説明

グラフェン層を有する複合材料およびその製造および使用

本発明は、グラフェン層を有する複合材料ならびにこれらの複合材料の製造方法に関する。本発明は、本発明の複合材料を用いるグラフェン層の製造方法に更に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン層を有する複合材料ならびにこれらの複合材料の製造方法に関する。本発明は、本発明の複合材料を用いるグラフェン層の製造方法に更に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、単一黒鉛層に類似した構造を有する2次元炭素結晶である。炭素原子は、六角形ハニカム構造に配列される。この配置は、参加炭素原子の2s、2pxおよび2py軌道の混成から生じてsp混成軌道を形成する。グラフェン層は、金属および非金属特性を有する。グラフェン層の金属特性は、良好な電気および熱伝導性である。非金属特性は、高い熱安定性、化学的不活性およびこの化合物の潤滑剤として働く能力を与える。工業的用途に利用することができるこの物質を製造する1つの可能性の方法は、グラフェンを複合材料中へ一体化することである。これらの複合材料の製造は、グラフェンを十分な量で製造するだけでなく、該材料を他の物質中へ均質に分配する方法で導入することも必要である。
【0003】
Stankovich等(Nature、第442巻、2006年7月)は、黒鉛の剥離によるグラフェン複合材料の製造および個々の化学変性グラフェン層のポリスチレン中での分散を記載する。
【0004】
US2007/0158618A1は、黒鉛の剥離によるグラフェンナノ複合材料の製造および得られる材料のボールミルによる粉砕、および引き続きのグラフェン層とポリマーとの混合を記載する。
【0005】
US2007/0092716A1は、ナノグラフェン層をポリマー材料と混合し、例えば繊維の形態で押し出すグラフェン複合材料の製造を開示する。
【0006】
既知のグラフェン複合材料の製造方法の欠点は、特に、グラフェン層の厚みを複合材料中で正確に設定すること、および20nmより著しく小さい厚みを有するグラフェン層を一体化することが難しいことである。
【0007】
この困難さは、第1に、用いるグラフェン層が複合材料の形成前に製造工程の間に部分的に凝集し得ることと関係し、第2に、20nmより遙かに小さい厚みを有するグラフェン層を既知のグラフェン層の製造方法(例えば機械または化学剥離法)により製造することが著しく困難であることに起因する。
【0008】
しかしながら、20nmより著しく小さい厚みを有するグラフェン層は、複合材料中に用いた場合、例えばパーコレーション閾値(複合材料内で電気抵抗の低減へ直接導くモル濃度)を著しく低下させるという、約20nmの厚みを有するグラフェン層を越える優位性を有する。個々のグラフェン層(0.335nm)を用いる場合、パーコレーション閾値は0.1重量%未満である(Stankovich等。Nature、第442巻、2006年7月)。比較により、3〜5重量%のパーコレーション閾値が、約20nmの厚みを有するグラフェン層を用いる場合に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0158618号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0092716号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Stankovich、「Nature」、第442巻、2006年7月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、先行技術の欠点に取り組み、および20nmより著しく小さい厚みを有するグラフェン層を有する複合材料を提供する目的を有する。
【0012】
本発明の更なる目的は、電気または熱伝導性そのような特性を有さないそれ自体既知の充填剤、例えば板状ケイ酸塩または層状複水酸化物を与えることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、板状ケイ酸塩または層状複水酸化物およびグラフェン層へ少なくとも部分的に分解されおよびポリアクリロニトリルの相対分子量を基準として20%未満の窒素の質量による相対比率を有するポリアクリロニトリルにより達成される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1:ハイドロタルサイト物質Pural MG 70の層構造内でのグラフェン層。金属酸化物(暗部)およびグラフェン層(より明るい)の交互の層が見られる。
【図2】図2:ハイドロタルサイト物質Pural MG 63の層構造内でのグラフェン層。
【図3】図3:Pural MG70ハイドロタルサイト出発物質。
【図4】図4:図4は、上記図1の拡大した区域を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
20nmより著しく低い厚みを有するグラフェン層を含有する複合材料の提供の他に、本発明の複合材料はまた、グラフェン層の優位性(機械および電気伝導性)と板状ケイ酸塩または層状複水酸化物の有利な特性(絶縁および充填剤機能)とを1つの物質中で組み合わせる。本発明の複合材料は、物質の性質が、板状ケイ酸塩または層状複水酸化物の性質と類似するという更なる優位性を提供し、これは、本発明の複合材料が、板状ケイ酸塩または層状複水酸化物を現在、出発物質として用いる既知のプロセスおよび手法に用いることもできることを意味する。
【0016】
本発明に従って用いることができる板状ケイ酸塩は、SiO四面体(フィロケイ酸塩とも称される)の2次元層を有する先行技術から既知のケイ酸塩構造である。適当な板状ケイ酸塩の例は、ベントナイト、タルク、パイロフィライト、マイカ、蛇紋石、カオリナイトまたはこれらの混合物である。板状ケイ酸塩は、層間隔を変えるために既知の方法により変性することができる。このために、例えば少なくとも1つの酸基を有するアンモニウム化合物は、層の間に挿入される(DE10351268A1)。挿入は、ケイ酸塩の層格子に存在するカチオンの少なくとも1つの酸基を有するアンモニウム化合物による置換により行われ、層間隔の拡張を一般にもたらす。板状ケイ酸塩または上記方法により変性された板状ケイ酸塩は、0.5〜2.5nm、より好ましくは0.7〜1.5nmの層間隔を好ましく有する。
【0017】
層状複水酸化物(LDH)は、一般式:
[M2+i−x3+(OH)][An−x/n・yH
を有する化合物である。ここで、M2+は、二価アルカリ土類または遷移金属イオン、例えばMg2+、Ni2+、Cu2+またはZn2+等であり、N3+は、三価主族または遷移金属イオン、例えばAl3+、Cr3+、Fe3+またはGa3+等であり、An−は、アニオン、例えばNO、CO2−、ClまたはSO2−等であり、xは、0〜1の有理数であり、yは0を含む正数である。本発明によれば、用語「層状複水酸化物」はまた、これらの化合物の酸化物を包含する。本発明によれば、好ましくは、天然および合成ハイドロタルサイトおよびハイドロタルサイト状構造(ハイドロタルサイト状化合物、HTLC)を層状複水酸化物として有する化合物を用いる。ハイドロタルサイトまたはハイドロタルサイト状構造を有する化合物を製造するために、当業者によく知られている任意の方法を用いることが原理上可能である(例えば、上記参照に記載されたもの:DE 2061114A、US 5399329A、US5578286A、DE10119233、WO0112570、Handbook of Clay Science、F.Bergaya、B.K.G.ThengおよびG.Lagaly、Developments in Clay Science、第1巻、第13.1章、Layred Double Hydroxides、C.Forano、T.Hibino、F.Leroux、C.Taviot−Gueho、Handbook of Cley Science、2006年を参照)。
【0018】
本発明によれば、好ましいのは、一般(公称)式:
2x2+3+(OH)4x+4・A2/nn−・zH
(式中、M2x2+は、Mg、Zn、Cu、Ni、Co、Mn、Caおよび/またはFeからなる群から選択される2価金属である)
で示されるハイドロタルサイトの使用である。M3+は、Al、Fe、Co、Mn、La、Ceおよび/またはCrからなる群から選択される適当な3価金属である。「x」は、0.5の間隔での0.5〜10の数である。Aは、格子間のアニオンである。適当なアニオンは、有機アニオン、例えばアルコキシド、アルキルエーテルスルフェート、アリールエーテルスルフェートおよび/またはグリコールエーテルスルフェートまたは無機アニオン、例えば炭酸塩、炭酸水素塩、硝酸塩、塩化物、硫酸塩、B(OH)および/またはポリオキソメタレートイオン、例えばMo246−またはV10286−等である。特に好ましいのは、CO2−およびNOを用いることである。「n」は、上記一般式において、8まで、通常4までであってよい格子間アニオン上での電荷である。「z」は、1〜6、好ましくは2〜4の整数である。対応する金属酸化物は、か焼により得られ、本発明の複合材料中に存在させることができ、一般式:
2x2+3+(O)(4x+4)/2
(式中、M2x2+、M3+および「x」は先に定義した通りである)
を有する。このような材料は、特に、水との接触により、部分的にヒドロキシル化形態で存在することができることが当業者に知られている。本発明により好ましく、およびこの節およびその製造において記載されているハイドロタルサイトは、例えばUS6514473B2に記載されている。
【0019】
本発明によれば、好ましいのは、層状複水酸化物、特に好ましくは0.5〜2.5nm、好ましくは0.7〜1.5nmの層間隔を有するハイドロタルサイトを用いることである。層間隔は、板状ケイ酸塩の場合、適当な挿入剤を用いることにより人工的に増加させることができる。アニオン、例えば3−アミノベンゼンスルホン酸、4−トルエンスルホン酸一水和物、4−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、ドデシルスルホン酸、テレフタル酸等は、原理上、この目的に適している(Zammarano等、Polymer、第46巻、2005年、第9314〜9328頁、US4774212)。当業者には、他のアニオンがよく知られている。本発明の化合物については、用いるアニオンは重要ではない。アニオンは、専ら層状複水酸化物の層を変性する働きをする。これらは、本発明の複合材料のための製造方法における熱的処理の間に分解する。
【0020】
特に適当なハイドロタルサイトは、商品名PuralとしてSasol Deutschland GmbHにより市販されている。
【0021】
本発明によれば、アクリロニトリルの重合およびか焼により複合材料のための製造方法の間に形成されるグラフェン層は主に、板状ケイ酸塩または層状複水酸化物の層に存在する。US4921681は、モンモリロナイト(板状ケイ酸塩)および部分的に炭化されたポリアクリロニトリルを高配向熱分解黒鉛(HOPG)の製造方法のための中間体として含む複合材料を開示する。実施例1では、炭化は、700℃にて3時間行われる。先行技術(Peter Morgan、Carbon fibres and their composites、第27巻、CRC Press、2005年、第2235頁)によれば、上記中間体は、ポリアクリロニトリル(すなわち、出発材料)の相対分子量を基準として少なくとも20%の窒素の質量による相対比率を有する。ポリアクリロニトリルの窒素の質量による相対比率は、26%である。本発明により特許請求される複合材料は、ポリアクリロニトリルの相対分子量を基準に20%未満、好ましくは15%未満、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、極めて好ましくは3%以下である窒素の質量による相対比率により区別される。本発明による窒素含有物質は、HOPG構造を有さないが、0.5〜2.5nmの層厚みを有するグラフェン層構造に関連する。窒素の質量による比率の決定は、既知の確立された標準法ICP−MS(誘導的結合プラズマによる質量分析)により、例えばDIN ISO 17025に従って認定された分析実験室により行うことができる。
【0022】
しかしながら、専ら本発明の複合材料のために層状複水酸化物を用いる場合には、ポリアクリロニトリルの相対分子量を基準とした窒素の質量による相対割合は、20%以上であってよい。しかしながら、上記の窒素の質量による相対比率のための好ましい値は、この場合でも好ましい。
【0023】
本発明によれば、窒素の相対比率の低減は、か焼温度を適切に上昇させることにより行う。例えば、10%以下の窒素の質量による比率を得るために、従来式のオーブン中で、1000℃において少なくとも40分間、好ましくは少なくとも90分間、より好ましくは少なくとも2時間のか焼が必要である(オーブンの最大積載量を考慮)。
【0024】
表現「グラフェン層へ少なくとも部分的に分解されたポリアクリロニトリル」は、本特許出願に記載のか焼工程によるポリアクリロニトリルのグラフェン層への炭化を表す。しかしながら、か焼工程の温度および時間に応じて、ポリアクリロニトリルは、完全に分解または炭化され得ないが、その代わり、ポリアクリロニトリルまたは部分的にのみ分解されたポリアクリロニトリルが本発明の複合材料中に存在する。温度は、炭素/窒素比について直接の影響を有する。熱処理は、実質的に全ての化合物を除去して外側(複合材料の外側)へ拡散により運び、および化合物を複合材料内で平衡状態へ再設定するために一定時間行わなければならない。これを確保するために、か焼は、少なくとも10分、好ましくは少なくとも40分、より好ましくは少なくとも90分の間、従来使用されるオーブン中で、または少なくとも5分、より好ましくは少なくとも45分の間、マイクロ波オーブン中で行わなければならない。オーブンの最大荷重能力を考慮し、守らなければならない。ポリアクリロニトリルのグラフェン層への分解プロセスは、知られており、例えばFitzer等により記載されている(Carbon 第24巻、第4版、1986年、第387〜395頁)。ポリアクリロニトリルの分解により形成される分解生成物は、例えばH、N、NHおよびHCNである。
【0025】
従って、ポリアクリロニトリルのグラフェン層への分解は、選択されるか焼温度に本質的に依存する。本発明の好ましい実施態様は、ポリアクリロニトリルが95%、好ましくは98%、より好ましくは99%の程度にまで、極めて特に好ましくは完全にグラフェン層へ分解された複合材料を提供する。1600℃を越える温度は、このために必要である(少なくとも95%分解)。完全分解(すなわち、少なくとも99%分解)は、約2000℃の温度を用いて得られる。か焼工程は、好ましくは、不活性雰囲気(アルゴンまたは窒素、好ましくはAr)下で大気圧にて行う。
【0026】
本発明の目的のために、用語「か焼」は、通常、熱処理工程、すなわちこの材料を分解することを目的とした材料の加熱のことである。グラフェン層へ分解すべき材料は、本発明によればポリアクリロニトリルである。
【0027】
用語「グラフェン層」は、単一黒鉛層と類似の構造を有し、炭素原子がsp混成軌道の形成により六角形ハニカム構造に配置された2次元炭素結晶のことである。単一グラフェン層は、0.335nmの厚みを有する。従って、好ましくは0.5〜2.5nmの板状ケイ酸塩または層状複水酸化物の層間隔では、1〜7のグラフェン層を、単一層内に存在させることができる。
【0028】
アクリロニトリルからのポリアクリロニトリルの製造は、既知であり、例えば炭素繊維の合成と関連して包括的に記載されている(US3681023、US4397831)。
【0029】
本発明は、層状複水酸化物、好ましくはハイドロタルサイトおよび/またはハイドロタルサイト状構造を有する化合物およびグラフェン層へ少なくとも部分的に分解されたポリアクリロニトリルの複合材料を更に提供する。
【0030】
本発明は、第1工程において、アクリロニトリルを、層状複水酸化物またはシートケイ酸塩へ添加し、アクリロニトリルを層状複水酸化物または板状ケイ酸塩の層構造内に組み込むことができ、第2工程において、アクリロニトリルを層構造内でポリアクリロニトリルへ重合し、次いでポリアクリロニトリルをグラフェン層へか焼により、ポリアクリロニトリルの相対分子量を基準に20%未満の窒素の質量による相対比率を有する複合材料を形成するように少なくとも部分的に分解する、グラフェン層を有する複合材料の製造方法を提供する。本発明は、第1工程において、アクリロニトリルを層状複水酸化物へ添加し、アクリロニトリルを層状複水酸化物の層構造内に組み込むことができ、第2工程において、アクリロニトリルを層構造内でポリアクリロニトリルへ重合し、次いでポリアクリロニトリルをグラフェン層へか焼により少なくとも部分的に分解する、グラフェン層を有する複合材料の製造方法を更に提供する。
【0031】
本発明による製造方法では、アクリロニトリルを、好ましくは、層状複水酸化物または板状ケイ酸塩へ液滴状に添加する。層状複水酸化物または板状ケイ酸塩は、好ましくは粉末として存在し、好ましくは乾燥させて極めて少ない水分をアクリロニトリルの添加前に存在させる。適当な、好ましいおよび特に好ましい層状複水酸化物または板状ケイ酸塩は、本特許出願において先に更に詳細に説明した。好ましいのは、製造方法のための層状複水酸化物を用いることである。製造方法の第1工程では、層状水酸化物の水酸化物または酸化物を用いることができる。酸化物は、製造方法に好ましく用いる。
【0032】
本発明の好ましい実施態様では、重合開始剤を、アクリロニトリルの重合を補助するために、層状複水酸化物または板状ケイ酸塩への添加前にアクリロニトリルへ添加する。アクリロニトリルのための適当な重合開始剤は、当業者に既知である。適当な重合開始剤の例は、アゾ化合物、過酸化物および/または光および高エネルギー放射線である。可能な開始剤は、例えば次の通りである:tert−ブチルパーオクトエート、過酸化ベンゾイル、過酸化ジラウロイル、tert−ブチル パーピバレート、アゾビス(イソブチロニトレート)、ジ−tert−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ジ−tert−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、2,5−ジメチルヘキサン2,5−次ペーベンゾエート、t−ブチルパー2−エチルヘキノエート、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、過酸化ジオクタノイル、t−ブチルパーネオデカノエート、ジイソイソプロピルパーオキシジカーボネート。重合は、光および光開始剤により引き起こすこともできる。
【0033】
アクリロニトリルの層状複水酸化物または板状ケイ酸塩への混合比は、層状複水酸化物または板状ケイ酸塩をアクリロニトリルと完全に飽和するように好ましく選択する。適当な混合比を選択し、層状複水酸化物または板状ケイ酸塩を粉末として用いる場合、アクリロニトリルを、粉末を完全に湿潤させる際に層構造に組み込むことができる。
【0034】
第2製造工程では、アクリロニトリルは、層状複水酸化物または板状ケイ酸塩の層構造内でポリアクリロニトリルへ重合する。重合は、当業者に既知の種々の方法により開示することができる。例えば、重合は、電離放射線により開始することができる(US3681023)。過酸化ベンゾイルのような重合開始剤を用いる場合、これの添加により、アクリロニトリルの重合を、好ましくは50℃〜100℃の範囲の温度へ穏やかに加熱することより、好ましくは酸化条件下で開始し、行うことができる。反応は、好ましくは、2〜3時間行うことができる。従って、本発明は、アクリロニトリルを重合開始剤と共に層状複水酸化物へまたは板状ケイ酸塩へ添加する、グラフェン層を有する複合材料の製造方法を更に提供する。
【0035】
第3製造工程では、層状複水酸化物または板状ケイ酸塩の層に存在する重合化アクリロニトリルを、か焼により、少なくとも部分的に分解または炭素化してグラフェン層を形成する。この第3工程は、まず、ポリアクリロニトリルの安定化(すなわち、環形成および架橋)を含み、200〜500℃の温度にて、好ましくは酸化条件下で、好ましくは段階的に行う。次いで、架橋ポリアクリロニトリルを少なくとも700℃(層状複水酸化物のみを、本発明の複合材料を製造するために用いる場合)、他に好ましくは少なくとも800℃、より好ましくは900℃、特に好ましくは1000℃、極めて好ましくは1600℃〜2000℃の温度、極めて特に好ましくは2000℃の温度へ加熱することにより、好ましくは不活性ガスの流れ下で、すなわち非酸化条件下で分解または炭化する。か焼の継続時間は、とりわけか焼すべき量に依存する。好ましくは、か焼は、10分間、好ましくは少なくとも40分間、より好ましくは少なくとも90分間、従来使用されるオーブン中で、または少なくとも5分、好ましくは少なくとも45分の間、マイクロ波オーブン中で行う。
【0036】
本発明は、か焼工程が、ポリアクリロニトリルを安定化するために200℃〜500℃への温度上昇、特に段階的温度上昇、およびポリアクリロニトリルをグラフェン層へ少なくとも部分的に分解する少なくとも700℃(層状複水酸化物のみを用いる場合)、好ましくは少なくとも800℃への引き続きの温度上昇を含む、グラフェン層を有する複合材料の製造方法を更に提供する。
【0037】
本発明は、グラフェン層を有する複合材料を製造するための本発明による方法により製造されたグラフェン層を有する複合材料を更に提供する。
【0038】
さらに、驚くべきことに、本発明の複合材料は、0.5nm〜2.5nm(すなわち1〜7つのグラフェン層)、より好ましくは0.7nm〜1.5nm(すなわち2〜4つのグラフェン層)のグラフェン層を製造するために適していることを見出した。このために、本発明の複合材料は、酸またはアルカリで処理する。適当な酸は、例えばフッ化水素酸、塩酸、硝酸または硫酸である。適当なアルカリは、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよびフッ化アンモニウムのような塩である。用いることができる他の酸およびアルカリは、当業者に既知である。複数の酸または複数のアルカリを同時にまたは連続して用いることも可能である。
【0039】
このグラフェン層のための製造方法は、気相堆積による既知のグラフェン製造方法により得られるグラフェンの低収率についての既知の欠点を克服する(Xianbao Wang等、Chem.Vap.Deposition 第15巻、2009年、第53〜56頁)。この既知の方法では、グラフェンの収率は、1グラムの触媒を用いる場合、0.1グラムである。これは、用いる触媒1グラム当たり200〜300グラムのカーボンナノチューブの収率が得られる気相蒸着によるカーボンナノチューブの製造と比べて極めて低い。該収率は、本発明の方法により増加させることができる。
【0040】
グラフェン層のための本発明の製造方法の更なる優位性は、この方法により製造することができる低い層厚みである。
【0041】
本発明は、グラフェン層を製造するための本発明による複合材料の使用を更に提供する。
【実施例】
【0042】
実施例1
10gのSasol Deutschland GmbHからのPural MG70ハイドロタルサイトを、70℃にて、オーブン中で、過剰の水分を減少させるために乾燥させた。このハイドロタルサイト物質は、個々の層の間で0.7nmの間隔を有する層構造で充填された70重量%のMgOおよび30重量%のAlの見かけの化学組成を有する。次いで5mLのアクリロニトリルを10mgの過酸化ベンゾイルと混合し、過酸化ベンゾイルを素早く溶解させた。次いで、この溶液を、ハイドロタルサイトへ液滴状に添加し、該混合物を、均質な混合物が形成されるまで撹拌した。液体および固体の適当な混合比(本実験では、ハイドロタルサイト1g当たり0.5mLのアクリロニトリル)において、アクリロニトリルをハイドロタルサイトの層構造に組み込んだ「湿った」粉末が得られる。次いで、この粉末を、適当な閉じることのできる容器中へ導入し、70℃にて3時間、オーブン中で加熱する。アクリロニトリルは、ハイドロタルサイト担体の層内でポリアクリロニトリルへ重合する。物質の色は、重合の結果、白から淡黄色へ変化する。次いで空気温度は、300℃に上昇する。この工程の間に、ポリアクリロニトリルを架橋させる。芳香族環に類似の環が形成する。この工程は、炭素繊維の製造の専門用語ではポリアクリロニトリルの安定化と称される。安定化ポリアクリロニトリル/ハイドロタルサイト複合材料は、暗褐色である。引き続きの工程では、次いでポリアクリロニトリルを、1000℃にてアルゴンの流れ下、石英ガラス炉において炭化する。物質を、これらの温度にて2時間維持する。炭素含有量に起因して暗褐色に見えるグラフェンおよびハイドロタルサイトの複合材料が得られる。低解像度での複合材料の透過型電子顕微鏡写真(図1参照)は、ハイドロタルサイト物質の典型的な六角形プレートレット構造を示し、および高解像度では、高密度金属酸化物の層構造(暗領域)および高密度ではないグラフェン(明領域)の交互の層構造を示す。
【0043】
実施例2
Sasol Deutschland GmbHからの1.7nmの層間隔を有するPlural MG 63 ABSAを、ハイドロタルサイト物質として用いたことを除き、実施例1の場合と同じプロセス工程を行った。この材料は、63重量%のMgOおよび37重量%のAlを含む。0.7nm〜1.7nmの個々のハイドロタルサイト層間の間隔を増加させるために、メタ−アミノベンゼンスルホン酸を、ハイドロタルサイトの製造の間に添加した。炭化後に得られた物質は、実施例1において得られた物質と比較して炭素のより高い比率を有するため、完全に黒色である。これは、より多くのグラフェンが挿入できるハイドロタルサイト物質の著しく大きい層間隔に起因する。図2の透過型電子顕微鏡写真は、図1における構造と同様の構造を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状複水酸化物または板状ケイ酸塩、およびグラフェン層へ少なくとも部分的に分解され、およびポリアクリロニトリルの相対分子量を基準として20%未満の窒素の質量による相対比率を有するポリアクリロニトリルの複合材料。
【請求項2】
層状複水酸化物およびグラフェン層へ少なくとも部分的に分解されたポリアクリロニトリルの複合材料。
【請求項3】
複合材料は、ハイドロタルサイトおよび/またはハイドロタルサイト状構造を有する化合物からなる群から選択される層状複水酸化物を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の複合材料。
【請求項4】
ハイドロタルサイトは、一般式:
2x2+3+(O)(4x+4)/2
(式中、M2x2+は、Mg、Zn、Cu、Ni、Co、Mn、Caおよび/またはFeからなる群から選択される2価金属であり、M3+は、Al、Fe、Co、Mn、La、Ceおよび/またはCrからなる群から選択される3価金属であり、およびxは、0.5の間隔で0.5〜10の数である)
を有することを特徴とする、請求項3に記載の複合材料。
【請求項5】
層状複水酸化物は、0.5〜2.5nmの層間隔を有することを特徴とする、請求項2〜4のいずれかに記載の複合材料。
【請求項6】
アクリロニトリルを、第1工程において層状複水酸化物または板状ケイ酸塩へ添加し、該アクリロニトリルを、第2工程においてポリアクリロニトリルへ重合し、次いでポリアクリロニトリルを、か焼により、ポリアクリロニトリルの相対分子量を基準として20%未満の窒素の質量による相対比率を有する複合材料を形成するように少なくとも部分的にグラフェン層へ分解する、グラフェン層を有する複合材料の製造方法。
【請求項7】
アクリロニトリルを、第1工程において層状複水酸化物へ添加し、該アクリロニトリルを、第2工程においてポリアクリロニトリルへ重合し、次いで該ポリアクリロニトリルを、か焼により少なくとも部分的にグラフェン層へ分解する、グラフェン層を有する複合材料の製造方法。
【請求項8】
か焼工程は、ポリアクリロニトリルを安定化するために200℃〜500℃への温度上昇、特に段階的温度上昇、およびポリアクリロニトリルをグラフェン層へ少なくとも部分的に分解する少なくとも800℃への引き続きの温度上昇を含むことを特徴とする、請求項6に記載のグラフェン層を有する複合材料の製造方法。
【請求項9】
か焼工程は、ポリアクリロニトリルを安定化するために200℃〜500℃への温度上昇、特に段階的温度上昇、およびポリアクリロニトリルをグラフェン層へ少なくとも部分的に分解する少なくとも700℃への引き続きの温度上昇を含むことを特徴とする、請求項7に記載のグラフェン層を有する複合材料の製造方法。
【請求項10】
アクリロニトリルを、重合開始剤と共に、層状複水酸化物または板状ケイ酸塩へ添加することを特徴とする、請求項6〜9のいずれかに記載のグラフェン層を有する複合材料の製造方法。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれかに記載の方法により製造されたグラフェン層を有する複合材料。
【請求項12】
請求項1〜5および/または11のいずれかに記載のグラフェン層を有する複合材料の酸またはアルカリ処理によるグラフェン層の製造方法。
【請求項13】
グラフェン層を製造するための請求項1〜5および/または11のいずれかに記載のグラフェン層を有する複合材料の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−507500(P2013−507500A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533599(P2012−533599)
【出願日】平成22年10月11日(2010.10.11)
【国際出願番号】PCT/EP2010/065190
【国際公開番号】WO2011/045269
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(512137348)バイエル・インテレクチュアル・プロパティ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (91)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Intellectual Property GmbH
【Fターム(参考)】