説明

グラウト組成物、それを用いたモルタル又はコンクリート、及びグラウト材料

【課題】 流動性に優れ、まだ固まらないグラウト材料の沈下や収縮を補償でき、10℃程度までの低温環境下においても初期の強度発現性に優れ、しかも、寸法安定性にも優れる、グラウト組成物、及びそれを用いたモルタル又はコンクリートを提供する。
【解決手段】 3CaO・SiO2固溶体、11CaO・7Al2O3・CaF2、及び無水セッコウを有効成分とする水硬性材料、アルミノケイ酸カルシウムガラスと無水セッコウを有効成分とする急硬材、高炉水砕スラグ微粉末、シリカフューム、水酸化カルシウム、高性能減水剤、並びに、凝結調整剤を含有してなるグラウト組成物であり、亜硝酸カルシウム及び/又は硝酸カルシウムを含有してなる該グラウト組成物であり、ガス発泡物質を含有してなる該グラウト組成物であり、該グラウト組成物と、骨材と、水とを配合してなるモルタル又はコンクリートであり、該モルタル又は該コンクリートからなるグラウト材料を構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木・建築業界において使用されるグラウト組成物、それを用いたモルタル又はコンクリート、及びグラウト材料に関する。
【背景技術】
【0002】
最近では、グラウト材料に要求される性能は益々高まってきており、特に、急硬性のグラウト材料のさらなる進展が望まれている。
急硬性のグラウト材料の要求物性としては、流動性が良好でその保持性に優れること、短期強度の発現性に優れること、及び寸法安定性に優れることなどが挙げられ、これら全ての要求性能を満足することが求められている。
しかしながら、流動性の保持性能を満たそうとすると、短期強度の発現性が得られにくくなったり、逆に、短期強度の発現性を良好にしようとすると、流動性の保持時間が確保できなかったり、寸法安定性が悪くなったりして、急硬性のグラウト材料の開発は未だ充分とは言えず、さらなる改良が望まれている。
【0003】
例えば、高速道路等の補修では、早期に道路解放することが必要であるため、早期に実用強度を発現する、例えば、材齢3時間で24N/mm2以上の圧縮強度を発現する急硬性のグラウト材料の開発が待たれていた。
【0004】
そして、この用途における要求性能としては、流し込み可能な流動性を少なくとも10分以上確保できること、まだかたまらないモルタルが沈下しないこと、いわゆる、無収縮性を担保できること、材齢3時間で24N/mm2以上の圧縮強度を発現すること、ほどよい膨張性を与えることができること、長期的に寸法安定性があることなどが挙げられ、この要求性能を満たす急硬性のグラウト材料はいまだ存在しないのが現状であった。
【0005】
水硬性材料として、3CaO・SiO2固溶体、11CaO・7Al2O3・CaF2、及び無水セッコウを含有してなるものが提案されている(特許文献1、特許文献2、及び特許文献3参照)。
しかしながら、この水硬性材料を用いてグラウト材料を調製しても、流し込み可能な流動性を得ることができず、また、材齢3時間で24N/mm2以上の圧縮強度を発現することもできないものであった。さらには、まだ固まらないグラウト材料の沈下や収縮を補償できるものでもなかった。
【0006】
一方、アルミノケイ酸カルシウムガラスと無水セッコウを主体とするセメント混和材やこれを含有するセメント組成物も知られている(特許文献4参照)。
また、カルシウムアルミネートとセッコウ類からなる急硬成分を5〜50%含有する急硬セメントに1価及び/又は3価の金属の硫酸塩等を配合した超速硬セメント組成物も知られている(特許文献5参照)。
しかしながら、これらのセメント組成物を用いてグラウト材料を調製しても、流し込み可能な流動性を10分以上確保することができるものの、材齢3時間で24N/mm2以上の圧縮強度を発現できないものであった。
【0007】
本発明者らは、特定の急硬性セメントと、特定の急硬材と特定の凝結促進剤を併用することにより、一定の間、流動性を確保でき、早期に高い強度を発現可能なグラウト材料の調製が可能なことを見いだし、先に、出願した(特許文献6)。
しかしながら、このグラウト材料は、温度依存性が極めて大きく、20℃以上の条件では、良好な強度発現性を示すものの、15℃以下の条件になると、早期に実用強度を発現できるものではなかった。
【0008】
本発明者は、数多くの実験を通して、特定のグラウト組成物を使用することによって、はじめて、前記要求性能を満たすグラウト材料の調製が可能となることを見出し本発明を完成するに至った。
【0009】
【特許文献1】特公昭49−030683号公報
【特許文献2】特公昭49−030684号公報
【特許文献3】特公昭51−044135号公報
【特許文献4】特開平04−097932号公報
【特許文献5】特開平03−012350号公報
【特許文献6】特開平17−170710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、流動性に優れ、まだ固まらないグラウト材料の沈下や収縮を補償でき、10℃程度までの低温環境下でも初期の強度発現性に優れ、しかも、寸法安定性にも優れるグラウト材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、3CaO・SiO2固溶体、11CaO・7Al2O3・CaF2、及び無水セッコウを有効成分とする水硬性材料、アルミノケイ酸カルシウムガラスと無水セッコウを有効成分とする急硬材、高炉水砕スラグ微粉末、シリカフューム、水酸化カルシウム、高性能減水剤、並びに、凝結調整剤を含有してなるグラウト組成物であり、水硬性材料、急硬材、高炉水砕スラグ微粉末、シリカフューム、及び水酸化カルシウムからなる結合材100部中、水硬性材料が48〜68部、急硬材が10部〜20部、高炉水砕スラグ微粉末が5〜25部、シリカフュームが1〜10部、及び水酸化カルシウムが1〜10部である該グラウト組成物であり、高性能減水剤が、ポリカルボン酸系高性能減水剤を、さらに、それとメラミン系高性能減水剤を含有してなる該グラウト組成物であり、凝結調整剤が、有機酸又はその塩からなる該グラウト組成物であり、亜硝酸カルシウム及び/又は硝酸カルシウムを含有してなる該グラウト組成物であり、ガス発泡物質を含有してなる該グラウト組成物であり、該グラウト組成物と、細骨材と、水とを配合してなるモルタルであり、水/結合材比が35〜50%である該モルタルであり、該モルタルと粗骨材とを配合してなるコンクリートであり、該モルタル又は該コンクリートからなるグラウト材料である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、流動性に優れ、まだ固まらないグラウト材料の沈下や収縮を補償でき、10℃程度までの低温環境下においても初期の強度発現性に優れ、しかも、寸法安定性に優れるグラウト材料を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。
【0014】
本発明で使用する水硬性材料は、クリンカー原料を、例えば、1,200〜1,600℃で焼成して、3CaO・SiO2固溶体と11CaO・7Al2O3・CaF2とを主体とするクリンカーを合成し、粉砕した後に無水セッコウを加えて調製される。
クリンカー原料としては、生石灰、消石灰、及び石灰石等のCaO質原料、アルミナ、ボーキサイト、アルミ灰、ダイアスポア、長石、及び粘土等のAl2O3質原料、珪石、珪砂、白土、及び珪藻土等のSiO2質原料、並びに、ホタル石、氷晶石、フッ化カルシウム、フッ化ナトリウム、及びフッ化アルミニウムなどのF質原料が使用可能であり、その他、下水汚泥焼却灰、一般廃棄物、及び産業廃棄物も使用可能である。
3CaO・SiO2固溶体や11CaO・7Al2O3・CaF2の生成は、粉末X線回折装置を用いて判定することが可能である。
また、各鉱物の定量はX線回折リートベルト法によって行うことが可能であり、その定量ソフトには、例えば、Sietronics社の「SIROQUANT」を使用することが可能である。
【0015】
本発明で使用する3CaO・SiO2固溶体(以下、C3S固溶体という)とは、CaOをC、SiO2をSとするとC3S固溶体と表現されるものであり、CaOやSiO2を主成分とし、その他の成分として一般的にはAl2O3やMgOが含まれているものである。
【0016】
また、11CaO・7Al2O3・CaF2(以下、C11A7CaF2という)は、カルシウムアルミネートの一種であり、12CaO・7Al2O3にフッ素が固溶した化合物を総称するものである。ただし、C11A7CaF2中のフッ素Fのモル比は必ずしも1ではなく、通常は0.5〜1の間の値となっている。
【0017】
C3S固溶体、C11A7CaF2、及び無水セッコウを含有してなる水硬性材料は、C3S固溶体とC11A7CaF2を主体とするクリンカーを焼成し、後から無水セッコウを加えて調製される。
ここで、C3S固溶体とC11A7CaF2を主体とするクリンカーは、C3S固溶体やC11A7CaF2のほかに、微量の2CaO・SiO2固溶体やカルシウムアルミノフェライトを含有している。
なお、本発明では、C3S固溶体とC11A7CaF2とをそれぞれ別々に合成して混合したものでは、優れた短期強度発現性等の本発明の効果は得られない。
水硬性材料中のC3S固溶体やC11A7CaF2の含有量は特に限定されるものではないが、C3S固溶体60〜80部で、C11A7CaF240〜20部が通常使用される。C3S固溶体が80部を超え、C11A7CaF2が20部未満では短時間強度が充分でない場合があり、C3S固溶体が60部未満で、C11A7CaF2が40部を超えると流動性の保持性が損なわれる場合がある。
また、水硬性材料として、市販の「ジェットセメント」が使用可能である。
【0018】
水硬性材料中の無水セッコウは特に限定されるものではないが、強度発現性の面から、通常、II型無水セッコウが使用される。
水硬性材料中の無水セッコウの含有量は1〜30部が好ましい。1部未満では所定の流動性を確保することが困難となる場合があり、30部を超えると強度発現性が低下する場合がある。
【0019】
水硬性材料の粉末度は、通常、ブレーン比表面積値(以下、ブレーン値という)で、4,000〜6,000cm2/gが好ましく、4,500〜5,500cm2/gがより好ましい。ブレーン値が4,000cm2/g未満では強度発現性が充分でない場合があり、6,000cm2/gを超えると流動性の経時変化が大きくなる場合がある。
【0020】
本発明で使用するアルミノケイ酸カルシウムガラスと無水セッコウを主体とする急硬材は、水硬性材料と組み合わせることにより、短時間での強度発現性を良好にするものである。
【0021】
ここで、アルミノケイ酸カルシウムガラス(以下、CASという)とは、CaO、Al2O3、及びSiO2を主成分とする非晶質物質を総称するものであり特に限定されるものではないが、通常、CaO、Al2O3、及びSiO2の合計が80%以上のものであり、CaOが40〜48部、Al2O3が35〜42部、及びSiO2が10〜15部であるものが好ましい。この範囲外では所定の強度を発現することが困難となる場合がある。
CAS製造用原料としては、Ca0質原料、Al2O3質原料、及びSiO2質原料が挙げられる。
CaO質原料としては、生石灰、消石灰、及び石灰石等が、また、Al2O3質原料としては、アルミナ、ボーキサイト、ダイアスポア、長石、及び粘土等が、さらには、SiO2質原料としては、珪砂、白土、及び珪藻土等が使用可能である。また、比較的安価な高炉スラグに、Ca0質原料とAl2O3質原料を補うことも可能である。
CASは、上記Ca0質原料、Al2O3質原料、及びSiO2質原料を所定の割合で配合し、直接通電式溶融炉や高周波炉等を用いて溶融し、得られた溶融体を圧縮空気や高圧水により吹き飛ばす方法、あるいは、水中に流し込む方法等により製造される。また、ロータリーキルンで溶融し、急冷することによって製造することも可能である。
また、CASのガラス化率は90%以上が好ましく、95%以上がより好ましい。90%未満では短時間強度が低くなる場合がある。
ガラス化率の測定は、例えば、X線回折リートベルト法によって可能であり、通常、ブレーン値5,000cm2/g程度に粉砕した試料に、酸化アルミニウムを内部標準物質として、試料100部中、20〜30部程度配合し、めのう乳鉢で充分混合後、粉末X線回折測定を実施する。測定結果をSietronics社の定量ソフト「SIROQUANT」で解析し、ガラス化率を求めた。
また、CASの粒度は、ブレーン値で、4,000〜8,000cm2/gが好ましく、5,000〜7,000cm2/gがより好ましい。4,000cm2/g未満では短期強度の発現性が充分でない場合があり、8,000cm2/gを超えると流動性の保持時間が充分でなくなる場合がある。
【0022】
急硬材中の無水セッコウは特に限定されるものではないが、強度発現性の面からII型無水セッコウの使用が好ましい。
急硬材中の無水セッコウの使用量は、CAS100部に対して、75〜125部が好ましく、90〜110部がより好ましい。75部未満では強度発現性が充分でなくなる場合があり、125部を超えると寸法変化が大きくなって長期耐久性が悪くなる場合がある。
【0023】
急硬材の粒度は特に限定されるものではないが、ブレーン値で4,000〜8,000cm2/gが好ましく、5,000〜7,000cm2/gがより好ましい。4,000cm2/g未満では短期強度の発現が充分でない場合があり、8,000cm2/gを超えると粉砕動力がかかりすぎて不経済である。
【0024】
本発明では、高炉水砕スラグ微粉末(以下、スラグ粉という)を併用する。スラグ粉を併用することにより、寸法安定性が向上するばかりでなく、曲げ強度を飛躍的に高めることが可能となる。
スラグ粉としては特に限定されるものではないが、通常、JIS A 6206-1997に定められている「コンクリート用高炉スラグ微粉末」が使用可能である。
スラグ粉の粉末度は特に限定されるものではなく、ブレーン値で3,000〜10,000cm2/gである。
【0025】
本発明では、シリカフュームを併用する。シリカフュームを併用することにより、材料分離抵抗性を高め、また、強度発現性も良好となる。
本発明では、材料分離抵抗性を付与しつつ、流動性が改善されること、また、強度発現性が良好となることなどの理由から、酸性のシリカフュームを選定することが好ましい。 ここで、酸性シリカフュームとは、シリカフューム1gを純粋100ccに入れて攪拌した時の上澄み液のpHが5.0以下の酸性を示すものをいう。シリカフュームのBET比表面積値(以下、BETという)は、通常、2〜20m2/g程度である。
【0026】
本発明で使用する水酸化カルシウムとは特に限定されるものではなく、Ca(OH)2と表される化合物を総称するものである。その不純物も環境に有害なものを含まなければ特に限定されるものではない。
水酸化カルシウム中のCa(OH)2含有量は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。80%未満では低温環境下における初期強度の増進効果が充分でない場合がある。不純物としては、炭酸カルシウムや酸化カルシウムを含む場合がある。
水酸化カルシウムの比表面積は特に限定されるものではないが、通常、BETで20m2/g以下が好ましく、15m2/g以下がより好ましい。20m2/gを超えると、流動性が悪くなったり、可使時間の確保が困難になる傾向がある。
【0027】
本発明において、C3S固溶体、C11A7CaF2、及び無水セッコウを含有してなる水硬性材料、CASと無水セッコウを含有してなる急硬材、スラグ粉、シリカフューム、及び水酸化カルシウムからなる結合材100部中の各成分の割合は特に限定されるものではないが、水硬性材料は48〜68部が好ましく、53〜65部がより好ましい。急硬材は10〜20部が好ましく、13〜17部がより好ましい。スラグ粉は5〜25部が好ましく、10〜20部がより好ましい。シリカフュームは1〜10部が好ましく、3〜7部がより好ましい。水酸化カルシウムは1〜10部が好ましく、3〜7部がより好ましい。結合材100部中における各成分の配合割合が前記範囲にないと、本発明の要求性能、即ち、流動性、材料分離抵抗性、強度発現性、及び寸法安定性のすべてを高いレベルで維持できない場合がある。
【0028】
本発明で使用する高性能減水剤は、液状、粉末状のものいずれも使用可能であり、特に限定されるものではないが、ポリカルボン酸系高性能減水剤を含むことが好ましい。ポリカルボン酸系高性能減水剤の具体例としては花王社製商品名「マイティ21PZ」や、デグサコンストラクションシステムズ社製商品名「メルフラックスシリーズ」などがある。
本発明では、ポリカルボン酸系高性能減水剤と共に、メラミン系高性能減水剤を併用することがより好ましい。ポリカルボン酸系高性能減水剤とメラミン系高性能減水剤を併用することにより、材料分離抵抗性の向上が図れるほか、ポリカルボン酸系高性能減水剤の使用に由来する泡の発生を抑制することが可能である。
メラミン系高性能減水剤の具体例としては、例えば、日本シーカ社製商品名「シーカメントFFパウダー」などを挙げることができる。
高性能減水剤の使用量は特に限定されるものではないが、通常、結合材100部に対して、固形分換算で0.3〜2部が好ましい。0.3部未満では流動性が充分でなく、充填されない場合があり、2部を超えると材料分離を起す場合がある。
【0029】
本発明で使用する凝結調節剤としては、有機酸又はその塩からなるものが好ましく、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸、及びコハク酸等のオキシカルボン酸又はそれらのナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、及びアルミニウム塩等のうちの一種又は二種以上を挙げることができる。
凝結調節剤の使用量は特に限定されるものではないが、通常、結合材100部に対して、0.05〜1部が好ましく、0.1〜0.3部がより好ましい。0.05部未満では流動性の保持時間が充分でない場合があり、1部を超えると強度発現性が充分でない場合がある。
【0030】
本発明では、流動性を一定時間保持するために亜硝酸カルシウム及び/又は硝酸カルシウム(以下、硝酸塩類という)を使用する。
硝酸塩類の使用量は特に限定されるものではないが、通常、結合材100部に対して、0.3〜3部が好ましく、0.5〜2部がより好ましい。0.3部未満では流動性を保持する効果が充分でない場合があり、3部を超えると材料分離を生じる場合がある。
【0031】
本発明では、さらに、既設構造物とグラウト材料を一体化させるために、また、まだ固まらない状態のグラウト材料が沈下や収縮するのを抑止するために、ガス発泡物質を併用することが好ましい。
ガス発泡物質の具体例としては、例えば、アルミ粉や炭素物質のほか、過硫酸塩、過ホウ酸塩、過炭酸塩、及び過マンガン酸塩等の過酸化物質等が挙げられる。本発明では、炭素物質や過酸化物質を用いることが沈下抑制効果が大きいことから好ましく、中でも、過炭酸塩や過ホウ酸塩を用いることがより好ましい。
ガス発泡物質の使用量は特に限定されるものではないが、通常、アルミ粉ならば、結合材100部に対して、0.0001〜0.1部が好ましく、0.001〜0.01部がより好ましい。0.0001部未満では、充分な初期膨張効果を付与することができない場合があり、0.1部を超えて使用すると、過膨張となって強度発現性が悪くなる場合がある。
また、ガス発泡物質が炭素質物質ならば、結合材100部に対して、1〜15部が好ましく、3〜10部がより好ましい。1部未満では充分な初期膨張効果を付与することができない場合があり、15部を超えて使用すると過膨張となって強度発現性が悪くなる場合がある。
さらに、ガス発泡物質が過酸化物質ならば、結合材100部に対して、0.005〜0.5部が好ましく、0.01〜0.1部がより好ましい。0.005部未満では、充分な初期膨張効果を付与することができない場合があり、0.5部を超えて使用すると、過膨張となって強度発現性が悪くなる場合がある。
【0032】
本発明のグラウト材料において、水の使用量は非常に重要である。具体的には、水/結合材比で、35〜50%が好ましく、38〜46%前後がより好ましい。35%未満では長期的な寸法変化が悪くなったり、膨張破壊を起す場合があり、50%を超えると強度発現性の面で要求性能を満たせない場合や材料分離を生じる場合がある。
【0033】
本発明で使用する細骨材は特に限定されるものではない。その具体例としては、例えば、石灰系やケイ石系等の天然系細骨材や、スラグ系や再生骨材系等の人工骨材系細骨材が挙げられる。これらの中には、角のとれ、丸みをおびた球形化骨材も存在する。
【0034】
本発明でいう球形化とは、粒子表面の角がとれ、粒子形状の球形の度合いが増大することを意味する。球形化の度合いは、真円度で表すことができる。真円度とは、(粒子の投影面積)/(粒子の投影周囲長と同一周囲長を持つ円の面積)で表されるものである。真円度の測定方法は特に限定されるものではないが、例えば、特開平11−060298号公報に記載のように、顕微鏡写真から、粒子の投影面積(A)と粒子の投影周囲長(PM)を測定することによって求めることができる。粒子の投影周囲長と同一周囲長を持つ真円の面積を(B)とすると、真円度は真円度=A/B=4πA/(PM)2 (ただし真円度は0〜1の範囲内)と定義される。
真円度の測定方法は特に限定されるものではないが、走査型電子顕微鏡や実体顕微鏡等で撮影した画像を、日本アビオニクス社製画像解析装置等の画像解析装置や、画像解析ソフトウエアなどで解析することが好ましい。球形化細骨材の真円度は、通常、0.8以上である。
【0035】
本発明では、細骨材の一部を密度3.0g/cm3以上の重量骨材で置換することも可能である。
重量骨材とは密度3.0g/cm3以上であれば良く、特に限定されるものではないが、その具体例としては、例えば、人工骨材として、高炉徐冷スラグ系細骨材、電気炉酸化期スラグ系細骨材、フェロニッケルスラグ系細骨材、フェロクロムスラグ系細骨材、及び銅スラグ系細骨材等が、また、天然骨材としては、橄欖岩(かんらん岩)系細骨材、いわゆる、オリビンサンドやエメリー鉱等が挙げられ、本発明では、これらの一種又は二種以上を併用することが可能である。
細骨材の使用は特に限定されるものではないが、通常、グラウト組成物100部に対して、100〜200部が好ましく、125部〜175部がより好ましい。100部未満では、発熱量や寸法変化が大きくなる場合があり、200部を超えると流動性や強度発現性が悪くなる場合がある。
【0036】
本発明で使用する粗骨材は特に限定されるものではないが、球形化したものが好ましい。球形化粗骨材でないと流動性が損なわれる場合がある。
ここで、球形化粗骨材とは、粒子表面の角がとれ、粒子形状の球形の度合いが増大したものである。
球形化の度合いは、球形化細骨材と同様に真円度で表すことが可能であり、真円度0.8以上の粗骨材を使用することが好ましい。
粗骨材の最大径は特に限定されるものではないが、通常、20mm以下が好ましく、15mm以下がより好ましい。粗骨材の最大粒径が20mmを超えると、材料分離が生じたり、強度発現性が悪くなる場合がある。
粗骨材の使用量は特に限定されるものではないが、通常、本発明のモルタルと粗骨材からなるコンクリート1m3あたり、1,000kg以下が好ましい。1,000kg/m3を超えると流動性が損なわれる場合がある
【0037】
本発明のグラウト材料の各材料は、それぞれの材料を施工時に混合してもよいし、一部あるいは全部をあらかじめ混合しておいても差し支えない。
【0038】
本発明では、本発明の水硬性材料、急硬材、スラグ粉、シリカフューム、水酸化カルシウム、高性能減水剤、凝結調整剤、硝酸塩類、ガス発泡物質、及び骨材のほかに、フライアッシュ、石灰石微粉末、及び高炉徐冷スラグ微粉末等の無機微粉末、ベントナイトやゼオライトなどの粘土鉱物、ポリマー、繊維質物質、並びに、消泡剤等を併用することが可能である。
【実施例1】
【0039】
以下、本発明の実験例に基づいて、本発明をさらに説明する。
【0040】
実験例1
表1に示す水硬性材料、急硬材、スラグ粉、シリカフューム、及び水酸化カルシウムを配合して結合材を調製し、この結合材100部に対して、高性能減水剤A0.5部と凝結調節剤0.1部を配合してグラウト組成物を調製した。
調製したグラウト組成物100部に対して、細骨材αを150部配合し、水/結合材比43%となるように水を加えて練混ぜ、モルタルを調製し、ブリーディングや材料分離を観察し、流動性、圧縮強度、及び長さ変化率を、10℃環境下で評価した。結果を表1に併記する。
【0041】
<使用材料>
水硬性材料:住友大阪セメント社製商品名「ジェットセメント」、密度3.06g/cm3、ブレーン値5,500cm2/g
急硬材 :CASと無水セッコウの等量混合物、密度2.90g/cm3、ブレーン値6,000cm2/g
スラグ粉 :高炉水砕スラグ、市販品、密度2.90g/cm3、ブレーン値4,000cm2/g
水酸化カルシウム:市販の消石灰、密度2.25g/cm3、BET5m2/g
シリカフューム:酸性シリカフューム、BET15m2/g
高性能減水剤A:市販のポリカルボン酸系高性能減水剤70部と、市販のメラミン系高性能減水剤30部の混合物
凝結調節剤:無水クエン酸、試薬1級
細骨材α :石灰砂の0.6mm下品と、1.2mm〜0.6mm品の等量混合物、密度2.71g/cm3
水 :水道水
【0042】
<測定方法>
流動性 :土木学会標準示方書(JSCE-F541)のJ14ロートによるコンシステンシーの測定に準じて流下時間を測定
ブリーディング:JIS A 1123に準じて、練り上がりから5分後までを測定し、ブリーディング率を算出
材料分離 :触感判定により、細骨材の沈降を確認
圧縮強度 :40×40×160mmの供試体を作製し、JIS R 5201に準じて、材齢3時間の圧縮強度を測定
長さ変化率:JIS A 6202(B)に準じて測定
【0043】
【表1】

【0044】
実験例2
水硬性材料58部、急硬材17部、スラグ粉15部、シリカフューム5部、及び水酸化カルシウム5部からなる結合材100部に対して、表2に示す高性能減水剤と硝酸塩類と、凝結調整剤0.1部とを配合してグラウト組成物を調製した。
調製したグラウト組成物100部に対して、細骨材α150部を配合し、水/結合材比43%で練混ぜてモルタルを調製し、ブリーディング、材料分離、及び泡の発生を観察し、流動性、可使時間、圧縮強度、及び長さ変化率を、10℃環境下で評価したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0045】
<使用材料>
高性能減水剤B:ポリカルボン酸系高性能減水剤
硝酸塩類イ:硝酸カルシウム、試薬1級
【0046】
<測定方法>
可使時間 :J14ロートによるコンシステンシーの測定に準じて流下値を測定。流下値が20秒以内を確保できる保持時間を可使時間とした。
泡の発生 :目視により確認
【0047】
【表2】

【0048】
実験例3
水硬性材料58部、急硬材17部、スラグ粉15部、シリカフューム5部、及び水酸化カルシウム5部からなる結合材100部に対して、高性能減水剤A0.5部、凝結調節剤0.1部、及び表3に示す硝酸塩類を配合してグラウト組成物を調製した。
調製したグラウト組成物100部に対して、細骨材α150部を配合し、水/結合材比43%で練混ぜてモルタルを調製し、ブリーディングや材料分離を観察し、流動性、可使時間、圧縮強度、及び長さ変化率を、10℃環境下で評価したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表3に併記する。
【0049】
<使用材料>
硝酸塩類ロ:亜硝酸カルシウム、試薬1級
硝酸塩類ハ:硝酸塩類イとロの等量混合物
【0050】
【表3】

【0051】
実験例4
水硬性材料58部、急硬材17部、スラグ粉15部、シリカフューム5部、及び水酸化カルシウム5部からなる結合材100部に対して、高性能減水剤A0.5部、凝結調整剤0.1部、硝酸塩類イ2部、及び表4に示すガス発泡物質を配合してグラウト組成物を調製した。
調製したグラウト組成物100部に対して、細骨材α150部を配合し、水/結合材比43%で練混ぜてモルタルを調製し、ブリーディングと材料分離を観察し、初期膨張率、流動性、可使時間、圧縮強度、及び長さ変化率を、10℃環境下で評価したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表4に併記する。
【0052】
<使用材料>
ガス発泡物質a:過炭酸ナトリウム、試薬1級
ガス発泡物質b:過ホウ酸ナトリウム、試薬1級
ガス発泡物質c:アルミ粉、工業品
ガス発泡物質d:炭素質物質、市販のコークス
【0053】
<測定方法>
初期膨張率:土木学会「膨張コンクリート設計施工指針(案)」付録2.付属書「膨張材を用いた充填モルタルの施工要領(案)」に従い測定。ただし、表中の−は収縮側、+は膨張側を示す。
【0054】
【表4】

【0055】
実験例5
水硬性材料58部、急硬材17部、スラグ粉15部、シリカフューム5部、及び水酸化カルシウム5部からなる結合材100部に対して、高性能減水剤A0.5部、凝結調整剤0.1部、及び硝酸塩類イ2部を配合してグラウト組成物を調製した。
調製したグラウト組成物100部に対して、表5に示す細骨材を配合し、表5に示す水/結合材比(水比)で練混ぜてモルタルを調製し、ブリーディングと材料分離を観察し、流動性、可使時間、圧縮強度、及び長さ変化率を、10℃環境下で評価したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表5に併記する。
【0056】
<使用材料>
細骨材β :球形化していない6号ケイ砂と7号ケイ砂の等量混合物、真円度0.65
細骨材γ :球形化した、6号ケイ砂と7号ケイ砂の等量混合物、真円度0.8
【0057】
【表5】

【0058】
実験例6
水硬材料58部と、急硬材17部と、スラグ粉15部と、シリカフューム5部、水酸化カルシウム5部からなる結合材100部に対して、高性能減水剤A0.5部、凝結調整剤0.1部、硝酸塩類イ2部、及びガス発泡物質a0.1部を配合してグラウト組成物を調製した。
調製したグラウト組成物100部に対して、細骨材α150部を配合し、水/結合材比43%で練混ぜてモルタルを調製した。
調製したモルタルに、表6に示す単位量の粗骨材を配合してコンクリートを調製し、スランプフロー、可使時間、初期膨張率、温度上昇、圧縮強度、及び長さ変化率を、10℃環境下で評価した。結果を表6に併記する。
【0059】
<使用材料>
粗骨材δ:市販の玉砂利、ケイ石系、Gmax15mm、真円度0.8、密度2.65g/cm3
粗骨材ε:市販の砕石、ケイ石系、Gmax15mm、真円度0.65、密度2.65g/cm3
【0060】
<測定方法>
スランプフロー:コンクリートの流動性、JIS A 1150に準じて測定
可使時間 :熱電対でコンクリート温度を測定し、練り上がり温度から2℃上昇した時間
膨張側を示す。
温度上昇 :コンクリートの発熱量、φ10cm×高さ20cmの円筒型枠にコンクリートを充填し、供試体中心部温度を熱電対により測定した最高到達温度
圧縮強度 :JIS A 1108に準じて測定
長さ変化率:JIS A 6202(B)に準じ、材齢7日で測定
【0061】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のグラウト組成物を用いることにより、流動性に優れ、10℃程度までの低温環境下においても初期の強度発現性に優れ、しかも、寸法安定性に優れるモルタルやコンクリートが得られる。このモルタルやコンクリートは、緊急補修用の材料として、土木および建築用途に広範に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3CaO・SiO2固溶体、11CaO・7Al2O3・CaF2、及び無水セッコウを有効成分とする水硬性材料、アルミノケイ酸カルシウムガラスと無水セッコウを有効成分とする急硬材、高炉水砕スラグ微粉末、シリカフューム、水酸化カルシウム、高性能減水剤、並びに、凝結調整剤を含有してなるグラウト組成物。
【請求項2】
水硬性材料、急硬材、高炉水砕スラグ微粉末、シリカフューム、及び水酸化カルシウムからなる結合材100部中、水硬性材料が48〜68部、急硬材が10部〜20部、高炉水砕スラグ微粉末が5〜25部、シリカフュームが1〜10部、及び水酸化カルシウムが1〜10部である請求項1に記載のグラウト組成物。
【請求項3】
高性能減水剤が、ポリカルボン酸系高性能減水剤を含有してなる請求項1又は請求項2のうちのいずれか一項に記載のグラウト組成物。
【請求項4】
高性能減水剤が、ポリカルボン酸系高性能減水剤とメラミン系高性能減水剤を含有してなる請求項1〜請求項3のうちのいずれか一項に記載のグラウト組成物。
【請求項5】
凝結調整剤が、有機酸又はその塩である請求項1〜請求項4のうちのいずれか一項に記載のグラウト組成物。
【請求項6】
亜硝酸カルシウム及び/又は硝酸カルシウムを含有してなる請求項1〜請求項5のうちのいずれか一項に記載のグラウト組成物。
【請求項7】
ガス発泡物質を含有してなる請求項1〜請求項6のうちのいずれか一項に記載のグラウト組成物。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のうちのいずれか一項に記載のグラウト組成物と、細骨材と、水とを配合してなるモルタル。
【請求項9】
水/結合材比が35〜50%である請求項8に記載のモルタル。
【請求項10】
請求項8又は請求項9に記載のモルタルからなるグラウト材料。
【請求項11】
請求項8又は請求項9に記載のモルタルと、粗骨材とを配合してなるコンクリート。
【請求項12】
請求項11に記載のコンクリートからなるグラウト材料。

【公開番号】特開2007−197286(P2007−197286A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20327(P2006−20327)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】