説明

グラフト共重合体、熱可塑性樹脂組成物および成形品

【課題】成形品の耐衝撃性および表面外観を低下させることなく、成形品に艶消し性を付与できるグラフト共重合体、これを含む熱可塑性樹脂組成物、および耐衝撃性、表面外観、および艶消し性に優れる成形品を提供する。
【解決手段】肥大化ゴム10〜90質量部の存在下、不飽和カルボン酸エステル系単量体50〜100質量%を含む単量体成分10〜90質量部を重合して得られたグラフト共重合体を用いる。肥大化ゴム:ゴム状重合体ラテックス(A)(固形分100質量部)と縮合酸塩(B)(0.1〜10質量部)と酸基含有共重合体ラテックス(C)(固形分0.1〜10質量部)とを混合して得られた質量平均粒子径0.6〜3μmの肥大化ゴム。酸基含有共重合体ラテックス(C):酸基含有単量体5〜30質量%および不飽和カルボン酸エステル系単量体95〜70質量%を含む単量体混合物を重合して得られたラテックス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフト共重合体、該グラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物、および該熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車内装用部品(ダッシュボード、インストルメントパネル等。)、家具、電気機器のハウジング、住宅用樹脂化建材等として、光沢が著しく低減された材料、いわゆる艶消し材料の需要が高まりつつある。
【0003】
通常、熱可塑性樹脂からなる成形品には艶があるため、何らかの方法によって成形品の艶を消す必要がある。熱可塑性樹脂からなる成形品の艶消し方法としては、下記の方法が知られている。
(1)成形品に紋つけ加工または艶消し加工を施す方法。
(2)無機物または有機物の艶消し剤を熱可塑性樹脂に添加する方法。
【0004】
(1)の方法には、成形品の物性の低下が少ないという利点がある。しかし、(1)の方法では、艶消し成形品の生産性が悪くなり、加工費がかさむ上、艶消し効果も不十分である。また、(1)の方法は、多くの場合、二次加工を施す用途には不向きである。
(2)の方法は、生産性がそれほど低下せず、艶消しの程度をコントロールでき、二次加工を施す用途にも適用できる。しかし、(2)の方法では、艶消し剤によっては、成形品の物性が低下するという大きな問題がある。特に、シリカゲル等の無機物を艶消し剤として用いた場合には、耐衝撃性、強伸度等の物性の低下が著しい。
【0005】
有機物の艶消し剤としては、下記の艶消し剤が、提案されている。
(3)架橋高分子を用いた艶消し剤(例えば、特許文献1〜5)。
(4)特定の官能基(水酸基等。)を有する高分子を用いた艶消し剤(例えば、特許文献6〜7)。
【0006】
しかし、(3)の艶消し剤では、成形品の耐衝撃性の低下が顕著であり、その使用には制限がある。
(4)の艶消し剤は、成形品の耐衝撃性および表面外観が不十分である。
【特許文献1】特開昭50−051142号公報
【特許文献2】特開昭54−117550号公報
【特許文献3】特開昭56−036535号公報
【特許文献4】特開昭60−049052号公報
【特許文献5】特開平04−345646号公報
【特許文献6】特開平07−314615号公報
【特許文献7】特開平07−316374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、成形品の耐衝撃性および表面外観を低下させることなく、成形品に艶消し性を付与できるグラフト共重合体;耐衝撃性、表面外観、および艶消し性に優れる成形品を得ることができる熱可塑性樹脂組成物、および耐衝撃性、表面外観、および艶消し性に優れる成形品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のグラフト共重合体は、下記肥大化ゴム10〜90質量部の存在下、不飽和カルボン酸エステル系単量体50〜100質量%を含む単量体成分10〜90質量部(肥大化ゴムと単量体成分との合計100質量部)を重合して得られたものであることを特徴とする。
肥大化ゴム:ゴム状重合体ラテックス(A)と、該ゴム状重合体ラテックス(A)の固形分100質量部に対して0.1〜10質量部の縮合酸塩(B)と、前記ゴム状重合体ラテックス(A)の固形分100質量部に対して固形分で0.1〜10質量部となる量の下記酸基含有共重合体ラテックス(C)とを混合することによって、ゴム状重合体を肥大化させて得られた、質量平均粒子径が0.6〜3μmの肥大化ゴム。
酸基含有共重合体ラテックス(C):水中にて、酸基含有単量体5〜30質量%および不飽和カルボン酸エステル系単量体95〜70質量%を含む単量体混合物を重合して得られた酸基含有共重合体のラテックス。
【0009】
前記ゴム状重合体ラテックス(A)は、(メタ)アクリル酸エステル系ゴムラテックスであることが好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明のグラフト共重合体3〜70質量部と、他の熱可塑性樹脂30〜97質量部とを含む(グラフト共重合体と他の熱可塑性樹脂との合計100質量部)ことを特徴とする。
前記他の熱可塑性樹脂は、塩化ビニル樹脂であることが好ましい。
【0010】
本発明の成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなるもの、または成形品本体表面に、本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる被覆層を有するものであることを特徴とする。
本発明の成形品は、押出成形品であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のグラフト共重合体によれば、成形品の耐衝撃性および表面外観を低下させることなく、成形品に艶消し性を付与できる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、耐衝撃性、表面外観、および艶消し性に優れる成形品を得ることができる。
本発明の成形品は、耐衝撃性、表面外観、および艶消し性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本明細書においては、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸またはメタクリル酸を意味する。
【0013】
(ゴム状重合体ラテックス(A))
ゴム状重合体ラテックス(A)は、ゴム質重合体が粒子状態で水中に分散したものである。
【0014】
ゴム状重合体ラテックス(A)としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル系ゴムラテックス、エチレン−プロピレンゴム(EPR)ラテックス、エチレン−プロピレン−ジエン系ゴム(EPDM)ラテックス、ジエン系ゴムラテックス、ポリオルガノシロキサンラテックス等が挙げられ、(メタ)アクリル酸エステル系ゴムラテックスが特に好ましい。
【0015】
ゴム状重合体は、2種以上を併用したものであってもよく、2種以上を複合化したものであってもよい。2種以上を併用したものとは、2種以上のゴム状重合体が化学的または物理的な結合を有していない状態のものを意味する。2種以上を複合化したものとは、2種以上のゴム状重合体がミクロレベルで接触または化学的に結合している状態のものを意味する。ゴム状重合体は、用途に応じて適宜選択して用いればよい。
【0016】
(メタ)アクリル酸エステル系ゴムラテックスは、水中にて、(メタ)アクリル酸エステル、必要に応じて他の単量体、グラフト交叉剤、架橋剤を含む単量体成分を重合して得られる。
【0017】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、炭素数1〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、例えば、メタクリル酸アルキルエステル(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル等。);アクリル酸アルキルエステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等。)が挙げられ、アクリル酸n−ブチルまたはアクリル酸2−エチルヘキシルが特に好ましい。(メタ)アクリル酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
(メタ)アクリル酸エステルの割合は、単量体成分(100質量%)中、50〜100質量%が好ましく、成形品の耐衝撃性が優れる点から、60〜99.9質量%がより好ましく、70〜99.9質量%が特に好ましい。
【0018】
他の単量体としては、例えば、芳香族ビニル系単量体(スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等。)、シアン化ビニル系単量体(アクリロニトリル、メタクリロニトリル等。)、官能基を有する他の(メタ)アクリル酸エステル(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル等。)、ジエン系化合物(ブタジエン、クロロプレン、イソプレン等。)、アクリルアミド、メタクリルアミド、無水マレイン酸、N−置換マレイミド等が挙げられる。他の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
他の単量体の割合は、単量体成分(100質量%)中、0〜50質量%が好ましく、成形品の耐衝撃性が優れる点から、0〜39.9質量%がより好ましく、0〜29.9質量%が特に好ましい。
【0019】
架橋剤およびグラフト交叉剤としては、例えば、アリル化合物(メタクリル酸アリル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル等。)、ジビニルベンゼン、ジ(メタ)アクリル酸エステル化合物(ジメタクリル酸エチレングリコールジエステル、ジメタクリル酸プロピレングリコールジエステル、ジメタクリル酸1,3−ブチレングリコールジエステル、ジメタクリル酸1,4−ブチレングリコールジエステル、ジアクリル酸1,6−ヘキシル等。)が挙げられ、グラフト交叉剤としてのアリル化合物と、架橋剤としてのジ(メタ)アクリル酸エステル化合物との組み合わせが好ましく、メタクリル酸アリルとジメタクリル酸1,3−ブチレングリコールジエステルとの組み合わせが特に好ましい。
グラフト交叉剤および架橋剤の合計の割合は、成形品の耐衝撃性と艶消し性とのバランスが良くなる点から、単量体成分(100質量%)中、0.1〜3質量%が好ましく、0.1〜1質量%がより好ましい。
【0020】
ゴム状重合体ラテックス(A)は、乳化重合により製造することが好ましい。
2種以上のゴム状重合体を併用する場合、2種のゴム状重合体ラテックスを混合してもよく、1種以上のゴム状重合体の存在下で他のゴム状重合体を製造してもよい。
ゴム状重合体ラテックス(A)に含まれるゴム状重合体の質量平均粒子径は、0.15μm以下が好ましく、0.12μm以下がより好ましい。肥大化によって生産性を向上するという目的からすれば、質量平均粒子径の大きいゴム状重合体をあらかじめ製造する意義は薄い。
【0021】
(縮合酸塩(B))
縮合酸塩(B)は、縮合酸と、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属との塩である。
縮合酸は、オキソ酸が縮合した多核構造の酸である。縮合酸としては、ポリリン酸(ピロリン酸等。)、ポリケイ酸等が挙げられる。
【0022】
縮合酸塩(B)としては、ピロリン酸と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩が好ましく、ピロリン酸とアルカリ金属との塩がより好ましく、ピロリン酸ナトリウムまたはピロリン酸カリウムが特に好ましい。
【0023】
(酸基含有共重合体ラテックス(C))
酸基含有共重合体ラテックス(C)は、水中にて、酸基含有単量体5〜30質量%、不飽和カルボン酸エステル系単量体95〜70質量%、および必要に応じてこれらと共重合可能な他の単量体0〜25質量%を含む単量体混合物(単量体の合計100質量%)を重合して得られた酸基含有共重合体のラテックスである。
【0024】
酸基含有単量体としては、カルボキシ基を有する不飽和化合物が好ましく、該化合物としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等が挙げられ、(メタ)アクリル酸が特に好ましい。酸基含有単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
不飽和カルボン酸エステル系単量体としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、炭素数1〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸またはメタクリル酸と、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基を有するアルコールとのエステルが挙げられ、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられ、炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが特に好ましい。
不飽和カルボン酸エステル系単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
他の単量体は、酸基含有単量体および不飽和カルボン酸エステル系単量体と共重合可能な単量体であり、かつ酸基含有単量体および不飽和カルボン酸エステル系単量体を除く単量体である。
他の単量体としては、芳香族ビニル系単量体(スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等。)、シアン化ビニル系単量体(アクリロニトリル、メタクリロニトリル等。)、2つ以上の重合性官能基を有する化合物(メタクリル酸アリル、ジメタクリル酸ポリエチレングリコールエステル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、トリメリット酸トリアリル等。)等が挙げられる。他の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
酸基含有単量体の割合は、単量体混合物(100質量%)中、5〜30質量%であり、8〜25質量%が好ましい。酸基含有単量体の割合が5質量%以上であれば、ゴム状重合体を十分に肥大化できる。酸基含有単量体の割合が30質量%以下であれば、酸基含有共重合体ラテックス(C)の製造の際、凝塊物の発生が抑えられる。
不飽和カルボン酸エステル系単量体の割合は、単量体混合物(100質量%)中、70〜95質量%であり、75〜92質量%が好ましい。
他の単量体の割合は、単量体混合物(100質量%)中、0〜25質量%であり、0〜20質量%が好ましい。
【0028】
酸基含有重合体ラテックス(C)は、乳化重合により製造することが好ましい。
乳化重合で用いる乳化剤としては、アニオン系乳化剤等が挙げられる。
アニオン系乳化剤としては、カルボン酸塩(脂肪酸(オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ロジン酸等。)のアルカリ金属塩、アルケニルコハク酸のアルカリ金属塩等。)、アルキル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム等が挙げられる。
乳化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
乳化剤は、重合初期に全量を一括で仕込んでもよく、一部を重合初期に仕込み、残りを重合中に間欠的または連続的に追加してもよい。
乳化剤の量および仕込み方によって、酸基含有重合体ラテックス(C)に含まれる酸基含有重合体の質量平均粒子径、さらには肥大化ゴムの質量平均粒子径を調整できる。
【0030】
乳化重合で用いる重合開始剤としては、熱分解型開始剤、レドックス型開始剤等が挙げられる。
熱分解型開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
レドックス型開始剤としては、有機過酸化物(クメンヒドロパーオキシド等。)−ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート−鉄塩等の組み合わせが挙げられる。
重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
乳化重合の際には、分子量を調整する連鎖移動剤(メルカプタン類(t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン等。)、テルピノレン、α−メチルスチレンダイマー等。)、pHを調節するアルカリまたは酸、減粘剤である電解質を用いてもよい。
【0032】
酸基含有重合体ラテックス(C)に含まれる酸基含有重合体の質量平均粒子径は、0.2μm以下が好ましく、0.15μm以下がより好ましい。酸基含有重合体の質量平均粒子径が大きいと酸基含有重合体ラテックスの安定性が低下する傾向にあるが、酸基含有重合体の質量平均粒子径が0.2μm以下であれば、凝塊物の発生を抑えて酸基含有重合体の重合を行うことができる。
【0033】
(肥大化ゴム)
肥大化ゴムは、ゴム状重合体ラテックス(A)、縮合酸塩(B)および酸基含有共重合体ラテックス(C)を混合することによって、ゴム状重合体を肥大化させたものである。
肥大化ゴムの製造方法としては、ゴム状重合体ラテックス(A)に、縮合酸塩(B)および酸基含有共重合体ラテックス(C)を添加する方法が好ましく;ゴム状重合体ラテックス(A)を撹拌しながら、ゴム状重合体ラテックス(A)に縮合酸塩(B)を添加し、ついで酸基含有重合体ラテックス(C)を添加する方法がより好ましい。
【0034】
縮合酸塩(B)は、0.1〜10質量%の水溶液として添加することが好ましい。
縮合酸塩(B)の量は、ゴム状重合体ラテックス(A)の固形分100質量部に対して、0.1〜10質量部であり、0.5〜7質量部が好ましい。縮合酸塩(B)の量が0.1質量部以上であれば、ゴム状重合体の肥大化が十分に進行する。縮合酸塩(B)の量が10質量部以下であれば、ゴム状重合体ラテックス(A)の濃度が低下することなく、かつラテックスが安定化して凝塊物の発生を抑えて、ゴム状重合体の肥大化が十分に進行する。
【0035】
ゴム状重合体ラテックス(A)に縮合酸塩(B)を添加した段階で、混合液のpHは7以上が好ましい。pHが7以上であれば、ゴム状重合体の肥大化が十分に進行し、目的とする質量平均粒子径が0.6μm以上の肥大化ゴムを得やすくなる。pHを7以上とするために、アルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等。)を用いてもよい。
【0036】
酸基含有重合体ラテックス(C)は、一括で添加してもよく、連続的または断続的に滴下してもよい。
酸基含有重合体ラテックス(C)の量は、ゴム状重合体ラテックス(A)の固形分100質量部に対して、酸基含有重合体ラテックス(C)は固形分で0.1〜10質量部となる量が好ましく、0.3〜7質量部となる量がより好ましい。酸基含有重合体ラテックス(C)の固形分の量が0.1質量部以上であれば、ゴム状重合体の肥大化が十分に進行し、目的とする質量平均粒子径が0.6μm以上の肥大化ゴムを得やすくなる。また、凝塊物の発生が抑えられる。酸基含有重合体ラテックス(C)が固形分の量で10質量部以下であれば、ラテックスのpHの低下が抑えられ、ラテックスが安定化する。
【0037】
肥大ゴムと小粒子または中粒子のゴムを併存させる場合には、酸基含有重合体ラテックス(C)の添加後に、さらにゴム状重合体ラテックス(A)を添加してもよい。
【0038】
肥大化を行う際の撹拌は適度に制御する必要がある。撹拌が十分であれば、肥大化が均一に進行することにより、未肥大のゴム状重合体の残留が抑えられ、目的とする質量平均粒子径が0.6μm以上の肥大化ゴムを得やすくなる。なお、過度に撹拌を行うと、ラテックスが不安定になり、凝塊物が多量に発生することがある。
【0039】
肥大化を行う際の温度は、10〜90℃が好ましく、20〜80℃がより好ましい。温度が10〜90℃であれば、ゴム状重合体の肥大化が十分に進行し、目的とする質量平均粒子径が0.6μm以上の肥大化ゴムを得やすくなる。
【0040】
肥大化ゴムの質量平均粒子径は、0.6〜3μmであり、0.6〜2μmが好ましい。肥大化ゴムの質量平均粒子径が0.6μm以上であれば、得られる成形品の耐衝撃性、艶消し性が良好となる。肥大化ゴムの質量平均粒子径が3μm以下であれば、ラテックスが安定化する傾向が強くなり、肥大化を行う際に凝塊物の発生を抑制できる。
【0041】
(グラフト共重合体)
本発明のグラフト共重合体は、肥大化ゴムの存在下、単量体成分をグラフト重合して得られたものである。
【0042】
単量体成分は、不飽和カルボン酸エステル系単量体、および必要に応じて他の単量体を含むものである。
不飽和カルボン酸エステル系単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル等が挙げられ、メタクリル酸メチルまたはアクリル酸メチルが特に好ましい。不飽和カルボン酸エステル系単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
他の単量体は、不飽和カルボン酸エステル系単量体と共重合可能な単量体であり、かつ不飽和カルボン酸エステル系単量体を除く単量体である。
他の単量体としては、シアン化ビニル系単量体(アクリロニトリル、メタクリロニトリル等。)、芳香族ビニル系単量体(スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等。)、アクリルアミド、メタクリルアミド、無水マレイン酸、N−置換マレイミド等が挙げられる。他の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
不飽和カルボン酸エステル系単量体の割合は、単量体成分(100質量%)中、50〜100質量%であり、65〜100質量%が好ましい。不飽和カルボン酸エステル系単量体の割合が50質量%以上であれば、成形品の表面に異物状の外観不良が発生することが抑えられる。
【0045】
肥大化ゴムと単量体成分との合計100質量部のうち、肥大化ゴムは10〜90質量部であり、単量体成分は10〜90質量部である。肥大化ゴムの量が10質量部以上であれば、成形品の耐衝撃性が良好となる。肥大化ゴムの量が90質量部以下であれば、成形品の耐衝撃性および艶消し性が良好となる。
肥大化ゴムと単量体成分との合計100質量部のうち、肥大化ゴムは30〜70質量部が好ましく、単量体成分は30〜70質量部が好ましい。肥大化ゴムおよび単量体成分が該範囲であれば、成形品の耐衝撃性、成形性、艶消し性が、高いレベルでバランス良く発現される。
【0046】
グラフト共重合体ラテックスは、肥大化ゴムラテックスと単量体成分とを混合し、単量体成分を乳化重合することにより製造できる。
乳化重合で用いる乳化剤としては、乳化重合時のラテックスの安定性に優れ、重合率を高めることができる点から、アニオン系乳化剤が好ましい。
アニオン系乳化剤としては、カルボン酸塩(サルコシン酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、脂肪酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム、ロジン酸石鹸等。)、アルキル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム等が挙げられる。また、肥大化ゴムの製造時に用いた乳化剤をそのまま利用してもよい。
【0047】
乳化重合で用いる重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤、酸化剤と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤等が挙げられる。
乳化重合の際には、グラフト率やグラフト成分の分子量を制御するための連鎖移動剤を用いてもよい。
【0048】
乳化重合における単量体の添加方法としては、全量一括添加、分割添加、逐次添加等の方法を用いることができ、一部を一括で添加し残量を逐次添加する等のようにこれらの方法を組み合わせて用いることもできる。また、単量体を添加した後、暫く保持した後に重合開始剤を添加して重合を開始する方法も用いることができる。
【0049】
乳化重合で得られたグラフト共重合体ラテックスから、グラフト共重合体を回収する方法としては、下記の方法が挙げられる。
グラフト共重合体ラテックスを、凝固剤を溶解させた熱水中に投入し、グラフト共重合体を固化させる。
ついで、固化したグラフト共重合体を、水または温水中に再分散させてスラリーとし、グラフト共重合体中に残存する乳化剤残渣を水中に溶出させ、洗浄する。
ついで、スラリーを脱水機等で脱水し、得られた固体を気流乾燥機等で乾燥することによって、グラフト共重合体が粉体または粒子として回収される。
【0050】
凝固剤としては、無機酸(硫酸、塩酸、リン酸、硝酸等。)、金属塩(塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸アルミニウム等。)等が挙げられる。凝固剤は、乳化剤の種類に応じて適宜選定される。例えば、乳化剤としてカルボン酸塩(脂肪酸塩、ロジン酸石鹸等。)のみを用いた場合、どのような凝固剤を用いてもよい。乳化剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムのような酸性領域でも安定な乳化力を示す乳化剤を用いた場合、無機酸では不十分であり、金属塩を用いる必要がある。
【0051】
(熱可塑性樹脂組成物)
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明のグラフト共重合体と、他の熱可塑性樹脂とを含むものである。
他の熱可塑性樹脂とは、本発明のグラフト共重合体を除く熱可塑性樹脂である。
【0052】
他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−N−置換マレイミド三元共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸−N−置換マレイミド三元共重合体、ポリスチレン、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート(PBT樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等。)、スチレン系エラストマー(スチレン−ブタジエン−スチレン・ブロック共重合体(SBS)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、水素添加SBS、スチレン−イソプレン−スチレン・ブロック共重合体(SIS)等。)、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアセタール樹脂、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE樹脂)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリフェニレンスルフィド(PPS樹脂)、ポリエーテルスルホン(PES樹脂)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK樹脂)、ポリアリレート、液晶ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂(ナイロン等。)、ゴム変性熱可塑性樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS樹脂)等。)等が挙げられ、ポリ塩化ビニルが特に好ましい。
他の熱可塑性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
グラフト共重合体と他の熱可塑性樹脂との合計100質量部のうち、グラフト共重合体は3〜70質量部であり、他の熱可塑性樹脂は30〜97質量部である。グラフト共重合体3質量部以上であれば、成形品の耐衝撃性および艶消し性が良好となる。グラフト共重合体が70質量部以下であれば、表面外観が良好となる。また、熱可塑性樹脂組成物の流動性が良好となり、成形が容易となる。
グラフト共重合体と他の熱可塑性樹脂との合計100質量部のうち、グラフト共重合体は5〜50質量部が好ましく、他の熱可塑性樹脂は50〜95質量部が好ましい。
グラフト共重合体に含まれる肥大化ゴムの含有量は、他の熱可塑性樹脂100質量部に対して、1〜30質量部が好ましく、3〜25質量部がより好ましい。
【0054】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体と他の熱可塑性樹脂とをV型ブレンダー、ヘンシェルミキサー等で混合し、該混合物を溶融混練することで製造される。溶融混練では、押出機、混練機(バンバリーミキサー、加熱ニーダー、ロール等。)等を用いる。
【0055】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、着色剤(顔料、染料等。)、熱安定剤、光安定剤、補強剤、充填材、難燃剤、発泡剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、加工助剤等を含んでいてもよい。
【0056】
(成形品)
本発明の成形品は、下記の成形品(i)または成形品(ii)である。
(i)本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
(ii)成形品本体表面に、本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる被覆層を有する成形品。
【0057】
成形品(i):
成形法としては、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法、インフレーション成形法等が挙げられる。
成形品(i)としては、表面の均一な艶消し性を確保しやすい点から、押出成形品が好ましい。
【0058】
成形品(ii):
成形品本体の材料としては、樹脂、金属等が挙げられる。
樹脂としては、上述の他の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂(フェノール樹脂、メラミン樹脂等。)等が挙げられる。成形が容易な点、表面の均一な艶消し性を確保しやすい点から、成形品本体を押出成形する際に本発明の熱可塑性樹脂組成物を被覆する被覆押出成形法による成形品が好ましい。
【0059】
本発明の成形品の用途としては、例えば、車両部品(無塗装で使用される各種外装部品、内装部品等。)、建材(壁材、窓枠等。)、食器、玩具、家電部品(掃除機ハウジング、テレビジョンハウジング、エアコンハウジング等。)、インテリア部材、船舶部材、電気機器のハウジング(通信機器ハウジング、ノートパソコンハウジング、PDAハウジング、液晶プロジェクターハウジング等。)等が挙げられる。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。実施例における部は、質量部を意味し、%は、質量%を意味する。
【0061】
(平均粒子径)
ゴム状重合体および肥大化ゴムの質量平均粒子径は、日機装社製のMicrotrac Model:9230UPAを用いて光子相関法より求めた。
【0062】
(固形分)
ラテックスの固形分は、ラテックス1gを正確に秤量し、200℃で20分かけて揮発分を蒸発させた後の残渣物を計量し、下記の式より求めた。
固形分(%)=残渣物質量/ラテックス質量×100。
【0063】
(重合転化率)
重合転化率は、前記固形分を測定し、下記の式より求めた。
重合転化率(%)={固形分÷100×総仕込質量−単量体・水以外の仕込質量}/単量体総質量×100。
式中、総仕込質量は、単量体、水等、反応器に仕込んだ物質の総質量を示す。
【0064】
(シャルピー衝撃強度)
成形品のシャルピー衝撃強度は、ISO 179の手法に従い、常温で測定した。
【0065】
(光沢度)
成形品の表面の光沢度は、スガ試験器社製のデジタル変角光計UGV−5Dを用い、入射角60°、反射角60°での反射率から求めた。
【0066】
(表面外観)
成形品の表面外観は、表面状態(粗さ、均一性)を目視で評価した。表面外観は、グラフト共重合体の分散性の目安となる。
○:非常に良好。
△:普通。
×:不良。
【0067】
〔合成例1〕
ゴム状重合体ラテックス(A−1)の製造:
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および撹拌装置を備えた反応器内に、
脱イオン水(以下、単に水と記す。) 360部、
アルケニルコハク酸ジカリウム(花王社製、ラテムルASK) 1部、
アクリル酸n−ブチル 100部、
メタクリル酸アリル 0.2部、
ジメタクリル酸1,3−ブチレングリコールエステル 0.1部、
t−ブチルハイドロパーオキシド 0.2部
を撹拌下で仕込み、反応器内を窒素置換した後、内容物を昇温した。
【0068】
内温55℃にて、
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.5部、
硫酸第一鉄七水塩 0.0003部、
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.0009部、
水 10部
からなる水溶液を添加し、重合を開始させた。重合発熱が確認された後、ジャケット温度を75℃とし、重合発熱が確認されなくなるまで重合を継続した。重合開始から3時間後に冷却し、固形分が21%、ゴム状重合体の質量平均粒子径が0.11μmであるゴム状重合体ラテックス(A−1)((メタ)アクリル酸エステル系ゴムラテックス)を得た。
【0069】
〔合成例2〕
ゴム状重合体ラテックス(A−2)の製造:
アクリル酸n−ブチル100部を、アクリル酸n−ブチル60部、アクリル酸2−エチルヘキシル40部に変更した以外は合成例1と同様にして、固形分が21%、ゴム状重合体の質量平均粒子径が120nmであるゴム状重合体ラテックス(A−2)(アクリル酸エステル系ゴムラテックス)を得た。
【0070】
〔合成例3〕
酸基含有共重合体ラテックス(C−1)の製造:
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および撹拌装置を備えた反応器内に、
水 200部、
オレイン酸カリウム 2部、
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム 4部、
硫酸第一鉄七水塩 0.003部、
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.009部、
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.3部
を窒素フロー下で仕込み、60℃に昇温した。60℃になった時点から、
アクリル酸n−ブチル 82部、
メタクリル酸 18部、
クメンヒドロパーオキシド 0.5部
からなる混合物を120分かけて連続的に滴下した。滴下終了後、さらに2時間60℃のまま熟成を行い、固形分が33%、重合転化率が96%、酸基含有共重合体の質量平均粒子径が0.15μmである酸基含有共重合体ラテックス(C−1)を得た。
【0071】
〔合成例4〕
酸基含有共重合体ラテックス(C−2)の製造:
アクリル酸n−ブチル82部、メタクリル酸18部を、アクリル酸n−ブチル88部、メタクリル酸12部に変更した以外は、合成例3と同様にして、固形分が33%、重合転化率が95%、酸基含有共重合体の質量平均粒子径が0.11μmである酸基含有共重合体ラテックス(C−2)を得た。
【0072】
〔合成例5〕
酸基含有共重合体ラテックス(C−3)の製造:
オレイン酸カリウム2部、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム4部、アクリル酸n−ブチル82部、メタクリル酸18部を、オレイン酸カリウム3部、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム5部、アクリル酸n−ブチル75部、メタクリル酸25部に変更した以外は、合成例3と同様にして、固形分が33%、重合転化率が93%、酸基含有共重合体の質量平均粒子径が0.12μmである酸基含有共重合体ラテックス(C−3)を得た。
【0073】
〔合成例6〕
酸基含有共重合体ラテックス(C−4)の製造:
アクリル酸n−ブチル82部、メタクリル酸18部を、アクリル酸n−ブチル93部、アクリル酸7部に変更した以外は、合成例3と同様にして、固形分が33%、重合転化率が95%、酸基含有共重合体の質量平均粒子径が0.11μmである酸基含有共重合体ラテックス(C−4)を得た。
【0074】
〔合成例7〕
酸基含有共重合体ラテックス(C−5)の製造:
アクリル酸n−ブチル82部、メタクリル酸18部を、アクリル酸n−ブチル70部、アクリル酸メチル20部、クロトン酸10部に変更した以外は、合成例3と同様にして、固形分が33%、重合転化率が96%、酸基含有共重合体の質量平均粒子径が0.11μmである酸基含有共重合体ラテックス(C−5)を得た。
【0075】
〔合成例8〕
酸基含有共重合体ラテックス(C−6)の製造:
アクリル酸n−ブチル82部を、アクリル酸n−ブチル79部、スチレン3部に変更した以外は、合成例3と同様にして、固形分が33%、重合転化率が96%、酸基含有共重合体の質量平均粒子径が0.14μmである酸基含有共重合体ラテックス(C−6)を得た。
【0076】
【表1】

【0077】
〔合成例9〕
肥大化ゴムラテックス(a−1)の製造:
試薬注入容器、ジャケット加熱機および撹拌装置を備えた反応器内に、ゴム状重合体ラテックス(A−1)476部(固形分100部)を仕込み、撹拌下でジャケット加熱機により内温を30℃に昇温した。ピロリン酸ナトリウム1部を5%水溶液として反応器内に添加し、十分撹拌した後、酸基含有共重合体ラテックス(C−1)1.2部(固形分0.4部)を添加した。内温30℃を保持したまま30分撹拌し、肥大化ゴムの質量平均粒子径が1.2μmである肥大化ゴムラテックス(a−1)を得た。
【0078】
〔合成例10〕
肥大化ゴムラテックス(a−2)〜(a−17)の製造:
表2に記載したゴム状重合体ラテックス、縮合酸塩(B)または他の電解質、酸基含有共重合体、肥大化温度に変更した以外は、合成例3と同様にして、肥大化ゴムラテックス(a−2)〜(a−17)を得た。
【0079】
【表2】

【0080】
〔実施例1〕
グラフト共重合体(I−1)の製造:
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および撹拌装置を備えた反応器内に、
肥大化ゴムラテックス(a−1)295部(固形分60部)、
水(肥大化ゴムラテックス中の水を含む)250部、
メタクリル酸メチル 40部、
アゾビスイソブチロニトリル 0.3部
を仕込み、反応器内を十分に窒素置換した後、撹拌しながら内温を75℃まで昇温し、重合を開始させた。内温を75℃に保持したまま3時間撹拌した後、冷却し、グラフト共重合体(I−1)ラテックスを得た。
【0081】
ついで、1.2%硫酸水溶液150部を75℃に加熱し、該水溶液を撹拌しながら、該水溶液にグラフト共重合体(I−1)ラテックス100部を徐々に滴下し、グラフト共重合体を固化させ、さらに90℃に昇温して5分間保持した。
ついで、固化物を脱水、洗浄、乾燥し、粉末状のグラフト共重合体(I−1)を得た。
【0082】
〔実施例2〜20、比較例1、2、5〕
グラフト共重合体(I−2)〜(I−22)、(I−25)の製造:
肥大化ゴムラテックス(a)、単量体成分を、表3に示す種類、量に変更した以外は、実施例1と同様にして、粉末状のグラフト共重合体(I−2)〜(I−22)、(I−25)を得た。
【0083】
〔比較例3〕
グラフト共重合体(I−23)の製造:
肥大化ゴムラテックス(a−3)95部、メタクリル酸メチル5部に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行ったが、凝固、脱水の工程でグラフト共重合体(I−23)が塊状物となり粉末状のグラフト共重合体(I−23)を得ることはできなかった。
【0084】
〔比較例4〕
グラフト共重合体(I−24)の製造:
肥大化ゴムラテックス(a−1)を肥大化ゴムラテックス(a−16)に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行ったが、滴下中に反応器内でグラフト共重合体(I−24)が固結し、粉末状のグラフト共重合体(I−24)を得ることはできなかった。
【0085】
【表3】

【0086】
〔合成例11〕
水酸基含有アクリル系重合体(Z)の製造:
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および撹拌装置を備えた反応器内に、
水 250部、
アクリル酸メチル 20部、
メタクリル酸メチル 60部、
メタクリル酸2−ヒドロキシエチル 20部、
t−ドデシルメルカプタン 0.5部、
ラウロイルパーオキシド 1部、
第三リン酸カルシウム 5部、
リン酸エステル系界面活性剤(東邦化学工業社製、フォスファノールGB−520)0.02部
を仕込み、反応器内を十分に窒素置換した後、撹拌しながら内温を75℃まで昇温し、重合を開始させた。重合発熱を確認してから3時間後に内温を90℃に昇温し、さらに45分間保持して重合を完結し、得られたスラリーを脱水、乾燥してビーズ状の水酸基含有アクリル系重合体(Z)を得た。
【0087】
〔合成例12〕
アクリロニトル−スチレン共重合体(AS)の製造:
公知の懸濁重合法によりアクリロニトリル23質量%、スチレン77質量%のアクリロニトル−スチレン共重合体(AS)を得た。
【0088】
〔実施例21〕
塩化ビニル樹脂(数平均重合度Pn=800)95部、艶消し剤としてグラフト共重合体(I−1)5部、安定剤(ジブチルスズマレエート)2部、耐衝撃助剤(三菱レイヨン社製、メタブレンC201A)7部、加工助剤(三菱レイヨン社製、メタブレンP551)2部、滑剤(ブチルステアレート)1部を混合し、サーモプラスチックス工業社製の25mmφ単軸押出機を用い、バレル温度190℃、冷却ロール温度85℃で、幅60mmTダイから熱可塑性樹脂組成物をシート状に押し出し、巻き取り速度を調節することによって厚さを400〜500μmに調節した幅50〜60mmのシート状成形品を成形し、光沢度を測定し、表面外観を評価した。ついで、シート状成形品を165℃、70トン圧で2.5mm厚の板に加圧成形し、シャルピー衝撃強度を測定した。結果を表4に示す。
【0089】
〔実施例22〜43、比較例6〜12〕
塩化ビニル樹脂、艶消し剤を、表4に示す種類、量に変更した以外は、実施例21と同様にして成形品を得た。結果を表4に示す。
比較例7は、単軸押出機での成形の際、スクリューが過負荷で停止したため、成形不能であった。
【0090】
〔実施例44〕
塩化ビニル樹脂(数平均重合度Pn=800)100部、安定剤(ジブチルスズマレエート)2部、耐衝撃助剤(三菱レイヨン社製、メタブレンC201A)7部、加工助剤(三菱レイヨン社製、メタブレンP551)2部、滑剤(ブチルステアレート)1部を混合したものを基材とし、実施例25で用いた熱可塑性樹脂組成物を被覆材とし、基材をナカタニ機械社製の40mmφ単軸押出機、バレル温度190℃、被覆材を池貝社製の25mmφ単軸押出機、バレル温度190℃で、幅40mm、厚さ10mmの被覆用ダイから熱可塑性樹脂組成物を角柱状に押し出した後サイジングし、実施例25で用いた熱可塑性樹脂組成物により被覆された角柱状の異形押出成形品を得た。表面の光沢度は7%で、異物等のない良好な表面外観であった。
【0091】
【表4】

【0092】
実施例および比較例より、次のことが明らかとなった。
(1)実施例1〜20のグラフト共重合体(I−1)〜(I−20)を艶消し剤として用いた実施例21〜43の成形品は、良好な耐衝撃性、艶消し性および表面外観を有していた。
(2)実施例3のグラフト共重合体(I−3)を艶消し剤として用いた実施例44の異形押出被覆成形品は、良好な艶消し性および表面外観を有していた。
(3)比較例6の成形品は、グラフト共重合体の量が本発明の範囲より少なく、耐衝撃性、艶消し性が劣った。比較例7は、グラフト共重合体の量が本発明の範囲より多く、熱可塑性樹脂組成物の流動性が著しく低下し、成形性が悪化した。
(4)比較例1のグラフト共重合体(I−21)を艶消し剤として用いた比較例8の成形品は、表面に異物状の外観不良が多数見られ、表面外観に劣った。
(5)比較例2のグラフト共重合体(I−22)を艶消し剤として用いた比較例9の成形品は、グラフト共重合体中の肥大化ゴムの含有量が本発明の範囲を外れており、耐衝撃性、艶消し性に劣った。
(6)比較例5のグラフト共重合体(I−25)を艶消し剤として用いた比較例10の成形品は、ゴム状重合体の質量平均粒子径が本発明の範囲を外れており、艶消し性に劣った。
(7)架橋塩化ビニル樹脂を艶消し剤として用いた比較例11の成形品は、艶消し性、表面外観は良好であるものの、耐衝撃性が劣った。
(8)水酸基含有アクリル系重合体を艶消し剤として用いた比較例12の成形品は、艶消し性は良好であるものの、耐衝撃性、表面外観が劣った。
【産業上の利用可能性】
【0093】
以上説明したように本発明の成形品は、下記のような特別に顕著な効果を奏し、その産業上の利用価値は極めて大きい。
(1)本発明の成形品は、耐衝撃性等の機械的強度、フィッシュアイ、肌荒れ等の少ない表面外観、艶消し性に優れる。
(2)特に、耐衝撃性と艶消し性とのバランスは、従来知られている艶消し剤では得られない非常に高いレベルであり、各種工業用材料としての利用価値は極めて高い。
(3)本発明の成形品は、押出成形品とした際に、その効果を特に大きく奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記肥大化ゴム10〜90質量部の存在下、不飽和カルボン酸エステル系単量体50〜100質量%を含む単量体成分10〜90質量部(肥大化ゴムと単量体成分との合計100質量部)を重合して得られた、グラフト共重合体。
肥大化ゴム:ゴム状重合体ラテックス(A)と、該ゴム状重合体ラテックス(A)の固形分100質量部に対して0.1〜10質量部の縮合酸塩(B)と、前記ゴム状重合体ラテックス(A)の固形分100質量部に対して固形分で0.1〜10質量部となる量の下記酸基含有共重合体ラテックス(C)とを混合することによって、ゴム状重合体を肥大化させて得られた、質量平均粒子径が0.6〜3μmの肥大化ゴム。
酸基含有共重合体ラテックス(C):水中にて、酸基含有単量体5〜30質量%および不飽和カルボン酸エステル系単量体95〜70質量%を含む単量体混合物を重合して得られた酸基含有共重合体のラテックス。
【請求項2】
前記ゴム状重合体ラテックス(A)が、(メタ)アクリル酸エステル系ゴムラテックスである、請求項1に記載のグラフト共重合体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のグラフト共重合体3〜70質量部と、
他の熱可塑性樹脂30〜97質量部と
を含む(グラフト共重合体と他の熱可塑性樹脂との合計100質量部)、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記他の熱可塑性樹脂が、塩化ビニル樹脂である、請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項3または4に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる、成形品。
【請求項6】
押出成形により得られる、請求項5に記載の成形品。
【請求項7】
成形品本体表面に、請求項3または4に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる被覆層を有する、成形品。

【公開番号】特開2009−67839(P2009−67839A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235285(P2007−235285)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(502163421)ユーエムジー・エービーエス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】