説明

クロマトグラフィー媒体の製造方法

本発明は、新規なクロマトグラフィー媒体を製造する方法及びタンパク質のような生体分子の精製のためのその使用に関する。クロマトグラフィー媒体は内側多孔質コアと外側シェルを有するシェルビーズを含む。方法は、ビーズのコア内に緩衝性リガンドを設け、ビーズの外側シェル内に生体分子の結合のための結合性リガンドを設けることを含む。この方法によって、結合特性と緩衝特性を互いに独立に最適化することが可能になり、殊にクロマトフォーカシング媒体の製造に有利である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規クロマトグラフィー媒体の製造方法、及びラニングpHの制御のための固定化緩衝性リガンドを用いるクロマトグラフィー技術(例えばクロマトフォーカシング技術)におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
生体分子のクロマトフォーカシングに常用されるクロマトグラフィー媒体は、pH勾配及び分離を達成するため、適切な緩衝性リガンド及び結合性リガンドでビーズ内が均一に置換されている。クロマトフォーカシング(CF)は、イオン交換法の利点を等電点電気泳動の高い分解能と組合せて、使用が簡単な単一の「アイソクラチック」クロマトグラフィックフォーカシング法としたものである。クロマトフォーカシングの間、適切な緩衝能の弱イオン交換カラムが、従うべき分離pH勾配の高い方のpH(陰イオン交換CF媒体の場合)を定める緩衝液で平衡化される。次に、第2の「フォーカシング」緩衝液を流して、結合したタンパク質をほぼそれらの等電(PI)点の順に溶出する。フォーカシング緩衝液のpHは、pH勾配の下限を定めるpHに調節される。pH勾配は単一のフォーカシング緩衝液によるアイソクラチック溶離の間に充填されたカラム内に形成される。外部の勾配形成装置は必要とされない。このpH勾配は、溶出緩衝液(すなわち、フォーカシング緩衝液)がイオン交換体上の緩衝弱イオン交換基を滴定するときに形成される。0.02〜0.05pH単位の範囲のピーク幅及び数百ミリグラムのタンパク質を含有する試料を単一の工程で処理することができる。移動相の速度は、生成したpH勾配がカラム内で展開しカラムを通って移動する速度より速いので、タンパク質バンドの集束が起こる。分析物がカラム内を下降して結合を促進するpHの領域まで輸送される速度はその結合領域自体の移動速度より速い。
【0003】
クロマトフォーカシングは、タンパク質及び大きいタンパク質凝集体、例えばウィルスのような両性の物質の特性決定のための有力な分析手段、並びに高純度のタンパク質単離のための有効な調製用技術である。クロマトフォーカシングに使用されるビーズは通常弱陰イオン交換体又は強IEXリガンド及び弱IEXリガンドの両方を有するイオン交換体(例えばGE Healthcare Biosciences ABのPBE94、Mono P及びDEAE媒体)であり、様々なアミンリガンドが分離プロセス及びビーズ全体にわたるpH勾配の生成の両方に関与している。タンパク質分離及び精製技術に優れているにもかかわらず、この技術は、Sluytermanら(J.Chromatography 150 (1978)17−44)のパイオニアとしての研究成果から殆ど変わらずにいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6572766号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現存するCF媒体と比較して大いに改良されたローディング容量及び改良されたピーク形状を示すクロマトフォーカシング(CF)のための新しいクロマトグラフポリッシング媒体はクロマトグラフ分野で歓迎されるはずである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、イオン交換クロマトグラフィー、殊にクロマトフォーカシングの性能を改良するシェルビーズを提供する。これらのシェルビーズはpH勾配生成リガンドのコアを有し、一方試料(タンパク質)と相互作用するリガンドは外側のシェルに位置している。この構成による主要な利点は、殊に陰イオン交換リガンドの場合の高いpH及び陽イオン交換リガンドの場合の低いpHでの結合強度の向上に起因する、従来のクロマトフォーカシング媒体と比較したときの容量の増大である。この容量は、外側のシェルリガンドを、エクステンダー又はスペーサーを介して結合するとさらに高められる。本発明の好ましい実施形態では、コアの空隙率(porosity)はタンパク質を排除するように調整される。
【0007】
従って、本発明は、内側多孔質コア内の固定化緩衝性リガンドを用いる生体分子のクロマトグラフィー技術のための前記コアと外側シェルを有するシェルビーズを含むクロマトグラフィー媒体を製造する方法に関し、この方法は、pH安定化(緩衝)及びpH勾配生成を図るビーズのコア内の緩衝性リガンドを設け、ビーズの外側シェル内の生体分子の結合を図る結合性リガンドを設けることを含んでなり、緩衝性リガンドと結合性リガンドは互いに独立に調整される。この方法により、クロマトグラフィー媒体、好ましくはクロマトフォーカシング媒体の結合特性と緩衝特性を別々に最適化することが可能になる。
【0008】
好ましい実施形態によると、コアの空隙率は一定の大きさを超える生体分子がコア内に浸透するのを妨げる。
【0009】
本発明のクロマトグラフィービーズは5μm超の直径、好ましくは5〜400μmの直径を有する。
【0010】
好ましくは、外側シェルは0.5〜30μmの厚さである。幾つかの実施形態では、外側シェルは0.5〜5μmである。この薄い外側の層は、速い動力学が望まれる用途に殊に有用であり、3〜200μmの直径を有するビーズに適している。他の実施形態では、外側シェルは10〜30μmである。このより厚い外側の層は、分離すべき生体分子の高いローディング容量を有するのが望まれる用途に殊に有用である。このより厚い層は40〜400μmの直径を有するビーズに適している。
【0011】
好ましくは、緩衝性リガンドは、トリエチレンテトラミン、ビス(3−アミノプロピル)アミン、ポリエチレンイミン、メルカプト酢酸、サリチル酸、ポリアクリル酸、ポリホスホン酸及び両性イオン性緩衝液のような弱酸及び/又は弱塩基である。
【0012】
好ましくは、結合性リガンドは、第四アミン、スルホネートリガンド及びグアニジルリガンドのような強陰イオン交換及び/又は強陽イオン交換リガンドである。結合のためのあらゆる種類の荷電リガンドが適している。リガンドは分離のために使用するpH範囲内で強く結合することが重要である。イオン交換体の場合、これは、リガンドが使用するpH範囲内で帯電しなければならないことを意味する。例えば、ジエチルアミンリガンドはpH9〜8及びそれ以下で帯電する。
【0013】
結合性リガンドはまたアフィニティーリガンド、疎水性相互作用(HIC、RPC)リガンド、キレート性リガンド等であってもよい。
【0014】
第2の態様では、本発明は、上記の方法で製造されたクロマトグラフィー媒体に関する。
【0015】
第3の態様では、本発明は、緩衝液に代えてコア内の固定化緩衝性リガンドを含む上記クロマトグラフィー媒体の緩衝剤としての使用に関する。この使用は、イオン交換クロマトグラフィー用であり得るが、主としてクロマトフォーカシング用であり得る。クロマトフォーカシングは、例えば細胞及び/又はその一部、ウィルス及び/又はその一部、タンパク質、複合タンパク質、融合タンパク質、ペプチド、核酸、両性巨大分子及び両性粒子から選択される任意の生体分子に対するものであり得る。この方法は2〜13、好ましくは3〜11のpIを有するあらゆる生体分子に適している。
【0016】
一実施形態では、溶出緩衝液は、クロマトフォーカシングの終了後、溶出画分をリッドビーズカラムに通して流すことによって除去し得、ここで生体分子はカラムから排除され、緩衝成分はリッドビーズに吸着される。これは以下の実験の欄で記載する。
【0017】
(このタイプの媒体で行われる)このクロマトフォーカシングは等電点電気泳動と同じ高い分離能を有し、調製用及び分析分野の両方に用途がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、主に結合に関与するリガンドを外側シェルに、また緩衝用の官能基をコアに有する、分離された領域を備えた新しいクロマトグラフィー及びクロマトフォーカシング媒体のためのビーズデザインの概略図である。
【図2】図2は、従来のMono P(ビーズ直径:10μm)及びHFA 70 BAPA Shell−Q(ビーズ直径:90μm)でのレンズマメレクチンの分離を示す。pH勾配(−‥−)は9〜6に調節した。
【図3】図3は、従来のMono P(ビーズ直径:10μm)及びHFA 70 BAPA Shell−Q(ビーズ直径:90μm)でのミオグロビンの分離を示す。pH勾配(−‥−)は9〜6に調節した。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者は、pH勾配を生成するリガンドがビーズのコア内に結合しており、タンパク質と相互作用するリガンドが外側シェル内に存在するシェルビーズ(図1)が、クロマトフォーカシング用のビーズとして従来のクロマトフォーカシング媒体よりずっと最適なデザインであるということを見出した。層の官能化を使用することによって、勾配生成のために不必要に高い緩衝能を導入することなく結合のための高いリガンド密度を有することが可能である。
【0020】
このアイディアによる主要な利点は、その結合特性がpHにより変化しないリガンドを使用でき、かつビーズの外側の層により高いリガンド密度を使用できる可能性のためにタンパク質容量が増大するということである。このため、リガンド密度が高くなったとき従来の弱いCFイオン交換リガンドの場合のように不必要な高い緩衝能を導入することなく結合強度が高まる。弱イオン交換体リガンドは、種類に応じて高い又は低いpHでその電荷、従って結合能力を失う。また、ローディング容量は、外側の「シェル」の厚さを変えることによっても調節することができる。加えて、容量は、「シェルリガンド」をエクステンダーを介して結合するとさらに改良することができる。さらにまた、シェルは非常に薄く(0.5〜5μm)することができ、このため、より速い放出動力学に起因して効率が改良され得、結果としてよりシャープなピークが得られる。
【0021】
ビーズ内の結合領域と緩衝領域を分離することによって、二次的な相互作用、例えば水素結合により生起する他のピーク広幅化効果も低減する。
【0022】
好ましい実施形態では、コアの空隙率は、ポリバッファ成分のみがビーズの内部にアクセスするのを許容するように調整される。その結果、(原則として)タンパク質のみが「シェルリガンド」と相互作用する。シェルリガンドは対象のpH−領域で緩衝能力が全くないか又は非常に低くなるように設計される。このことは、最も適切なシェルリガンドはQ(第四アンモニウム)基又はSP(スルホプロピル)基であることを意味する。
【0023】
クロマトフォーカシングは、プロテオミクスの分野において、低含量成分の分析を容易にするための主要な試料成分の単離及び除去のため、並びにSDS−PAGE、狭いpI範囲の2D−PAGE、又は付加的なクロマトグラフ工程を用いる以後の分離に先立つ試料の予備分画のためといったような多くの潜在的な用途をもっている。しかし、最も一般的に使用されているクロマトフォーカシング技術は両性高分子電解質の溶出緩衝液を使用しており、そのため、(緩衝液のコストの問題及び)Polybuffers(商標)のような両性電解質の除去に関する問題のために実際上クロマトフォーカシングの使用が制限されている。両性の緩衝液は、均一な緩衝能力と、使用されると考えられるpH範囲内に等電点をもつ大量の成分とを有するように設計される。従って、このタイプの緩衝液は、溶出中結合したタンパク質間の間隔を空けさせる置換及び積み重なり効果のためにCFにおける分解能を高める。
【0024】
この技術の応用範囲を可能な最高の分解能が優先されない場合に拡張するためには、代わりの緩衝液系の開発を選択し得る。
【実施例】
【0025】
実験の欄
本明細書中以下の実施例は例示の目的で挙げるのみであり、後述の特許請求の範囲に定義されている本発明を限定するものと解してはならない。
【0026】
全般
マトリックスの体積とは沈殿して定着した床の体積をいい、グラムで表したマトリックスの重量とは吸引乾燥重量をいう。反応において攪拌は、磁気バー攪拌機ではビーズが即座に損傷されるため、モーター駆動攪拌機を使用した。官能性の分析及びビーズ上のアリル化の程度、又はアミン含量の程度の決定には従来法を用いた。
【0027】
架橋したアガロースゲル(Sepharose(商標) HFA 70、GE Healthcare、Uppsala、Sweden)から出発して本発明の分離マトリックスを調製する1つの方法を以下に例示する。Sepharose HFA 70のビーズ直径は約90μmである。
【0028】
Sepharose HFA 70 − HFA 70 BAPA Shell−Qに基づくクロマトフォーカシング用シェル媒体の調製
Sepharose HFA 70のアリル活性化
Sepharose HFA 70をガラスフィルター上で蒸留水により洗浄した。水気を切ったゲル210gを三つ首丸底フラスコに量り取った。NaOH(100mL、50%溶液)を加え、機械的攪拌を開始した。ホウ水素化ナトリウム0.5gと、硫酸ナトリウム31gをフラスコに加え、スラリーを水浴で50℃に加熱した。およそ1時間後、20mLのアリルグリシジルエーテル(AGE)を加えた。その後、スラリーを激しく攪拌しながら一晩置いた。約20時間後スラリーをガラスフィルターに移し、蒸留水(×4)、エタノール(×4)及び蒸留水(×4)で洗浄した。
【0029】
その後、アリル含量を滴定により決定した。152μmol/mL。
【0030】
シェル活性化(部分的臭素化)
アリル化ゲル50mLをフラスコに量り取り、500mLの蒸留水と2.5gの酢酸ナトリウムを加えた。1.05mLの臭素(3.28g)を197mLの蒸留水に溶解させ、この溶液38.5mLをアリル化ゲルスラリーに加えた。この量の臭素は、約2μmのシェル厚さを与える(に対応する)と考えられる。この臭素溶液を、激しく攪拌しながら一時に加えた。およそ10分後ゲルをガラスフィルターで蒸留水により洗浄した。
【0031】
Q基のシェルカップリング
部分的臭素化ゲル(上記参照)をフラスコに移し、20mLの塩化トリメチルアンモニウム溶液と混合した。50%NaOHでpHを12に調節し、スラリーを35℃に加熱し、一晩攪拌し続けた。およそ18時間後ゲルをガラスフィルター上で蒸留水により洗浄した。
【0032】
塩素イオン容量は50μmol/mLと見積もられた。90μmol/mLの残留アリル含量は約2μmの理論シェル厚さに相当する。
【0033】
ビーズのコア内のBAPA(ビスアミノプロピルアミン)のカップリング
50mLのQ−シェルゲル(上記参照)をビーカー内でオーバーヘッド攪拌しながら蒸留水(50mL)及び0.5gの酢酸ナトリウムと混合した。スラリーの濃橙色/黄色が残るようになるまで臭素を加えた。3分間攪拌した後、スラリーが完全に変色するまでギ酸ナトリウムを加えた。その後ゲルをガラスフィルター上で蒸留水により洗浄した。
【0034】
40mLの水気を切ったコア臭素化ゲルをビーカーに移し、10mLの水、10mLのビス−アミノプロピルアミン及び2gの硫酸ナトリウムと混合した。その後混合物を30℃で17時間攪拌した後、ガラスフィルター上で蒸留水により洗浄した。ゲルのコアに結合したビス−アミノプロピルアミンの量は80μmol/mLと見積もられた。
【0035】
Mono Pと比較した新しいCFプロトタイプ(HFA 70 BAPA Shell−Q)のクロマトグラフ評価

シェルCF媒体プロトタイプ(HFA 70 BAPA Shell−Q)の挙動を試験するために、レンズマメレクチン及びミオグロビンのクロマトグラムをMono P(実験の欄参照)に対して得られた結果と比較した。Mono P(商標)は、10−μmのMonoBeads粒子に基づく確立された媒体であり、第三及び第四アミンで均一に置換されている。この小さいビーズサイズは達成することができる高い分解能に大いに寄与している。HFA 70 BAPA Shell−Qは90−μmのアガロースビーズに基づいており、確立されているクロマトグラフ理論によるとピーク幅はMono Pと比較してずっと広くなるはずである。しかし、シェル−プロトタイプとMono Pの比較によると、図1に示したようなビーズを用いることの、同じ大きさの従来のビーズと比較した利点が例証される。
【0036】
実験
クロマトグラフ性能に関して検討しようとするシェル媒体(HFA 70 BAPA Shell−Q)をTricorn 5/20カラムに充填し、緩衝液(25mMジエタノールアミン、pH9.3)で平衡化した後、試料溶液を0.5mL/minの流量でポンプで送ってカラムに通した。緩衝液B(Polybuffer 96、pH6)を通すことによってタンパク質を溶出した。クロマトグラフ方法は以下に示す(Unicorn法)。
【0037】
試料
試料は25mMのジエタノールアミン(pH9.3)に溶解したレンズマメレクチン及びミオグロビンであり、濃度は5.0mg/mlに調節した。試料体積は100μLであった。
【0038】
機器
LCシステム: Akta Explore 10
ソフトウェア: Unicorn
カラム: HR 5/20
Unicorn法
Main method:
0.0 Base CV (5) [ml] Any
0.00 Block Start # Conditions
0.00 Base SameAsMain
0.00 ColumnPosition (Position2)#colpos
0.00 PumpAInlet A1
0.00 AveragingTimeUV 2.56 [sec]
0.00 Wavelength 280 [nm] 254 [nm] 215 [nm]
0.00 BufferValveA1 A11
0.00 Gradient 0.00 [%B] 0.00 [base]
0.00 PumpBInlet B1
0.00 Flow (0.50)#flow [ml/min]
0.10 AutoZeroUV
0.10 End#block
0.00 Block column#equilibration
0.00 Base SameAsMain
1.00 AutoZeroUV
2 AutoZeroUV
2.00 End#Block
0.00 Block Isocratic#elution
(Loading)
0.00 Base SameAsMain
0.00 AutoZeroUV
0.00 InjectionValve Inject
0.10 #injvol InjectionValve Load
0.20 Gradient 100 [%B] 0 [base]
8.00 Gradient 1000 [%B] 0 [base]
9.00 End#Block

クロマトフォーカシングの後の緩衝物質の効率的な除去のための新しい方法及び媒体
ポリバッファは小さい分子(<1000g/mol)からなり、従ってリッドビーズを充填したフロースルーカラムにより容易に除去することができる。これらのリッドビーズは、ゲルろ過リッド(約5000〜10000g/molより大きい分子を排除する)及びポリバッファ成分の吸着に適したコア内リガンド(その選択は使用するポリバッファに依存する)を有するように設計されている。両性の緩衝液の正味の電荷をゼロから、リッドビーズのコア内に吸着のために使用するリガンドの種類に応じて適切な正又は負の値である吸着のためのaまで変化させるために、試料溶液のpHの多少の変更が必要である。
【0039】
結果及び考察
プロセスの生産性とタンパク質の製造の主要な増大となる下流のクロマトグラフ精製の場を改良するために、大きいビーズ(約40μmより大きいビーズ直径)に基づく媒体のクロマトグラフ性能を増大することが極めて重要である。望まれる選択性を有する小さいビーズ(例えば、ビーズ直径10mmのMono P)に基づく媒体では、十分に高い流量と生産性を大きいスケールのカラムでその圧力規格内において使用することができない。これは非常に剛性のビーズでもそうである。
【0040】
本発明によると、シェルを官能化した大きい粒子を用いることによって、効率(ピーク幅)を小さい粒子のレベルに保ち得る。
【0041】
図1に示したように設計された大きい粒子直径(約90μm)のシェルビーズの利点を立証するために、クロマトグラフの結果を粒子の大きさが10μmの「均一な」ビーズ(Mono P)と比較した。図2及び3によると、ピーク幅/高さは、レンズマメレクチンの場合同じ大きさであり、ミオグロビンの場合はわずかに広かった。この結果は明らかに、図1に示したように設計されたより大きいシェルビーズがずっと小さい(10倍小さい)従来のビーズと殆ど同じくらいに良好であることを示している。大きいビーズを有することの利益は、分析用途に使用される小さいビーズと比較して、より大きいスケールの調製用又はプロセス用途により適していることである。新しい媒体デザインによって、要望されているより大きいスケールのクロマトグラフィー特性と高い効率のような分析特性とを組合せることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア内の固定化緩衝性リガンドを用いる生体分子のクロマトグラフィー技術のための、内側多孔質コアと外側シェルとを有するシェルビーズを含むクロマトグラフィー媒体の製造方法であって、上記ビーズのコア内に緩衝性リガンドを設け、ビーズの外側シェル内に結合性リガンドを設けることを含んでいて、上記緩衝性リガンドと結合性リガンドが互いに独立に調整される、方法。
【請求項2】
クロマトフォーカシング用媒体の製造のための請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記コアの空隙率が生体分子のコア内への浸透を妨げる、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記ビーズが3μm超の直径を有する、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記ビーズが3〜400μmの直径を有する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記外側シェルが0.5〜30μmの厚さである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記外側シェルが0.5〜5μmである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記外側シェルが10〜30μmである、請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記緩衝性リガンドが弱酸及び/又は弱塩基である、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記結合性リガンドが強い陰イオン交換及び/又は強い陽イオン交換リガンドである、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
結合性リガンドがアフィニティーリガンド、疎水性相互作用(HIC、RPC)リガンド、キレート性リガンド等である、請求項1乃至請求項10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
請求項1乃至請求項10のいずれか1項記載の方法で製造されたクロマトグラフィー媒体。
【請求項13】
緩衝液に代えてコア内の固定化緩衝性リガンドを緩衝剤として用いるクロマトグラフィーのための、請求項12記載のクロマトグラフィー媒体の使用。
【請求項14】
細胞及び/又はその一部、ウィルス及び/又はその一部、タンパク質、複合タンパク質、融合タンパク質、ペプチド、核酸、両性巨大分子及び両性粒子から選択される生体分子のクロマトフォーカシングのための、請求項13記載の使用。
【請求項15】
フォーカシング終了後に、溶出画分をリッドビーズカラムに流して溶出緩衝液を除去する請求項14記載の使用であって、生体分子がカラムから排除され、緩衝成分がリッドビーズのコア内に吸着される、請求項14記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−520647(P2013−520647A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553845(P2012−553845)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【国際出願番号】PCT/SE2011/050165
【国際公開番号】WO2011/102790
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(597064713)ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・アクチボラグ (109)
【Fターム(参考)】