説明

クロスヘッド軸受

【課題】 高い油膜特性を維持しつつ負荷能力をより向上させたクロスヘッド軸受を提供する。
【解決手段】 油溝10の両側方に軸受内面から油溝10に向けて、底辺19bが下り傾斜する傾斜面で上辺19aが軸受内面となる多数の細溝19を所定のピッチPで形成することにより、細溝の上辺19aである軸受内面で軸が支持されるため、ランド部(受圧面)の減少を抑制することができ、これによってクロスヘッド軸受6の負荷能力の向上を図ることができる。また、細溝19は、底辺19bが下り傾斜する傾斜面となっているので、傾斜面のくさび作用により、厚い油膜が形成され油膜の交換性が向上して油温の上昇が抑制されるため、焼付きを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型2サイクルディーゼル機関のコネクティングロッドの上端に設けられてピストンロッドの下端に固定される軸を揺動自在に軸支すると共に、その軸受面に油膜交換を促進させるための油溝が軸方向で複数形成されるクロスヘッド軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大型2サイクルディーゼル機関に用いられるクロスヘッド軸受は常に下向きの高い荷重を受けながら低速で揺動運動を行なうため、軸受面に形成される油膜が極めて薄く潤滑状態が過酷なすべり軸受であり、負荷能力の向上が重要な課題となっている。一般的に、クロスヘッド軸受の軸受すき間比を小さくして、中央あて角120〜150°の範囲で軸受すき間比をゼロとした接触軸受構造に近づけると、軸受全面で大きなスクイズ作用が得られ負荷能力の向上に有利となる。しかしながら、軸受すき間比を小さくすると油膜のくさび作用が弱まり、油膜厚さが減少する、即ち、油膜特性が低下するという欠点がある。
【0003】
一方、クロスヘッド軸受には、油膜交換を促進させる目的から荷重側軸受面に多数の油溝が軸方向で設けられており、軸受すき間比が小さい軸受でも油溝の両側方にくさび形状のテーパ面を設けることにより、油膜のくさび作用が増大して油膜特性を改善することができる。このように油溝の両側方にテーパ面を設けることにより油膜特性を改善した例は、非特許文献1(社団法人日本機械学会編「日本機械学会論文集C編第69巻第681号
pp.1404〜1409」2003年5月25日発行、発行所:社団法人日本機械学会)に記載されている。
【非特許文献1】日本機械学会論文集C編69巻681号 pp.1404〜1409
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した非特許文献1のように、油溝の両側方にテーパ面を設けることにより油膜特性の向上を図ることができるものの、テーパ面により軸の荷重を支えるランド面(受圧面)が減少するため、クロスヘッド軸受の十分な負荷能力の向上を得られるものではなかった。本発明は、上記した事情に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、高い油膜特性を維持しつつ負荷能力をより向上させたクロスヘッド軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した目的を達成するために、請求項1に係る発明においては、大型2サイクルディーゼル機関のコネクティングロッドの上端に設けられてピストンロッドの下端に固定される軸を揺動自在に軸支すると共に、その軸受面に油膜交換を促進させるための油溝が軸方向で複数形成されるクロスヘッド軸受において、前記油溝の両側方に前記軸受内面から前記油溝に向けて、底辺が下り傾斜する傾斜面で上辺が前記軸受内面となる多数の細溝を所定のピッチで形成したことを特徴とする。
【0006】
また、請求項2に係る発明においては、請求項1に記載のクロスヘッド軸受において、前記細溝のピッチを、0.1〜1.0mmで形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る発明においては、油溝の両側方に軸受内面から油溝に向けて、底辺が下り傾斜する傾斜面で上辺が軸受内面となる多数の細溝を所定のピッチで形成することにより、細溝の上辺である軸受内面で軸が支持されるため、ランド部(受圧面)の減少を抑制することができ、これによってクロスヘッド軸受の負荷能力の向上を図ることができる。また、細溝は、底辺が下り傾斜する傾斜面となっているので、傾斜面のくさび作用により、厚い油膜が形成され油膜の交換性が向上して油温の上昇が抑制されるため、軸の焼付きを防止することができる。
【0008】
また、請求項2に係る発明においては、細溝のピッチを、0.1〜1.0mmで形成したことにより、クロスヘッド軸受の負荷能力をより向上させることができる。細溝のピッチが0.1mm未満では、軸のランド部(受圧面)が減少して充分な負荷能力の向上を図ることができず、また、細溝のピッチが1mmを超えると細溝の上辺における受圧面での油膜の形成が途切れる現象が発生し易くなり、場合によって軸の焼付きが発生する場合がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、大型2サイクルディーゼル機関の1つのピストン3に対応するクロスヘッド機構1を示す概略図であり、図2は、クロスヘッド機構1に使用されるクロスヘッド軸受6の平面図(A)と、該平面図のA−A線で切断した断面図(B)である。
【0010】
図1において、大型2サイクルディーゼル機関のクロスヘッド機構1は、シリンダ2内を摺動するピストン3のピストンロッド4の下端に固定される軸5を揺動自在に軸支するものであり、軸5と摺動する軸受面にホワイトメタル等の軸受合金層が形成されるクロスヘッド軸受6とこれを介挿する軸受ハウジング7を有している。そして、クロスヘッド機構1は、その下端がクランク軸9に回転自在に軸支されるコネクティングロッド8の上端に形成されている。
【0011】
上記のように構成される大型2サイクルディーゼル機関においては、ピストン3の上下運動をコネクティングロッド8を介してクランク軸9の回転運動に変換するようになっている。そして、クロスヘッド機構1においては、特に下方の軸受ハウジング7に固定される下方のクロスヘッド軸受6に対し常に下向きに荷重が作用すると共にコネクティングロッド8の揺動運動も作用する。このため、クロスヘッド軸受6の軸受面への負荷が大きく、また軸受面に形成される油膜が極めて薄く潤滑状態が苛酷なすべり軸受である。
【0012】
このような負荷が大きく且つ潤滑状態が苛酷なクロスヘッド軸受6では、油膜厚さを増大させる方策を検討する必要があると共に、極めて大きな負荷を受ける軸受面の負荷能力の向上を図る必要もある。そこで、本発明の実施形態に係るクロスヘッド軸受6を用いることにより、負荷能力の向上と油膜形成の容易性が達成できるものである。
【0013】
図2にクロスヘッド軸受6の構造を示す。このクロスヘッド軸受6には、その軸受面に油を供給するための油溝が4箇所形成されている。この油溝のうちの2つは、クロスヘッド軸受6の縦中心線を挟んで左右対称に位置する中央油溝10として形成されるものであり、この2つの中央油溝10は、それぞれの縦中心線のなす角度がα(40〜60°が望ましい)となる位置に形成されている。そして、この2つの中央油溝10の縦中心線のなす角度αが中央油溝ピッチ角を表している。また、2つの中央油溝10のクロスヘッド軸受6の両外側には、端部油溝15がそれぞれ形成されている。この端部油溝15は、中央油溝10の縦中心線と端部油溝15の縦中心線のなす角度がβ(40〜30°が望ましい)となる位置に形成されている。そして、この角度βが端部油溝ピッチ角を表している。
【0014】
また、上記した中央油溝10及び端部油溝15には、それぞれ中央油穴11及び端部油穴16が形成されており、この中央油穴11及び端部油穴16から軸5とクロスヘッド軸受6との間に潤滑油が供給されるようになっている。
【0015】
上記した4つの油溝のうち両側方に位置する2つの端部油溝15の縦中心線のなす角度は、図2に示すように、α+2β(120°前後)で表されることとなるが、このα+2βが軸5とクロスヘッド軸受6とが接触する範囲である中央あて角を表している。また、クロスヘッド軸受6の軸受面のうち、2つの中央油溝10によって挟まれる範囲が軸受中央ランド部12として形成されると共に、中央油溝10と端部油溝15とによって挟まれる範囲が軸受端部ランド部17として形成されている。なお、クロスヘッド軸受6の軸受合金はアルミニウム合金(例えば、Al−40質量%Sn)を用いた。
【0016】
また、上記した中央油溝10及び端部油溝15の両側方に、軸受内面である軸受中央ランド部12及び軸受端部ランド部17から油溝10,15に向けて、底辺19bが下り傾斜する傾斜面で上辺が軸受内面となる多数の細溝19が所定のピッチで形成されている。そこで、図3を参照して上記した細溝19の構成をより詳細に説明する。図3は、図2(A)のB−B線で切断した断面図(A)と、該断面図(A)のC−C線で切断した断面図(B)である。
【0017】
各油溝10,15は、図3(A)で示すように、底部が半円形状に形成され、その上両側が多数の細溝が形成される細溝部19となっている。細溝部19の細溝は、図3(A)に示すように、底辺19bが下り傾斜する傾斜面で上辺が軸受内面となっており、その細溝のピッチPは、0.1mm〜1.0mmに設定される。細溝のピッチPが0.1mm未満では、軸のランド部(受圧面)が減少して充分な負荷能力の向上を図ることができず、また、細溝のピッチPが1mmを超えると細溝の上辺19aにおける受圧面での油膜の形成が途切れる現象が発生し易くなり、場合によって軸の焼付きが発生する場合がある。
【0018】
なお、この細溝部19は、ボーリング加工によって形成されるものであるが、そのテーパ幅角Lは、底辺19bの一端とクロスヘッド軸受6の軸受中心とを結ぶ線と、底辺19bの他端とクロスヘッド軸受6の軸受中心とを結ぶ線と、がなす角度で表され、そのテーパ幅角L=1〜10°となるように加工され、さらに底辺19bの傾斜角度であるテーパ角γは、底辺19bと油溝10の縦中心線の垂線と、がなす角度で表され、そのテーパ角γ=0.1〜2°となるように加工される。
【0019】
次ぎに、上記のように構成されるクロスヘッド軸受6を図4に示す軸受試験機30で試験した試験結果について説明する。図4は、軸受試験機30の概略構成を示すもので、試験軸31が、クランク機構(図示しない)により揺動運動を行う。その揺動運動を行なう試験軸31の上方には、試験軸31と当接する支持軸受33を有する支持軸受ハウジング32が配置され、その支軸軸受ハウジング32を介して油圧ラム(図示しない)によって変動荷重が与えられる。また、試験軸31の下方には、本実施態様におけるクロスヘッド軸受6と同じ構造を有する試験軸受34が支持台35に固定されるようになっている。上記した支持軸受33及び試験軸受34には、給油通路36を介して潤滑油が供給されるようになっている。ただし、本実験結果を得るために使用された軸受試験機30の試験軸受34に負荷できる最大面圧は、140MPaとなっている。
【0020】
上記した軸受試験機30にて、本実施形態に係るクロスヘッド軸受6に係る実施品と、細溝部19の代わりに、細溝部19の位置に浅いテーパ面を有する二次溝(本実施形態と比較して、上辺19aが存在せず、テーパ状の底辺19bだけからなるテーパ面が油溝10,15の両側方に形成されたもの)を形成した軸受である比較品と、で油圧ラムによる荷重を徐々に増加させたときに、どの大きさの軸受面圧で焼付きが発生したかを試験した試験結果が図5に示されている。なお、軸受試験機30における試験条件は、表1に示す通りである。即ち、試験軸受34の非焼付き性を評価する負荷限界試験は、軸材料としてS45Cからなりその軸粗さが最大軸粗さ平均0.8μmの試験軸31の揺動速度を300cpm、揺動角を±20°に各々設定し、さらに潤滑油として70℃のマリンオイルSS30を200cc/minで供給するように設定した後、軸受面圧のサイクル最大値Pwmaxを段階的に増大させ、軸受寸法「直径100mm×長さ40mm×厚さ5mm」の試験軸受34に焼付きが発生する限界軸受面圧を求める方法で実施した。試験中の試験軸受34の表面温度は、試験軸受34の中央部の表面から0.5mmの深さに埋め込んだ熱電対で測定したが、この表面温度が80℃以上に急上昇した場合に焼付き発生と判断した。
【0021】
【表1】

【0022】
図5に示すように、細溝部19を形成した試験軸受34は、本試験機30における最大軸受面圧(140MPa)をかけても、焼付が発生しなかった。これに対し、細溝部19に代えて浅いテーパ面を有する二次溝とした場合には、110MPaまでの軸受面圧に対しては焼付傾向が見られないが、110MPaの軸受面圧を超えたときに、表面温度が80℃以上に急上昇して焼付が発生した。このように、細溝部19を形成した試験軸受34において、高い軸受面圧でも焼付が発生しないのは、細溝の上辺19aである軸受内面で試験軸31が支持されるため、ランド部(受圧面)の減少を抑制することができ、これによって軸受34の負荷能力の向上を図ることができると共に、細溝の下り傾斜する傾斜面となっている底辺19bのくさび作用により、厚い油膜が形成され油膜の交換性が向上して油温の上昇が抑制されるため、焼付きを防止することができるからである。これに対し、比較品の浅いテーパ面を有する二次溝の場合には、大きな荷重によって二次溝の切り上がり部が試験軸31の外周と当接して油膜切れ現象を発生させ、くさび作用による油膜形成効果を減退させることにより焼付が発生すると考えられるからである。
【0023】
なお、上記した実施形態におけるクロスヘッド軸受6においては、クロスヘッド軸受6の軸受半径Rと、軸5の軸半径rとの関係について詳細に説明しなかったが、本実施形態に係るクロスヘッド機構1においては、前述した中央あて角の範囲で、軸受すきま比((R−r)/r)が「0.0001±0.0002」に設定されている。
【0024】
また、上記した実施形態では、クロスヘッド軸受に好適な一例について説明したが、本発明はこれに限るものではない。本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて各種設計変更は可能である。例えば、本発明の効果が大きい中央油溝10の両側方のみに本発明の細溝からなる二次溝を形成し、端部油溝15には本発明の細溝からなる二次溝を形成しない等の変更も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】大型2サイクルディーゼル機関の1つのピストンに対応するクロスヘッド機構を示す概略図である。
【図2】クロスヘッド機構に使用されるクロスヘッド軸受の平面図(A)と、該平面図のA−A線で切断した断面図(B)である。
【図3】図2(A)のB−B線で切断した断面図(A)と、該断面図のC−C線で切断した断面図(B)である。
【図4】軸受試験機の概略構成図である。
【図5】軸受試験機で試験した実施品と比較品との焼付試験結果を表すグラフである。
【符号の説明】
【0026】
1 クロスヘッド機構
4 ピストンロッド
5 軸
6 クロスヘッド軸受
8 コネクティングロッド
10 中央油溝
11 中央油穴
12 軸受中央ラウンド部
15 端部油溝
16 端部油穴
17 軸受端部ラウンド部
19 細溝部
19a 上辺
19b 底辺


【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型2サイクルディーゼル機関のコネクティングロッドの上端に設けられてピストンロッドの下端に固定される軸を揺動自在に軸支すると共に、その軸受面に油膜交換を促進させるための油溝が軸方向で複数形成されるクロスヘッド軸受において、
前記油溝の両側方に前記軸受内面から前記油溝に向けて、底辺が下り傾斜する傾斜面で上辺が前記軸受内面となる多数の細溝を所定のピッチで形成したことを特徴とするクロスヘッド軸受。
【請求項2】
前記細溝のピッチを、0.1〜1.0mmで形成したことを特徴とする請求項1記載のクロスヘッド軸受。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−327560(P2007−327560A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−159295(P2006−159295)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】