説明

クロムめっき製品の製造方法

【課題】基材の種類に関係なく、短時間で、耐腐食性に優れたクロムめっき製品を製造できるクロムめっき製品の製造方法を提供すること。
【解決手段】クロムめっき膜21と、これを被覆するクロムの酸化皮膜22との複合皮膜2が、基材3の表面に形成されたクロムめっき製品1の製造方法である。該製造方法においては、めっき工程とプラズマ処理工程とを行う。めっき工程においては、基材3の表面にクロムめっきを施して、クロムめっき膜21を形成する。プラズマ処理工程においては、クロムめっき膜21の表面にプラズマ処理を施して、クロムめっき膜21の表面に酸化皮膜22を形成する。また、プラズマ処理工程においては、NaCl水溶液中で、Ag/AgCl電極を基準電極としたときの複合皮膜2の自然電極電位が−0.3V以上となるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に、クロムめっき膜とクロムの酸化皮膜との複合皮膜が形成されたクロムめっき製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の外装意匠部品等においては、金属又は樹脂等の素材の表面に、クロムめっき膜が施されたクロムめっき製品が用いられている。このようなクロムめっき製品は、クロムめっき膜特有の白銀色を示し、美的装飾性に優れている。
クロムめっき膜の形成方法としては、下地として、半光沢ニッケルめっき、光沢ニッケルめっき、及びジュールニッケルめっきを、この順序で素材上に施した後に、ジュールニッケルめっきの表面に0.1μm〜0.3μmの厚さで施す方法が一般的である。具体的な材料の構成例としては、例えばJIS H 8630「プラスチック上の装飾用電気めっき」等に記載されている。
【0003】
図4には、金属または樹脂からなる素材91上にクロムめっき膜96が形成されたクロムめっき製品9の表面部分の断面図が示される。同図に示すごとく、クロムめっき製品9においては、表面のクロムめっき膜96が形成されるまでに複数の金属層92、93が下地として形成されている。例えば、素材91表面の上には、表面平滑性の向上等のために、下地銅めっき層92が形成される。さらに下地銅めっき層92上にはニッケルめっき層93が形成される。そのニッケルめっき層93の表面に、クロムめっき膜96が形成される。このように、素材91上には、銅めっき層92、ニッケルめっき層93、及びクロムめっき膜96が積層形成され、クロムめっき膜96の白銀色を活かした自動車の外装意匠部品(ラジエータグリル、ドアハンドル、マーク等)等のクロムめっき製品9が提供される。
【0004】
クロムめっき製品9は、例えば自動車等においては、ラジエータグリル、ドアハンドル、マーク等の外気と直接接触する外装意匠部品等に用いられる。そのため、クロムめっき膜96や下地金属層92、93の耐食性が問題となる。
図4に示すごとく、クロムめっき膜96や下地金属層92、93の金属層構造は、耐食性向上のため、多数の防食構造をとっている。例えばクロムめっき膜96とニッケルめっき層93とでは、ニッケルめっき層93の方が電気化学的に腐食し易い。クロムめっき膜96は、自己不動態化能力により、その表面に水和オキシ水酸化クロムからなる酸化皮膜(不動態皮膜)97を自然形成し、ニッケルめっき層93よりも耐食性が高いからである。
【0005】
不動態皮膜97は、上記クロムめっき膜96を形成した素材91を大気中に放置して形成させることができる。しかし、この場合には、不動態皮膜97の形成までに長時間を要し、また、充分な不動態皮膜97を形成することができず、クロムめっき製品9の耐食性が不充分になるおそれがあった。
そこで、温度100〜300℃の大気中で加熱処理を行って不動態皮膜を形成する方法が開発されている(特許文献1参照)。また、0.5ppm以上のオゾン水にステンレス鋼を浸漬してステンレス鋼に含まれるクロムの不動態皮膜を形成する方法が開発されている(特許文献2)。
【0006】
しかしながら、加熱処理を行って不動態皮膜97を形成する方法においては、100〜300℃という高温で加熱を行う必要があるため、例えば樹脂等の耐熱性の低い素材91上に形成したクロムめっき膜96には適用することができないという問題があった。また、オゾン水にステンレス鋼を浸漬する方法においては、10〜48時間程度という長時間浸漬する必要があるため、生産効率が低下するという問題があった。
【0007】
また、特に自動車の外装意匠部品等に用いられるクロムめっき製品9においては、クロムめっき膜96が下地のニッケルめっき層93よりも優先的に腐食する場合がある。これは、特に冬季に道路に散布される凍結防止剤が泥等と共に、クロムめっき製品9に固着した状態で発生しやすい。凍結防止剤中には、クロムめっき膜96の腐食を促進させる塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム等の融雪塩が含まれているためである。
即ち、融雪塩は、塩化物イオンを生成し、この塩化物イオンがすきま腐食を誘発し、不動態皮膜97を破壊する。不動態皮膜97が破壊されると、クロムめっき膜96が溶出してニッケルめっき層93よりも優先的に腐食するので、短期間でクロムめっき製品の見栄えが悪くなってしまう。
【0008】
【特許文献1】特許第2687014号公報
【特許文献2】特開2000−345316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされてものであって、基材の種類に関係なく、短時間で、耐腐食性に優れたクロムめっき製品を製造できるクロムめっき製品の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、クロムめっき膜と、該クロムめっき膜を被覆するクロムの酸化皮膜との複合皮膜が、基材の表面に形成されたクロムめっき製品の製造方法において、
上記基材の表面にクロムめっきを施して、上記クロムめっき膜を形成するめっき工程と、
上記クロムめっき膜の表面にプラズマ処理を施して、上記クロムめっき膜の表面に上記酸化皮膜を形成するプラズマ処理工程とを有し、
該プラズマ処理工程においては、NaCl濃度が5重量%でpH10〜11のNaCl水溶液中で、Ag/AgCl電極を基準電極としたときの上記複合皮膜の自然電極電位が−0.3V以上となるように制御して、上記プラズマ処理を行うことを特徴とするクロムめっき製品の製造方法にある(請求項1)。
【0011】
本発明のクロムめっき製品の製造方法においては、上記めっき工程と上記プラズマ処理工程とを行う。
上記めっき工程においては、上記基材の表面にクロムめっきを施す。これにより、上記基材の表面に上記クロムめっき膜を形成する。また、上記プラズマ処理工程においては、上記クロムめっき膜の表面にプラズマ処理を施す。これにより、上記クロムめっき膜の表面が改質されて上記酸化皮膜(不動態皮膜)が形成され、上記基材の表面に上記酸化皮膜と上記クロムめっき膜との上記複合皮膜を形成することができる。
【0012】
本発明においては、上記のごとく、上記クロムめっき膜の表面に上記プラズマ処理を行っている(プラズマ処理工程)。そのため、上記酸化皮膜の形成が促進され、例えば数分という短時間で、耐腐食性に優れたクロムの上記酸化皮膜を形成することができる。
さらに、上記プラズマ処理は、上記基材の材質に関係なく実施することができる。そのため、例えば耐熱性の低い樹脂等からなる上記基材に形成された上記クロムめっき膜に対しても、上記プラズマ処理を行うことによって上記酸化皮膜を形成することができる。
【0013】
プラズマ処理によるクロムの酸化皮膜の形成促進メカニズムは明確ではないが、次のようにして起こると考えられる。
即ち、プラズマ処理を行うと、プラズマ放電によって、酸素原子、酸素正イオン、酸素ラジカル、OHラジカル、さらにオゾン等が発生する。これらは、酸素分子よりも酸化力が強く、大気雰囲気に比べて、上記クロムめっき膜の表面の酸化を著しく促進することができると考えられる。その結果、上記クロムめっき膜の表面に耐食性に優れた上記酸化皮膜、即ち水和オキシ水酸化クロム(CrOOH)の層が生成すると推察される。
【0014】
また、上記プラズマ処理工程においては、NaCl濃度が5重量%でpH10〜11のNaCl水溶液中で、Ag/AgCl電極を基準電極としたときの上記複合皮膜の自然電極電位が−0.3V以上となるように制御して、上記プラズマ処理を行う。このような自然電極電位を有する上記複合皮膜は、優れた耐食性を長期間発揮することができる。
【0015】
以上のように、本発明によれば、基材の種類に関係なく、短時間で、耐腐食性に優れたクロムめっき製品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
本発明の製造方法においては、めっき工程と、プラズマ処理工程とを行うことにより、基材の表面に、クロムめっき膜と酸化皮膜との複合皮膜が形成されたクロムめっき製品を製造する。
【0017】
上記めっき工程においては、上記基材の表面にクロムめっきを施して、上記クロムめっき膜を形成する。具体的には、クロムめっきは、例えば電気めっき法やスパッタリングによるドライクロムめっき等によって行うことができる。
上記クロムめっき膜の厚みは、0.05μm〜5.0μmであることが好ましい。
クロムめっき膜の厚みが0.05μm未満の場合には、クロム特有の白銀色の美的外観を充分に発揮できなくなるおそれがある。また、腐食耐久性の確保が困難になるおそれがある。一方、5.0μmを越える場合には、上記酸化皮膜を形成させる意義が薄れてしまうおそれがある。上記クロムめっき膜の厚みが5.0μmを越える場合には、酸化皮膜(不動態皮膜)を形成しなくとも充分な腐食耐久性を確保できるからである。
【0018】
上記基材としては、例えば鉄、アルミニウム合金、亜鉛合金、及びステンレス、等の金属、又はABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)樹脂、PP(ポリプロピレン)樹脂、及びPC(ポリカーボネート)樹脂等の樹脂等からなるものを用いることができる。
【0019】
好ましくは、上記基材としては、上記金属又は上記樹脂からなる素材の表面にニッケルめっき層が形成されたものを用いることがよい。
この場合には、上記ニッケルめっき層上に上記クロムめっき膜が積層形成された上記クロムめっき製品を作製することができる。その結果、上記クロムめっき製品の表面の美的外観をより長期間維持させることができる。
即ち、上記クロムめっき膜と上記ニッケルめっき層とでは、上記ニッケルめっき層の方が電気化学的に腐食し易い。そのため、腐食が起こるときには、上記クロムめっき膜の下地となる上記ニッケルめっき層の腐食が優先的に起こる。それ故、上記クロムめっき膜特有の白銀色の美的装飾性をより長期間維持させることができる。
上記ニッケルめっき層は、例えば電気メッキ法等によって、厚さ約5μm〜40μmで形成することができる。
【0020】
また、上記ニッケルめっき層は、上記クロムめっき膜側に形成された光沢ニッケルめっき層と、上記素材側に形成された半光沢ニッケルめっき層とからなることが好ましい。 この場合には、上記クロムめっき製品の耐食性をより一層向上させることができる。
即ち、上記光沢ニッケルめっき層と上記半光沢ニッケルめっき層とを比較すると、上記半光沢ニッケルめっき層の方が貴電位シフトである。この電位差によって、腐食の進行は、光沢ニッケルめっき層内で横方向に進行し、半光沢ニッケルめっき層への腐食の進展を抑制することができる。
なお、一般に、上記光沢ニッケルめっき層は、例えば0.05wt%以上のSを含有するニッケルめっき層のことであり、上記半光沢ニッケルめっき層は、Sを含有しないニッケルめっき層やSの含有量が例えば0.05wt%未満のニッケルめっき層のことである。上記光沢ニッケルめっき層と上記半光沢めっき層との硫黄の含有量の違いは、例えば硫黄を含む光沢剤等の含有量の違いによって生じる。
【0021】
また、上記ニッケルめっき層においては、上記光沢ニッケルめっき層の上記クロムめっき膜側に、さらにジュールニッケルめっき層を形成することができる。ジュールニッケルめっき層は、非電導性微粒子を含有するニッケルめっき層である。上記ジュールニッケルめっき層が形成された基材に上記クロムめっき膜を形成すると、上記ジュールニッケル層において上記非電導性微粒子が分散されている部分は、上層のクロムめっきが形成されない。即ち、この場合には、上記めっき工程において上記非電導性微粒子が抜け落ち、上記クロムめっき膜に多数の微細孔(マイクロポーラス)を形成させることができる。
また、上記のごとく、上記クロムめっき膜に多数の微細孔が形成されている場合には、該微細孔によって腐食電流が分散され、上記ニッケルめっき層の局部腐食を抑制することができる。そのため、上記クロムめっき製品の耐食性をより一層向上させることができる。
【0022】
また、上記基材としては、上記金属又は上記樹脂からなる素材の表面に銅めっき層が形成され、かつ該銅めっき層の表面にニッケルめっき層が形成されたものを用いることが好ましい。
この場合には、上記銅メッキ層が上記素材の表面平滑性を向上させることができる。
上記銅メッキ層は、例えば電気メッキ法等よって、厚さ5μm〜40μmで形成することができる。
【0023】
次に、上記プラズマ処理工程においては、上記クロムめっき膜の表面にプラズマ処理を施す。これにより、上記クロムめっき膜の表面に上記酸化皮膜を形成し、上記基材に、上記酸化皮膜と上記クロムめっき膜とからなる複合皮膜を形成することができる。
また、上記プラズマ処理工程においては、NaCl濃度が5重量%でpH10〜11のNaCl水溶液中で、Ag/AgCl電極を基準電極としたときの上記複合皮膜の自然電極電位が−0.3V以上となるように制御して上記プラズマ処理を行う。
上記複合皮膜の上記自然電極電位が−0.3V未満の場合には、上記酸化皮膜の耐食性が不充分となるおそれがある。なお、Ag/AgCl電極を基準電極としたときの上記複合皮膜の自然電極電位は、電位差計により測定することができる。
【0024】
また、上記プラズマ処理工程においては、上記クロムめっき膜を形成した上記基材を加熱しながら上記プラズマ処理を行うことが好ましい(請求項2)。
この場合には、上記プラズマ処理工程における上記酸化皮膜の形成をより一層促進させることができる。そのため、上記クロムめっき製品の耐食性をより一層向上させることができる。
上記プラズマ処理工程における加熱温度は、好ましくはが60℃以上がよい。加熱温度が60℃未満の場合には、上述の酸化皮膜の形成促進効果が充分に得られないおそれがある。また、上記プラズマ処理工程における加熱温度は、可能な限り高温であることが好ましい。加熱温度の上限は、加熱によって上記基材等が熱によって軟化し、変形が起こり始める温度とすることができる。具体的には、ABS樹脂の場合には約70℃程度であり、ステンレスの場合には、数百度程度である。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
次に、本発明の実施例につき、図1〜図3を用いて説明する。
本例においては、図1に示すごとく、クロムめっき膜21と、これを被覆するクロムの酸化皮膜22との複合皮膜2が基材3の表面に形成されたクロムめっき製品1を製造する。本例の製造方法においては、めっき工程とプラズマ処理工程とを行う。
【0026】
めっき工程においては、基材3の表面にクロムめっきを施して、クロムめっき膜21を形成する。プラズマ処理工程においては、クロムめっき膜21の表面にプラズマ処理を施して、クロムめっき膜21と酸化皮膜22との複合皮膜2を形成する。本例において、基材3としては、樹脂からなる成形体の素材31の表面に銅めっき層32が形成され、かつその表面にニッケルめっき層33が形成されたものを用いる。また、プラズマ処理工程においては、NaCl濃度が5重量%でpH10〜11のNaCl水溶液中で、Ag/AgCl電極を基準電極としたときの複合皮膜2の自然電極電位が−0.3V以上となるように制御する。
【0027】
以下、本例の製造方法につき、具体的に説明する。
まず、素材31としてABS樹脂からなる板状の成形体を準備した。
次に、素材31の表面に電気メッキ法により銅めっきを施して、銅めっき層32を形成した。また、銅メッキ層32の表面に電気メッキ法によりニッケルめっき層33を形成した。ニッケルめっき層33としては、電気メッキ法により、半光沢ニッケルめっき層34を形成し、その上に光沢ニッケルめっき層35を形成し、さらにその上にジュールニッケルめっき層(図示略)を形成した。
【0028】
次に、上記のようにして素材31上に銅メッキ層32とニッケルめっき層33とを形成してなる基材3の表面に、電気メッキ法によりクロムめっきを施して、クロムめっき膜21を形成した(めっき工程)。クロムめっき後の基材の寸法は、およそ縦100mm、横50mm、厚さ3mmであった。
【0029】
次に、図2に示すごとく、クロムめっき膜21を形成した基材3の表面にプラズマ処理を施した。プラズマ処理は、プラズマトリート社製のプラズマ発生装置4(ジェネレーター:FG1001及びノズル:RE1004)を用いて、出力245〜246V、電流5.0〜5.9A、エアー圧0.2MPaという条件で行った。また、プラズマ処理においては、ノズル41とクロムめっき膜21との距離Dを7mm、処理スピードL/Sを10m/minとし、クロムめっき膜21の全面にプラズマを照射するプラズマ処理を合計2回行った。なお、プラズマ処理は、ノズル41の回転をさせながら行った。ノズル41の回転をオンにすると、プラズマ処理の処理幅が約20mmとなり、マイルドな条件のプラズマ処理となる。
【0030】
このようにしてプラズマ処理を行うことにより、図1に示すごとく、クロムめっき膜21の表面に酸化皮膜22が形成され、基材3上にクロムめっき膜21と酸化皮膜22との複合皮膜2が形成されたクロムめっき製品1を作製した。これを試料E1とする。
【0031】
次に、クロムめっき製品(試料E1)1の複合皮膜2の自然電極電位を測定した。
具体的には、まず、図3に示すごとく、5重量%のNaCl水溶液を準備した。このNaCl水溶液に0.5重量%の炭酸ナトリウムを添加し、pH11に調整したNaCl水溶液50(35℃)を作製した。次いで、このNaCl水溶液50中に、基準電極5としてのAg/AgCl電極とクロムめっき製品1(試料E1)とを配置し、電位差計55によって、複合皮膜2の自然電極電位を測定した。その結果、試料E1においては、複合皮膜2の自然電極電位が−0.3Vとなっていることが確認できた(表1参照)。
【0032】
次に、上記試料E1のクロムめっき製品1について、下記の腐食試験を行った。
「腐食試験」
まず、カオリン30gと、塩化カルシウム10gと、水50mlとを混合した泥状の腐食促進剤を上記試料E1の酸化皮膜に固着させ、常温で放置した。その後、クロム層(複合皮膜)の溶解によって生じる緑色のスポットの有無を目視にて判定した。判定基準は、CASS JIS D 0201の規定に従って、CASS試験のレイティングNo.がNo.9.8以下となったときに、腐食が発生したと判断した。そして、腐食促進剤の固着から腐食発生までの時間を測定し、1週間以上腐食が発生しなかった場合を◎と評価し、24時間以上一週間未満において腐食が発生した場合を○と評価し、24時間未満で腐食が発生した場合を×と評価した。その結果を後述の表1に示す。
【0033】
また、本例においては、プラズマ処理の条件及び複合皮膜の自然電極電位を変えて、さらに2種類のクロムめっき製品(試料E2及び試料E3)を作製した。
試料E2は、ノズルを回転させずにプラズマ処理を行った点を除いては、上記試料E1と同様にして作製したものである。ノズルの回転をオフにすると、プラズマ処理の処理幅が約4mmとなり、よりハードな条件となる。
上記試料E2についても上記試料E1と同様にして、自然電極電位を測定したところ、試料E2の自然電極電位は、−0.26Vであった。
【0034】
また、試料E3は、プラズマ処理工程において、加熱しながらプラズマ処理を行った点を除いては上記試料E1と同様にして作製したものである。
具体的には、まず、上記試料E1の場合と同様にしてめっき工程を行って、クロムめっき膜を形成した基材を作製した。次いで、この基材を温度70℃に加熱した状態で、上記試料E1と同様にしてプラズマ処理工程を行い、クロムめっき製品(試料E3)を作製した。
上記試料E3についても、上記試料E1と同様にして、自然電極電位を測定したところ、試料E3の自然電極電位は、−0.15Vであった。
【0035】
また、本例においては、上記試料E1〜試料E3の比較用として、プラズマ処理を施していないクロムめっき製品(試料C1)を作製した。
具体的には、試料C1は、上記めっき工程を行った後、プラズマ処理工程を行わなかった点を除いては上記試料E1と同様にして作製したものである。
上記試料C1についても、上記試料E1と同様にして、自然電極電位を測定したところ、試料C1の自然電極電位は、−0.61Vであった。
【0036】
さらに本例においては、上記試料E1〜試料E3の比較用として、プラズマ処理工程の条件を変えて上記自然電極電位が−0.3未満となる5種類のクロムめっき製品(試料C2〜試料C6)を作製した。
具体的には、試料C2は、プラズマ処理の処理回数を1回に変更した点を除いては上記試料E1と同様にして作製したものである。
試料C2についても、上記試料E1と同様にして、自然電極電位を測定したところ、試料C2の自然電極電位は、−0.44Vであった。
【0037】
試料C3は、ノズルとテストピースとの距離Dを5mm、処理スピードL/Sを5m/min、処理回数を1回に変更した点を除いては上記試料E1と同様にして作製したものである。
試料C3についても、上記試料E1と同様にして、自然電極電位を測定したところ、試料C3の自然電極電位は、−0.45Vであった。
また、試料C4は、ノズルとテストピースとの距離Eを5mm、処理回数を1回に変更した点を除いては上記試料E1と同様にして作製したものである。
試料C4についても、上記試料E1と同様にして、自然電極電位を測定したところ、試料C4の自然電極電位は、−0.44Vであった。
【0038】
試料C5は、ノズルとテストピースとの距離Dを5mm、処理スピードL/Sを15m/min、処理回数を1回に変更した点を除いては上記試料E1と同様にして作製したものである。
試料C5についても、上記試料E1と同様にして、自然電極電位を測定したところ、試料C5の自然電極電位は、−0.43Vであった。
また、試料C6は、ノズルの回転を無くし、処理回数を1回に変更した点を除いては、上記試料E1と同様にして作製したものである。
試料C6についても、上記試料E1と同様にして、自然電極電位を測定したところ、試料C6の自然電極電位は、−0.34Vであった。
【0039】
次いで、上記試料E2、E3、及び上記試料C1〜試料C6の各クロムめっき製品について、上記試料E1と同様にして腐食試験を行った。その結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1より知られるごとく、試料C1と他の試料(試料E1〜試料E3及び試料C2〜試料C6)とを比較すると、プラズマ処理を行うことにより、クロムめっき膜の表面が貴電位化することがわかる。また、試料E1〜試料E3と試料C1〜試料C6とを比較して知られるごとく、上記自然電極電位が−0.3V以上になるように制御してプラズマ処理を行うことにより、クロムめっき膜と酸化皮膜と複合皮膜は、優れた耐食性を発揮できることがわかる。
さらに、加熱しながらプラズマ処理を行うことにより、より一層優れた耐食性を発揮できることがわかる(試料E3参照)。
【0042】
また、本例においては、図1に示すごとく、プラズマ処理を行うことにより酸化皮膜22を形成している。そのため、短時間で酸化皮膜22を形成できると共に、ABS樹脂を含む基材31に対しても、基材31を破損させることなく酸化皮膜22を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1にかかる、クロムめっき製品の表面部分の断面図。
【図2】実施例1にかかる、プラズマ処理工程を示す説明図。
【図3】実施例1にかかる、自然電極電位の測定方法を示す説明図。
【図4】クロムめっき製品の表面部分の断面図。
【符号の説明】
【0044】
1 クロムめっき製品
2 複合皮膜
21 クロムめっき膜
22 酸化皮膜
3 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロムめっき膜と、該クロムめっき膜を被覆するクロムの酸化皮膜との複合皮膜が、基材の表面に形成されたクロムめっき製品の製造方法において、
上記基材の表面にクロムめっきを施して、上記クロムめっき膜を形成するめっき工程と、
上記クロムめっき膜の表面にプラズマ処理を施して、上記クロムめっき膜の表面に上記酸化皮膜を形成するプラズマ処理工程とを有し、
該プラズマ処理工程においては、NaCl濃度が5重量%でpH10〜11のNaCl水溶液中で、Ag/AgCl電極を基準電極としたときの上記複合皮膜の自然電極電位が−0.3V以上となるように制御して、上記プラズマ処理を行うことを特徴とするクロムめっき製品の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、上記プラズマ処理工程においては、上記クロムめっき膜を形成した上記基材を加熱しながら上記プラズマ処理を行うことを特徴とするクロムめっき製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−56282(P2007−56282A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239871(P2005−239871)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【Fターム(参考)】