説明

クロストリジウム・ディフィシル由来の多糖免疫原

本出願は、クロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖、クロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を含む組成物、ならびにそれらのキット、方法、および使用に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、新規の免疫原性細胞表面多糖、ならびにその方法および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
出願の背景
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)は、グラム陽性菌であり、腸疾患の原因であることが知られている。それは、抗生物質に関連する下痢および偽膜性大腸炎の主な原因である(Knoop, F. C.; Owens, M.; Crocker, I. C; Clin. Microbiol. Rev. 6, 1993, 251-265(非特許文献1))。近年、C.ディフィシル(C.difficile)に関連する大発生の頻度と深刻さが増加している(Pepin, J.; Valiquette, L.; Alary, M. E.; Villemure, P.; Pelletier, A.; Forget, K.; Pepin, K.; Chouinard, D.; JAMC. 171, 2004, 466-472(非特許文献2))。ほとんどの摂取された栄養型C.ディフィシル細胞は、胃の中に存在する酸性環境によって破壊される。しかしながら、芽胞はこのフィート(feat)を生き延び得て、胆汁酸に晒されると小腸において発芽し得る。抗生物質の使用や化学治療法などの医療行為によって腸内に常在の微生物細胞のレベルが低下すると、C.ディフィシルの増殖が可能になる。
【0003】
ヒトにおいて、C.ディフィシルに関連する下痢(CDAD:C.difficile-associated diarrhea)は、病院関連および抗菌物質に関連する下痢の原因として、最も一般的に診断される。従来から、CDADのリスクは、老齢患者ならびに入院、消化管手術を経験したもしくは抗生物質を受けた者において高かった。アメリカ合衆国では、C.ディフィシル関連の疾患の症例の概算数は、年間250,000を超え(Wikkins TD and Lyerly DM, 2003, J. Clin Hosp Infect. 48:81(非特許文献3))、それに伴う総医療費は年間約10億ドルにも上る(Kyne L, et al., 2002, Clin Infect Dis 34:346-353(非特許文献4))。
【0004】
過去5年間、CDADの発生において予期されなかった増加が確認されている。これは、CDADの重症化、治療の失敗、および死亡の、より高い比率にも関連している。重症化するケースは、若年患者および従来の危険因子を持たない患者において、より頻繁に確認されている。この変化の多くが、リボタイプ027(北米パルソタイプ1(NAP1:North American pulsotype 1)およびBlとしても知られている)と呼ばれるアウトブレイククローンの国際的な伝搬に関連している。C.ディフィシルの予防は、患者の隔離、衛生設備の改善、感染予防の向上、および抗菌物質使用の制限を基本としており、そのすべてが、高い健康管理コストに関連する。さらに、抗生物質の予防的使用が、感染の予防のために用いられてきたが、これが、疾患の発生率の増加の原因となっている。さらに、主な最初に用いられる治療であるメトロニダソールに対する反応が予測できなくなってきているために、C.ディフィシル感染症の治療も問題がある。代替の選択肢であるバンコマイシンは高価であり、その使用は、バンコマイシン耐性腸球菌および他のバンコマイシン耐性微生物の出現に対する懸念を高めることになる。
【0005】
さらに、CDADは、馬やブタなどの多くの動物種においても重大な問題である。CDADは、他の種においても疾患の原因である可能性がある。動物から単離されたC.ディフィシルのタイプが、多くの場合、アウトブレイク系統であるリボタイプ027を含むヒトにおいて発見されたタイプと同じであることから、C.ディフィシルが動物からヒトへ伝染可能である可能性について懸念されている。この懸念は、小売店の肉の試料からC.ディフィシルが発見されたことにより高まった。
【0006】
報告されたCDAD発生率の増加、その再発率、ならびに罹患率および死亡率への影響、ならびに治療およびその広がりを抑えるための適切な隔離手段に関連するコストから、CDADに対する有効な予防アプローチが必要であることは明らかである。
【0007】
リボタイプ027またはNAP1と呼ばれる特定の一系統は、散発性および流行性の疾患の重要な原因として国際的に注目されるようになった。高罹患率、高死亡率、治療に対する低い反応性、および高い再発率の深刻な大発生が報告されている。この系統は、3つの主要毒素:毒素A、毒素B、およびCDT(二元毒素)を産生する。さらに、少なくともインビトロにおいて毒素産生を増加させる可能性が高いと主張されている毒素の調節遺伝子も欠失している(Just, I.; Selzer, J.; Wilm, M.; von Eichel-Streiber, C.; Mann, M.; Aktories, K.; Nature. 375, 1995, 500-5033(非特許文献5))。この芽胞形成性細菌は、細胞表面多糖によって食菌作用に抵抗することがわかっている。
【0008】
PoxtonおよびCartmill(Poxton, I. R; Cartmill; T. D. J Gen Microbiol. 1982, 128, 1365-1370(非特許文献6))は、C.ディフィシル菌株NCTC 11223から抽出された2つの調製物の糖組成について記載している。細胞のNaOH処理によって得られた物質は、グルコース、マンノース、ガラクトサミン、およびホスフェートを含有することが確認され、細胞のフェノール処理によって抽出された別の物質は、グルコース、グルコサミン、ホスフェート、および脂肪酸を含有することが確認された。同じ研究において、両方の調製物が、クロストリジウム・ソルデリー(Clostridium sordellii)抗血清と交差反応することも確認された。
【0009】
CDADまたは再発を予防するために、C.ディフィシル感染症に対するヒトおよび動物のためのワクチンを開発する必要性が増加している。さらに、人畜共通性感染の伝染リスクを低減するために、動物の疾患を防ぎ、C.ディフィシルの排出を低減するためのワクチン接種が、動物において必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Knoop, F. C.; Owens, M.; Crocker, I. C; Clin. Microbiol. Rev. 6, 1993, 251-265
【非特許文献2】Pepin, J.; Valiquette, L.; Alary, M. E.; Villemure, P.; Pelletier, A.; Forget, K.; Pepin, K.; Chouinard, D.; JAMC. 171, 2004, 466-472
【非特許文献3】Wikkins TD and Lyerly DM, 2003, J. Clin Hosp Infect. 48:81
【非特許文献4】Kyne L, et al., 2002, Clin Infect Dis 34:346-353
【非特許文献5】Just, I.; Selzer, J.; Wilm, M.; von Eichel-Streiber, C.; Mann, M.; Aktories, K.; Nature. 375, 1995, 500-5033
【非特許文献6】Poxton, I. R; Cartmill; T. D. J Gen Microbiol. 1982, 128, 1365-1370
【発明の概要】
【0011】
出願の概要
本出願は、新規なクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を、その共有結合性化学構造を含めて開示するものであり、これらの新規な多糖は、抗C.ディフィシルワクチン製剤において、および/または診断マーカーとして、免疫原性組成物で使用される。
【0012】
したがって、本出願は、単離された免疫原性クロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を含む。
【0013】
一態様において、当該細胞表面多糖は、式Iの五糖繰り返しユニットを含む:

式中、Rhaはラムノースであり、Pはグリコシルホスフェートであり、Glcはグルコースまたはその免疫原性断片である。
【0014】
他の態様において、当該細胞表面多糖は、式PS-Iの化合物である:

式中、nは、1〜1000の整数であり、Rhaはラムノースであり、Pはグリコシルホスフェートであり、Glcはグルコースまたはその免疫原性断片である。
【0015】
別の態様において、当該細胞表面多糖は、式IIの六糖繰り返しユニットを含む:

式中、Glcはグルコースであり、GalNAcはN-アセチル-ガラクトサミンであり、Pはグリコシルホスフェートであり、Manはマンノースまたはその免疫原性断片である。
【0016】
別の態様において、当該細胞表面多糖は、式PS-IIの化合物である:

式中、nは、1〜1000の整数であり、Glcはグルコースであり、GalNAcはN-アセチル-ガラクトサミンであり、Pはグリコシルホスフェートであり、Manはマンノースまたはその免疫原性断片である。
【0017】
別の態様において、当該細胞表面多糖は、その共有結合性化学構造内にグリセロール(Gro)、アルジトールホスフェート(P)、グルコース(Glc)、およびN-アセチル-グルコサミン(GlcNAc)を含む、式PS-IIIの化合物である。
【0018】
本出願の別の局面は、1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を含むクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖混合物である。
【0019】
本出願の別の局面は、1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を含む免疫原性組成物である。
【0020】
本出願のさらなる局面は、1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を含むワクチン組成物である。
【0021】
本出願の別の局面は、本明細書において開示された細胞表面多糖、または本明細書において開示された細胞表面多糖混合物、または本明細書において開示された免疫原性組成物、または本明細書において開示されたワクチン組成物、ならびに使用のための取扱説明書を含むキットである。
【0022】
本出願の別の局面は、本明細書において開示された1種以上の細胞表面多糖、または本明細書において開示された免疫原性組成物、または本明細書において開示されたワクチン組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与することにより、対象においてクロストリジウム・ディフィシルに対する免疫反応を誘発する方法である。
【0023】
本出願のさらなる局面は、本明細書において開示された1種以上の細胞表面多糖または本明細書において開示された免疫原性組成物または本明細書において開示されたワクチン組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与することにより、対象においてクロストリジウム・ディフィシル感染症を治療または予防する方法である。
【0024】
本出願のさらなる局面は、本明細書において開示された1種以上の細胞表面多糖または本明細書において開示された免疫原性組成物または本明細書において開示されたワクチン組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与することにより、対象においてクロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢を治療または予防する方法である。
【0025】
本出願はさらに、対象においてクロストリジウム・ディフィシルに対する免疫反応を誘発するための、対象においてクロストリジウム・ディフィシル感染症を治療もしくは予防するための、および/または対象においてクロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢を治療もしくは予防するための、本明細書において開示された細胞表面多糖、または本明細書において開示された細胞表面多糖混合物、または本明細書において開示された免疫原性組成物、または本明細書において開示されたワクチン組成物の使用も開示する。
【0026】
本出願のさらなる局面は、対象においてクロストリジウム・ディフィシルに対する免疫反応を誘発するための、対象においてクロストリジウム・ディフィシル感染症を治療もしくは予防するための、および/または対象においてクロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢を治療もしくは予防するための医薬を製造するための、本明細書において開示された細胞表面多糖、または本明細書において開示された細胞表面多糖混合物、または本明細書において開示された免疫原性組成物、または本明細書において開示されたワクチン組成物の使用を含む。
【0027】
本出願の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。ただし、以下の詳細な説明と特定の実施例は、本発明の好適な態様を示すものであるが、この詳細な説明から本発明の精神および範囲内での様々な変更と修正が当業者に明らかであろうことから、以下の説明および実施例が例示のためだけに提示されるということは理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明は、以下の図面に関連して説明される。
【0029】
【図1】PS-IIに存在する糖結合タイプを示す、C.ディフィシル多糖PS-IIの単糖結合タイプ分析(GC-MSプロフィール)である。
【図2】(A)PS-Iおよび(B)PS-IIの1H-NMRスペクトルを示す。
【図3】(A)単糖ユニットの配列を示すNOE間の結合性を表す、C.ディフィシルPS-Iの1H-1H NOESYスペクトル、および(B)(A)に示された1H-1H NOESYスペクトルのデータから得られる結合および配列を図示した、PS-I繰り返し糖ブロックの化学構造を示す。
【図4】(A)多糖PS-Iにおける2-結合Glcの位置番号1および4-結合Rhaの位置番号4へのグリコシルホスフェートの結合を表す1H-31P-HMBCスペクトル、および(B)多糖PS-IIにおける3-結合Manの位置番号1および6-結合Glcの位置番号6へのグリコシルホスフェートの結合を表す1H-31P-HMBCスペクトルを示す。
【図5】C.ディフィシル多糖PS-IIの脱リン酸処理された繰り返し糖のMALDI-TOFマススペクトルを示す。
【図6】繰り返し細胞表面多糖(A)PS-Iおよび(B)PS-IIの共有結合性化学構造を示す。
【図7】C.ディフィシル多糖PS-IIIの単糖組成分析(GC-MSプロフィール)を示す。
【図8】C.ディフィシル細胞表面多糖PS-IおよびPS-IIの混合物を接種した5頭のブタのドットブロット血清学的分析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
出願の詳細な説明
I.定義
「クロストリジウム・ディフィシル」という用語は、本明細書で使用される場合、例えば、リボタイプ027(NAP1およびBlとしても知られている)、リボタイプW(NAP2としても知られている)、MOH900、およびMOH718などを含むクロストリジウム・ディフィシルの全ての系統を含む。
【0031】
「単離された」という用語は、本明細書で使用される場合、クロストリジウム・ディフィシルの菌株の培養から製造される場合の、実質的に細菌細胞物質または抽出溶媒を含まないクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を意味する。
【0032】
本明細書で使用される場合、「クロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖」という用語は、クロストリジウム・ディフィシルの系統から単離されたものを含み、ならびに本明細書において開示されたクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖と同じ構造および/または組成を有するように合成によって製造された多糖も含む。「合成によって製造された」は、例えば、組換えDNA技術、遺伝子ノックアウトマウス、および/または化学的合成などの技術によって製造された細胞表面多糖を含む。
【0033】
「共有結合性化学構造」という用語は、本明細書で使用される場合、すべての基が共有結合を介して結合している化合物に対する化学式を意味する。
【0034】
本明細書で使用される場合、「それらの断片」という用語は、クロストリジウム・ディフィシルに対する免疫原性活性を保持している、本明細書において開示された細胞表面多糖の任意の一部を意味する。前記断片は、単糖(糖)または糖リン酸が多糖の共有結合性化学構造内にある場合は、それらの1つ以上を含有し得る。前記断片が免疫原性活性を保持しているかどうかは、当技術分野において公知の技術を用いて判定することができる。
【0035】
本明細書で使用される場合、「免疫原性」という用語は、免疫反応を誘起させる能力を意味する。
【0036】
本明細書で使用される場合、「ワクチン」という用語は、クロストリジウム・ディフィシル感染症を予防する組成物、クロストリジウム・ディフィシル感染症を治療する組成物、および/またはクロストリジウム・ディフィシルの排出を低減する組成物を意味する。
【0037】
「治療有効量」、「有効量」、または「十分な量」という用語は、哺乳動物を含む対象、例えばヒトなど、に投与された場合に、所望の結果を達成するのに十分な量、例えば、対象において免疫反応を誘起するのに有効な量、を意味する。治療上の有効量は、動物の病状、年齢、性別、体重などの因子によって変化し得る。投与量または治療計画は、最適な治療反応を得るように調整してもよい。
【0038】
さらに、治療有効量による対象の「治療」計画は、単一投与から成ってもよいし、またはその代わりに一連の投与を含んでいてもよい。治療期間の長さは、疾患の重症度、患者の年齢、多糖の濃度および活性、あるいはそれらの組み合わせなどの様々な因子に応じて変わる。さらに、治療または予防のために使用される化合物の投与量は、特定の治療または予防計画の期間中に増量または減量してもよいということも理解されるであろう。投与量における変更は、当技術分野において公知の標準的な診断分析による結果であり得、並びに診断分析により明らかとなり得る。本開示の化合物は、細菌への暴露前、暴露中、または暴露後に投与してもよい。
【0039】
本明細書で使用される場合、「インビボでの生物学的に適合可能な形態」という表現は、治療効果が任意の毒性作用を上回る、投与されるべき物質の形態を意味する。
【0040】
「免疫反応を誘起する」または「免疫反応を誘発する」という用語は、本明細書で使用される場合、例えば体液性または細胞媒介性のいずれかの免疫系の任意の反応を開始する、その引き金となる、引き起こす、増強する、改善する、または強化することを意味する。免疫反応の開始または強化は、これらに限定されるわけではないが、抗体アッセイ(例えば、ELISAアッセイ)、抗原特異的細胞障害アッセイ、およびサイトカインの産生(例えば、ELISPOTアッセイ)などを含む、当業者に公知のアッセイを用いて評価することができる。
【0041】
「対象」という用語は、本明細書で使用される場合、動物界の任意のメンバー、好ましくは哺乳動物を意味する。一態様において、該哺乳動物は、犬、猫、ハムスター、マウス、ラット、ブタ、馬、牛、またはヒトである。別の態様において、該哺乳動物は、ブタ、馬、牛、またはヒトである。
【0042】
本明細書で使用される場合、当技術分野においてよく理解されているように、「治療」は、臨床結果を含む有益な結果または所望の結果を得るためのアプローチである。有益または所望される臨床結果としては、これらに限定されるわけではないが、検出可能であるかまたは検出不可能であるかに関わらず、1つ以上の症状または状態の軽減もしくは改善、疾患の程度の軽減、疾患の状態の安定化(すなわち、悪化させない)、疾患の蔓延の防止、疾患の進行の遅延または鈍化、疾患状態の改善または緩和、および寛解(部分的または全体的)が挙げられる。「治療」はさらに、治療を受けていない場合に予想される生存と比較して、生存を延長することを意味し得る。
【0043】
疾患または障害を「緩和する」とは、障害を治療しない場合と比較して、障害もしくは疾患状態の程度および/もしくは所望されない臨床症状発現を軽減し、ならびに/または進行の時間経過を遅延もしくは延長することを意味する。
【0044】
例えば、「クロストリジウム・ディフィシル感染症の治療または予防」なる句は、クロストリジウム・ディフィシル感染症を抑制すること、クロストリジウム・ディフィシル感染症を予防すること、クロストリジウム・ディフィシル感染症の重症度を軽減すること、クロストリジウム・ディフィシルのコロニー形成を阻害すること、クロストリジウム・ディフィシルの排出を低減すること、クロストリジウム・ディフィシルのコロニー形成を予防すること、または、クロストリジウム・ディフィシル感染症に関連する徴候および症状を改善することを含み、「クロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢の治療または予防」なる句は、クロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢を抑制すること、クロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢を予防すること、クロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢の重症度を軽減すること、またはクロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢を患っていることに関連する徴候および症状を改善することを含む。本出願はさらに、クロストリジウム・ディフィシル感染症に関連する任意の疾患の治療または予防も含む。
【0045】
本出願発明の範囲を理解する上で、「含む(comprising)」なる用語およびこれから派生する用語は、本明細書で使用される場合、言及された特徴、要素、構成要素、群、整数、および/または工程の存在を明記するが、言及されていない他の特徴、要素、構成要素、群、整数、および/または工程の存在を排除しないオープンエンド(open ended)用語であることが意図される。前述のことは、「含む(including)」、「有する(having)」、およびこれらから派生する用語など、類似する意味を持つ言葉にも適用される。最後に、「実質的に」、「約」、および「およそ」などの程度を表す用語は、本明細書で使用される場合、最終結果が著しく変わることのないような、修飾された用語の合理的な量の偏差を意味する。この偏差が修飾する言葉の意味を否定しない限り、これらの程度を表す用語は、修飾された用語の少なくとも±5%の偏差を含むものとして解釈される。
【0046】
II.本出願の化合物および組成物
上記のように、本出願は、クロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖の共有結合性化学構造の単離および同定について説明する。これらの新規な多糖は、クロストリジウム・ディフィシルの細胞表面に露出し、免疫原性組成物、炭水化物ベースのワクチン製剤において、および/または診断マーカーとして使用することができる。
【0047】
したがって、本出願は、単離された免疫原性クロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を含む。本出願はさらに、1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を含むクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖混合物も含む。
【0048】
本出願はさらに、1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を含む免疫原性組成物を含む。
【0049】
本出願はさらに、1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を含むワクチン組成物を含む。
【0050】
本出願は、3種の別個の細胞表面のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖の単離および特性解析について説明する。これらは、本出願においてPS-I、PS-II、およびPS-IIIと呼ばれる。
【0051】
ガスクロマトグラフィー(GC:gas chromatography)、核磁気共鳴法(NMR:nuclear magnetic resonance)、および質量分析法(MS:mass spectrometry)などの化学分析および解析手法を用いて、PS-Iが、リン酸ジエステル結合で結合された五糖繰り返しユニットのポリマーであり、PS-IIも、リン酸ジエステル結合で結合された六糖繰り返しユニットのポリマーであることが特定されている。いくつかの調製物では、多糖PS-IIは、さらなるグルコースを含有し得る。具体的には、PS-Iは、グリコシルホスフェート、ラムノース、およびグルコースで構成された、分岐したペンタグリコシルホスフェート繰り返しユニットであることが見出され、PS-IIは、グルコース、マンノース、N-アセチル-ガラクトサミン、およびグリコシルホスフェートで構成された、分岐したヘキサグリコシルホスフェート繰り返しユニットであることが見出され、ならびにPS-IIIは、グリセロール、アルジトールホスフェート、グルコース、およびN-アセチル-グルコサミンで構成されていることが特定された。
【0052】
一態様において、細胞表面多糖は、例えば、好適な培地でクロストリジウム・ディフィシル細菌を増殖させ、当該培地から細菌細胞を分離し、細胞表面物質から多糖を切断する条件下において穏和な酸性処理によって細胞表面多糖を抽出し、抽出された細胞表面多糖を精製することによって、クロストリジウム・ディフィシル細菌の系統から単離することにより得られる。さらなる態様において、該穏和な酸は、0.1%〜5%の酢酸であり、好適には2%の酢酸である。さらなる態様において、細胞表面多糖は、遠心分離法、サイズ排除クロマトグラフィー、および/または陰イオン交換クロマトグラフィーによって精製または分離される。
【0053】
一態様において、当該細胞表面多糖は、式Iの五糖繰り返しユニットを含む:

式中、Rhaはラムノースであり、Pはグリコシルホスフェートであり、Glcはグルコースまたはその免疫原性断片である。
【0054】
別の態様において、当該細胞表面多糖は、式PS-Iの化合物である:

式中、nは1〜1000の整数であり、Rhaはラムノースであり、Pはグリコシルホスフェートであり、Glcはグルコースまたはその免疫原性断片である。
【0055】
一態様において、PS-Iにおける単糖であるラムノースおよびグルコースは、ピラノース立体配座で存在する。
【0056】
別の態様において、PS-Iにおけるnは、1〜100、2〜100、10〜100、または25〜100の整数である。
【0057】
別の態様において、当該細胞表面多糖(PS-I)は、グリコシルホスフェート、ラムノース、およびグルコースを含む。
【0058】
別の態様において、当該細胞表面多糖は、式IIの六糖繰り返しユニットを含む:

式中、Glcはグルコースであり、GalNAcはN-アセチル-ガラクトサミンであり、Pはグリコシルホスフェートであり、Manはマンノースまたはその免疫原性断片である。
【0059】
別の態様において、当該細胞表面多糖は、式PS-IIの化合物である:

式中、nは1〜1000の整数であり、Glcはグルコースであり、GalNAcはN-アセチル-ガラクトサミンであり、Pはグリコシルホスフェートであり、Manはマンノースまたはその免疫原性断片である。
【0060】
一態様において、PS-IIにおける単糖であるグルコース、N-アセチル-ガラクトサミン、およびマンノースは、ピラノース立体配座で存在する。
【0061】
別の態様において、PS-IIにおけるnは、1〜100、2〜100、10〜100、または25〜100の整数である。
【0062】
別の態様において、当該細胞表面多糖(PS-II)は、その共有結合性化学構造内にグルコース、マンノース、N-アセチル-ガラクトサミン、およびグリコシルホスフェートを含む。
【0063】
別の態様において、細胞表面多糖(PS-III)の共有結合性化学構造は、グリセロール、アルジトールホスフェート、グルコース、およびN-アセチル-グルコサミンを含む。
【0064】
別の態様において、細胞表面多糖(PS-III)の共有結合性化学構造は、グリセロール、アルジトールホスフェート、グルコース、およびN-アセチル-グルコサミンから成る。
【0065】
本出願の別の局面は、(a)本明細書において開示された細胞表面多糖PS-I、または(b)本明細書において開示された細胞表面多糖PS-II、または(c)本明細書において開示された細胞表面多糖PS-IIIのうちの少なくとも2つを含む細胞表面多糖混合物であり、この場合、該細胞表面多糖混合物は、任意の組み合わせで、(a)、(b)、または(c)の細胞表面多糖の少なくとも2つを含む。
【0066】
一態様において、当該細胞表面多糖混合物は、(a)本明細書において開示された細胞表面多糖PS-Iおよび(b)本明細書において開示された細胞表面多糖PS-IIを含む。
【0067】
別の態様において、本出願は、1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖ならびに薬学的に許容される賦形剤、担体、緩衝剤、安定化剤、またはそれらの混合物を含む免疫原性組成物を開示する。
【0068】
一態様において、当該免疫原性組成物は、式Iの五糖繰り返しユニットを含む細胞表面多糖を含む:

式中、Rhaはラムノースであり、Pはグリコシルホスフェートであり、Glcはグルコースまたはその免疫原性断片である。
【0069】
別の態様において、当該免疫原性組成物は、式PS-Iの細胞表面多糖を含む:

式中、nは1〜1000の整数であり、Rhaはラムノースであり、Pはグリコシルホスフェートであり、Glcはグルコースまたはその免疫原性断片である。
【0070】
一態様において、PS-Iにおける単糖であるラムノースおよびグルコースは、ピラノース立体配座で存在する。
【0071】
別の態様において、PS-Iにおけるnは、1〜100、2〜100、10〜100、または25〜100の整数である。
【0072】
別の態様において、当該免疫原性組成物は、その共有結合性化学構造内にグリコシルホスフェート、ラムノース、およびグルコースを含む細胞表面多糖(PS-I)を含む。
【0073】
別の態様において、当該免疫原性組成物は、式(II)の六糖繰り返しユニットを含む細胞表面多糖を含む:

式中、Glcはグルコースであり、GalNAcはN-アセチル-ガラクトサミンであり、Pはグリコシルホスフェートであり、Manはマンノースまたはその免疫原性断片である。
【0074】
別の態様において、当該免疫原性組成物は、式PS-IIの細胞表面多糖を含む:

式中、nは1〜1000の整数であり、Glcはグルコースであり、GalNAcはN-アセチル-ガラクトサミンであり、Pはグリコシルホスフェートであり、Manはマンノースまたはその免疫原性断片である。
【0075】
一態様において、PS-IIにおける単糖であるグルコース、N-アセチル-ガラクトサミン、およびマンノースは、ピラノース立体配座で存在する。
【0076】
別の態様において、PS-IIにおけるnは、1〜100、2〜100、10〜100、または25〜100の整数である。
【0077】
別の態様において、当該免疫原性組成物は、その共有結合性化学構造内にグルコース、マンノース、N-アセチル-ガラクトサミン、およびグリコシルホスフェートを含む細胞表面多糖(PS-II)を含む。
【0078】
別の態様において、当該免疫原性組成物は、その共有結合性化学構造内にグリセロール、アルジトールホスフェート、グルコース、およびN-アセチル-グルコサミンを含む細胞表面多糖(PS-III)を含む。
【0079】
別の態様において、当該免疫原性組成物は、その共有結合性化学構造内にグリセロール、アルジトールホスフェート、グルコース、およびN-アセチル-グルコサミンから成る細胞表面多糖(PS-III)を含む。
【0080】
本出願の別の局面は、(a)本明細書において開示された細胞表面多糖PS-Iを含む免疫原性組成物、または(b)本明細書において開示された細胞表面多糖PS-IIを含む免疫原性組成物、または(c)本明細書において開示された細胞表面多糖PS-IIIを含む免疫原性組成物のうちの少なくとも2つの混合物を含む免疫原性組成物であり、この場合、該免疫原性組成物混合物は、任意の組み合わせで、(a)、(b)、または(c)の免疫原性組成物のうちの少なくとも2つを含む。
【0081】
本出願の別の局面は、(a)本明細書において開示された細胞表面多糖PS-I、または(b)本明細書において開示された細胞表面多糖PS-II、または(c)本明細書において開示された細胞表面多糖PS-IIIのうちの少なくとも2つを含む細胞表面多糖混合物を含む免疫原性組成物であり、この場合、該免疫原性組成物は、任意の組み合わせで、(a)、(b)、または(c)の細胞表面多糖のうちの少なくとも2つを含む。
【0082】
本出願の一態様において、免疫原性組成物は、(a)本明細書において開示された細胞表面多糖PS-Iおよび(b)本明細書において開示された細胞表面多糖PS-IIを含む、細胞表面多糖の混合物を含む。
【0083】
別の態様において、本出願は、1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖ならびに薬学的に許容される賦形剤、担体、緩衝剤、安定化剤、またはそれらの混合物を含むワクチン組成物を開示する。
【0084】
一態様において、当該ワクチン組成物は、式Iの五糖繰り返しユニットを含む細胞表面多糖を含む:

式中、Rhaはラムノースであり、Pはグリコシルホスフェートであり、Glcはグルコースまたはその免疫原性断片である。
【0085】
一態様において、当該ワクチン組成物は、式PS-Iの細胞表面多糖を含む:

式中、nは1〜1000の整数であり、Rhaはラムノースであり、Pはグリコシルホスフェートであり、Glcはグルコースまたはその免疫原性断片である。
【0086】
一態様において、PS-Iにおける単糖であるラムノースおよびグルコースは、ピラノース立体配座で存在する。
【0087】
別の態様において、PS-Iにおけるnは、1〜100、2〜100、10〜100、または25〜100の整数である。
【0088】
別の態様において、当該ワクチン組成物は、その共有結合性化学構造内にグリコシルホスフェート、ラムノース、およびグルコースを含む細胞表面多糖(PS-I)を含む。
【0089】
別の態様において、当該ワクチン組成物は、式IIの六糖繰り返しユニットを含む細胞表面多糖を含む:

式中、Glcはグルコースであり、GalNAcはN-アセチル-ガラクトサミンであり、Pはグリコシルホスフェートであり、Manはマンノースまたはその免疫原性断片である。
【0090】
別の態様において、当該ワクチン組成物は、式PS-IIの細胞表面多糖を含む:

式中、nは1〜1000の整数であり、Glcはグルコースであり、GalNAcはN-アセチル-ガラクトサミンであり、Pはグリコシルホスフェートであり、Manはマンノースまたはその免疫原性断片である。
【0091】
一態様において、PS-IIにおける単糖であるグルコース、N-アセチル-ガラクトサミン、およびマンノースは、ピラノース立体配座で存在する。
【0092】
別の態様において、PS-IIにおけるnは、1〜100、2〜100、10〜100、または25〜100の整数である。
【0093】
別の態様において、当該ワクチン組成物は、その共有結合性化学構造内にグルコース、マンノース、N-アセチル-ガラクトサミン、およびグリコシルホスフェートを含む細胞表面多糖(PS-II)を含む。
【0094】
別の態様において、当該ワクチン組成物は、その共有結合性化学構造内にグリセロール、アルジトールホスフェート、グルコース、およびN-アセチル-グルコサミンを含む細胞表面多糖(PS-III)を含む。
【0095】
別の態様において、当該ワクチン組成物は、その共有結合性化学構造内にグリセロール、アルジトールホスフェート、グルコース、およびN-アセチル-グルコサミンから成る細胞表面多糖(PS-III)を含む。
【0096】
本出願の別の局面は、(a)本明細書において開示された細胞表面多糖PS-Iを含むワクチン組成物、または(b)本明細書において開示された細胞表面多糖PS-IIを含むワクチン組成物、または(c)本明細書において開示された細胞表面多糖PS-IIIを含むワクチン組成物のうちの少なくとも2つの混合物を含むワクチン組成物であり、この場合、該ワクチン組成物混合物は、任意の組み合わせで、(a)、(b)、または(c)のワクチン組成物のうちの少なくとも2つを含む。
【0097】
本出願の別の局面は、(a)本明細書において開示された細胞表面多糖PS-I、または(b)本明細書において開示された細胞表面多糖PS-II、または(c)本明細書において開示された細胞表面多糖PS-IIIのうちの少なくとも2つを含む細胞表面多糖混合物を含むワクチン組成物であり、この場合、該ワクチン組成物は、任意の組み合わせで、(a)、(b)、または(c)の細胞表面多糖のうちの少なくとも2つを含む。
【0098】
本出願の一態様において、ワクチン組成物は、(a)本明細書において開示された細胞表面多糖PS-Iおよび(b)本明細書において開示された細胞表面多糖PS-IIを含む、細胞表面多糖の混合物を含む。
【0099】
複合糖質ワクチンは、炭水化物の免疫原性特性を強化することが知られている。したがって、クロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を担体分子に結合させることにより、炭水化物ベースのワクチンの免疫原性反応を最大化することが可能である。
【0100】
したがって、本出願の別の態様には、担体分子に結合した、本明細書において開示された1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖が含まれる。
【0101】
別の態様では、式Iの五糖繰り返しユニットを含む細胞表面多糖が、担体分子に結合している。別の態様では、細胞表面多糖PS-Iが、担体分子に結合している。別の態様では、式IIの六糖繰り返しユニットを含む細胞表面多糖が、担体分子に結合している。別の態様では、細胞表面多糖PS-IIが、担体分子に結合している。別の態様では、細胞表面多糖PS-IIIが、担体分子に結合している。
【0102】
本出願の別の態様は、担体分子に結合した、本明細書において開示された1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を含む免疫原性組成物である。
【0103】
本出願のさらなる態様は、担体分子に結合した、本明細書において開示された1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を含むワクチン組成物である。
【0104】
一態様において、前記担体分子は、タンパク質である。別の態様において、前記担体分子は、ウシ血清アルブミン(BSA:bovine serum albumin)である。別の態様において、前記担体分子は、交差反応性物質、例えばCRM197である。CRM197は、肺炎球菌の結合型ワクチンにおいて問題なく使用されてきた、ジフテリア(Diphtheria)毒素の無毒性の種類である(Anderson, P.W., 1983, Infect. Immun. 39:233-238)。別の態様において、前記担体分子は、MIEP(major immunoenhancing protein:主要免疫増強タンパク質)である。MIEPは、ナイセリア(Neisseria)髄膜炎B型および他の髄膜炎菌B群(Merck社)の外膜複合体に由来し得る。別の態様において、前記担体分子はジフテリアトキソイドである。さらなる態様において、前記担体分子は破傷風(Tetanus)トキソイドである。別の態様において、前記担体分子は、ボルデテラ(Bordetella)由来のタンパク質である。
【0105】
前記担体分子は、公知の方法を用いて細胞表面多糖に結合させてもよい。例えば、糖の利用可能なヒドロキシ基またはカルボキシ基と、タンパク質のカルボキシル基またはアミン基との間のエステル結合またはアミド結合を介して結合させてもよい。
【0106】
他の担体分子およびそれらの結合方法は、以前に報告されている(例えば、米国特許第4,673,574号を参照のこと。なお、その内容は、参照により本明細書に組み入れられる)。
【0107】
免疫原性は、免疫剤(すなわち、本出願で開示された、クロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖類、またはクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を含む免疫原性組成物、またはクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を含むワクチン組成物)が、投与形式にかかわらず、アジュバントなどの免疫刺激成分によって同時免疫化される場合に著しく改善され得る。アジュバントは、免疫原の免疫原性を強化するが、それ自体が免疫原性である必要はない。アジュバントは、免疫原を投与部位近傍に局所的に維持することにより、免疫系の細胞に対するゆっくりとした持続的な免疫原の放出を円滑にする貯蔵効果を生じるように機能し得る。アジュバントは、免疫原貯蔵場所に免疫系の細胞を引きつけ、そのような細胞を刺激して免疫反応を誘起することもできる。そのようなものとして、この本出願の態様は、例えば、さらにアジュバントを含む、免疫原性組成物、ワクチン組成物、または薬学的組成物を含む組成物を包含する。
【0108】
本出願の別の局面は、本明細書において開示された1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖とアジュバントなどの免疫賦活成分とを含む免疫原性組成物である。
【0109】
本出願の別の局面は、本明細書において開示された1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖とアジュバントなどの免疫賦活成分とを含むワクチン組成物である。
【0110】
アジュバントは、例えば、ワクチンへの宿主免疫反応を改善するために長年使用されてきた。通常、内的アジュバント(リポ多糖など)は、ワクチンとして使用される、死んだ細菌または弱毒化した細菌の成分である。外的アジュバントは、通常は非共有結合によって抗原に結合した、宿主免疫反応を強化するために処方された免疫調節剤である。したがって、アジュバントは、非経口的に送達された抗原に対する免疫反応を増強することが確認されている。しかしながら、これらのアジュバントの中には、有毒なものもあり、ヒトおよび多くの動物に使用することが不適当であるような望ましくない副作用の原因となり得る。実際には、水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウム(まとめて一般的にミョウバンと呼ばれる)だけが、アジュバントとしてヒトワクチンおよび家畜ワクチンにおいて常用される。ジフテリアトキソイドおよび破傷風トキソイドに対する抗体反応の増加における、ミョウバンの有効性は、十分に認められている。
【0111】
広範囲の外的アジュバントが、免疫原に対して強力な免疫反応を誘発し得る。これらとしては、膜タンパク質抗原と複合化しているサポニン(免疫賦活複合体)、鉱油を含有するプルロニックポリマー、死んだマイコバクテリウムおよび鉱油、フロイントの完全アジュバント、ムラミルジペプチド(MDP)およびリポ多糖(LPS)ならびにリピドAなどの細菌性生成物、ならびにリポソームが挙げられる。
【0112】
本出願の一局面において、本明細書において記載された態様のいずれかにおいて有用なアジュバントは以下の通りである。非経口免疫化のためのアジュバントとしては、アルミニウム化合物(例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、およびアルミニウムヒドロキシホスフェート)が挙げられる。抗原は、標準的なプロトコルに従って、アルミニウム化合物と共に沈殿させるか、または吸収させることができる。RIBI(ImmunoChem、Hamilton社、MT)などの他のアジュバントも、非経口投与に用いることができる。
【0113】
粘膜免疫化のためのアジュバントとしては、細菌性毒素(例えば、コレラ毒素(CT:cholera toxin)、大腸菌熱不安定毒素(LT:labile toxin)、クロストリジウム・ディフィシル毒素A、および百日咳毒素(PT:pertussis toxin)、またはそれらの組み合わせ、サブユニット、トキソイド、もしくは変異体)が挙げられる。例えば、天然のコレラ毒素サブユニットB(CTB:cholera toxin subunit B)の精製調製物は有用であり得る。任意のこれらの毒素の断片、相同体、誘導体、および融合体も、それらがアジュバント活性を保持する限り、好適である。好ましくは、弱毒化された変異体が用いられる。好適な変異体については、すでに記載されている(例えば、WO95/17211(Arg-7-Lys CT変異体)、WO96/6627(Arg-192-Gly LT変異体)、およびWO95/34323(Arg-9-LysおよびGlu-129-Gly PT変異体))。本明細書で開示された方法および組成物において用いることができるさらなるLT変異体としては、例えば、Ser-63-Lys、Ala-69-Gly、Glu-110-Asp、およびGlu-112-Asp変異体が挙げられる。他のアジュバント(例えば、様々な由来源(例えば、大腸菌(E.coli)、サルモネラ・ミネソタ(Salmonella minnesota)、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、またはフレクスナー赤痢菌(Shigella flexneri)、サポニン、またはポリラクチドグリコリド(PLGA:polylactide glycolide)ミクロスフェア)の細菌モノホスホリルリピドA(MPLA:monophosphoryl lipid A)なども、粘膜投与に用いることができる。
【0114】
粘膜免疫化および非経口免疫化の両方に対して有用なアジュバントとしては、ポリホスファゼン(例えば、WO95/2415)、DC-コル(3b-(N-(N’,N’-ジメチルアミノメタン)-カルバモイル)コレステロール(例えば、米国特許第5,283,185号およびWO96/14831)およびQS-21(例えば、WO88/9336)が挙げられる。
【0115】
例えば、本出願において開示されたクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を含む免疫原性組成物、ワクチン組成物、または薬学的組成物を含む組成物を用いて、当業者に公知である任意の従来の経路によって対象を免疫化してもよい。これには、例えば、粘膜(例えば、眼、鼻腔内、経口、胃、肺、腸、直腸、膣、または尿路)の表面を介した免疫化、非経口(例えば、皮下、皮内、筋肉内、静脈内、または腹腔内)の経路を介した免疫化、または結節内による免疫化が含まれ得る。好ましい経路は、当業者には明らかであるように、免疫原の選択に応じて変わる。投与は、単回投与量で達成してもよいし、または間隔をあけて繰り返し投与してもよい。適切な用量は、免疫原自体(すなわち、ペプチド対核酸(および、さらに具体的にはその種類))、投与経路、およびワクチン接種される動物の状態(体重、年齢など)などの、当業者によって理解される様々なパラメータに応じて変わる。
【0116】
本明細書に記載されたクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖または免疫原性組成物もしくはワクチン組成物は、対象に投与可能な薬学的に許容される組成物の調製において、活性物質の有効量が混合物中において薬学的に許容されるビヒクルと組み合わされるように、それ自体既知の方法によって調製することができる。好適なビヒクルは、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences(Remington's Pharmaceutical Sciences, 20th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa., USA, 2000)に記載されている。これに基づき、当該組成物としては、排他的でないが、1種以上の薬学的に許容されるビヒクルもしくは希釈剤に関連する物質の溶液が挙げられ、生理液を含む好適なpHで等浸透性の緩衝溶液中に含有される。
【0117】
薬学的組成物としては、これらに限定されるわけではないが、凍結乾燥粉末または水性もしくは非水性の無菌注射溶液もしくは懸濁液が挙げられ、これらはさらに抗酸化剤、緩衝液、静菌薬、ならびに対象とする受容者の組織または血液と前記組成物とを実質的に適合させる溶質を含有してもよい。このような組成物中に存在し得る他の成分としては、例えば、水、界面活性剤(Tweenなど)、アルコール、ポリオール、グリセリン、および植物油が挙げられる。即時調製注射溶液および懸濁液は、無菌性の粉末、顆粒、錠剤、または濃縮溶液もしくは懸濁液から調製することができる。前記薬学的組成物は、例えば、これに限定されるわけではないが、患者への投与の前に無菌水または無菌生理食塩水で再構成される凍結乾燥粉末として供給することができる。
【0118】
例えば、本出願の免疫原性組成物、ワクチン組成物、または薬学的組成物を含む組成物は、薬学的に許容される担体を含んでいてもよい。好適な薬学的に許容される担体としては、前記薬学的組成物の生物学的活性の有効性を妨害しないような、本質的に化学的に不活性かつ無毒の組成物が挙げられる。好適な薬学的担体の例としては、これらに限定されるわけではないが、水、塩類溶液、グリセロール溶液、エタノール、N-(1(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル)N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、ジオレシルホスホチジル-エタノールアミン(DOPE)、およびリポソームが挙げられる。そのような組成物は、患者への直接投与ための形態が提供されるように、好適な量の担体と一緒に治療有効量の化合物を含むべきである。
【0119】
組成物は、薬学的に許容される塩の形態であり得、そのようなものとしては、これらに限定されるわけではないが、遊離アミノ基により形成されるもの、例えば、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来するものなど、ならびに遊離カルボキシル基により形成されるもの、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するものなど、が挙げられる。
【0120】
本出願において開示された組成物は、例えば、非経口、静脈内、皮下、筋肉内、頭蓋内、眼窩内、眼、心室内、嚢内、脊髄内、槽内、腹腔内、鼻腔内、エアゾール、または経口投与によって投与することができる。
【0121】
したがって、本出願の別の態様は、好適な賦形剤、希釈剤、担体、緩衝液、または安定化剤との混合物において、本明細書において開示されたクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖の有効量を含む薬学的組成物である。
【0122】
好適な態様において、薬学的組成物は、インビボにおける生体適合的な形態での対象への投与に好適である。
【0123】
本出願の別の局面は、本明細書において開示された細胞表面多糖、または本明細書において開示された細胞表面多糖混合物、または本明細書において開示された免疫原性組成物、または本明細書において開示されたワクチン組成物、または本明細書において開示された薬学的組成物、ならびにその使用のための取扱説明書を含むキットである。
【0124】
前記キットはさらに、補助的薬剤を含んでもよい。例えば、前記キットは、注射器などの本出願の免疫原性組成物を対象に注入するための器具、免疫原性組成物を保存または輸送するための容器、および/または薬学的に許容される賦形剤、担体、緩衝液、もしくは安定化剤を含んでもよい。
【0125】
III.本出願の方法および使用
本出願の別の局面は、本明細書において開示された1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖の有効量を対象に投与することによって、該対象においてクロストリジウム・ディフィシルに対する免疫反応を誘発する方法である。
【0126】
本出願のさらなる局面は、本明細書において開示された1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖の有効量を対象に投与することによって、該対象においてクロストリジウム・ディフィシル感染症を治療または予防する方法である。
【0127】
本出願のさらなる局面は、本明細書において開示された1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖の有効量を対象に投与することによって、該対象においてクロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢を治療または予防する方法である。
【0128】
本出願はさらに、対象においてクロストリジウム・ディフィシルに対する免疫反応を誘発するための、対象においてクロストリジウム・ディフィシル感染症を治療または予防するための、および対象においてクロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢を治療または予防するための、本明細書において開示された1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖の使用も開示する。
【0129】
本出願の他の局面は、対象においてクロストリジウム・ディフィシルに対する免疫反応を誘発するための、クロストリジウム・ディフィシル感染症を治療または予防するための、およびクロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢を治療または予防するための医薬を製造するための、本明細書において開示された1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖の使用を含む。
【0130】
本出願の別の局面は、本明細書において開示された免疫原性組成物の有効量を対象に投与することによって、該対象においてクロストリジウム・ディフィシルに対する免疫反応を誘発する方法であって、該免疫原性組成物が、本明細書において開示された1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を含む方法である。
【0131】
本出願のさらなる局面は、本明細書において開示された免疫原性組成物の有効量を対象に投与することによって、該対象においてクロストリジウム・ディフィシル感染症を治療または予防する方法であって、該免疫原性組成物が、本明細書において開示された1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を含む方法である。
【0132】
本出願のさらなる局面は、本明細書において開示された免疫原性組成物の有効量を対象に投与することによって、該対象においてクロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢を治療または予防する方法であって、該免疫原性組成物が、本明細書において開示された1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を含む方法である。
【0133】
本出願はさらに、対象においてクロストリジウム・ディフィシルに対する免疫反応を誘発するための、対象においてクロストリジウム・ディフィシル感染症を治療または予防するための、および対象においてクロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢を治療または予防するための、本明細書において開示された免疫原性組成物の使用であって、該免疫原性組成物が、本明細書において開示された1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を含む使用も開示する。
【0134】
本出願の他の局面は、対象においてクロストリジウム・ディフィシルに対する免疫反応を誘発するため、クロストリジウム・ディフィシル感染症を治療または予防するため、およびクロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢を治療または予防するための医薬を製造するための、本明細書において開示された免疫原性組成物の使用であって、該免疫原性組成物が、本明細書において開示された1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を含む使用を含む。
【0135】
本出願の別の局面は、本明細書において開示されたワクチン組成物の有効量を対象に投与することによって、該対象においてクロストリジウム・ディフィシルに対する免疫反応を誘発する方法であって、該ワクチン組成物が、本明細書において開示された1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を含む方法である。
【0136】
本出願のさらなる局面は、本明細書において開示されたワクチン組成物の有効量を対象に投与することによって、該対象においてクロストリジウム・ディフィシル感染症を治療または予防する方法であって、該ワクチン組成物が、本明細書において開示された1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を含む方法である。
【0137】
本出願のさらなる局面は、本明細書において開示されたワクチン組成物の有効量を対象に投与することによって、該対象においてクロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢を治療または予防する方法であって、該ワクチン組成物が、本明細書において開示された1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を含む方法である。
【0138】
本出願はさらに、対象においてクロストリジウム・ディフィシルに対する免疫反応を誘発するための、対象においてクロストリジウム・ディフィシル感染症を治療または予防するための、および対象においてクロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢を治療または予防するための、本明細書において開示されたワクチン組成物の使用であって、該ワクチン組成物が、本明細書において開示された1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を含む使用も開示する。
【0139】
本出願の他の局面は、対象においてクロストリジウム・ディフィシルに対する免疫反応を誘発するための、クロストリジウム・ディフィシル感染症を治療または予防するための、およびクロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢を治療または予防するための医薬を製造するための、本明細書において開示されたワクチン組成物の使用であって、該ワクチン組成物が、本明細書において開示された1種以上のクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖を含む使用を含む。
【0140】
本出願の方法および使用は、例えば、ブタ、馬、牛、またはヒトなどを含む対象に対して適用可能である。
【0141】
本出願はさらに、クロストリジウム・ディフィシル感染症のための診断マーカーとしてのクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖の方法および使用も含む。例えば、クロストリジウム・ディフィシルのリボタイプ027は、一意的にPS-1を有するので、その細胞物質中のこの多糖の存在は、試料中にこのリボタイプが存在することを示し得る。該試料は、クロストリジウム・ディフィシルによる感染の疑いのあるヒトまたは動物対象あるいは食物もしくは水または他の物質に由来してもよい。
【0142】
したがって、本出願は、本明細書において開示された1種以上の単離された細胞表面多糖の存在について試料をアッセイする工程を含む、試験試料においてクロストリジウム・ディフィシルを検出する方法を含む。本出願はさらに、試験試料においてクロストリジウム・ディフィシルを検出するための、本明細書において開示された1種以上の単離された細胞表面多糖の使用を含む。
【0143】
本明細書において開示された1種以上の単離された細胞表面多糖の存在は、例えば、試料から当該多糖を単離し、化学分析を実施することによってアッセイすることにより、当該多糖中に存在する糖の同定を行うことができる。そのような化学分析は、(i)対応する酢酸アルジトールのGLC-MS、MS、およびNMR分光法の1つ以上を含み得る。
【0144】
上記の開示は、本発明を概括的に説明するものである。より完全な理解は、以下の特定の実施例を参照することによって得ることができる。これらの実施例は、単に例示目的で記載するものであって、本発明の範囲を限定することは意図していない。情況が好都合であることを示唆または示し得るような場合に、形態における変形および同等物による置き換えが想到される。本明細書において特定の用語を用いているが、このような用語は、説明を意図するものであって、限定を目的とするものではない。
【0145】
以下の非限定的な実施例は、本発明を例示するものである。
【0146】
IV.実施例
3つのC.ディフィシル菌株を調査のために選択した。リボタイプ027または北米パルソタイプ1(NAP1:North American pulsotype 1)と呼ばれる特定の一系統は、国際的な散発性および流行性の疾患の重要な原因として注目されるようになった。高罹患率、高死亡率、治療に対する低い反応性、および高再発率を有する深刻な大発生が報告されている。この系統は、3種の主要毒素:毒素A、毒素B、およびCDT(二元毒素)を産生する。調査下の他の菌株は、3つの毒素の2つだけ(毒素Aおよび毒素B)を発現しカナダにおいてより流行性であることが見出されたC.ディフィシルMOH900と、毒素Bをコードするが毒素AまたはCDTはコードしていない遺伝子を有する、あまり一般的でない毒素変異体であるC.ディフィシルMOH718である。
【0147】
クロストリジウム・ディフィシルは、細胞表面多糖によって食作用に抵抗する芽胞形成性細菌である。ワクチン開発を考慮すると、細胞表面のこの露出している炭水化物鎖を標的とすることは有益であることが判明され得る。したがって、複合糖質ワクチンを開発する試みにおいて、本出願は、その後の、例えば炭水化物ベースのワクチン製剤における使用のためのC.ディフィシル細胞表面多糖の単離および特性解析について説明する。
【0148】
材料および方法:
細菌増殖および多糖の単離:
C.ディフィシルに関連する疾患を患っている人から得たリボタイプ027分離株を研究に使用した。すべてのケースにおいて、細胞は、嫌気チャンバー内で、CDMN培養液(クロストリジウム・ディフィシル-モキサラクタム-ノルフロキサシン)中において37℃で24時間培養し、次いで、リン酸緩衝生理食塩水で洗浄し、遠心分離によって分離し、凍結乾燥した。細胞表面多糖は、2%酢酸処理によってペプチドグリカンから多糖を選択的に切断することによって、細菌細胞表面から単離した。多糖のPS-IおよびPS-IIは、水層から得て、多糖PS-IIIはペレット物質から得た。続いて、サイズ排除クロマトグラフィーおよびアニオン交換クロマトグラフィーによる精製工程も実施した。
【0149】
解析手法:
GLC-MSを用いて、酢酸アルジトールの形態における糖成分の特定を実施した(Sawardeker, J. S.; Sloneker, J. H.; Jeanes, A. Anal. Chem. 1965, 37(12), 1602-1604)。試料は、トリフルオロ酢酸で加水分解し、次いで、当該加水分解物を重水素化ホウ素ナトリウムで還元し、無水酢酸によってアセチル化した。次に、アセチル化された単糖誘導体をGLC-MSによって分析した。連鎖分析は、NaOH-DMSO-ヨウ化メチル手法によって実施し(Hakomori, S.; J. Biochem (Tokyo). 1964, 55, 205- 208; Lindberg, B.; Methods Enzymol. 1972, 28, 178-195)、上記と同様にGLC-MSによって分析した。多糖の脱リン酸化は、48% HF処理によって達成した(Kenne, L.; Lindberg, S.; Rahman, M.; Mosihuzzaman, M. Carb Res. 1993, 247,181-189)。
【0150】
質量分析:
マトリックスとしてシナピン酸を使用して、マトリクス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI-TOF-MS:matrix assisted laser desorption ionization-time of flight-mass spectrometry)を実施した。
【0151】
NMRスペクトル分析:
試料を重水によって重水素交換し、凍結乾燥して、600μLのD2Oに溶解した。スペクトルは、2D実験において標準的なパルス・シーケンスを使用し、298Kで記録した。
【0152】
ブタにおけるクロストリジウム・ディフィシルCSP接種の免疫原性:
地方養豚事業からの10頭の雌ブタを使用した。研究に用いたすべての雌ブタは健康であり、全身性疾患の兆候はなく、ワクチンまたは他の筋肉内注射に対する有害反応の経歴もなく、30日以内の下痢の病歴もなかった。ブタは、無作為に2つの群に分けた(それぞれ、n=5)。雌ブタは、分娩予定日から約30日のときに登録した。アジュバントを含まない生理食塩水に溶解させたC.ディフィシル細胞表面多糖PS-IおよびPS-IIの混合物(400ug/接種)を、群1のすべての雌ブタに筋肉投与した。群2の雌ブタは、対照として生理食塩水だけを注入した。すべての雌ブタに、1日目(最初の接種)に1度接種し、8日目(2回目接種)に再び接種した。接種部位を記録した。1日目に、全ての血液(10ml)を眼窩下洞から採取した。雌ブタは、最初の4時間は1時間毎に、次いで1日2回モニタリングし、全体的な様子、姿勢、食欲、小便、排便、体温、脈、および呼吸速度を記録した。注射部位の炎症の兆候(腫れ、触診での痛み)を評価した。再び8日目と15日目に採血を繰り返した。1日目、8日目、および15日目からの血清において、PS-IおよびPS-IIに対して特異的な免疫グロブリンM(IgM:Immunoglobulin M)をドットブロット分析によって分析した。カンピロバクター・コリ(Campylobacter coli)の全細胞調製物をドットブロット試験における陽性対照として使用し、BSAを陰性対照として使用した。ポリビニリデンジフルオライド(PVDF:polyvinyldine difluoride)膜においてHRP結合IgMを用い、PS-IIに対しては1:5000希釈で、PS-I/PS-IIの混合物に対しては1:100希釈でドットブロット分析を実施した。
【0153】
結果:
C.ディフィシルのリボタイプ027から単離された水性多糖調製物を、サイズ排除クロマトグラフィーに供した。溶出プロフィールは、早期に溶出した画分と後で溶出した画分とが明確に異なっていることを示した。初期の画分(PS-I)の1つに対して実施した単糖組成分析では、ラムノース残基およびグルコース残基の存在が明らかになり、後の画分(PS-II)に対して実施した同じ分析では、主にマンノース残基およびN-アセチル-ガラクトサミン残基が示された。C.ディフィシルMOH900およびMOH718から単離された水性多糖調製物は、多糖PS-IIしか含まないことがわかった。
【0154】
PS-Iに存在することが特定された主要な結合タイプは、末端Rha[Rha-(1→]、2-一置換Glc[→2)-Glc-(1→]、および3-一置換Glc[→3)-Glc-(1→]、および3,4-二置換Glc[→3,4)-Glc-(1→]である。極微量の4-一置換Rha[→4)-Rha-(1→]も確認された。2-(S)-および2-(R)-ブチルキラルグリコシドの分析により、GlcはD-エナンチオメリック立体配置を有し、RhaはL-エナンチオメリック立体配置を有することが明らかになった。
【0155】
PS-IIにおいて実施した単糖組成分析により、Glc、マンノース(Man)、およびN-アセチル-ガラクトサミン(GalNAc)の存在が示されたが、少量のRhaも、PS-IIにおいて検出された。すべてのユニットが、D-エナンチオメリック立体配置を有することが確認された。PS-IIにおいて実施した糖結合タイプの分析では、多くの様々に結合した単糖ユニットが示された。PS-IIに存在することが特定された主な結合タイプは、主なユニットとして、末端Glc、4-一置換Glc、3-一置換Man、3-置換GalNAc、および3,4-二置換GalNAcであった。4-一置換Glc残基との同時溶離では、PS-IIにおいて6-一置換Glcにおいて特徴的な極微量のm/zイオン(m/z 189)も検出された。さらに、PS-Iに存在することが確認された少量の結合タイプも、PS-IIの結合タイプの分析において検出された。図1は、C.ディフィシルMOH900から得られた多糖PS-IIの糖結合タイプを示している。
【0156】
C.ディフィシルのリボタイプ027の水性調製物の陰イオン交換クロマトグラフィーによる精製でも、2つの異なる多糖(PS-IおよびPS-II)が得られた。PS-IおよびPS-IIの1H-NMRスペクトル(図2Aおよび2B)では、PS-Iについての5つのアノマー性シグナル(A〜Eに指定)およびPS-IIについての6つのシグナル(A〜Fに指定)が示された。C.ディフィシルMOH900およびMOH718細胞から単離された多糖PS-IIでも、リボタイプ027のPS-IIと同一の1H-NMRスペクトルが得られた。
【0157】
さらに2次元NMR実験では、同一核(1H)および異核(1H、13C、および31P)の両方を用いて、PS-I(図3)およびPS-IIの配列を明らかにした。2Dの1H-1H COSY、TOCSY、および1H-13C HSQC実験により、PS-IおよびPS-IIに存在するそれぞれのユニットの環プロトンおよび炭素の大部分の割り当てが可能となった。単糖残基の配列の特定は、1H-13C HMBCおよび1H-1H NOESY(図3)実験によって可能となり、それによって、PS-Iにおけるグリコシル結合の割り当てが可能となった。PS-Iにおいて実施した2Dの1H-1H NOESY(図3)では、[α-Rha-(1→3)-α-Glc-(1→]については末端αRha(B)のH-1(δH 5.23)と分岐した3,4-置換αGlc(D)のH-3(δH 4.01)との間、[→4)-αRha-(1→3)-βGlc-(1→]については4-置換αRha(C)のH-1(δH 5.17)と3-置換βGlc(E)のH-3(δH 3.62)との間、[→3/4)-αGlc-(1→2)-αGlc-(1→]については分岐した3,4-置換αGlc(D)のH-1(δH 5.13)と2-置換βGlc(A)のH-2(δH 3.68)との間、および[→3)-βGlc-(1→4)-αGlc-(1→]については3-置換αGlc(E)のH-1(δH 4.53)と分岐した3,4-置換αGlc(D)のH-4(δH 3.86)との間のnOe間の結合性(図3の下に図式的に示されている)が明らかになった。その多くがnOe間の結合性から生じている、他の空間相互作用も、2Dの1H-1H NOESY実験によって検出されたが、特記すべきものとしては、分岐した3,4-置換αGlc(D;δH 5.13)のアノメリックプロトンと2-置換αGlc(A;δH 5.75)のアノメリックプロトンとの間のnOe間相互作用により、これら2つのαGlcユニット[→3/4)-αGlc-(1→2)-αGlc-(1→]間の(1→2)グリコシド結合におけるこれら2つのプロトンの近接性が明らかとなった。PS-Iにおいて検出された相関関係は、
[α-Glc-(1→2)-α-Glc]についてはH-1(D)/C-2(A)
[β-Glc-(1→4)-α-Glc]についてはH-1(E)/C-4(D)
[α-Rha-(1→3)-β-Glc]についてはH-1(C)/C-3(E)
[α-Rha-(1→3)-α-Glc]についてはH-1(B)/C-3(D)
である。1H-31P HMBC実験(図4)から、-0.78ppmでの31Pシグナルと、以下の配列:
...→2)-α-Glc-(1→P→4)-α-Rha-(1→...
の、PS-IのA(2-置換α-Glc)のH-1およびPS-1のC(4-置換α-Rha)のH-4との間の1H-31P相関関係を得た。GC‐MS分析およびNMRスペクトル実験から得られた結果から、C.ディフィシルのリボタイプ027であるPS-Iは、ペンタグリコシルホスフェートの繰り返しブロック:

で構成されていることが明らかとなった。PS-IIについて実施した31P-NMR実験から、それが、モノエステルホスフェート成分を有することも明らかとなった(より高いpHでの化学シフトに変化は無い)。PS-IIの1Dの31P-NMRスペクトルは、δP-1.67ppmに共鳴を示した。PS-IIの1H-NMR(図2B)では、PS-IIに存在する結合タイプの数と一致する6つのアノメリック共鳴が得られた。PS-Iの場合と同様に、単糖残基の配列の特定は、2次元NMR実験によって可能となり、これは、以下の配列:
[β-GalNAc-(1→3)-α-Man]についてはH-1(C)/C-3(A)
[α-Glc-(1→4)-β-GalNAc]についてはH-1(B)/C-4(C)
[β-GalNAc-(1→4)-α-Glc]についてはH-1(D)/C-4(B)
[β-Glc-(1→3)-β-GalNAc]についてはH-1(E)/C-3(D)
[β-Glc-(1→3)-α-GalNAc]についてはH-1(F)/C-3(C)
を明らかにした。1H-31P HMBC実験(図4)から、-1.67ppmでの31Pシグナルが、以下の配列:
...3)-α-Man-(1→P→6)-β-Glc-(1→...
の、PS-IIのA(3-置換α-Man)のH-1とPS-IIのE(6-置換β-Glc)のH-6およびH-6'との相関関係を示すことが示された。まとめると、GC‐MS分析およびNMRスペクトル実験から得られた結果から、C.ディフィシルのリボタイプ027のPS-IIは、ヘキサグリコシルホスフェートの繰り返しブロック:

で構成されていることが明らかとなった。
【0158】
マトリクス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)実験を用いて、多糖の分子量を同定した。脱リン酸化した多糖試料から得られたm/zフラグメントにより、PS-IIのオリゴ糖ユニットの分子量が1,054Daであることが特定された(図5)。これは、NMRおよびGC-MS実験によって得られたデータと一致している。MALDI-MSデータ(図5)によっても、いくつかの例において、PS-IIのオリゴ糖の繰り返しブロックがさらなるヘキソースユニットを含み得るという事実が指摘された。
【0159】
C.ディフィシルMOH900およびMOH718由来のPS-IIの分析は、それらが、C.ディフィシルのリボタイプ027のPS-IIと構造的に同一であることを示している。
【0160】
ペレット物質から得られた多糖PS-IIIの化学的なGC-MSおよびNMR分析から、これが、グリセロール、グルコース、N-アセチル-グルコサミン、およびアルジトールホスフェートで構成されることが観察された(図7)。
【0161】
ドットブロット血清学的分析により、予防接種をされた5頭のブタは、C.ディフィシルのPS-IIに対してのみ、およびPS-I/PS-IIの混合物に対しても特異的なIgM抗体を生じているということが明らかとなった(図8)。当該データは、反復接種により、PS-IおよびPS-I/PS-IIに対する特異的なIgMが増加することを示しており、ならびに8日目と15日目に、特にPS-IIに対して強い免疫原性が観察された。有害反応は全く認められず、これらのC.ディフィシルのPS-I/PS-II細胞表面多糖を接種することの安全性が確認された。
【0162】
考察および結論:
MSおよびNMR分析実験との組み合わせによる化学処理により、PS-IおよびPS-IIの共有結合性化学構造ならびにPS-IIIの組成を確認した。PS-I(図6A)は、グリコシルホスフェート(P)、ラムノース(Rha)、およびグルコース(Glc)で構成される、分岐したペンタグリコシルホスフェート繰り返しユニット:

から成ることが見出された。
【0163】
PS-IIの化学構造(図6B)は、グルコース、マンノース(Man)、およびN-アセチル-ガラクトサミン(GalNAc)、ならびにグリコシルホスフェートで構成される、分岐したヘキサグリコシルホスフェート繰り返しユニット:

で構成されることが確認された。
【0164】
これらの知見より、C.ディフィシルの多糖PS-IIが、ここで調査したすべてのC.ディフィシル菌株によって発現されるということが明らかになった。
【0165】
ここに提示された構造解析の結果は、最初の報告が、C.ディフィシル細胞表面多糖の共有結合性化学構造を説明するものであり、ワクチン製剤のための基礎となり得ることを表している。
【0166】
これら新規の結果は、最初の報告が、C.ディフィシル多糖の詳細な化学組成を説明していることを表している。ここで、C.ディフィシルリボタイプ027は、少なくとも2つの構造的に可変性の細胞表面多糖(PS-IおよびPS-II)を発現し、それぞれが、いくつかの結合タイプによってさまざまな単糖で構成されていることが示された。C.ディフィシルMOH900およびMOH718は、リボタイプ027のPS-IIに構造的に類似していることが示されている多糖の1つのタイプだけを発現することが見出された。
【0167】
C.ディフィシルの細胞表面多糖PS-IおよびPS-IIは、ブタにおいて免疫原性(IgM)であることが示された(図8)。PS-IIは、高度に免疫原性であり、PS-I/PS-IIの混合物も免疫原性であるが、その程度は比較的低かった。
【0168】
精製したクロストリジウム・ディフィシル細胞表面多糖はワクチンとして使用され、および/またはグリコシル鎖は担体分子にカップリングさせて、免疫的に活性な複合多糖ワクチンを形成する。次には、動物モデルを伴う免疫学的研究に合成ワクチンが使用されるだろう。
【0169】
IV.コンジュゲートの調製の想定例
本願で開示されたPS-I、II、およびIIIを含むC.ディフィシル細胞表面多糖は、C.ディフィシル感染症を治療もしくは予防するための、またはC.ディフィシルに対する免疫反応を誘発するための複合多糖ワクチンを得るために、当技術分野において公知のカップリング技術を用いて、例えばCRM197および/または破傷風トキソイドなどの安定した担体タンパク質にカップリングさせてもよい。
【0170】
現在好ましい実施例であると考えられるものを参照して本発明について説明したが、本発明は、開示された実施例に限定されるものではないことは、理解されるべきである。それとは反対に、本発明は、添付された特許請求範囲の趣旨と範囲内に含まれる様々な変更および同等な修正を包含することが意図される。
【0171】
すべての刊行物、特許、および特許出願は、各個別の刊行物、特許、または特許出願が、具体的かつ個別に、その全体が参照により組み込まれることが示されるのと同程度に、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された免疫原性クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)細胞表面多糖。
【請求項2】
式(I)の五糖繰り返しユニットを含む、請求項1記載の細胞表面多糖:

式中、Rhaはラムノースであり、Pはグリコシルホスフェートであり、Glcはグルコースまたはその免疫原性断片である。
【請求項3】
式(PS-I)の化合物である、請求項1または2記載の細胞表面多糖:

式中、nは1〜1000の整数であり、Rhaはラムノースであり、Pはグリコシルホスフェートであり、Glcはグルコースまたはその免疫原性断片である。
【請求項4】
ラムノースおよびグルコースが、ピラノース立体配置で存在している、請求項2または3記載の細胞表面多糖。
【請求項5】
nが1〜100の整数である、請求項3記載の細胞表面多糖。
【請求項6】
nが2〜100の整数である、請求項3記載の細胞表面多糖。
【請求項7】
nが25〜100の整数である、請求項3記載の細胞表面多糖。
【請求項8】
式(II)の六糖繰り返しユニットを含む、請求項1記載の細胞表面多糖:

式中、Glcはグルコースであり、GalNAcはN-アセチル-ガラクトサミンであり、Pはグリコシルホスフェートであり、Manはマンノースまたはその免疫原性断片である。
【請求項9】
式(PS-II)の化合物である、請求項1または8記載の細胞表面多糖:

式中、nは1〜1000の整数であり、Glcはグルコースであり、GalNAcはN-アセチル-ガラクトサミンであり、Pはグリコシルホスフェートであり、Manはマンノースまたはその免疫原性断片である。
【請求項10】
グルコース、N-アセチル-ガラクトサミン、およびマンノースが、ピラノース立体配座で存在する、請求項8または9記載の細胞表面多糖。
【請求項11】
nが1〜100の整数である、請求項9記載の細胞表面多糖。
【請求項12】
nが2〜100の整数である、請求項9記載の細胞表面多糖。
【請求項13】
nが25〜100の整数である、請求項9記載の細胞表面多糖。
【請求項14】
その共有結合性化学構造内にグリセロール、アルジトールホスフェート、グルコース、およびN-アセチル-グルコサミンを含む、請求項1記載の細胞表面多糖。
【請求項15】
多糖が担体分子に結合している、請求項1〜14のいずれか一項記載の細胞表面多糖。
【請求項16】
担体分子が、BSA、CRM197、MIEP、ジフテリアトキソイド、破傷風(Tetanus)トキソイド、またはボルデテラ(Bordetella)に由来するタンパク質である、請求項15記載の細胞表面多糖。
【請求項17】
好適な培地でクロストリジウム・ディフィシル細菌を増殖させ、当該培地から細菌細胞を分離し、細胞表面物質から多糖を切断する条件下において、穏和な酸性処理によって細胞表面多糖を抽出し、抽出された細胞表面多糖を精製することにより得られた、請求項1記載の細胞表面多糖。
【請求項18】
(a)請求項2〜7のいずれか一項において定義した多糖、または
(b)請求項8〜13のいずれか一項において定義した多糖、または
(c)請求項14において定義した多糖
の少なくとも2つを含む細胞表面多糖混合物であって、任意の組み合わせで、(a)、(b)、または(c)の細胞表面多糖のうちの少なくとも2つを含有する、細胞表面多糖混合物。
【請求項19】
請求項2〜7のいずれか一項において定義した多糖および請求項8〜13のいずれか一項において定義した多糖を含む、請求項18記載の細胞表面多糖混合物。
【請求項20】
1種以上の多糖が、担体分子に結合されている、請求項18または19記載の細胞表面多糖混合物。
【請求項21】
担体分子が、BSA、CRM197、MIEP、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、またはボルデテラに由来するタンパク質である、請求項20記載の細胞表面多糖混合物。
【請求項22】
請求項1〜17のいずれか一項記載の細胞表面多糖ならびに薬学的に許容される賦形剤、担体、緩衝液、安定化剤、またはそれらの混合物を含む、免疫原性組成物。
【請求項23】
請求項18〜21のいずれか一項記載の細胞表面多糖混合物ならびに薬学的に許容される賦形剤、担体、緩衝液、安定化剤、またはそれらの混合物を含む、免疫原性組成物混合物。
【請求項24】
アジュバントなどの免疫刺激成分をさらに含む、請求項22または23記載の免疫原性組成物。
【請求項25】
請求項1〜17のいずれか一項記載の細胞表面多糖ならびに薬学的に許容される賦形剤、担体、緩衝液、安定化剤、またはそれらの混合物を含む、ワクチン組成物。
【請求項26】
請求項18〜21のいずれか一項記載の細胞表面多糖混合物ならびに薬学的に許容される賦形剤、担体、緩衝液、安定化剤、またはそれらの混合物を含む、ワクチン組成物混合物。
【請求項27】
アジュバントなどの免疫刺激成分をさらに含む、請求項25または26記載のワクチン組成物。
【請求項28】
請求項1〜17のいずれか一項記載の細胞表面多糖、または請求項18〜21のいずれか一項記載の細胞表面多糖混合物、または請求項22〜24記載の免疫原性組成物、または請求項25〜27のいずれか一項記載のワクチン組成物、ならびにこれらを使用するための取扱説明書を含むキット。
【請求項29】
対象においてクロストリジウム・ディフィシルに対する免疫反応を誘発する方法であって、請求項1〜17のいずれか一項記載の細胞表面多糖または請求項18〜21のいずれか一項記載の細胞表面多糖混合物の有効量を前記対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項30】
対象においてクロストリジウム・ディフィシル感染症を治療または予防する方法であって、請求項1〜17のいずれか一項記載の細胞表面多糖または請求項18〜21のいずれか一項記載の細胞表面多糖混合物の有効量を前記対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項31】
対象においてクロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢を治療または予防する方法であって、請求項1〜17のいずれか一項記載の細胞表面多糖または請求項18〜21のいずれか一項記載の細胞表面多糖混合物の有効量を前記対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項32】
対象においてクロストリジウム・ディフィシルに対する免疫反応を誘発する方法であって、請求項22〜24のいずれか一項記載の免疫原性組成物の有効量を前記対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項33】
対象においてクロストリジウム・ディフィシル感染症を治療または予防する方法であって、請求項22〜24のいずれか一項記載の免疫原性組成物の有効量を前記対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項34】
対象においてクロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢を治療または予防する方法であって、請求項22〜24のいずれか一項記載の免疫原性組成物の有効量を前記対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項35】
対象においてクロストリジウム・ディフィシルに対する免疫反応を誘発する方法であって、請求項25〜27のいずれか一項記載のワクチン組成物の有効量を前記対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項36】
対象においてクロストリジウム・ディフィシル感染症を治療または予防する方法であって、請求項25〜27のいずれか一項記載のワクチン組成物の有効量を前記対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項37】
対象においてクロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢を治療または予防する方法であって、請求項25〜27のいずれか一項記載のワクチン組成物の有効量を前記対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項38】
対象においてクロストリジウム・ディフィシルに対する免疫反応を誘発するための、請求項1〜17のいずれか一項記載の細胞表面多糖または請求項18〜21のいずれか一項記載の細胞表面多糖混合物の使用。
【請求項39】
対象においてクロストリジウム・ディフィシルに対する免疫反応を誘発するための医薬を製造するための、請求項1〜17のいずれか一項記載の細胞表面多糖または請求項18〜21のいずれか一項記載の細胞表面多糖混合物の使用。
【請求項40】
対象においてクロストリジウム・ディフィシル感染症を治療または予防するための、請求項1〜17のいずれか一項記載の細胞表面多糖または請求項18〜21のいずれか一項記載の細胞表面多糖混合物の使用。
【請求項41】
対象においてクロストリジウム・ディフィシル感染症を治療または予防するための医薬を製造するための、請求項1〜17のいずれか一項記載の細胞表面多糖または請求項18〜21のいずれか一項記載の細胞表面多糖混合物の使用。
【請求項42】
対象においてクロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢を治療または予防するための、請求項1〜17のいずれか一項記載の細胞表面多糖または請求項18〜21のいずれか一項記載の細胞表面多糖混合物の使用。
【請求項43】
対象においてクロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢を治療または予防する医薬を製造するための、請求項1〜17のいずれか一項記載の細胞表面多糖または請求項18〜21のいずれか一項記載の細胞表面多糖混合物の使用。
【請求項44】
対象においてクロストリジウム・ディフィシルに対する免疫反応を誘発するための、請求項22〜24のいずれか一項記載の免疫原性組成物の使用。
【請求項45】
対象においてクロストリジウム・ディフィシルに対する免疫反応を誘発するための医薬を製造するための、請求項22〜24のいずれか一項記載の免疫原性組成物の使用。
【請求項46】
対象においてクロストリジウム・ディフィシル感染症を治療または予防するための、請求項22〜24のいずれか一項記載の免疫原性組成物の使用。
【請求項47】
対象においてクロストリジウム・ディフィシル感染症を治療または予防するための医薬を製造するための、請求項22〜24のいずれか一項記載の免疫原性組成物の使用。
【請求項48】
対象においてクロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢を治療または予防するための、請求項22〜24のいずれか一項記載の免疫原性組成物の使用。
【請求項49】
対象においてクロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢を治療または予防するための医薬を製造するための、請求項22〜24のいずれか一項記載の免疫原性組成物の使用。
【請求項50】
対象においてクロストリジウム・ディフィシルに対する免疫反応を誘発するための、請求項25〜27のいずれか一項記載のワクチン組成物の使用。
【請求項51】
対象においてクロストリジウム・ディフィシルに対する免疫反応を誘発する医薬を製造するための、請求項25〜27のいずれか一項記載のワクチン組成物の使用。
【請求項52】
対象においてクロストリジウム・ディフィシル感染症を治療または予防するための、請求項25〜27のいずれか一項記載のワクチン組成物の使用。
【請求項53】
対象においてクロストリジウム・ディフィシル感染症を治療または予防するための医薬を製造するための、請求項25〜27のいずれか一項記載のワクチン組成物の使用。
【請求項54】
対象においてクロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢を治療または予防するための、請求項25〜27のいずれか一項記載のワクチン組成物の使用。
【請求項55】
対象においてクロストリジウム・ディフィシルに関連する下痢を治療または予防するための医薬を製造するための、請求項25〜27のいずれか一項記載のワクチン組成物の使用。
【請求項56】
対象が、ブタ、馬、牛、またはヒトである、請求項29〜37のいずれか一項記載の方法。
【請求項57】
対象が、ブタ、馬、牛、またはヒトである、請求項38〜55のいずれか一項記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−539256(P2010−539256A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524314(P2010−524314)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際出願番号】PCT/CA2008/001593
【国際公開番号】WO2009/033268
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(510066927)ユニバーシティ オブ グェルフ (1)
【Fターム(参考)】