説明

クロック再生装置、クロック再生方法および制御プログラム

【課題】アダプティブクロック再生法を用いて同期を取っている時にパケット固定遅延を検出した場合でも、安定して送信端末と受信端末との同期を取る。
【解決手段】クロック再生装置10は、クロック出力手段50から受信したクロックに同期させてバッファ60からパケットを出力させると共に、バッファ60の蓄積量を計測して出力するバッファ制御手段20と、遅延の有無を監視し、遅延を検出した場合、遅延量を算出して出力する遅延検出手段30と、バッファ制御手段20から受信した蓄積量に基づいてクロック制御値を生成して出力すると共に、遅延検出手段30から遅延量を受信した場合、該遅延量に対応する期間、所定のクロック制御値を出力するクロック制御手段40と、クロック制御手段40から受信したクロック制御値に基づいてクロックを生成して出力するクロック出力手段50と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロック再生装置に関する。特に、TDM(Time Division Multiplexer)信号の送受信において、送受信装置間のクロック同期にアダプティブクロック再生法を用いるクロック再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
CESoPSN(Circuit Emulation Service over Packet Switched Network)やSAToP(Structure-Agnostic Time Division Multiplexing over Packet)を代表とするTDM信号を、パケット網において送受信する時に、送信端末と受信端末との間の同期を確立する手法の一つにアダプティブクロック再生法がある。アダプティブクロック再生法では、受信装置のバッファへの書込み速度と読出し速度とが一致するように、受信装置の基準クロックの周波数を調整する。受信装置のバッファへの書込み速度は送信装置の基準クロックの周波数に依存し、バッファからの読出し速度は受信装置の基準クロックの周波数に依存することから、書込み速度と読出し速度とを一致させることにより、送信端末と受信端末とを同期させることができる。
【0003】
アダプティブクロック再生法を用いて同期を得る方法について、図6を用いて説明する。読出し速度と書込み速度とが一致している状態を、図6(a)に示す。この場合、バッファ蓄積量は中心値付近で安定し、バッファへの書込み速度の基準となる送信側クロックと、バッファからの読出し速度の基準となる受信側クロックとは同期している。
【0004】
また、読出し速度が書込み速度よりも速い状態を図6(b)に示す。この場合、バッファ蓄積量は徐々に減少する。そして、バッファ蓄積量が下位閾値を下回った場合、受信装置の基準クロックの周波数を調整し、読出し速度を下げる。そして、受信装置のバッファへの書込み速度と読出し速度とが再び一致した時、受信装置の基準クロックの周波数と送受信装置間の基準クロックの周波数とが同期する。
【0005】
さらに、読出し速度が書込み速度よりも遅い状態を図6(c)に示す。この場合、バッファ蓄積量は徐々に増加する。そして、バッファ蓄積量が上位閾値を上回った場合、受信装置の基準クロックの周波数を調整し、読出し速度を上げる。そして、受信装置のバッファへの書込み速度と読出し速度とが再び一致した時、受信装置の基準クロックの周波数と送受信装置間の基準クロックの周波数とが同期する。
【0006】
アダプティブクロック再生法を用いて同期を得る技術は、例えば、特許文献1に開示されている。特許文献1では、バッファ蓄積量が上位閾値を上回った場合、通常よりも早い読出し速度を適用することにより、送信端末と受信端末とを同期させる。
【0007】
しかし、バッファ蓄積量は、IP(Internet Protocol)網におけるルートスイッチ等で生じるパケットの固定遅延によっても大きく変化する。この場合、受信装置の基準クロックの周波数と送受信装置間の基準クロックの周波数とが同期しているにも関わらず、受信装置の基準クロックの周波数は誤調整される。パケットの固定遅延に起因する受信装置の基準クロックの周波数の誤調整について、図7を用いて説明する。
【0008】
図7(a)において、時刻t1にパケット固定遅延がAms減少するパケットを受信することにより、バッファ蓄積量が固定遅延Amsに相当するデータ量分、増加する。すなわち、図7(b)において、バッファ蓄積量が中心値からAms増加する。
【0009】
アダプティブクロック再生法が適用された装置が、バッファ蓄積量から一定期間Ta単位に平均値を算出して該バッファ蓄積量の平均を周波数の調整に用いている場合、図7(c)に示すように、時刻t1を含む期間Ta3の平均値が適用される時刻t2(期間Ta4)の時に、バッファ蓄積量の平均値が増加する。バッファ蓄積量の平均値に基づいて受信装置の基準クロックの周波数を調整している場合、図7(d)に示すように、バッファ蓄積量の平均値が増加することにより、受信装置の基準クロックの周波数が誤調整される。
【0010】
そこで、パケット固定遅延に起因する基準クロックの周波数の誤調整を抑制する技術として、例えば、特許文献2には、パケット固定遅延が発生した場合、周波数を過度補正した後で一定に保ち、バッファ蓄積量が基準値まで戻った後、周波数を元に戻す技術が開示されている。また、特許文献3には、パケット固定遅延が発生した場合、バッファ蓄積量の中心値をパケット固定遅延に合わせて変更する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−49941号公報
【特許文献2】特開平7-46257号公報
【特許文献3】特開2002−344433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献2に開示されている技術を適用する場合、周波数が過度補正される期間は、送信端末と受信端末との同期を保つことが困難である。また、特許文献3に開示されている技術を適用する場合、短期間の間に基準となる中心値が複数回変更されることになり、制御が不安定になる場合がある。
【0013】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、アダプティブクロック再生法を用いて同期を取っている時にパケット固定遅延が発生した場合でも、安定して送信端末と受信端末との同期を取ることが可能なクロック再生装置、クロック再生方法および制御プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明に係るクロック再生装置は、クロック出力手段から受信したクロックに同期させてバッファからパケットを出力させると共に、バッファの蓄積量を計測して出力するバッファ制御手段と、遅延の有無を監視し、遅延を検出した場合、遅延量を算出して出力する遅延検出手段と、バッファ制御手段から受信した蓄積量に基づいてクロック制御値を生成して出力すると共に、遅延検出手段から遅延量を受信した場合、該遅延量に対応する期間、所定のクロック制御値を出力するクロック制御手段と、クロック制御手段から受信したクロック制御値に基づいてクロックを生成して出力するクロック出力手段と、を備える。
【0015】
上記目的を達成するために本発明に係るクロック再生方法は、バッファの蓄積量を計測して出力し、該出力された蓄積量に基づいてクロック制御値を生成して出力し、該出力されたクロック制御値に基づいてクロックを生成して出力し、該出力されたクロックに同期させてバッファからパケットを出力し、遅延の有無を監視し、遅延を検出した場合、遅延量を算出して出力し、該出力された遅延量に対応する期間は所定のクロック制御値を出力し、該所定のクロック制御値に基づいてクロックを生成して出力し、該出力されたクロックに同期させてバッファからパケットを出力する。
【0016】
上記目的を達成するために本発明に係る制御プログラムは、クロックに同期させてバッファからパケットを出力する装置のコンピュータが実行可能な制御プログラムであって、バッファの蓄積量を計測して出力し、該出力された蓄積量に基づいてクロック制御値を生成して出力し、該出力されたクロック制御値に基づいてクロックを生成して出力し、該出力されたクロックに同期させてバッファからパケットを出力する機能と、遅延の有無を監視し、遅延を検出した場合、遅延量を算出して出力し、該出力された遅延量に対応する期間は所定のクロック制御値を出力し、該所定のクロック制御値に基づいてクロックを生成して出力し、該出力されたクロックに同期させてバッファからパケットを出力する機能と、を装置のコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0017】
通常は、計測したバッファの蓄積量に基づいて生成したクロック制御値を用いてクロックを生成し、パケット固定遅延による影響がある期間は、所定のクロック制御値を用いてクロックを生成することにより、アダプティブクロック再生法を用いて同期を取っている時にパケット固定遅延が発生した場合でも、送信端末と受信端末との同期を安定して取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るクロック再生装置10のブロック図の一例である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るクロック再生装置100のブロック図の一例である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るクロック再生装置100の、(a)パケット固定遅延、(b)パケットの蓄積量、(c)第1の蓄積量平均値の、タイムチャートの一例である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るクロック再生装置100の、(a)パケット固定遅延、(b)パケットの蓄積量、(c)第1の蓄積量平均値、(d)第2の蓄積量平均値、(e)出力周波数の、タイムチャートの一例である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係るクロック再生装置200のブロック図の一例である。
【図6】アダプティブクロック再生法を説明するためのバッファの蓄積量の一例を示した図である。
【図7】アダプティブクロック再生法を説明するための、(a)パケット固定遅延、(b)パケットの蓄積量、(c)蓄積量平均値、(d)周波数調整値の、タイムチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係るクロック再生装置について説明する。本実施形態に係るクロック再生装置のブロック図の一例を図1に示す。図1において、本実施形態に係るクロック再生装置10は、バッファ制御手段20、遅延検出手段30、クロック制御手段40およびクロック出力手段50を備える。
【0020】
バッファ制御手段20は、クロック出力手段50から受信したクロックに同期させてバッファ60からパケットを出力させる。また、バッファ制御手段20は、バッファ60の蓄積量を計測して遅延検出手段30とクロック制御手段40とへ出力する。
【0021】
遅延検出手段30は、遅延の有無を監視し、遅延を検出した場合、遅延量を算出してクロック制御手段40へ出力する、
クロック制御手段40は、バッファ制御手段20から受信したバッファ60の蓄積量に基づいてクロック制御値を生成してクロック出力手段50へ出力する。また、クロック制御手段40は、遅延検出手段30から遅延量を受信した場合、該遅延量に対応する期間、所定のクロック制御値をクロック出力手段50へ出力する。
【0022】
クロック出力手段50は、クロック制御手段40から受信したクロック制御値に基づいてクロックを生成し、バッファ制御手段20へ出力する。
【0023】
遅延が発生した場合、該遅延量に対応する期間については、所定のクロック制御値に基づいてクロックが生成されることにより、送信端末と受信端末との同期を安定して取ることができる。
【0024】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係るクロック再生装置について説明する。本実施形態に係るクロック再生装置のブロック図の一例を図2に示す。図2において、本実施形態に係るクロック再生装置100は、バッファ制御部101、バッファ蓄積量観測部102、遅延変化検出部105、周波数制御部106および電圧制御発振器107を備える。
【0025】
バッファ制御部101は、バッファ110を備える。バッファ制御部101は、受信したパケット104をバッファ110に書き込む。また、書き込んだパケット104の蓄積量がバッファ110の中心値まで到達した場合、電圧制御発振器107が生成したクロック108に同期させて、バッファ110からTDM信号109を出力させる。また、バッファ制御部101は、遅延変化検出部105からパケット固定遅延変化通知と遅延変化量とを受信した場合、該遅延変化量に応じてパケット104の受信、または、TDM信号109の出力を停止し、バッファ110の蓄積量を中心値に戻す。
【0026】
バッファ蓄積量観測部102は、バッファ110に書き込まれたパケット104の蓄積量を常時観測し、観測した蓄積量を遅延変化検出部105と周波数制御部106とへ出力する。さらに、バッファ蓄積量観測部102は、蓄積量のアンダーランまたはオーバーランを検出した場合、該アンダーランまたはオーバーランに関する通知を周波数制御部106へ出力する。
【0027】
遅延変化検出部105は、バッファ蓄積量観測部102から受信した蓄積量から所定期間Tp単位に第1の蓄積量平均値を算出し、算出した第1の蓄積量平均値を用いてパケット固定遅延変化を検出する。そして、遅延変化検出部105は、パケット固定遅延変化を検出した場合、パケット固定遅延変化通知と遅延変化量を、バッファ制御部101および周波数制御部106へ出力する。なお、パケット固定遅延の検出方法および遅延変化量の取得方法については、後述する。
【0028】
周波数制御部106は、バッファ蓄積量観測部102から受信した蓄積量から所定期間Ta単位に第2の蓄積量平均値を算出し、電圧制御発振器107へ出力する。また、バッファ蓄積量観測部102から蓄積量のアンダーランまたはオーバーランに関する通知を受信した場合、アダプティブクロック再生法を適用して、送信端末と受信端末とが同期するように、電圧制御発振器107を制御する。また、周波数制御部106は、遅延変化検出部105からパケット固定遅延変化通知と遅延変化量とを受信した場合、遅延変化量に応じた期間、第2の蓄積量平均値として第2の中心値を電圧制御発振器107へ出力する。
【0029】
電圧制御発振器107は、周波数制御部106から受信した第2の蓄積量平均値に基づいてクロック108を生成してバッファ制御部101へ出力する。第2の蓄積量平均値に基づいて生成されたクロック108を用いることにより、受信端末の周波数が所望の周波数に調整され、受信端末と送信端末とが同期する。
【0030】
次に、パケット固定遅延変化の検出方法および遅延変化量の取得方法について説明する。図3(a)にパケット104の固定遅延を、図3(b)にバッファ110の蓄積量を、図3(c)に遅延変化検出部105が算出した第1の蓄積量平均値を示す。
【0031】
図3(a)において、パケット固定遅延がAms減少するパケット104を、時刻t1に受信することにより、バッファ110の蓄積量が固定遅延Amsに相当するデータ量分、増加する。(図3(b))。
【0032】
図3(c)において、遅延変化検出部105が時刻t1を含む期間Tp3について算出した第1の蓄積量平均値C2(時刻t2)はその前の第1の蓄積量平均値C1(中心値)から増加する。さらに、その次の期間Tp4について算出した第1の蓄積量平均値C3(時刻t3)は、時刻t2の時の第1の蓄積量平均値C2からさらに増加する。そして、期間Tp5について算出した第1の蓄積量平均値C4(時刻t4)は、時刻t3の時の第1の蓄積量平均値C3と一致する。
【0033】
遅延変化検出部105は、第1の蓄積量平均値が変化した後で安定した時、パケット固定遅延が変動したと判定する。すなわち、遅延変化検出部105は、パケット固定遅延が変動してから3期間(期間Tp×3)以内に、パケット固定遅延の変動を検出することができる。そして、パケット固定遅延の変動を検出した場合、遅延変化検出部105は、安定後の第1の蓄積量平均値C4(時刻t4)と変化前の第1の蓄積量平均値C1(中心値)との差分を算出し、遅延変化量とする。ここで、遅延変化量は固定遅延Amsに相当するデータ量を有する。
【0034】
次に、本実施形態に係るクロック再生装置100の動作について説明する。図4(a)にパケット104の固定遅延を、図4(b)にバッファ110の蓄積量を、図4(c)に遅延変化検出部105が算出した第1の蓄積量平均値を、図4(d)に周波数制御部106が算出した第2の蓄積量平均値を、図4(e)に出力周波数を示す。なお、図4において、時刻tおよび期間Tpの番号は、図3と同じ番号を付した。また、本実施形態では、クロック再生装置100の遅延変化検出部105は、パケット固定遅延変化を検出した場合、遅延変化量に応じた期間について第1の蓄積量平均値の算出を停止し、第1の蓄積量平均値として第1の中心値を設定する。また、周波数制御部106は、遅延変化量を受信した場合、遅延変化量に応じた期間について第2の蓄積量平均値の算出を停止し、第2の蓄積量平均値として第2の中心値を設定する。パケット固定遅延が変化した時、遅延変化量に応じた期間について第1の蓄積量平均値と第2の蓄積量平均値の算出を停止することにより、不要な処理を軽減することができる。
【0035】
図4(a)において、パケット固定遅延がAms減少するパケット104を、時刻t1に受信する。図4(b)において、時刻t1の時、蓄積量が中心値から固定遅延Amsに相当するデータ量分、増加する。さらに、時刻t4の時、バッファ制御部101は遅延変化検出部105から固定遅延変化通知と遅延変化量とを受信し、遅延変化量と対応する期間、すなわち、固定遅延Amsと一致する期間、TDM信号109を出力したままパケット104の受信を停止する。この結果、時刻t4から遅延変化量と対応する期間(固定遅延Ams)が経過した時(時刻t6)、蓄積量が固定遅延Amsに相当するデータ量分減少し、中心値に戻る。
【0036】
図4(c)において、遅延変化検出部105は、期間Tp単位に第1の蓄積量平均値を算出している。そして、遅延変化検出部105は、パケット固定遅延が変動した時刻t1を含む期間Tp3を含めて3期間が経過した時(時刻t4)、図3で説明した方法によりパケット固定遅延が変化したことを検出し、パケット固定遅延変化通知と遅延変化量とをバッファ制御部101および周波数制御部106へ通知する。さらに、本実施形態において、遅延変化検出部105は、算出した遅延変化量と対応する期間、すなわち、固定遅延Amsと一致する期間が経過するまでの期間(期間Tp6〜期間Tp8)について、第1の蓄積量平均値の算出を停止し、第1の蓄積量平均値として第1の中心値を設定する。そして、遅延変化検出部105は、固定遅延Amsと一致する期間経過後の期間Tp9から、第1の蓄積量平均値の算出を再開する。
【0037】
さらに、図4(d)において、周波数制御部106は、期間Ta単位に第2の蓄積量平均値を算出している。そして、周波数制御部106は、時刻t4においてパケット固定遅延変化通知と遅延変化量とを受信した場合、遅延変化量と対応する期間(固定遅延Ams)を含む期間(期間Ta2、Ta3)について、第2の蓄積量平均値の算出を停止し、第2の蓄積量平均値として第2の中心値を設定する。そして、周波数制御部106は、固定遅延Amsと一致する期間経過後の期間Ta4から、第2の蓄積量平均値の算出を再開する。
【0038】
ここで、周波数制御部106がパケット固定遅延変化通知と遅延変化量とを受信した時に第2の蓄積量平均値として第2の中心値を設定するのは、時刻t6においてバッファ蓄積量が中心値へ戻っても、第2の蓄積量平均値が第2の中心値に戻らない場合があるからである。この場合、周波数制御部106が時刻t7からアダプティブクロック再生法による制御を再開した時に、バッファ蓄積量の中心値から増加したバッファ蓄積量の平均値に従った制御がなされ、その結果、不正な周波数の調整が行われてしまう。従って、本実施形態では、周波数制御部106は遅延変化検出部105からパケット固定遅延の変化の通知を受信したときに第2の蓄積量平均値として第2の中心値を設定する。
【0039】
さらに、図4(e)において、時刻t5、t7の時に、周波数制御部106から電圧制御発振器107へ第2の蓄積量平均値として第2の中心値が出力されることにより、電圧制御発振器107は、第2の中心値に基づいて受信端末の周波数を調整する。さらに、周波数制御部106が期間Ta4から第2の蓄積量平均値の算出を再開することにより、時刻t8からアダプティブクロック再生法に基づく調整が再開される。
【0040】
上記のように、本実施形態において、パケット固定遅延の検知(時刻t4)後、固定遅延Amsと一致する期間が経過(時刻t6)するまでの期間(期間Ta2、Ta3)は、第2の蓄積量平均値が第2の中心値に設定されていることから、不要な周波数の調整が行われることが抑制される。なお、期間Ta4以降は、アダプティブクロック再生法に基づく調整が再開されるが、パケット固定遅延に関する遅延変化量が解消されていることから、アダプティブクロック再生法が適切に適用される。
【0041】
さらに、本実施形態において、パケット固定遅延は、第1の蓄積量平均値の算出期間である期間Tpの3期間以内に検出される。従って、第2の蓄積量平均値の算出期間である期間Taを、第1の蓄積量平均値の算出期間である期間Tpの3期間よりも長く設定することにより、パケット固定遅延の変動(時刻t1)からパケット固定遅延の検知(時刻t4)までの間に不要な周波数の調整が行われることを抑制することができる。
【0042】
なお、上述の実施形態では、パケット固定遅延がAms減少するパケット104を受信した場合について説明したが、パケット固定遅延が増加するパケットを受信した場合は以下のように処理される。すなわち、パケット固定遅延がA’ms増加するパケットを受信した場合、蓄積量が中心値から固定遅延A’msに相当するデータ量分、減少する。そして、バッファ制御部101は、遅延変化検出部105からパケット固定遅延変化通知と遅延変化量とを受信した時、パケットを受信したままTDM信号の出力を停止する。この結果、バッファ110内のパケットは増加し、蓄積量が増加してパケット固定遅延の変化前の蓄積量へ戻る。また、固定遅延A‘msと一致する期間が経過するまでの期間は第2の蓄積量平均値が第2の中心値に設定され、その後、アダプティブクロック再生法に基づく調整が再開されることにより、不要な周波数の調整が行われることを抑制される。
【0043】
以上のように、本実施形態に係るクロック再生装置100は、パケット固定遅延の変動による影響がある期間について、受信端末の周波数を調整するための第2の蓄積量平均値を第2の中心値に設定することにより、周波数は所定の設定値に固定される。従って、パケット固定遅延が変動した場合でも、安定して送信端末と受信端末との同期を取ることができる。さらに、本実施形態に係るクロック再生装置100は、周波数の調整の基準となる期間Taをパケット固定遅延の検出の基準となる期間Tpの3期間よりも長く設定することにより、パケット固定遅延の変動による影響を適切に除くことができる。
【0044】
(第3の実施形態)
第3の実施形態について説明する。第2の実施形態では、バッファ110の蓄積量を観測することにより、パケット固定遅延の変動を検出した。これに対して、本実施形態では、受信する各パケット204の到達時間を観測することにより、パケット固定遅延の変動を検出する。
【0045】
本実施形態に係るクロック再生装置のブロック図の一例を図5に示す。図5において、本実施形態に係るクロック再生装置200は、バッファ制御部201、バッファ蓄積量観測部202、パケット到達時間観測部203、遅延変化検出部205、周波数制御部206および電圧制御発振器207を備える。
【0046】
本実施形態に係るクロック再生装置200は、図2に示した第2の実施形態に係るクロック再生装置100にパケット到達時間観測部203を追加したものである。本実施形態に係るバッファ制御部201、バッファ蓄積量観測部202、周波数制御部206および電圧制御発振器207の動作は、第2の実施形態のバッファ制御部101、バッファ蓄積量観測部102、周波数制御部106および電圧制御発振器107とほぼ同様である。すなわち、バッファ蓄積量観測部202は、バッファ210のパケット204の蓄積量を観測して周波数制御部206へ出力する。周波数制御部206は、受信した蓄積量から所定の期間Ta単位に蓄積量平均値を算出して電圧制御発振器207へ出力する。電圧制御発振器207は、受信した蓄積量平均値に基づいてクロック208を生成し、バッファ制御部201へ出力する。バッファ制御部201は受信したクロック208に同期させて、バッファ210からTDM信号209を出力する。蓄積量平均値に基づいて生成したクロック208を用いることにより、受信端末が送信端末に同期する。
【0047】
ここで、本実施形態において、パケット到達時間観測部203は、受信する各パケット204の到達時間を常時観測し、観測した到達時間を遅延変化検出部205へ出力する。
【0048】
遅延変化検出部205は、パケット到達時間観測部203から受信した到達時間を用いて、所定の期間Tq単位に、ある時点におけるパケット到達時間とある時点の所定時間前のパケット到達時間との差分を算出する。そして、算出した差分が大きく変化した場合、パケット固定遅延が変動したと判断する。そして、パケット固定遅延変化通知と、遅延変化量として到達時間の差分とを、バッファ制御部201および周波数制御部206へ出力する。
【0049】
なお、パケット固定遅延変化通知と遅延変化量とを受信した場合のバッファ制御部201と周波数制御部206の動作は、第2の実施形態で説明したバッファ制御部101と周波数制御部106の動作と同様であり、詳細な説明は省略する。
【0050】
本実施形態において、蓄積量平均値の算出する間隔である期間Taを、パケット到達時間の差分を算出する間隔である期間Tqの3期間分より長くすることにより、パケット固定遅延の変動による影響を適切に除くことができる。
【0051】
さらに、本実施形態では、受信する各パケット204の到達時間からパケット固定遅延を検出する。この場合、バッファ蓄積量に関する処理(アダプティブクロック再生法に関する処理)と、パケット固定遅延の検出処理とを分けることができ、バッファ蓄積量に関する処理が煩雑になることを避けることができる。
【符号の説明】
【0052】
10 クロック再生装置
20 バッファ制御手段
30 遅延検出手段
40 クロック制御手段
50 クロック出力手段
60 バッファ
100、200 クロック再生装置
101、201 バッファ制御部
102、202 バッファ蓄積量観測部
203 パケット到達時間観測部
104、204 パケット
105、205 遅延変化検出部
106、206 周波数制御部
107、207 電圧制御発振器
108、208 クロック
109、209 TDM信号
110、210 バッファ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロック出力手段から受信したクロックに同期させてバッファからパケットを出力させると共に、前記バッファの蓄積量を計測して出力するバッファ制御手段と、
遅延の有無を監視し、遅延を検出した場合、遅延量を算出して出力する遅延検出手段と、
前記バッファ制御手段から受信した蓄積量に基づいてクロック制御値を生成して出力すると共に、前記遅延検出手段から遅延量を受信した場合、該遅延量に対応する期間、所定のクロック制御値を出力するクロック制御手段と、
前記クロック制御手段から受信したクロック制御値に基づいてクロックを生成して出力するクロック出力手段と、
を備えるクロック再生装置。
【請求項2】
前記遅延検出手段は、第1の期間ごとに、遅延の有無を判定し、
前記クロック制御手段は、前記第1の期間よりも長い第2の期間ごとに、前記クロック制御値を生成する、
請求項1記載のクロック再生装置。
【請求項3】
前記遅延検出手段は、前記バッファ制御手段から受信した蓄積量について第1の期間ごとに平均値を算出し、該算出した蓄積量の平均値が変化した後で一定になった場合、遅延が発生したと判定する、
請求項2記載のクロック再生装置。
【請求項4】
受信するパケットの到達時間を計測するパケット到達時間計測手段を備え、
前記遅延検出手段は、第1の期間ごとにパケットの到達時間の変化の有無を判定し、パケットの到達時間が変化した場合、遅延が発生したと判定する、
請求項2記載のクロック再生装置。
【請求項5】
前記クロック制御値は、前記第2の期間内の前記遅延量の平均値である、請求項2乃至4のいずれか1項記載のクロック再生装置。
【請求項6】
前記バッファ制御手段は、パケットを受信してバッファに書き込むと共に、前記遅延検出手段から遅延量を受信した場合、該遅延量に応じた期間、パケットの受信またはパケットの出力を停止する、
請求項1乃至5のいずれか1項記載のクロック再生装置。
【請求項7】
前記バッファ制御手段は、前記蓄積量のアンダーランまたはオーバーランを検出した場合、該アンダーランまたはオーバーランに関する通知を出力し、
前記クロック制御手段は、前記バッファ制御手段からアンダーランまたはオーバーランに関する通知を受信した場合、前記アンダーランまたはオーバーランを解消するクロック制御値を生成して出力する、
請求項1乃至6のいずれか1項記載のクロック再生装置。
【請求項8】
バッファの蓄積量を計測して出力し、該出力された蓄積量に基づいてクロック制御値を生成して出力し、該出力されたクロック制御値に基づいてクロックを生成して出力し、該出力されたクロックに同期させてバッファからパケットを出力し、
遅延の有無を監視し、遅延を検出した場合、遅延量を算出して出力し、該出力された遅延量に対応する期間は所定のクロック制御値を出力し、該所定のクロック制御値に基づいてクロックを生成して出力し、該出力されたクロックに同期させてバッファからパケットを出力する、
クロック再生方法。
【請求項9】
クロックに同期させてバッファからパケットを出力する装置のコンピュータが実行可能な制御プログラムであって、
前記バッファの蓄積量を計測して出力し、該出力された蓄積量に基づいてクロック制御値を生成して出力し、該出力されたクロック制御値に基づいてクロックを生成して出力し、該出力されたクロックに同期させてバッファからパケットを出力する機能と、
遅延の有無を監視し、遅延を検出した場合、遅延量を算出して出力し、該出力された遅延量に対応する期間は所定のクロック制御値を出力し、該所定のクロック制御値に基づいてクロックを生成して出力し、該出力されたクロックに同期させてバッファからパケットを出力する機能と、
を前記装置のコンピュータに実行させるための制御プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate