説明

グリコシル化プロファイル分析

本発明は、粗発酵ブロスから試料を得る工程、その試料を磁気親和性ビーズとインキュベーションする工程、固定化されたグリコシル化ポリペプチドからグリカンを遊離させる工程、グリコシル化プロファイルを計測する工程、そのグリコシル化プロファイルをリコンビナントグリコシル化ポリペプチドの所望のグリコシル化プロファイルと比較する工程、得られたグリコシル化プロファイルに従って培養条件を改変する工程、および所望のグリコシル化プロファイルを有するグリコシル化異種ポリペプチドを得るためにこの工程を繰り返す工程を含む、グリコシル化異種ポリペプチドの製造方法を提供する。同様の方法を用いて、診断マーカーを同定および定量することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リコンビナントタンパク質およびそれらの製造の分野に関するものである。更に詳細には、本発明は、リコンビナント製造されたポリペプチド、例えば抗体のグリコシル化プロファイルの測定方法、およびグリコシル化ポリペプチドの製造工程に関するものであり、ここで、そのグリコシル化プロファイルは、発酵の間に測定される。
【0002】
発明の背景
ポリペプチドのグリコシル化プロファイルは、多くのリコンビナント製造された治療用ポリペプチドの重要な特徴である。糖タンパク質とも呼ばれるグリコシル化ポリペプチドは、真核生物、例えばヒトにおいて、そして一部の原核生物において、触媒、シグナル伝達、細胞間コミュニケーション、免疫系の活性、ならびに分子認識および会合などの多くの不可欠な機能を仲介する。それらは、真核生物において大多数の非サイトソルタンパク質を構成する(Lis, H., et al., Eur. J. Biochem. 218 (1993) 1-27)。糖タンパク質のオリゴ糖の形成/結合(attachment)は、共翻訳修飾および翻訳後修飾であることから、遺伝的にコントロールされない。オリゴ糖の生合成は、いくつかの酵素を伴う多段階過程であり、それらの酵素は相互に基質を競合する。その結果、グリコシル化ポリペプチドは、オリゴ糖の微細不均一アレイを含み、同じアミノ酸主鎖を有する、異なるグリコフォームのセットを生み出す。
【0003】
共有結合しているオリゴ糖は、それぞれのポリペプチドの物理的安定性、フォールディング、プロテアーゼの攻撃に対する耐性、免疫系との相互作用、生物活性、および薬物動態に実際に影響する。更に、一部のグリコフォームは抗原性でありうることから、監督機関は、リコンビナントグリコシル化ポリペプチドのオリゴ糖の構造分析が必要である(例えば、Paulson, J. C., Trends Biochem. Sci. 14 (1989) 272-276;Jenkins, N., et al., Nature Biotech. 14 (1998) 975-981を参照されたい)。例えば、グリコシル化ポリペプチドの末端シアリル化は、治療薬の血清中半減期を延長すると報告されており、末端ガラクトース残基を有するオリゴ糖構造を含むグリコシル化ポリペプチドは、循環からのクリアランスの増大を示す(Smith, P. L, et al., J. Biol. Chem. 268 (1993) 795-802)。故に、免疫グロブリンなどの治療用ポリペプチドのバイオテクノロジー製造において、オリゴ糖の微細不均一性およびそのバッチ間一貫性の評価が重要な課題である。
【0004】
モノクローナル抗体(mAb)は、タンパク質治療薬の最も急成長しているクラスの一つである。2005年に、mAbに基づく計31製品がヒトの治療に、例えばガン、自己免疫および炎症性疾患の処置に、またはin vivo診断に承認されたが、更に多数が、目下臨床試験中である(Walsh, G., Trends Biotechnol. 23 (2005) 553-558)。抗体は、それらのグリコシル化パターンが他のリコンビナントポリペプチドと顕著に異なる。例えば、免疫グロブリンG(IgG)は、抗原の結合を担う二つの等しいFab部およびエフェクター機能のためのFc部からなる分子量約150kDaの対称な多機能グリコシル化ポリペプチドである。グリコシル化は、IgG分子において、Asn−297で高度に保存される傾向にあり、Asn−297は、Fc重鎖のCHドメインの間に埋もれ、CH内のアミノ酸残基と大規模な接触を形成する(Sutton and Phillips, Biochem. Soc. Trans. 11 (1983) 130-132)。Asn−297に結合しているオリゴ糖構造が不均一にプロセシングされる結果として、IgGは複数のグリコフォームで存在する。変異は、Asn−297部位の部位占有として存在する(マクロ不均一性)か、またはグリコシル化部位でのオリゴ糖構造の変異として存在する(ミクロ不均一性)。例えば、Jenkins, N., et al., Nature Biotechnol. 14 (1996) 975-981を参照されたい。一般に、IgG mAbに比較的豊富なオリゴ糖基は、主にアガラクトシル化(G0)、モノガラクトシル化(G1)、またはビ−ガラクトシル化(G2)型のアシアロ二分岐複合体型グリカンである(Jefferis, R., et al., Immunol. Lett. 68 (1998) 47-52)。
【0005】
Fc領域に結合しているオリゴ糖は、物理化学的性質(例えば構造的完全性)をもたらしてプロテアーゼ耐性を撤廃または最小化するだけではなく、補体の結合、マクロファージFcレセプターへの結合、循環からの抗原−抗体複合体の迅速な除去、および抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)の誘導などのエフェクター機能にもまた不可欠である(Cox, K.M., et al., Nature Biotechnol. 24 (2006) 1591-1597;Wright and Morrison, Trends Biotechnol. 15 (1997) 26-32)。異なるグリコフォームが異なる生物学的性質と関連しうることから、特異的グリコフォームを豊富にする能力は、例えば、特異的グリコフォームと特異的生物学的機能の間の関係を解明するために有用なことがある。故に、特定のグリコフォームに富むグリコシル化ポリペプチド組成物の製造が大いに望ましい。タンパク質のグリコシル化およびタンパク質のグリコシル化パターンに環境因子および培養条件が及ぼす効果を理解するために、多大な研究が行われてきた。溶存酸素濃度(Kunkel, J.P., et al., J. Biotechnol. 62 (1998) 55-71)、単糖入手性の変化(Tachibana, H., et al., Cytotechnology 16 (1994) 151-157)、細胞内ヌクレオチド糖の入手性(Hills, A.E., et al., Biotech. Bioeng. 75 (2001) 239-251)、アンモニア濃度(Gawlitzek, M., et al., Biotech. Bioeng. 68 (2000) 637-646)、血清濃度(Parekh, R.B., et al., Biochem. J. 285 (1992) 839-845;Serrato, J.A., et al., Biotechnol. Appl. Biochem. 47 (2007) 113-124)、および成長状態(Robinson, D.K., et al., Biotech. Bioeng. 44 (1994) 727-735)などの培養変数は、グリコシル化プロファイルの差異を誘くと報告されている。
【0006】
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は、治療用途のグリコシル化ポリペプチドの製造に最も一般的に使用される。これらの細胞は、確定されたグリコシル化プロファイルを生み、遺伝的に安定な高生産性細胞系の作製を可能にする。更に、CHO細胞は、安全で再生可能な生物過程を開発するために、無血清培地中に高細胞密度で培養することができる。CHO細胞において発現されたグリコシル化ポリペプチドのN−アセチルグルコサミンの含量および種類は、アルカン酸の存在下で温度およびオスモル濃度による影響を受けた(例えば、米国特許第5,705,364号を参照されたい)。US特許出願第2003/0190710号では、温度およびオスモル濃度への単なる適応により、CHO細胞培養物中のIgGのグリコシル化重鎖変異体のレベルが変化することが報告された。
【0007】
パルスアンペロメトリック検出を行う高性能陰イオン交換クロマトグラフィー(HPAEC)およびマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI−TOF MS)が、グリコシル化ポリペプチドの糖質部分を分析するために使用されてきた(例えば、Fukuda, M., (ed) Glycobiology: A Practical Approach, IRL Press, Oxford;Morelle, W., and Michalsky, J.C., Curr. Pharmaceut. Design 11 (2005) 2615-2645を参照されたい)。Hoffstetter-Kuhn, S.ら(Electrophoresis 17 (1996) 418-422)は、N−グリコシダーゼF(PNGase F)を用いた抗体の脱グリコシル化後のモノクローナル抗体のオリゴ糖介在性不均一性をプロファイリングするために、キャピラリー電気泳動およびMALDI−TOF MS分析を用いた。
【0008】
リコンビナントグリコシル化ポリペプチドの機能的性質に及ぼすグリコシル化の重要性および詳細に明らかにされ一貫した製品製造工程の必要性を考慮すると、発酵工程の間にリコンビナント製造されたグリコシル化ポリペプチドのグリコシル化プロファイルのオンラインまたはアドライン(ad-line)分析が大いに望ましい。Papac, D.I.ら(Glycobiol. 8 (1998) 445-454)は、ポリビニリデンジフルオリドメンブランへのグリコシル化ポリペプチドの固定化、酵素的消化およびグリコシル化プロファイルのMALDI−TOF MS分析を含む方法を報告した。いくつかのクロマトグラフィー段階を含む、リコンビナント製造されたmAbの分析および分子キャラクタリゼーションは、Bailey, M., et al., J. Chromat. 826 (2005) 177-187に報告されている。
【0009】
発明の概要
所望のグリコシル化プロファイルを有する、リコンビナント製造されたポリペプチドを得るために、発酵の間に該リコンビナント製造されたグリコシル化ポリペプチドのグリコシル化プロファイルのオンライン分析法を提供することが、本発明の目的である。
【0010】
本発明の一局面は、以下の工程を含む、グリコシル化異種ポリペプチドのリコンビナント製造方法である:
(A)該異種ポリペプチドをコードする核酸を含む細胞を提供すること、
(B)異種ポリペプチドの発現に適する確定された培養条件で、(A)の細胞を培養すること、
(C)培養液から試料を得ること、
(D)磁気親和性ビーズへの異種ポリペプチドの結合に適する条件で、試料をそのビーズと接触させること、
(E)異種ポリペプチドを遊離させずに、磁気親和性ビーズに結合している異種ポリペプチドからグリカンを遊離させること、
(F)遊離された(E)のグリカンを精製すること、
(G)遊離および精製された(F)のグリカンを分析することによって、異種ポリペプチドのグリコシル化プロファイルを測定すること、
(H)測定されたグリコシル化プロファイルを参照グリコシル化プロファイルと比較すること、
(I)場合により培養を続けながら、工程(H)で得られた結果に従って培養条件を調整すること、および
(J)工程(C)〜(H)を繰り返してグリコシル化異種ポリペプチドを得ること、
(K)培養液または細胞からグリコシル化異種ポリペプチドを回収すること。
【0011】
一態様では、グリコシル化異種ポリペプチドは、免疫グロブリンであり、好ましくはモノクローナル免疫グロブリンである。別の態様では、工程(D)に採用された、免疫グロブリンと選択的に結合するための親和性リガンドとしての磁気親和性ビーズに、プロテインA、G、またはLが結合している。更なる態様によると、工程(E)におけるグリカンは、例えばヒドラジン分解によって酵素的または化学的に遊離される。一態様では、グリカンは、N−グリコシダーゼを用いた処理によって遊離される。更なる態様では、グリカンは、逆相クロマトグラフィーもしくは陽イオン交換クロマトグラフィーまたはその組み合わせによって、工程(F)において精製される。更なる態様では、工程(E)において得られた精製グリカンのグリコシル化プロファイルは、工程(G)においてMALDI−TOF MS分析または定量的HPLC分離によって測定される。更なる態様では、工程(D)〜(G)は、マイクロタイタープレートを使用したハイスループット形式で行われる。別の態様では、工程(I)において調整される培養条件は、(i)一つもしくは複数の栄養素、糖質、添加剤、緩衝化合物、アンモニウム、もしくは溶存酸素の濃度、または(ii)オスモル濃度、pH値、温度、もしくは細胞密度、または(iii)成長状態における変化を含む。一態様では、工程(K)後に、該異種ポリペプチドは、該異種ポリペプチドを精製する工程(L)に供される。別の態様では、該異種ポリペプチドは培養液に分泌される。
【0012】
本発明の第2の局面は、以下の工程を含む、グリコシル化マーカーを測定および/または定量するために適する方法を提供することである:
(A)グリコシル化ポリペプチドを含有する試料を磁気親和性ビーズと接触させること、
(B)グリコシル化ポリペプチドを遊離させずに、親和性結合しているグリコシル化ポリペプチドからグリカンを遊離させること、
(C)遊離されたグリカンを精製すること、
(D)グリコシル化マーカーの量を測定すること、および
(E)グリコシル化マーカーの量を参照量と比較すること。
【0013】
一態様では、該試料は、対象の試料、好ましくは哺乳動物、更に好ましくはヒト、最も好ましくは患者の試料である。別の態様では、この方法は、工程(A)の前に、対象から得られた試料を一つまたは複数のクロマトグラフィーカラムにアプライすることおよびグリコシル化異種ポリペプチドを回収することによって、その試料を処理する工程(A−1)を含む。
【0014】
発明の詳細な説明
本発明は、以下の工程を含む、所望のグリコシル化プロファイルを有するグリコシル化異種免疫グロブリンのリコンビナント製造方法を提供する:
(A)該異種免疫グロブリンをコードする更なる核酸を含む核酸をトランスフェクションされた哺乳動物細胞を提供すること、
(B)その更なる核酸によりコードされる異種免疫グロブリンをグリコシル化形態で発現させるために適する培養条件で、工程(A)の哺乳動物細胞を培養すること、
(C)グリコシル化異種免疫グロブリンを含有する培養物から試料を得ること、
(D)工程(C)の試料を、プロテインA、G、またはLが化学結合している磁気親和性ビーズと、そのビーズにグリコシル化異種免疫グロブリンを結合させるために適する条件で接触させること、
(E)磁気親和性ビーズから異種免疫グロブリンを遊離させずに、結合している異種免疫グロブリンからグリカンを得ること、
(F)工程(E)で得られたグリカンを精製すること、
(G)工程(F)の精製されたグリカンの構造および組成を測定することによって、異種免疫グロブリンのグリコシル化プロファイルを測定すること、
(H)工程(G)の測定されたグリコシル化プロファイルを参照グリコシル化プロファイルと比較すること、
(I)工程(H)で得られた結果に従って培養条件を調整すること、ならびに
(J)培養を続けるならば、工程(C)〜(H)を繰り返すこと、または
(K)細胞または培養液から、所望のグリコシル化プロファイルを有するグリコシル化異種ポリペプチドを回収すること。
【0015】
驚くことに、本発明の方法は、生成した異種ポリペプチドのグリコシル化プロファイルに影響を及ぼすために、試料が得られたものと同じ培養過程の間に、バイオプロセスユニットの運転をオンラインで追跡および調整可能にすることが見出された。このことは、例えばリコンビナント製造された免疫グロブリンの、例えば製品の一貫性、治療有効性、および/または耐容性に関して重要である。一態様では、工程(E)は、異種ポリペプチドからのグリカンの切断、および磁気親和性ビーズから異種ポリペプチドを遊離させずに、異種免疫グロブリンが結合した磁気親和性ビーズを除去することによる、切断されたグリカンの回収を含む。
【0016】
本発明の実施は、当業者の技術の範囲内の、分子生物学、微生物学、リコンビナントDNA技法、および免疫学の通常の技法を採用する。そのような技法は、文献に報告されている。例えば、Sambrook, Fritsch & Maniatis, Molecular Cloning; a Laboratory Manual (1989); DNA Cloning, Volumes I and II (D. N. Glover, ed., 1985); Oligonucleotide Synthesis (Gait, M. J., ed., 1984); Nucleic acid Hybridization (Hames, B. D. & Higgins, S. J. eds., 1984); Transcription and translation (Harnes, B. D. & Higgins, S. J., eds., 1984); Animal cell culture (Freshney, R.L., ed., 1986); Immobilized cells and enzymes (IRL Press, 1986); Perbal, B., A practical guide to molecular Cloning (1984); the series, Methods in Enzymology (Academic Press, Inc.); Gene transfer vectors for mammalian cells (J. H. Miller and M. P. Calos eds., 1987, Cold Spring Harbot Laboratory), (Wu, R., and Grossman, L., Methods in Enzymology 154 (1987)およびWu, R, Methods in Enzymology 155 (1987); Immunochemical methods in cell and molecular biology (Mayer and Walker, eds., 1987, Academic Press, London), Scopes, Protein purification: Principles and practice, second Edition (1987, Springer-Verlag, N.Y.);およびHandbook of experimental immunology, Volumes I-IV (D.M. Weir and C.C. Blackwell eds., 1986)を参照されたい。
【0017】
特に述べない限り、以下の用語は以下の意味をもつと了解されたい:
【0018】
「多糖」という用語は、グリコシド結合によって連結した単糖ユニット鎖から構成される分子を意味する。「多糖」と「オリゴ糖」の間の区別は、鎖に存在する単糖ユニットの数に基づく。オリゴ糖は、典型的には2〜9個の単糖ユニットを有し、多糖は10個以上の単糖ユニットを有する。本発明において、「多糖」という用語は、二つ以上の単糖ユニットからなる分子を包含し、特に、この用語には単糖の最も長い鎖が3〜9個の単糖ユニットである分子が包含される。「多糖」という用語は、直鎖および分枝分子、孤立した分子、ポリペプチドと結合している分子、シアリル化分子、および非シアリル化分子を包含する。
【0019】
「単糖(monosaccharide)」という用語は、単糖(simple sugar)を表す。そのような単糖は、3〜10個の炭素原子、好ましくは5〜7個の炭素原子を含むことがあり、アルドースまたはケトースのことがあり、D−またはL−グリセルアルデヒドと照合してD−またはL−立体配置であってもよい。単糖は、例えば、トレオース、エリトロース、もしくはエリトルロース(4個の炭素原子)、またはアラビノース、キシロース、リボース、リキソース、リブロース、もしくはキシルロース(5個の炭素原子)、またはアロース、グルコース、フルクトース、マルトース、マンノース、ガラクトース、フコース、グロース、イドース、アルトロース、タロース、プシコース、ソルボース、もしくはタガトース(6個の炭素原子)、マンノヘプツロースもしくはセドヘプツロース(7個の炭素原子)、またはシアロース(sialose)(9個の炭素原子)である。好ましくは、単糖という用語は、リボース、グルコース、フルクトース、フコース、マルトース、ガラクトース、およびマンノースを意味する。
【0020】
「グリカン」という用語は、単糖残基からなるポリマーを表す。グリカンは、直鎖または分枝のことがある。グリカンは、脂質またはタンパク質などの非糖部分に共有結合していることが見出されることがある。タンパク質への結合は、N−またはO−結合により起こる。グリカンを含む共有コンジュゲートは、例えばグリコシル化ポリペプチド、糖タンパク質、糖ペプチド、ペプチドグリカン、プロテオグリカン、糖脂質、およびリポ多糖と呼ばれる。糖コンジュゲートの部分として見出されるグリカンに加えて、グリカンはまた、遊離型(すなわち、別の部分と分かれており、関連していない)としても存在する。
【0021】
本出願の中で互換的に使用される「グリコシル化ポリペプチド」および「糖タンパク質」という用語は、少なくとも一つのアミノ酸が共有結合している多糖を有する、10個を超えるアミノ酸を有するポリペプチドまたはタンパク質を表す。好ましくは、多糖は、セリンもしくはトレオニンのOH基を介して(O−グリコシル化ポリペプチド)、またはアスパラギンのアミド基(NH)を介して(N−グリコシル化ポリペプチド)のいずれかで結合している。糖タンパク質は、ホスト細胞と同種であってもよいし、または好ましくは、例えばCHO細胞により生成されるヒトタンパク質のように、それを発現しているホスト細胞にとって異種、すなわち外来であってもよい。
【0022】
「グリコシル化」という用語は、ポリペプチドへの多糖の結合を意味する。好ましくは、多糖は、グリコシド結合により一緒に連結した2〜12個の単糖からなる。
【0023】
「N−結合型グリコシル化」という用語は、アミノ酸鎖のアスパラギン残基への多糖の結合を表す。当業者は、例えば、マウスIgG1、IgG2a、IgG2bおよびIgG3、ならびにヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgAおよびIgDのC2ドメインが、それぞれN−結合型グリコシル化のための単一部位をアミノ酸残基297に有することを認識しているであろう(Kabat, E.A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 1991により付番)。
【0024】
「O−結合型グリコシル化」という用語は、アミノ酸鎖のセリンもしくはトレオニン残基への糖質部分の結合を表す。
【0025】
本出願の中で互換的に使用される「糖プロファイル」または「グリコシル化プロファイル」という用語は、グリコシル化ポリペプチドのグリカンの性質を表す。これらの性質は、好ましくはグリコシル化部位、またはグリコシル化部位の占有度、またはポリペプチドのグリカンおよび/もしくは非糖部分の同一性、構造、組成もしくは量、または特異的グリコフォームの同一性および量である。
【0026】
本出願の中で使用される「結合に適する条件で」という用語およびその文法的同等語は、対象となる物質、例えばPEG化エリスロポイエチンまたは抗体が、固定相、例えばイオン交換材料と接触する状態に置かれた場合に、その固定相に結合することを意味する。これは必ずしも、関心が持たれる物質の100%が結合していることを意味するわけではなく、関心が持たれる物質の本質的に100%、すなわち関心が持たれる物質の少なくとも50%が結合し、好ましくは関心が保たれる物質の少なくとも75%が結合し、好ましくは関心が持たれる物質の少なくとも85%が結合し、更に好ましくは関心が持たれる物質の95%超が固定相に結合していることを意味する。
【0027】
「グリコフォーム」という用語は、特異的な種類および分布の多糖が結合しているポリペプチドの種類を意味し、すなわち、二つのポリペプチドが、同じ数、種類、および配列の単糖を有するグリカンを含むならば、それらは同じグリコフォーム、すなわち同じ「グリコシル化プロファイル」を有するであろう。
【0028】
「ホスト細胞」という用語は、免疫グロブリンおよび免疫グロブリンフラグメントなどの、関心が持たれる改変されたグリコフォームのタンパク質、タンパク質フラグメント、またはペプチドを生成するように操作することができる任意の種類の細胞系に及ぶ。好ましくは、ホスト細胞は真核細胞である。更に好ましくは、真核細胞は哺乳動物細胞である。最も好ましくは、ホスト細胞は、CHO、BHK、PER.C6(登録商標)細胞またはHEK293細胞である。
【0029】
「抗体」、「免疫グロブリン」、「IgG」および「IgG分子」という用語は、本出願の中で互換的に使用される。「免疫グロブリン」という用語は、非限定的に抗体全体、抗体フラグメント、または抗体コンジュゲートなどの、様々な形態の抗体構造を包含し、免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子フラグメントによって実質的にまたは部分的にコードされる一つまたは複数のポリペプチドを含むタンパク質を表す。抗体という用語は、抗体全体およびその抗原結合フラグメントを意味するために使用される。認められている免疫グロブリン遺伝子には、カッパ(κ)、ラムダ(λ)、アルファ(α)、ガンマ(γ)、デルタ(δ)、イプシロン(ε)、およびミュウ(μ)定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が含まれる。軽鎖は、κまたはλのいずれかとして分類される。重鎖は、γ、μ、α、δ、またはεとして分類され、それらは順に、免疫グロブリンのクラスであるIgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEをそれぞれ規定する。典型的な免疫グロブリン(例えば抗体)の構造ユニットはテトラマーである。各テトラマーは、2対のポリペプチド鎖から構成され、各対は、一つの「軽」鎖(約25KDa)および一つの「重」鎖(約50〜70KDa)を有する。各鎖のN−末端は、抗原の結合を主に担う約100〜120個以上のアミノ酸の可変領域を規定する。可変軽鎖(VL)および可変重鎖(VH)という用語は、それぞれ軽鎖および重鎖可変ドメインを表す。
【0030】
免疫グロブリンにはまた、単一アームの複合モノクローナル抗体、可変重鎖および可変軽鎖が(直接またはペプチドリンカーにより)一緒に繋がり、連続ポリペプチドを形成している単鎖Fv(scFv)などの単鎖抗体、ならびにダイアボディー、トリボディー、およびテトラボディーが含まれる(Pack, P., et al., J. Mol. Biol. 246 (1995) 28-34; Pack, P., et al., Biotechnol. 11 (1993) 1271-1277; Pack, P., et al., Biochemistry 31 (1992) 1579-1584)。抗体は、例えば、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、ヒト化、単鎖、Fabフラグメント、Fab発現ライブラリーによって生成されるフラグメントなどである。好ましくは、抗体または抗体フラグメントまたは抗体変異体は、モノクローナル抗体である。
【0031】
本明細書に使用される「モノクローナル抗体」(mAb)または「モノクローナル抗体組成物」という用語は、培養により単一細胞および/またはその子孫によって生成される抗体分子調製物を表す。
【0032】
「細胞」、「細胞系」、および「細胞培養物」という用語は互換的に使用されるが、そのような全ての呼称には子孫が含まれる。故に、「トランスフォーマント」および「トランスフォーメーションされた細胞」という語には、主題細胞、およびそれから得られた継代回数に関わらない培養物が含まれる。故意または偶発の突然変異が原因で、全ての子孫のDNA含量は正確には同一でないおそれがあることもまた了解されている。本来のトランスフォーメーションされた細胞においてスクリーニングされたものと同じ機能または生物活性を有する変異型子孫が含まれている。
【0033】
「発現」または「発現する」という用語は、ホスト細胞の中で生じる転写および翻訳を表す。ホスト細胞での生成物遺伝子の発現レベルは、細胞内に存在する対応するmRNAの量または細胞中に発現される構造遺伝子によってコードされるポリペプチドの量のいずれかに基づき測定してもよい。
【0034】
本出願の中で使用される「培養」または「培養液」という用語は、ホスト細胞の発酵、すなわち異種ポリペプチドの製造が実施される容器の全内容物を意味する。これは、生成された異種ポリペプチドに加えて、例えば添加された栄養素または死細胞、ホスト細胞、細胞フラグメント、および栄養培地に供給され培養中にホストにより生成された全ての成分からの、培地に存在する他のタンパク質およびタンパク質フラグメントを含む。
【0035】
例えば細胞、ポリヌクレオチド、ベクター、タンパク質、またはポリペプチドに関して使用される場合の「リコンビナント」という用語は、典型的には、その細胞、ポリヌクレオチド、もしくはベクターが、異種(もしくは外来)核酸の導入もしくはネイティブな核酸の変化によって改変されたこと、またはそのタンパク質もしくはポリペプチドが、異種アミノ酸の導入によって改変されたこと、またはその細胞が異種核酸の導入によって改変された細胞から得られることを示す。リコンビナント細胞は、ネイティブな(非リコンビナント)形態の細胞に見出されない異種ポリペプチドもしくは核酸を発現するか、または他の場合では異常発現される、過小発現される、もしくは全く発現されないであろうネイティブな核酸配列を発現する。細胞に関して使用される場合の「リコンビナント」という用語は、細胞が異種核酸を含み、かつ/または異種核酸によってコードされるポリペプチドを発現することを示す。ネイティブな(非リコンビナント)形態の細胞の中に見出されないコード配列を、リコンビナント細胞は有しうる。ネイティブな形態の細胞に見出されるコード配列であって、人工的な手段によって改変および/または細胞に再導入されるコード配列もまた、リコンビナント細胞は有しうる。この用語はまた、細胞から核酸を除去せずに改変された、その細胞に内因性の核酸を含む細胞を包含し、そのような改変には、遺伝子置換、部位特異的突然変異、組換え、および関連技法によって得られた改変が含まれる。
【0036】
「添加物」という用語は、細胞が成長するために必須ではないが、例えば細胞の成長もしくは生存を促進するために、または培養液中で培養されたリコンビナント細胞によって生成されるグリコシル化ポリペプチドのグリコシル化プロファイルを変えるために、該培養液に添加される培養液成分を表す。
【0037】
「栄養素」という用語は、細胞が成長および/または生存するために必須の培養液成分を表す。
【0038】
「対象」という用語は、動物、更に好ましくは哺乳動物、そして最も好ましくはヒトを意味する。
【0039】
本発明の糖質部分は、オリゴ糖の記載のために一般に使用される命名法を参照して記載される。この命名法を使用する糖質化学の総説は、Hubbard, S. C, and Ivatt, R.J., Ann. Rev. Biochem. 50 (1981) 555-583に見出される。
【0040】
本発明の一局面は、以下の工程を含む、培養液中のグリコシル化異種ポリペプチドのリコンビナント製造方法である:
(A)該グリコシル化異種ポリペプチドをコードする少なくとも一つの核酸を含む細胞、一態様では、該グリコシル化異種ポリペプチドをコードする二つの核酸を含む細胞を提供すること、
(B)無血清培養液において、該グリコシル化異種ポリペプチドが該培養液中にグリコシル化形態で得られる、予め定められた培養条件で該細胞をインキュベーションすること、
(C)好ましくは細胞を含まない培養液から試料を得ること、
(D)該試料を磁気親和性ビーズと接触させることによって、該磁気親和性ビーズにグリコシル化異種ポリペプチドを結合させること、
(E)磁気親和性ビーズからポリペプチドを遊離させずに、磁気親和性ビーズに結合しているグリコシル化異種ポリペプチドからグリカンを遊離させること、
(F)(E)で遊離されたグリカンを、液体クロマトグラフィーによって、一態様では、陽イオン交換樹脂および/または逆相の高速液体クロマトグラフィーによって、精製すること、
(G)(F)で得られた精製グリカンを、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析(MALDI−TOF MS)によって分析することによってグリコシル化ポリペプチドのグリコシル化プロファイルを測定すること、
(H)そのグリコシル化プロファイルを、予め定められた参照グリコシル化プロファイルと比較すること、
(I)(G)で測定されたグリコシル化プロファイルが、予め定められた参照グリコシル化プロファイルと異なるならば、工程(H)で得られた結果に従って培養条件を改変すること、および工程(C)〜(H)を繰り返して参照グリコシル化プロファイルに従ったグリコシル化プロファイルを有するグリコシル化異種ポリペプチドを得ること、または培養を終了すること、
(K)グリコシル化異種ポリペプチドを回収すること。
【0041】
工程(A)における本発明の方法の一態様では、細胞は、異種ポリペプチドを発現できるリコンビナント細胞である。
【0042】
関心が持たれる異種ポリペプチドは、(a)天然内因性遺伝子の発現、または(b)活性化内因性遺伝子の発現、または(c)外因性遺伝子の発現のいずれかによって製造することができる。本発明の一態様では、グリコシル化異種ポリペプチドは、リコンビナント製造される。リコンビナント製造方法および技法は、当業者が熟知している。この方法は、例えば、異種ポリペプチドをコードする核酸の製造/提供、一つ(または複数)の発現構築物への該核酸の導入、および該発現構築物を用いたホスト細胞のトランスフェクションを含む。そのような発現構築物(ベクター)は、ホスト細胞における異種ポリペプチドの発現に必要なコード核酸に加えて、必要とされる全ての調節エレメントを有する。ホスト細胞は、異種ポリペプチド「の発現に適する条件で」培養され、グリコシル化異種ポリペプチドは、細胞または培養上清/培養液から単離される。
【0043】
本発明の方法は、真核ホスト細胞における任意のグリコシル化異種ポリペプチドの製造に適する。本発明の方法は、特に、治療に使用することのできるポリペプチドの製造に適する。例えば、異種ポリペプチドは、免疫グロブリン、免疫グロブリンフラグメント、免疫グロブリンコンジュゲート、抗膜融合性ペプチド、リンホカイン、サイトカイン、ホルモン(例えばEPO、トロンボポエチン(TPO))、G−CSF、GM−CSF、インターロイキン、インターフェロン、血液凝固因子および組織プラスミノーゲンアクチベーターを含むポリペプチドの群より選択することができる。一態様では、異種ポリペプチドは、免疫グロブリン、免疫グロブリンフラグメント、および免疫グロブリンコンジュゲートを含むポリペプチドの群より選択される。
【0044】
グリコシル化異種ポリペプチドの製造のための、本発明の方法に有用な細胞は、グリコシル化異種ポリペプチドを得るためにその細胞が異種ポリペプチドにグリカンを結合させる限り、原則として、例えば酵母細胞または昆虫細胞などの任意の真核細胞でありうる。しかし、本発明の一態様では、この真核細胞は哺乳動物細胞である。好ましくは、該哺乳動物細胞は、CHO細胞系またはBHK細胞系またはHEK293細胞系、またはPER.C6(登録商標)などのヒト細胞系である。更に、本発明の一態様では、この真核細胞は、例えばヒト細胞系HeLaS3(Puck, T. T., et al., J. Exp. Meth. 103 (1956) 273-284)、Namalwa(Nadkarni, J. S., et al., Cancer 23 (1969) 64-79)、HT1080(Rasheed, S., et al., Cancer 33 (1973) 1027-1033)、またはそれから得られた細胞系などの、動物またはヒト起源の連続継代細胞系である。
【0045】
一態様では、本発明の方法を用いて製造された免疫グロブリンは、リコンビナント免疫グロブリンである。他の態様では、免疫グロブリンは、ヒト化免疫グロブリンまたはキメラ免疫グロブリンである。免疫グロブリンのリコンビナント製造は、当技術分野で周知であり、例えば、Makrides, S. C., Protein Expr. Purif. 17 (1999) 183-202; Geisse, S., Potein Expr. Purif. 8 (1996) 271-282; Kaufman, R.J., Mol. Biotechnol. 16 (2000) 151-161;およびWerner, R.G., Drug Res. 48 (1998) 870-880の論文に記載されている。免疫グロブリンの製造のために、軽鎖および重鎖またはそれらのフラグメントをコードする一つまたは複数の核酸は、標準法によって発現ベクターに挿入される。発現は、CHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞などの、技術の現況におけるような適切な真核ホスト細胞または酵母細胞において行われる。抗体は、一態様では、細胞または溶解後の細胞上清または培養液から回収される。
【0046】
NS0細胞における発現は、例えば、Barnes, L. M., et al., Cytotechnology 32 (2000) 109-123;およびBarnes, L. M., et al., Biotech. Bioeng. 73 (2001) 261-270によって記載されている。一過性発現は、例えば、Durocher, Y., et al., Nucl. Acids. Res. 30 (2002) E9によって記載されている。可変ドメインのクローニングは、Orlandi, R., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 3833-3837; Carter, P., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992) 4285-4289;およびNorderhaug, L., et al., J. Immunol. Meth. 204 (1997) 77-87によって記載されている。一過性発現系(HEK293)は、Schlaeger, E.J., and Christensen, K., Cytotechnology 30 (1999) 71-83;およびSchlaeger, E.J.; Immunol. Methods 194 (1996) 191-199によって記載されている。
【0047】
本発明の方法の工程(B)において、細胞は、グリコシル化異種ポリペプチドが発現される、確定された、または予め定められた培養条件で培養される。本出願の中で使用される「予め定められた培養条件」という用語は、確定されたグリコシル化プロファイルを有するグリコシル化異種ポリペプチドを製造するための、ホスト細胞の培養用に開発された培養条件を意味する。リコンビナント細胞クローンは、一般に任意の所望の方法で培養することができる。本発明のこの局面により添加される栄養素は、例えばグルタミンもしくはトリプトファンなどの必須アミノ酸、または/および糖質、および場合により可欠アミノ酸、ビタミン、微量元素、塩類、および/またはインスリンなどの成長因子を含む。ある態様では、栄養素には、少なくとも一つの必須アミノ酸および少なくとも一つの糖質が含まれる。本発明のある局面において、これらの栄養素は、溶解した状態で発酵培養物に計り入れられる。一態様では、栄養素は、細胞の成長期全体(培養)にわたり、すなわち培養液において計測された選択されたパラメーターの濃度に応じて添加される(これはフェッド培養と呼ばれる)。
【0048】
本発明の細胞培養は、培養される細胞に適する培地中に用意される。本発明の一態様では、培養される細胞はCHO細胞である。哺乳動物細胞に適切な培養条件は公知である(例えば、Cleveland, W. L, et al., J. Immunol. Methods 56 (1983) 221-234を参照されたい)。更に、特定の細胞系について、培地に必要な栄養素および成長因子は、それらの濃度を含めて、例えば、"Mammalian cell culture", Mather (ed., Plenum Press: NY, 1984); Animal cell culture: A Practical Approach, 2nd Ed; Rickwood, D. and Hames, B. D., eds., Oxford University Press: New York, 1992; Barnes, D., and Sato, G., Cell, 22 (1980) 649に記載されているように、過度な実験を行わずに経験的に決定することができる。
【0049】
「発現に適する条件で」という用語は、グリコシル化異種ポリペプチドを発現している細胞の培養に使用される条件であって、当業者に公知であるか、または当業者によって容易に決定されうる条件を意味する。これらの条件が、培養される細胞の種類および発現されるポリペプチドの種類に応じて変動しうることは、当業者に公知である。一般に、細胞は、例えば20℃〜40℃の温度で、コンジュゲートを効果的に製造させるために十分な時間、例えば4〜28日間、0.01〜10リットルの容量で培養される。
【0050】
「ポリペプチド」は、自然に、または合成的に製造されたものであろうと、ペプチド結合によって繋がれたアミノ酸からなるポリマーである。アミノ酸残基約20個未満のポリペプチドは、「ペプチド」と呼ぶことができ、二つ以上のポリペプチドからなる、または100個超のアミノ酸残基の一つのポリペプチドを含む分子は「タンパク質」と呼ぶことができる。ポリペプチドはまた、糖基/グリカン、金属イオン、またはカルボン酸エステルなどの非アミノ酸成分を含みうる。非アミノ酸成分は、ポリペプチドが発現される細胞によって付加されることがあり、細胞の種類により変動しうる。ポリペプチドは、それらのアミノ酸主鎖構造またはそれをコードする核酸によって本明細書に定義される。糖基などの付加は、一般に特定されないが、それでもなお存在しうる。
【0051】
一態様では、以下の分類からの一つまたは複数の成分を栄養素溶液に補充してもよい:血漿成分、例えばインスリン、トランスフェリン、またはEGFなどの成長因子、ホルモン、塩類、無機イオン、緩衝剤、ヌクレオシドおよび塩基、タンパク質加水分解物、抗生物質、例えばリノール酸などの脂質。一態様では、該栄養素溶液は動物血清を有さない。
【0052】
本発明の一態様では、培養は懸濁培養である。更に別の態様では、細胞は、例えば最大1%(v/v)などの低血清含量を有する培地中で培養される。好ましい態様では、培養は、例えば無血清の低タンパク質発酵培地での無血清培養である(例えば国際公開公報第96/35718号を参照されたい)。適切な添加物を含有する、HamのF10またはF12(Sigma)、最小必須培地(MEM, Sigma)、RPMI−1640(Sigma)、またはダルベッコ変法イーグル培地(DMEM, Sigma)などの市販の培地は、栄養溶液の例である。必要によりこれらの培地の任意のものに、上記成分を補充してもよい。
【0053】
本発明の工程は、1l超の、好ましくは10l超の、好ましくは50l〜10000lの培養容量での培養を可能にする。更に、本発明の工程は、高細胞密度の発酵を可能にし、このことは、成長期後(すなわち回収時)の細胞濃度が1×10個/ml超であること、一態様では5×10個/ml超であること、または100g/l超、一態様では200g/l超の乾燥細胞重量を有することを意味する。
【0054】
グリコシル化ポリペプチドの大規模または小規模製造のための細胞培養手順は、本発明の状況で潜在的に有用である。非限定的に、流動層バイオリアクター、ホローファイバーバイオリアクター、ローラーボトル培養、または撹拌タンク式バイオリアクターシステムなどの手順を、後者の二つのシステムではマイクロキャリアと共に、またはマイクロキャリアなしに使用することができる。これらのシステムは、バッチ、フェッドバッチ、スプリットバッチ(split-batch)、連続、または連続潅流様式の一つで運転することができる。本発明のある態様では、培養は、培養ブロスの一部が成長期の後に回収され、残りの培養ブロスが発酵槽の中に残り、続いてそれに作業容量まで新鮮培地が補充されるという、培養の必要性に従う供給を備えるスプリットバッチ過程として実施される。本発明の過程は、所望のグリコシル化ポリペプチドを非常に高収量で採取できるようにする。故に、採取時の濃度は、例えば少なくとも300mg/l、一態様では500mg/l、一態様では1000mg/l、そして別の態様では1500mg/lである。
【0055】
本発明の別の局面によると、フェッドバッチまたは連続細胞培養条件は、細胞培養の成長期における哺乳動物細胞の成長を高めるように工夫される。成長期において、細胞を、成長のために最大限高めた条件および時間で成長させる。温度、pH、溶存酸素(DO)などの培養条件は、特定のホストで使用される条件であり、当業者に公知である。一般に、pHは、酸(例えばCO)または塩基(例えばNaCOもしくはNaOH)またはHEPES(N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタン−スルホン酸)に基づく緩衝系のいずれかを使用して約6.5〜7.5のレベルに調整され、NaHCOを用いて更に緩衝化され、希NaOHを用いて調整される。CHO細胞などの哺乳動物細胞を培養するために適する温度範囲は、約20〜40℃、一態様では25〜38℃、別の態様では30〜37℃である。一態様では、pOは、空気飽和の5〜90%である。オスモル濃度は、塩化ナトリウム、アミノ酸、加水分解物、または水酸化ナトリウムの濃度変化によってレギュレーションすることができ、本発明の一局面において320〜380mOsmの値を有する。
【0056】
本発明によると、細胞培養環境は、細胞培養の生成期の間にコントロールされる。生成されるグリコシル化ポリペプチドのための培養条件は、以下のパラメーターによって定義される:
1.基礎培地:栄養素、随意の血漿成分、成長因子、塩類および緩衝剤、ヌクレオシドおよび塩基、タンパク質加水分解物、抗生物質および脂質、適切な担体の濃度および種類、
2.グリコシル化プロファイルを変えることが公知のパラメーター:
糖質、溶存酸素、アンモニウム濃度、pH値、オスモル濃度、温度、細胞密度、成長状態の種類および濃度、
3.随意の更なる添加剤。
【0057】
更なる添加剤は、例えば、細胞の成長を刺激する、および/または細胞の生存を高める、および/または任意の所望の方向にグリコシル化ポリペプチドのグリコシル化プロファイルを操作する可欠化合物である。添加剤は、血清成分、成長ホルモン、ペプチド加水分解物、小分子(デキサメタゾン、コルチゾール、鉄キレート剤など)、無機化合物(セレンなど)、およびグリコシル化プロファイルに効果を有することが公知の化合物(ブチレートまたはキニジン(例えば、米国特許第6,506,598号参照)、アルカン酸(米国特許第5,705,364号)、または銅(EP1092037)など)を含む。一局面では、上記項目1、2および3に挙げられたパラメーターおよび化合物の全ては、無血清のパラメーターであり、別の態様では、動物成分由来物を有さないパラメーターである。
【0058】
本発明の一局面では、糖質は、グルコース、グルコサミン、リボース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、スクロース、ラクトース、マンノース−1−リン酸、マンノース−1−硫酸、またはマンノース−6−硫酸などの単糖および/または二糖である。本発明の一局面では、発酵の間の全ての糖の総濃度は、培養液中に0.1g/l〜10g/l、一態様では2g/l〜6g/lである。糖質混合物は、細胞のそれぞれの必要性により添加される(例えば、米国特許第6,673,575号を参照されたい)。
【0059】
アンモニウム濃度は、培養液にNHClを添加することによって変えられる(Gawlitzek, M., et al., Biotech. Bioeng. 68 (2000) 637-646)。
【0060】
リコンビナントグリコシル化ポリペプチドの製造のための本発明の方法の工程(C)において、粗発酵ブロスから試料が得られ、この方法の工程(D)において、その試料は磁気親和性ビーズと共にインキュベーションされる。
【0061】
関心が持たれるグリコシル化ポリペプチドは、当技術分野で十分に確立された技法を使用して培養液から回収される。本発明のある態様では、関心が持たれるグリコシル化ポリペプチドは、分泌ポリペプチドとして培養液から、またはホスト細胞溶解物から回収される。
【0062】
関心が持たれるグリコシル化ポリペプチドが異種ポリペプチドであるならば、異種ポリペプチドだけが結合することから、異種ポリペプチドが培養物からの他のポリペプチドから一工程で分離される磁気親和性ビーズを選択することができる。故に一態様では、工程(D)は、工程(C)で得られた該試料を磁気親和性ビーズと接触させることによって該磁気親和性ビーズにグリコシル化異種ポリペプチドだけを結合させること、およびそれによって該試料と共に未結合の化合物を除去することにより培養物からの他のポリペプチドと該グリコシル化異種ポリペプチドを一工程で分離することを特徴とする。一態様では、該グリコシル化異種ポリペプチドは、該結合しているポリペプチドの75重量%超、または該結合しているポリペプチドの85重量%超、または該結合しているポリペプチドの95重量%超を占める。
【0063】
「異種ポリペプチド」は、所与のホスト細胞の中に自然に存在しないポリペプチドまたはポリペプチドの集団を表す。特定のホスト細胞にとって異種のDNA分子は、ホストDNAが非ホストDNA(すなわち外因性DNA)と混合される限り、ホスト細胞種由来のDNA(すなわち内因性DNA)を含有するおそれがある。例えば、プロモーターを含むホストDNAセグメントに作動可能に連結された、ポリペプチドをコードする非ホストDNAセグメントを有するDNA分子は、異種DNA分子であるとみなされる。逆に、異種DNA分子は、外因性プロモーターに作動可能に連結された内因性構造遺伝子を含みうる。非ホストDNA分子によってコードされるペプチドまたはポリペプチドは、「異種」ペプチドまたはポリペプチドである。
【0064】
試料採取は、自動または手動のいずれかで行うことができる。本発明のある態様では、試料採取工程は自動的に行われる。試料容量は、100μl〜1000μlの範囲でありうる。一態様では、得られた試料は精製される。一態様では、グリコシル化異種ポリペプチドの精製方法は、透析、免疫アフィニティーカラムまたはイオン交換カラムによる分画、エタノール沈澱、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、シリカまたはDEAEなどの陽イオン交換樹脂によるクロマトグラフィー、等電点電気泳動、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)、硫酸アンモニウム沈殿、ゲル濾過(例えばSEPHADEX G−75(登録商標)による)、またはPVDFメンブラン、ナイロンメンブラン、もしくはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)メンブランなどのタンパク質結合性メンブランによるブロッティングより選択される。フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)などのプロテアーゼインヒビターは、精製時のタンパク質分解を阻害するために有用でありうる。当業者は、リコンビナント細胞に発現したときのグリコシル化ポリペプチドの特徴の変化を明らかにするには、関心が持たれるグリコシル化ポリペプチドにもまた適する公知の精製法を改変する必要がありうることを認識するであろう。
【0065】
本発明の一態様では、精製法は、磁気親和性ビーズにリコンビナントグリコシル化ポリペプチドを結合させることによって、グリコシル化ポリペプチドを不純物から迅速に分離させることを含む。アガロースまたは不活性ポリマー材料に囲まれた鉄コアを有することから、これらのビーズは、磁場に供されると磁石のように挙動するが、磁場が除かれると残留磁気は保持しない。本発明の発明者らは、例えば従来のアガロースアフィニティー法とは対照的に、カラムも遠心分離も必要としないことから、このことが精製手順を簡略化および短縮することを見出した(Smith, C., Nature Methods 2 (2005) 71-77)。特に、親和性結合および脱離動態は、溶質含有液の遅いカラム溶出にかかる時間画分で起こる(例えば、Chaiken, I., et al., Analytical Biochemistry, 201 (1992) 197-210を参照されたい)。従って、本発明の方法を用いて、培養物中に生成したグリコシル化異種ポリペプチドの瞬間的なグリコシル化プロファイルの迅速測定を行えることによって、該測定に必要な時間は非常に短い。従って、本発明は、一局面ではグリコシル化異種ポリペプチドのグリコシル化プロファイルを、培養中にそれが生成している間にオンラインまたはリアルタイムで測定するための方法を提供することであり、それは、必要であれば、参照試料のグリコシル化プロファイルに従うグリコシル化プロファイルを有するグリコシル化異種ポリペプチドを得るために、培養中に培養条件を調整することを可能にする。磁気ビーズの別の利点は、記載されたシステムを自動化させるマイクロタイタープレート形式でそれらを使用できることである。故に、本発明の別の局面は、培養工程の間のグリコシル化異種ポリペプチドのグリコシル化プロファイルの自動測定である。故に、上に言及された利点は、どちらも、グリコシル化ポリペプチドのグリコシル化プロファイルを作り出すことができる速さを増加させる。
【0066】
抗体は、例えば、プロテインA、G、またはLが結合している磁気ビーズと共にインキュベーションすることによって精製することができる。このためには、切断型のリコンビナントプロテインA、G、またはLを、非多孔性常磁性粒子に共有結合(covalently couple)させる。プロテインAは、ヒト、ウサギ、およびマウスなどの多数の種からのIgGサブクラスに高い親和性を示す。このタンパク質は、広いpH範囲にわたり安定な漏出耐性の連結を介して結合される。これは、腹水、血清、または細胞培養上清からのIgGの免疫磁気精製を可能にする。一態様では、該IgGは、細胞培養上清から精製される。一般にグリコシル化ポリペプチドは、例えば、グリコシル化ポリペプチドに特異的な脱グリコシル化抗体、またはレクチン、または特異的タグが結合している磁気親和性ビーズと共にインキュベーションすることによって精製することができる。親和性分子としての脱グリコシル化抗体の使用は、抗体−グリコシル化ポリペプチド複合体を最初に分離する必要なしに、グリコシル化ポリペプチドのグリコシル化プロファイルのその後の分析を可能にする。その上、プロテインA磁気ビーズは、該ビーズに結合している選択された脱グリコシル化一次抗体を使用して粗細胞溶解物からターゲットタンパク質を免疫沈降させるために使用することができる。
【0067】
更なる態様では、工程(D)は、培養ブロスから細胞および粒子状細胞破片を除去するための遠心分離工程を含む。なお更なる態様では、工程(E)の前に、工程(D)は、グリコシル化ポリペプチドが結合している磁気ビーズ周囲の溶液の除去を含む。
【0068】
本発明の方法の工程(E)において、グリカンは、酵素的または化学的のいずれかでグリコシル化ポリペプチドから遊離され、一方で、タンパク質は、磁気ビーズにまだ結合している。グリコシル化ポリペプチドが磁気ビーズから遊離される溶出工程の欠如は、当技術分野で公知の方法に比べて、グリコシル化プロファイルを測定することができる速さを顕著に増加させる。グリカンの切断前に磁気ビーズからグリコシル化ポリペプチドを溶出させることは、請求された方法のために必要な段階ではなく、グリコシル化プロファイルの分析に全く欠点なしに省略することができることが見い出された。
【0069】
グリコシル化ポリペプチドのグリカンを分析するための態様は、基本的に、当技術分野で公知の任意の化学的もしくは酵素的方法、またはそれらの組み合わせを使用して非糖部分からグリカンを切断することを含む。本発明のある態様では、化学的脱グリコシル化法はヒドラジン分解である。他の態様では、グリカンは、アルカリ水素化ホウ素処理またはトリフルオロメタンスルホン酸(TFMS)処理によってグリコシル化ポリペプチドから除去することができる。後者の場合に、脱グリコシル化タンパク質は、更なる分析の前に8M尿素に溶解させることができる。
【0070】
グリカン切断のための酵素法には、N−またはO−結合型糖に特異的な方法が含まれる。これらの酵素法には、例えば、エンドグリコシダーゼF(Endo F)、またはエンドグリコシダーゼH(Endo H)、またはエンドグリコシダーゼN(Endo N)、またはエンドグリコシダーゼD(Endo D)、またはN−グリカナーゼF(PNGase F)、またはそれらの組み合わせより選択されるエンドグリコシダーゼの使用が含まれる。PNGase Fとしても知られているN−グリコシダーゼFは、N−結合型グリコシル化ポリペプチドからの高マンノース、ハイブリッド、および複合オリゴ糖の最内側のGlcNAcとアスパラギン残基の間を切断するアミダーゼである。本発明のある態様では、全ての哺乳動物N−グリカン構造を切断するPNGaseFを、N−グリカンの遊離のために使用する。
【0071】
本発明の方法によって分析されるグリカンはまた、追加の工程においてグリカン分解酵素と接触させることができる。加えて一態様では、工程(E)は、該遊離されたグリカンをグリカン分解酵素と接触させることを含む。グリカン分解酵素の例は、当技術分野において公知であり、それには、エキソグリコシダーゼ、またはN−グリカナーゼ、またはノイラミニダーゼI、またはノイラミニダーゼIII、またはガラクトシダーゼI、またはN−アセチル−グルコサミニダーゼI、またはα−フコシダーゼIIおよびIII、またはシアリダーゼ、またはマンノシダーゼ、またはそれらの組み合わせが含まれる。
【0072】
更なる態様では、この工程(E)は更に、グリカンを、一つを超えるグリカン分解酵素と連続的または同時にのいずれかで接触させることを含む。いくつかの態様では、酵素分解は連続的であることにより、全ての(モノ−)糖が直ちに除去されるわけではない。消化されたグリカンを各消化段階の後に分析してグリコシル化プロファイルを得ることができる(例えば、国際公開公報第2006/114663号を参照されたい)。
【0073】
なお更なる態様では、関心が持たれるグリコシル化ポリペプチドのグリコシル化パターンの測定前に、ペプチド消化物を得るために、トリプシン、または例えばArg C、Lys CおよびGlu Cなどのエンドプロテイナーゼを使用することができる。
【0074】
別の態様では、脱グリコシル化工程は、グリカンの切断前にグリコシル化異種ポリペプチドを変性および/またはアンフォールディングさせることを含む。別の態様では、変性剤は、界面活性剤、または尿素、または塩酸グアニジウム、または熱より選択される。更なる態様では、グリコシル化異種ポリペプチドは、変性後に還元される。なお別の態様では、グリコシル化異種ポリペプチドは、還元剤を用いて還元される。ある態様において、還元剤は、DTTまたはβ−メルカプトエタノール、またはTCEPより選択される。更なる態様では、グリコシル化異種ポリペプチドは、還元後にアルキル化剤でアルキル化される。ある態様では、アルキル化剤は、ヨード酢酸またはヨードアセトアミドより選択される。タンパク質のヨウ素化および/または還元は、磁気ビーズにまだ結合しているタンパク質を用いて行うことができる。
【0075】
リコンビナントタンパク質の製造方法の工程(F)において、酵素的または化学的に遊離されたグリカンは、更なる分析のために精製される。本発明のある態様では、グリカン以外の全てが試料から除去される。本発明のある態様では、グリカンの精製は、逆相液体クロマトグラフィーまたは陽イオン交換クロマトグラフィーによって行われる。試料は、例えば、化学的切断または酵素消化後の浄化のために、グリカンとタンパク質を分離するために使用される市販の樹脂もしくはクロマトグラフィー材料および/またはカートリッジシステムを用いて精製される。そのような樹脂、材料およびカートリッジには、GlycoClean H、S、およびRカートリッジなどのイオン交換樹脂および精製カラムが含まれる。いくつかの態様では、GlycoClean Sは、GlycoClean Hと組み合わせて精製に使用される。この固相抽出(SPE)カートリッジは、質量分析(MALDI−TOF)の前のタンパク質の除去および遊離されたグリカンの脱塩に有用な多孔性グラファイトカーボン(PGC)マトリックスを含む。他の態様では、強陽イオン交換樹脂(AG(登録商標)50W-X2)が使用される。
【0076】
異なる精製法の採用によって、異なる材料がふさわしくなることがある。例えば、イオン交換樹脂は、全てBioRad Laboratoriesから入手可能な陽イオン交換樹脂であるBio-Rex(登録商標)(例えばタイプ70)、Chelex(登録商標)(例えばタイプ100)、Macro-Prep(登録商標)(例えばタイプCM、High S、25 S)、AG(登録商標)(例えばタイプ50W、MP)、Ciphergenから入手可能なWCX 2、Dow chemical companyから入手可能なDowex(登録商標)MAC-3、Pall Corporationから入手可能なMustang CおよびMustang S、Whatman plcから入手可能なセルロースCM(例えばタイプ23、52)、hyper-D、partisphere、全てTosoh Bioscience GmbHから入手可能なAmberlite(登録商標)IRC(例えばタイプ76、747、748)、Amberlite(登録商標)GT73、Toyopearl(登録商標)(例えばタイプSP、CM、650M)、BioChrom Labsから入手可能なCM1500およびCM3000、GE Healthcareから入手可能なSP-Sepharose(商標)、CM-Sepharose(商標)、PerSeptive Biosystemsから入手可能なPoros樹脂、Shoko America Inc.から入手可能なAsahipak ES(例えばタイプ502C)、CXpak P、IEC CM(例えばタイプ825、2825、5025、LG)、IEC SP(例えばタイプ420N、825)、IEC QA(例えばタイプLG、825)、Eichrom Technologies Inc.から入手可能な5OW陽イオン交換樹脂、ならびに例えばDow chemical companyから入手可能なDowex(登録商標)1、全てBioRad Laboratoriesから入手可能なAG(登録商標)(例えばタイプ1、2、4)、Bio-Rex(登録商標)5、DEAE Bio-Gel 1、Macro-Prep(登録商標)DEAE、Eichrom Technologies Inc.から入手可能な陰イオン交換樹脂タイプ1、全てGE Healthcareから入手可能なSource Q、ANX Sepharose 4、DEAE Sepharose(例えばタイプCL-6B、FF)、Q Sepharose、Capto Q、Capto S、PerkinElmerから入手可能なAX-300、全てShoko America Inc.から全て入手可能なAsahipak ES-502C、AXpak WA(例えばタイプ624、G)、IEC DEAE、全てTosoh Bioscience GmbHから入手可能なAmberlite(登録商標)IRA-96、Toyopearl(登録商標)DEAE、TSKgel DEAE、Pall Corporationから入手可能なMustang Qなどの陰イオン交換樹脂などの異なる名称で多数の企業から入手可能である。メンブランイオン交換材料において、結合部位は、流路細孔の壁に見出すことができ、拡散性細孔内に隠れておらず、拡散よりも対流による物質移動を可能にする。メンブランイオン交換材料は、例えばSartorius(陽イオン:Sartobind(商標)CM、Sartobind(商標)S、陰イオン:Sartobind(商標)Q)、またはPall Corporation(陽イオン:Mustang(商標)S、Mustang(商標)C、陰イオン:Mustang(商標)Q)、またはPall BioPharmaceuticalsなどのいくつかの企業から異なる名称で入手することができる。好ましくは、メンブラン陽イオン交換材料は、Sartobind(商標)CM、またはSartobind(商標)S、またはMustang(商標)S、またはMustang(商標)Cである。
【0077】
なお他の態様では、グリカンは、透析によって、または付随するタンパク質をエタノールもしくはアセトンで沈殿させてグリカンを含有する上清を取り出すことによって、精製される。タンパク質、界面活性剤(変性工程からのもの)、および/または塩類を除去するための他の実験法には、当技術分野で公知の方法が含まれる。
【0078】
なお他の態様では、グリカンは、磁気ビーズへのグリカンの親和性結合または磁気逆相ビーズ(C18ビーズなど)への結合、塩類およびタンパク質の除去、ならびにビーズからグリカンのその後の溶出によって精製される。
【0079】
本発明にもまた応用できる一般のクロマトグラフィー法およびそれらの使用は、当業者に公知である。例えば、Chromatography, 5th edition, Part A: Fundamentals and Techniques, Heftmann, E. (ed.), Elsevier Science Publishing Company, New York, (1992); Advanced Chromatographic and Electromigration Methods in Biosciences, Deyl, Z. (ed.), Elsevier Science BV, Amsterdam, The Netherlands, (1998); Chromatography Today, Poole, C. F., and Poole, S. K., Elsevier Science Publishing Company, New York, (1991); Scopes, Protein Purification: Principles and Practice (1982); Sambrook, J., et al. (ed.), Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989;またはCurrent Protocols in Molecular Biology, Ausubel, F. M., et al. (eds), John Wiley & Sons, Inc., New Yorkを参照されたい。
【0080】
リコンビナント製造された異種免疫グロブリンの精製のために、例えば、異なるカラムクロマトグラフィー工程の組み合わせがしばしば採用される。一般に、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーに、一つまたは二つの追加の分離工程が続く。最終精製工程は、凝集した免疫グロブリンなどの微量不純物および混入物、残留HCP(ホスト細胞タンパク質)、DNA(ホスト細胞の核酸)、ウイルス、またはエンドトキシンの除去のための、いわゆる「仕上げ工程」である。この仕上げ工程のために、陰イオン交換材料が流路様式でしばしば使用される。
【0081】
親和性材料は、例えば、プロテインA親和性材料、プロテインG親和性材料、疎水性電荷誘導クロマトグラフィー材料(HCIC)、または疎水性相互作用クロマトグラフィー材料(HIC、例えばフェニル−セファロース、アザ−アレノフィリック(aza-arenophilic)樹脂、またはm−アミノフェニルボロン酸)でありうる。好ましくは、親和性材料は、プロテインA材料またはHCIC材料である。
【0082】
この方法の工程(G)では、リコンビナント発現されたタンパク質のグリコシル化プロファイルが測定される。グリコシル化異種ポリペプチド(糖タンパク質)のグリコシル化プロファイルの測定のためにいくつかの技法が利用可能であり、グリコシル化ポリペプチドのグリコシル化パターンを分析するための任意の分析法を採用することができる。「グリコシル化パターンを分析する」という用語は、グリコシル化部位、または/およびグリコシル化部位の占有度、または/および同一性、または/および構造、または/および組成、または/および糖タンパク質のグリカンもしくは/および非糖部分の量、ならびに特異的グリコフォームの同一性および量を測定するために使用することができるデータを得ることを意味する。
【0083】
グリコシル化パターンの分析に使用することのできる方法は、質量分析法、核磁気共鳴法(NMR、2D−NMRなど)、クロマトグラフィー法、または電気泳動法より選択することができる。質量分析法の例は、FAB−MS、LC−MS、LC−MS/−MS、MALDI−MS、MALDI−TOF、TANDEM−MS、FTMS、またはエレクトロスプレーイオン化四重極飛行時間型MSである(ESI−QTOF−MS;例えば、Muthing, J., et al., Biotech. Bioeng. 83 (2003) 321-334参照)。NMR法は、例えば、COSY、TOCSY、またはNOESYである。電気泳動法は、例えば、CE−LIFである(例えば、Mechref, Y., et al., Electrophoresis 26 (2005) 2034-2046参照)である。本発明のある態様では、クロマトグラフィー法は、パルスアンペロメトリック検出を行う高速陰イオン交換クロマトグラフィー(HPAEC;例えば、Field, M., et al., Anal. Biochem. 239 (1996) 92-98を参照されたい)、弱イオン交換クロマトグラフィー(WAX)、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、順相高速液体クロマトグラフィー(NP−HPLC)、逆相HPLC(RP−HPLC)、または多孔性グラファイトカーボンHPLC(PGC−HPLC)である。
【0084】
他の態様では、グリカンは、公知の構造、および/または組成、および/または同一性のグリカン標準の検量線を使用することによって定量される。
【0085】
タンパク質からいったん遊離されたグリカンの糖組成を分析するために使用することのできる他の方法には、化学タグまたは蛍光タグを用いた糖類のラベリングを伴う手順が含まれる。そのような方法は、蛍光体支援糖質電気泳動(FACE)、HPLC、またはキャピラリー電気泳動(CE、例えば、Rhomberg, E., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95 (1998) 4176-4181参照)である。
【0086】
いくつかの態様では、HPLCを用いたグリコシル化プロファイルの測定を質量分析計測で捕捉することができる。MALDI、ESI、またはLC/MSなどの捕捉質量分析データは、十分量の試料が利用できる場合に、より複雑なグリカンの構造を解明することのできる別個の直交技法として、例えばHPLCで測定されたグリコシル化プロファイルの検証のために役立つことができる。
【0087】
本発明のある態様では、グリカンのキャラクタリゼーションのための分析法には、MALDI−TOF MSの使用が含まれる。MALDI−TOF MSでは、未改変グリカンシグナルの相対強度は、試料中のそれらの相対モル比率を表し、中性グリカンのシグナルおよびシアリル化グリカンのシグナルの両方を、相対的に定量可能にする。オリゴ糖の分析のためのMALDI MS技法もまた、記載されている(Juhasz, P., and Biemann, K., Carbohydr. Res. 270 (1995) 131-147; Venkataraman, G., et al., Science 286 (1999) 537-542; Rhomberg, E., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95 (1998) 4176-4781; Harvey, D. J., Mass. Spectrom. Rev. 18 (2000) 349-450)。
【0088】
本発明の実験条件を、下に挙げる実施例に記載する。
【0089】
マトリックス化合物および試料調製の手順は、MALDI MSにおける分析物のイオン応答に重大な影響を及ぼす。本発明のある態様では、マトリックス調製物は、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)である。いくつかの態様では、マトリックス調製物は、スペルミンを有するまたは有さないコーヒー酸である。他の態様では、マトリックス調製物は、スペルミンを有するDHBである。スペルミンは、例えば、300mMの濃度でマトリックス調製物に存在しうる。マトリックス調製物はまた、DHB、スペルミン、およびアセトニトリルの組み合わせでありうる。MALDI MSはまた、NafionおよびATT(6−アザ−2−チオチミン)の存在下で行うこともできる。なお更なる態様では、以下のマトリックスを使用することができる:α−シアノ−4−ヒドロキシ−ケイ皮酸(4−HCCA)、4−ヒドロキシ−3−メトキシケイ皮酸(FA)、3−ヒドロキシピコリン酸(HPA)、5−メトキシサリチル酸(MSA)、DHB/MSA、DHB/MSA/フコース、DHB/イソカルボスチリル(HIC)、または米国特許第5,045,694号および米国特許第6,228,654号に記載されているもの。マトリックスに加えて、塩化ナトリウム濃度(誘導体化されていないオリゴ糖について)、蒸発環境(空気中または真空)、および再結晶化条件(異なる有機溶媒を使用する)などの試料調製手順は、分析全体の感度に影響するおそれがあることから、コントロールしなければならない。
【0090】
追加的に、試料を分析するためにMALDI−TOF MSを使用する場合に、機器のパラメーターもまた改変することができる。これらのパラメーターには、ガイドワイヤー電圧、加速電圧、グリッド値、または/およびネガティブモード対ポジティブモードが含まれる。本発明のある態様では、ポジティブイオンモードにおける未改変グリカンのMALDI−TOF MSのために、本発明の質量分析データの最適記録範囲はm/z200超であり、データの品質向上のためにはm/z1000超である。
【0091】
ネガティブイオンモードにおける未改変グリカンのMALDI−TOF質量分析のために、本発明の質量分析データの最適記録範囲はm/z200超であり、データの品質向上のためにはm/z1000超である。
【0092】
好ましい範囲は、試料グリカンの分子量に依存する。高度の分枝もしくは多糖含量または高シアリル化レベルを有する試料は、好ましくは、ネガティブイオンモードについて記載されたものよりも高い上限を有する範囲で分析される。これらの限度は、好ましくは組み合わされて、最大分子量および最小分子量、または最小上限を伴う最小下限、ならびに同様に分子量昇順の他の限度の範囲を形成する。
【0093】
質量分析スペクトルのグリカン分析には、グリコシル化ポリペプチドのグリカンおよび/または非糖部分のグリコシル化部位の占有度、同一性、構造、組成および/または量、ならびに特異的グリコフォームの同一性および量を測定することが含まれる。このために、グリカンライブラリーを使用する。いくつかの態様では、分析−計算プラットフォームを併用して、グリカンの完全なキャラクタリゼーションを達成する。
【0094】
別の態様では、この方法は更に、そのパターンをコンピューターで作成したデータ構造に記録することを含む。
【0095】
この方法の工程(H)において、グリコシル化ポリペプチドのグリコシル化プロファイルは、予め定められた所望の参照グリコシル化プロファイルと比較される。これは、手動または自動のいずれかで行うことができる。本発明のある態様では、エクセルマクロによる自動分析が使用される。
【0096】
この方法の工程(I)において、工程(A)の細胞クローンは、工程(G)で得られた結果に従って改変された培養条件で、すなわち、工程(G)で測定されたグリコシル化プロファイルが予め定められた参照グリコシル化プロファイルと異なる場合に、培養される。次いで、工程(C)〜(H)は、予め定められた参照グリコシル化プロファイルに従うグリコシル化ポリペプチドを最終的に得るために、数回、一態様では2〜20回、別の態様では2〜10回、または毎日繰り返される。例えば、グリコシル化ポリペプチドがある単糖を少量だけ含有することが検出されたならば、特異的にこの単糖が培養液に添加される(例えば、米国特許第6,673,575号を参照されたい)。
【0097】
本発明の方法の工程(I)における培養条件の改変は、提供された栄養素、緩衝剤、添加剤、糖質、もしくはアンモニウムの種類および濃度の変化、または溶存酸素濃度、またはオスモル濃度、またはpH値、または温度、または細胞密度、または成長段階より選択される。全てのこれらのパラメーターは、参照グリコシル化ポリペプチドのグリコシル化パターンを有するグリコシル化異種ポリペプチドを得るために、単独で、または組み合わせて変化させることができる。これらのパラメーターの全ては、手動または自動のいずれかでコントロールすることができる。例えば、オスモル濃度は、塩化ナトリウム、異なるアミノ酸、加水分解物または水酸化ナトリウムの濃度を変えることによって改変され、pH値は、酸または塩基の添加によって、例えばpH6.9〜pH7.2に改変され、アンモニウム濃度は、例えばグルタミンおよび/またはNHClの添加によってレギュレーションされる。
【0098】
グリコシル化ポリペプチドの精製、グリカンの脱グリコシル化および精製、ならびにその後のMALDI−TOF MS分析は、一態様では、マイクロタイタープレートに入れてハイスループット方式で行うことができ、記載されたシステムの自動化が可能になる。ハイスループット形式は、48ウェルプレートまたは96ウェルプレートなどの標準マルチウェル形式を使用することができる。例えば、本発明の方法は、平行して複数の培養を追跡するためのマルチウェルマイクロプレートおよびマイクロプレートリーダー(例えば、Tecan Safire(商標)、Infinite(商標)、またはSunrise(商標)(Tecan Trading AG, CH))を使用してハイスループット形式で使用してもよい。
【0099】
驚くことに、本発明の方法を使用することによって、グリコシル化異種ポリペプチドのグリコシル化プロファイルの測定のために必要な時間を、当技術分野で公知の手順に比べて短縮することが可能である。特に、磁気親和性ビーズにまだ結合しているグリコシル化ポリペプチドからのグリカンの遊離は、分析時間を効率的に短縮する。本発明の方法は、所望のグリコシル化プロファイルを得るために、発酵の間に培養条件を調整することを可能にする。更に、本発明の方法は、例えばTecanロボットシステムを用いて完全に自動化することができるように、96ウェルマイクロタイタープレート形式で行うことができる。
【0100】
細胞シグナルまたは細胞の段階に応答して糖質構造の急速な変化が起こる、タンパク質の翻訳後グリコシル化の高度に動的な過程の結果として、いくつかの重篤なヒト疾患の主な情報マーカーが得られる。例えば、関節リウマチを有する患者における糖質構造は、強く変わることがあり、そして特異的な糖質が膵臓ガンおよび結腸ガンにおける腫瘍関連マーカーとして使用されることが公知である(Nishimura, S. I., et al., Angew. Chem. Int. Ed 44 (2005) 91-96)。
【0101】
故に、本発明はまた、疾患のグリコシル化マーカーを測定および/または定量することを含む、診断での使用に適する方法に関する。該方法は、請求されたグリコシル化ポリペプチドの製造方法の工程を含む。
【0102】
従って、本発明の局面は、以下の工程を含む、グリコシル化マーカーを測定および/または定量するための方法である:
(A)グリコシル化ポリペプチドを含有する、患者から得られた試料を、磁気親和性ビーズと接触させることによって、該磁気親和性ビーズに該グリコシル化ポリペプチドを結合させること、
(B)結合しているグリコシル化ポリペプチドを有する磁気親和性ビーズを試料から取り出すこと、
(C)磁気親和性ビーズからグリコシル化ポリペプチドを遊離させずに、磁気親和性ビーズに結合しているそのポリペプチドからグリカンを遊離させること、
(E)グリコシル化マーカーの量を測定すること、および
(F)測定されたグリコシル化マーカーの量をグリコシル化マーカーの参照量と比較すること。
【0103】
別の態様では、この方法は、工程(A)の前に、一つまたは複数のクロマトグラフィーカラムに試料をアプライすることによって、それを精製する工程(A−1)を含む。一態様では、この方法は、工程(C)の後および工程(E)の前に、(D)遊離されたグリカンを精製する工程(D)を含む。
【0104】
上記方法を用いて分析されるべき試料は、例えば、血清全体、血漿、滑液、尿、精液または唾液、痰、涙、CSF、糞便、組織または細胞などの体組織または体液の試料でありうる。分析されるべきグリコシル化ポリペプチドは、特異的疾患のための診断マーカーとして公知の試料中の総グリコシル化ポリペプチド、グリコシル化ポリペプチドの一部またはただ一つでありうる。
【0105】
本出願の中で使用される「グリコシル化マーカー」という用語は、ある疾患において増加または減少のいずれかで量が変化している少なくとも三つの単糖から構成される多糖を意味する。
【0106】
一態様では、病状に関連するパターンは、前立腺ガン、黒色腫、膀胱ガン、乳ガン、リンパ腫、卵巣ガン、肺ガン、結腸直腸ガンまたは頭頚部ガンなどのガンに関連するパターンである。他の態様では、病状に関連するパターンは、免疫障害、伝染性海綿状脳症、アルツハイマー病または神経障害などの神経変性疾患、炎症、関節リウマチ、嚢胞性線維症、または感染症(ウイルスまたは細菌感染症)に関連するパターンである。他の態様において、この方法は、予後をモニターするための方法であり、公知のパターンが疾患の予後に関連する。なお別の態様では、この方法は、薬物処置をモニターする方法であり、公知のパターンが薬物処置に関連する。
【0107】
計測されたグリコシル化プロファイルは、一態様では、特異的疾患の一つまたは複数のグリコシル化マーカーを測定するために、健康と考えられる第2の対象の対照糖プロファイルと比較することができる。グリコシル化プロファイルを比較することは、一態様では、プロファイルにおけるピーク比を比較することを伴うことがある。一つを超えるグリコシル化マーカーが同定されている場合に、それらのマーカーのうち、特異的疾患を有すると診断された対象の一つまたは複数のパラメーターと最高の相関を有する一つまたは複数を選択することができる(US2006/0270048もまた参照されたい)。
【0108】
微生物タンパク質を用いたアフィニティークロマトグラフィー(例えばプロテインAまたはプロテインGアフィニティークロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー(例えば陽イオン交換(カルボキシメチル樹脂)、陰イオン交換(アミノエチル樹脂)および混合様式の交換)、イオウ親和性吸着(例えばβ−メルカプトエタノールおよび他のSHリガンドを用いる)、疎水性相互作用または芳香族吸着クロマトグラフィー(例えばフェニル−セファロース、アザ−アレノフィリック樹脂、またはm−アミノフェニルボロン酸)、金属キレートアフィニティークロマトグラフィー(例えばNi(II)−およびCu(II)−親和性材料を用いる)、サイズ排除クロマトグラフィー、および電気泳動法(ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動他)などの異なる方法が十分に確立されており、タンパク質の回収および精製のために広く使用されている(Vijayalakshmi, M. A., Appl. Biochem. Biotech. 75 (1998) 93-102)。
【0109】
以下の実施例および図面は、本発明の理解を助けるために提供され、その真の範囲は、添付の特許請求の範囲に示される。本発明の精神から逸脱せずに、示された手順に改変を加えうることが了解されている。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】確定されたグリコシル化プロファイルを有する抗体Aのリコンビナント製造のための本発明の方法のスキームの例を示す図である。
【図2】モノクローナル抗CCR5抗体を製造する間に試料からPNGaseFで遊離されたオリゴ糖のMALDI−TOF MSを示す図である。実施例2に記載したように、抗体のN−結合型オリゴ糖を遊離させ、DHBマトリックスを使用したポジティブイオンモードのMALDI−TOF MSにより分析した。
【図3】培養の間に培養条件を変えないフェッドバッチ培養において抗CCR5モノクローナル抗体を製造する間の選ばれたグリカンの追跡を示す図である。磁気親和性ビーズに結合している生成抗体の異なる時点でのグリコシル化プロファイルを、PNGase F消化後のMALDI−TOF MSによって測定した。発酵の間における選ばれた各種グリカン構造の相対量を示す。■:Man5、◆:Man6、▲:Man7、および●:Man8。
【図4】培養中の間に培養pHを変えるフェッドバッチ培養において抗CCR5モノクローナル抗体を製造する間の選ばれたグリカンの追跡を示す図である。磁気親和性ビーズに結合している生成抗体の異なる時点でのグリコシル化プロファイルを、PNGase F消化後にMALDI−TOF MSによって測定した。培養の間、8日目にpHを7.2から6.9に変えた。発酵の間における選ばれた各種グリカン構造の相対量を示す。■:Man5、◆:Man6、▲:Man7および●:Man8。
【0111】
実施例
実施例1
抗CCR5モノクローナル抗体の製造
リコンビナント抗CCR5抗体を生成する細胞を、確立された手順により作製し(例えば、Olson, W. C., et al., J. Virol. 73 (1999) 4145-4155; Samson, M., et al., J. Biol. Chem. 272 (1997) 24934-24941; EP1322332; 国際公開公報第2006/103100号;国際公開公報第2002/083172号参照)、コントロールされたバイオリアクター環境(例えば、Meissner, P. et al., Biotechnol. Bioeng. 75 (2001) 197-203参照)で無血清培地中で培養した(フェッドバッチ培養)。温度を37℃に維持し、pHを6.9〜7.2に設定し、溶存酸素濃度を35%に維持した。発酵の開始時に細胞密度は5×10個/mlであった。発酵の間の特定の時点で、リコンビナント抗体を含有する試料を分析のために培養物から取り出した。
【0112】
実施例2
抗体含有試料のグリコシル化プロファイルの分析
各試料について、プロテインGをコーティングされた磁気親和性ビーズ(MagnaBind Protein G, Pierce)300μlをプロテインG IgG結合緩衝液(Protein G IgG Binding buffer, Pierce)250μlで3回洗浄した。各洗浄工程の後に、結合緩衝液を完全に除去した。次いで、準備が終わった磁気親和性ビーズに各試料200μlおよび結合緩衝液100μlを添加した。次いで、この溶液を室温で1時間インキュベーションした。その後、液体を完全に除去した。次いで、インキュベーションしたビーズを、2mM TRIS−HClおよび150mM NaClを含有するpH7.0の溶液250μlで2回洗浄して非特異的結合物質を除去した。その後、ビーズを超純水で3回洗浄した。各洗浄工程の後に液体を完全に除去した。次いで、超純水60μlおよびPNGase F溶液(100mUを超純水100μlに溶かしたもの)2μlをビーズに添加した。消化は37℃で4時間行った。消化後に、1.5M酢酸溶液2.2μlを試料20μlに添加し、室温で更に3時間インキュベーションしてグリコシルアミンを還元型に変換した。次いで、弱陽イオン交換材料の使用によってグリカンを精製した。各試料について、別々のカラムを準備した。陽イオン交換材料(AG(登録商標)50W-X8樹脂、BIO-RAD)を超純水で3回洗浄した。次いで、洗浄された樹脂900μlをクロマトグラフィースピンカラム(Micro Bio-Spin, BIO-RAD)に充填した。カラムを1000×gで1分間遠心分離して過剰の水を除去した。次いで、準備が終わったカラムの表面に各試料22.2μlをロードした。カラムをもう一度1000×gで1分間遠心分離した。液体は、今や精製された糖構造を含有していた。次いで、試料をsDHBマトリックス(1.6mgの2,5−ジヒドロキシ安息香酸および0.08mgの5−メトキシサリチル酸を超純度エタノール125μlおよび10mM NaCl溶液125μlに溶かしたもの)と1:2の比で混合した。次いで、この混合物1.5μlをMALDI−TOFターゲットに直接スポットした。その後のMALDI−TOF分析のために試料を乾燥させた。ポジティブリフレクターモードのMALDI−TOF質量分析装置を測定に使用した。
【0113】
結果:
図3では、フェッドバッチ培養における抗CCR5モノクローナル抗体を製造する間の、選ばれたグリカンの経過を示す。pHは6.9に設定した。発酵の経過において、Man5の含量は着実に増加した結果、15日の培養後には約20%の相対量となった。図4に、変化した環境条件での同抗体のグリコシル化プロファイルを示す:発酵の開始時にpHは7.2に設定した。発酵が開始してから8日後に、pHを6.9に変えた。発酵の最後の数日の間にMan5の相対量が減少した結果として、図3に示す実験で得られたデータに比較して低いMan5の最終相対量(16%)となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(A)グリコシル化異種ポリペプチドを生成している真核細胞の培養物の培養液から試料を得ること、
(B)磁気親和性ビーズへの該異種ポリペプチドの結合に適する条件で、該試料を該ビーズと接触させること、
(C)該磁気親和性ビーズから該異種ポリペプチドを遊離させずに、該磁気親和性ビーズに結合している該異種ポリペプチドからグリカンを遊離させること、
(D)高速液体クロマトグラフィーによって、(C)の遊離されたグリカンを精製すること、
(E)マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析によって(D)の精製されたグリカンを分析することによって、該異種ポリペプチドのグリコシル化プロファイルを測定すること
を含む、発酵の間にリコンビナント製造されたグリコシル化ポリペプチドのグリコシル化プロファイルのオンライン分析法。
【請求項2】
以下の工程:
(A)異種ポリペプチドをコードする核酸を含む細胞を提供すること、
(B)該異種ポリペプチドの発現に適する条件で該細胞を培養すること、
(C)該細胞の培養液から試料を得ること、
(D)磁気親和性ビーズへの該異種ポリペプチドの結合に適する条件で、該試料を該磁気親和性ビーズと接触させること、
(E)該異種ポリペプチドを遊離させずに、該磁気親和性ビーズに結合している該異種ポリペプチドからグリカンを遊離させること、
(F)工程(E)の遊離されたグリカンを精製すること、
(G)該異種ポリペプチドのグリコシル化プロファイルを測定すること、
(H)測定された該グリコシル化プロファイルを参照グリコシル化プロファイルと比較すること、
(I)工程(H)で得られた結果に従って培養条件を調整し、場合により該培養および工程(J)を継続するか、または該培養を中止しそして該グリコシル化異種ポリペプチドを得ること、ならびに
(J)該グリコシル化異種ポリペプチドを得るために工程(C)〜(H)を繰り返すこと
を含む、グリコシル化異種ポリペプチドのリコンビナント製造方法。
【請求項3】
グリコシル化異種ポリペプチドが、免疫グロブリンであることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
磁気親和性ビーズが、それにプロテインA、G、またはLが結合している磁気親和性ビーズであることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
グリカンを遊離させることが、N−グリコシダーゼによって酵素的に遊離させることであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
グリカンを遊離させることが、ヒドラジン分解によって化学的に遊離させることであることを特徴とする、請求項1〜4記載の方法。
【請求項7】
遊離されたグリカンを精製することが、逆相クロマトグラフィー樹脂および/または陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂を使用した高速液体クロマトグラフィーによることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
異種ポリペプチドのグリコシル化プロファイルを測定することが、遊離および精製されたグリカンのマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析または定量的高速液体クロマトグラフィー分離によることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
工程(D)〜(G)が、マイクロタイタープレートを使用したハイスループット形式で行われることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項10】
培養条件を調整することが、以下:
(i)栄養素、糖質、添加物、緩衝剤、アンモニウム、溶存酸素の濃度、または/および
(ii)オスモル濃度、pH値、温度、もしくは細胞密度、または/および
(iii)成長状態
における一つまたは複数の変化を含むことを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項11】
追加の工程(K):
(K)培養液または細胞からグリコシル化異種ポリペプチドを回収すること
を含むことを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項12】
工程(K)の後に追加の工程(L):
(L)異種ポリペプチドを精製すること
を含むことを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項13】
工程(E)が:
(E)異種ポリペプチドからグリカンを遊離させること、および異種免疫グロブリンが結合している磁気親和性ビーズを試料から除去することによって、該磁気親和性ビーズから該異種ポリペプチドを遊離させずに、遊離された該グリカンを回収すること
であることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項14】
工程(F)が:
(F)(E)において遊離されたグリカンを陽イオン交換樹脂または逆相を用いる高速液体クロマトグラフィーによって精製すること
であることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項15】
細胞が、CHO細胞、またはBHK細胞、またはHEK細胞であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
栄養素が、測定されたグリコシル化プロファイルに応じて細胞の培養全体にわたり連続的に添加されることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項17】
培養液および栄養素溶液が、動物血清を有さないことを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項18】
培養が、懸濁培養であることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項19】
成長期後の細胞濃度が、1×10個/ml超もしくは5×10個/ml超であるか、または該細胞が、100g/l超もしくは200g/l超の乾燥細胞重量を有することを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項20】
培養の間の全糖の総濃度が、0.1g/l〜10g/lであることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項21】
全糖の総濃度が、培養液中に2g/l〜6g/lであることを特徴とする、請求項20記載の方法。
【請求項22】
グリコシル化異種ポリペプチドが、それぞれ工程(B)または(D)において結合しているポリペプチドの75重量%超を占めることを特徴とする、請求項1〜21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
工程(E)が、さらに、遊離されたグリカンをグリカン分解酵素と接触させることを含むことを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項24】
脱グリコシル化工程(E)が、グリカンの切断前にグリコシル化異種ポリペプチドを変性および/またはアンフォールディングさせることを含むことを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項25】
グリコシル化異種ポリペプチドが、変性後に還元されることを特徴とする、請求項24記載の方法。
【請求項26】
以下の工程:
(A)哺乳動物細胞、細胞培養上清、細胞溶解液、または試料に由来するグリコシル化ポリペプチドを含む試料を磁気親和性ビーズと接触させること、
(B)該グリコシル化ポリペプチドを遊離させずに、親和性結合している該グリコシル化ポリペプチドからN−グリコシダーゼによってグリカンを酵素的に遊離させること、
(C)遊離された該グリカンをHPLCおよび/または陽イオン交換クロマトグラフィーによって精製すること、
(D)LC−MS、MALDI−TOF、または定量的HPLCによってグリコシル化マーカーの量を測定すること、
(E)グリコシル化プロファイルを参照プロファイルと比較することによって、該グリコシル化マーカーを定量すること
を含む、哺乳動物細胞によって発現されるグリコシル化マーカーを定量する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−536355(P2010−536355A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−521356(P2010−521356)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【国際出願番号】PCT/EP2008/006835
【国際公開番号】WO2009/027041
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】