説明

グラビアスクリーン用のパターン、グラビアスクリーン、およびグラビア版

【課題】グラビア印刷方式により流動性が低い材料を多量に塗工する際に用いる深度の深い版において、塗工材料の流動性を確保しつつ、かつドクターブレードとの接触に耐える土手を保持した版面形状を提供する。
【解決手段】グラビア印刷版の作製に用いるグラビアスクリーンのパターンであって、
複数の正方形状の露光部分が所定の間隔をおいて縦横に規則正しく配置され、
かつ、前記の各正方形状の露光部分と、その一方の対角線の方向に隣り合った正方形状の露光部分とは、互いに対向する角の頂点にて連結する線状の露光部分を有することを特徴とする、グラビアスクリーンのパターン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラビア印刷に用いられるグラビア版、そのグラビア版を作成するためのグラビアスクリーン、および、そのグラビアスクリーンに用いられているパターンに関する。
【背景技術】
【0002】
グラビア印刷は、グラビア版の円筒表面に形成されたセルと呼ばれる微小な凹部に詰まったインキを、紙やプラスチックフィルム等の印刷基材に印圧をかけて転移させる印刷方法である。
【0003】
図1は、一般的なグラビア印刷を模式的に示したものである。低粘度で流動性のあるグラビアインキをインキパンに満たし、円筒状のグラビア版をその一部がグラビアインキ中に浸漬するようにして回転させる。
【0004】
グラビア版の回転に伴って版の円筒表面に付着して上昇するグラビアインキを、ドクターブレードで掻き取り印刷に必要な分量のみがセル中に残るようにする。その後、版胴と圧胴の間に印刷基材(フィルム、紙など)を通し、版胴と圧胴の間の印圧により、セル中に残ったグラビアインキを印刷基材に転移させる。これがグラビア印刷方法の概略である。
【0005】
一般的なグラビア版(腐食法)は、次の様な工程で作製される。
(1)アルミ又は鉄のシリンダーロールを母材として使用し、その円筒部の表面に下地銅めっきを行う。
(2)下地銅めっきの後、バラード銅めっきを行う。
(3)バラード銅めっきの後、砥石研磨を行う。
(4)砥石研磨された銅表面に、感光材料を塗布して感光材料層を形成する。
(5)感光材料層をレーザー露光機によって露光することにより、絵柄を描画する。
(6)現像を行い、感光材料層の露光された部分を除去する。(露光されなかった部分の感光材料層はレジスト層として銅表面に残る。)
(7)塩化第二銅又は塩化第二鉄等からなる腐食液に浸漬またはスプレーする。レジスト層の無い部分は銅が腐食され凹版(セル)が形成される。レジスト層が残っている部分は腐食が行われず、「土手」と呼ばれる部分が形成される。
(8)レジスト層を剥離する。
(9)クロムめっきを行う。
(10)ペーパー研磨を行う。
【0006】
前述の(5)で絵柄を描画する際には、スクリーンとよばれる露光パターンを予め定め、そのパターンに従って描画を行う方法が一般的である(図2参照)。また旧来の方法として、スクリーンをポジフィルム上にパターン焼付けし、そのポジフィルムをグラビアシリンダーに巻きつけた状態で露光を行うという方法も有る。
描画するスクリーンの形状は、図3のような正方格子型が一般的である。(図3中の符号1はレジスト層のない露光部、符号2はレジスト層の残っている非露光部を示す。)この場合、グラビア版上に形成されるセルの形状は図4の様になる。図4はグラビア版のセル(凹部)と土手の形状がはっきりわかるように画像処理した写真であり、図4中の符号3は腐食されてセルとなった部分、符号4は腐食されなかった「土手」の部分である。
【0007】
また、特許文献1〜3などでは、印刷適性の改善を目的とした特殊なスクリーン形状が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実公平5−41015号公報
【特許文献2】WO2008−053757号公報
【特許文献3】特開平11−30854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図5は、一般的な正方形格子状のスクリーンを用いて作製したセル深度が深い(60μm)グラビア版の、セルと土手の形状がはっきりわかるように画像処理した写真である。
一般的な正方形格子状のスクリーンを用いてグラビア版を作製する場合、セル深度が深くなるにつれて腐食後のセル3の形状が図5の様になり、土手交差部5が大きくなってしまう現象が発生し、印刷する時になめらかで均一な塗布が行えないといった問題があった。
【0010】
このような課題を解決するための従来の技術として、特許文献1では図6の様なスクリーンのパターンが提案されている。すなわち、セルとなる部分(図6中の露光部1)の各隅角において隣接セルのうちの一つと連結するように、土手となる部分(図6中の非露光部2)の一部分が切り欠かれているようなスクリーンのパターンが提案されている。
【0011】
図7は、このスクリーンを用いて作製したセル深度が比較的浅い(30μm以下)グラビア版の、セルと土手の形状がはっきりわかるように画像処理した写真である。また、図8は、同じスクリーンを用いて作製したセル深度が深い(60μm)グラビア版の、セルと土手の形状がはっきりわかるように画像処理した写真である。
図7より、セル深度が比較的浅い場合には、セル3や土手4の形状は良好であり、有効であることがわかる。
しかしながら、図8より、セル深度が深いには、前述のグラビア版の作製方法の(6)や(7)の現像・腐食工程によって、土手4部分が細く短い形状となってしまうことがわかる。すなわち、縦横の土手4が交差する箇所の切り欠かれた部分が、深く大きなものとなってしまい、ドクターブレードでグラビア版表面を掻き取る際に、土手4にダメージを与え、土手4が急激に磨耗して正常な印刷が行えなくなる。また、ドクターブレードに欠けが発生してその部分のインキを掻き取る事が出来なくなるといった問題がある。
【0012】
本発明は、上記の課題を解決する為になされたもので、印刷対象物の表面に均一でなめらかにインキを塗工でき、また、深度の深いセルを形成した場合でも、従来技術の土手部分のように切り欠かれた箇所が大きくなりすぎないので、ドクターブレードとの接触時に土手部分やドクターブレードがダメージを受けるといった不具合が発生しにくいグラビア版を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、グラビア印刷版の作製に用いるグラビアスクリーンのパターンであって、
複数の正方形状の露光部分が所定の間隔をおいて縦横に規則正しく配置され、
かつ、前記の各正方形状の露光部分と、その一方の対角線の方向に隣り合った正方形状の露光部分とは、互いに対向する角の頂点にて連結する線状の露光部分を有することを特徴とする、グラビアスクリーンのパターン、である。
【0014】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のパターンを有するグラビアスクリーンである。
【0015】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のグラビアスクリーンを用いて作製したグラビア版であって、
前記グラビア版の表面に形成された複数の凹部(セル)は正方格子状に配置され、かつ、前記正方格子の一方の斜め方向に隣接するセルどうしは連結しており、それ以外の方向にある隣接セルとは凸部(土手)により隔てられていることを特徴とするグラビア版、である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のスクリーンを用いて作製したグラビア印刷版では、土手交差部の一部が切りかかれているため、印刷対象になめらかで均一にインキを塗工できる。一方で深度の深い場合でも、図8のセルのように切りかかれた部分が大きくなりすぎることによるドクターブレードとの接触時土手又はドクターブレードがダメージを受けるといった問題が無い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】グラビア印刷の模式説明図。
【図2】スクリーンと絵柄の関係を示す模式図。
【図3】一般的なグラビア版の正方格子型スクリーンを示す図。
【図4】正方格子型スクリーンで作製したグラビアセル形状を示す画像処理写真。
【図5】一般的なグラビア版の正方格子型スクリーンで作製した深度の深い(60μm)グラビアセル形状を示す画像処理写真。
【図6】従来技術のスクリーン形状を示す図。
【図7】従来技術のスクリーン形状で作製したグラビアセル形状を示す画像処理写真。
【図8】従来技術のスクリーン形状で作製した深度の深い(60μm)グラビアセル形状を示す画像処理写真。
【図9】本発明のスクリーン形状を示す図。
【図10】本発明のスクリーン形状で作製した深度の深い(60μm)グラビアセル形状を示す画像処理写真。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図9に、本発明の実施形態であるグラビアスクリーンのパターンを示す。
複数の正方形状の露光部分6aが、所定の間隔をおいて縦横に規則正しく配列されている。また、それぞれの正方形状の露光部分6aは、一つの対角線方向に隣り合った正方形状の露光部分6aと、線状の露光部分6bにより連結された形状となっている。
図9においては、線状の露光部分6bは、左斜め下と右斜め上を結ぶ方向に配置されているが、右斜め下と左斜め上を結ぶ方向に配置してもかまわない。
【0019】
線状の露光部分6bは、斜め方向に隣接する正方形状の露光部分6aの対向する頂点どうしを結ぶように配置される。また、線状の露光部分6bの太さは、これら以外の露光部分6aに連結しないよう非露光部7の太さとの兼ね合いで調整しておくことが必要である。
【0020】
図9で示した形状のスクリーンをレーザー露光パターンとして登録し、前述のグラビア版の作製方法に従って、グラビア版の製版を行う。図10に、本願発明の実施形態であるグラビア版の一例について、セル3と土手4の形状がはっきりわかるように画像処理した写真を示す。
【0021】
図10のグラビア版においては、セル3(凹部)は正方格子状に配置され、かつ、正方格子の一方の斜め方向(図10においては、左斜め下と右斜め上を結ぶ方向)に隣接するセルどうしは連結しているが、それ以外の方向にある隣接セルとは土手4(凸部)により隔てられた形状となっている。
【0022】
図10のグラビア版においては、各セル3の深さは60μmであるが、土手4は、土手交差部5付近も含めて、太さがほとんど一様で良好な形状を保っている。従来例の写真(図5、図8)と比較すると、本実施形態の土手4部分の太さ一様性の良好さは明らかである。
【0023】
このグラビア版を用いて行う印刷は、特に従来のグラビア版と変わる点はない。
本実施形態のグラビア版は、セル3どうしを連結する箇所があってインキの流動性が保たれ、かつ、土手4部分の太さが一様なので、印刷対象物の表面に均一でなめらかにインキを塗工できる。
また、深度の深いセルを形成した場合でも、従来技術(特許文献1の技術)の土手部分のように切り欠かれた箇所が大きくなりすぎないので、ドクターブレードとの接触時に土手部分やドクターブレードがダメージを受けるといった不具合が発生しにくい。
【実施例1】
【0024】
スクリーン線数100L/inch、深度60μmのグラビア版を作製するに当たり、図9で示したスクリーン形状を用いてシンクラボラトリー社製グラビア製版システムでグラビア版を作製した。図9の正方形状の露光部分6aは縦横とも190μm、線状の露光部分6bの幅は25μmとした。
このスクリーン形状を用いてグラビア版を作製したところ、図10の写真に示すような、セルどうしを連結する箇所があり、かつ、土手部分の形状が良好なグラビア版を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0025】
グラビア印刷方式において、インキ等を深度の深い版で大量に塗工する際のスクリーンとして特に有効である。
【符号の説明】
【0026】
1・・・ 露光部(最終的に腐食されセル部分になる)
2・・・ 非露光部(最終的に土手部分になる)
3・・・ セル
4・・・ 土手
5・・・ 土手交差部
6a、6b・・ 本発明のグラビアスクリーンでの露光部
7・・・ 本発明のグラビアスクリーンでの非露光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラビア印刷版の作製に用いるグラビアスクリーンのパターンであって、
複数の正方形状の露光部分が所定の間隔をおいて縦横に規則正しく配置され、
かつ、前記の各正方形状の露光部分と、その一方の対角線の方向に隣り合った正方形状の露光部分とは、互いに対向する角の頂点にて連結する線状の露光部分を有することを特徴とする、グラビアスクリーンのパターン。
【請求項2】
請求項1に記載のパターンを有するグラビアスクリーン。
【請求項3】
請求項2に記載のグラビアスクリーンを用いて作製したグラビア版であって、
前記グラビア版の表面に形成された複数の凹部(セル)は正方格子状に配置され、かつ、前記正方格子の一方の斜め方向に隣接するセルどうしは連結しており、それ以外の方向にある隣接セルとは凸部(土手)により隔てられていることを特徴とするグラビア版。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−208375(P2012−208375A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74806(P2011−74806)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】