説明

クリーンフィルムおよびそれを用いた包装袋

【課題】 本発明における課題は、有機系アウトガスが少ないことを定量的に示したクリーンフィルムおよび、そのクリーンフィルムよりなる包装袋を提供するものである。また、前記包装袋を用いて電子部品を包装した包装体を提供することを目的とするものである。
【解決手段】 本発明は、少なくともポリオレフィン系樹脂からなるシーラント層からなり、80℃、10分間加熱したときに発生する有機系総アウトガス量が、ヘキサデカン換算で1500ng/cm未満であり、かつ80℃、10分間加熱したときに発生する環状シロキサン合計量が、シロキサン6量体換算で2.5ng/cm未満であることを特徴とするクリーンフィルムを提供するものである。また、前記クリーンフィルムよりなる包装袋、および、その包装袋を用いて電子部品を包装したことを特徴とする電子部品包装体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塵・埃等の付着、ハロゲンイオンをはじめとする化学物質の付着を極端に嫌う、シリコンウエハー、IC、LSI等の半導体製品、コンピューター周辺装置の記憶装置であるFDD、光磁気ディスクドライブ、HDD、MR(磁気抵抗効果式)ヘッド等、メモリ媒体であるFD、HD等の電子部品等の包装袋に好適に使用されるものである。さらに詳しくは、内容物に接触する可能性があるシーラントフィルム層からの揮発性成分が定量的に少ない包装袋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコンウエハー、IC、LSI等の半導体製品、コンピューター周辺装置の記憶装置であるFDD、光磁気ディスクドライブ、HDD、MR(磁気抵抗効果式)ヘッド等、メモリ媒体であるFD、HD等の電子部品は、極微小、極微量の汚染物で腐食、動作不良等の障害が起こる。
【0003】
HDDを例に挙げると、上記汚染物質は(1)腐食の原因となるイオン性物質、(2)ヘッド−ディスク間に侵入して、記録再生面の損傷原因となる塵埃、(3)液滴飛散ないし表面移動により、ヘッド−ディスク間に侵入して製品粘着原因となる不揮発性残渣、(4)凝縮、吸着、固体化などによりヘッドに付着して浮上性に影響を及ぼしたり、ヘッド−ディスク間に凝縮して粘着原因となる有機系アウトガスに分けられる。(1)〜(4)に加え、ディスク障害につながるため、Sn、Siは禁忌物質として知られている。
【0004】
(4)の有機系アウトガスに関して、さらに詳しく述べる。アウトガスはDE(ディスク・エンクロージャー)内各種構成部品より発生するガスの総称であり、有機物系と無機物系に大別できるが、有機系のガスを示す場合が多い。アウトガスはHDDの信頼性に大きく関与しており、材料選定や加工後の加熱処理および超精密洗浄等をすることで低減対策となる。アウトガス物質とされているものの中で、シロキサン化合物、トリブチルスズ化合物等は、ヘッド表面に固着し、ヘッド・クラッシュの原因となる。炭水化物、メタクリレート系モノマー、DOP(ディオクチルフタレート)等の可塑剤や酸化防止剤であるフェノール系物質等は、ヘッドと媒体の吸着障害の原因となる。有機酸はヘッドのコア材やコイル部および磁気媒体の磁性膜腐食の原因となる。
このような汚染物で製品が汚染されることをコンタミネーションというが、極微小、極微量の汚染物が故障原因となるため、通常のコンタミネーションと区別する意味でマイクロコンタミネーションとも呼ばれている。
【0005】
HDDのみならずこのような電子部品を梱包する包装袋については、内容物に悪影響を及ぼさないよう、汚染物を可能な限り少なくし、マイクロコンタミネーションを制御することが求められる。しかし、クリーンフィルムおよびクリーン包装袋と呼ばれる包装材料は、広く世の中に流布しているものの、その評価方法としてよく実施されている方法は、清浄なHDD媒体等に包材を密着させ、包材から転写された物質を基盤検査機あるいは、X線光電子分光分析(XPS)、蛍光X線分析等の表面分析により評価する方法であり、この方法では包材だけのクリーン度が測定できず、また、清浄な媒体等は入手困難なものである。また、アウトガス測定方法については、HDD媒体等の加熱装置を包材評価に転用し、パージアンドトラップガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)する方法があるが、分析自体が煩雑である。このように、包材のクリーン度評価方法の規定およびクリーン性を定量的に規定した包材はほとんどないのが現状である。
【特許文献1】特開2004−108967
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の課題を考慮してなされたもので、有機系アウトガスが少ないことを定量的に示したクリーンフィルムおよび、そのクリーンフィルムよりなる包装袋を提供するものである。また、前記包装袋を用いて電子部品を包装した包装体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、少なくともポリオレフィン系樹脂からなるシーラント層からなり、80℃、10分間加熱したときに発生する有機系総アウトガス量が、ヘキサデカン換算で1500ng/cm未満であり、かつ80℃、10分間加熱したときに発生する環状シロキサン合計量が、シロキサン6量体換算で2.5ng/cm未満であることを特徴とするクリーンフィルムである。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記シーラント層の厚みが120μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のクリーンフィルムである。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記ポリオレフィン樹脂において、メルトインデックス(MI)が0.1から20(g/10分・190℃)の低密度ポリエチレン樹脂であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のクリーンフィルムである。
【0010】
請求項4に記載の発明は、前記シーラント層の少なくとも片側に、ガスバリア層および/または基材層を積層した多層構造を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のクリーンフィルムである。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれかに記載のクリーンフィルムよりなることを特徴とする包装袋である。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の包装袋を用いて電子部品を包装したことを特徴とする電子部品包装体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のクリーンフィルムおよび、そのクリーンフィルムよりなる包装袋は、包装袋からのアウトガスが少なく、最高水準のクリーン性を有するものである。また、HDDをはじめとする電子部品の梱包に最適であり、最高水準のクリーン性を有する電子部品包装体とすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は本発明のクリーンフィルムを形成するシーラントの巻取10の斜視図であり、図2(a)はキャスト法で成膜して巻き取った本発明のクリーンフィルムを形成するシーラント11のA−A’面の側断面図であり、図2(b)はインフレーション法で樹脂をチューブ状に押出し、押出したチューブ状シーラント内にクリーンエアを吹き込み、チューブ状シーラントの両端を製造ライン上で耳切りをせず、帯状で巻き取った本発明のクリーンフィルムを形成するシーラント12A−A’面の側断面図である。
【0015】
本発明のクリーンフィルムを形成するシーラントは、共押出し構成とすることも好ましく行われる。つまり、要求されるシーラントの厚みが厚い場合、2層以上の共押出し構成とすることも可能である。例えば、シーラントの厚みとして90μm必要である場合、加工方法によっては単層で90μmの厚さが得られない場合がある。そのようなときには、45μm、45μmの2層共押出し構成としてもよいし、30μm、30μm、30μmの3層共押出し構成としてもよい。
共押出し構成の場合に用いる樹脂は、必ずしも同じ樹脂である必要はなく、十分な層間強度が得られるような樹脂を選択する必要がある。
【0016】
前記シーラント11、12に用いる樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などのポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブテン、ポリメチルペンテンなどの単独重合体や、エチレン、プロピレン、ブテン、メチルペンテンなどのオレフィンから選ばれる2種以上のモノマーの共重合体、例えばエチレン−プロピレン共重合体等が挙げられ、これらの2種以上の混合物を用いることも可能であり、また、ある種の官能基を導入したグラフトポリマー、例えば無水マレイン酸グラフトポリプロピレンのような樹脂、エチレン−α、β不飽和カルボン酸共重合体を主骨格とするエチレン系共重合体を用いることも可能であるが、クリーン性の面からはメルトインデックス(MI)=0.1〜20(g/10分・190℃)で、かつ酸化防止剤、アンチブロッキング剤、滑剤等の添加剤を含まないLDPEが最適である。前記LDPEのメルトインデックス(MI)が0.1〜20(g/10分・190℃)が好ましいとするのは、メルトインデックス(MI)の低い樹脂を用いた方が、低分子量成分が少ないため成形時の熱安定性に優れ、クリーン性が高い積層材料が得られるためである。
【0017】
図3(a)は、前記シーラント11の片面に接着剤層を介して、ガスバリア層、基材層を積層した積層体の断面図であり、シーラント11、接着剤層13、ガスバリア層14、接着層15、基材層16が順次積層されている。また、図3(b)は、前記シーラントの片面に接着剤層を介して、ガスバリア層、基材層を積層した積層体の断面図であり、クリーンフィルム12、接着剤層13、ガスバリア層14、接着剤層15、基材層16が順次積層されている。また、図3(c)は、前記シーラント12の両面に接着剤層を介して、ガスバリア層、基材層を積層した積層体の側断面図であり、シーラント12の両面にそれぞれ、接着剤層13、ガスバリア層14、接着剤層15、基材層16が順次積層されている。また、図3(d)は、前記シーラント12の両面に接着剤層を介して、ガスバリア層、基材層を積層した積層体の側断面図であり、シーラント12の両面にそれぞれ、接着剤層13、ガスバリア層18、接着剤層15、基材層16が順次積層されている。
【0018】
前記接着層13、15に用いる接着剤としては、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエーテル系、および、それらを主体とした混合物などが一般的に用いられるが、Sn化合物およびSi化合物を含有せず、溶出成分の少ない接着剤が好ましく、かつ、塗布量は必要最低限とすることが好ましい。接着性樹脂を用いることも可能であるし、何らかの表面改質によりダイレクトラミネーション、あるいはサンドラミネーションをすることも好ましく行われる。また、ラミネートする面の活性を上げるために、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、オゾン処理等の表面処理をしてもよい。
サンドラミネーションに用いるラミネーション用樹脂としては、エチレンアクリル酸またはメタクリル酸共重合体、エチレンアクリレートまたはメタアクリレート共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、変性マレイン酸共重合体などが用いられる。接着剤をアンカーコートしても構わないが、クリーン性の面から好ましいのは、アンカーコートをせず、酸成分等の分解が少ないポリエチレンを用いるサンドラミネーションである。
【0019】
前記基材層16としては、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)等のポリエステルフィルム、二軸延伸ナイロンフィルム(ONyフィルム)、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム)、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物フィルム(EVOHフィルム)などが選択され、他の層を接着させる面にコロナ処理等を施すことでより良好な接着強度が得られる。
【0020】
前記ガスバリア層14としては、アルミニウム箔、または、金属あるいは金属化合物からなる薄膜層を設けたフィルムが使用される。薄膜形成材料としては、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、錫、チタン、亜鉛、ジルコニウム、カルシウム、ニッケル等から選択される酸化物、窒化物、フッ化物のうちのいずれか1種、あるいは2種以上の混合物が挙げられるが、その中で特に酸化アルミニウムあるいは酸化ケイ素が、透明性および酸素や水蒸気のガスバリア性に優れており、より好ましい。
【0021】
アルミニウム箔の厚みは7〜100μmが好ましく、前記金属アルミニウム、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素などの薄膜層の厚みは1〜300nm程度であることが好ましい。これらの金属薄膜層は、通常の真空蒸着法により形成することができる。また、その他の薄膜形成方法であるスパッタリング法やイオンプレーティング法、プラズマ気相成長法(CVD)などを用いることも可能である。
【0022】
また、前記ガスバリア層14に代わって、金属あるいは金属化合物からなる薄膜層の上に、ラミネート後のガスバリア劣化を抑制するため、少なくとも水溶性高分子を含むコーティング剤を塗布し加熱乾燥してなる被膜層を設けてなるガスバリア層18も好ましく用いられる。
【0023】
ガスバリア層18は、基材層17の少なくとも片面に、薄膜層(A層)と、少なくとも水溶性高分子を含むコーティング剤を塗布し加熱乾燥してなる被膜層(B層)とが順次積層されてなる構成や、あるいは、熱可塑性樹脂からなる基材の少なくとも片面に、薄膜層(A層)と、少なくとも水溶性高分子を含むコーティング剤を塗布し加熱乾燥してなる被膜層(B層)と、さらに、薄膜層(C層)と、少なくとも水溶性高分子を含むコーティング剤を塗布し加熱乾燥してなる被膜層(D層)とが順次積層されてなる構成を有する。
【0024】
前記薄膜層(A層およびC層)の薄膜形成材料としては、アルミニウム、マグネシウム、ケイ素、錫、チタン、亜鉛、ジルコニウム、カルシウム、ニッケル等から選択される金属、またはこれら金属の酸化物、窒化物、フッ化物のうちのいずれか一種、あるいは2種以上の混合物が挙げられる。透明性を考慮する場合には、無機化合物を用いることが好ましく、特に酸化アルミニウム、酸化ケイ素は蒸着膜単体での水蒸気、酸素等のガスバリア性に優れ、さらに高い透明性を有するために内容物の認識が可能となる点でより好ましい。また、薄膜層A層およびC層に用いる薄膜形成材料は、それぞれ同じ材料でも異なる材料でも特に制限はなく、要求されるガスバリア性に応じてその組み合わせは特に限定されない。
【0025】
前記薄膜層(A層およびC層)を形成する方法としては種々存在するが、真空蒸着法やスパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマ気相成長法(CVD)などの薄膜形成方法を用いることが可能である。特に真空蒸着法は生産効率の点から特に優れている。また、薄膜層と基材層の密着性および薄膜層の緻密性を向上させるために、プラズマアシスト法やイオンビームアシスト法を用いて蒸着することも可能である。また、蒸着の際に、酸素ガス等を吹き込む反応蒸着を行ってもよい。
【0026】
薄膜層の厚みは、用いられる蒸着材料の種類等により最低条件が異なるが、1〜300nmの範囲であることが望ましい。より好ましくは5〜100nmの範囲にあることが望ましい。薄膜層の厚みが1nm未満であると、基材層の全面に製膜できないおそれがある。また、薄膜層の厚みが300nmを超える場合には薄膜にフレキシビリティを保持させることができず、外的要因により薄膜に亀裂を生じさせるおそれがあるために好ましくない。
【0027】
被膜層(B層およびD層)の形成材料としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等の水溶性高分子成分が挙げられる。特に、ポリビニルアルコール(PVD)はガスバリア性に優れており、好ましい。ここでPVDは、ポリ酢酸ビニルをけん化して得られるものである。
【0028】
被膜層の厚みは、100〜5000nmの範囲であることが好ましい。100nm以下の場合には、塗膜が均一にならない恐れがあり、また5000nmを超える場合には膜にクラックを生じやすくなる。より好ましくは、乾燥後の被膜厚みが200〜600nmの範囲にあることである。
【0029】
さらに好ましくは、被膜層(B層およびD層)が、前記水溶性高分子と、1種類以上の金属アルコキシドおよびその金属アルコキシドから生成される加水分解物とを含む水溶液または水/アルコール混合溶液を主剤とするコーティング剤とからなる層であることが好ましい。
【0030】
本発明のクリーンフィルムについて、定量的に規定した有機系総アウトガス量について説明を加える。
【0031】
本発明のクリーンフィルムからの有機系総アウトガス量の測定方法を以下に述べる。
【0032】
本発明のクリーンフィルムからの有機系総アウトガス量を測定するには、パージアンドトラップ・ガスクロマトグラフ質量分析装置(以下、パージアンドトラップGC−MSとする)を用いることが好ましい。
【0033】
サンプリングはクリーンフィルムをパージアンドトラップ用のガラスチューブの中央に納まる大きさに裁断することが好ましい。その際、重量を小数点以下4位mgまで測定することが好ましい。サンプリングの際には、コンタミネーションを起こさぬよう注意を払う必要がある。まず、PE手袋またはGC−MS用手袋を着用することが好ましい。次にカッティングマット上にサンプリングするクリーンフィルムと同構成のものを載せる。その上にサンプリングするフィルムを4つ折りにして載せる。枚葉の場合には3枚以上重ねる。さらに専用治具を用い、カッターでサンプリングすることが好ましい。治具および下敷きフィルムと接触しているサンプルは廃棄し、内側のサンプルのみ清浄なピンセットで取り出すことが好ましい。上記の作業をクリーンルームで実施することも好ましく行われる。
【0034】
パージアンドトラップGC−MS測定の際に、使用するガラスチューブからコンタミネーションを起こさぬように、清浄なガラスチューブを使用することが好ましい。清浄化の方法としては、アセトンを入れたビーカー内にガラスチューブを入れ、超音波洗浄を30分以上行う。次に、ガラスチューブを電気炉で500℃、3時間加熱する。さらに、ガラスチューブに石英ウールを詰め、電気炉で350℃、24時間加熱し、その後、ガラスチューブ両端にサンプルチューブキャップをする。さらに、アルミホイルでガラスチューブを一本づつくるむことが好ましい。
【0035】
有機系総アウトガス量の定量は、上記方法でサンプリングしたサンプルをパージアンドトラップGC−MSで測定し、次いでトータルイオンクロマトグラム(TIC)からベースライン上昇分を除いたピーク面積をマニュアル積分し、そのピーク面積合計値をヘキサデカン換算にして定量することが好ましい。
【0036】
ヘキサデカン検量線作成について、以下にその方法を述べる。まず、ヘキサデカン50ng/μl程度のメタノール溶液を調製し、ヘキサデカン標準液を作成する。この際、ヘキサデカンの正確な重量を測定することが必要ある。
【0037】
ヘキサデカン標準液は、例えばTENAX TA100mgを充填したガラスチューブ(以下、TENAXチューブとする)を用いて、パージアンドトラップGC−MS測定することが好ましい。充填剤としては他に、TENAX GR、Carbotrap等が用いられる。TENAXチューブは測定前にコンディショニングすることが好ましい。その手順としては、Heガスによるパージを流量30ml/min.以上で3分以上行う。コンディショニングを行ったTENAXチューブにヘキサデカン標準液をゼロデッドポリュームシリンジに1μl取り、TENAXチューブのGC−MS測定時にGC注入口に近い端からTENAX中に打ち込み、パージアンドトラップ装置に取り付け、GC−MS測定を行う。検量線は横軸にヘキサデカン重量、縦軸にピーク面積を取って作成する。精度向上のため、多点検量線を作成することも好ましく行われる。
【0038】
ヘキサデカン検量線より得られた有機系総アウトガス量は、クリーンフィルム1cm当たりの量に計算する。
クリーンフィルム1cm当たりのアウトガス量(ng/cm)=測定したサンプルのアウトガス量(ng)/サンプルの面積(cm
【0039】
環状シロキサン量は、パージアンドトラップGC−MSで測定したとき、TICにおいて環状シロキサン3量体(D3)から環状シロキサン8量体(D8)までのピーク面積をマニュアル積分で計算し、その合計値を求め、シロキサン6量体(D6)換算にして定量することが好ましい。炭化水素ピークが大きく環状シロキサンピークの確認が困難である場合には、質量電荷比m/z=207(D3)、281(環状シロキサン4量体(D4)、環状シロキサン7量体(D7))、341(環状シロキサン5量体(D5)、D8)、355(D6)を指標として確認することが好ましい。シロキサン6量体より検量線を作成し、環状シロキサン合計値が2.5ng/cm未満であることが好ましい。
【0040】
環状シロキサン量についても、シロキサン6量体標準物質で検量線を作成し、同様の方法で算出する。なお、ヘキサデカン、シロキサン6量体は夾雑物がなく、純度の高い試薬を使用することが好ましい。
【0041】
パージアンドトラップGC−MS測定におけるコンタミネーション把握のため、サンプル測定の前には、ガラスチューブのみにブランク測定を行うことが好ましく、TENAXチューブを使用するときも、標準液を打ち込む前にブランク測定を行うことが好ましい。ブランクの測定値が環状シロキサンで0.5ng/cm未満であることが好ましい。ブランク測定し、上記環状シロキサンが0.5ng/cm未満であることを確認した後、同一チューブにサンプルを入れて測定することが好ましい。
【0042】
実験室環境のコンタミネーションがある場合には、サンプルあるいは標準液測定の前に、プレ測定を行うことが好ましい。プレ測定は以下の手順で行う。パージアンドトラップGC−MSで一度プレ測定した後、パージアンドトラップ装置内を大気開放せずに同一チューブで本測定を行う。
【0043】
パージアンドトラップの加熱脱着温度条件はサンプル本測定の場合は80℃、10分、標準液の場合には250℃、10分であることが好ましい。コールドトラップ温度は、−135℃以下であることが好ましい。プレ測定の場合は、パージアンドトラップの加熱脱着温度条件はサンプル、標準液で30℃、10分のように設定可能な最低条件で構わない。また、サンプルのアウトガスをTENAX等の充填剤やポリジメチルシロキサンをコーティングしたガラスキューブに吸着させた後にパージアンドトラップGC−MS内で脱着させてもよい。
【0044】
GC−MSの温度条件はサンプル測定の場合は、初期温度40℃、5分保持、昇温速度5℃/min.、最高温度300℃、5分保持とすることが好ましい。また、標準的なGC−MS測定条件としては、イオン化法は電子衝撃法(EI)、イオン化電圧は70eV、イオン源温度は230℃、四重極温度は150℃、マスレンジは45〜550であり、SCAN測定が好ましく、データ取り込みは細かく行うことが好ましい。使用カラムは5%Phenyl、95%Poly Dimethyl Siloxane、長さ30m×直径0.25mmid×液相厚み0.25μmが好ましく用いられる。
【0045】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明の技術範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0046】
無添加LDPE樹脂(MI=2.0)を原料とし、キャスト法によりフィルム(厚み90μm)を得た。
この後、得られたフィルムを、内寸40×40cmの三方シールの袋状に貼り合わせ、実施例1の包装袋を得た。
なお、押出成形および製袋加工は、クラス10000以下のクリーン環境下で行った。
【実施例2】
【0047】
インフレーション法により、シーラント側から無添加LDPE(MI=0.8)樹脂(厚さ80μm)、接着性樹脂、Ny(厚み25μm)の順に積層した。このとき、LDPE層は樹脂温度170℃で押し出し、クリーンエアを吹き込んだ。
得られたチューブ状の積層体をライン上で折り込み、耳切りをせず、帯状のクリーンフィルムを得た。
該フィルムを、内寸25×35cmの底シールの袋状に貼り合わせ、実施例2の包装袋を得た。なお、製袋加工は、クラス10000以下のクリーン環境下で行った。
【実施例3】
【0048】
インフレーション法により、無添加LDPE樹脂(MI=0.8)からなる厚さ40μmのチューブ状シーラントを得た。該シーラントの外表面と、PETフィルム(厚み12μm)、接着剤、Al箔(厚み7μm)の順に積層してなる積層体とをAl箔面が接着面となるように接着剤により貼り合わせ、クリーンフィルムを得た。
該クリーンフィルムを、内寸40×40cmの三方シールの袋状に貼り合わせ、実施例3の包装袋を得た。なお、製袋加工は、クラス10000以下のクリーン環境下で行った。
【実施例4】
【0049】
ドライラミネーション加工により、PET(厚み12μm)、接着剤、ケイ素酸化物薄膜層を有するPET(厚み12μm)の順に積層してなるフィルムを得た。さらに、該ケイ素酸化物薄膜層を有するPET層上に接着剤を積層し、さらにキャスト法により、無添加LDPE樹脂(MI=2.0)(厚み80μm)を積層し、クリーンフィルムを得た。
該クリーンフィルムを、内寸40×40cmの三方シールの袋状に貼り合わせ、実施例4の包装袋を得た。なお、ドライラミネーション加工、押出加工、製袋加工はクラス10000以下のクリーン環境下で行った。
【実施例5】
【0050】
インフレーション法により、無添加LDPE樹脂(MI=1.0)からなる厚さ90μmのフィルムを得た。このとき、樹脂温度160℃で押し出し、クリーンエアを吹き込むことにより得られたチューブ状のシーラントをライン上で織り込み、耳切りをせず、内面層が密着した帯状のシーラントとした。
また、ドライラミネーション加工により、Al箔(厚み7μm)、接着剤、延伸Ny(厚み25μm)、接着剤、Al薄膜層を有するPET(12μm)の順に積層してなるフィルムを得た。
次に、ドライラミネーション加工により、該シーラント、接着剤、該積層フィルムの順に積層し、クリーンフィルムを得た。この際、該積層フィルムのAl薄膜層を有するPET層面とシーラントとが密着するように貼り合せた。
得られたクリーンフィルムを、内寸40×40cmの三方シールの袋状に貼り合せ、実施例5の包装袋を得た。
【実施例6】
【0051】
基材17として、厚さ12μmの二軸延伸PETフィルムの片面に、電子線加熱方式による真空蒸着装置により、金属アルミニウムを蒸発させ、そこに酸素ガスを導入し、厚さ15nmの酸化アルミニウムを蒸着して薄膜層(A層)を形成した。次いで、下記組成からなるコーティング剤をグラビアコート法により塗布し、その後120℃、1分間乾燥させ、厚さ400nmの被膜層(B層)を形成した。さらに、該被膜層上に電子線加熱方式による真空蒸着装置により、金属アルミニウムを蒸発させ、そこに酸素ガスを導入し、厚さ15nmの酸化アルミニウムを蒸着して薄膜層(C層)を形成した。さらに、該薄膜層上に下記組成からなるコーティング剤をグラビアコート法により塗布し、その後120℃、1分間乾燥させ、厚さ350nmの被膜層(D層)を形成した。
【0052】
被膜層(B層およびD層)を形成するコーティング剤の組成は、下記に示す(イ)液と(ロ)液とを配合比(wt%)で65/35に混合したものである。
(イ)液:テトラエトキシシラン10.4gに塩酸(0.1N)89.6gを加え、30分間撹拌し、加水分解させた固形分3wt%(SiO換算)の加水分解溶液。
(ロ)液:ポリビニルアルコールの3wt%水/イソプロピルアルコール溶液(水:イソプロピルアルコール=90:10(重量比))
【0053】
また、インフレーション法により、厚み80μmのPEよりなるシーラントを得た。
【0054】
被膜層(D層)上にONyフィルム(25μm)を接着剤層を介してラミネートし、PET基材上に接着剤を介してシーラントをラミネートし、図3(d)に示す実施例6のクリーンフィルムを得た。
【0055】
<比較例1>
LDPE樹脂(MI=2.0)を原料とし、キャスト法によりシーラント(厚み90μm)を得た。得られたシーラントをドライラミネーション加工により、外面からNyフィルム(25μm)、接着剤層、該LDPEフィルム層の順に積層してなるクリーンフィルムを得た。
得られたクリーンフィルムを、内寸40×40cmの三方シールの袋状に貼り合せ、比較例1の包装袋を得た。なお、押出成形および製袋加工は一般環境下で行った。
【0056】
<比較例2>
シングルサイト系LLDPE樹脂(MI=2.5)を原料とし、キャスト法によりシーラント(厚み80μm)を得た。得られたシーラントをドライラミネーション加工により、外面からNyフィルム(25μm)、接着剤層、該LLDPEフィルムの順に積層してなるクリーンフィルムを得た。
得られたクリーンフィルムを、内寸40×40cmの三方シールの袋状に貼り合せ、比較例2の包装袋を得た。なお、押出成形および製袋加工は一般環境下で行った。
【0057】
実施例1〜6、比較例1〜2の包装袋についてパージアンドドラップGC−MS測定用のガラスチューブに納まるよう2×12mmの大きさに裁断し、重量を小数点以下4位mgまで測定した。ガラスチューブは清浄化したものを用いた。清浄化の方法は前記した通りに行った。まず、ガラスチューブのみのブランク測定を行った。GC−MS測定条件としては、イオン化法はEI、イオン化電圧は70eV、イオン源温度は230℃、四重極温度は150℃、マスレンジは45〜550であり、SCAN測定で行った。使用カラムは、5%Phenyl、95%Poly Dimethyl Sioxane、長さ30m×直径0.25mm・d×液相厚み0.25μmのものを用いた。GC−MS温度条件は、初期温度40℃、5分保持、昇温温度は5℃/分、最高温度300℃、5分保持とした。パージアンドトラップ加熱脱着温度条件は80℃、10分、コールドトラップ温度は−150℃とした。ブランクの測定値が環状シロキサンにおいて0.5ng/cm未満であることを確認した後、同一チューブにサンプルを入れ、次にサンプルの測定を行った。パージアンドトラップ加熱脱着温度条件は80℃、10分、コールドトラップ温度は−150℃とした。GC−MS測定条件は、上記のブランク測定と同様とした。
有機系総アウトガスに関しては、得られたTICのベースライン上昇分を除いた部分のピーク面積をマニュアル積分し、ピーク面積合計値を求めた。環状シロキサンに関しては、TIC上において環状シロキサン3量体(D3)〜環状シロキサン8量体(D8)までのピーク面積をマニュアル積分で計算し、その合計値を求めた。
【0058】
次に検量線作成のため、標準物質を測定した。有機系総アウトガスに関しては、ヘキサデカン50ng/μlのメタノール溶液、環状シロキサンに関しては、シロキサン6量体50ng/μlのメタノール溶液を調整した。次にコンディショニングを行ったTENAXチューブのブランク測定を行った。パージアンドトラップの加熱脱着温度条件は250℃、10分、コールドトラップ温度は−150℃とした。GC−MS測定条件は上記のブランク本測定と同様とした。各標準液をゼロデッドポリュームシリンジに1μl取り、ブランク測定をした同一TENAXチューブのGC注入口に近い側からTENAX中に打ち込み、Heガスで30ml/min.、3分パージした後、パージアンドトラップ装置に取り付け、GC−MS測定を行った。パージアンドトラップの加熱脱着温度条件は250℃、10分、コールドトラップ温度は−150℃とした。GC−MS測定条件は上記のブランク測定と同様とした。
検量線は、横軸にヘキサデカン重量またはシロキサン6量体重量、縦軸にピーク面積を取って作成した。ヘキサデカン検量線を用いて、有機系総アウトガスのピーク面積合計値から有機系総アウトガス量(ng)を、シロキサン6量体検量線を用いて、サンプルより測定した環状シロキサンのピーク面積合計値から環状シロキサン量(ng)を算出し、サンプルの片面の面積で割ることでクリーンフィルム1cm当たりに換算して、有機系総アウトガス量(ng/cm)および環状シロキサン量(ng/cm)を求めた。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
また、比較例1および2の包装袋は、HDメディア回転時の熱でシリカが発生し、磁気ヘッドとHDメディアとの間に挟まることでディスククラッシュする恐れが生じた。これは、環状シロキサン量が多いためであると考えられる。
一方、実施例1〜6の包装袋は、アウトガスが非常に少なく、クリーン性が高いことが判明した。このことは、表1に示す結果からも明らかなように、実施例1〜6の包装袋が、有機系総アウトガス量が1500ng/cm未満、環状シロキサン量は2.5ng/cm未満であるという特徴を有するためであることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】シーラントの巻取りの一例を示す斜視図である。
【図2】(a)はシーラントのA−A’面の側断面図の一例であり、(b)はチューブ状シーラントのA−A’面の側断面図の一例である。
【図3】(a)、(b)、(c)、(d)は本発明におけるクリーンフィルムの側断面図の一例である。
【符号の説明】
【0062】
10 シーラントの巻取り
11、12 シーラント
13、15 接着剤層
14、18 ガスバリア層
16、17 基材層
A層 薄膜層
B層 被膜層
C層 薄膜層
D層 被膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリオレフィン系樹脂からなるシーラント層からなり、80℃、10分間加熱したときに発生する有機系総アウトガス量がヘキサデカン換算で1500ng/cm未満であり、かつ80℃、10分間加熱したときに発生する環状シロキサン合計量がシロキサン6量体換算で2.5ng/cm未満であることを特徴とするクリーンフィルム。
【請求項2】
前記シーラント層の厚みが120μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のクリーンフィルム。
【請求項3】
前記ポリオレフィン樹脂において、メルトインデックス(MI)が0.1から20(g/10分・190℃)の低密度ポリエチレン樹脂であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のクリーンフィルム。
【請求項4】
前記シーラント層の少なくとも片側に、ガスバリア層および/または基材層を積層した多層構造を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のクリーンフィルム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のクリーンフィルムよりなることを特徴とする包装袋。
【請求項6】
請求項5に記載の包装袋を用いて電子部品を包装したことを特徴とする電子部品包装体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−96851(P2006−96851A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−284028(P2004−284028)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】