説明

クレーンのジブ煽り防止装置の制御方法及び装置

【課題】吊荷によるジブの撓みに伴う外乱の影響を考慮しつつ、作業中においても強風によってジブが後方へ煽られることを確実に防止し得、風に対するクレーンの安定性向上を図り得るクレーンのジブ煽り防止装置の制御方法及び装置を提供する。
【解決手段】ジブ5を倒伏させる方向へ付勢可能な付勢ウインチ22と、前記ジブ5による作業半径Rを検出する作業半径計30と、前記ジブ5先端から吊り下げられる吊荷の荷重Wを検出する吊荷荷重計31と、前記作業半径計30で検出される作業半径R並びに前記吊荷荷重計31で検出される荷重Wとに基づき前記付勢ウインチ22の付勢モータ22c及び付勢ブレーキ22dへ制御信号A,Bを出力する制御手段40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンのジブ煽り防止装置の制御方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ビル等の構築物を建設する際にはクライミングクレーンが用いられている。
【0003】
図5は従来のクライミングクレーンの一例を示す概略図であって、クライミングクレーン1は、上方へマストブロック2aを順次継ぎ足し可能なマスト2の頂部に、該マスト2に沿って昇降可能な昇降ユニット3を介して旋回体4を旋回自在に配置し、該旋回体4上にジブ5を起伏自在に取り付け、前記旋回体4に、後方へ延びるカウンタフレーム6を一体に設け、該カウンタフレーム6上に、吊荷用フック7を吊り下げる吊荷用ワイヤロープ8を巻上げ下げするための巻上装置9と、ジブ5の起伏用ワイヤロープ10を巻上げ下げするための起伏装置11とを設置してなる構成を有している。
【0004】
一方、図5に示されるようなマスト2を地上から自立させるタイプのクライミングクレーン1の他に、超高層ビル等の構築物建設予定地の内側に所要高さのクライミングクレーンを設置し、該クライミングクレーンにより建築資材を吊上げて複数のフロアを構築し、該構築したフロアの梁にクライミングクレーンのマストを支持せしめ、クライミングクレーンを上昇させて再び上部にフロアを構築する作業を繰り返すことにより、順次上方に工事を行って超高層ビル等の構築物を建設するようにしたタイプのクライミングクレーンもある。
【0005】
前述の如きクライミングクレーン1では、台風の接近等で強風が予想される場合、作業を休止した状態において、図5の仮想線で示す如く、ジブ5を所要角度まで起立させ、該ジブ5と旋回体4とを固定ワイヤロープ12でつなぐことにより、強風によってジブ5が後方へ煽られることを防止するようにしていた。
【0006】
尚、前述の如きクレーンと関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−41675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述の如く、ジブ5と旋回体4とを固定ワイヤロープ12でつなぐことにより、強風によってジブ5が後方へ煽られることを防止するのでは、クライミングクレーン1の作業休止状態においては有効であるものの、ジブ5の起伏角度が一定の角度に制限されるため、クライミングクレーン1の作業中における突風等には対応することができなかった。
【0009】
このため、本発明者等は、作業中においても強風によってジブ5が後方へ煽られることを確実に防止し得、風に対するクライミングクレーン1の安定性向上を図り得るジブ5の煽り防止装置の開発を進めている。
【0010】
前記本発明者等が開発を進めているジブ5の煽り防止装置は、ジブ5の起伏運転停止時には、中途部をジブ5に連結した付勢ワイヤロープが巻き取られる付勢ウインチの付勢ドラムの回転を、付勢モータを停止させた状態で付勢ブレーキを作動させることにより阻止する一方、前記ジブ5の起伏運転時には、その作業半径に基づいて求めたトルクで前記付勢モータを駆動すると共に、前記付勢ブレーキを開放するように構成したものである。
【0011】
そして、前記ジブ5による作業半径が大きい場合、強風が吹いてもジブ5は後方へ煽られにくいため、前記付勢モータのトルクを小さくして前記付勢ウインチによる引張力を小さく設定することが行われ、又、前記ジブ5による作業半径が小さい場合、強風が吹くとジブ5は後方へ煽られやすくなるため、前記付勢ウインチによる引張力を大きく設定することが行われる。
【0012】
しかしながら、例えば、吊荷用ワイヤロープ8の巻上下げ運転にてそれまで吊り下げていた吊荷を降ろした場合、ジブ5の吊荷による撓みが減少してジブ5が起きる方向へ復元し、その分だけ付勢ワイヤロープが引っ張られ、該付勢ワイヤロープによる引張力が増加する形となるため、特に、前記ジブ5による作業半径が大きい場合に、前記付勢モータのトルクを小さくして前記付勢ウインチによる引張力を小さく設定していると、前記付勢ブレーキが開放された瞬間、前記付勢ワイヤロープの増加した引張力により、付勢ウインチの付勢ドラムが急激に回されてしまい、大きな外乱として作用する虞があった。
【0013】
このように、前記ジブ5の煽り防止装置に対しては、吊荷によるジブ5の撓みが外乱として作用することが判明し、特に荷重が大きい吊荷の着床を行う場合には、ジブ5の撓みの変動が激しくなり、その影響が大きくなるため、更なる改善を行う必要があった。
【0014】
本発明は、斯かる実情に鑑み、吊荷によるジブの撓みに伴う外乱の影響を考慮しつつ、作業中においても強風によってジブが後方へ煽られることを確実に防止し得、風に対するクレーンの安定性向上を図り得るクレーンのジブ煽り防止装置の制御方法及び装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、旋回体上にジブを起伏装置の作動により起伏自在に取り付けてなるクレーンのジブ煽り防止装置の制御方法であって、
前記ジブの起伏運転停止時には、中途部をジブに連結した付勢ワイヤロープが巻き取られる付勢ウインチの付勢ドラムの回転を、付勢モータを停止させた状態で付勢ブレーキを作動させることにより阻止する一方、
前記ジブの起伏運転時には、その作業半径に基づいて求めたトルクで前記付勢モータを駆動すると共に、吊荷用ワイヤロープの巻上下げ運転にてそれまで吊り下げていた吊荷を降ろしたことに伴い該吊荷の荷重の減少変動幅が閾値を越えた場合に前記トルクを増加させるよう補正した状態で、前記付勢ブレーキを開放することを特徴とするクレーンのジブ煽り防止装置の制御方法にかかるものである。
【0016】
又、本発明は、旋回体上にジブを起伏装置の作動により起伏自在に取り付けてなるクレーンのジブ煽り防止装置の制御装置であって、
中途部がジブに連結される付勢ワイヤロープが巻き取られる付勢ドラムと、該付勢ドラムを回転駆動する付勢モータと、該付勢モータの停止時に付勢ドラムの回転を阻止する付勢ブレーキとを有し、前記ジブを倒伏させる方向へ付勢可能な付勢ウインチと、
前記ジブによる作業半径を検出する作業半径計と、
前記ジブ先端から吊り下げられる吊荷の荷重を検出する吊荷荷重計と、
前記ジブの起伏運転停止時には、前記付勢ウインチの付勢モータを停止させて付勢ブレーキを作動させる制御信号を付勢モータ及び付勢ブレーキへ出力する一方、前記ジブの起伏運転時には、前記作業半径計で検出される作業半径に基づき前記付勢ウインチの付勢モータのトルクを求めて該付勢モータへ制御信号を出力すると共に、吊荷用ワイヤロープの巻上下げ運転にてそれまで吊り下げていた吊荷を降ろしたことに伴い前記吊荷荷重計で検出される荷重の減少変動幅が閾値を越えた場合に前記トルクを増加させるよう補正した状態で、前記付勢ブレーキを開放する制御信号を出力する制御手段と
を備えたことを特徴とするクレーンのジブ煽り防止装置の制御装置にかかるものである。
【0017】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0018】
クレーンの作業中、ジブの起伏運転停止時には、前記付勢ウインチの付勢モータを停止させて付勢ブレーキを作動させる制御信号が制御手段から付勢モータ及び付勢ブレーキへ出力され、該付勢ブレーキが作動し、前記付勢ウインチの付勢モータによる付勢ドラムの回転がロックされ、付勢ワイヤロープが張られた状態に保持されるため、クレーンの作業中に一時的にジブの起伏動作が停止されたとしても、強風によってジブが後方へ煽られる心配は全くない。
【0019】
一方、クレーンの作業中には、作業半径計によりジブによる作業半径が検出されると共に、吊荷荷重計によりジブ先端から吊り下げられる吊荷の荷重が検出されて、それぞれ制御手段へ入力されており、前記ジブの起伏運転時には、前記作業半径計で検出される作業半径に基づき前記付勢ウインチの付勢モータのトルクが求められて該付勢モータへ制御手段から制御信号が出力され、前記ジブによる作業半径に応じて付勢ウインチの付勢ドラムによる付勢ワイヤロープの巻き取り或いは巻き戻しが行われつつ付勢モータのトルクが調節され、この状態で、前記付勢ブレーキを開放する制御信号が制御手段から出力され該付勢ブレーキが開放されることにより、前記付勢ウインチの付勢モータにより所要の引張力でジブを倒伏させる方向へ付勢することが行われる。
【0020】
ここで、前記ジブによる作業半径が大きい場合、強風が吹いてもジブは後方へ煽られにくいため、前記付勢モータのトルクを小さくして前記付勢ウインチによる引張力を小さく設定することが行われ、又、前記ジブによる作業半径が小さい場合、強風が吹くとジブは後方へ煽られやすくなるため、前記付勢ウインチによる引張力を大きく設定することが行われる。
【0021】
しかし、例えば、吊荷用ワイヤロープの巻上下げ運転にてそれまで吊り下げていた吊荷を降ろした場合、ジブの吊荷による撓みが減少してジブが起きる方向へ復元し、その分だけ付勢ワイヤロープが引っ張られ、該付勢ワイヤロープによる引張力が増加する形となるため、特に、前記ジブによる作業半径が大きい場合に、前記付勢モータのトルクを小さくして前記付勢ウインチによる引張力を小さく設定していると、前記付勢ブレーキが開放された瞬間、前記付勢ワイヤロープの増加した引張力により、付勢ウインチの付勢ドラムが急激に回されてしまい、大きな外乱として作用する虞がある。
【0022】
ところが、本発明では、吊荷用ワイヤロープの巻上下げ運転にてそれまで吊り下げていた吊荷を降ろしたことに伴い前記吊荷荷重計で検出される荷重の減少変動幅が閾値を越えた場合には、前記トルクを増加させるよう補正が行われ、この状態で、前記付勢ブレーキを開放する制御信号が出力されるため、たとえ、前記付勢ワイヤロープによる引張力が増加する形となっていたとしても、前記付勢ブレーキが開放された瞬間、前記付勢ワイヤロープの増加した引張力により、付勢ウインチの付勢ドラムが急激に回されてしまうことが避けられ、外乱をなくすことが可能となる。
【0023】
この結果、従来の如く、ジブと旋回体とを固定ワイヤロープでつなぐことにより、強風によってジブが後方へ煽られることを防止するのとは異なり、クレーンのジブの起伏角度が一定の角度に制限される作業休止状態に限らず、クレーンの作業中における突風等にも対応することが可能となると共に、ジブの撓みの変動による影響が外乱として煽り防止装置に及ぶことを防止可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のクレーンのジブ煽り防止装置の制御方法及び装置によれば、吊荷によるジブの撓みに伴う外乱の影響を考慮しつつ、作業中においても強風によってジブが後方へ煽られることを確実に防止し得、風に対するクレーンの安定性向上を図り得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例を示す要部概略図である。
【図2】本発明の実施例における倒伏付勢手段としての付勢ウインチとその制御系を示す構成図である。
【図3】本発明の実施例におけるジブの起伏運転停止時の作業半径と付勢ブレーキのトルクとの関係を示す線図である。
【図4】本発明の実施例におけるジブ起伏運転時の作業半径と付勢モータのトルクとの関係を示す線図である。
【図5】従来のクライミングクレーンの一例を示す全体概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0027】
図1〜図4は本発明を実施する形態の一例であって、図中、図5と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図5に示す従来のものと同様であるが、本実施例の特徴とするところは、図1〜図4に示す如く、ジブ5を倒伏させる方向へ付勢可能な倒伏付勢手段20と、前記ジブ5による作業半径Rを検出する作業半径計30と、前記ジブ5先端から吊り下げられる吊荷の荷重Wを検出する吊荷荷重計31と、前記作業半径計30で検出される作業半径R並びに前記吊荷荷重計31で検出される荷重Wとに基づき前記倒伏付勢手段20としての後述する付勢ウインチ22の付勢モータ22c及び付勢ブレーキ22dへ制御信号A,Bを出力する制御手段40とを備えた点にある。
【0028】
本実施例の場合、前記倒伏付勢手段20は、図1及び図2に示す如く、中途部がジブ5に連結される付勢ワイヤロープ21を所要のトルクTmで巻き取るよう旋回体4上に設置された付勢ウインチ22によって構成してある。
【0029】
前記付勢ウインチ22は、前記付勢ワイヤロープ21が巻き取られる一対の付勢ドラム22a,22aと、該付勢ドラム22aを付勢減速機22bを介して回転駆動する付勢モータ22cと、該付勢モータ22cの停止時に付勢ドラム22aの回転を阻止する付勢ブレーキ22dとによって構成し、前記一対の付勢ドラム22a,22aのうち一方の付勢ドラム22aから繰り出される付勢ワイヤロープ21を、図1及び図2に示す如く、ジブ5の長手方向中間部における幅方向一端側に配設された連結シーブ23と、旋回体4の先端部における幅方向一端側に配設されたベースシーブ24と、ジブ5の長手方向中間部における幅方向一端側に配設されたイコライザシーブ25と、ジブ5の長手方向中間部における幅方向他端側に配設されたイコライザシーブ25と、旋回体4の先端部における幅方向他端側に配設されたベースシーブ24と、ジブ5の長手方向中間部における幅方向他端側に配設された連結シーブ23とに順次掛け回して、前記一対の付勢ドラム22a,22aのうち他方の付勢ドラム22aに巻き取るようにしてある。
【0030】
前記制御手段40は、前記ジブ5の起伏運転停止時には、前記付勢ウインチ22の付勢モータ22cを停止させて付勢ブレーキ22dを作動させる制御信号A,Bを付勢モータ22c及び付勢ブレーキ22dへ出力する一方、前記ジブ5の起伏運転時には、前記作業半径計30で検出される作業半径Rに基づき前記付勢ウインチ22の付勢モータ22cのトルクTmを求めて該付勢モータ22cへ制御信号Aを出力すると共に、吊荷用ワイヤロープ8の巻上下げ運転にてそれまで吊り下げていた吊荷を降ろしたことに伴い前記吊荷荷重計31で検出される荷重Wの減少変動幅が閾値を越えた場合に前記トルクTmを増加させるよう補正した状態で、前記付勢ブレーキ22dを開放する制御信号Bを出力するよう構成してある。
【0031】
ここで、図3は本発明の実施例におけるジブ5の起伏運転停止時の作業半径Rと付勢ブレーキ22dのトルクTbとの関係を示す線図であって、ジブ5の起伏運転停止時には、前記付勢モータ22cを停止させた状態で、付勢ブレーキ22dを作業半径Rに関わらず一定のトルク(Tb=Tb1)で作動させるようにしてある。
【0032】
一方、図4は本発明の実施例におけるジブ5の起伏運転時の作業半径Rと付勢モータ22cのトルクTmとの関係を示す線図であって、吊荷の有無とは別に前記吊荷荷重計31で検出される荷重Wの減少変動幅が閾値以下の場合、図4中、実線で示す如く、前記ジブ5による作業半径Rが小さくジブ5を起こすための起伏装置11の負荷が小さい領域(0<R≦R1)では、付勢モータ22cのトルクTmを大きくして(Tm=Tm3)前記倒伏付勢手段20としての付勢ウインチ22による引張力を大きく設定し、前記ジブ5による作業半径Rが大きくジブ5を起こすための起伏装置11の負荷が大きい領域(R2<R≦Rmax)では、付勢モータ22cのトルクTmを小さくして(Tm=Tm1)前記倒伏付勢手段20としての付勢ウインチ22による引張力を小さく設定し、前記ジブ5による作業半径Rが中間の領域(R1<R≦R2)では、該作業半径Rの変化(増加・減少)に応じて付勢モータ22cのトルクTmをTm3からTm1の範囲で変化(減少・増加)させるようにしてある。
【0033】
又、吊荷用ワイヤロープ8の巻上下げ運転にてそれまで吊り下げていた吊荷を降ろしたことに伴い前記吊荷荷重計31で検出される荷重Wの減少変動幅が閾値を越えた場合、前記ジブ5による作業半径Rが小さくジブ5を起こすための起伏装置11の負荷が小さい領域(0<R≦R1)では、前記吊荷荷重計31で検出される荷重Wの減少変動幅が閾値以下の場合と同様に、付勢モータ22cのトルクTmを大きくして(Tm=Tm3)前記倒伏付勢手段20としての付勢ウインチ22による引張力を大きく設定し、前記ジブ5による作業半径Rが大きくジブ5を起こすための起伏装置11の負荷が大きい領域(R2<R≦Rmax)では、図4中、破線で示す如く、付勢モータ22cのトルクTmをTm3より小さく且つTm1より大きくして(Tm=Tm2、Tm1<Tm2<Tm3)前記倒伏付勢手段20としての付勢ウインチ22による引張力を、前記吊荷荷重計31で検出される荷重Wの減少変動幅が閾値以下の場合より大きく設定し、前記ジブ5による作業半径Rが中間の領域(R1<R≦R2)では、該作業半径Rの変化(増加・減少)に応じて付勢モータ22cのトルクTmをTm3からTm2の範囲で変化(減少・増加)させるようにしてある。
【0034】
尚、図4の例では、Rmaxは最大半径とし、R2=Rmax/2、R1=Rmax/4としてある。
【0035】
次に、上記実施例の作用を説明する。
【0036】
クライミングクレーン1の作業中、ジブ5の起伏運転停止時には、前記倒伏付勢手段20としての付勢ウインチ22の付勢モータ22cを停止させて付勢ブレーキ22dを作動させる制御信号A,Bが制御手段40から付勢モータ22c及び付勢ブレーキ22dへ出力され、図3に示す如く、付勢ブレーキ22dが作業半径Rに関わらず一定のトルク(Tb=Tb1)で作動し、前記付勢モータ22cによる付勢減速機22bを介した付勢ウインチ22の付勢ドラム22aの回転がロックされ、付勢ワイヤロープ21が張られた状態に保持されるため、クライミングクレーン1の作業中に一時的にジブ5の起伏動作が停止されたとしても、強風によってジブ5が後方へ煽られる心配は全くない。
【0037】
一方、クライミングクレーン1の作業中には、作業半径計30によりジブ5による作業半径Rが検出されると共に、吊荷荷重計31によりジブ5先端から吊り下げられる吊荷の荷重Wが検出されて、それぞれ制御手段40へ入力されており、前記ジブ5の起伏運転時には、前記作業半径計30で検出される作業半径Rに基づき前記付勢ウインチ22の付勢モータ22cのトルクTmが求められて該付勢モータ22cへ制御手段40から制御信号Aが出力され、前記ジブ5による作業半径Rに応じて付勢ウインチ22の付勢ドラム22aによる付勢ワイヤロープ21の巻き取り或いは巻き戻しが行われつつ付勢モータ22cのトルクTmが調節され、この状態で、前記付勢ブレーキ22dを開放する制御信号Bが制御手段40から出力され該付勢ブレーキ22dが開放されることにより、前記付勢ウインチ22の付勢モータ22cにより所要の引張力でジブ5を倒伏させる方向へ付勢することが行われる。
【0038】
ここで、吊荷の有無とは別に前記吊荷荷重計31で検出される荷重Wの減少変動幅が閾値以下の場合、図4中、実線で示す如く、前記ジブ5による作業半径Rが小さくジブ5を起こすための起伏装置11の負荷が小さい領域(0<R≦R1)では、付勢モータ22cのトルクTmを大きくして(Tm=Tm3)前記倒伏付勢手段20としての付勢ウインチ22による引張力が大きく設定され、前記ジブ5による作業半径Rが大きくジブ5を起こすための起伏装置11の負荷が大きい領域(R2<R≦Rmax)では、付勢モータ22cのトルクTmを小さくして(Tm=Tm1)前記倒伏付勢手段20としての付勢ウインチ22による引張力が小さく設定され、前記ジブ5による作業半径Rが中間の領域(R1<R≦R2)では、該作業半径Rの変化(増加・減少)に応じて付勢モータ22cのトルクTmをTm3からTm1の範囲で変化(減少・増加)させることが行われる。
【0039】
つまり、前記ジブ5による作業半径Rが大きい場合、強風が吹いてもジブ5は後方へ煽られにくいため、前記付勢モータ22cのトルクTmを小さくして前記付勢ウインチ22による引張力を小さく設定することが行われ、又、前記ジブ5による作業半径Rが小さい場合、強風が吹くとジブ5は後方へ煽られやすくなるため、前記付勢ウインチ22による引張力を大きく設定することが行われるわけである。
【0040】
しかし、例えば、吊荷用ワイヤロープ8の巻上下げ運転にてそれまで吊り下げていた吊荷を降ろした場合、ジブ5の吊荷による撓みが減少してジブ5が起きる方向へ復元し、その分だけ付勢ワイヤロープ21が引っ張られ、該付勢ワイヤロープ21による引張力が増加する形となるため、特に、前記ジブ5による作業半径Rが大きい場合に、前記付勢モータ22cのトルクTmを小さくして前記付勢ウインチ22による引張力を小さく設定していると、前記付勢ブレーキ22dが開放された瞬間、前記付勢ワイヤロープ21の増加した引張力により、付勢ウインチ22の付勢ドラム22aが急激に回されてしまい、大きな外乱として作用する虞がある。
【0041】
ところが、本実施例では、吊荷用ワイヤロープ8の巻上下げ運転にてそれまで吊り下げていた吊荷を降ろしたことに伴い前記吊荷荷重計31で検出される荷重Wの減少変動幅が閾値を越えた場合、前記ジブ5による作業半径RがR1<R≦Rmaxの領域では、図4中、破線で示す如く、付勢モータ22cのトルクTmを増加させるよう補正が行われ、前記倒伏付勢手段20としての付勢ウインチ22による引張力が、前記吊荷荷重計31で検出される荷重Wの減少変動幅が閾値以下の場合より大きく設定され、この状態で、前記付勢ブレーキ22dを開放する制御信号Bが出力されるため、たとえ、前記付勢ワイヤロープ21による引張力が増加する形となっていたとしても、前記付勢ブレーキ22dが開放された瞬間、前記付勢ワイヤロープ21の増加した引張力により、付勢ウインチ22の付勢ドラム22aが急激に回されてしまうことが避けられ、外乱をなくすことが可能となる。
【0042】
この結果、従来の如く、ジブ5と旋回体4とを固定ワイヤロープ12でつなぐことにより、強風によってジブ5が後方へ煽られることを防止するのとは異なり、クライミングクレーン1のジブ5の起伏角度が一定の角度に制限される作業休止状態に限らず、クライミングクレーン1の作業中における突風等にも対応することが可能となると共に、ジブ5の撓みの変動による影響が外乱として煽り防止装置に及ぶことを防止可能となる。
【0043】
尚、図4の例では、Rmaxは最大半径とし、R2=Rmax/2、R1=Rmax/4とし、前記吊荷荷重計31で検出される荷重Wの減少変動幅が閾値以下の場合と、荷重Wの減少変動幅が閾値を越えた場合とでそれぞれ、付勢モータ22cのトルクTmをジブ5による作業半径Rに応じて二段階に制御するようにしているが、このように制御する代わりに、三段階以上の複数段階に制御したり、或いは、付勢モータ22cのトルクTmをジブ5による作業半径Rの増減に応じて滑らかに増減させるようにすることも可能である。
【0044】
又、前記吊荷荷重計31で検出される荷重Wの減少変動幅が閾値を越えた場合、図4の破線で示す如く、付勢モータ22cのトルクTmを増加させるよう補正することにより、付勢ウインチ22の付勢ドラム22aが急激に回されてしまうことをなくしているが、付勢ブレーキ22dを開放した時点から一定時間だけ前記トルクTmを増加させ、この後、該トルクTmを再び元に戻すよう制御することも可能である。
【0045】
こうして、吊荷によるジブ5の撓みに伴う外乱の影響を考慮しつつ、作業中においても強風によってジブ5が後方へ煽られることを確実に防止し得、風に対するクライミングクレーン1の安定性向上を図り得る。
【0046】
尚、本発明のクレーンのジブ煽り防止装置の制御方法及び装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、クライミングクレーンに限らず、ジブを有するクレーンであればどのようなクレーンにも適用可能なこと等、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0047】
1 クライミングクレーン(クレーン)
2 マスト
4 旋回体
5 ジブ
7 吊荷用フック
8 吊荷用ワイヤロープ
9 巻上装置
10 起伏用ワイヤロープ
11 起伏装置
20 倒伏付勢手段
21 付勢ワイヤロープ
22 付勢ウインチ
22a 付勢ドラム
22b 付勢減速機
22c 付勢モータ
22d 付勢ブレーキ
23 連結シーブ
24 ベースシーブ
25 イコライザシーブ
30 作業半径計
31 吊荷荷重計
40 制御手段
R 作業半径
W 荷重
A 制御信号
B 制御信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回体上にジブを起伏装置の作動により起伏自在に取り付けてなるクレーンのジブ煽り防止装置の制御方法であって、
前記ジブの起伏運転停止時には、中途部をジブに連結した付勢ワイヤロープが巻き取られる付勢ウインチの付勢ドラムの回転を、付勢モータを停止させた状態で付勢ブレーキを作動させることにより阻止する一方、
前記ジブの起伏運転時には、その作業半径に基づいて求めたトルクで前記付勢モータを駆動すると共に、吊荷用ワイヤロープの巻上下げ運転にてそれまで吊り下げていた吊荷を降ろしたことに伴い該吊荷の荷重の減少変動幅が閾値を越えた場合に前記トルクを増加させるよう補正した状態で、前記付勢ブレーキを開放することを特徴とするクレーンのジブ煽り防止装置の制御方法。
【請求項2】
旋回体上にジブを起伏装置の作動により起伏自在に取り付けてなるクレーンのジブ煽り防止装置の制御装置であって、
中途部がジブに連結される付勢ワイヤロープが巻き取られる付勢ドラムと、該付勢ドラムを回転駆動する付勢モータと、該付勢モータの停止時に付勢ドラムの回転を阻止する付勢ブレーキとを有し、前記ジブを倒伏させる方向へ付勢可能な付勢ウインチと、
前記ジブによる作業半径を検出する作業半径計と、
前記ジブ先端から吊り下げられる吊荷の荷重を検出する吊荷荷重計と、
前記ジブの起伏運転停止時には、前記付勢ウインチの付勢モータを停止させて付勢ブレーキを作動させる制御信号を付勢モータ及び付勢ブレーキへ出力する一方、前記ジブの起伏運転時には、前記作業半径計で検出される作業半径に基づき前記付勢ウインチの付勢モータのトルクを求めて該付勢モータへ制御信号を出力すると共に、吊荷用ワイヤロープの巻上下げ運転にてそれまで吊り下げていた吊荷を降ろしたことに伴い前記吊荷荷重計で検出される荷重の減少変動幅が閾値を越えた場合に前記トルクを増加させるよう補正した状態で、前記付勢ブレーキを開放する制御信号を出力する制御手段と
を備えたことを特徴とするクレーンのジブ煽り防止装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−222104(P2010−222104A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71864(P2009−71864)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000198363)IHI運搬機械株式会社 (292)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】