説明

クランク軸端のシール構造

【課題】クランク軸端を非接触で封止して潤滑油の漏れ出しを確実に防止する。
【解決手段】油切カバー25の環状面34とラビリンスシール36との間に環状溝39を設け、一端が環状溝39に他端がクランク室31に開口するU字経路40を設ける。さらに、一端がU字経路40の上端部に他端が環状面34に開口する連通経路41を設ける。その結果、環状面34と鍔28との隙間の潤滑油を含む空気が遠心力によって飛ばされるに伴う吸引力により、連通経路41〜環状溝39内が負圧になる。そのため、U字経路40内の潤滑油のミスト圧力がラビリンス溝35に掛かることを防止でき、クランク軸22とラビリンスシール36との間の潤滑油のミストを含む空気の流れが、ラビリンスシール36の外側から環状溝39側に向かう流れになる。したがって、U字経路40内の潤滑油の逆流による潤滑油の漏れ出しを確実に防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関、特にディーゼル機関におけるクランク軸端のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、大型のディーゼル機関におけるクランク軸端のシール構造では、フレームから突出しているクランク軸の端部の外周を、フレーム端面に取り付けた油切カバーで覆ってシールするようにしている。このようなクランク軸端のシール構造として、特開2003‐336544号公報(特許文献1)に開示されたものがある。
【0003】
上記クランク軸端のシール構造においては、図3に示すように、フレーム1から突出するクランク軸2の端部の外周を、フレーム1の後端面1aに取り付けた油切カバー3で覆ってシールする。その際に、クランク軸2における大径部4の外周に隙間をあけて嵌合する中心穴5aを有する仕切板5をフレーム1に取り付ける。また、大径部4の第1径方向段部6に軸方向に隙間をあけて対向する径方向対向面を有する油切フランジ7を油切カバー3に設ける。
【0004】
さらに、上記油切フランジ7におけるクランク軸2側の面と、クランク軸2における大径部4に連なる中径部8の外周との間に、環状室9を形成する。そして、環状室9の下部に連通する開口10aを一端に有する一方、開口10aよりも径方向外側においてフレーム1内に連通する開口10bを他端に有してU字管をなす連通油路10を、油切カバー3内に径方向に設けている。
【0005】
尚、上記油切カバー3は、クランク軸2の上側では空間12を介してフレーム1と対向しており、クランク軸2の下側ではフレーム1下に設けられたクランク室13を臨んでいる。
【0006】
上記クランク軸端のシール構造によれば、上記クランク軸2の表面を軸端方向に伝わって漏れ出そうとする潤滑油は仕切板5で堰き止められて、一部のみが中心穴5aを通過する。この中心穴5aを通過した潤滑油は、油切フランジ7によって通過が阻止される。さらに、油切フランジ7の径方向対向面とこれに対向する大径部4の第1径方向段部6との隙間を通過して環状室9内に侵入したごく一部の潤滑油は、U字管をなす連通油路10に溜まって環状室9内をフレーム1内よりも油柱差だけ低い圧力に維持して、フレーム1の内外の圧力の変動を自動調整しつつ、連通油路10の他端の開口10bからフレーム1内に戻される。こうして、潤滑油の外部への漏れ出しが、非接触の封止構造で防止される。
【0007】
しかしながら、上記クランク軸端のシール構造には、以下のような問題がある。
【0008】
すなわち、上記フレーム1内と環状室9内との圧力差が不十分なため、連通油路10内の潤滑油のミスト圧力がラビリンス溝11に掛かることになり、クランク軸2と油切カバー3との境界部での上記潤滑油のミストを含む空気の流れが、環状室9側から油切カバー3の外側に向かう流れとなる。その結果、潤滑油が環状室9側から油切カバー3の外側に向かって流れ易くなり、油切カバー3による潤滑油の封止が不十分なものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003‐336544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、この発明の課題は、クランク軸端を非接触で封止して潤滑油の外部への漏れ出しを確実に防止できるクランク軸端のシール構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、この発明のクランク軸端のシール構造は、
フレームから突出すると共に、鍔を有するクランク軸と、
上記クランク軸の端部の外周を覆ってシールする油切カバーと
を備え、
上記油切カバーは、
上記クランク軸の鍔の一側面に対向して近接する環状面と、
上記クランク軸における上記鍔よりも上記端部側をシールするラビリンスシールと、
上記環状面と上記ラビリンスシールとの間に設けられて、上記クランク軸を取り巻く環状溝と、
径方向に設けられると共に、一端が上記環状溝の下部に開口する一方、他端がこの開口よりも径方向外側で上記フレーム内に開口するU字経路と、
一端が上記U字経路の上端部に開口する一方、他端が上記環状面に開口する連通経路と
を備えた
ことを特徴としている。
【0012】
上記構成によれば、回転するクランク軸の表面を軸端方向に伝わって、油切カバーの環状面と鍔の一側面との間の僅かな隙間を通過した一部の潤滑油は、上記環状面と上記ラビリンスシールとの間に設けられた環状溝に流れ込む。そして、上記環状溝内の潤滑油は、上記ラビリンスシールの存在によりU字経路に入って捕集,蓄積され、上記フレーム内へ戻される。
【0013】
その際に、上記油切カバーの環状面と上記鍔の一側面との隙間内の潤滑油を含む空気が遠心力によって径方向に飛ばされ、それに伴う吸引力によって連通経路,上記U字経路の上端部および上記環状溝内が負圧になる。そのため、上記U字経路内の潤滑油のミスト圧力がラビリンスシールに掛かることが防止され、上記クランク軸と上記ラビリンスシールとの境界部における潤滑油のミストを含む空気の流れが、上記ラビリンスシールの外側から上記環状溝側に向かう流れになる。したがって、上記U字経路内の潤滑油の逆流による潤滑油の上記クランク軸の端部からの漏れ出しが確実に防止される。
【0014】
また、1実施の形態のクランク軸端のシール構造では、
上記連通経路の上記一端は、径方向内側の上記環状溝に向いており、
上記連通経路における上記他端は、上記一端よりも径方向外側に位置している。
【0015】
この実施の形態によれば、上記連通経路の上記一端は径方向内側の上記環状溝に向いており、上記連通経路における上記環状面に開口する上記他端は、上記U字経路の上端部に連通する上記一端よりも径方向外側に位置している。したがって、上記環状面と上記一側面との隙間内の潤滑油を含む空気が遠心力によって径方向外側に飛ばされる際の吸引力によって、上記連通経路内の潤滑油を含む空気がよりスムーズに上記フレーム内に引き込まれる。
【0016】
また、1実施の形態のクランク軸端のシール構造では、
上記U字経路における屈曲部と上記他端との間の距離は3cm以上である。
【0017】
起動後であって上記U字経路内の潤滑油が増加する前および上記フレーム内の圧力の変動時に、上記U字経路内の潤滑油における上記他端側の油面が上記フレーム内の圧力によって押されて低下する。この実施の形態によれば、上記U字経路における屈曲部と上記他端との間の距離は3cm以上であるので、上記U字経路の上記他端側の油面が上記フレーム内の圧力によって押されても上記屈曲部に至ることがない。つまり、油面が屈曲部に至って潤滑油のミストを含む上記フレーム内の空気が気泡となって上記U字経路内の反対側の潤滑油に侵入して、ひいてはミストを含むフレーム内の圧力が抜けてしまうことを防止できる。したがって、潤滑油のミストを含む圧力が上記環状溝を介して上記ラビリンスシール側に抜けて、潤滑油漏れが生ずることを防止できる。
【0018】
また、1実施の形態のクランク軸端のシール構造では、
上記クランク軸における上記環状溝に対向する位置に設けられた環状の突起を備えている。
【0019】
この実施の形態によれば、上記段落〔0011〕〜段落〔0015〕で述べた解決手段をもってしてもなお上記クランク軸の表面を伝わって軸端に向かおうとする潤滑油があった場合に、上記クランク軸に設けられた環状の突起の回転に伴う遠心力によって、上記環状溝内に向かって飛ばすことができる。したがって、上記クランク軸の表面を上記ラビリンスシールに向かって伝わろうとする潤滑油を、確実に減少させることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上より明らかなように、この発明のクランク軸端のシール構造によれば、回転するクランク軸の表面を軸端方向に伝わって、油切カバーの環状面と上記クランク軸の鍔の一側面との間の僅かな隙間を通過した一部の潤滑油が、上記環状面と上記ラビリンスシールとの間に設けられた環状溝に流れ込む。そして、上記環状溝内の潤滑油が、上記ラビリンスシールの存在によりU字経路に入って捕集,蓄積され、上記フレーム内へ戻される。
【0021】
その際に、上記油切カバーの環状面と上記鍔の一側面との隙間内の潤滑油を含む空気が遠心力によって飛ばされ、それに伴う吸引力によって連通経路,上記U字経路の上端部および上記環状溝内が負圧になる。そのため、上記U字経路内の潤滑油のミスト圧力がラビリンスシールに掛かることを防止でき、上記クランク軸と上記ラビリンスシールとの境界部における潤滑油のミストを含む空気の流れを、上記ラビリンスシールの外側から上記環状溝側に向かう流れにできる。したがって、上記U字経路内の潤滑油の逆流による潤滑油の上記クランク軸の端部からの漏れ出しを確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明のクランク軸端のシール構造を採用したディーゼル機関における油切カバーの縦断面図である。
【図2】図1における油切カバーの部分拡大図である。
【図3】従来のクランク軸端のシール構造を採用したディーゼル機関の要部側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0024】
本実施の形態のクランク軸端のシール構造の基本構成は、図3に示す従来のクランク軸端のシール構造と同様に、フレームから突出するクランク軸の端部の外周を、上記フレームの後端面に取り付けた油切カバーで覆ってシールするものである。
【0025】
図1は、本実施の形態のクランク軸端のシール構造を採用したディーゼル機関における油切カバーの縦断面図である。
【0026】
このディーゼル機関におけるフレーム21の後端面21aからは、先端に連結用のフランジ23を有するクランク軸22の端部が突出しており、図3の場合と同様に、フレーム21の後端面21aおよび台板24の上部に固定された油切カバー25で、クランク軸22の表面を軸端方向に伝わって漏れ出そうとする潤滑油をシールしている。
【0027】
上記油切カバー25は、クランク軸22が挿通される挿通穴の中心を通る垂直面で2分割されている。そして、2分割された部分油切カバーの夫々における2分割面25aから上記挿通穴の中心を通る垂直面の方向に延在するフランジ26同士を、フランジ26に設けられた複数の結合孔27に挿通されたボルト(図示せず)等によって締結することによって、油切カバー25が形成される。
【0028】
上記クランク軸22の一端にはフライホイール連結用のフランジ23が設けられ、このフランジ23から向かってフレーム21の内側には、油切用の鍔28が設けられている。そして、鍔28におけるフランジ23側の側面29は、クランク軸22の軸心に直交する環状面となっている。また、油切カバー25は、フレーム21の内側に設けられたクランク室31を臨んで配置されている。
【0029】
上記油切カバー25において、クランク軸22の軸心に直交する環状面34は、鍔28の側面29に軸方向に僅かな隙間を開けて対向している。また、油切カバー25における環状面34とはクランク軸22の軸心方向反対側には、環状のラビリンス溝35を複数有するラビリンスシール36が取り付けられている。さらに、ラビリンスシール36の取付面38におけるクランク軸22の挿通穴の周囲には環状の凹部39が設けられており、この環状の凹部39は取り付けられたラビリンスシール36の側面によって塞がれて環状溝39を形成する。
【0030】
図2は、上記油切カバー25におけるクランク軸22よりも下側における環状溝39付近の拡大図である。図1および図2に示すように、油切カバー25におけるクランク軸22よりも下側には、一端が環状溝39に連通する一方、他端が上記一端より径方向外側においてクランク室31に連通するU字経路40が設けられている。ここで、U字経路40における屈曲部40aとクランク室31への連通口40cとの間の距離Hを3cm以上に設定している。
【0031】
また、上記油切カバー25には、一端がU字経路40の上端部に連通する一方、他端が環状面34に開口する連通経路41を設けている。そして、油切カバー25の環状面34は、鍔28の側面29に軸方向にわずかな隙間を開けて対向している。尚42は、油切カバー25内の環状のラビリンス溝である。
【0032】
さらに、図2に示すように、上記クランク軸22における環状溝39と対向する位置には、環状の突起43が設けられている。この突起43の側面はクランク軸22の表面に滑らかに連なるような曲面になっている。
【0033】
上記構成を有するディーゼル機関におけるクランク軸端のシール構造は、以下のように作用する。
【0034】
すなわち、ディーゼル機関が運転されると、潤滑油サンプタンクから給油系(図示せず)を経てピストンやクランクピンに供給された潤滑油の一部が、回転するクランク軸22の表面を軸端方向に伝わって、クランク室31からフレーム21外に漏れ出ようとする。その場合に、油切カバー25の環状面34と鍔28の側面29との間の隙間は僅かであるため、漏れ出ようとする潤滑油の大部分はクランク軸22および鍔28の回転に伴う遠心力によって飛ばされて、クランク室31に回収される。
【0035】
一方、上記油切カバー25の環状面34と鍔28の側面29との間の僅かな隙間を通過した一部の潤滑油は、油切カバー25とラビリンスシール36とによって形成された環状溝39に流れ込む。その場合、環状溝39の後端にはラビリンス溝35を有するラビリンスシール36が存在するため、環状溝39に流れ込んだ微量の潤滑油は、次第に液となって遠心力により連通口40bからU字経路40に入って捕集,蓄積され、クランク室31への連通口40cからクランク室31へ戻される。
【0036】
ここで、上記U字経路40における上記他端の連通口40cが上記一端の連通口40bよりも垂直方向下方でクランク室31に連通しているので、環状溝39の内圧はクランク室31の内圧に比してU字経路40に形成される油柱差ΔHの分だけ低く維持される。そして、ディーゼル機関の運転条件や大気圧の変動によって、フレーム21内外の圧力差が増えればU字経路40内に多くの潤滑油が溜まって油柱差ΔHが大きくなる。一方、フレーム21内外の圧力差が減ればその分だけU字経路40内の潤滑油がクランク室31へ戻されて油柱差ΔHが小さくなる。こうして、フレーム21内外の圧力の変動を自動調整しつつ、U字経路40内の潤滑油が連通口40cからクランク室31へ戻されるのである。
【0037】
また、上記クランク軸22が回転することによって、油切カバー25の環状面34と鍔28の側面29との間の隙間における連通経路41の開口付近の潤滑油を含む空気が、鍔28の回転に伴う遠心力によって径方向にクランク室31側に飛ばされる。そして、それによる吸引力によって、連通経路41,U字経路40の上部および環状溝39内の潤滑油を含む空気がクランク室31側に引き込まれ、連通経路41,U字経路40の上部および環状溝39内が積極的に負圧にされる。
【0038】
その結果、上記環状溝39内の圧力をラビリンスシール36よりもフランジ23側の圧力(大気圧)よりも連通経路41が無い場合に比してより低めることができ、U字経路40内にクランク室31と環状溝39との内圧差分の油柱差ΔHを形成することができ、シール部の負圧を保つことができる。
【0039】
また、上記連絡経路41の一端は径方向内側の環状溝39に向いており、連通経路41における環状面34に開口する上記他端を、U字経路40の上端部に連通する上記一端よりも径方向外側に位置するように形成している。したがって、連通経路41内の潤滑油を含む空気が、油切カバー25の環状面34と鍔28の側面29との隙間内の潤滑油を含む空気が遠心力によって径方向外側に飛ばされる際の吸引力によって、クランク室31側によりスムーズに引き込まれるようにできる。
【0040】
上述したように、上記シール部を負圧に保つことによって、上記シール部がシールされる。しかしながら、上記シール部を負圧に保ってもクランク軸22の表面を潤滑油が伝わって来る場合がある。そこで、クランク軸22の表面を伝わって軸端に向かう潤滑油は、クランク軸22に設けられた突起43の回転に伴う遠心力によって環状溝39内に向かって飛ばすようにしている。さらに、突起43によって飛ばされずにクランク軸22の表面をさらに軸端に向かって伝わろうとする潤滑油は、後段のラビリンスシール36によって捕集される。
【0041】
また、上述したように、上記U字経路40における屈曲部40aとクランク室31への連通口40cとの間の距離Hを3cm以上に設定している。このように、距離Hを3cm以上に設定することによって、以下のような効果を奏する。
【0042】
すなわち、起動前には、上記クランク室31内の圧力と環状溝39内の圧力とは共に大気圧であって等しく、油柱差ΔHは0である。そして、起動後であってU字経路40内の潤滑油が増加する前およびクランク室31内圧力の変動時には、クランク室31内圧力が大気圧よりも大きくなり、U字経路40内の潤滑油における連通口40c側の油面がクランク室31内の圧力によって押されて低下する。その場合、距離Hが3cmを下回る場合には、連通口40c側の油面がU字経路40の屈曲部40aに至り、潤滑油のミストを含むクランク室31内の空気が気泡となってU字経路40内の潤滑油を通過して、潤滑油のミストを含む圧力が環状溝39を介してラビリンスシール36側に抜けて、潤滑油漏れが生ずる場合がある。
【0043】
本実施の形態においては、上記U字経路40における屈曲部40aとクランク室31への連通口40cとの間の距離Hを、3cm以上に設定している。大型ディーゼル機関であれば、一般にミストを含むクランク室圧力が30mmAgを超えることはない。したがって、U字経路40内の潤滑油における連通口40c側の油面が、クランク室31内の圧力によって押されてU字経路40の屈曲部40aに至ることはなく、潤滑油のミストを含むクランク室31内の圧力がU字経路40内の潤滑油を超えて抜けることがない。すなわち、本実施の形態によれば、潤滑油のミストを含む圧力が環状溝39を介してラビリンスシール36側に抜けて、潤滑油漏れが生ずるのを防止できるのである。
【0044】
その後、上記環状溝39に流れ込んだ潤滑油が連通口40bからU字経路40に入り込んでU字経路40内の潤滑油が増加していくと、やがて連通口40c側の油面が連通口40cまで押し戻される。
【0045】
以上のごとく、本実施の形態においては、上記油切カバー25のクランク軸22の挿通穴の周囲における環状面34とラビリンスシール36との間に環状溝39を設け、油切カバー25内に、一端が環状溝39の下部に開口する一方、他端がこの開口よりも径方向外側でクランク室31(フレーム21内)に開口するU字経路40を、径方向に設ける。そして、油切カバー25内に、一端がU字経路40の上端部に開口する一方、他端が環状面34に開口する連通経路41を設けている。したがって、油切カバー25の環状面34と鍔28の側面29との間の隙間における連通経路41の開口付近の潤滑油を含む空気が、遠心力によってクランク室31側に飛ばされるに伴う吸引力によって、連通経路41,U字経路40の上部および環状溝39内の潤滑油を含む空気がクランク室31側に引き込まれて、連通経路41,U字経路40の上部および環状溝39内が積極的に負圧にされる。
【0046】
その結果、上記環状溝39内の圧力を連通経路41が無い場合に比してより低めることができ、U字経路40内の潤滑油のミスト圧力がラビリンスシール36のラビリンス溝35に掛かることを防止できる。そのうえ、クランク軸22とラビリンスシール36との境界部での潤滑油のミストを含む空気の流れを、ラビリンスシール36の外側から環状溝39側に向かう流れにすることができる。こうして、U字経路40内の潤滑油の逆流に伴う潤滑油の外部への噴き出しを確実に防止できる。
【0047】
すなわち、本実施の形態によれば、上記クランク軸22の突出端部に大径のフランジ23があるため、オイルシールの使用が難しいディーゼル機関であっても、上述の非接触形のクランク軸端シール構造で潤滑油の漏れ出しを確実に阻止でき、オイルシールの場合のような摩耗の問題もないので、シール構造の耐用寿命を大幅に延ばすことができるのである。
【0048】
尚、上記実施の形態においては、上記環状溝39を、油切カバー25に形成された環状の凹部39をラビリンスシール36の側面で塞ぐことによって形成している。しかしながら、油切カバー25内におけるラビリンスシール36の近傍にラビリンスシール36とは独立して形成しても構わない。
【0049】
また、上記実施の形態においては、この発明をディーゼル機関に適用した場合を例に説明している。しかしながら、この発明は、ディーゼル機関のみならず、種々の内燃機関のクランク軸端のシールに適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0050】
21…フレーム、
22…クランク軸、
23…フライホイール連結用のフランジ、
25…油切カバー、
28…鍔、
29…鍔の側面、
31…クランク室、
34…環状面、
35,42…ラビリンス溝、
36…ラビリンスシール、
39…環状溝、
40…U字経路、
41…連通経路、
43…突起。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームから突出すると共に、鍔を有するクランク軸と、
上記クランク軸の端部の外周を覆ってシールする油切カバーと
を備え、
上記油切カバーは、
上記クランク軸の鍔の一側面に対向して近接する環状面と、
上記クランク軸における上記鍔よりも上記端部側をシールするラビリンスシールと、
上記環状面と上記ラビリンスシールとの間に設けられて、上記クランク軸を取り巻く環状溝と、
径方向に設けられると共に、一端が上記環状溝の下部に開口する一方、他端がこの開口よりも径方向外側で上記フレーム内に開口するU字経路と、
一端が上記U字経路の上端部に開口する一方、他端が上記環状面に開口する連通経路と
を備えた
ことを特徴とするクランク軸端のシール構造。
【請求項2】
請求項1に記載のクランク軸端のシール構造において、
上記連通経路の上記一端は、径方向内側の上記環状溝に向いており、
上記連通経路における上記他端は、上記一端よりも径方向外側に位置している
ことを特徴とするクランク軸端のシール構造。
【請求項3】
請求項1あるいは請求項2に記載のクランク軸端のシール構造において、
上記U字経路における屈曲部と上記他端との間の距離は3cm以上である
ことを特徴とするクランク軸端のシール構造。
【請求項4】
請求項1から請求項3までの何れか一つに記載のクランク軸端のシール構造において、
上記クランク軸における上記環状溝に対向する位置に設けられた環状の突起を備えた
ことを特徴とするクランク軸端のシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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