説明

グラフェン膜の転写方法および透明導電膜の製造方法

【課題】所望の基板上にグラフェン膜を良好な密着性で転写することができ、しかもグラフェン膜に欠陥が発生するのを有効に防止することができ、量産性にも優れたグラフェン膜の転写方法および透明導電膜の製造方法を提供する。
【解決手段】第1の基板11上に形成された一層または複数層のグラフェン膜12と第2の基板14とを、揮発成分の含有量が1重量%未満で粘着性を有する樹脂層13により張り合わせ、第1の基板11と第2の基板14とを加圧して樹脂層13の厚さを減少させ、樹脂層13を硬化させた後、第1の基板11を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、グラフェン膜の転写方法および透明導電膜の製造方法に関し、例えば、ディスプレイ、タッチパネル、色素増感太陽電池などに用いられる透明導電膜の製造に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
グラファイトの炭素原子一層からなるグラフェンは、その高い導電性から透明導電材料や配線材料として期待されている。中でも、熱CVD法により合成したグラフェン膜は、大面積に成膜可能で層数制御も可能であるという点から注目されている。
【0003】
熱CVD法によるグラフェン膜の合成方法では、金属触媒基板上にグラフェン膜が形成されるため、このグラフェン膜を金属触媒基板から所望の基板に転写する必要がある。
【0004】
従来のグラフェン膜の転写方法としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を用いた転写方法や熱剥離テープを用いた転写方法などが報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0005】
また、従来の別のグラフェン膜の転写方法として、炭素化触媒膜上にグラフェンシートを形成し、このグラフェンシートにバインダー層を形成し、このバインダー層に基板を接着し、これらを酸溶液に浸漬することにより炭素化触媒膜を除去する方法が提案されている(特許文献1参照。)。このバインダー層の物質としては、市販のシロキサン化合物やアクリル化合物などを用いることが記載されているが、これらの市販のバインダー物質は一般的にアルコールやアセタールなどの溶剤からなる揮発成分を数重量%以上含有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−298683号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S.Bae et al.,Nature Nanotechnology 5,574(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1に記載されたグラフェン膜の転写方法は、量産性に乏しいことや転写により透明導電性が低下するといった課題があり、実用的ではない。
【0009】
また、特許文献1に記載されたグラフェン膜の転写方法は、グラフェン膜を張り合わせた後のバインダー層の硬化工程で、このバインダー層中に含まれる揮発成分の揮発により形成された気泡がグラフェン膜に欠陥を発生させる。このため、望ましい特性(導電性、バリア性、熱伝導性など)を有するグラフェン膜を得ることが困難であった。
【0010】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、所望の基板上にグラフェン膜を良好な密着性で転写することができ、しかもグラフェン膜に欠陥が発生するのを有効に防止することができ、量産性にも優れたグラフェン膜の転写方法および透明導電膜の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、この発明は、
第1の基板上に形成された一層または複数層のグラフェン膜と第2の基板とを、揮発成分の含有量が1重量%未満で粘着性を有する樹脂層により張り合わせる工程と、
上記第1の基板を除去する工程とを有するグラフェン膜の転写方法である。
【0012】
また、この発明は、
第1の基板上に形成された一層または複数層のグラフェン膜と第2の基板とを、揮発成分の含有量が1重量%未満で粘着性を有する樹脂層により張り合わせる工程と、
上記第1の基板を除去する工程とを有する透明導電膜の製造方法である。
【0013】
この発明においては、転写されるグラフェン膜に欠陥が発生するのを防止し、膜質の向上を図る観点からは、樹脂層の揮発成分の含有量は、好適には0.5重量%以下、より好適には0.1重量%以下とする。典型的な一つの例では、この発明は、第1の基板上に形成されたグラフェン膜と第2の基板とを樹脂層により張り合わせた後、第1の基板を除去する前に、第1の基板と第2の基板とを加圧して樹脂層の厚さを減少させる工程をさらに有する。また、この発明は、典型的には、第1の基板と第2の基板とを加圧して樹脂層の厚さを減少させた後、第1の基板を除去する前に、樹脂層を硬化させる工程をさらに有する。樹脂層の硬化方法は、樹脂層の種類に応じて適宜選ばれる。例えば、樹脂層が紫外線硬化性樹脂からなる場合には紫外線を照射することにより硬化させることができ、樹脂層が熱硬化性樹脂からなる場合には加熱により硬化させることができる。典型的な一つの例では、第1の基板上に形成されたグラフェン膜上に、揮発成分の含有量が1重量%未満で粘着性を有する樹脂層を塗布する。他の例では、第1の基板上に形成されたグラフェン膜上に揮発成分を少なくとも1重量%以上含み、粘着性を有する樹脂層を塗布した後、この樹脂層を乾燥させて揮発成分を除去することにより、揮発成分の含有量が1重量%未満で粘着性を有する樹脂層を形成する。揮発成分の含有量が1重量%未満で粘着性を有する樹脂層は、好適には室温で流動性を有するが、加熱状態で流動性を有するものであってもよく、その場合には加熱状態で、第1の基板上に形成されたグラフェン膜と第2の基板との張り合わせが行われる。
【0014】
樹脂層は、典型的には紫外線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂からなり、これらの中から必要に応じて選ばれるが、これに限定されるものではない。第1の基板および第2の基板は必要に応じて選ばれる。特に第2の基板としては、グラフェン膜の用途などに応じて所望の基板が用いられる。
【0015】
グラフェン膜と第2の基板とが樹脂層により張り合わされた構造体あるいは透明導電膜は、透明導電性フィルムあるいは透明導電性シートとして用いることができる。透明導電膜は各種の電子機器に用いることができる。電子機器は、具体的には、例えば、液晶ディスプレイ(LCD)や有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(有機ELディスプレイ)などのディスプレイ、タッチパネルなどであり、透明導電膜の用途も問わない。透明導電膜は、例えば、太陽電池、例えば色素増感太陽電池などの透明電極として用いることもできる。
【0016】
上述のように構成されたこの発明においては、粘着性を有する樹脂層を介してグラフェン膜と第2の基板とを張り合わせるので、第2の基板に対してグラフェン膜を良好な密着性で転写することができる。また、張り合わせに用いる樹脂層は、揮発成分の含有量が1重量%未満であるため、硬化の際の揮発成分の揮発による気泡の発生が殆どなく、気泡によりグラフェン膜に欠陥が発生することが殆どない。また、第1の基板上に形成されたグラフェン膜と第2の基板とを樹脂層により張り合わせた後、第1の基板を除去することにより容易に第2の基板上にグラフェン膜を転写することができるので、量産性に優れている。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、所望の基板上にグラフェン膜を良好な密着性で転写することができ、しかもグラフェン膜に欠陥が発生するのを有効に防止することができ、量産性にも優れているグラフェン膜の転写方法および透明導電膜の製造方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の第1の実施の形態によるグラフェン膜の転写方法を説明するための断面図である。
【図2】この発明の第2の実施の形態によるグラフェン膜の転写方法を説明するための断面図である。
【図3】実施例1、2および比較例1、2の実験結果を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」とする)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(グラフェン膜の転写方法)
2.第2の実施の形態(グラフェン膜の転写方法)
【0020】
〈1.第1の実施の形態〉
[グラフェン膜の転写方法]
図1A〜Eは第1の実施の形態によるグラフェン膜の転写方法を示す。
【0021】
図1Aに示すように、第1の基板11上に一層または複数層のグラフェン膜12を形成する。第1の基板14としては、少なくとも表面に銅やニッケルなどの金属触媒が形成されたものが用いられ、例えば、銅基板やシリコン基板上にニッケル触媒層を形成したものなどが用いられるが、これらに限定されるものではない。グラフェン膜12の合成方法は特に限定されないが、好適には熱CVD法が用いられる。
【0022】
次に、図1Bに示すように、グラフェン膜12上に、揮発成分を1重量%未満、好適には0.5重量%以下、より好適には0.1重量%以下含有し、粘着性を有する樹脂層13を塗布する。この樹脂層13の厚さは、この樹脂層13の表面が平坦となるようにするために、好適には例えば20μm以下に選ばれる。また、この樹脂層13の厚さは、十分な接着力を得るために、好適には例えば1μm以上、より好適には2μm以上に選ばれる。樹脂層13は、好適には、例えば室温で2N/m以上の粘着力を有するが、これに限定されるものではない。
【0023】
樹脂層13の塗布方法としては、従来公知の方法を用いることができ、必要に応じて選ばれる。塗布方法としては、具体的には、例えば、スピンコート法、浸漬法、キャスト法などや、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法といった各種の印刷法、スタンプ法、スプレー法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、ナイフコーター法、スクイズコーター法、リバースロールコーター法、トランスファーロールコーター法、グラビアコーター法、キスコーター法、キャストコーター法、スプラーコーター法、スリトオリフィスコーター法、カレンダーコーター法といった各種のコーティング法などを用いることができる。
【0024】
樹脂層13としては、例えば、紫外線(UV)硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などを用いることができ、必要に応じて選ばれる。樹脂層13の物質としては、具体的には、例えば、シロキサン系化合物、アクリル系化合物、エポキシ系化合物などを挙げることができ、これらの中から必要に応じて選ばれる。
【0025】
次に、図1Cに示すように、第1の基板11、グラフェン膜12および樹脂層13を樹脂層13側が下になるようにして第2の基板14上に載せ、第1の基板11上に形成されたグラフェン膜12と第2の基板14とを樹脂層13により張り合わせる。第2の基板14としては、所望の基板が用いられる。第2の基板14は、透明基板であっても不透明基板であってもよい。透明基板の材料は必要に応じて選ばれるが、例えば、石英やガラスなどの透明無機材料や透明プラスチックなどが挙げられる。フレキシブルな透明基板としては透明プラスチック基板が用いられる。透明プラスチックとしては、例えば、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフッ化ビニリデン、アセチルセルロース、ブロム化フェノキシ、アラミド類、ポリイミド類、ポリスチレン類、ポリアリレート類、ポリスルホン類、ポリオレフィン類などが挙げられる。不透明基板としては例えばシリコン基板が用いられる。樹脂層13の種類などに応じて、第1の基板11、グラフェン膜12および樹脂層13を第2の基板14上に載せる前に、第2の基板14の表面を親水性処理してもよい。
【0026】
次に、図1Dに示すように、第2の基板14に対して第1の基板11を加圧することにより、樹脂層13の厚さを所望の厚さに減少させる。加圧方法は特に限定されないが、例えば、ロールにより加圧したり、平板を押し付けることにより加圧したりすることができる。この際、加圧は、好適には、厚さの減少に伴って樹脂層13に含まれる気泡が除去されるように行われる。樹脂層13が常温で流動性を有する場合には加圧を常温で行うことができるが、加熱状態でないと流動性が得られない場合には加圧は加熱状態で行う。加圧後の樹脂層13の厚さは、好適には、この樹脂層13によりグラフェン膜12と第2の基板14とが良好な密着性で張り合わせることができる範囲で最小に選ばれる。この樹脂層13の最小の厚さは、例えば1μm以上3μm以下である。
【0027】
次に、図1Eに示すように、第1の基板11を除去する。第1の基板11の除去には、好適にはエッチングが用いられる。エッチング方法は、第1の基板11を構成する金属触媒を除去することができる限り特に限定されない。エッチング方法としては、真空装置を用いたドライエッチングとエッチャント(エッチング液)を用いるウェットエッチングとのいずれを用いてもよいが、エッチング効率の観点から、好適にはウェットエッチングが用いられる。ウェットエッチングで用いられるエッチャントは、金属触媒を溶解することができる限り特に限定されない。金属触媒が銅からなる場合、例えば、第1の基板11が銅からなる場合には、エッチャントとしては、リン酸や硝酸などの酸あるいは硝酸鉄や塩化鉄などの酸化還元性のエッチャントを用いることができるが、好適には、後者の酸化還元性のエッチャントが用いられる。これは、酸化還元性のエッチャントを用いる場合にはエッチング時に気泡が発生しないため、グラフェン膜12への欠陥の発生が抑えられるとともに、金属触媒を均一に溶解することができるためである。エッチング速度を大きくするために、好適にはエッチング時にエッチャントの撹拌を行う。エッチングは、硫酸銅水溶液中での電解エッチングを用いてもよい。
【0028】
この後、第1の基板11の除去により露出したグラフェン膜12の表面を純水などで洗浄し、乾燥させる。
以上により、第1の基板11から第2の基板14にグラフェン膜12を転写することができ、グラフェン膜12と第2の基板14とが樹脂層13により張り合わされた構造体が得られる。
【0029】
以上のように、この第1の実施の形態によれば、グラフェン膜12と第2の基板14とが樹脂層13により張り合わされるので、第2の基板14に対するグラフェン膜12の密着性が良好である。また、グラフェン膜12と第2の基板14とを張り合わせる際の樹脂層13に含有される揮発成分は1重量%未満と微量であるので、グラフェン膜12と第2の基板14とを張り合わせた後の工程で樹脂層13から揮発する揮発成分は殆どなく、気泡の発生が殆どない。このため、気泡によりグラフェン膜12に欠陥が発生するおそれが殆どない。また、樹脂層13に含有される揮発成分は1重量%未満と微量であるため、大面積にわたって樹脂層13を塗布しても揮発成分により気泡が発生するのを抑えることができ、このため、グラフェン膜の大面積化を図ることができる。また、第1の基板11をエッチングにより除去する際には、グラフェン膜12が樹脂層13を介して第2の基板14により強固に保持されているため、グラフェン膜12への欠陥の発生を有効に抑えることができる。また、エッチング時に、第1の基板11、グラフェン膜12、樹脂層13および第2の基板14の全体を激しく動かしても、剥がれや欠陥の発生を抑えることができるため、例えば、エッチャントを撹拌しながらウェットエッチングを行うことができる。このため、エッチング速度を大きくすることができ、エッチング時間の短縮を図ることができる。また、従来の転写方法では、基板上に形成されたグラフェン膜上に樹脂層が存在することがあるが、この第1の実施の形態によれば、樹脂層13はグラフェン膜12と第2の基板14との間に存在し、グラフェン膜12上には存在しないので、従来の転写方法と異なり、樹脂層の除去工程が不要であり、転写のスループットの向上を図ることができる。
【0030】
この第1の実施の形態によれば、第2の基板14として透明基板を用いることにより、グラフェン膜12と第2の基板14とが樹脂層13により張り合わされた構造体からなる透明導電膜を得ることができる。この透明導電膜は、例えば、ディスプレイ、タッチパネル、色素増感太陽電池などに用いることができる。
【0031】
〈2.第2の実施の形態〉
[グラフェン膜の転写方法]
図2A〜Eは第2の実施の形態によるグラフェン膜の転写方法を示す。
図2Aに示すように、第1の実施の形態と同様にして、第1の基板11上にグラフェン膜12を形成する。
【0032】
次に、図2Bに示すように、グラフェン膜12上に、揮発成分を少なくとも1重量%以上含有し、粘着性を有する樹脂層13を塗布する。この樹脂層13の材質、厚さ、塗布方法などは、第1の実施の形態と同様である。
【0033】
次に、図2Cに示すように、樹脂層13を乾燥させることにより揮発成分を揮発させて揮発成分が1重量%未満、好適には0.5重量%以下、より好適には0.1重量%以下になるようにする。この乾燥により樹脂層13の厚さが減少する。樹脂層13は、乾燥後に粘着性を有し、かつ自己変形性を有するものが用いられる。
【0034】
次に、図2Dに示すように、第1の基板11、グラフェン膜12および樹脂層13を樹脂層13側が下になるようにして第2の基板14上に載せ、第1の基板11上に形成されたグラフェン膜12と第2の基板14とを樹脂層13により張り合わせる。第2の基板14としては、第1の実施の形態と同様なものを用いることができる。
【0035】
次に、図2Eに示すように、第1の実施の形態と同様にして、第1の基板11を除去する。
この後、第1の基板11の除去により露出したグラフェン膜12の表面を純水などで洗浄し、乾燥させる。
【0036】
以上により、第1の基板11から第2の基板14にグラフェン膜12を転写することができ、グラフェン膜12と第2の基板14とが樹脂層13により張り合わされた構造体が得られる。
この第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な種々の利点を得ることができる。
【0037】
〈実施例1〉(第1の実施の形態に対応する実施例)
第1の基板11として銅箔を用いた。
【0038】
この銅箔をCVD装置の1000℃に加熱された石英管状炉に入れ、水素(H2 )ガスおよびメタン(CH4 )ガスを流し(水素ガス流量8sccm、メタンガス流量24sccm、圧力0.3Torr)、銅箔上にグラフェン膜を合成した。合成後、再び水素ガスを流しながら、降温した。その後、グラフェン膜を合成した銅箔を石英管状炉から取り出した。
【0039】
次に、銅箔上に合成したグラフェン膜上に、常温で液体で、揮発成分である溶媒の含有量が少なくとも0.1重量%以下であるエポキシ樹脂系のUV硬化性樹脂(アセック株式会社製、EX09−380−1LV3)を4000rpm、40秒の条件でスピンコートして樹脂層を形成した。この樹脂層の厚さは20μm程度であった。
【0040】
次に、第2の基板14として透明なガラス基板を用い、このガラス基板上に、銅箔上に合成されたグラフェン膜上に塗布されたUV硬化性樹脂からなる樹脂層の樹脂層側を下にして載せて張り合わせた。
【0041】
次に、銅箔上から平板を押し付けて加圧することにより樹脂層13の厚さを減少させ、最終的に2μm程度の厚さとした。
【0042】
次に、ガラス基板の裏面側から紫外線を照射し、ガラス基板を透過して樹脂層に紫外線を照射して硬化させた。照射条件は、照射パワー密度160W/cm2 、照射時間40秒とした。
【0043】
次に、ガラス基板、樹脂層、グラフェン膜および銅箔の全体を1Mの硝酸鉄(Fe(NO3 3 )水溶液に50分間浸漬し、銅箔をエッチング除去した。
この後、ガラス基板、樹脂層およびグラフェン膜の全体を超純水で洗浄し、乾燥させた。
以上のようにして、グラフェン膜とガラス基板とが樹脂層により張り合わされた構造体が形成された。
【0044】
〈実施例2〉(第2の実施の形態に対応する実施例)
第1の基板11として銅箔を用いた。
【0045】
この銅箔をCVD装置の1000℃に加熱された石英管状炉に入れ、水素(H2 )ガスおよびメタン(CH4 )ガスを流し(水素ガス流量8sccm、メタンガス流量24sccm、圧力0.3Torr)、銅箔上にグラフェン膜を合成した。合成後、再び水素ガスを流しながら、降温した。その後、グラフェン膜を合成した銅箔を石英管状炉から取り出した。
【0046】
熱可塑性樹脂(綜研化学株式会社製、SKダイン2300(「SKダイン」は登録商標))と硬化剤(綜研化学株式会社製、L−45)とを100:5の重量比で混合し、主剤のSKダイン2300の濃度が50重量%となるようにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PEGMEA)に加えて溶解させ、SKダイン2300溶液を調製した。このSKダイン2300溶液を、銅箔上に形成したグラフェン膜上にドロップキャストした後、室温で乾燥させて樹脂層を形成するとともに、この樹脂層中の揮発成分の含有量を1重量%未満に減少させた。この樹脂層の厚さは20μm程度であった。
【0047】
次に、第2の基板14として透明なガラス基板を用い、このガラス基板上に、銅箔上に合成されたグラフェン膜上に塗布された熱可塑性樹脂からなる樹脂層の樹脂層側を下にして載せて張り合わせた。
【0048】
次に、150℃で3分加熱することにより樹脂層を溶融してグラフェン膜とガラス基板とに完全に密着させた。
放冷後、ガラス基板、樹脂層、グラフェン膜および銅箔の全体を1Mの硝酸鉄水溶液に50分間浸漬し、銅箔をエッチング除去した。
この後、ガラス基板、樹脂層およびグラフェン膜の全体を超純水で洗浄し、乾燥させた。
以上のようにして、グラフェン膜とガラス基板とが樹脂層により張り合わされた構造体が形成された。
【0049】
〈比較例1〉
実施例1と同様にして銅箔上にグラフェン膜を合成し、その銅箔を石英管状炉から取り出した。
【0050】
熱硬化性樹脂であるポリビニルフェノール(PVP)と架橋剤のメラミンとを10:1の重量比で混合し、PVP濃度が10重量%になるようにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PEGMEA)に加えて溶解させ、PVP溶液を調製した。このPVP溶液を、銅箔上に合成したグラフェン膜上に、3000rpm、30秒の条件でスピンコートしてPVP系熱硬化性樹脂からなる樹脂層を形成した。この樹脂層は、少なくとも数重量%以上の揮発成分を含有する。この樹脂層の厚さは20μm程度であった。
【0051】
ガラス基板上に、銅箔上に合成されたグラフェン膜上に塗布されたPVP系熱硬化性樹脂からなる樹脂層の樹脂層側を下にして載せて張り合わせた。
【0052】
次に、180℃で20分間ベークすることによりPVP系熱硬化性樹脂からなる樹脂層を硬化させた。
【0053】
次に、ガラス基板、樹脂層、グラフェン膜および銅箔の全体を1Mの硝酸鉄水溶液に50分間浸漬し、銅箔をエッチング除去した。
この後、ガラス基板、樹脂層およびグラフェン膜の全体を超純水で洗浄し、乾燥させた。
以上のようにして、グラフェン膜とガラス基板とが樹脂層により張り合わされた構造体が形成された。
【0054】
〈比較例2〉
実施例1と同様にして銅箔上にグラフェン膜を合成し、その銅箔を石英管状炉から取り出した。
【0055】
熱可塑性樹脂を30重量%の含有量となるように酢酸エチルに溶解させた。この熱可塑性樹脂溶液を、銅箔上に合成したグラフェン膜上に、4000rpm、30秒の条件でスピンコートして熱可塑性樹脂からなる樹脂層を形成した。この樹脂層は、少なくとも数重量%以上の揮発成分を含有する。この樹脂層の厚さは20μm程度であった。
【0056】
ガラス基板上に、銅箔上に合成されたグラフェン膜上に塗布された熱可塑性樹脂からなる樹脂層の樹脂層側を下にして載せて張り合わせた。
【0057】
次に、150℃で5分間ベークすることにより熱可塑性樹脂からなる樹脂層を硬化させた。
【0058】
次に、ガラス基板、樹脂層、グラフェン膜および銅箔の全体を1Mの硝酸鉄水溶液に50分間浸漬し、銅箔をエッチング除去した。
この後、ガラス基板、樹脂層およびグラフェン膜の全体を超純水で洗浄し、乾燥させた。
以上のようにして、グラフェン膜とガラス基板とが樹脂層により張り合わされた構造体が形成された。
【0059】
[グラフェン膜の特性評価]
実施例1、2および比較例1、2のグラフェン膜に対してシート抵抗の面内分布の測定を行った。その結果を図3に示す。
【0060】
図3に示すように、比較例1、2のグラフェン膜はシート抵抗が大きく、面内ばらつきも大きいのに対し、実施例1、2のグラフェン膜はシート抵抗が小さく、面内ばらつきも小さく、特性が良好なグラフェン膜であることが分かる。また、光学顕微鏡観察を行った結果、比較例1、2のグラフェン膜では、気泡に起因する微小な空隙が観察されたのに対し、実施例1、2のグラフェン膜ではそのような空隙は観察されなかった。
【0061】
以上、この発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0062】
例えば、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、構造、プロセス、形状、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、プロセス、形状、材料などを用いてもよい。
【符号の説明】
【0063】
11…第1の基板、12…グラフェン膜、13…樹脂層、14…第2の基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板上に形成された一層または複数層のグラフェン膜と第2の基板とを、揮発成分の含有量が1重量%未満で粘着性を有する樹脂層により張り合わせる工程と、
上記第1の基板を除去する工程とを有するグラフェン膜の転写方法。
【請求項2】
上記樹脂層の上記揮発成分の含有量が0.1重量%以下である請求項1記載のグラフェン膜の転写方法。
【請求項3】
上記第1の基板上に形成された上記グラフェン膜と上記第2の基板とを上記樹脂層により張り合わせた後、上記第1の基板を除去する前に、上記第1の基板と上記第2の基板とを加圧して上記樹脂層の厚さを減少させる工程をさらに有する請求項2記載のグラフェン膜の転写方法。
【請求項4】
上記第1の基板と上記第2の基板とを加圧して上記樹脂層の厚さを減少させた後、上記第1の基板を除去する前に、上記樹脂層を硬化させる工程をさらに有する請求項3記載のグラフェン膜の転写方法。
【請求項5】
上記樹脂層は紫外線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂からなる請求項4記載のグラフェン膜の転写方法。
【請求項6】
上記第1の基板上に形成された上記グラフェン膜上に上記樹脂層を塗布する請求項1記載のグラフェン膜の転写方法。
【請求項7】
上記第1の基板上に形成された上記グラフェン膜上に揮発成分を少なくとも1重量%以上含む樹脂層を塗布した後、この樹脂層を乾燥させて揮発成分を除去することにより、揮発成分の含有量が1重量%未満で粘着性を有する上記樹脂層を形成する請求項1記載のグラフェン膜の転写方法。
【請求項8】
上記樹脂層の厚さは2μm以上20μm以下である請求項1記載のグラフェン膜の転写方法。
【請求項9】
上記第2の基板が透明基板である請求項1記載のグラフェン膜の転写方法。
【請求項10】
第1の基板上に形成された一層または複数層のグラフェン膜と第2の基板とを、揮発成分の含有量が1重量%未満で粘着性を有する樹脂層により張り合わせる工程と、
上記第1の基板を除去する工程とを有する透明導電膜の製造方法。
【請求項11】
上記樹脂層の上記揮発成分の含有量が0.1重量%以下である請求項10記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項12】
上記第1の基板上に形成された上記グラフェン膜と上記第2の基板とを上記樹脂層により張り合わせた後、上記第1の基板を除去する前に、上記第1の基板と上記第2の基板とを加圧して上記樹脂層の厚さを減少させる工程をさらに有する請求項11記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項13】
上記第1の基板と上記第2の基板とを加圧して上記樹脂層の厚さを減少させた後、上記第1の基板を除去する前に、上記樹脂層を硬化させる工程をさらに有する請求項12記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項14】
上記樹脂層は紫外線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂からなる請求項13記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項15】
上記第1の基板上に形成された上記グラフェン膜上に上記樹脂層を塗布する請求項11記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項16】
上記第1の基板上に形成された上記グラフェン膜上に揮発成分を少なくとも1重量%以上含む樹脂層を塗布した後、この樹脂層を乾燥させて揮発成分を除去することにより、揮発成分の含有量が1重量%未満で粘着性を有する上記樹脂層を形成する請求項10記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項17】
上記樹脂層の厚さは2μm以上20μm以下である請求項10記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項18】
上記第2の基板が透明基板である請求項10記載の透明導電膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−140308(P2012−140308A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−379(P2011−379)
【出願日】平成23年1月5日(2011.1.5)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】