0.20、16.80±0.20、17.16±0.20、17.38±0.20、17.97±0.20、18.20±0.20、18.91±0.20、19.75±0.20、20.34±0.20、22.08±0.20、および24.79±0.20
で示されるX線2−Θ角度位置を有することを特徴とする、溶媒を含まない形態II結晶の6−O−メチルエリスロマイシンA。
【請求項2】
抗生物質治療のための医薬品の製造における請求項1に記載の溶媒を含まない形態II結晶の6−O−メチルエリスロマイシンAの使用。
【請求項3】
上部気管の感染治療のための医薬品の製造のための請求項2に記載の使用。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【公開番号】特開2009−242411(P2009−242411A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141790(P2009−141790)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【分割の表示】特願2005−357782(P2005−357782)の分割
【原出願日】平成9年7月28日(1997.7.28)
【出願人】(391008788)アボット・ラボラトリーズ (650)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT LABORATORIES
【Fターム(参考)】