説明

グラフェン素材の製造方法及びグラフェン素材

【課題】剥離しにくい電極端子を有する所望形状のグラフェン素材を容易に作製する。
【解決手段】まず、基板本体12を用意し、その基板本体12の全面にNiの結晶層14を成膜する。続いて、リソグラフィ法により結晶層14をジグザグ状にパターニングし、触媒金属層16とする。次に、触媒金属層16に対してアセチレンとアルゴンとの混合ガスによりC原子を供給する。すると、グラフェンは触媒金属層16上に形成されるため、触媒金属層16と同じ形状つまりジグザグ状となる。次に、ジグザグ状のグラフェンの両末端に四角形の電極端子18,20を取り付ける。電極端子18,20は、下地をなすTi層とMo,Ni,Ta及びWからなる群より選ばれた金属を主成分とする保護層とをこの順で積層した構造を持つ。その後、触媒金属層16を酸性溶液で溶かし、グラフェンをグラフェン素材10として取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン素材の製造方法及びグラフェン素材に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、炭素原子の六員環が単層で連なって平面状になった二次元材料である。このグラフェンは、電子移動度がシリコンの100倍以上と言われている。近年、グラフェンをチャネル材料として利用したトランジスタが提案されている(特許文献1参照)。特許文献1では、絶縁基板上に、絶縁分離膜で分離された触媒膜パターンを形成し、その触媒膜パターン上にグラフェンシートを成長させたあと、そのグラフェンシートの両側にドレイン電極及びソース電極を形成すると共に、グラフェンシート上にゲート絶縁膜を解してゲート電極を形成している。ここで、触媒膜パターンは絶縁膜で分離されているが、グラフェンシートは触媒膜パターンの端では横方向に延びることから、絶縁分離膜の両側の触媒膜パターンからグラフェンシートが延びて絶縁分離膜上でつながった構造が得られると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−164432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、グラフェン素材を単離する方法については、これまであまり多く報告されていない。一例としては、グラファイトに粘着テープを付着させたあとそのテープを剥がすことにより、粘着テープの粘着面にグラファイトから分離したグラフェンシートを付着させるという方法が知られている。
【0005】
しかしながら、こうした方法では、グラファイトからきれいにグラフェンシートが分離しないことがあるため、所望形状のグラフェンシートを得ることが困難であった。また、グラフェンシートの両端に電極端子を設ける場合、電極端子がグラフェンシートから剥離してしまうおそれもあった。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、剥離しにくい電極端子を有する所望形状のグラフェン素材を容易に作製することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のグラフェン素材の製造方法は、
(a)グラフェン化を促進する機能を有する所定形状の触媒金属層を基板本体上に形成する工程と、
(b)前記触媒金属層の表面に炭素源を供給してグラフェンを成長させる工程と、
(c)前記触媒金属層から前記グラフェンをグラフェン素材として取り出す工程と、
を含み、
前記工程(c)で前記グラフェンをグラフェン素材として取り出す前又は後に、下地をなすTi層とMo,Ni,Ta及びWからなる群より選ばれた金属を主成分とする保護層とをこの順で積層した構造を持つ電極端子を形成するものである。
【0008】
このグラフェン素材の製造方法によれば、グラフェン素材の形状は触媒金属層の形状をそのまま受け継ぐことになるため、触媒金属層を所望形状にパターニングしさえすれば、その所望形状のグラフェン素材を得ることができる。また、電極端子は、グラフェンと接する層として炭素との反応性のよいTiを使用しているため、優れたオーミック電極となる。更に、Ti層の直上に形成される保護層にTiと反応しにくいMo,Ni,Ta又はWを使用しているため、Tiが保護層に拡散してグラフェンから剥離するという現象が起こりにくい。なお、保護層は、上述した群より選ばれた金属からなるもの(但し、不可避的な不純物成分を含む)としてもよい。
【0009】
ここで、グラフェン素材とは、炭素原子の六員環が単層で連なったグラフェンを1層又は複数層有する素材をいう。また、グラフェン化を促進する機能とは、炭素源と接触してその炭素源に含まれる炭素成分が互いに結合してグラフェンになるのを促進する機能をいう。また、Ti層の厚さは1nm−100nmとしてもよく、保護層の厚さは5nm−100nmとしてもよい。
【0010】
本発明のグラフェン素材の製造方法において、前記工程(a)では、前記触媒金属層として一筆書きが可能な形状のものを形成してもよい。こうすれば、基板の面積が小さい場合であっても、得られるグラフェン素材の長さを長くすることができる。この場合、金属層と同形状のグラフェンが得られるが、その両端を把持して伸ばすことにより線状のグラフェン素材が得られる。こうした線状のグラフェン素材は、電気配線等に利用可能である。一筆書きが可能な形状は、例えば、ジグザグ状であってもよいし渦巻き状であってもよいし螺旋状であってもよい。具体的には、基板本体が平板状の場合には触媒金属層をジグザグ状又は渦巻き状に形成し、基板本体が円筒状の場合には触媒金属層を螺旋状に形成してもよい。
【0011】
工程(a)において、基板本体としては、特に限定するものではないが、例えばc面サファイア基板、a面サファイア基板、表面にSiO2層が形成されたSi基板、SiC基板、ZnO基板、GaN基板(テンプレート基板を含む)、W等の高融点金属基板、グラフェン化促進触媒能を有する金属の基板などが挙げられる。こうした基板本体は、単結晶基板の方が触媒金属層の結晶方位を揃えやすいため好ましい。但し、単結晶基板でなくても触媒金属層の方位は揃うことがあり得る。また、基板本体は、基本的には、グラフェンを成長させる工程(b)において劣化しないことが必要である。なお、基板本体として、表面にSiO2層が形成されたSi基板を用いる場合には、Siと触媒金属層との反応を抑制するために、基板と触媒金属層との間にTi,Pt,SiO2等の中間層を設けることが好ましい。中間層の厚さは、特に限定するものではないが、例えば1nm−10nm程度としてもよい。
【0012】
工程(a)において、触媒金属層の材質としては、Cu,Ni,Co,Ru,Fe,Pt,Au等が挙げられる。こうした金属のうち、表面に三角格子(三角形の頂点に金属原子が配置された構造)を持つものが好ましい。例えば、FCCの(111)面、BCCの(110)面、HCPの(0001)面が三角格子になる。触媒金属層の厚さは、特に限定するものではないが、例えば1−500nm程度としてもよい。但し、膜厚が薄すぎると、触媒金属が粒子化してしまうおそれがあるため、粒子化しない程度の厚さとするのが好ましい。
【0013】
工程(a)において、所定形状の触媒金属層を形成するには、例えば、周知のフォトリソグラフィ法によってパターニングしてもよい。その場合、まず基板の全面に触媒金属層を形成し、次に所定形状の触媒金属層が残るようにレジストパターンを形成したあとウェットエッチング又はドライエッチングを行ってもよい。ウェットエッチングは、触媒金属層の金属種に応じて適宜エッチング液を選定すればよい。ドライエッチングも、触媒金属層の金属種に応じて適宜使用するガスを選定すればよい。また、所定形状の触媒金属層を形成するには、所定形状以外の部分を被覆するシャドウマスクを用いて触媒金属を蒸着又はスパッタしてもよい。
【0014】
工程(b)において、炭素源としては、例えば、炭素数1〜6の炭化水素やアルコールなどが挙げられる。また、グラフェンを成長させる方法としては、例えば、アルコールCVD、熱CVD、プラズマCVD、ガスソースMBEなどが挙げられる。
【0015】
アルコールCVDは、例えば、成長温度を400−850℃とし、炭素源としてメタノールやエタノールなどのアルコールの飽和蒸気を供給する。アルコール飽和蒸気は、バブラにキャリアガスを流すことにより発生させてもよい。キャリアガスとしては、アルゴン、水素、窒素などを利用することができる。圧力は大気圧であってもよいし、減圧下であってもよい。
【0016】
熱CVDは、例えば、成長温度を800−1000℃とし、炭素源としてメタン、エチレン、アセチレン、ベンゼンなどを供給する。炭素源はアルゴンや水素などをキャリアガスとして供給し、炭素源の分圧は例えば0.002−5Pa程度とする。成長時間は例えば1−20分、圧力は加圧下(例えば1kPa)であってもよいし減圧下であってもよい。炭素源を分解するためにホットフィラメントを使用することが多い。
【0017】
プラズマCVDは、例えば、成長温度を950℃、圧力を1−1.1Pa、炭素源をメタン、メタン流量を5sccm、キャリアガスを水素、水素流量を20sccmとし、プラズマパワーを100W程度とする。
【0018】
ガスソースMBEは、例えば、炭素源としてエタノールを用い、エタノールで飽和した窒素ないしは水素ガスの流量を0.3−2sccmとし、真空中で炭素源分解のため2000℃に加熱したWフィラメントを使用する。基板温度は400−600℃程度である。
【0019】
工程(c)において、触媒金属層を溶かすには、例えば酸性溶液を用いる。どのような酸性溶液を用いるかは触媒金属層の金属種による。例えば、触媒金属層の材質がNiの場合には希硝酸を使用する。あるいは、触媒金属層からグラフェン素材を引き剥がすには、例えば触媒金属層の外周部分だけを酸性溶液でエッチングしてえぐり取り、エッチングされた箇所からグラフェン素材をめくるようにして機械的に引き剥がしてもよい。
【0020】
工程(c)において、グラフェンをグラフェン素材として取り出す前又は後に電極端子を形成するにあたり、電極端子として、Ti層と保護層とAu又はSnからなる表層とをこの順で積層した構造を持つものを形成してもよい。こうすれば、電極端子はAu又はSnからなる表層を備えているため、ボンディングを容易且つ確実に行うことができる。ここで、電極端子を構成する各層は、例えば、電子ビーム蒸着法により形成してもよい。この場合、室温〜200℃の温度で真空中で蒸着するのが好ましい。あるいは、電解めっきにより形成してもよい。電極端子を形成したあと、電極特性の改善を図るために、不活性ガス中又は真空中、500℃程度の条件で熱処理してもよい。また、電極端子を形成する前に、不純物を蒸発脱離させるために、不活性ガス中又は真空中、加熱処理を行ってもよい。
【0021】
本発明のグラフェン素材は、一筆書きが可能な形状(例えばジグザグ状又は渦巻き状)の自立したグラフェン素材であって、両端に、下地をなすTi層とMo,Ni,Ta及びWからなる群より選ばれた金属を主成分とする保護層とをこの順で積層した構造を持つ電極端子を有するものである。こうしたグラフェン素材は、上述したグラフェン素材の製造方法によって容易に得ることができる。なお、「自立した」とは、テープなどの支持体などを有さず独立しているという意味である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】グラフェン素材10を製造する手順を表す説明図(斜視図)である。
【図2】電極端子18の構造を示す断面図である。
【図3】グラフェン素材10を引っ張った状態の説明図であり、(a)は緩く引っ張ったときの説明図、(b)は強く引っ張ったときの説明図である。
【図4】渦巻き状の触媒金属層26が形成された基板本体12の平面図である。
【図5】円筒状の基板本体32を用いてグラフェン素材50を製造するときの手順を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下には、実施形態として、ジグザグ状の自立したグラフェン素材10を製造する場合を例に挙げて説明する。図1は、グラフェン素材10を製造する手順を表す説明図(斜視図)である。
【0024】
まず、四角形状のc面サファイアからなる基板本体12を用意し、その基板本体12の全面にNiを成膜して結晶層14とする(図1(a)参照)。続いて、リソグラフィ法により結晶層14を一筆書きが可能な形状、ここではジグザグ状にパターニングし、結晶層14を触媒金属層16とする(図1(b)参照)。
【0025】
次に、触媒金属層16のNiに対して、温度600℃、圧力1kPaにてアセチレンとアルゴンとの混合ガスによりC原子を供給する。すると、Ni表面は(111)面に再配列される。Ni(111)面には、Ni原子を頂点とした三角格子が構成される。そして、供給されたC原子は、Ni原子から構成されるそれぞれの三角形の重心の真上に配置されることで、C原子を頂点とした六角形が形成され、この六角形が互いに結合していくことでグラフェンが成長していく(図1(c)参照)。グラフェンは触媒金属層16上に形成されるため、触媒金属層16と同じ形状つまりジグザグ状となる。なお、グラフェンが成長しすぎると、横方向に延びてジグザグを形成する溝を塞いでしまうため、そうなる前に成長を止める。
【0026】
次に、ジグザグ状のグラフェンの両末端に四角形の電極端子18,20を取り付ける(図1(d)参照)。電極端子18は、図2に示すように、下地をなすTi層18aと、Mo,Ni,Ta及びWからなる群より選ばれた金属を主成分とする保護層18bと、Au又はSnからなる表層18cをこの順に積層したものである。電極端子20も、同様にして3層構造となるように積層したものである。各層は、電子ビーム蒸着法により形成してもよい。この場合、室温〜200℃の温度で真空中で蒸着するのが好ましい。あるいは、電解めっきにより形成してもよい。電極端子18,20を形成したあと、電極特性の改善を図るために、不活性ガス中又は真空中、500℃程度の条件で熱処理してもよい。また、電極端子18,20を形成する前に、不純物を蒸発脱離させるために、不活性ガス中又は真空中、加熱処理を行ってもよい。その後、電極端子18,20を適宜保護膜で保護し、触媒金属層16を酸性溶液で溶かす。ここでは、触媒金属層16はNiであるため、希硝酸を用いる。そして、触媒金属層16が溶けたあと、グラフェンをグラフェン素材10として取り出し、最後に電極端子18,20の保護膜を除去する(図1(e)参照)。なお、電極端子18,20の保護膜としては、例えばフォトレジストやワックスが挙げられる。また、保護膜としてフォトレジストを用いた場合にはアセトンならびに剥離液により除去し、ワックスを用いた場合には、有機溶媒により除去すればよい。
【0027】
このようにして得られたグラフェン素材10は、ジグザグ状の自立した素材であるが、両末端の電極端子18,20を把持して伸ばすことにより線材にすることができる(図1(f)参照)。こうした線材は細くて大きな電流を流せる電気配線として利用可能である。また、グラフェンシートの特長を生かし、このように作製した電気配線の途中に、トランジスタ構造を作製し、電流の流れを制御することも可能である。
【0028】
より詳細には、グラフェン素材10の両端18,20を把持して伸ばすと、図3(a)に示す線材となる。このような構造は伸縮自在であり、例えば図3(a)の形状から両端を大きく離間させると、図3(b)に示すように伸長した形状となる。このため、こうした線材は、相対位置が動く2つの電子機器を電気的に接続するのに好適である。また、図3(a)の幅waより小さく図3(b)の幅wbより大きい内径をもつ筒を用意し、この筒に図3(b)の状態で線材を挿入したあと両端の把持を解くと、復元力により線材は筒内に固定される。この筒を絶縁体で形成すれば、この筒が被覆材になるため、電線ケーブルとして利用できる。このとき、筒内の空間を絶縁樹脂で埋めてもよい。
【0029】
以上説明した本実施形態のグラフェン素材10の製造方法によれば、グラフェン素材10の形状は触媒金属層16の形状をそのまま受け継ぐことになるため、触媒金属層16を所望形状にパターニングしさえすれば、その所望形状のグラフェン素材10を得ることができる。また、触媒金属層16は、一筆書きが可能なジグザグ状であるため、基板本体12の面積が小さい場合であっても、得られるグラフェン素材10の長さを長くすることができる。更に、電極端子18,20は、グラフェンと接する下地層に炭素との反応性のよいTiを使用しているため、優れたオーミック電極となる。更にまた、下地層の直上に形成される保護層にTiと反応しにくいMo,Ni,Ta又はWを使用しているため、Tiが保護層に拡散してグラフェンから剥離するという現象が起こりにくい。加えて、表層にAu又はSnを使用しているため、ボンディングを容易且つ確実に行うことができる。
【0030】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。基板本体は、線状、円筒状でも良く、このような形状の基板を用いることにより、より長い配線構造を容易に作製することが可能となる。
【0031】
例えば、上述した実施形態では、ジグザグ状の触媒金属層16を基板本体12上に形成したが、図4(平面図)に示すように渦巻き状の触媒金属層26を基板本体12上に形成してもよい。この場合も上述した実施形態と同様にして触媒金属層26上にグラフェンを成長させたあと、グラフェンの両末端に電極を取り付け、その後触媒金属層26を溶かせば、グラフェンを渦巻き状のグラフェン素材として取り出すことができる。また、渦巻き状のグラフェン素材の両末端を把持して伸ばせば線材にすることができる。あるいは、ジグザグ状や渦巻き状以外でも、一筆書き形状であれば上述した実施形態と同様にしてその形状のグラフェン素材を取り出すことができる。あるいは、一筆書き形状以外の形状、例えば三角形や四角形などの多角形、円形、楕円形、星形など任意の形状を採用してもよい。この場合には、任意の形状のグラフェン素材を取り出すことができる。
【0032】
上述した実施形態では、熱CVDによりグラフェンを成長させたが、熱CVD以外の方法、例えばアルコールCVD、プラズマCVD、ガスソースMBEなどによりグラフェンを成長させてもよい。
【0033】
上述した実施形態では、触媒金属層16の材質としてNiを採用したが、グラフェンの成長を促進する機能を有する金属であればどのような材質を採用してもよい。Ni以外には、例えばCu,Co,Ru,Fe,Pt,Auなどが挙げられる。
【0034】
上述した実施形態では、触媒金属層16からグラフェン素材10を取り出すにあたり、触媒金属層16をすべて溶かしたが、例えば電極端子18,20を作製した触媒金属層16の端部付近だけを酸性溶液でエッチングしてえぐり取り、エッチングされた箇所からグラフェンをめくるようにして機械的に引き剥がすことでグラフェン素材10を取り出してもよい。グラフェンは六角形状の炭素が2次的に結合してなる平面構造が積層したものであるため、グラフェンのうち1,2層程度は触媒金属層16上に残るものの、残りはきれいに剥がれる。なお、グラフェンのうち触媒金属層16上に残ったものは、触媒金属層16を再利用する場合、グラフェン成長のシード的な役割を果たすことも可能である。
【0035】
上述した実施形態では、基板本体12が板状の場合について説明したが、基板本体が円筒状であってもよい。その場合には、例えば基板本体にリボンを巻き付けるような感じで螺旋状に触媒金属層のパターニングを行い、その触媒金属層の表面にグラフェンを成長させることで、非常に長く滑らかな線状のグラフェン素材を簡単に得ることができる。その一例を図5に示す。図5(a)は円筒状の基板本体32に螺旋状の触媒金属層36を設けた状態を示し、図5(b)はその触媒金属層36の表面にグラフェンを成長させてグラフェン素材50を形成した状態を示す。基板本体32は、中実(中が詰まっている)のものを例示したが、中空(中が空洞)であってもよい。触媒金属層36から取り出した螺旋状のグラフェン素材50も、両端を引っ張ると長くなると同時にコイル径が小さくなり、力を緩めると復元力により元の形状に戻る。このため、両端を引っ張った状態のコイル径より大きく力を緩めた状態のコイル径より小さい内径をもつ筒を用意し、この筒に両端を引っ張った状態のグラフェン素材50を挿入したあと両端の把持を解くと、復元力によりグラフェン素材50は筒内に固定される。この筒を絶縁体で形成すれば、この筒が被覆材になるため、電線ケーブルとして利用できる。このとき、筒内の空間を絶縁樹脂で埋めてもよい。
【0036】
円筒状で中空の基板本体にグラフェンを成長させる場合には、基板本体の外面及び内面のいずれか一方に螺旋状の触媒金属層をパターニングし、その触媒金属層の表面にグラフェンを成長させてもよいし、あるいは、基板本体の外面及び内面の両方に螺旋状の触媒金属層をパターニングし、両触媒金属層の表面にグラフェンを成長させてもよい。円筒状で中空の絶縁基板本体の内面に螺旋状の触媒金属層をパターニングしてグラフェンを成長させた場合、螺旋状のグラフェンを剥がすことなくそのままコイルとして利用可能である。この場合、グラフェンからなるコイルは円筒によって保護される。また、円筒状の基板本体に触媒金属層を形成する方法としては、通常のフォトリソグラフィーに準じた手法を基板本体を回転させながら適用してもよいし、ナノインプリントの技術を用いて機械的にリソグラフィーパターンを転写してもよいし、細いけがき針を使用して機械的にパターニングしてもよい。触媒金属を成膜する方法は、蒸着を採用してもよいし、その金属を含む液状の原料を吹き付ける、もしくはその液中に基板を浸し、その後、熱処理を行い触媒金属の薄膜を形成する方法を採用してもよい。触媒金属層の表面にグラフェンを成長させるには、触媒金属層の表面に炭素源を供給するが、基板本体が円筒状で中空の場合には、基板本体を真空チャンバーと見立ててその中に炭素源となる原料ガスを流してグラフェンを成長させることができるため、真空チャンバーを用意する必要がなくなり、装置構成の大幅な簡略化、ひいては生産性の向上や生産コストの削減など多くの優れた効果を期待できる。
【0037】
円筒形状の基板本体を用いた場合、基板本体から他の支持材に転写することにより、また、基板本体から引きはがすことなくそのままの形状で使用することにより、優れたコイル特性が示される。一般的に、コイルから発生する磁界の大きさは、電磁気学が示すようにコイルの巻き数と流す電流の積で決まる。グラフェンシートを用いた場合は、通常の銅線を用いた場合より細い線形状が作製しやすく、なおかつより大きな電流を流すこともできるので、本発明によるコイルはより小さな形状で、より大きな磁界を発生することができる。すなわち、大きなコンダクタンスを示すことができる。例えば、20マイクロメータ幅のグラフェンシートを、隣同士のグラフェンシートの間隔5マイクロメータで、すなわち、周期25マイクロメータで作製しコイルを形成すれば、1cmの長さでコイルを400回巻くことができる。このように、本発明によれば、極めて簡便な作製方法により、すなわち、コイルを巻く作業を行うことなしに、従来より大幅に小型化した高性能なコイルの生産が可能である。グラフェンシートに流せる電流も通常の銅線より大きいため、上記コイルから発生する磁力は、より大きくできる。このコイルは、単にインダクタンスとして使用するばかりでなく、二つのコイルを鉄心などによりカップリングし組み合わすことによりトランスとして、また、モーター等に使用する電磁石として使用できることはいうまでもない。さらに、コイル形状は円筒状ばかりでなく、モーター等の鉄心形状にあわせ楕円筒状、四角筒状などと必要によって基板形状を変化させれば、成長したそのままの形で機器にアセンブルすることもできる。トランスを作製する場合は、サイズを変えた基板本体を用い、鉄心の周りに同心的にこのコイルを重ねることで良い。また、円筒状の基板本体の外側、内側に形成したコイルに鉄心を装備し利用する。もしくは、鉄心を入れたグラフェンシートコイルを部分に分割し、それぞれを独立した巻き線として利用することで、トランスを構成することができる。以上のように、本発明によれば、各種磁性機器の性能向上、小型化、生産性向上が実現できる。
【0038】
一方、線状形状の基板本体として、銅などの金属線を用いた場合は、グラフェンシートの成長後、基板本体から分離せずにそのままの形状で使用することも可能である。この場合は、中心の金属部も伝導性に寄与し、周囲のグラフェンシートも同時に導電性に寄与するため、従来の金属線よりも優れた導電率ならびに耐電流特性が示される。本構造は配線材料に用いることができるほか、コイル形状に巻くことにより、モーター、トランス等の機器に応用することが可能である。以上のように、金属導体をグラフェンシートと融合した構造も、本発明によれば簡便に作製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のグラフェン素材は、微細な電気配線などに利用可能である。
【符号の説明】
【0040】
10 グラフェン素材、12 基板本体、14 結晶層、16 触媒金属層、18,20 電極端子、18a Ti層、18b 保護層、18c 表層、26 触媒金属層、32 基板本体、36 触媒金属層、50 グラフェン素材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)グラフェン化を促進する機能を有する所定形状の触媒金属層を基板本体上に形成する工程と、
(b)前記触媒金属層の表面に炭素源を供給してグラフェンを成長させる工程と、
(c)前記触媒金属層から前記グラフェンをグラフェン素材として取り出す工程と、
を含み、
前記工程(c)で前記グラフェンをグラフェン素材として取り出す前又は後に、下地をなすTi層とMo,Ni,Ta及びWからなる群より選ばれた金属を主成分とする保護層とをこの順で積層した構造を持つ電極端子を形成する、
グラフェン素材の製造方法。
【請求項2】
前記工程(a)では、前記触媒金属層として一筆書きが可能な形状のものを形成する、請求項1に記載のグラフェン素材の製造方法。
【請求項3】
前記工程(a)では、前記一筆書きが可能な形状はジグザグ状、渦巻き状又は螺旋状である、請求項2に記載のグラフェン素材の製造方法。
【請求項4】
前記工程(c)では、前記触媒金属層からジグザグ状、渦巻き状又は螺旋状のグラフェンを取り出したあと両端を把持して伸ばすことにより線状のグラフェン素材を得る、請求項2又は3に記載のグラフェン素材の製造方法。
【請求項5】
前記工程(c)では、前記触媒金属層から前記グラフェン素材として取り出すにあたり、前記触媒金属層を溶かして前記グラフェン素材を取り出すか、又は、前記触媒金属層から前記グラフェン素材を引き剥がす、請求項1〜4のいずれか1項に記載のグラフェン素材の製造方法。
【請求項6】
前記電極端子として、前記Ti層と前記保護層とAu又はSnからなる表層とをこの順で積層した構造を持つものを形成する、
請求項1〜5のいずれか1項に記載のグラフェン素材の製造方法。
【請求項7】
ジグザグ状、渦巻き状又は螺旋状の自立したグラフェン素材であって、
両端に、下地をなすTi層とMo,Ni,Ta及びWからなる群より選ばれた金属を主成分とする保護層とをこの順で積層した構造を持つ電極端子を有する、
グラフェン素材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−144419(P2012−144419A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131743(P2011−131743)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(599002043)学校法人 名城大学 (142)
【Fターム(参考)】