説明

グリコシルトランスフェラーゼの核酸を発現する細胞を含有するバイオリアクター

本発明者等は、グリコシルトランスフェラーゼの核酸及びタンパク質、上記グリコシルトランスフェラーゼを発現するトランスジェニック細胞、並びに該トランスジェニック細胞を含むバイオリアクターについて記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明者等は、グリコシルトランスフェラーゼの核酸及びタンパク質、上記グリコシルトランスフェラーゼを発現するトランスジェニック細胞、並びに該トランスジェニック細胞を含むバイオリアクターについて記載する。
【背景技術】
【0002】
グリコシルトランスフェラーゼ(GTase)は、グリコシル残基を活性化ヌクレオチド糖から、他の糖質、タンパク質、脂質及び他の有機基質等の単分子受容体及び高分子受容体へ翻訳後に転移させる酵素である。これらのグルコシル化分子は、多様な代謝経路及び代謝プロセスに関与する。グルコシル部分の転移により、細胞内及び植物の至る所で、受容体の生物活性、溶解性及び輸送特性が変わり得る。高等植物におけるGTaseのうち、1ファミリーは、C末端コンセンサス配列が存在するのが特徴である。このファミリーのGTaseは、植物細胞の細胞基質で働き、フェニルプロパノイド誘導体類、クマリン類、フラボノイド類、他の二次代謝産物及び植物ホルモン類として作用する既知の分子等の低分子量基質への、グルコースの転移を触媒する。入手可能な証拠から、インドール−3−酢酸(IAA)をグルコシル化するトウモロコシ(maize)及びアラビドプシス(シロイヌナズナ:Arabidopsis)GTase等、GTase酵素は高特異的であり得ることが示唆される。本発明者等はまた、アブシジン酸を修飾するGTaseの1ファミリーを同定している(国際公開第03/023035号パンフレットを参照されたい)。
【0003】
グリコシルトランスフェラーゼのさらなる例は、本願に記載される。
【0004】
サイトカイニン類は、アデニンに類似した構造を有する植物ホルモン類であり、細胞分裂の刺激を包含する各種機能を有する。サイトカイニン類は、ほとんどの高等植物で及びセン類、真菌類、細菌類で、並びに多くの真核生物及び原核生物の転移RNAで見い出される。200を上回る種々のサイトカイニン化合物があり、分裂組織領域及び継続的成長部位、例えば根、若葉、発育果実(developing fruit)及び発育種子中に高濃度で見い出される。植物源から単離された最初のサイトカイニンは、ゼアチンと称された。細胞分裂を刺激するのに加え、サイトカイニン類は、細胞成長させることにより、組織培養、側芽の成長及び葉の伸長における形態形成をも刺激する。いくつかの種では、サイトカイニン類は、気孔開口の促進に関与し、クロロフィル合成を刺激することによりエチオプラストのクロロプラストへの変換を促進する。サイトカイニン類がグルコシル化により修飾され得ることは、既知である。
【0005】
GTaseはまた、抗酸化物の改変に関して実用性がある。活性酸素種は、呼吸している間、全ての好気性生物で生産され、通常は生化学的抗酸化物と共に平衡状態で細胞中に存在する。汚染因子、オキシダント、毒物、重金属等による環境問題は、細胞の酸化還元の平衡をかき乱す活性酸素種が過剰となり、場合によっては広範囲にわたる病的状態を引き起こし得る。動物及びヒトでは、循環器病、癌、炎症性及び変性疾患は、酸化的損傷から起こる事象に関連される。これら疾患の現在の罹患率から、抗酸化物はかなりの関心が持たれ、食事で摂取されるか、又はUV遮断剤等で局所的に塗布される。
【0006】
野菜及び果物、茶、ハーブ類及び薬草から得られる抗酸化微量栄養素成分は、酸化的ストレスから引き起こされる健康問題に対して、有効な予防を提供するものと考えられる。植物組織からの既知の抗酸化物としては、例えばケルセチン、ルテオリン、並びにカテキン、エピカテキン及びシアニジン化合物群が挙げられる。コーヒー酸(3,4−ヒドロキシ桂皮酸)は、効果的な治療特性を有する抗酸化物のさらなる一例である。ある特定の植物種、器官及び組織は、抗酸化活性を有する1種類以上の化合物の比較的高い濃度を有することが知られている。それらの種における、これらの化合物のより多くの蓄積、食物及び飲料の生産で既に使用されている作物及び植物の一部における化合物のより広範囲の分布、並びに抗酸化物の向上した生体利用効率(吸収率、代謝変換率及び排泄率)は、極めて望まれる3つの考えられる特徴である。
【0007】
バイオリアクター(例えば、発酵槽)は、細胞又は酵素を含む槽であり、通常は工業規模で分子の生産に使用される。上記分子は、上記槽に含有される細胞によって、又は反応槽中で完了した酸素反応を介して生成される、組み換えタンパク質(例えば、プロテアーゼ類、リパーゼ類、アミラーゼ類、ヌクレアーゼ類、抗体等の酵素)又は化合物であり得る。典型的には、細胞に基づいたバイオリアクターは、目的の細胞を含み、且つ反応を行うのに必要な栄養素成分及び/又は補因子の全てを包含する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、立体特異的方法で化合物(例えば、サイトカイニン類、ケルセチン)を修飾するGTase(すなわち、高度に特異的に、有するサイトカイニン類又はケルセチンを標識できるGTaseファミリー)を本願に開示する。さらに、本発明者等は、グルコシル部分をこれらの化合物に付加するのに、これらのグリコシルトランスフェラーゼを利用する、in vitroでの細胞に基づいたバイオリアクターについても開示する。
【0009】
本発明者等は、驚くべきことに、バイオリアクターがUDP−グルコース(これらの酵素群に対する基質)の外生的供給を必要としないことを見い出す。これは、植物のGTaseにおいて一般的な原理であり、植物のGTaseを用いて形質転換されたトランスジェニック細胞を含む任意の細胞に基づいたバイオリアクターに適用することができるということを、本発明者等は明らかにする。本発明者等の同時係属中の出願国際公開第01/59140号パンフレット、国際公開第02/103022号パンフレット、国際公開第03/023035号パンフレットにおいて、本発明者等は、一連の小分子に対する基質特異性を有するGTase配列を開示し、これらの配列はバイオリアクターの実施の形態(embodiment)に関する最新の出願を具体的に参照して本明細書の一部とする。
【0010】
本発明の一態様によれば、植物のグリコシルトランスフェラーゼをコードする核酸分子を用いて形質移入又は形質転換することにより遺伝的に改変された細胞を含む反応槽であって、該反応槽は上記細胞の増殖を維持する栄養培地を包含し、該栄養培地がUDP−グルコースの外生的供給を包含しないことを特徴とする、反応槽が提供される。
【0011】
本発明の一態様によれば、遺伝的に改変された細胞を含む反応槽であって、
i)図1a、図2a、図3a、図4a、図4b、図5a、図5b、図6a、図6b、図7a、図7b、図8a、図8b、図9a、図9b、図10a、図10b、図11a、図12a及び図12bに表されるような核酸配列を含む核酸分子、
ii)上記(i)に表される核酸配列に対してハイブリダイズし、且つグリコシルトランスフェラーゼの活性を有するポリペプチドをコードする核酸分子、及び
iii)上記(i)及び(ii)で規定された核酸配列に対する遺伝子コードから、縮重する核酸配列を含む核酸分子
から成る群から選択される核酸分子を用いて、形質移入又は形質転換により改変される上記細胞、及び上記グリコシルトランスフェラーゼに対する基質である、少なくとも1つの外生的基質を包含し、上記細胞の増殖を維持する栄養培地を含み、
該栄養培地が、UDP−グルコースの外生的供給を包含しないことを特徴とする、反応槽が提供される。
【0012】
本発明の好ましい一実施形態において、上記反応槽がバイオリアクターである。
【0013】
さらに本発明の好ましい一実施形態において、上記栄養培地がUDP−グルコースの外生的供給を包含しない。
【0014】
さらに本発明の好ましい一実施形態において、上記核酸分子が、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、図1a、図2a、図3a、図4a、図4b、図5a、図5b、図6a、図6b、図7a、図7b、図8a、図8b、図9a、図9b、図10a、図10b、図11a、図12a及び図12bに提示される核酸配列に対してハイブリダイズする。
【0015】
厳密なハイブリダイゼーション/洗浄条件は、当該技術分野で既知のことである。例えば、0.1×SSC、0.1%のSDS中で60℃で洗浄した後、核酸ハイブリッドは安定する。核酸の配列が既知であれば、最適なハイブリダイゼーション条件が算出され得ることは、当該技術分野で既知のことである。例えば、ハイブリダイゼーション条件は、ハイブリダイゼーションを受ける核酸のGC含量により決定され得る。サムブルーク他(Sambrook et al.)著、(1989年)「分子クローニング(Molecular Cloning);実験入門(A Laboratory Approach)」を参照されたい。特異的相同性を有する核酸分子間のハイブリダイゼーションを達成するのに必要とされる厳密な条件を算出する一般式は以下の通りである。
【0016】
=81.5℃+16.6Log[Na]+0.41[%G+C]−0.63(%ホルムアミド)
【0017】
典型的には、ハイブリダイゼーション条件は、4×SSPE〜6×SSPE(20×SSPEは、1リットルに溶解された175.3gのNaCl、88.2gのNaHPO・HO及び7.4gのEDTAを含有し、pHは7.4に調整されている)、5×デンハート溶液〜10×デンハート溶液(50×デンハート溶液は、5gのフィコール(400型、ファルマシア社)、5gのポリビニルピロリドン及び5gのウシ血清アルブミンを含有する)、100μg〜1.0mg/mlの超音波で破砕されたサケ/ニシンDNA、0.1〜1.0%のドデシル硫酸ナトリウム、任意に40〜60%の脱イオンホルムアミドを使用する。ハイブリダイゼーション温度は、標的核酸配列のGC含量に依存して変わるが、通常は42℃〜65℃である。
【0018】
さらに本発明の好ましい一実施形態において、上記細胞が、上記核酸分子を含むベクターを用いて形質移入又は形質転換される。
【0019】
さらに好ましい本発明の1つの方法において、上記ベクターが、真核細胞又は原核細胞の遺伝子発現に従来適合している発現ベクターである。
【0020】
典型的には、上記適合は、限定する意図はなく例として、細胞特異的発現を仲介する転写制御配列(プロモータ配列)の提供を包含する。これらのプロモータ配列は、細胞特異的であり得、誘導的又は構成的であり得る。
【0021】
プロモータとは当該技術分野で認識されている用語であり、明快にするために、限定する意図はなく例としてのみ提供される以下の特徴を包含する。エンハンサー要素は、遺伝子の転写開始部位で5’側によく見られるシス作用性核酸配列である(エンハンサーはまた、遺伝子配列の3’側にも見られ得、又はイントロン配列内に位置することさえあるため、位置に依存しない)。エンハンサーは、エンハンサーが結合する遺伝子の転写の速度を増大するように機能する。エンハンサー活性は、エンハンサー要素への特異的な結合が見られるトランス作用性転写因子に応答する。転写因子(「真核生物の転写因子(Eukaryotic Transcription Factors)」、デイビッド・エス・ラックマン(David S Latchman)著、Academic Press Ltd(サンディエゴ所在)を参照されたい)の結合/活性は、限定する意図はなく例として、中間代謝産物(例えば、糖質)、環境エフェクター(例えば、光、熱)を含む多くの環境信号に応答する。
【0022】
また、プロモータ要素は、転写開始の部位を選択するように機能する、いわゆるTATAボックス及びRNAポリメラーゼ開始選択(RIS)配列を包含する。また、これらの配列は、とりわけRNAポリメラーゼによる転写開始選択を促進するように機能するポリペプチド類を結合する。
【0023】
適合はまた、真核細胞又は原核ホストのどちらかにおいて、選択可能なマーカー及び自律複製配列(これら両方が上記ベクターの維持を促進する)の提供を包含する。自律的に維持されるベクターは、エピソームベクターと称される。これらの分子が巨大DNAフラグメント(30〜50kbのDNA)を組み込むことができるため、エピソームベクターが望ましい。この種のエピソームベクターは、国際公開第98/07876号パンフレットに記載される。
【0024】
ベクターにコードされた遺伝子の発現を促進する適合は、転写終結/ポリアデニル化配列の提供を包含する。適合はまた、バイシストロン性発現カセット又は多シストロン性(multi-cistronic)発現カセットに配列されたベクターにコードされた遺伝子の発現を最大にするように機能する、内部リボソーム侵入部位(IRES)の提供を包含する。
【0025】
また、発現制御配列は、いわゆる遺伝子座調節領域(LCR)を包含する。これは、マウスにおけるトランスジェニック構築物として分析される場合に、結合遺伝子に対する位置非依存的、コピー数依存的発現を与える調節要素である。LCRは、隣接するヘテロクロマチンのサイレンシング効果から導入遺伝子を遮蔽(insulate)する調節要素を包含する(グロスベルド他(Grosveld et al.)、Cell (1987年)、第51巻:975〜985ページ)。
【0026】
これらの適合は、当該技術分野に既知である。概して、発現ベクター構築技法及び組み換えDNA技法に関して、かなりの量の文献が公開されている。サムブルーク他(Sambrook et al.)著、(1989年)「分子クローニング(Molecular Cloning);実験入門書(A Laboratory Approach)」、Cold Spring Harbour Laboratory、 Cold Spring Harbour(ニーヨーク所在)及びその中の参考文献であるマースト・エフ(Marson F)著、「DNAクローニング技法(DNA Cloning Techniques):実践的なアプローチ(A Practical Approach)」、第3巻、IRL Press(オックスフォード、イギリス);「DNAクローニング(DNA Cloning)」、エフ・エム・アウスベル他(F M Ausubel et al.)著、「分子生物における最新プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ社(John Wiley & Sons)、INC.(1994年)を参照されたい。
【0027】
本発明の好ましい一実施形態において、上記細胞が、図1b、図2b、図3b、図4c、図5c、図6c、図7c、図8c、図9c、図10c、図11b若しくは図12cに表されるアミノ酸配列により表されるようなポリペプチド、又は少なくとも1つのアミノ酸残基の付加、欠失若しくは置換により改変された変異ポリペプチドをコードする、核酸分子を用いて形質移入又は形質転換される。
【0028】
変異ポリペプチドにおいて、任意の組み合わせで存在し得る1つ以上の置換、付加、欠失、切断(truncation)によりアミノ酸配列が異なり得る。好ましい変異体の中には、同類アミノ酸置換による参照ポリペプチドとは異なるものがある。このような置換は、同様の特性を有する別のアミノ酸により所定のアミノ酸を置換するものである。以下に、非限定的な同類置換(類似)であると考えられるアミノ酸を羅列する:a)アラニン、セリン及びスレオニン;b)グルタミン酸及びアスパラギン酸;c)アスパラギン及びグルタミン;d)アルギニン及びリシン;e)イソロイシン、ロイシン、メチオニン及びバリン;及びf)フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファン。参照ポリペプチドと同じ生物学的機能及び活性を保有するか、又は促進する、参照ポリペプチドとは異なる変異体(例えばグリコシルトランスフェラーゼの活性を高めたポリペプチド)が極めて好ましい。機能的に等価なポリペプチドは、1つ以上のアミノ酸残基が同類若しくは非同類アミノ酸残基で置換されたような、又は1つ以上のアミノ酸残基が1つの置換基を含むような変異体である。同類置換とは、1つを別のもので、脂肪族アミノ酸(Ala、Val、Leu及びIle)間での置換、ヒドロキシル残基(Ser及びThr)の相互置換、酸性残基(Asp及びGlu)の交換、アミド残基(Asn及びGln)間の置換、塩基性残基(Lys及びArg)の交換、並びに芳香族残基(Phe及びTyr)間の置換である。
【0029】
さらに、本発明は、本明細書中に開示されるようなポリペプチド配列、又はフラグメント及びその機能的に等価なポリペプチド類に対して、少なくとも75%の同一性を有するポリペプチド配列を特徴とする。一実施の形態において、ポリペプチド類は、本明細書中に示されるアミノ酸配列に対して、少なくとも85%の同一性、より好ましくは少なくとも90%の同一性、さらにより好ましくは少なくとも95%の同一性、なおさらより好ましくは少なくとも97%の同一性、最も好ましくは少なくとも99%の同一性を有し、且つポリペプチド類は増強したグリコシルトランスフェラーゼの活性を保有するか、又は有する。
【0030】
本発明のさらなる態様によれば、核酸分子を用いて、形質移入又は形質転換されるトランスジェニック細胞であって、該トランスジェニック細胞は、
i)図1a、図2a、図3a、図4a、図4b、図5a、図5b、図6a、図6b、図7a、図7b、図8a又は図8bに表されるような核酸配列から成る核酸分子、
ii)上記(i)の核酸分子に対してハイブリダイズし、且つ抗酸化物をグルコシル化するグリコシルトランスフェラーゼの活性を有する核酸分子、及び
iii)上記(i)及び(ii)に規定された核酸配列に対する遺伝子コードから、縮重する核酸配列から成る核酸分子
から成る群から選択される核酸配列を含む核酸分子を用いて、形質移入又は形質転換される、トランスジェニック細胞が提供される。
【0031】
本発明の好ましい一実施形態において、上記核酸分子が、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、図1a、図2a、図3a、図4a、図4b、図5a、図5b、図6a、図6b、図7a、図7b、図8a又は図8bに提示される核酸配列に対してハイブリダイズする。
【0032】
本発明のさらに好ましい一実施形態において、上記抗酸化物がケルセチンである。
【0033】
本発明の代替的な好ましい一実施形態において、上記抗酸化物がエスクレチンである。
【0034】
本発明のまたさらなる一態様によれば、
i)図1a、図2a、図3a、図4a、図4b、図5a、図5b、図6a、図6b、図7a、図7b、図8a又は図8bに表されるような核酸配列から成る核酸分子、
ii)上記(i)の核酸分子に対してハイブリダイズし、且つ抗酸化物をグルコシル化するグリコシルトランスフェラーゼの活性を有する核酸分子、及び
iii)上記(i)及び(ii)に規定された核酸配列に対する遺伝子コードから、縮重する核酸配列から成る核酸分子
から成る群から選択される核酸分子を含むベクターが提供される。
【0035】
本発明のさらなる一態様によれば、核酸分子を用いて、形質移入又は形質転換されるトランスジェニック細胞であって、該トランスジェニック細胞は、
i)図9a、図9b、図10a、図10b、図11a、図12a及び図12bに表されるような核酸配列から成る核酸分子、
ii)上記(i)の核酸分子に対してハイブリダイズし、且つサイトカイニンをグルコシル化するグリコシルトランスフェラーゼの活性を有する核酸分子、及び
iii)上記(i)及び(ii)に規定された核酸配列に対する遺伝子コードから、縮重する核酸配列から成る核酸分子
から成る群から選択される核酸配列を含む核酸分子を用いて、形質移入又は形質転換される、トランスジェニック細胞が提供される。
【0036】
本発明の好ましい一実施形態において、上記核酸分子が、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、図9a、図9b、図10a,図10b、図11a、図12a及び図12bに表される配列に対してハイブリダイズする。
【0037】
本発明の好ましい一実施形態において、上記サイトカイニンが、トランス−ゼアチン、ジヒドロゼアチン、N6−イソペンテニルアデニン、N6−ベンジルアデニン及びカイネチンから成る群から選択される。
【0038】
本発明のまたさらなる一態様によれば、
i)図9a、図9b、図10a、図10b、図11a、図12a及び図12bに表されるような核酸配列から成る核酸分子、
ii)上記(i)の核酸分子に対してハイブリダイズし、且つサイトカイニンをグルコシル化するグリコシルトランスフェラーゼの活性を有する核酸分子、及び
iii)上記(i)及び(ii)に規定された核酸配列に対する遺伝子コードから、縮重する核酸配列から成る核酸分子
から成る群から選択される核酸分子を含むベクターが提供される。
【0039】
本発明の好ましい一実施形態において、上記細胞が、真核細胞である。上記細胞が、酵母細胞、昆虫細胞、哺乳類細胞又は植物細胞から成る群から選択されることが好ましい。
【0040】
本発明の好ましい一実施形態において、上記細胞が植物細胞である。
【0041】
本発明の好ましい一実施形態において、上記植物細胞は、トウモロコシ(Zea mays)、カノーラ(Brassica napus、Brassica rapa ssp.)、アルファルファ(Medicago Sativa)、コメ(Oryza sativa)、ライムギ(Secale cereale)、ソルガム(Sorghum bicolor、Sorghum vulgare)、ヒマワリ(Heliabthus annuas)、コムギ(Tritium aestivum)、ダイズ(Glycine max)、タバコ(Nicotiana tabacum)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)、ラッカセイ(Arachis hypogaea)、ワタ(Gossypium hirsutum)、サツマイモ(Iopmoea batatus)、カッサバ(Manihot esculenta)、コーヒー(Coffea spp.)、ココナッツ(Cocos nucifera)、パイナップル(Anana comosus)、カンキツ樹(Citris tree)(Citrus spp.)、カカオ(Theobroma cacao)、チャ(Camellia sinensis)、バナナ(Musa spp.)、アボカド(Persea americana)、イチジク(Ficus carica)、グアバ(Psidium guajava)、マンゴー(Mangifer indica)、オリーブ(Olea europaea)、パパイヤ(Carica papaya)、カシューナッツ(Anacardium occidentale)、マカダミアナッツ(Macadamia integrifolia)、アーモンド(Prunus amygdalus)、テンサイ(Beta vulgaris)、オートムギ、オオムギ、野菜類及び観葉植物(ornamentals)から選択される。
【0042】
本発明の植物細胞は、作物細胞(例えば、穀草類及び食用豆類、トウモロコシ、コムギ、ジャガイモ類、タピオカ、コメ、ソルガム、キビ、カッサバ、オオムギ、エンドウ豆、並びに他の根、塊茎又は種子作物)であることが好ましい。重要な種子作物は、アブラナ、テンサイ、トウモロコシ、ヒマワリ、ダイズ及びソルガムである。本発明に適用し得る園芸植物としては、レタス、エンダイブ、並びにキャベツ、ブロッコリー及びカリフラワーを含むブラシカ属(Brassicas)の野菜、並びにカーネーション類及びゼラニウム類が挙げられる。本発明には、タバコ、ウリ科植物(cucurbits)、ニンジン、イチゴ、ヒマワリ、トマト、トウガラシ、キクが適用し得る。
【0043】
目的の種子を提供する穀類植物としては、油料種子植物及びマメ科植物が挙げられる。目的の種子としては、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、コメ、ソルガム、ライムギ等の穀類の種が挙げられる。油料種子植物としては、ワタ、ダイズ、サフラワー、ヒマワリ、アブラナ属植物、トウモロコシ、アルファルファ、パーム、ココナッツ等が挙げられる。マメ科植物としては、豆類及びエンドウ類が挙げられる。豆類としては、グァー、イナゴマメ、コロハ、ダイズ、インゲンマメ、ササゲ、マングビーン、リママメ、ソラマメ、レンティル類、ヒヨコマメが挙げられる。
【0044】
本発明の好ましい一実施形態において、上記細胞が原核細胞である。
【0045】
本発明のさらに好ましい一態様によれば、本発明に記載の細胞を含む種子が提供される。
【0046】
本発明のさらなる一態様によれば、抗酸化物をグルコシル化する方法であって、本発明に記載の細胞、及び本発明に記載の反応槽中で上記細胞の増殖を維持する栄養培地、並びに上記細胞の培養に関連する増殖条件の提供を含む、方法が提供される。
【0047】
本発明の好ましい1つの方法において、上記栄養培地が、UDP−グルコースの外生的供給を含まない。
【0048】
本発明のさらに好ましい1つの方法において、上記抗酸化物が、ケルセチン又はエスクレチンである。
【0049】
本発明のさらなる一態様によれば、サイトカイニンをグルコシル化する方法であって、本発明に記載の細胞、及び本発明による反応槽中で上記細胞の増殖を維持する栄養培地、並びに上記細胞の培養に関連する増殖条件の提供を含む、方法が提供される。
【0050】
本発明の好ましい1つの方法において、上記培地がUDP−グルコースを含まない。
【0051】
本発明のさらに好ましい1つの方法において、上記サイトカイニンが、トランス−ゼアチン、ジヒドロゼアチン、N6−イソペンテニルアデニン、N6−ベンジルアデニン及びカイネチンから成る群から選択される。
【0052】
次に、以下の図面を参照にして、本発明の一実施形態について、例によってのみ記載する。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に、ケルセチンの修飾に関するGTaseの位置選択性(部位修飾特異性)が記載される。GTaseは、本願又は国際公開第01/59140号パンフレットに記載された配列のいずれかであり、これらは参照されて本明細書の一部とする。表2には、ケルセチン及びそのグルコシド類のNMRスペクトルデータを補足的に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
表3は、各種GTase核酸を用いて形質転換された細菌によるケルセチンの修飾をまとめたものである。ケルセチン−7,3’−ジ−O−グルコシド及びケルセチン−3’,7−ジ−O−グルコシドのNMRスペクトルデータを補足的に表4に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
【表5】

【0060】
ケルセチンの全細胞生体触媒におけるグルコースの効果を示す。
【0061】
材料及び方法
発酵槽システムにおける全細胞バイオリアクターアッセイ
UGT全細胞生体触媒の大規模な分析に、6L容のガラス製の加圧滅菌が可能な発酵槽システム(アプリコン・バイオテクノロジー社(Applikon Biotechnology Ltd.)製)を用いた。UGTを発現しているE.coliBL21の一晩培養物(40ml)を、事前に30℃でpH7.4に平衡化させた2LのLB培地を含有する発酵槽システムへ移した。溶存O濃度は、1時間は95%に維持されたが、残りのプロセスでは60%に減少された。培養物の吸光度が0.2に達したら、温度を20℃に下げた。細菌培養物の吸光度が0.6に達した後、0.1mMのイソプロプル−1−チオ−β−−ガラクトピラノシド及び2gのケルセチンを添加した。サンプルを周期的に採取し、菌体を遠心分離により除去した。得られた上清画分(培養液)をHPLCにて分析した。
【0062】
個々のUGT全細胞生体触媒に関する最適条件
生体触媒の効率に影響し得る多様な条件がある。これらには、発酵槽の温度、培養液中の溶解酸素濃度及びpH、加えられる基質の濃度、並びに基質の調製に使用される溶媒が挙げられる。
【0063】
UGT全細胞生体触媒を用いて試験された基質
1.ケルセチン
2.エスクレチン
3.トランス−ゼアチン
4.ジヒドロゼアチン
5.N6−イソペンテニルアデニン(iP)
6.N6−ベンジルアデニン
7.カイネチン
【0064】
ケルセチンとのUGT酵素反応
アッセイ混合物(200μl)に、2μgの組み換えタンパク質、100mMのTris−HCl(pH7.0)、5mMのUDP−グルコース、1.4mMの2−メルカプトエタノール及び0.5mMのケルセチンを含有させた。30℃で1時間反応させ、急速冷凍し、−20℃で保存後、逆相HPLC分析にかけた。
【0065】
サイトカイニンとのUGT酵素反応
アッセイ混合物(200μl)は、2μgの組み換えタンパク質、100mMのTris−HCl(pH8.0)、5mMのUDP−グルコース、0.5mMのATP、50mMのMgCl及び0.5mMのサイトカイニンを含有した。30℃で3時間反応させ、急速冷凍し、−20℃で保存後、逆相HPLC分析にかけた。
【0066】
反応ミックスのHPLC分析
Columbus5μC18カラム(250×4.60mm、フェノメネックス社(Phenomenex)製)を用いて、逆相HPLC(Spectra SYSTEM HPLCシステム及びUV6000LPフォトダイオード・アレイ検出器、サーモクエスト社(Thermo Quest)製)分析を行った。HO中10〜75%のアセトニトリル(全ての溶液は、0.1%のトリフルオロ酢酸を含有した)の直線勾配により、20分かけて1ml/分で、ケルセチングルコシド類をアグリコンから分離し、370nmで調べた。HO中10〜100%のメタノール(N6−イソペンテニルアデニン(iP)、N6−ベンジルアデニン及びカイネチンにおいて)又はHO中10〜60%のメタノール(トランス−ゼアチン及びジヒドロゼアチンにおいて)の直線勾配により、20分かけて1ml/分で、サイトカイニングルコシド類をそれらのアグリコンから分離した。全ての溶液は、0.25%の酢酸、0.04%のトリエチルアミン及びトリフルオロ酢酸を含有した。206nm及び252nmで分離を調べた。生成物の同定は、基準グルコシド類と比較して確認された。
【0067】
UGTにより形成されたサイトカイニン生成物
1.7−N−グルコシド(76C1、76C2)
2.9−N−グルコシド(76C1、76C2)
3.O−グルコシド(トランス−ゼアチン及びジヒドロゼアチンにのみ適用する)(トランス−ゼアチンに関しては85A1;ジヒドロゼアチンに関しては85A1及び73C5)
【0068】
大規模発酵
発酵を7リットル容の発酵槽(アプリコン・バイオコンソールADI1025(Applicon Biotconsole ADI1025))で行った。処理を3日連続して行った。以下のパラメータ、すなわち温度、pH、O飽和度の割合を連続的に観察し、制御した。系(system)の平衡化後、LB成長培地に15mlのスタータ・カルチャーを播種した。IPTGで細胞が誘導される時に、基質を添加する。等間隔で一定分量を抜き取り、グリコシドの生成物をHPLC分析で調べた。
【0069】
誘導後、容器を約20時間空にし、培養物をSorval Evolution RC、SLC6000ロータ内で遠沈させた。上清を凍結させた後、凍結乾燥した。
【0070】
凍結乾燥した材料を、水で再溶解し、水に飽和したブタノール中に繰り返し抽出した。有機相を集め、溶媒をBuchi R−114 rotavaporで蒸発させた。
【0071】
抽出物を50%のメタノールに溶解後、分離用HPLCにて分離した。
カラム:Phenomenex Luna 5μ C18(2)、逆相250×10分;容積およそ19.6ml
使用システム:TFにおけるAKTA FPLCシステム(アマシャム・ファルマシア・バイオテク(株)社製)
【0072】
50%のメタノール中に溶解した抽出物を、さらに10%のアセトニトリル及び0.1%のトリフルオロ酢酸(TFA)で希釈し、最終濃度がおよそ5%のメタノールとなるようにした。15%、35%及び50%のアセトニトリル及び0.1%のTFAで、定組成工程溶離において、カラムから化合物を溶離した。ピーク画分を回収し、HPLC、LC−MS及びH NMRにてアッセイした。
【0073】
(実施例1)
植物UGTによるin vitroでのケルセチングルコシド類の合成
ケルセチンに対するアラビドプシス組み換えUGTの活性を、以前に開発されたプラットフォームを用いて求めた15。これらのデータセットにおいて、合計で4つの主要なモノグルコシド類しか見られず、逆相HPLCを用いたそれらの分離を、図13Bに示す。これらの生成物の構造は、H NMRを用いて分析され、それらのスペクトルを公表されているデータと比較した17。生成物は、ケラチンの3−O−、7−O−、3’−O−、及び4’−O−モノグルコシドとして確認された(表2を参照)。C5−OHに対する有意な活性は、分析された組み換え酵素のいずれにも認められなかった。分析された91個の組み換えUGTのうち、29個の酵素がケルセチンに対する有意な触媒活性を呈し、その詳細を表1に示す。表を要約すると、基質をグルコシル化するさらなる選択性があった。14個の酵素が、ケルセチン上で一箇所の部位だけ認識し、そのうち12個はC3−OHをグルコシル化し、2個のUGTがC7−OHをグルコシル化した。15個の酵素が、2箇所以上の部位をグルコシル化し、そのうち11個は2箇所の部位のみ認識し、3個は3箇所の部位を認識することがわかった。1個のUGTは4箇所の部位全てをグルコシル化できることがわかった。
【0074】
いくつかのUGTがケルセチン上で複数の部位を認識することを考えると、反応条件が適切である場合、モノグルコシド類のみが生成されるか、又は同じ分子上で複数のヒドロキシル基がグルコシル化されるかどうかを決定することが重要であった。4個のUGT(UGT71C1、UGT74F1、UGT76E12及びUGT89B1)を用いて、この可能性を調べた。要約するに、ジ−O−グルコシド形成は見られたものの、基質は低濃度においてのみであった。面白いことに、可能性のある4つのジ−O−グルコシド及び1つのトリ−O−グルコシドのうち、たった2つの生成物が見い出され、それらは3,7−ジ−O−グルコシド及び7,3’−ジ−O−グルコシドであった(図13Cを参照)。7,3’−ジ−O−グルコシドはH NMRにて確認され、一方3,7−ジ−O−グルコシドは、H NMR及びLC−MSにて確認された(表4及び補足図14を参照)。これらのデータから、UGT触媒作用の生成物は、異なる反応条件下で変わることが示唆される。このことから、さまざまな異なるグルコシド化合物を合成する潜在的(potential)手段が提供される。
【0075】
生体触媒システムを構築するさらなる基盤として、時間のパラメータが、かなりの量のジ−O−グルコシド類を生成した2個のUGT(UGT71C1及びUGT76E12)に対して異なった。UGT71C1は、アグリコンを、モノグルコシドに速やかに変換し、そのモノグルコシドをその後さらに消費してジ−O−グルコシドを生成する。UGT76E12反応ミックスでは、アグリコン量は使い果たされるものの、モノグルコシドは長時間一定濃度のまま残り続けた。これらのデータから、反応特性は使用されるUGTに依存することが示唆される。
【0076】
(実施例2)
全細胞生体触媒としての植物UGT
先行の実施例で構築された基盤を用いて、本発明者等は、ケルセチンのグルコシドを合成する、全細胞生体触媒としての植物UGTを発現しているE.coliの潜在能力を調べた。まず第1に、本発明者等は、75mlの標準培養液で増殖されたE.Coliを用いた。UGT71C1を用いて形質転換された細胞を用いた実験予備セットの結果を、図14に示す。面白いことに、48時間の経時変化を通じて、大量のアグリコン及びグルコシド類が培養液中で回収され(図14A)、6時間以内におよそ50%のアグリコンがグルコシド類に変換された(図14B)。これらの研究から、いかなる補充UDP−グルコースが存在せずとも、標準培養液中の細胞は、十分量の添加された基質をグルコシル化することができたことが示された。表3に、7個の異なるUGTがE.coli中に発現され、且つ培養液中に回収された異なるグルコシド類の同定及び定量をHPLCにて分析した結果を記載する。in vivoでのグルコシル化の位置選択性のパターンは、in vitroでの各UGTにより発現されたものとかなり酷似したことを示唆した。細胞により合成された種々のグルコシド類の量はかなり異なり、これらの非最適化条件下にも関わらず、4つのモノグルコシド類及び2つのジ−O−グルコシド類が、それぞれ形成された。
【0077】
細胞が休止状態でグルコシドを作ることができるかどうかを判断するのに、E.coli細胞をリン酸緩衝液に移し、グルコースの存在下又は非存在下で培養した。結果を表5に示す。エネルギー源のない状態では、グルコシドへのごく僅かなケルセチンの変換が認められた。アグリコンが細胞ペレットから大量に回収されたことから、培養液からの取り込みが起こったことを示した。グルコースが存在する状態では、高濃度の化合物が培養液中に回収され、そのうち、大部分はケルセチンのグルコシドから成った。
【0078】
添加されたUDP−グルコースの非存在下で、グルコシドの大規模製造に関する全細胞生体触媒の潜在能力を調べるため、形質移入された細菌性細胞を発酵槽中で培養した。この工程において、条件を生成サイクルを通じて厳密に制御し、且つ単純培養フラスコ及び最適化発酵槽システム内での全細胞UGT生体触媒作用による転移効率の直接的な比較がなされるようにした。予備実験(表2)で、24時間のインキュベーション後に8.96μg/ml濃度で、単一生成物(3−O−グルコシド)の形成が見られたため、UGT73B3を分析用に選んだ。発酵槽システムを用いた20時間の培養で、3−O−グルコシドの収率は、99.3μg/ml、すなわち10倍高くなることがわかった。図15Aに、これらのデータを示す。また、その図から、時間0(時間)において、グルコシドは、水溶性アグリコンよりもはるかに高い最終濃度であったことを示す。ケルセチンは、使用される緩衝条件下において、比較的不溶性であるため、上清を分析する前に、遠心分離工程で沈殿物として回収された。反応の進行に伴い、グルコシル化されたケルセチン量が増加することが、データから示唆される。
【0079】
1過程抽出法により、水に飽和したブタノールで、UGT73B3全細胞生体触媒により生成されたグルコシドを培養液から容易に精製することができる。図15Bに示されるように、ケルセチン−3−O−グルコシドを、有機相に完全に回収し、水相中に大量の不純物を残した。
【0080】
この研究は、天然産物を位置選択的にグルコシル化する際に、in vitro及びin vivoにおける生体触媒としての植物のグルコシルトランスフェラーゼの利用性について例示する。in vivoで、E.Coli内で酵素を使用すると、効率的な基質の転移(convert)を達成するのに、UDP−グルコースを培養液に補う必要がないことがわかった。したがって、形質転換された細胞は、全細胞及び安価な生体触媒システムとして使用することができ、特に生体内変換による生成物が培養液から回収され得る。グルコースが結合する潜在的部位としての5つのヒドロキシル基での、ケルセチンのグルコシル化が複雑であるため、本発明者等は、この研究にモデル医薬化合物としてケルセチンを使用した。ケルセチンに対する活性を得るのに、91個の植物UGTをin vitroでスクリーニングした結果、1箇所又はそれ以上の部位のいずれかで、基質をグルコシル化したのは29個であった。UGTにより認識されなかった唯一の部位は、C5−OHであった。反応の動態及び生成物の回収は、素早い細胞内グルコシル化が分泌を促進したことを示した。位置選択性UGTを用いた使用におけるE.coliの一般的な利用性は、培養液から基質を吸収し、より少ない程度に、生成物を分泌する細胞の能力に依存する。基質及び生成物両方の安定性もまた、達成には重要な因子である。
【0081】
(実施例3)
発酵
UGT73B3及び1.5gのケルセチンを、ケルセチン−3−O−グルコシド(Q−3−G)の生成に使用した。4リットルの発酵を行った後、粗上清のHPLC分析を行い、Q−3−Gの生成を確認した。ブタノール抽出、溶媒蒸発及び50%のメタノール中での抽出物の再懸濁を経て、Q−3−Gの精製を行った。
【0082】
水で2mlにした溶解抽出物のうち、およそ200μl量を用いて、最適条件を決定するのに多くの分離を行った。いくつかの異なる勾配、並びに一連の溶離工程を調べた。以下の溶媒システムは、経験的に(実験的に:empirically)到達された。50%のメタノール中の溶解抽出物を、さらに10%のアセトニトリル及び0.1%TFAに希釈し、最終濃度がおよそ5%のメタノールになるようにした。定組成工程溶離において、15%、35%及び50%のアセトニトリルで、化合物をカラムから溶離した。ピーク画分を回収した。
【0083】
半量(すなわち、2リットルの発酵物のうちの当量物)をブタノール中に抽出し、さらに上述のように精製した。ピーク画分を充填中の全流量と共に回収した。
【0084】
HPLC分析に基づいた計算値及び既知の市販の標準液(アピン(Apin))との比較から、純度及び収率は、95%を上回る(>95%)純度で55mgのケルセチン−3−O−グルコシドであることが見込まれた。
【0085】
Q−3−Gの同定及び純度をH NMR及びLC−MSにて確認した。
【0086】
(実施例4)
UGT84B1及び0.5gのケルセチンを、ケルセチン−7−O−グルコシド(Q−7−G)の生成に使用した。2リットルの発酵を行った後、粗上清のHPLC分析を行い、Q−7−Gが生成されたことを確認した。上述したQ−3−Gの時のように、ブタノール抽出、溶媒蒸発及び50%のメタノール中での抽出物の再懸濁を経て、Q−7−Gの精製を行った。ピーク画分を、充填中の全流量と共に回収した。
【0087】
HPLC分析に基づいた計算値及び既知の市販の標準液(アピン)との比較から、純度及び収率は、90%を上回る(>90%)純度で8mgのケルセチン−7−O−グルコシドであることが見込まれた。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1a】UGT71B8核酸配列を示す。
【図1b】UGT71B8アミノ酸配列を示す。
【図2a】UGT71C3核酸配列を示す。
【図2b】UGT71C3アミノ酸配列を示す。
【図3a】UGT71C4核酸配列を示す。
【図3b】UGT71C4アミノ酸配列を示す。
【図4a】UGT88A1ゲノム核酸配列を示す。
【図4b】UGT88A1cDNA配列を示す。
【図4c】UGT88A1アミノ酸配列を示す。
【図5a】UGT78D2ゲノム配列を示す。
【図5b】UGT78D2cDNA配列を示す。
【図5c】UGT78D2アミノ酸配列を示す。
【図6a】UGT78D3ゲノム配列を示す。
【図6b】UGT78D3cDNA配列を示す。
【図6c】UGT78D3アミノ酸配列を示す。
【図7a】UGT76D1ゲノム配列を示す。
【図7b】UGT76D1cDNA配列を示す。
【図7c】UGT76D1アミノ酸配列を示す。
【図8a】UGT76E2ゲノム配列を示す。
【図8b】UGT76E2cDNA配列を示す。
【図8c】UGT76E2アミノ酸配列を示す。
【図9a】UGT76C1ゲノム配列を示す。
【図9b】UGT76C1cDNA配列を示す。
【図9c】UGT76C1アミノ酸配列を示す。
【図10a】UGT76C2ゲノム配列を示す。
【図10b】UGT76C2cDNA配列を示す。
【図10c】UGT76C2アミノ酸配列を示す。
【図11a】UGT73C5ゲノム配列を示す。
【図11b】UGT73C5アミノ酸配列を示す。
【図12a】UGT85A1ゲノム配列を示す。
【図12b】UGT85A1cDNA配列を示す。
【図12c】UGT85A1アミノ酸配列を示す。
【図13A】ケルセチン及びそのモノグルコシド類。ケルセチンの化学構造を示す。
【図13B】ケルセチン及びそのモノグルコシド類。370nmの吸収波長を用いて、実験プロトコルに記載されるようなHPLCにより分離された、ケルセチン及びそのモノグルコシド類を示す。NMRを用いて確認されたモノグルコシド類の同定から、(1)はケルセチン−7−O−グルコシド、(2)はケルセチン−3−O−グルコシド、(3)はケルセチン−4’−O−グルコシド、(4)はケルセチン−3’−O−グルコシドである。(1)〜(3)は、組み換え酵素UGT89B1を用いて調製され、(4)は組み換え酵素UGT71C1を用いて調製された。
【図13C】ケルセチン及びそのモノグルコシド類。ケルセチンの複数のヒドロキシル基をグルコシル化し得る4UGTの詳細な分析を示す。
【図14A】UGT71C1を用いた全細胞生体触媒アッセイ。組み換え体を発現するE.coli細胞を、生体触媒アッセイに使用した。0.1mMのケルセチン及び0.1mMのIPTGを用いてインキュベーションした後、細胞を遠心分離で回収し、80%のメタノールで抽出し、細胞抽出物(ペレット)及び培養液(上清)の両方について、HPLCを用いて分析した。0〜48時間の経時変化を追ったアグリコン/グルコシドの併用量変化を示す。
【図14B】UGT71C1を用いた全細胞生体触媒アッセイ。組み換え体を発現するE.coli細胞を、生体触媒アッセイに使用した。0.1mMのケルセチン及び0.1mMのIPTGを用いてインキュベーションした後、細胞を遠心分離で回収し、80%のメタノールで抽出し、細胞抽出物(ペレット)及び培養液(上清)の両方について、HPLCを用いて分析した。同経時変化を追った培養液中の種々のグルコシド類及びアグリコンの濃度変化を示す。
【図15A】全細胞生体触媒としてUGT73B3を用いたケルセチン−3−O−グルコシドの発酵規模生産。0〜20時間の経時変化を追った培養液中のケルセチン−3−O−グルコシド及びアグリコンの濃度変化を示す。
【図15B】全細胞生体触媒としてUGT73B3を用いたケルセチン−3−O−グルコシドの発酵規模生産。20時間での培養液のHPLC分析:パネル1はさらなる抽出前;パネル2は水に飽和したブタノールを用いた抽出後の水相;パネル3は上記の抽出後の有機相を示す。分析には、234nmの吸収波長を用いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝的に改変された細胞を含む反応槽であって、
i)図1a、図2a、図3a、図4a、図4b、図5a、図5b、図6a、図6b、図7a、図7b、図8a、図8b、図9a、図9b、図10a、図10b、図11a、図12a及び図12bに表されるような核酸配列を含む核酸分子、
ii)前記(i)に表される核酸配列に対してハイブリダイズし、且つグリコシルトランスフェラーゼの活性を有するポリペプチドをコードする核酸分子、及び
iii)前記(i)及び(ii)で規定された核酸配列に対する遺伝子コードから、縮重する核酸配列を含む核酸分子
から成る群から選択される核酸分子を用いて、形質移入又は形質転換により改変される前記細胞、及び前記グリコシルトランスフェラーゼに対する基質である、少なくとも1つの外生的基質を含む、前記細胞の増殖を維持する栄養培地を包含し、
該栄養培地が、UDP−グルコースの外生的供給を包含しないことを特徴とする、反応槽。
【請求項2】
前記反応槽がバイオリアクターである、請求項1に記載の反応槽。
【請求項3】
前記反応槽が発酵槽である、請求項1又は2に記載の反応槽。
【請求項4】
前記核酸分子が、厳密なハイブリダイゼーション条件下で、図1a、図2a、図3a、図4a、図4b、図5a、図5b、図6a、図6b、図7a、図7b、図8a、図8b、図9a、図9b、図10a、図10b、図11a、図12a及び図12bに提示される核酸配列に対してハイブリダイズする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の反応槽。
【請求項5】
前記細胞が、前記核酸分子を含むベクターを用いて形質移入又は形質転換される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の反応槽。
【請求項6】
前記細胞が、図1b、図2b、図3b、図4c、図5c、図6c、図7c、図8c、図9c、図10c、図11b又は図12cに表されるアミノ酸配列により表されるようなポリペプチド、又は少なくとも1つのアミノ酸残基の付加、欠失又は置換により改変された変異ポリペプチドをコードする、核酸分子を用いて形質移入又は形質転換される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の反応槽。
【請求項7】
核酸分子を用いて、形質移入又は形質転換されるトランスジェニック細胞であって、該細胞は、
i)図1a、図2a、図3a、図4a、図4b、図5a、図5b、図6a、図6b、図7a、図7b、図8a又は図8bに表されるような核酸配列から成る核酸分子、
ii)前記(i)の核酸分子に対してハイブリダイズし、且つ抗酸化物をグルコシル化するグリコシルトランスフェラーゼの活性を有する核酸分子、及び
iii)前記(i)及び(ii)に規定された核酸配列に対する遺伝子コードから、縮重する核酸配列から成る核酸分子
から成る群から選択される核酸配列を含む核酸分子を用いて、形質移入又は形質転換される、トランスジェニック細胞。
【請求項8】
前記核酸分子が、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、図1a、図2a、図3a、図4a、図4b、図5a、図5b、図6a、図6b、図7a、図7b、図8a又は図8bに提示される核酸配列に対してハイブリダイズする、請求項7に記載の細胞。
【請求項9】
前記抗酸化物がケルセチンである、請求項7又は8に記載の細胞。
【請求項10】
前記抗酸化物がエスクレチンである、請求項7又は8に記載の細胞。
【請求項11】
核酸分子を用いて、形質移入又は形質転換されるトランスジェニック細胞であって、該細胞は、
i)図9a、図9b、図10a、図10b、図11a、図12a及び図12bに表されるような核酸配列から成る核酸分子、
ii)前記(i)の核酸分子に対してハイブリダイズし、且つサイトカイニンのグルコシル化であるグリコシルトランスフェラーゼの活性を有する核酸分子、及び
iii)前記(i)及び(ii)に規定された配列に対する遺伝子コードから、縮重する核酸配列から成る核酸分子
から成る群から選択される核酸配列を含む核酸分子を用いて、形質移入又は形質転換される、トランスジェニック細胞。
【請求項12】
前記核酸分子が、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、図9a、図9b、図10a,図10b、図11a、図12a及び図12bに表される核酸配列に対してハイブリダイズする、請求項11に記載の細胞。
【請求項13】
前記サイトカイニンが、トランス−ゼアチン、ジヒドロゼアチン、N6−イソペンテニルアデニン、N6−ベンジルアデニン及びカイネチンから成る群から選択される、請求項11又は12に記載の細胞。
【請求項14】
前記細胞が真核細胞である、請求項7〜13のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項15】
前記細胞が、酵母細胞、昆虫細胞、哺乳類細胞又は植物細胞から成る群から選択される、請求項14に記載の細胞。
【請求項16】
前記細胞が植物細胞である、請求項15に記載の細胞。
【請求項17】
前記細胞が原核細胞である、請求項7〜13のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項18】
請求項16に記載の細胞を含む種子。
【請求項19】
抗酸化物をグルコシル化する方法であって、請求項7〜10又は請求項14〜17のいずれか1項に記載のトランスジェニック細胞、請求項1〜6のいずれか1項に記載の反応槽中で前記トランスジェニック細胞の増殖を維持する栄養培地、及び前記トランスジェニック細胞の培養に関連する増殖条件の提供を含み、前記栄養培地がUPD−グルコースの外生的供給を包含しない、該方法。
【請求項20】
前記抗酸化物が、ケルセチン又はエスクレチンである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
サイトカイニンをグルコシル化する方法であって、請求項11〜13又は請求項14〜17のいずれか1項に記載のトランスジェニック細胞、本発明による反応槽中で前記トランスジェニック細胞の増殖を維持する栄養培地、及び前記トランスジェニック細胞の培養に関連する増殖条件の提供を含み、前記栄養培地がUPD−グルコースの外生的供給を含まない、該方法。
【請求項22】
前記サイトカイニンが、トランス−ゼアチン、ジヒドロゼアチン、N6−イソペンテニルアデニン、N6−ベンジルアデニン及びカイネチンから成る群から選択される、請求項21に記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図7a】
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【図7b】
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【図7c】
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【図8a】
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【図8b】
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【図8c】
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【図9a】
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【図9b】
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【図9c】
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【図10a】
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【図10b】
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【図10c】
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【図11a】
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【図11b】
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【図12a】
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【図12a】
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【図12b】
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【図12c】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15A】
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【図15B】
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【公表番号】特表2007−504836(P2007−504836A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530537(P2006−530537)
【出願日】平成16年5月24日(2004.5.24)
【国際出願番号】PCT/GB2004/002237
【国際公開番号】WO2004/106508
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(505439820)ザ・ユニヴァーシティ・オブ・ヨーク (2)
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF YORK
【住所又は居所原語表記】Heslington, York YO10 5DD, United Kingdom
【Fターム(参考)】