説明

グラフト共重合体及びその製造方法、熱可塑性樹脂組成物、並びに成形品

【課題】熱可塑性樹脂に配合することで、特に低温における優れた耐衝撃性及び流動性を有し、且つ充分な難燃性を有する樹脂組成物を与えるグラフト共重合体、熱可塑性樹脂組成物及びそれを成形して得られる成形品の提供を目的とする。
【解決手段】トルエン不溶分が50質量%以上のポリオルガノシロキサン系ゴム(A)75〜93質量%の存在下で、特定量の多官能性ビニル単量体(b1)を含むビニル単量体(B)7〜25質量%を重合するグラフト共重合体の製造方法。また、該製造方法で得られるグラフト共重合体を配合した熱可塑性樹脂組成物、及びその成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフト共重合体及びその製造方法、熱可塑性樹脂に該グラフト共重合体を配合した熱可塑性樹脂組成物、並びに該熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
家電分野、電気・電子機器分野、プリンタ等のOA機器をはじめとする種々の分野では、熱可塑性樹脂を用いた成形品が広く用いられている。該成形品には優れた耐衝撃性、難燃性、耐候性等が要求され、また成形に用いる樹脂組成物には優れた流動性が要求される。特に、近年ではコスト低減を目的として成形品の薄肉化及び軽量化が進められている。そのため、軽量・薄肉化を行なっても充分な耐衝撃性、流動性、難燃性を得る必要がある。
【0003】
そこで、熱可塑性樹脂を用いた成形品の耐衝撃性、難燃性等の機能を向上させる方法として、以下に示す方法が示されている。
例えば、ポリオルガノシロキサン系ゴムとポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムとからなる複合ゴムにビニル単量体をグラフト重合させた複合ゴムグラフト共重合体を配合する方法(特許文献1)が示されている。
また、低架橋のポリオルガノシロキサン系ゴムに対して、多官能性ビニル単量体及びその他のビニル単量体をグラフト重合させたグラフト共重合体を配合する方法(特許文献2)が示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、複合ゴムが可燃成分となるポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムを含んでいること、グラフト部を構成するビニル単量体が多官能性ビニル単量体を含まないことから、グラフト共重合体の配合量の増加に伴って難燃性が低下する傾向がある。
また、特許文献2に記載の方法では、低架橋のポリオルガノシロキサン系ゴムを用いていること、ポリオルガノシロキサン系ゴムの含有率が低いことから、薄肉化した成形品で良好な難燃性が得られるものの、耐衝撃性、特に低温下における耐衝撃性が充分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−17029号公報
【特許文献2】特開2003−238639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、熱可塑性樹脂に配合することで、特に低温における優れた耐衝撃性及び流動性と充分な難燃性を有する樹脂組成物を与えるグラフト共重合体及びその製造方法、該グラフト共重合体が熱可塑性樹脂に配合された熱可塑性樹脂組成物、並びに該熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
[1]オルガノシロキサンを重合して得られるトルエン不溶分が50質量%以上のポリオルガノシロキサン系ゴム(A)75〜93質量%の存在下で、多官能性ビニル単量体(b1)を含むビニル単量体(B)7〜25質量%を重合するグラフト共重合体の製造方法であって、前記多官能性ビニル単量体(b1)の質量割合がグラフト共重合体100質量%に対して0.3〜10質量%であるグラフト共重合体の製造方法。
[2]前記[1]に記載の製造方法で得られるグラフト共重合体。
[3]キャピラリー式粒度分布測定器で測定される数平均粒子径が200〜1,000nmである、前記[2]に記載のグラフト共重合体。
[4]前記[2]又は[3]に記載のグラフト共重合体が、熱可塑性樹脂100質量部に対して1〜20質量部配合された熱可塑性樹脂組成物。
[5]更に、ビニル単量体を重合して得られた硬質重合体とフッ素系樹脂との混合粉体からなる変性フッ素系樹脂が配合された、前記[4]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[6]前記[4]又は[5]に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明のグラフト共重合体は、熱可塑性樹脂に配合することで、特に低温における優れた耐衝撃性及び流動性を有し、且つ充分な難燃性を有する熱可塑性樹脂組成物を与える。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前記グラフト共重合体が配合されているため、特に低温における耐衝撃性及び流動性が優れ、また充分な難燃性を有している。
また、本発明の成形品は、前記熱可塑性樹脂組成物を成形して得られるものであるため、特に低温における耐衝撃性に優れ、充分な難燃性を有している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のグラフト共重合体(以下、「本グラフト共重合体」という。)は、後述するポリオルガノシロキサン系ゴム(A)の存在下でビニル単量体(B)を重合して得られるグラフト共重合体である。
【0010】
ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)は、オルガノシロキサンを重合して得られる、トルエン不溶分が50質量%以上のポリオルガノシロキサン系ゴムである。ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)には、アクリル系ゴム成分を含む複合ゴムは含まれない。
ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)は、ビニル重合性官能基を有するポリオルガノシロキサン系ゴム(以下、「シロキサン系ゴム(A1)」という。)が好ましい。
シロキサン系ゴム(A1)は、下記成分(a1)〜(a3)を重合することにより得られる。
成分(a1):ジメチルシロキサン。
成分(a2):ビニル重合性官能基を有するシロキサン。
成分(a3):シロキサン系架橋剤。
【0011】
成分(a1)としては、例えば、3員環以上のジメチルシロキサン系環状体が挙げられ、3〜7員環のものが好ましい。具体的には、例えば、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサンが挙げられる。なかでも、粒子径分布の制御が容易である点から、主成分としてオクタメチルシクロテトラシロキサンを用いることが好ましい。
成分(a1)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
成分(a2)は、ビニル重合性官能基を有し、成分(a1)とシロキサン結合を介して結合し得るシロキサン化合物である。成分(a2)は、ポリオルガノシロキサンの側鎖又は末端にビニル重合性官能基を導入するための成分であり、このビニル重合性官能基は、後述するビニル単量体(B)から形成されるビニル(共)重合体と化学結合する際のグラフト活性点として作用するものである。
成分(a2)としては、例えば、β−メタクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメトキシジメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルエトキシジエチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシラン及びδ−メタクリロイルオキシブチルジエトキシメチルシラン等のメタクリロイルオキシシラン;テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン等のビニルシロキサン;p−ビニルフェニルジメトキシメチルシラン等のビニルフェニルシラン;γ−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシロキサンが挙げられる。
成分(a2)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
成分(a3)としては、3官能性又は4官能性のシラン系架橋剤が挙げられる。例えば、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシランが挙げられる。
成分(a3)は、本グラフト共重合体を配合した熱可塑性樹脂組成物の強度及び難燃性の点から、シロキサン系ゴム(A1)中に1〜5質量%含有されていることが好ましい。
【0014】
シロキサン系ゴム(A1)の製造方法としては、例えば、成分(a1)と成分(a2)とのシロキサン混合物又は更に成分(a3)を含むシロキサン混合物を、乳化剤と水によって乳化させてオルガノシロキサンラテックスとし、高速回転による剪断力で微粒子化するホモミキサー又は高圧発生機による噴出力で微粒子化するホモジナイザー等を使用して前記オルガノシロキサンラテックスを微粒子化した後、酸触媒を用いて高温下で重合を行ない、次いでアルカリ性物質により酸を中和してポリオルガノシロキサンラテックスを得る方法が挙げられる。
重合に用いる酸触媒の添加方法としては、例えば、シロキサン混合物、乳化剤及び水とともに混合する方法と、シロキサン混合物が微粒子化されたオルガノシロキサンラテックスを、高温の酸水溶液中に一定速度で滴下する方法が挙げられる。
シロキサン系ゴム(A1)の製造方法としては、シロキサン系ゴム(A1)の粒子径を制御しやすい点から、シロキサン混合物、乳化剤及び水と、ミセル形成能のない酸水溶液とを混合させて重合を行なう方法が好ましい。
【0015】
シロキサン系ゴム(A1)の製造に用いる乳化剤としては、アニオン系乳化剤が好ましい。アニオン系乳化剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウムが挙げられる。なかでも、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが特に好ましい。
これら乳化剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
シロキサン系ゴム(A1)の重合に用いる酸触媒としては、例えば、脂肪族スルホン酸、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸、脂肪族置換ナフタレンスルホン酸等のスルホン酸類;硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸類が挙げられる。なかでも、ミセル形成能のない硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸類を用いることが好ましい。鉱酸類を用いることにより、ポリオルガノシロキサンラテックスの粒子径分布を狭くすることが容易になり、またポリオルガノシロキサンラテックスの乳化剤成分に起因する樹脂組成物の外観不良を低減しやすい。また、低温における衝撃強度向上の点でも好ましい。
これら酸触媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
シロキサン混合物、乳化剤、水及び/又は酸触媒を混合する方法は、例えば、高速攪拌による混合、ホモジナイザー等の高圧乳化装置による混合が挙げられるが、ポリオルガノシロキサンラテックスの粒子径の分布が狭くなる点から、ホモジナイザーを使用した方法が好ましい。
【0018】
ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)を製造する際の重合温度は、50〜95℃が好ましく、70〜90℃がより好ましい。
また、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)の重合時間は、酸触媒をシロキサン混合物、乳化剤及び水とともに混合し、微粒子化を行なった後に重合する場合、2〜15時間が好ましく、5〜10時間がより好ましい。
重合は、反応液を冷却し、更にポリオルガノシロキサンラテックスを水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ性物質で中和することにより停止させることができる。
【0019】
ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)の数平均粒子径は、50〜600nmであることが好ましく、100〜500nmであることがより好ましい。ここで、前記数平均粒子径とは、キャピラリー式粒度分布測定器で測定される値を意味する。前記数平均粒子径が50nm以上であれば、低温における耐衝撃性が発現しやすい。また、前記数平均粒子径が600nm以下であれば、本グラフト共重合体を配合した熱可塑性樹脂組成物の難燃性の低下を抑制しやすい。
【0020】
ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)のトルエン不溶分は、50質量%以上であり、80質量%以上であることが好ましい。前記トルエン不溶分が50質量%以上であれば、優れた耐衝撃性が得られ、80質量%以上であれば耐衝撃性が更に向上する。
トルエン不溶分は、以下の方法により測定できる。
ポリオルガノシロキサンラテックスから、2−プロパノールを用いてポリオルガノシロキサン系ゴム(A)成分を抽出し、それを室温で乾燥させた後、真空乾燥機で2−プロパノール成分を完全に除去する。得られたポリオルガノシロキサン系ゴム(A)を0.5g精秤した後、室温にてトルエン80mLに24時間浸漬し、12,000rpmにて60分間遠心分離した後、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)を再度精秤することによりトルエン不溶分の質量分率(質量%)を測定する。
ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)のトルエン不溶分は、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)中の成分(a3)の含有率を調節することにより制御できる。成分(a3)の含有率が高いほど、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)のトルエン不溶分の値が高くなる。
【0021】
ビニル単量体(B)は、多官能性ビニル単量体(b1)を含むビニル単量体である。
多官能性ビニル単量体(b1)は、分子内に重合性不飽和結合を2つ以上有する単量体であり、例えば、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼンが挙げられる。なかでも、耐衝撃性、流動性及び難燃性を発現させる効果が高いことから、アリルメタクリレートが好ましい。
これら多官能性ビニル単量体(b1)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
ビニル単量体(B)における多官能性ビニル単量体(b1)以外の他のビニル単量体(b2)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル単量体;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート等のメタクリレート;メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリレート;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体が挙げられる。
これら他のビニル単量体(b2)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
また、本グラフト共重合体は、耐衝撃性、流動性及び難燃性の発現効果を損なわない範囲内であれば、ビニル単量体(B)以外の他の単量体(C)を重合させてもよい。他の単量体(C)としては、例えば、不飽和カルボン酸系単量体、マレイミド系単量体が挙げられる。
不飽和カルボン酸系単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸が挙げられる。
マレイミド系単量体としては、例えば、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドが挙げられる。
【0024】
ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)の存在下でビニル単量体(B)を重合するグラフト重合は、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)のラテックスにビニル単量体(B)を加え、ラジカル重合法により一段又は多段で行なうことができる。
【0025】
本グラフト共重合体(100質量%)の重合におけるポリオルガノシロキサン系ゴム(A)の使用量は、75〜93質量%であり、80〜90質量%が好ましい。
ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)の前記使用量が75質量%以上であれば、充分な難燃性が発現する。また、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)の前記使用量が93質量%以下であれば、充分な耐衝撃性が発現する。
【0026】
本グラフト共重合体(100質量%)の重合におけるビニル単量体(B)の使用量は、7〜25質量%であり、10〜20質量%が好ましい。ビニル単量体(B)の前記使用量が7質量%以上であれば、優れた耐衝撃性が発現する。また、ビニル単量体(B)の前記使用量が25質量%以下であれば、充分な難燃性が発現する。
【0027】
本グラフト共重合体(100質量%)の重合における多官能性ビニル単量体(b1)の使用量は、0.3〜10質量%であり、0.5〜7質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。多官能性ビニル単量体(b1)の前記使用量が0.3質量%以上であれば、耐衝撃性、難燃性が向上するとともに、連鎖移動効果により低分子量成分の割合が増加しやすく流動性が向上する。また、多官能性ビニル単量体(b1)の前記使用量が10質量%以下であれば、耐衝撃性が向上する。
尚、ビニル単量体(B)における多官能性ビニル単量体(b1)の含有率は、上記した、本グラフト共重合体の重合における多官能性ビニル単量体(b1)の使用量を満たす範囲で、適宜設定することができる。
【0028】
また、本グラフト共重合体は、他の単量体(C)を用いずに、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)とビニル単量体(B)の合計量を100質量%とすることが好ましい。
【0029】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物、無機過酸化物、アゾ系開始剤、酸化剤と還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤が挙げられる。
有機過酸化物としては、例えば、キュメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシラウレイト、ラウロイルパーオキサイド、コハク酸パーオキサイド、シクロヘキサンノンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイドが挙げられる。
無機過酸化物としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムが挙げられる。
アゾ系開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリルが挙げられる。
レドックス系開始剤としては、例えば、硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ロンガリット・ハイドロパーオキサイドを組み合わせた開始剤が挙げられる。
ラジカル重合開始剤は、反応性が高いことから、有機過酸化物又は無機過酸化物が好ましい。また、レドックス系開始剤も好ましく、硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ロンガリット・ハイドロパーオキサイドを組み合わせた開始剤がより好ましい。
【0030】
グラフト重合においては、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)及びビニル単量体(B)に加えて、本グラフト共重合体の分子量又はグラフト率を調整するために各種連鎖移動剤を添加してもよい。
連鎖移動剤としては、例えば、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタンが挙げられる。
【0031】
また、グラフト重合の際には、重合ラテックスを安定化させ、更に本グラフト共重合体の平均粒子径を制御するために乳化剤を添加してもよい。
グラフト重合に用いる乳化剤としては、カチオン系乳化剤、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤が好ましく、スルホン酸塩乳化剤、硫酸塩乳化剤、カルボン酸塩乳化剤がより好ましい。特に、得られる本グラフト共重合体を配合する対象を、エステル結合を有する熱可塑性樹脂とする場合には、加水分解を抑制する点からスルホン酸塩乳化剤が更に好ましい。
【0032】
本グラフト共重合体は、前記方法で製造したグラフト共重合体ラテックスを、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム等の金属塩を溶解した熱水中に投入し、塩析、固化することにより本グラフト共重合体を分離することで、粉末状で回収することができる。また、本グラフト共重合体の回収は、スプレードライ法を用いてもよい。
特に、得られる本グラフト共重合体を配合する対象を、エステル結合を有する熱可塑性樹脂とする場合には、加水分解を抑制することから、カルシウム塩による塩析により回収することが好ましい。
【0033】
本グラフト共重合体のキャピラリー式粒度分布測定器により測定される数平均粒子径は、200〜1,000nmが好ましく、250〜600nmがより好ましい。
前記数平均粒子径が200nm以上であれば、低温における耐衝撃性を充分に発現させやすい。また、前記数平均粒子径が1,000nm以下であれば、本グラフト共重合体を配合した熱可塑性樹脂組成物の難燃性の低下を抑制しやすい。
【0034】
本グラフト共重合体のアセトン可溶分の質量平均分子量(以下、「Mw」という。)は、50,000以下が好ましく、1,000〜50,000がより好ましい。
前記Mwが50,000以下であれば、本グラフト共重合体の熱可塑性樹脂への分散性の低下を防止でき、難燃性を損なわずに優れた流動性を発現させることが容易になる。また、前記Mwが1,000以上であれば、本グラフト共重合体の熱可塑性樹脂への分散性を低下させずに、充分な難燃性及び耐衝撃性を発現させることが容易になる。
【0035】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂に前述の本グラフト共重合体を配合した組成物である。
本グラフト共重合体を配合する熱可塑性樹脂としては、一般に知られている熱可塑性樹脂を用いることができ、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のオレフィン系樹脂;ポリスチレン(PS)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、(メタ)アクリル酸エステル・スチレン共重合体(MS)、スチレン・アクリロニトリル共重合体(SAN)、スチレン・無水マレイン酸共重合体(SMA)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル・スチレン・アクリレート共重合体(ASA)、アクリロニトリル・エチレン−プロピレン−ジエン・スチレン(AES)等のスチレン系樹脂(St系樹脂);ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のアクリル系樹脂(Ac系樹脂);ポリカーボネート系樹脂(PC系樹脂);ポリアミド系樹脂(PA系樹脂);ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂(PEs系樹脂);(変性)ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE系樹脂)、ポリオキシメチレン系樹脂(POM系樹脂)、ポリスルフォン系樹脂(PSO系樹脂)、ポリアリレート系樹脂(PAr系樹脂)、ポリフェニレン系樹脂(PPS系樹脂)、熱可塑性ポリウレタン系樹脂(PU系樹脂)等のエンジニアリングプラスチックス;スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、フッ素系エラストマー、1,2−ポリブタジエン、トランス1,4−ポリイソプレン等の熱可塑性エラストマー(TPE);PC/ABS等のPC系樹脂/St系樹脂アロイ、ポリ塩化ビニル(PVC)/ABS等のPVC系樹脂/St系樹脂アロイ、PA/ABS等のPA系樹脂/St系樹脂アロイ、PA系樹脂/TPEアロイ、PA/PP等のPA系樹脂/ポリオレフィン系樹脂アロイ、PBT系樹脂/TPE、PC/PBT等のPC系樹脂/PEs系樹脂アロイ、ポリオレフィン系樹脂/TPE、PP/PE等のオレフィン系樹脂同士のアロイ、PPE/HIPS、PPE/PBT、PPE/PA等のPPE系樹脂アロイ、PVC/PMMA等のPVC系樹脂/Ac系樹脂アロイ等のポリマーアロイ;硬質、半硬質、軟質塩化ビニル樹脂が挙げられる。
これら熱可塑性樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
また、グラフト共重合体のような相溶化剤を併用してもよい。
【0036】
熱可塑性樹脂組成物中の本グラフト共重合体の配合量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して1〜20質量部であり、2〜10質量部であることが好ましい。
本グラフト共重合体の前記配合量が1質量部以上であれば、優れた耐衝撃性及び難燃性が発現する。また、本グラフト共重合体の前記配合量が20質量部以下であれば、熱可塑性樹脂の本来の性質が損なわれることを防止できる。
【0037】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本来の目的を損なわない範囲であれば、更に望ましい物性、特性に調節する目的で、熱可塑性樹脂及び本グラフト共重合体に加えて各種添加剤が添加されていてもよい。
添加剤としては、例えば、顔料、染料、ガラス繊維、金属繊維、金属フレーク、炭素繊維等の補強剤、充填剤、2,6−ジ−ブチル−4−メチルフェノール、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤、トリス(ミックスド、モノ及びジニルフェニル)ホスファイト、ジフェニル・イソデシルホスファイト等のホスファイト系酸化防止剤、ジラウリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネートジアステリアルチオジプロピオネート等の硫黄系酸化防止剤、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)等の光安定剤、ヒドロキシルアルキルアミン、スルホン酸塩等の帯電防止剤、エチレンビスステアリルアミド、金属石鹸等の滑剤、テトラブロムフェノールA、デカブロモフェノールオキサイド、テトラブロモビスフェノールA(TBA)エポキシオリゴマー、TBAポリカーボネートオリゴマー、三酸化アンチモン、トリフェニルホスファイト(TPP)、リン酸エステル等の難燃剤、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ビニル単量体を重合して得られた硬質重合体とフッ素系樹脂との混合粉体からなる変性フッ素系樹脂(ビニル重合体で変性されたPTFEからなるアンチドリッピング剤)が挙げられる。
【0038】
変性フッ素系樹脂とは、1種以上のビニル単量体を重合して得られた硬質重合体とフッ素系樹脂とが混合されたものであり、フッ素系樹脂を分散させた液(ラテックス)中でビニル単量体を重合する方法や、ビニル単量体を重合して得られた硬質重合体とフッ素系樹脂を、ラテックス同士又は固体同士で混合する方法で得ることができる。
ビニル単量体としては、例えば、スチレン等の芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;メチルアクリレート等のアクリレート;メチルメタクリレート等のメタクリレートが挙げられる。
変性フッ素系樹脂としては、変性PTFEが好ましい。変性PTFEの市販品としては、例えば、商品名「メタブレンA3800」、「メタブレンA3750」(以上、三菱レイヨン(株)製)、商品名「TSAD001」、「CX−500」(以上、パシフィックインターケム(株)製)、商品名「Blendex449」(ケムチュラ(株)製)が挙げられる。
【0039】
前記変性フッ素系樹脂を配合する場合、熱可塑性樹脂組成物中の変性フッ素系樹脂の配合量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.05〜10質量部が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましい。フッ素系樹脂含有物の配合量が0.05質量部以上であれば、難燃性が向上する。また、フッ素系樹脂含有物の配合量が10質量部以下であれば、成形外観を損なわない。
【0040】
本グラフト共重合体を熱可塑性樹脂に配合し、熱可塑性樹脂組成物を製造する方法は特に限定されないが、溶融混合法を用いることが好ましい。また、必要に応じて少量の溶剤を使用してもよい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必須成分である熱可塑性樹脂及び本グラフト共重合体、並びに所望により任意成分を所定量配合し、ロール、バンバリーミキサー、単軸押出機、2軸押出機等の通常の混練機で混練することにより調製することができる。これらは回分的又は連続的に運転することができ、各成分の混合順序は特に限定されない。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ペレット状にすることが好ましい。
【0041】
本発明の成形品は、前述の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られるものである。本発明の成形品は、優れた耐衝撃性を有し、また充分な難燃性を有している。
本発明の成形品の用途は特に制限はなく、例えば、建材、自動車、玩具、文房具等の雑貨、更にはOA機器、家電機器等の低温における耐衝撃性と難燃性とが必要とされる成形品に広く利用できる。
本発明の成形品の製造方法は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いる以外は公知の製造方法を用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。尚、本実施例における「部」は「質量部」を意味する。
本実施例における各測定は、以下のようにして行なった。
[数平均粒子径(dn))の測定]
粒子を含有するラテックスを蒸留水で希釈して濃度約3%の希釈ラテックス0.1mLの試料を作製し、キャピラリー式粒度分布測定器(CHDF2000型、MATEC社製(米国))を用いて数平均粒子径を測定した。測定条件は、流速1.4mL/分、圧力約2.76MPa(約4,000psi)、温度35℃とした。また、測定には粒子分離用キャピラリー式カートリッジ及びキャリア液を用い、液性はほぼ中性にした。
尚、測定前には、粒子径既知の単分散ポリスチレン(DUKE社製(米国))を標準粒子径物質とし、20〜800nmの合計12点の粒子径を測定して、検量線を作成した。数平均粒子径については、前記粒子径測定結果の数分布における解析値を数平均粒子径とした。
【0043】
[トルエン不溶分の測定]
本実施例で得られたポリオルガノシロキサン系ゴムラテックスから、2−プロパノールを用いてポリオルガノシロキサン系ゴム成分を抽出し、室温で乾燥させた後、真空乾燥機で2−プロパノール成分を完全に除去した。
得られたポリオルガノシロキサン系ゴムを0.5g精秤した後、室温にてトルエン80mLに24時間浸漬し、12,000rpmにて60分間遠心分離し、分離したポリオルガノシロキサン系ゴムを再度精秤し、トルエン不溶分の質量分率(質量%)を測定した。
【0044】
[グラフト率の測定]
本実施例で得られたグラフト共重合体の粉体1gをアセトン50gに溶解させ、70℃で6時間還流及び抽出を行なった後、遠心分離装置(CRG SERIES、(株)日立製作所製)を用いて、4℃下にて14,000rpmで30分間遠心分離した。
次いで、溶液をデカンテーションで取り除き、沈澱物を分離して、真空乾燥機にて50℃で24時間乾燥させた後に沈澱物の質量を測定した。グラフト率(単位:質量%)は以下の式にて算出した。
グラフト率=乾燥後の沈澱物の質量/1 ×100
【0045】
[アセトン可溶分のMwの測定]
前記方法で得られたアセトン可溶分(デカンテーションで取り除いた部分)を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて分子量の測定に供した。GPCの測定条件は下記の通りであり、標準ポリスチレンによる検量線からMwを求めた。
装置 :「HLC8220」(東ソー(株)製)
カラム :「TSKgel SuperHZM−M」(東ソー(株)製)
(内径4.6mm×長さ15cm×4本、排除限界4×10
溶離液 :THF(テトラヒドロフラン)
溶離液流量:0.35mL/分
測定温度 :40℃
試料注入量:10μL(試料濃度0.1%)
【0046】
[耐衝撃性]
ASTM D−256に準じて、ノッチつき1/8インチバー、1/4インチバーを用いて23℃及び−30℃でのアイゾット衝撃試験を行なうことにより、耐衝撃性を評価した。
【0047】
[難燃性]
1/16インチの燃焼棒を用い、UL94V試験により難燃性を評価した。
【0048】
[流動性]
樹脂組成物のペレットを試料とし、JIS K7210に準拠してメルトフローレート(MFR)を測定することにより、流動性を評価した。MFRの測定条件は下記(1)及び(2)の通りである。条件(1)は、熱可塑性樹脂組成物にリン酸エステル系難燃剤を配合していないもの、条件(2)は熱可塑性樹脂組成物にリン酸エステル系難燃剤を配合したものに適用した。
条件(1):測定温度280℃、荷重5.0kgf。
条件(2):測定温度260℃、荷重2.16kgf。
【0049】
[製造例1]ポリオルガノシロキサン系ゴム(A−1)ラテックスの製造
下記原料混合物をホモミキサーにて10,000rpmで5分間攪拌した後、ホモジナイザーに20MPaの圧力で2回通し、安定な予備混合ラテックス(a−1)を得た。
原料混合物:
成分(a1) 「TSF404」(商品名、オクタメチルシクロテトラシロキサン、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン(株)製) 96部
成分(a2) 「KBM502」(商品名、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、信越化学(株)製) 2部
成分(a3) 「AY43−101」(商品名、テトラエトキシシラン、東レ・ダウコーニングシリコーン(株)製) 2部
アニオン系乳化剤 ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム 1.00部
脱イオン水 150部
【0050】
次いで、冷却管を備えたセパラブルフラスコに前記予備混合ラテックス(a−1)250部を投入し、硫酸0.20部と脱イオン水49.8部との混合物を3分間に亘り滴下した。その後、該水溶液を80℃に加熱した状態で7時間保持して重合させた後に冷却した。次いで、反応物を室温で6時間保持した後、水酸化ナトリウム水溶液で中和してポリオルガノシロキサン系ゴム(A−1)ラテックスを得た。
ポリオルガノシロキサン系ゴム(A−1)ラテックスを180℃で30分間乾燥して固形分を求めた(以下、固形分の測定方法は同様の方法を用いた。)。固形分は29.8%であった。また、該ラテックスの数平均粒子径は420nmであった。
【0051】
[製造例2]ポリオルガノシロキサン系ゴム(A−2)ラテックスの製造
下記原料混合物をホモミキサーにて10,000rpmで5分間攪拌した後、ホモジナイザーに20MPaの圧力で2回通し、安定な予備混合ラテックス(a−2)を得た。
原料混合物:
成分(a1) 「TSF404」(商品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン(株)製) 96部
成分(a2) 「KBM502」(商品名、信越化学(株)製) 2部
成分(a3) 「AY43−101」(商品名、東レ・ダウコーニングシリコーン(株)製) 2部
アニオン系乳化剤 ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム 0.67部
酸触媒 ドデシルベンゼンスルホン酸 0.67部
脱イオン水 200部
【0052】
冷却管を備えたセパラブルフラスコに、前記予備混合ラテックス(a−2)300部を投入し、80℃に加熱した状態で7時間保持して重合させた後に冷却した。次いで反応物を室温で6時間保持した後、水酸化ナトリウム水溶液で中和してポリオルガノシロキサン系ゴム(A−2)ラテックスを得た。
ポリオルガノシロキサン系ゴム(A−2)ラテックスの固形分は29.3%であり、数平均粒子径は140nmであった。
【0053】
[製造例3]ポリオルガノシロキサン系ゴム(A−3)ラテックスの製造
下記原料混合物をホモミキサーにて10,000rpmで5分間攪拌した後、ホモジナイザーに20MPaの圧力で2回通し、安定な予備混合ラテックス(a−3)を得た。
原料混合物:
成分(a1) 「TSF404」(商品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン(株)製) 96部
成分(a2) 「KBM502」(商品名、信越化学(株)製) 2部
成分(a3) 「AY43−101」(商品名、東レ・ダウコーニングシリコーン(株)製) 2部
アニオン系乳化剤 ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム 1.00部
脱イオン水 200部
【0054】
また、冷却管を備えたセパラブルフラスコに、ドデシルベンゼンスルホン酸10部と脱イオン水90部とを投入し、10%のドデシルベンゼンスルホン酸水溶液を調製した。
該ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液を85℃に加熱した状態で、前記予備混合ラテックス(a−3)300部を2時間に亘って滴下し、滴下終了後、3時間温度を85℃に保持した後に冷却した。次いで反応物を室温で6時間保持した後、水酸化ナトリウム水溶液で中和してポリオルガノシロキサン系ゴム(A−3)ラテックスを得た。
ポリオルガノシロキサン系ゴム(A−3)ラテックスの固形分は17.7%であり、数平均粒子径は65nmであった。
【0055】
[製造例4]ポリオルガノシロキサン系ゴム(A−4)ラテックスの製造
成分(a1)の原料を、「TSF404」から「YF393」(商品名、モメンディブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン(株)製)に変更した以外は、製造例1と同様にしてポリオルガノシロキサン系ゴム(A−4)ラテックスを得た。
ポリオルガノシロキサン系ゴム(A−4)ラテックスの固形分は29.1%であり、数平均分子量は260nmであった。
【0056】
[製造例5]ポリオルガノシロキサン系ゴム(X−1)ラテックスの製造
オクタメチルシクロテトラシロキサンを98部、テトラエトキシシランを0部に変更した以外は、製造例1と同様にしてポリオルガノシロキサン系ゴム(X−1)ラテックスを得た。
ポリオルガノシロキサン系ゴム(X−1)ラテックスの数平均粒子径は410nmであった。
製造例1〜5の各ポリオルガノシロキサン系ゴムの配合、並びに数平均粒子径dn及びトルエン不溶分の測定結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
ただし、表1における略号は以下の意味を示す。
TSF404 :「TSF404」(商品名、オクタメチルシクロテトラシロキサン、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン(株)製)
KBM502 :「KBM502」(商品名、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、信越化学(株)製)
AY43−101:「AY43−101」(商品名、テトラエトキシシラン、東レ・ダウコーニングシリコーン(株)製)
YF393 :「YF393」(商品名、モメンディブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン(株)製)
【0059】
[実施例1]
(グラフト共重合体(1)粉体の製造)
下記第1原料混合物をセパラブルフラスコに投入し、フラスコ内に窒素気流を通じて窒素置換を行ない、攪拌しながら昇温させ、液温が50℃に達した時点で下記還元剤水溶液を投入して一段目の重合を開始し、アリルメタクリレート成分の重合を完結させるために液温を70℃に1時間保持した。
第1原料混合物:
ポリオルガノシロキサン系ゴム(A−1)ラテックス 268.5部
(ポリマー換算で80部)
多官能性ビニル単量体(b1) アリルメタクリレート 1部
重合開始剤 キュメンハイドロパーオキサイド 0.3部
脱イオン水 200部
還元剤水溶液:
硫酸第一鉄 0.001部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩 0.003部
ロンガリット 0.24部
脱イオン水 10部
【0060】
次いで、下記第2原料混合物を10分間に亘って滴下し、液温を60℃以上に1時間保持して二段目の重合を行ない、その後に冷却してグラフト共重合体(1)ラテックスを得た。
第2原料混合物:
他のビニル単量体(b2) メチルメタクリレート 17部
他のビニル単量体(b2) ブチルアクリレート 2部
重合開始剤 キュメンハイドロパーオキサイド 0.20部
【0061】
酢酸カルシウムを5質量%の割合で溶解した水溶液500部を攪拌しながら60℃に加熱し、該水溶液中にグラフト共重合体(1)ラテックス340部を徐々に滴下して凝固させ、分離、水洗した後に乾燥してグラフト共重合体(1)粉体を得た。
【0062】
(熱可塑性樹脂組成物の製造)
30mmφ二軸押出機(PCM−30、池貝製作所製)にて280℃にて下記配合成分を溶融混練することで、ペレット状に賦型して樹脂組成物を得た。次いで、得られた樹脂組成物を100t射出成形機(SE−100DU、住友重機製作所製)にて280℃で成形し、アイゾット試験片及び燃焼試験片を得た。
配合成分:
グラフト共重合体(1)粉体 5部
熱可塑性樹脂 「ユーピロンS2000F」(商品名、ビスフェノールAタイプポリカーボネート、粘度平均分子量約22,000、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)
100部
フェノール系酸化防止剤 「イルガノックス245」(商品名、チバ・ジャパン(株)製) 0.3部
リン系酸化防止剤 「アデカスタブPEP36」(商品名、(株)ADEKA製)
0.3部
滴下防止剤 メタブレンA−3800(商品名、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレン、三菱レイヨン(株)製) 1部
【0063】
[実施例2〜13]
配合組成を表2及び3に示す通りに変更した以外は実施例1と同様の方法でグラフト共重合体(2)粉体〜グラフト共重合体(13)粉体を得た。また、得られたグラフト共重合体(2)粉体〜グラフト共重合体(13)粉体を用い、配合組成を表2及び3に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造し、アイゾット試験片及び燃焼試験片を得た。
【0064】
[実施例14〜20]
実施例3と同じグラフト共重合体(3)粉体を用い、配合組成を表3に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造し、アイゾット試験片及び燃焼試験片を得た。
【0065】
[比較例1]
グラフト共重合体を用いていない以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造し、アイゾット試験片及び燃焼試験片を得た。
【0066】
[比較例2〜4]
配合組成を表4に示す通りに変更した以外は実施例1と同様の方法でグラフト共重合体(14)粉体〜グラフト共重合体(16)粉体を得た。また、得られたグラフト共重合体(14)粉体〜グラフト共重合体(16)粉体を用いて、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造し、アイゾット試験片及び燃焼試験片を得た。
【0067】
[比較例5]
(グラフト共重合体(17)粉体の製造)
製造例1で得られたポリオルガノシロキサン系ゴム(A−1)ラテックス234.9部(ポリマー換算で70部)をセパラブルフラスコに投入し、脱イオン水200部を添加混合した後、ブチルアクリレート9部、アリルメタクリレート1部、キュメンハイドロパーオキサイド0.3部の混合物を添加した。次いで、フラスコ内に窒素気流を通じて窒素置換を行ない、攪拌しながら昇温し液温が50℃に達した時点で実施例1と同じ還元剤水溶液を添加し、ラジカル重合を開始した。アリルメタクリレート成分の重合を完結させるため、液温を70℃で1時間保持し、ポリオルガノシロキサン系ゴムとポリブチルアクリレートとの複合ゴムのラテックスを得た。
【0068】
次いで、前記複合ゴムのラテックスに下記第1原料混合物を添加した後、液温を70℃に1時間保持して一段目の重合を行なった。その後、下記第2原料混合物を20分間に亘って滴下し、滴下終了後、温度70℃以上の状態を1時間保持して二段目の重合を行ない、その後に冷却してグラフト共重合体(17)ラテックスを得た。
第1原料混合物:
多官能性ビニル単量体(b1) アリルメタクリレート 5部
重合開始剤 キュメンハイドロパーオキサイド 0.3部
第2原料混合物:
他のビニル単量体(b2) メチルメタクリレート 13部
他のビニル単量体(b2) ブチルアクリレート 2部
重合開始剤 キュメンハイドロパーオキサイド 0.20部
【0069】
次いで、酢酸カルシウムを5質量%の割合で溶解した水溶液500部を攪拌しながら60℃に加熱し、この中にグラフト共重合体(17)ラテックス340部を徐々に滴下し、該ラテックスを凝固させ、分離、水洗した後に乾燥してグラフト共重合体(17)粉体を得た。
【0070】
(熱可塑性樹脂組成物の製造)
得られたグラフト共重合体(17)粉体を用いて、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造した。
また、該熱可塑性樹脂組成物を用いて実施例1と同様にしてアイゾット試験片及び燃焼試験片を得た。
【0071】
[比較例6]
(グラフト共重合体(18)ラテックスの製造)
製造例1で得られたポリオルガノシロキサン系ゴム(A−1)ラテックス268.5部(ポリマー換算で80部)をセパラブルフラスコに投入し、脱イオン水200部を添加混合した後、フラスコ内に窒素気流を通じて窒素置換を行ない、攪拌しながら昇温して液温が50℃となった時点で実施例1と同じ還元剤水溶液を添加し、液温を70℃とした。
次いで、下記原料混合物を20分間に亘って滴下した後、温度70℃以上の状態を1.5時間保持して重合を行ない、その後に冷却してグラフト共重合体(18)ラテックスを得た。
原料混合物:
他のビニル単量体(b2) メチルメタクリレート 18部
他のビニル単量体(b2) ブチルアクリレート 2部
重合開始剤 キュメンハイドロパーオキサイド 0.20部
【0072】
次いで、酢酸カルシウムを5質量%の割合で溶解した水溶液500部を60℃に加熱し攪拌し、この中へグラフト共重合体(18)ラテックス340部を徐々に滴下し凝固させ、分離、水洗した後に乾燥してグラフト共重合体(18)粉体を得た。
【0073】
(熱可塑性樹脂組成物の製造)
得られたグラフト共重合体(18)粉体を用いて、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造した。
また、該熱可塑性樹脂組成物を用いて、アイゾット試験片及び燃焼試験片を得た。
実施例1〜20及び比較例1〜6における配合組成及び耐衝撃性、難燃性の評価結果を表2〜4に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
【表3】

【0076】
【表4】

【0077】
ただし、表2〜4における略号は以下の意味を示す。
BA :ブチルアクリレート
AMA :アリルメタクリレート
MMA :メチルメタクリリレート
PhMA :フェニルメタクリレート
AN :アクリロニトリル
St :スチレン
PC :「ユーピロンS2000F」(商品名、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)
Irg245:「イルガノックス245」(商品名、チバ・ジャパン(株)製)
PEP36 :「アデカスタブPEP36」(商品名、(株)ADEKA製)
CD1 :「フルオンCD−1」(商品名、旭硝子(株)製)
A3800 :「メタブレンA−3800」(商品名、三菱レイヨン(株)製)
TPP :「TPP」(商品名、大八化学(株)製)
CR733S:「CR733S」(商品名、大八化学(株)製)
CR741 :「CR741」(商品名、大八化学(株)製)
PX200 :「PX200」(商品名、大八化学(株)製)
【0078】
表2及び3に示すように、本発明のグラフト共重合体を配合した実施例1〜20の熱可塑性樹脂組成物は、優れた耐衝撃性、流動性及び難燃性を兼ね備えていた。また、−30℃におけるアイゾット衝撃強度も高く、低温でも耐衝撃性が優れていた。
【0079】
一方、グラフト共重合体を用いていない比較例1の樹脂組成物は、実施例に比べてUL94V試験の総燃焼時間が長く難燃性が劣っており、低温での耐衝撃性も劣っていた。
トルエン不溶分が低いポリオルガノシロキサン系ゴム(X−1)を使用した比較例2の樹脂組成物は、実施例3の樹脂組成物に比べて低温における耐衝撃性が劣っていた。
ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)の含有率が少ない比較例3の樹脂組成物は、実施例3の樹脂組成物に比べて、流動性及び低温での耐衝撃性が劣っており、またUL94V試験の総燃焼時間が長く難燃性も劣っていた。
ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)の含有率が多すぎる比較例4の樹脂組成物は、実施例2及び5の樹脂組成物に比べて低温における耐衝撃性が劣っていた。
ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)の代わりに、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A−1)にブチルアクリレートを複合させた複合ゴムを用いた比較例5の樹脂組成物は、実施例3、9及び10の樹脂組成物に比べてUL94V試験の総燃焼時間が長く難燃性が著しく劣っていた。
多官能性ビニル単量体(b1)を用いずに製造したグラフト共重合体を用いた比較例6の樹脂組成物は、実施例1〜3の樹脂組成物に比べて低温での耐衝撃性が劣っており、UL94V試験の総燃焼時間が長く難燃性が著しく劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノシロキサンを重合して得られるトルエン不溶分が50質量%以上のポリオルガノシロキサン系ゴム(A)75〜93質量%の存在下で、多官能性ビニル単量体(b1)を含むビニル単量体(B)7〜25質量%を重合するグラフト共重合体の製造方法であって、
前記多官能性ビニル単量体(b1)の質量割合がグラフト共重合体100質量%に対して0.3〜10質量%であるグラフト共重合体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法で得られるグラフト共重合体。
【請求項3】
キャピラリー式粒度分布測定器で測定される数平均粒子径が200〜1,000nmである、請求項2に記載のグラフト共重合体。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のグラフト共重合体が、熱可塑性樹脂100質量部に対して1〜20質量部配合された熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
更に、ビニル単量体を重合して得られた硬質重合体とフッ素系樹脂との混合粉体からなる変性フッ素系樹脂が配合された、請求項4に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品。

【公開番号】特開2010−275523(P2010−275523A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202964(P2009−202964)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】