説明

グラフト共重合体粉体の製造方法、グラフト共重合体粉体、及びポリ塩化ビニル系樹脂組成物

【課題】乳化重合により製造されるグラフト共重合体ラテックスを粉体として回収する方法において、製品の性能や生産性等に何ら影響を与えることなく、粉体が含有する揮発成分の量と、循環ガスに含有される揮発成分の濃度を低減する。
【解決手段】乳化重合により得られるゴム質重合体ラテックスを脱揮処理し、脱揮処理後のゴム質重合体ラテックスの存在下で、ビニル単量体をグラフト重合して得られるグラフト共重合体ラテックスを、循環式噴霧乾燥機を用いて粉体として回収する、グラフト共重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフト共重合体粉体の製造方法、該製造方法により得られるグラフト共重合体粉体、及びポリ塩化ビニル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフト共重合体は、塩化ビニル樹脂等の各種プラスチック製品の耐衝撃強度改質剤として使用されている。その製造方法としては、乳化重合を用いるのが一般的である。乳化重合により製造されたグラフト共重合体ラテックスは塩化ビニル等の各種プラスチックと溶融混練するために、粉体として回収する必要がある。この回収方法の1つに、グラフト共重合体ラテックスを直接熱風中に噴霧して乾燥する、噴霧乾燥法がある。
【0003】
グラフト共重合体ラテックスを噴霧乾燥して得られた粉体には、乳化重合で使用した乳化剤、触媒、開始剤等の原料や、これらの分解生成物が残留する。このため、前記の残留物に由来する揮発成分(臭気成分)が粉体から発生し、作業環境に負荷を及ぼす等の問題があった。
前記した揮発成分は、噴霧乾燥機の排ガス(グラフト共重合体ラテックスの乾燥に用いた後の乾燥用ガス)にも含有される。大規模な噴霧乾燥機で、揮発成分を含有する排ガスが大気中に排出されると、環境面に多大な影響を与える。このため、工場建設の際は高価な排ガス処理設備が必要とされ、コスト削減の面で問題がある。
【0004】
上記の問題に対し、特許文献1では、乳化重合に際し重合開始剤として有機過酸化物と1種以上の還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤を用い、該有機過酸化物として、特定の酸化物からなる群より選ばれる、少なくとも1種のハイドロパーオキサイドを使用するグラフト共重合体粉体の製造方法が提案されている。
【特許文献1】特許第3822816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許においても、十分に臭気を低減することができるが、排ガス量を低減するために乾燥用ガスを循環して使用する循環式噴霧乾燥機を用いた場合には、時間の経過と共に循環ガスに含有される揮発成分の濃度が増加し、粉体が含有する揮発成分の量も増加するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、乳化重合により製造されるグラフト共重合体ラテックスを、循環式噴霧乾燥機を用いて粉体として回収する方法において、製品の性能や生産性等に何ら影響を与えることなく、粉体が含有する揮発成分の量と、循環ガスに含有される揮発成分の濃度を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、乳化重合により得られるゴム質重合体ラテックスを脱揮処理し、脱揮処理後のゴム質重合体ラテックスの存在下で、ビニル単量体をグラフト重合して得られるグラフト共重合体ラテックスを、循環式噴霧乾燥機を用いて粉体として回収することで、粉体が含有する揮発成分の量を低減させることを特徴とするグラフト共重合体粉体の製造方法である。
【0008】
ここで、循環式噴霧乾燥機の循環ガスに含有される揮発成分の濃度が350ppm以下であることが好ましい。
【0009】
本発明のグラフト共重合体粉体は、前記の製造方法で得られる。
また、本発明のグラフト共重合体粉体は、ポリ塩化ビニル系樹脂とからなるポリ塩化ビニル系樹脂組成物とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、乳化重合により製造されるグラフト共重合体ラテックスを、循環式噴霧乾燥機を用いてグラフト共重合体粉体として回収する際、製品の性能や生産性等に何ら影響を与えることなく、グラフト共重合体粉体が含有する揮発成分の量と、循環ガスに含有される揮発成分の濃度を低減することが可能となり、環境負荷や作業者への負担を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
尚、本明細書中における「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートの一方又は両方を示す。
【0012】
本発明のグラフト共重合体は、幹ポリマーとなるゴム質重合体ラテックスに、グラフト重合可能なビニル単量体をグラフト重合させたものである。
特に噴霧乾燥する際のグラフト共重合体ラテックスの安定性の面から、先ず幹となるゴム質重合体ラテックスを乳化重合により製造し、該ゴム質重合体ラテックス存在下にビニル単量体を1段階又は2段階以上の多段にて、乳化重合することによりグラフト重合を行なって、グラフト共重合体ラテックスを製造することが好ましい。
【0013】
ゴム質重合体としては、ガラス転移温度(Tg)が20℃以下のものが挙げられ、例えば、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等を主成分とするアクリル系ゴム質重合体;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、ブタジエン−スチレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体等を主成分とするジエン系ゴム質重合体;オルガノシロキサン等を主成分とするシリコーン系ゴム質重合体が挙げられる。また、これらのゴム質重合体は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。さらには、ガラス質重合体を芯あるいは殻に含有する多段のゴム質重合体であってもよい。
【0014】
ゴム質重合体において、単量体全量を100質量%とした場合、1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン系単量体の含有率は60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましい。ゴム質重合体において、前記ジエン系単量体以外の残余は、前記ジエン系単量体と共重合し得る、1種又は2種以上のビニル単量体からなることが好ましい。
【0015】
本発明においては重合開始剤として、有機過酸化物と1種以上の還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤が好ましい。
【0016】
前記レドックス系開始剤における有機過酸化物として用いられるものは、t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等があり、特に有機過酸化物に由来する臭気が弱いことからt−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイドを使用することが好ましい。
【0017】
前記レドックス系開始剤における還元剤として用いられるものは、硫酸第一鉄、ロンガリット、及びキレート剤のエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムの組み合わせが好ましい。
【0018】
本発明における、レドックス系開始剤の添加に際して、レドックス系開始剤の全ての成分を同時に添加することも可能であるが、通常は有機過酸化物と還元剤を別途に添加することが好ましく、それぞれ重合開始時に全量添加する方法、重合開始時と重合途中に分割して添加する方法等により添加することができる。
該レドックス系開始剤は、ゴム質重合体ラテックスの製造時、及びグラフト重合時に、その一部を割り当てるように分割添加することが好ましい。 ⇒この後の記載は削除
【0019】
本発明で用いる乳化剤としては、特に制限はないが、空気中での熱重量減少測定(TGA)における10%重量減少温度が250℃より高い、スルホン酸系アルカリ金属塩、又は硫酸系アルカリ金属塩を乳化剤として使用することが好ましい。本条件を満足するスルホン酸系アルカリ金属塩、又は硫酸系アルカリ金属塩としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。これらの乳化剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
該乳化剤の添加に際して、重合開始時に乳化剤の全量を添加する方法、重合開始と重合途中に一括して又は連続的に分割して添加する方法等、いずれの添加方法も可能であり、乳化状態により適宜選択することが好ましい。
【0020】
また、上記乳化剤において、スルホン酸系アルカリ金属塩、又は硫酸系アルカリ金属塩を使用することにより、該金属塩を効果的にポリ塩化ビニル系樹脂組成物に分散させることができるため、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物において帯電防止効果が得られるとともに、得られるポリ塩化ビニル系樹脂組成物成形体の透明性を向上させることができる。
さらに、この金属塩の空気中での熱重量減少測定(TGA)において、10%重量減少温度が250℃より高いことから、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物の成形加工時に該金属塩が熱分解することがない。これにより、該金属塩の熱分解物がポリ塩化ビニル樹脂組成物からプレートアウトすることがなく、また、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物への相溶性が乏しい滑剤等のプレートアウトを防止する効果がある。
【0021】
本発明は、乳化重合により得られるゴム質重合体ラテックスを脱揮処理することを特徴とする。本脱揮処理は、一般的に、乳化重合により製造されたラテックスから、揮発成分を除去する目的で行なわれる方法を使用することができる。例えば、得られたゴム質重合体ラテックスを容器に移し、減圧された脱揮槽と容器の間を循環させる方法が用いられる。このような脱揮処理を行なうことにより、循環式噴霧乾燥機により回収した粉体が含有する揮発成分の量と、循環ガスに含有される揮発成分の濃度を効果的に低減することができる。
また、該脱揮処理における脱揮槽の圧力は10〜15kPa、温度は20〜80℃が望ましい。
【0022】
グラフト重合に使用するビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル単量体;メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル単量体;塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル単量体;塩化ビニリデン、臭化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン単量体;グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のグリシジル基を有するビニル単量体;ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能性単量体であることが好ましい。また、これらのビニル単量体は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
本発明のグラフト共重合体は、ゴム質重合体ラテックス(ゴム質重合体の固形分として40〜85質量%)の存在下で、ビニル単量体60〜15質量%をグラフト重合することが好ましく、ゴム質重合体ラテックス(ゴム質重合体の固形分として65〜80質量%)の存在下で、ビニル単量体35〜20質量%をグラフト重合することがより好ましい(但し、ゴム質重合体とビニル単量体の合計が100質量%)。
グラフト共重合体の製造に用いるゴム質重合体の固形分が40質量%以上であれば、該グラフト共重合体粉体とポリ塩化ビニル系樹脂からなる、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物の実用的な強度発現性が向上する。グラフト共重合体の製造に用いるゴム質重合体の固形分が85質量%以下であれば、ポリ塩化ビニル系樹脂への該グラフト共重合体粉体の分散性が向上し、フィッシュアイ等の外観異常を生じにくい。
グラフト共重合体の製造に用いるビニル単量体が15質量%以上であれば、ポリ塩化ビニル系樹脂への該グラフト共重合体粉体の分散性が向上し、フィッシュアイ等の外観異常を生じにくい。グラフト共重合体の製造に用いるビニル単量体が60質量%以下であれば、該グラフト共重合体粉体とポリ塩化ビニル系樹脂からなる、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物の実用的な強度発現性が向上する。
【0024】
本発明において、グラフト重合は、ゴム質重合体ラテックス存在下にビニル単量体を1段階又は2段階以上の多段にて、乳化重合することにより製造されることが好ましい。
また、グラフト重合に用いる乳化剤及び重合開始剤としては、ゴム質重合体ラテックスを製造する際に使用したものと同種のものを使うことが好ましく、以上の操作によりグラフト共重合体ラテックスを得ることができる。
尚、ゴム質重合体ラテックス存在下でビニル単量体をグラフト重合した場合、ビニル単量体がゴム質重合体にグラフトせず、ビニル単量体のみが単独に重合したフリーポリマーが存在する。このように、本発明のグラフト共重合体は、グラフト共重合体とフリーポリマーとの混合物となるが、本発明においてはこれらを含めてグラフト共重合体という。
【0025】
本発明では、得られたグラフト共重合体ラテックスを、循環式噴霧乾燥機にてグラフト共重合体粉体として回収する。
【0026】
噴霧乾燥とは、乾燥用ガス(熱風)中にグラフト共重合体ラテックスを噴霧(微細化)して粉体として回収する方法であり、噴霧乾燥機及び噴霧装置は、公知の噴霧乾燥機及び噴霧装置を使用することができる。また、噴霧乾燥機の容量も特に制限がなく、小試験的な小規模なスケールから、工業的に使用するような大規模なスケールまでいずれの容量の乾燥機も使用することができる。
循環式噴霧乾燥とは、グラフト共重合体ラテックスの乾燥に用いる乾燥用ガスを循環して使用する方式を指す。従来の噴霧乾燥と比較すると乾燥機から排出される排ガス量を低減することができ、また、循環ガスに含有される揮発成分を回収することが容易であることから、グラフト共重合体ラテックスの粉体回収に適している。
【0027】
循環式噴霧乾燥機において、グラフト共重合体ラテックスを噴霧する装置は、乾燥機の上部に1個以上設置され、噴霧方式は圧力ノズル式、2流体ノズル式、加圧2流体ノズル式等いずれの方式でもよい。
また、噴霧装置の噴霧圧力は1〜10MPa、乾燥用ガスの温度は140〜170℃が好ましい。
さらに、該循環式噴霧乾燥機においては、噴霧乾燥した粉体を乾燥用ガスから分離、回収する装置を有していることが好ましい。乾燥用ガスから粉体を回収する方法は特に制限されないが、一般的には、遠心方式によるサイクロンや濾過方式によるバグフィルター等が好ましい。
【0028】
また噴霧乾燥する際、グラフト共重合体ラテックスは単独でもよいが、組成の異なる複数のグラフト共重合体ラテックスの混合物であってもよい。さらには、噴霧乾燥時のブロッキング、嵩比重等の粉末特性を向上させるために、シリカ、タルク、炭酸カルシウム等の無機質充填剤や、ポリアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド等を添加して噴霧乾燥を行なうこともできる。また、噴霧するラテックスに適当な酸化防止剤や添加剤等を加えて噴霧乾燥することもできる。
【0029】
本発明は、循環式噴霧乾燥機の循環ガスに含有される揮発成分(臭気成分)と、回収された粉体が含有する揮発成分とを、効果的に低減させる製造方法である。
循環式噴霧乾燥機の循環ガスに含有される揮発成分の濃度は、循環式噴霧乾燥機の循環ガスを採取し、ガスクロマトグラフィー(GC)にて、揮発成分の濃度を測定することで定量的に評価できる。この場合、揮発成分の濃度が350ppm以下であることが好ましい。
【0030】
回収された粉体が含有する揮発成分の量は、ガスクロマトグラフ−マススペクトロスコピー(GC−MS)の分析結果から相対的に評価した。
臭気の原因となる揮発成分は、開始剤の分解物等に由来するものである。揮発成分の量は、GC−MS分析によるピーク強度で示され、揮発成分として検出されるピークの内で、最大のピークの強度が300万以下であれば実用上問題なく、100万以下であればより好ましい。
【0031】
本発明のグラフト共重合体粉体は、ポリ塩化ビニル系樹脂等と混合して、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物として利用することができる。
ここで、ポリ塩化ビニル系樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリ塩素化塩化ビニル等の塩素含有樹脂、又は塩化ビニル共重合体、詳しくは塩化ビニル単量体と、これと共重合可能な他の単量体の合計質量%を100質量%としたとき、70質量%以上の塩化ビニル単量体と、他の単量体30質量%以下との共重合体が使用可能である。他の単量体としては、臭化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、エチレン等が挙げられる。
【0032】
グラフト共重合体粉体は、ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、1〜30質量部の範囲で添加されるのが好ましい。グラフト共重合体粉体の添加量をポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して1質量部以上とすることで、得られる成形体は実用上十分な強度を発現する。また、グラフト共重合体粉体の添加量をポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して30質量部以下とすることで、得られる成形体は良好な透明性を有する。
【0033】
グラフト共重合体粉体、ポリ塩化ビニル系樹脂、及び必要に応じて添加する各種添加剤の混合方法は特に限定されず、公知の混合方法を採用することができる。例えば、ヘンシェルミキサー等を使用することができる。
各種添加剤とは、加工助剤、滑剤、染料、顔料、安定剤、補強材、充填剤、難燃剤等であるが、これらに限定されるものではない。
上記配合物は、カレンダー成形、押出成形、射出成形、ブロー成形等各種の成形方法にて成形することができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
尚、本実施例においては、特記しないかぎり、「部」は「質量部」を表す。
また、各実施例、比較例での諸物性の測定は次の方法による。
【0035】
〔グラフト共重合体粉体の臭気評価〕
循環式噴霧乾燥機を運転してから5時間後に回収したグラフト共重合体粉体500gをポリ袋に入れ、臭いを嗅ぎ、以下の基準に基づき結果を表した。
◎:臭気をまったく感じない。
○:臭気を感じない。
△:臭気をやや感じる。
×:強い臭気を感じる。
【0036】
〔グラフト共重合体粉体が含有する揮発成分の量〕
グラフト共重合体粉体が含有する揮発成分の量を、以下の方法により相対的に評価した。
装置 :GC−MS(アジレント社製 Agilent5973)
加熱脱着装置 :TDS(ゲステル社製)
サンプリング量 :50mg
(循環式噴霧乾燥機を運転してから5時間後に回収したグラフト共重合体粉体)
サンプル加熱温度 :50℃で1分間保持後、10℃/分で昇温し、90℃に到達後、10分間保持し、粉体が含有する揮発成分をサンプリングした。
本揮発成分を、以下の加熱条件に設定したCG−MSのカラムに導入した。
カラムの温度条件 :40℃で1分間保持後、15℃/分で昇温し、280℃に到達後、1分間保持した。
揮発成分として検出されるピークの内、最大となるピークの強度を求めた。
【0037】
〔循環ガスに含有される揮発成分の濃度〕
グラフト共重合体ラテックスの噴霧乾燥を開始してから、5時間後の循環式噴霧乾燥機の循環ガスを注射器にて採取し、(株)島津製作所製ガスクロマトグラフィーを使用して、循環ガスに含有される揮発成分の濃度を測定した。
【0038】
〔質量平均粒子径(dw)〕
キャピラリー式粒度分布計(米国MATEC社製、CHDF2000型粒度分布計;商品名)を用い、MATEC社が推奨する標準条件、即ち、専用の粒子分離用キャピラリー式カートリッジ及びキャリア液を用い、液性をほぼ中性、流速1.4ml/分、圧力を約4000psi、温度35℃に保ち、脱イオン水で濃度約3%となるよう希釈したラテックス試料0.1mlを試料として測定した。
尚、標準粒子径物質として米国DUKE社製の粒子径既知の単分散ポリスチレンを20〜800nmの範囲で合計12点用いた。
【0039】
〔ヘイズ〕
ポリ塩化ビニル系樹脂組成物の配合を、8インチテストロールを用い、ロール温度190℃、ロール間隔1.0mm、フロントロール14rpm、バックロール17rpmの条件にて、配合投入から3分間混練してロールシートを得た。得られたロールシートを、プレス温度180℃、プレス圧力15MPaで6.5分間プレス成形して、厚さ3mmの成形体を作製し、ヘイズメーターにより23℃でのヘイズを評価した。
【0040】
〔実用強度〕
ポリ塩化ビニル系樹脂組成物の配合を、GM ENG社製φ30mm単軸押出機でL/D=25のスクリューを用い、C1/C2/C3/C4/AD/D=145/160/175/185/195/190℃、スクリュー回転数40rpmの条件でTダイにより、厚さ0.35mmのシートを成形した。
シートから、長さ140mm−幅25mmの試験片30枚を切り出し、その試験片を、回転打撃試験機(回転軸に試験片を取り付け、高速回転させ、試験片の先端20mmが、打撃ブロックに当たる)により、回転数1000rpm、回転時間1分間により実用強度の評価を行なった。評価後の試験片について、損傷がないもの、ひびはあるが欠けのないものを合格とし、欠けが発生したものは不合格とし、合格比率を示した。
【0041】
〔実施例1〕グラフト共重合体(A−1)粉体の製造
〔ゴム質重合体ラテックスの調製〕
温度計、窒素導入管、攪拌機を備えた70Lオートクレーブに、下記の第一単量体混合物を仕込み、攪拌を行ない乳化した。反応容器は43℃まで昇温させた。
第一単量体混合物:
1,3−ブタジエン :16.61部
スチレン :5.84部
t−ブチルハイドロパーオキサイド :0.15部
(パーブチルH:日本油脂(株)製)
ピロリン酸ナトリウム :0.2部
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム :0.071部
(ネオペレックスG15;花王(株)製)
脱イオン水 :137部
下記の還元剤混合物を反応容器内に投入して、重合を開始した。その後、70℃まで昇温させた。
還元剤混合物:
硫酸第一鉄 :0.0003部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム :0.0009部
ロンガリット :0.3部
脱イオン水 :4部
【0042】
重合開始から2時間後に、下記の開始剤を反応容器内に投入し、その直後から、下記の第二単量体混合物を2.5時間かけて滴下した。
開始剤:
t−ブチルハイドロパーオキサイド :0.1部
第二単量体混合物:
1,3−ブタジエン :56.86部
スチレン :20.69部
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム :2.6部
脱イオン水 :1.5部
重合開始から9時間反応させて、ゴム質重合体ラテックスを得た。得られたゴム質重合体ラテックスの質量平均粒子径は102nmであった。
【0043】
〔脱揮処理〕
上記重合で得られたゴム質重合体ラテックスを、他の容器に移し、温度60℃、圧力15kPaに減圧した脱揮槽を用いてゴム質重合体ラテックスを5時間循環させた。
【0044】
〔グラフト共重合体ラテックスの調製〕
温度計、窒素導入管、冷却管、攪拌機を備えたセパラブルフラスコに、下記のゴム質重合体等原料を仕込み、攪拌を開始し、フラスコ内を窒素置換して、内温を72℃に保持した。
ゴム質重合体等原料:
脱揮処理後のゴム質重合体ラテックス(固形分として):75部
ロンガリット :0.6部
第1段目のグラフト重合として、下記の第1グラフト単量体混合物を、50分間かけて滴下した後、1時間保持した。
第1グラフト単量体混合物:
メチルメタクリレート :7部
ブチルアクリレート :1.75部
t−ブチルハイドロパーオキサイド :0.026部
【0045】
次いで、前段階で得られた重合体の存在下で、第2段目のグラフト重合として、下記の第2グラフト単量体混合物を、1時間かけて滴下した後、1.5時間保持した。
第2グラフト単量体混合物:
スチレン :11.25部
t−ブチルハイドロパーオキサイド :0.034部
次いで、前段階で得られた重合体の存在下で、第3段目のグラフト重合として、下記の第3グラフト単量体混合物を、30分間かけて滴下した後、1.5時間保持して重合を終了した。
第3グラフト単量体混合物:
メチルメタクリレート :5部
t−ブチルハイドロパーオキサイド :0.015部
得られたグラフト共重合体ラテックスに、ブチル化ハイドロキシトルエン0.5部を添加した。
【0046】
〔噴霧乾燥〕
上記グラフト共重合体ラテックスを、加圧二流体ノズルの噴霧圧力5.5MPa、乾燥用ガスの温度155℃である循環式噴霧乾燥機を用いて、グラフト共重合体(A−1)粉体を得た。尚、循環式噴霧乾燥機を用いた噴霧乾燥は、5時間連続運転を行なった。
【0047】
〔実施例2〕グラフト共重合体(A−2)粉体の製造
ゴム質重合体ラテックスの脱揮処理時間を7.5時間とした以外は、実施例1と同様にして、グラフト共重合体(A−2)粉体を得た。
【0048】
〔実施例3〕グラフト共重合体(A−3)粉体の製造
ゴム質重合体ラテックスの調製において、第一単量体混合物で用いるt−ブチルハイドロパーオキサイドの量を0.15部から0.08部に変更し、第二単量体混合物の滴下前に投入するt-ブチルハイドロパーオキサイドの量を0.1部から0.17部に変更し、さらに第二単量体混合物の滴下終了後に、t−ブチルハイドロパーオキサイド0.07部を、2時間おきに2回添加し、重合開始から15時間反応させて、それ以外は実施例1と同様にして、グラフト共重合体(A−3)粉体を得た。
得られたゴム質重合体ラテックスの質量平均粒子径は145nmであった。
【0049】
〔実施例4〕グラフト共重合体(A−4)粉体の製造
ゴム質重合体ラテックスの調製において、第一単量体混合物で用いるt−ブチルハイドロパーオキサイド0.15部を、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド(パーオクタH:日本油脂(株)製)0.14部に変更し、第二単量体混合物の滴下前に投入するt-ブチルハイドロパーオキサイド0.1部を、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド0.1部に変更した以外は、実施例2と同様にして、グラフト共重合体(A−4)粉体を得た。
【0050】
〔実施例5〕グラフト共重合体(A−5)粉体の製造
ゴム質重合体ラテックスの調製において、第一単量体混合物で用いるt−ブチルハイドロパーオキサイド0.15部を、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド(パークミルP:日本油脂(株)製)0.4部に変更し、第2単量体混合物の滴下前に投入するt-ブチルハイドロパーオキサイド0.1部を、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド0.4部に変更した以外は、実施例1と同様にして、グラフト共重合体(A−5)粉体を得た。
【0051】
〔比較例1〕グラフト共重合体(B−1)粉体の製造
ゴム質重合体ラテックスの脱揮処理を行なわなかったこと以外は、実施例1と同様にして、グラフト共重合体(B−1)粉体を得た。
【0052】
〔比較例2〕グラフト共重合体(B−2)粉体の製造
ゴム質重合体ラテックスの脱揮処理を行なわなかったこと以外は、実施例5と同様にして、グラフト共重合体(B−2)粉体を得た。
【0053】
〔実施例6〜10、比較例3及び4〕
表2に示す、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物について、上記のヘイズ、実用強度の評価に関する項において説明した方法に基づき、試験片を作製し評価した。得られた結果を表2に示した。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示したように、実施例のグラフト共重合体粉体は、比較例のグラフト共重合体粉体に対して、粉体が含有する揮発成分の量(相対比較としての、GC−MSの分析による最大ピークの強度)が低減され、粉体の臭気にも改善が認められた。また、循環式噴霧乾燥機の循環ガスに含有される揮発成分の濃度も低減された。
【0056】
【表2】

【0057】
表2に示したように、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物とした場合には、実施例の樹脂組成物から得られた成形体は、比較例の樹脂組成物から得られた成形体に対して、ヘイズと実用強度合格比率のバランスが良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化重合により得られるゴム質重合体ラテックスを脱揮処理し、脱揮処理後のゴム質重合体ラテックスの存在下で、ビニル単量体をグラフト重合して得られるグラフト共重合体ラテックスを、
循環式噴霧乾燥機を用いて粉体として回収する、グラフト共重合体粉体の製造方法。
【請求項2】
循環式噴霧乾燥機の循環ガスに含有される揮発成分の濃度が350ppm以下である、請求項1記載のグラフト共重合体粉体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の製造方法で得られるグラフト共重合体粉体。
【請求項4】
請求項3記載のグラフト共重合体粉体、及びポリ塩化ビニル系樹脂を含有する、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−297339(P2008−297339A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141751(P2007−141751)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】