説明

クロゲン酸類含有飲料

【課題】
カフェインの摂り過ぎの恐れがなく日常的に飲める、好ましい生理学的効果のあるクロロゲン酸類飲含有飲料を提供すること。
【解決手段】
脱カフェインしたコーヒー豆から抽出されたクロロゲン酸類を付与した液体飲料であって、クロロゲン酸類を0.1重量%以上含有し、かつ飲料中のクロロゲン酸類/カフェイン比が2以上のクロロゲン酸類を含む液体飲料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理学的に好ましい効果のあるクロロゲン酸類を日常的に摂取でき、かつカフェインの摂り過ぎの恐れがないクロロゲン酸類含有飲料、特にクロロゲン酸類含有嗜好飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりコーヒー豆には、種々の抗酸化物質や生理活性作用物質が含まれることが知られる。例えば、クロロゲン酸類、およびカフェ酸、フェラル酸、p−クマル酸、イソクロロゲン酸類、ネオクロロゲン酸類などのクロロゲン酸類類が存在することが知られている。また、塩基としてカフェインがあり、カフェインは約1-3%(乾燥重量基準、COFFEE Volume1:Chemistry, Elsevier Applied Science Publisher Ltd.)含まれる。
生コーヒー豆抽出物由来のクロロゲン酸類を含む食品の摂取による人体への生理学的改善効果として以下の報告がある。約500mg/日の摂取で胃酸分泌抑制による消化性改善効果(特表昭63-502319:コーヒーおよびその製造法)、400〜1000mg/日の摂取で血糖値上昇抑
制効果(特開2003-34636:脂質代謝改善剤)および140〜280mg/日の摂取で血圧上昇抑制
効果(斎藤郁夫ら、医学と薬学、47(1):67-74,2002、生コーヒー豆抽出物配合飲料のヒト血圧に及ぼす影響)により有効性が確認されている。更に、クロロゲン酸類を必須成分として含有するコーヒーノキ種子抽出物を用いた急性毒性試験(特開平8-92057)でLD50は2000mg/kg以上であると判定されており、安全性においても非常に高いことが確認されている。これらの文献の記載より生理学的改善効果を得るには、クロロゲン酸類を140mg/日以上の摂取することが必要である。一方、クロロゲン酸類は、多量に混ぜ込むと雑味が強くなるという欠点がある、共存する食品組成物の味への影響を考慮すると、飲用レベルとして水溶液100ml当り5000mg以下が適している。
【0003】
カフェインもまた、生理学的作用のある成分として知られている。カフェインの摂取による生理的作用としては、中枢神経に興奮作用をもたらし、運動能力を高め、強心作用や利尿作用などの効果が知られている。また医薬品としての使用が認められており、その常用量として、一回200mg、一日500mgと規定されている(第九改正日本薬局方、(株)廣川書店)。ここでいう常用量とは、医薬品が最も普通に用いられる場合に治療効果を期待しうる量で、大人に対する経口投与量を示す。このため一回200mgあるいは一日500mgの飲用摂取は、カフェインの生理作用がもたらされるのに十分な量とみなされる。これを大きく超えると不眠などの影響が懸念される。
【0004】
コーヒー豆からクロロゲン酸類を含有する抽出物を得る方法としては、例えば、生コーヒー豆粉を還流下で熱水で抽出し、生成する水性抽出液を濃縮して濃厚溶液とする方法、乾燥する方法(特許文献1)、生コーヒー豆を100μm以下に微粉砕し脱脂した後に熱水
で抽出する方法(特許文献2)、生コーヒー豆を還元性物質もしくは還元性物質を溶解した水または熱水で抽出する方法(特許文献3)、生コーヒー豆の粉砕物を40wt%以上のエチルアルコール水溶液で抽出し、この抽出溶液を濃縮溶液とするか、または乾燥して粉末とする方法(特許文献4)などが知られている。上記文献に記載されたクロロゲン酸類の抽出方法では、クロロゲン酸類と同時にカフェインも抽出さてしまうため、カフェイン量はクロロゲン酸類の重量組成に対して28〜55%に達する(特許文献4)。この問題を解決するため、生コーヒー豆抽出物から脱カフェインする方法として、生コーヒー抽出物から陽イオン交換樹脂や活性炭等を用いてカフェインを吸着・除去する方法も開示されている(特許文献5〜7)が、このような方法は、食品使用を目的とする場合では、非常に煩雑な工程・作業を要するため、工業的な実施という観点からは必ずしも容易な方法であるとはいえない。
【特許文献1】特公昭61−30549号
【特許文献2】特開昭62−111671号
【特許文献3】特開平5−236918号
【特許文献4】特開平8−157816号
【特許文献5】特開平4−145048号
【特許文献6】特開平4−145049号
【特許文献7】特開平5−153910号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来法による、カフェイン除去を経ないコーヒー豆からの抽出物を添加して、飲料のクロロゲン酸類含有量を増加させ、これの摂取による有効性を得ようとすると、添加前の飲料中に元々含まれるカフェインと、抽出物に含まれるカフェインとが合計されることでカフェイン量が顕著に増加し、通常飲用において興奮作用や利尿作用といった二次的な影響が引き起こされる可能性がある。またカフェインの影響の現れないレベルを維持しようとすると、その飲料に含まれるクロロゲン酸類も少なくなり、効果発現に有効となる量の摂取には、多量の飲用が必要となり日常的に行うことが困難となる。よって、クロロゲン酸類の生理学的な改善効果を確保し、かつカフェインの刺激作用を抑えた処方の組成物が望まれている。従って、本発明の目的は、カフェインの摂り過ぎの恐れがなく日常的に引用することができるクロロゲン酸類に富む飲料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、脱カフェインしたコーヒー豆に着目した。本発明者らは、商業的に入手可能な脱カフェインコーヒー豆中のクロロゲン酸類およびカフェイン含量を、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いた以下の分析方法で測定したところ、とくに、脱カフェインした生コーヒー豆中には依然として十分なクロロゲン酸類が含有されていることを見出した。
クロロゲン酸類の分析法
ODS−2逆相カラムを用い、溶離液A(0.05M酢酸 3体積%アセトニトリル水溶液)と溶離液B(0.05M酢酸 100vol%アセトニトリル溶液)で勾配をかけて溶出した。標準品とリテンションタイムを比較し同定した。脱カフェイン処理されていないコロンビア産コーヒー豆を対照として同様に測定した。ここで得られたエリア%に対して、クロロゲン酸類類について5位のカフェオイルキナ酸を標準物質として、重量%を求めた。分析結果を表1に示す。
【0007】
【表1】

【0008】
脱カフェインした生豆では、未加工の生コーヒー豆と比較してクロロゲン酸類類の含有量が24%程度減少しているものの、生コーヒー豆中に含まれるクロロゲン酸類の種類に変化は認められない。すなわち、本発明者らが注目した脱カフェインしたコーヒーには、カフェインはほとんど含まれていないにも関わらず、クロロゲン酸類は残存していることが判明した。
【0009】
そこで、この豆から水性溶媒抽出液を用いて抽出し、その抽出物を日常的な飲用習慣の得やすい飲料に付加することで、必要なクロロゲン酸類の改善効果を確保し、飲料中に含まれるカフェインとバランスさせた組成物を得ることにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
したがって本発明の態様は、以下の通りである:
1.クロロゲン酸類を含有する液体飲料であって、脱カフェインしたコーヒー豆から抽出されたクロロゲン酸類を含み、前記飲料に含まれるクロロゲン酸類とカフェインとの比が2以上であり、かつ前記クロロゲン酸類の含有量が飲料の重量を基準として0.1重量%以上であることを特徴とする、前記液体飲料。
2.液体飲料が、液体緑茶、液体烏龍茶、液体紅茶、液体コーヒーのいずれかのであることを特徴とする、上記1に記載の液体飲料。
3.クロロゲン酸類を含有する焙煎粉砕コーヒーであって、脱カフェインしたコーヒー豆から抽出されたクロロゲン酸類を付与し、かつ前記焙煎粉砕コーヒーに含まれるクロロゲン酸類とカフェインとの比が2以上であることを特徴とする、前記焙煎粉砕コーヒー。
4.クロロゲン酸類を含有する可溶性粉末コーヒーであって、脱カフェインしたコーヒー豆から抽出されたクロロゲン酸類を付与し、前記可溶性粉末コーヒーに含まれるクロロゲン酸類が、可溶性粉末コーヒーの重量を基準として5.0重量%以上であり、かつ可溶性粉末コーヒーに含まれるクロロゲン酸類とカフェインとの比が2以上であることを特徴とする、前記可溶性粉末コーヒー。
5.上記4に記載の可溶性粉末コーヒー、砂糖および乳成分を含有する、可溶性粉末コーヒーミックス。
6.クロロゲン酸類を含有する飲料原料であって、脱カフェインしたコーヒー豆から抽出されたクロロゲン酸類を付与し、前記飲料原料に含まれるクロロゲン酸類が、飲料原料の重量を基準として5.0重量%以上であり、かつ飲料原料に含まれるクロロゲン酸類とカフェインとの比が2以上であることを特徴とする、前記飲料原料。
7.前記飲料原料が、緑茶葉、烏龍茶葉、紅茶葉、可溶性粉末緑茶、可溶性粉末烏龍茶、
可溶性粉末紅茶であることを特徴とする、上記6に記載の飲料原料。
8.前記脱カフェインしたコーヒー豆に含有されるカフェインが、脱カフェインしたコーヒー豆の重量を基準として0.2重量%以下であることを特徴とする、上記のいずれか1つに記載の液体飲料、焙煎粉砕コーヒー、可溶性粉末コーヒー、可溶性粉末コーヒーミックス、または飲料原料。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カフェインによる刺激の恐れのない、コーヒー豆から抽出されたクロロゲン酸類に富む飲料が提供される。従って、好ましい生理学的効果のあるクロロゲン酸類を日常的に摂取でき、かつカフェインの摂り過ぎを避けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に本発明の内容を詳細に説明する。
本発明において「脱カフェインしたコーヒー豆」とは、一般的には、従来法により生コーヒー豆からカフェインを抽出する処理を施したコーヒー豆を意味する。コーヒー豆から脱カフェイン処理する方法として、水、メチレンクロライドまたは超臨界二酸化炭素を溶媒として生コーヒー豆からカフェインを抽出する方法が挙げられる。脱カフェインしたコーヒー豆を製造するためには、食品としての安全性を考慮して、水抽出及び超臨界二酸化炭素抽出が特に好ましい。生コーヒー豆からカフェインを抽出する際の温度は、好ましくは50〜100℃、さらに好ましくは70〜90℃程度である。さらに本発明においては、上記「脱カフェインしたコーヒー豆」を極浅炒りに焙煎した豆も、広い意味で「脱カフェインしたコーヒー豆」に含まれるものとする。なお、コーヒー豆の極浅炒りとは、当業者が通常使用する焙煎機を用いて、焙煎時間3分未満で焙煎処理することを指す。このように脱カフェインしたコーヒー豆を極浅炒りにすることにより、以下に説明するクロロゲン酸類の抽出処理が容易になる。
【0013】
本発明の「脱カフェインしたコーヒー豆」は、好ましくはカフェイン含有量が0.2重量%以下、さらに好ましくは約0.001〜0.1重量%であるものを用いることができる。
本発明において、脱カフェインするコーヒー豆の種類や産地に特に制限はなく、アラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種等いずれのコーヒー豆でもよく、さらにブラジル、コロンビア産等いずれの産地のコーヒー豆も使用することができ、一種類の豆のみを単独で使用しても、ブレンドした二種以上の豆を使用しても良い。また、通常、商品価値がないとして廃棄処分されるような品質の悪いコーヒー豆または小粒のコーヒー豆であっても使用することができるので、コーヒー豆の有効利用を図ることができる。
【0014】
本発明において「クロロゲン酸類」の語は、3−、4−または5−カフェオイルキナ酸の他ネオクロロゲン酸、クリプトクロロゲン酸、イソクロロゲン酸異性体類(3,4−、3,5−または4,5−ジカフェオイルキナ酸)、カフェ酸、フェラル酸、p−クマル酸など、一般に「クロロゲン酸化合物」と総称される複数の化合物の混合物を意味するものとする。すなわち「脱カフェインしたコーヒー豆から抽出されたクロロゲン酸類」という語は、上述の方法により生コーヒー豆からカフェインを抽出した、脱カフェインしたコーヒー豆を、再度抽出して取り出した、クロロゲン酸類の混合物あるいは組成物を意味するものとする。脱カフェインしたコーヒー豆からクロロゲン酸類を抽出する方法としては、抽出溶媒として水又はエタノール水溶液(エタノール濃度60重量%以下)、好ましくはエタノール濃度約30〜60重量%のエタノール水溶液を用いて抽出する方法が挙げられる。この際の抽出温度は、70〜100℃であることが好ましく、用いる溶媒の沸騰温度であることがさらに好ましい。抽出時間は、脱カフェインしたコーヒー豆の量や、用いる溶媒の量にもよるが、通常は3時間以上行うことが望ましい。
【0015】
例えば、スクリーンや濾過等の方法により、脱カフェインしたコーヒー豆から抽出した抽出液を分離した後、デカンテーションや遠心分離を行ない、抽出液中の不溶固形分の除去を行う。この抽出液を更に、抽出液に脱色・脱臭等の後処理を施すことができる。抽出液は、必要に応じて減圧濃縮、または凍結濃縮操作により、水または水性溶媒を除去させる。さらに必要に応じて噴霧乾燥または真空乾燥して固体の粉末状態にすることが望ましい。このようにして、脱カフェインしたコーヒー豆から本発明における「クロロゲン酸類」を得ることができる。
【0016】
上記のように脱カフェインしたコーヒー豆から抽出されたクロロゲン酸類を、液体飲料に混合して、クロロゲン酸類を含有する液体飲料を製造することができる。脱カフェインしたコーヒー豆から抽出されたクロロゲン酸類は、上記の通り、通常は乾燥した粉末状態のクロロゲン酸類を所望の液体飲料に混合・溶解させることができる。上記表1に示したとおり、脱カフェインしたコーヒー豆から抽出されたクロロゲン酸類には、カフェインがほとんど含まれないため、これを液体飲料に混合すると、液体飲料中のカフェイン量を増加することなくクロロゲン酸類の量のみを増加することが可能となる。すなわち、液体飲料のカフェインによる刺激作用を増強することなく、クロロゲン酸類の健康増進効果のみを増強することができる。
【0017】
本発明における液体飲料は、液体飲料に含まれるクロロゲン酸類とカフェインとの比(特に明記しない限り重量比を意味する)が2以上であることを特徴とする。「液体飲料に含まれるクロロゲン酸類とカフェインとの比が2以上」とは、液体飲料中にクロロゲン酸類がカフェインの2倍以上含まれていることを意味する。上述の通り、本発明においては、脱カフェインしたコーヒー豆から抽出されたクロロゲン酸類を液体飲料に混合するため、カフェインの量を増加することなくクロロゲン酸類のみを増加させた飲料を製造することができる。この際、クロロゲン酸類とカフェインとの比が2以上、好ましくは2〜200となるように調節することができる。さらに本発明における液体飲料は、クロロゲン酸類を0.1重量%以上含むことが好ましく、特に好ましくは0.1〜5重量%含んでいると、クロロゲン酸類の健康に寄与する効果を最大限にしつつ風味も備えた液体飲料となる。本発明の液体飲料は、液体緑茶、液体烏龍茶、液体紅茶、液体コーヒーのいずれかのものであることが望ましい。
【0018】
クロロゲン酸類を液体飲料に添加する量は、飲料中に含まれるカフェインやクロロゲン酸類の量によって異なる。例えば、習慣飲用性の高い飲料100ミリリットル中に含まれるカフェイン及びクロロゲン酸類の量を以下の表2に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
表1によると、通常の飲料のカフェイン含量は、100ミリリットルあたり100ミリ
グラム未満のものが多く、かつクロロゲン酸類とカフェインとの比は1〜2程度である。したがって、液体コーヒー飲料を例にとると、一杯あたり100ミリリットル飲用する場合、クロロゲン酸類を一日あたり140ミリグラム摂取するためには約2.4杯飲用することが必要となるが、この際、カフェインの摂取量は約147ミリグラムに上る。そこで本発明の、脱カフェインしたコーヒー豆から抽出されたクロロゲン酸類を、上記液体コーヒー飲料に、100ミリリットルあたりのクロロゲン酸類の含量が例えば70ミリグラムとなるように添加すれば、一日あたり液体コーヒー飲料を2杯飲用するだけでクロロゲン酸類を140ミリグラム摂取することができる。本発明において添加するクロロゲン酸類にはカフェインはほとんど含まれていないので、このように液体飲料に添加してもカフェインの含有量をいたずらに増やすおそれがない。カフェインの含有量を増加させることなく、クロロゲン酸類の含有量を任意に増加させることができる本発明の液体飲料は、カフェインの摂り過ぎのおそれがなく、かつクロロゲン酸類を効率的に摂取可能な飲料である。
【0021】
本発明の別の態様として、脱カフェインしたコーヒー豆から抽出されたクロロゲン酸類を含有する焙煎粉砕コーヒーが挙げられる。「焙煎粉砕コーヒー」とは、コーヒー豆を焙煎して粉砕したコーヒー飲料原料を意味する。コーヒー豆を焙煎する方法として、一般的に用いられている焙煎機(直下・熱風・遠赤・炭火式など)により極浅炒り、浅炒り、中炒り、深炒りにする方法が挙げられる。また焙煎したコーヒー豆を粉砕する方法は、一般的な粉砕器、ミル(グラインディングミル、カッティングミル、ミキサーミル、ロールミルなど)等を用いて粉砕する方法が挙げられる。粉砕したコーヒーは、粗挽き、中粗挽き、中挽き、中細挽き、細挽きなどの種々の形状のものを含む。上記の脱カフェインしたコーヒー豆から抽出されたクロロゲン酸類を焙煎粉砕コーヒーに混ぜて混合することにより、本発明の、脱カフェインしたコーヒーから抽出されたクロロゲン酸類を含有する焙煎粉砕コーヒーを得ることが出来る。本発明の、クロロゲン酸類を含有する焙煎粉砕コーヒーは、クロロゲン酸類とカフェインとの比が2以上であることが好ましい。風味の観点からは、2〜100であることが特に好ましい。本発明で用いる、クロロゲン酸類を含有する焙煎焙煎コーヒーを水で抽出することにより、本発明の、クロロゲン酸類を含有する液体コーヒー(レギュラーコーヒー)を得ることができる。
【0022】
本発明の別の態様として、脱カフェインしたコーヒー豆から抽出されたクロロゲン酸類を含有する可溶性粉末コーヒーが挙げられる。「可溶性粉末コーヒー」とは、上述した焙煎粉砕コーヒーを水により抽出して製造した液体コーヒー抽出液を、必要により濃縮させた後、乾燥させて粉末状にしたコーヒーであり、一般にはインスタントコーヒーと総称されるものである。コーヒー抽出液を減圧濃縮器や凍結濃縮機などを用いて濃縮し、これにより得られた濃縮液を噴霧乾燥法、あるいは濃縮液を凍結させて顆粒状に粉砕した後にこれを真空乾燥する真空凍結乾燥法などにより乾燥させ、所望の可溶性粉末コーヒーを得ることができる。可溶性粉末コーヒーに、本発明の、脱カフェインしたコーヒー豆から抽出されたクロロゲン酸類を添加・混合することにより、本発明の、クロロゲン酸類を多く含有し、かつクロロゲン酸類のカフェインに対する比が2以上の可溶性粉末コーヒーを製造することができる。また、可溶性粉末コーヒーを製造する過程で、コーヒー抽出液の乾燥前に、クロロゲン酸類を含む生コーヒー豆抽出物を添加、溶解させ、これを乾燥しても、同等な可溶性粉末コーヒーを製造することができる。
【0023】
本発明で用いる、脱カフェインしたコーヒー豆から抽出されたクロロゲン酸類にはカフェインがほとんど含まれていないので、これを付加した可溶性粉末コーヒーのカフェイン含有量をいたずらに増加するおそれがない。本発明の可溶性粉末コーヒーを水に溶解して、クロロゲン酸類を増強したコーヒー飲料(インスタントコーヒー飲料)を製造することができる。なお、上記のような可溶性粉末コーヒーに砂糖、インスタントクリーミングパウダー、全粉乳等を所定量添加した、可溶性粉末コーヒーミックス(以下、単にコーヒー
ミックスともいう)も、広い意味で本発明の可溶性粉末コーヒーに含まれるものとする。
【0024】
本発明の別の態様として、脱カフェインしたコーヒー豆から抽出されたクロロゲン酸類を含有した飲料原料が挙げられる。本発明の飲料原料として、緑茶葉、烏龍茶葉、紅茶葉、可溶性粉末緑茶、可溶性粉末烏龍茶、可溶性粉末紅茶が挙げられる。本発明の飲料原料として用いられるコーヒーや茶葉は、その種類や産地に特に制限はなく、二種類以上のものをブレンドして使用しても良い。また緑茶は、煎茶、焙じ茶、抹茶などその加工形態を問わない。これらの形態の飲料原料に、本発明で用いる、脱カフェインしたコーヒー豆から抽出されたクロロゲン酸類を添加・混合することにより、好ましくはクロロゲン酸類が5.0重量%以上、クロロゲン酸類とカフェインとの比が3以上であるようにすることができる。本発明で用いる、脱カフェインしたコーヒーから抽出されたクロロゲン酸類にはカフェインがほとんど含まれていないので、これを付加した飲料原料のカフェイン含有量をいたずらに増加するおそれがない。本発明の飲料原料を水で抽出し、あるいは水と混合することにより、所望の液体飲料を得ることができる。
【0025】
本発明の液体飲料には、必要に応じて、ショ糖、グルコース、フルクトース、キシロース、果糖ブドウ糖液、糖アルコール等の糖分、乳成分、抗酸化剤、pH調整剤、乳化剤、香料等を添加することができる。また乳成分を使用する場合は、生乳、牛乳、全粉乳、脱脂粉乳、生クリーム、濃縮乳、脱脂乳、部分脱脂乳、錬乳等が用いられる。
【0026】
本発明にかかる液体コーヒー飲料は、pH3〜7、好ましくはpH4〜7、さらに好ましくはpH5〜7が飲料の安定性の面でよい。抗酸化剤としては、アスコルビン酸またはその塩、エリソルビン酸またはその塩が挙げられるが、このうちアスコルビン酸またはその塩等が特に好ましい。乳化剤を使用する場合は、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、微結晶セルロース、レシチン類、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどが好ましい。
【0027】
本発明の液体飲料は、商業的には、缶、ビン、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの容器に入れて販売することができる。本発明の液体飲料としては、液体緑茶、液体烏龍茶、液体紅茶、液体コーヒーなどの飲料のいずれであってもよく、商業的には、これらの飲料は容器入り飲料の形態で流通する。好ましくは容器を殺菌消毒して、本発明の液体飲料を充填する。本発明の液体飲料を充填するに用いる容器としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)ボトル、缶(アルミニウム缶、スチール缶)、紙、レトルトパウチ、ガラス瓶などが挙げられる。所望により殺菌処理は、金属缶のように容器に充填後、加熱殺菌できる場合にあっては食品衛生法に定められた殺菌条件で行われる。PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ食品衛生法に定められた条件と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器で高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却して容器に充填する等の方法が採用される。また無菌下で加熱殺菌後、無菌下でpHを中性に戻すことや、中性下で加熱殺菌後、無菌下でpHを酸性に戻す等の操作も可能である。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
クロロゲン酸類の抽出
脱カフェインしたコーヒー豆として、所謂スイスウォーター式(EP008398, A. Fischerら、1979)により97%脱カフェインしたコロンビア産生コーヒー豆を用いた。脱カフェインしたコーヒー豆1kgを10Lの三角フラスコに入れ、これを80℃に加温した50wt%熱エタノール水溶液5Lを用いて3時間還流下で抽出操作を実施し、得られた抽出液をロータリー式
の減圧蒸発器にて70℃に加熱しながら容量で約5倍に濃縮し、最終的に生コーヒー豆抽出
物含有濃縮液3Lを得た。
【0029】
これを真空乾燥器にて24時間乾燥させ、乾燥物0.28kgを得た。また、脱カフェインしていないコロンビア産生コーヒー豆についても同様にして乾燥物を得た。
これらを高速液体クロマトグラフィーによる方法で分析を行い、カフェインおよびクロロゲン酸類の含有量を求めた。抽出物の組成を表3に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
これより、カフェインをほとんど含有せずかつクロロゲン酸類が多く含有される生コーヒー豆抽出物を得た。
コーヒー飲料の製造
次に、PETボトル入りコーヒー飲料を以下の方法により製造した。焙煎コーヒー豆10kgをバスケット型抽出容器に入れ、大気圧下で熱水を80kg/hrで供給し、抽出後直ちに3
5℃に冷却し、ボール型遠心分離機(ウエストファリア社製SA-20)で不溶性固形分を除
去し固形分濃度22.4%の抽出した焙煎コーヒー豆抽出液を得た。この抽出液2kgを用い、
水で希釈しコーヒー固形分濃度は1.1重量%とし、これに0.11kgのクロロゲン酸類含有抽出物を添加し、さらに砂糖を加え、重曹にてpHを5.5に調整した。これをプレート式熱交換
器でUHT殺菌(135℃、30秒間)を行った後、約80℃の温度迄冷却してこれをPETボ
トルに無菌充填を行ない、充填後、直ちに水で室温に冷却した。この結果、100g当り、クロロゲン酸類を142mg, カフェインを63mg含有するPETボトル入りコーヒー飲料を得た

〔実施例2〕
焙煎粉砕コーヒー及び焙煎粉砕コーヒー抽出物の製造
コロンビア産生コーヒー豆を小型焙煎機(フジローヤル製:Type R-101)を用いて、1kg投入し焙煎豆を0.85kg得た。これを粉砕機(ディッティング製:KFA-903)で平均粒径720μmに粉砕した焙煎粉砕コーヒー豆100gに、実施例1のクロロゲン酸類含有抽出物を5g添加し均一に混合した。この焙煎粉砕コーヒー豆32gをペーパードリップを用いて560ml
のお湯で抽出し、抽出液514mlを得た。HLPCで分析した結果、100ml当りクロロゲン酸類を140mg, カフェインを54mg含有する焙煎粉砕コーヒー飲料を得た。
〔実施例3〕
可溶性粉末コーヒー及び可溶性粉末コーヒー飲料の製造
実施例1のコーヒー豆抽出物を粉砕機(ディッティング製:KFA-903)で粉砕し、50メ
ッシュスクリーンを通過した微粉を回収した。噴霧乾燥して得られた可溶性粉末コーヒー100gに対して、篩い分けした微粉10gを添加し均一に混合した。このインスタンコーヒ
ー調製粉末2.0gを取り、120mlのお湯に溶かし飲用とした。
〔実施例4〕
紅茶飲料の製造
撹拌機能を有するの抽出槽に約60℃の温水を950L投入し、これに紅茶葉(BBLジャ
パン(株))35kgを投入し、3分間撹拌し、その後抽出槽から抽出液を排出した。これを
30℃以下に冷却し、遠心分離器を通した後5μmのカートリッジフィルターを通過させ、
固形分濃度24%の紅茶抽出液約8000kgを得た。この紅茶抽出液2kgを用いて、紅茶固形分固形分1kg当り0.48kgクロロゲン酸類含有抽出物を添加し、水で希釈しさらに砂糖、L-アス
コルビン酸を加え、重曹にてpHを5.7に調整した。また紅茶固形分濃度は0.35重量%であった。これをプレート式熱交換器でUHT殺菌(135℃、30秒間)を行った後、約90℃の温
度迄冷却してこれをPETボトルに無菌充填を行ない、充填後、直ちに水で室温に冷却した。この結果、100ml当り、クロロゲン酸類を70mg, カフェインを42mg含有するPETボ
トル入り紅茶飲料を得た。
〔実施例5〕
コーヒーミックスの製造
噴霧乾燥インスタントコーヒー(味の素ゼネラルフーヅ(株)、ブレンディ)、砂糖(新三井製糖製グラニュー糖)、インスタントクリーミングパウダー(味の素ゼネラルフーヅ(株)、マリーム)、全粉乳(全農)をそれぞれ20:40:35:5の比率で計量し、更に
クロロゲン酸類含有抽出物をコーヒー固形分100g当り10gの比率で計量添加した。計量後
ロッキングミキサ(愛知電機社製)で8分間均一に混合しコーヒーミックスを得た。HLPCで分析した結果、一杯分パウダー10g当りクロロゲン酸類を141mg, カフェインを53mg含
有するコーヒーミックスを得た。
〔比較例1〜5〕
上記実施例1乃至実施例5において、クロロゲン酸類含有抽出物を全く添加しない場合のそれぞれの製品形態の飲料を作製し、HPLCを用いて飲料中のカフェインおよびクロロゲン酸類含量を分析した。これらの測定結果より、クロロゲン酸類140mgを摂取するのに必
要な飲用杯数を実施例と比較した結果を表4に示す。本発明の実施例は、クロロゲン酸類を添加しない場合の比較例に対して、いずれも必要飲用杯数はほぼ半分以下であった。
【0032】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明による液体飲料、可溶性粉末コーヒーと水との混合物は、人体への生理学的改善効果を有するクロロゲン酸類を多く含むが、カフェインは従来のコーヒーと同等レベルしか含まれていないため、習慣的に飲用することによって、カフェインの摂りすぎによる不眠などの悪影響を引き起こすことなく健康改善効果を期待することができる。本発明によるクロロゲン酸類を含む焙煎粉砕コーヒー、可溶性粉末コーヒー及び飲料原料は、各々そのままの形態で瓶、缶、及びレトルトパック等に封入されて流通し、消費者自らが水で抽出するか、または水などに溶解することにより、クロロゲン酸類を多く含む飲料として嗜好することができる。本発明の液体飲料は、瓶、缶、PETボトルなどに封入され、消費者がすぐに飲用することができる形態で流通する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カフェイン含有量が0.2重量%以下である脱カフェインしたコーヒー豆を水又はエタノール濃度60重量%以下のエタノール水溶液で抽出し、得られた抽出物を乾燥し、そして、乾燥された抽出物を焙煎粉砕コーヒー豆に混合することを含む、クロロゲン酸類とカフェインとの重量比が2以上である焙煎粉砕コーヒー豆の製造方法。
【請求項2】
カフェイン含有量が0.2重量%以下である脱カフェインしたコーヒー豆を水又はエタノール濃度60重量%以下のエタノール水溶液で抽出し、得られた抽出物を乾燥し、そして、乾燥された抽出物を可溶性粉末コーヒーに混合することを含む、クロロゲン酸類の含有量が5.0重量%以上であり、かつクロロゲン酸類とカフェインとの重量比が2以上である可溶性粉末コーヒーの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法により得られる可溶性粉末コーヒー、砂糖および乳成分を含有する、可溶性粉末コーヒーミックス。
【請求項4】
前記脱カフェインしたコーヒー豆のカフェイン含有量が0.001〜0.1重量%である、請求項1又は2に記載の方法。

【公開番号】特開2011−129(P2011−129A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224965(P2010−224965)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【分割の表示】特願2004−159677(P2004−159677)の分割
【原出願日】平成16年5月28日(2004.5.28)
【出願人】(000243766)味の素ゼネラルフーヅ株式会社 (17)
【Fターム(参考)】