説明

クロレラ・ブルガリスおよびこれを用いたバイオレメディエーション方法、ならびにバイオリアクタおよびこれを用いた有害物質除去方法。

【課題】有害化合物の除去処理において、被処理物の高温化という外乱に耐えうるクロレラ・ブルガリスおよびこれを用いたバイオレメディエーション方法、ならびにバイオリアクタおよびこれを用いた有害物質除去方法を提供する。
【解決手段】フェノール性水酸基を持つ有害化合物の除去能を有するクロレラ・ブルガリスであって、15〜42℃の温度範囲で生育可能なクロレラ・ブルガリスを、フェノール性水酸基を有する有害化合物を含む廃水や土壌に接触させることにより、廃水や土壌に含有されるフェノール性水酸基を有する有害化合物を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール性水酸基を持つ有害化合物の除去能を有するクロレラ・ブルガリスおよびこれを用いたバイオレメディエーション方法、ならびにバイオリアクタおよびこれを用いた有害物質除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微細藻類を利用してフェノール性水酸基を持つ有害化合物の除去を行った例は、国内外の研究者によって既に報告されている。例えば、非特許文献1及び2には、微細藻類クロレラ・ファスカを利用した2,4−ジクロロフェノール及びビスフェノールAの除去法についてそれぞれ報告がなされている。
【0003】
また、一般的に微生物をバイオリアクタとして廃液処理などに使用することは、例えば、非特許文献3などで知られている。また、非特許文献4及び5では、固定化した微細藻類でリン酸やアンモニアの除去を行った結果が報告されている。
【0004】
【非特許文献1】N.Tsuji et al.,Photosynthesis−dependent removal of 2,4−dichlorophenol by Chlorella fusca var.vacuolata.Biotechnology Letters,Vol.25,p.241−244.(2003).
【非特許文献2】T.Hirooka et al.,Biodegradation of bisphenol A and disappearance of its estrogenic activity by the green alga Chlorella fusca var.vacuolata.Environmental Toxicology and Chemistry,Vol.24,p.1896−1901.(2005).
【非特許文献3】須藤隆一編,環境微生物実験法, 154〜189頁(講談社刊1988年)。
【非特許文献4】N.F.Y.Tam and Y.S.Wong,Effect of immobilized microalgal bead concentrations on wastewater nutrient removal.Environmental Pollution,Vol.107,p.145−151(2000).
【非特許文献5】L.E.de−Bashan et al.,Romoval of ammonium and phosphorus ions from synthetic wastewater by the microalgae Chlorella vulgaris coimmobilized in alginate beads with the microalgae growth−promoting bacterium Azospirellum brasilence.Water Research,Vol.36,p.2941−2948(2002).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内分泌攪乱作用を示すクロロフェノール等のフェノール性水酸基を持つ有害化合物の除去において、これまで提案されている微生物を用いた場合、外乱により有害化合物を含有する被処理水が40℃近くの高温状態となった際に、微生物は被処理水中でほぼ死滅状態となってしまうので、その後、被処理水が25℃〜35℃の適温状態に下がっても、微生物による有害化合物の除去を行うことができないという問題がある。
そこで、本発明は、有害化合物の除去処理において、被処理物の高温化という外乱に耐えうるクロレラ・ブルガリスおよびこれを用いたバイオレメディエーション方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、宮崎県および近隣の県の池、河川、水田、温泉等から採取した試水(すべて淡水)から分離して集積培養した微細藻類株(クロレラ・ブルガリス)の中に、クロロフェノール等のフェノール性水酸基を持つ有害化合物の除去能を有し、42℃でも生育可能な光合成微生物を見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、フェノール性水酸基を持つ有害化合物の除去能を有するクロレラ・ブルガリスであって、15〜42℃の温度範囲で生育可能なクロレラ・ブルガリスであることを特徴とする。
【0008】
また、本発明のクロレラ・ブルガリスは、5〜15v/v%CO通気下で生育可能であることを特徴とする。
このクロレラ・ブルガリスを用いれば、有害化合物の除去処理とともにCOの固定も可能であるので、有害化合物の除去処理とCOの削減とを同時に並行して実施することができる。
【0009】
また、本発明者は、上記分離した微細藻類株について研究を進めた結果、とくに、受託番号FERM P−20906を有するクロレラ・ブルガリス、および受領番号FERM AP−20963を有するクロレラ・ブルガリスが、フェノール性水酸基を有する有害化合物の優れた除去能を有することがわかった。
【0010】
また、本発明者は、フェノール性水酸基を有する有害化合物を含む水溶液中に、本発明のクロレラ・ブルガリスを添加して撹拌したり、フェノール性水酸基を有する有害化合物を含む土壌に本発明のクロレラ・ブルガリスを添加したりすると、その直後に、フェノール性水酸基を有する有害化合物が速やかに減少することを明らかにした。
【0011】
すなわち、本発明のバイオレメディエーション方法は、フェノール性水酸基を有する有害化合物を含む廃水に、少なくとも本願の第1から第4のいずれかの発明におけるクロレラ・ブルガリスを接触させる工程を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明のバイオレメディエーション方法は、フェノール性酸基を有する有害化合物を含む土壌に、少なくとも本願の第1から第4のいずれかの発明に記載のクロレラ・ブルガリスを接触させる工程を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明のバイオリアクタは、酸性多糖類のゲルによって形成され、フェノール性水酸基を持つ有害化合物の除去能を有するクロレラ属の微細藻類を担持したビーズを充填したものであることを特徴とする。特に、クロレラ属の微細藻類を、本願の第1から第4のいずれかの発明に記載のクロレラ・ブルガリスとするとよい。
【0014】
また、本発明の有害物質除去方法は、前記バイオリアクタを、フェノール性水酸基を有する有害化合物を含む水溶液中に浸漬し、当該水溶液から有害化合物を除去することを特徴とする。
【0015】
クロレラ属の微細藻類が担持された担持体の形態としては、従来、シート状のもの、あるいはネット状のものなどが知られているが、このような形態の担持体は、長期間にわたって十分な機械的強度を維持することが難しいので、これらの担持体をバイオリアクタとして廃水中に含まれる有害化合物の除去に用いると担持体が崩壊しやすく、長期間にわたって、廃水中に含まれる有害化合物の除去を十分に行うことができないという問題がある。しかしながら、本発明によれば、シート状やネット状のものに担持されたクロレラ属の微細藻類を用いる場合と比べるとビーズ1つ1つの機械的強度が高いので、これらを充填したバイオリアクタを、フェノール性水酸基を有する有害化合物を含む水溶液中に浸漬しても、ビーズが崩壊することなくその形状が維持され、長期間にわたって廃水中に含まれる有害化合物の除去を行うことができる。
【0016】
また、クロレラ属の微細藻類を担持したビーズは機械的強度が確保されるため、有害化合物の除去処理に使用した後の回収も容易であり、回収後にさらにこれを使用して繰り返し有害化合物の除去処理を行うこともできる。また、クロレラ属の微細藻類はビーズに担持されているので、除去処理を繰り返し行う際に、クロレラ属の微細藻類の回収に伴う遠心分離操作を必要としないので、作業が容易となる。
【0017】
なお、シート状やネット状の担持体に十分な強度を持たせるために、廃水中に含まれる有害化合物の除去を行う際に十分な機械的強度を有する基材上に、シート状やネット状の担持体を形成することも考えられるが、そうなると、担持体の形成方法が煩雑である。しかしながら、本発明によれば、クロレラ属の微細藻類が担持されたビーズは、たとえば、クロレラ属の微細藻類を懸濁した酸性多糖類のゲルを所定の溶液中に滴下するだけで得ることができ、製造が容易である。さらに、ビーズ状にすることにより、シート状やネット状とする場合よりも、有害化合物を含む水溶液に接触する表面積を増加させることができ、有害化合物の処理能力の増大を図ることもできる。
【0018】
なお、クロレラ属の微細藻類は、培養液から遠心分離により回収し、これをビーズの形状に調製して用いる。クロレラ属の微細藻類の担持方法としては、包括法、物理吸着法、マイクロカプセル法などを用いることができる。包括法を用いる場合、担体としては、アルギン酸カラギーナンなどの多糖類、硬化性樹脂、ポリアクリルアミド等のゲル化剤などを用いることができる。
【0019】
なお、酸性多糖類としては、アルギン酸カルシウムを用いる方が望ましい。アルギン酸カルシウムは取り扱いが容易であり、また、ビーズの形成も容易である。
【0020】
上記フェノール性水酸基を有する有害化合物としては、内分泌攪乱作用を示す有害化合物、たとえば、4−クロロフェノール(4CP)のようなクロロフェノール類、ビスフェノールAなどが挙げられる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、フェノール性水酸基を持つ有害化合物の除去能を有し、微細藻類の培養や生育において比較的高温域とされる温度領域、すなわち30〜42℃程度の温度でも生育可能なクロレラ・ブルガリスであるので、このクロレラ・ブルガリスを用いれば、被処理物が外乱によって40℃程度の高温となっても、死滅することなく生育することができ、有害化合物の除去処理を行うことができる。また、高温の燃焼ガスに含まれるCOの固定によって派生したクロレラ・ブルガリスを有効利用することができる。また、これを用いることにより、COの固定による排出削減とバイオレメディエーションを並行して実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態におけるクロレラ・ブルガリスを用いたフェノール性水酸基を有する有害化合物の除去法について詳細に説明する。本発明の実施の形態にかかるフェノール性水酸基を有する有害化合物の除去に用いるクロレラ・ブルガリスは、受託番号FERM P−20906を有するクロレラ・ブルガリス(以下、「クロレラ・ブルガリスMKJ−34」と称す。)、または本出願人が、独立法人産業総合研究所特許生物寄託センターに寄託して、平成18年7月18日に受領された受領番号FERM AP−20963を有するクロレラ・ブルガリス(以下、「クロレラ・ブルガリスC−1」と称す。)である。以下、このクロレラ・ブルガリスMKJ−34及びクロレラ・ブルガリスC−1の単離方法や形態解析の結果について説明する。また、これらを使用したバイオリアクタ、ならびにそれを用いた有害物質の除去方法についても詳細に説明する。
【実施例】
【0023】
(実施例1)クロレラ・ブルガリスMKJ−34の単離方法
1−1:培地
熊本県菊池市の水田から採取した試水に含まれる微細藻類を、MBM培地で集積培養した。MBM培地は、x1 MBMmediumをオートクレーブ滅菌し、濾過滅菌したx100 Fe mixtureとx100 A5 metal mixtureをそれぞれ100分の1量加えて使用した。それぞれの組成を以下に示す。
xl MBM medium:
KNO 25mg,MgSO・7HO 7.5mg,KHPO 7.5mg,KHPO 17.5mg,NaCl 2.5mg,CaCl・2HO 1mg,NaHCO 50mg,Fe mixture 0.1ml,A5 metal mixture 0.1ml,
蒸留水99.8ml,pH6.0
x100 Fe mixture:FeSO・7HO 1g,蒸留水500ml,HSO2滴
x100 A5 metal mixture:HBO 286mg,MnSO・7HO 250mg,ZnSO・7HO 22.2mg,CuSO・HO 7.9mg,NaMoO 2.1mg,蒸留水100ml
【0024】
一方、微細藻類の高密度培養及び長期保存には、YPD培地(グルコース2%、ポリペプトン(和光純薬製)2%、酵母エキス(和光純薬製)2%)を使用して、2日間回転振とう培養を行った。
【0025】
1−2:単離方法
採取した試水を太陽光(間接光)照射下、40℃で2週間静置集積培養を行った。集積培養液を100培〜1000倍に滅菌水で希釈して終濃度50mg/lのアンピシリン及び2%の寒天を含むMBM平板培地に接種して30℃、光照射下で2週間静置培養を行い、生じた緑色を呈するコロニーから微細藻類の分離を行った。そして、この緑色コロニーを再度MBM平板培地に移し、シングルコロニーアイソレーションを繰り返し、単離微細藻類株とした。
【0026】
単離した微細藻類株の18S−rRNA遺伝子の塩基配列を決定し、ホモロジーを検索すると、既知のクロレラ・ブルガリスの18S−rRNA遺伝子と99.9%の相同性を示した。単離微生物は、18S−rRNA遺伝子の塩基配列及び形態的特徴並びにその生理学的性質からクロレラ・ブルガリスの新種と考えられ、この単離微生物をクロレラ・ブルガリスMKJ−34と命名した。
【0027】
1−3:形態的特徴
単離したクロレラ・ブルガリスMKJ−34株の光学顕微鏡写真を図1に示す。単離微生物を光学顕微鏡で観察すると、図1に示すように、細胞形態は球形で、細胞膜は平滑、大きさは4−6μmであり、自生胞子嚢中に、2−8個の娘細胞が観察され、クロレラ・ブルガリスの特徴を示していた。
【0028】
1−4:生理学的特徴
(1)フェノール除去能を持つ
(2)5〜15v/v%CO通気下で生育できる
(3)独立栄養条件下(光照射下)と従属栄養条件下の両方で生育できる
【0029】
なお、クロレラ・ブルガリスMKJ−34株の長期保管は、YPDスラント培地上、30℃下で培養し、コロニー形成を肉眼で確認(5−7日)の後、低温(例えば4℃)で保管するのが望ましい。コロニー形成を肉眼確認(約4日)の後、低温(例えば、4℃)で保管し保存菌株とする。この保存菌株は数ヶ月毎、標準的には6か月毎で新しいYPD寒天平板培地に植え替える。
【0030】
(実施例2)クロレラ・ブルガリスC−1の単離方法
実施例1と同様の手順で、鹿児島県曽於郡大崎町の池から採取した試水から、上述したクロレラ・ブルガリスMKJ−34とは別の微細藻類株を単離した。
【0031】
2−1:単離方法
より詳細には、まず、試水をMBM培地に接種して太陽光(間接光)照射下、25℃で2週間、藻類の集積培養を行った。集積培養液は2500倍〜10000倍に希釈して再度25℃で2週間集積培養を繰り返した。次に集積培養液を終濃度50mg/lのアンピシリン及び2%の寒天を含むMBM平板培地に接種して30℃、光照射下で2週間静置培養を行い、生じた緑色を呈するコロニーから微細藻類の分離を行った。この緑色コロニーを再度MBM平板培地に移し、シングルコロニーアイソレーションを繰り返し、単離微細藻類株とした。
【0032】
単離した微細藻類株の18S−rRNA遺伝子の塩基配列を決定し、ホモロジーを検索すると、既知のクロレラ・ブルガリスの18S−rRNA遺伝子と99%の相同性を示した。単離微生物は、18S−rRNA遺伝子の塩基配列及び形態的特徴並びに生理学的性質からクロレラ・ブルガリスの新種と考えられ、この単離微生物をクロレラ・ブルガリスC−1と命名した。
【0033】
2−2:形態的特徴
単離したクロレラ・ブルガリスC−1株の光学顕微鏡写真を図2に示す。単離微生物を光学顕微鏡で観察すると、図2に示すように、細胞形態は球形で、細胞膜は平滑、大きさは6−9μmで、葉緑体は腕状であり、クロレラ・ブルガリスの特徴を示していた。
【0034】
2−3:生理学的特徴
(1)フェノール除去能を持つ
(2)5〜15v/v%CO通気下で生育できる
(3)独立栄養条件下(光照射下)と従属栄養条件下の両方で生育できる
【0035】
なお、クロレラ・ブルガリスC−1の長期保管は、実施例1の場合と同様に、YPDスラント培地上、30℃下で培養した藻体を15〜20℃で保存するのが望ましい。なお、クロレラ・ブルガリスC−1は、4℃で2ヶ月以上放置すると増殖できなくなることがわかった。
【0036】
(実施例3)クロレラ・ブルガリスMKJ−34のフェノール性水酸基を持つ有害化合物除去能の評価
【0037】
3−1:フェノール類の定量方法
まず、反応液中の各種フェノール類の定量方法について以下に示す。
被試験液1mlに試薬A(0.32%4−アミノアンチピリン水溶液、0.32Nアンモニアを有する有害化合物の水溶液、蒸留水を1:3.28:6.33の比率で混合した水溶液)を764μl、および試薬B(0.32%ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム(フェリシアン化カリウム)水溶液)を236μl加え、室温下で5分間放置した後に490nmにおける吸光度を測定した。なお、クロレラ・ブルガリスを含まない緩衝液に有害化合物を添加したものを発色させて比較対照とし、これより有害化合物の消失率を算出した。本比色法で得られた結果は、高速液体クロマトグラフィーを用いた定量法によって得られた結果とよく相関していた。
【0038】
3−2:クロレラ・ブルガリスMKJ−34の除去能の評価
実施例1で保管した保存菌株から白金耳を用いてコロニーをかきとり、YPD液体培地に移植し、好ましくは30℃で3日間振盪培養した。これを前培養藻体として、これを別のYPD培地に移植し、同様の培養条件で振盪培養した。この培養液を8000rpm、10分間の遠心分離によって分離し、回収した藻体をフェノール性水酸基を持つ有害化合物除去に使用した。本実施例では、フェノール性水酸基を有する有害化合物の一つである4−クロロフェノール(4CP)を含む水溶液を用い、クロレラ・ブルガリスMKJ−34の4CPの除去能を測定した。
【0039】
3−2で示した方法で予め調製したクロレラ・ブルガリスMKJ−34の藻体を用いて、4CPを含む水溶液から、4CPの除去を試みた。評価に使用した水溶液中の4CP濃度を、3−1に示す方法に従って4−アミノアンチピリンによる発色後、比色定量法にて測定した。異なる量の藻体を3mlの50mMリン酸緩衝液(pH7.0)中に懸濁し、これに、4CPを0.1mM(13ppm)の終濃度になるように添加して、160rpm、30℃下で24時間撹拌した。図3に示すように、4CPの消失は藻体の濃度に依存しており、溶液中の藻体の含有量が4.0mg乾燥重/ml程度では、4CPの消失率は最大で20%以下と低い値であったが、藻体の濃度を高くすることによって消失率を53%にまで上げることができた。
【0040】
藻体を4CPと24時間インキュベートした後に藻体を回収して、繰り返し4CPとインキュベートを行ったところ少なくとも7回までは除去率が著しく低下することなく、4CPを除去することができた。
【0041】
(実施例4)クロレラ・ブルガリスC−1のフェノール性水酸基を持つ有害化合物除去能の評価
クロレラ・ブルガリスMKJ−34と同様の方法で、クロレラ・ブルガリスC−1の藻体を調製して4CPの除去について調べた。図4に示すように、藻体の濃度を高くすることによって16時間後に0.1mM(13ppm)の4CPを最高76%消失させることができた。また、クロレラ・ブルガリスC−1を用いた場合、MKJ−34株よりも低い藻体濃度、すなわち15mg−dry cells/ml以下の藻体濃度で効率的に4CPを消失させることが可能であることがわかった。
【0042】
(実施例5)比較例
クロレラ・ブルガリスMKJ−34とクロレラ・ブルガリスC−1以外の公知のクロレラ属の微細藻類についても、実施例3または実施例4と同様の手順で4CP除去能を試験した。公知のクロレラ属の微細藻類は、東京大学分子細胞生物学研究所IAMカルチャーコレクションのタイプカルチャーから、以下の6藻類株をランダムに選択した。
【0043】
クロレラ・ソロキニアナ IAM C−212 (Chlorella sorokiniana IAM C−212)
クロレラ・ケスレリ IAM C−531 (C.kessleri IAM C−531)
クロレラ・ブルガリス IAM C−536 (C.vulgaris IAM C−536)
クロレラ・ブルガリス IAM C−547 (C.vulgaris IAM C−547)
クロレラ・エスピー IAM C−628 (Chlorella sp. IAM C−628)
クロレラ・ブルガリス IAM C−629 (C.vulgaris IAM C−629)
試験の結果、上記6種類の藻類株は顕著な4CP除去能を示さないことがわかった。
【0044】
(実施例6)クロレラ・ブルガリスMKJ−34及びクロレラ・ブルガリスC−1の高温下での生育特性
クロレラ・ブルガリスMKJ−34及びクロレラ・ブルガリスC−1の生育に対する30〜45℃の範囲の温度の影響を調べた。なお、両藻類株をL字型試験管内に調製した20mlのMBM液体培地中、蛍光灯での光照射下(5000lux、12時間暗、12時間明のくり返し)で4日間振盪培養を行い、濁度(OD660)を測定することによって生育した藻体量を測定した。両藻類株は、少なくとも30〜42℃の範囲で生育可能であることが確認できた。30〜45℃の範囲での生育を図5に示す。
【0045】
(実施例7)クロレラ・ブルガリスMKJ−34及びクロレラ・ブルガリスC−1の高CO濃度下での生育特性
クロレラ・ブルガリスMKJ−34及びクロレラ・ブルガリスC−1について、COを高濃度に含むガス通気下での生育について調べた。両藻類株を300ml三角フラスコ内に調製した280mlのMBM液体培地(NaHCO無添加)中で、蛍光灯での光照射(5000lux、12時間暗、12時間明のくり返し)、35℃下の条件下で100v/v%COと空気(0.038v/v%CO)の混合ガスを通気しながら5日間培養を行い、濁度(OD660)を測定することによって生育した藻体量を測定した。図6に示すように、空気のみを通気した場合の両藻類株の生育は僅かであったが、5〜10v/v%CO通気下で良好に生育し、15v/v%のCOの通気下でも生育が可能であることが確認された。
【0046】
(実施例8)バイオレメディエーション方法
バイオレメディエーション方法としては、上記クロレラ・ブルガリスを、フェノール性水酸基を有する有害化合物を含む廃水、もしくは土壌に接触させることが挙げられるが、廃水に接触させる方法としては、包括法により、アルギン酸カルシウムのような酸性多糖類の塩に担持させて藻体ビーズとし、この藻体ビーズを充填したバイオリアクタを廃水中に浸漬する方が望ましい。以下に、本実施例におけるバイオリアクタならびに藻体ビーズの調製方法について説明する。
【0047】
図7に示すように、バイオリアクタは、フェノール性水酸基を持つ有害化合物の除去能を有するクロレラ属の微細藻類を酸性多糖類の1つであるアルギン酸カルシウムゲルに担持させ、これを藻体ビーズ1として円筒型のカラム2に充填したものである。
【0048】
円筒形のカラム2は、大きさが、直径3.8cm、内径1.8cm、高さ32cmであり、上部に、有害化合物を含む溶液(被処理水)を注入する注入口を、下部に、被処理水が排出される排出口を備えている。本実施例では、バイオリアクタに注入される被処理水を、温度を30℃に保った状態で被分解基質である有害化合物の終濃度が0.1mM(13ppm)になるように調製し、流速約0.1ml/minで流し込むことにより、連続的に処理を行うことができる。なお、カラム2としては円筒形のものに限るものではなく、藻体ビーズ1を充填させることが可能なものであればどのような容器であってもよい。
【0049】
微生物の担持法としては、包括法、物理吸着法、マイクロカプセル法などが知られているが、本実施例では、包括法で微細藻類の担持を行う。また、包括法の担体としては、アルギン酸カルシウムのような酸性多糖類の塩を用いる。酸性多糖類の塩を用いることにより、ビーズ状の形態を容易に付与することが出来る。
【0050】
アルギン酸カルシウムを担体として用いる場合は、藻体ビーズ1を以下のような手順で調製することが出来る。例えば、本実施例では、2%アルギン酸ナトリウム溶液中に所定の濃度のクロレラ・ブルガリスMKJ−34を懸濁した液体を5%塩化カルシウム水溶液中に攪拌しながら滴下した。すると、球状の固形ゲルが得られ、これを蒸留水で洗浄することにより、藻体ビーズ1を得ることが出来た。
【00510051】
上記方法で得られた藻体ビーズ3gを、0.1mMのフェノール類をpH7.0のリン酸緩衝液またはMOPS緩衝液に懸濁した被分解基質(フェノール性水酸基を持つ有害化合物)含有水3mlと共に温度30℃の試験管内に入れ、往復振とうによる攪拌を加えると、藻体ビーズ1に担持されたクロレラ・ブルガリスMKJ−34が有害化合物を除去することができた。
【0052】
なお、藻体ビーズ1を4CP含有水3mlと共に24時間振とうした後、ビーズの回収を繰り返し、その回数により4CP消失能力がどのように変化するかを調べた。図8に示すように、少なくとも7回までは除去率が著しく低下することなく、4CPを除去することができた。この結果からも明らかなように、バイオリアクタに充填された藻体ビーズ1は、繰り返し使用することが可能である。なお、藻体ビーズ1を長期間使用すると、藻体ビーズ1と被処理水との平衡状態が崩れて膨潤する場合があるので、この場合、被処理水には、カルシウム塩等、藻体ビーズ1と被処理水との平衡状態を維持するための塩を適量混合させて用いる方がよい。これにより、藻体ビーズ1を長期間使用することが可能となる。
【0053】
藻体ビーズ1を、円筒型のカラム2に充填してバイオリアクタとし、これを、4CPを含有する被処理水に浸漬したところ、図9に示すように、700mlの被処理水に含まれる4CPを、40〜80%の消失率で3日間連続的に除去することができた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、フェノール性水酸基を持つ有害化合物に対する優れた除去能を有し、30〜42℃程度の温度でも生育可能であるので、被処理物の高温化という外乱に耐えうるクロレラ・ブルガリスとして用いることができる。また、このクロレラ・ブルガリスを例えばバイオリアクタに組み込むことで、パルプ工場、合成有機化学工場などから排出される廃液に含まれる有害化合物含有水の処理のような閉鎖系でのバイオレメディエーションや有害化合物を含有する土壌の浄化などの屋外で実施する開放系のバイオレメディエーションに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】単離したクロレラ・ブルガリスMKJ−34の光学顕微鏡写真である。
【図2】単離したクロレラ・ブルガリスC−1の光学顕微鏡写真である。
【図3】異なる濃度のクロレラ・ブルガリスMKJ−34を添加した被処理水中の13ppmのフェノール性水酸基を有する有害化合物の消失率(%)を示す図である。
【図4】異なる濃度のクロレラ・ブルガリスC−1を添加した被処理水中の13ppmのフェノール性水酸基を有する有害化合物の消失率(%)を示す図である。
【図5】クロレラ・ブルガリスMKJ−34及びクロレラ・ブルガリスC−1の30〜45℃の範囲の温度下での生育状況を示す図である。
【図6】クロレラ・ブルガリスMKJ−34及びクロレラ・ブルガリスC−1のCOを高濃度に含むガス通気下での生育状況を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態におけるバイオリアクタの正面図である。
【図8】藻体ビーズによる4CPの繰り返し除去の過程を示した図である。
【図9】藻体ビーズを充填したバイオリアクタによる4CPの連続的除去の結果を示した図である。
【符号の説明】
【0056】
1 藻体ビーズ
2 カラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール性水酸基を持つ有害化合物の除去能を有するクロレラ・ブルガリスであって、15〜42℃の温度範囲で生育可能なクロレラ・ブルガリス。
【請求項2】
5〜15v/v%CO通気下で生育可能な請求項1記載のクロレラ・ブルガリス。
【請求項3】
寄託番号FERM P−20906を有する請求項1または2に記載のクロレラ・ブルガリス。
【請求項4】
受領番号FERM AP−20963を有する請求項1または2に記載のクロレラ・ブルガリス。
【請求項5】
フェノール性水酸基を有する有害化合物を含む廃水に、少なくとも請求項1から4のいずれかの項に記載のクロレラ・ブルガリスを接触させる工程を有することを特徴とするバイオレメディエーション方法。
【請求項6】
フェノール性水酸基を有する有害化合物を含む土壌に、少なくとも請求項1から4のいずれかの項に記載のクロレラ・ブルガリスを接触させる工程を有することを特徴とするバイオレメディエーション方法。
【請求項7】
酸性多糖類のゲルによって形成され、フェノール性水酸基を持つ有害化合物の除去能を有するクロレラ属の微細藻類を担持したビーズを充填したバイオリアクタ。
【請求項8】
前記クロレラ属の微細藻類は、請求項1から4のいずれかの項に記載のクロレラ・ブルガリスである請求項7記載のバイオリアクタ。
【請求項9】
請求項7または8に記載のバイオリアクタを、フェノール性水酸基を有する有害化合物を含む水溶液中に浸漬し、当該水溶液から前記有害化合物を除去する有害物質除去方法。
【請求項10】
前記酸性多糖類は、アルギン酸カルシウムであることを特徴とする請求項9記載の有害物質除去方法。
【請求項11】
前記フェノール性水酸基を有する有害化合物が、内分泌攪乱作用を示す有害化合物であることを特徴とする請求項9または10に記載の有害物質除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−43321(P2008−43321A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−250005(P2006−250005)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年2月23日 国立大学法人 宮崎大学主催の「平成17年度工学部物質環境化学科卒業論文発表会」において文書をもって発表
【出願人】(803000078)株式会社みやざきTLO (20)
【Fターム(参考)】