説明

グリシジルアクリレートの製造方法

【課題】グリシジルメタクリレートとは異なる特性を有するグリシジルアクリレートに最適な製造方法であって、グリシジルアクリレートを高い収率で製造することができる製造方法を提供する。
【解決手段】グリシジルアクリレートの合成工程から粗生成物を得た後に精製工程を行ってグリシジルアクリレートを製造する方法であって、該精製工程は、粗生成物の固液分離工程と抽出工程とをこの順で行うグリシジルアクリレートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリシジルアクリレートの製造方法に関する。より詳しくは、塗料、接着剤等の原料として好適に用いることができるグリシジルアクリレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリシジルアクリレートは、エポキシ基を含む(メタ)アクリル酸エステルの一種である。エポキシ基を含む(メタ)アクリル酸エステルは反応性モノマー等として有用であり、塗料、接着剤、粘着剤、繊維改質剤、分散剤、レジスト材料等のモノマー原料等として広い分野で使用されている。従来より、これらエポキシ基を含む(メタ)アクリル酸エステルの中でも、(メタ)アクリロイル基の部分がメタクリロイルであるグリシジルメタクリレート(GMA)は、汎用品として世の中に広く出回っており、その製法や精製に関する特許文献等も数多く存在する。しかし、アクリロイルであるグリシジルアクリレート(GA)は、反応性が高いという利点があるものの、これまで工業的にも試薬的にも殆ど用いられておらず、また特許文献等においても見受けられない。グリシジルアクリレート(GA)が用いられていない理由は、非常に皮膚刺激性が高く、扱いにくいことや、化合物の安定性が低く、合成・精製が難しいことが挙げられる。
【0003】
従来、グリシジル(メタ)アクリレートは、一般に、次に示すような3種類の方法で製造されている。すなわち、(メタ)アクリル酸とエピクロロヒドリンとを第4級アンモニウム塩の存在下に反応させ、(メタ)アクリル酸の3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルエステルを得た後、これをアルカリにより脱塩化水素させる方法(第1の方法);塩基性触媒の存在下、(メタ)アクリル酸メチルとグリシドールとをエステル交換反応させる方法(第2の方法);(メタ)アクリル酸とアルカリ金属を反応させて(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩を得た後、第4級アンモニウム塩の存在下にエピクロロヒドリンと反応させ、脱塩化アルカリさせる方法(第3の方法)である。
【0004】
このうち、第3の方法として具体的には、特許文献1に、過剰量のエピクロロヒドリン中で(メタ)アクリル酸とアルカリ金属の炭酸塩/重炭酸塩とを酸素含有ガスを吹き込みながら中和させて(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩を生成せしめた後、これとエピクロロヒドリンとを反応させて(メタ)アクリル酸のグリシジルエステルを合成し、反応後にエピクロロヒドリンを回収しながら冷却した後、水酸化アルカリ水溶液を添加して水層と有機層とを分離し、得られた有機層に触媒不活性化剤を加え、次いで酸素含有ガスを吹き込みながら蒸留分離する方法が開示されている。また、特許文献2には、メタクリル酸ナトリウムとエピクロロヒドリンとを反応させてグリシジルメタクリレートを製造するに際し、反応終了後に生成した塩化ナトリウムを含む反応液を水洗して油水分離した後、油層中の副生グリシドールを水で抽出除去し、次いで油層を蒸留してグリシジルメタクリレートを得る方法が開示されている。更に、特許文献3には、(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩と、エピクロロヒドリンとを触媒の存在下で反応させて(メタ)アクリル酸グリシジルを製造するに際し、反応生成液に含まれるアルコール性不純物を塩基性触媒の存在下で酸無水物と反応させた後、この反応生成液を蒸留精製する方法が開示されている。更に、特許文献4には、(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩とエピクロロヒドリンとを四級アンモニウム塩の存在下で反応させ、得られた反応混合物から副生したアルカリ金属塩化物を除去し、得られた粗グリシジル(メタ)アクリレートを蒸留精製するグリシジル(メタ)アクリレートの製造法であって、粗グリシジル(メタ)アクリレートを蒸留精製する際に得られたグリシジル(メタ)アクリレートを含有する初留を洗浄した後、この洗浄した初留と、グリシジル(メタ)アクリレートを製造する際の粗グリシジル(メタ)アクリレートとを混合するグリシジル(メタ)アクリレートの製造法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−59268号公報(第2、5〜6頁)
【特許文献2】特開昭55−85575号公報(第1頁)
【特許文献3】特開平11−302269号公報(第2、5〜7頁)
【特許文献4】特開2009−137882号公報(第2、10頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、(メタ)アクリル酸グリシジルの製法が種々開示されている。しかしながら、特許文献1〜4等の手法において製造されているものは、実質的にはグリシジルメタクリレートであり、(メタ)アクリロイル基の部分がアクリロイルとなったグリシジルアクリレートの製造について具体的に検討したものはない。上述したように、(メタ)アクリロイル基の部分がアクリロイルであるグリシジルアクリレートは、(メタ)アクリロイル基の部分がメタクリロイルであるグリシジルメタクリレートに比べて化合物の安定性が低い等、単にメタクリロイル基がアクリロイル基となったことから予期される以上の特性の違いを有している。したがって、従来のグリシジルメタクリレートの製造手法をそのままグリシジルアクリレートの製造に用いても高い収率で生成物を得ることはできなかった。このため、グリシジルアクリレートの特性に応じた、グリシジルメタクリレートとは違った最適な製造方法が求められている。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、グリシジルメタクリレートとは異なる特性を有するグリシジルアクリレートに最適な製造方法であって、グリシジルアクリレートを高い収率で製造することができる製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、グリシジルアクリレートに最適な製造方法について検討するため、まず、グリシジルアクリレートとグリシジルメタクリレートとの特性の違いについて検討し、グリシジルアクリレートがグリシジルメタクリレートに比べて水への溶解性が大きいという違いがあることを見出した。グリシジルアクリレートの製造においては、合成工程の後、粗生成物から触媒を除去するために精製工程において抽出を行うことになるが、グリシジルアクリレートは水への溶解性が高いため、抽出を行うと、グリシジルアクリレートが水層に多く移り、粗生成物中に含まれる塩の除去効率が下がること、すなわち、グリシジルアクリレートと塩が共存する系では抽出の効率が悪く、グリシジルアクリレートの収率を下げる原因となっていることを見出した。そこで、グリシジルアクリレートを合成した後の精製工程において、抽出工程の前に固液分離工程を行って、予め粗生成物中の塩を除去することとすると、抽出工程における水の使用量を最小限にすることができ、これによって、抽出工程におけるグリシジルアクリレートのロスを最小限にして収率を高めることができることを見出した。
この方法は、グリシジルメタクリレートとは異なるグリシジルアクリレート特有の特性に着目し、グリシジルアクリレートの収率を効果的に向上させることができるものであり、グリシジルアクリレートを製造する場合に特に有用な方法である。
更に本発明者は、精製工程において、抽出工程の後に蒸留工程を行い、蒸留工程で得られた留出液を抽出工程及び/又はそれよりも前の工程に戻すこととすると、グリシジルアクリレートのロスを更に少なくして収率を向上させることができることも見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、グリシジルアクリレートの合成工程から粗生成物を得た後に精製工程を行ってグリシジルアクリレートを製造する方法であって、上記精製工程は、粗生成物の固液分離工程と抽出工程とをこの順で行うことを特徴とするグリシジルアクリレートの製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明のグリシジルアクリレートの製造方法は、合成工程と精製工程とを含むものである限り、その他の工程を含んでいてもよく、合成工程と精製工程の間に合成工程で発生する排ガスを除去する工程等を有するものであってもよい。また、精製工程が粗生成物の固液分離工程と抽出工程とをこの順で行うものである限り、固液分離工程と抽出工程との間に他の工程があってもよく、固液分離工程や抽出工程をそれぞれ1回行うものであってもよく、2回以上行うものであってもよい。
なお、本発明の製造方法の精製工程のみ行うものであっても、グリシジルアクリレートを製造することになる限り、本発明の技術的範囲に含まれることになる。
【0011】
上記固液分離工程は、グリシジルアクリレートの合成によって生成する粗グリシジルアクリレート中の固体部分と液体部分とを分離することができる限り、その方法は特に制限されず、ろ過、遠心分離、デカンテーション等を用いることができる。
グリシジルアクリレートの粗生成物中には、反応により副生する塩等の固体の不純物が含まれることになるが、固液分離工程においてこれらを除去することで、後の抽出工程における水の使用量を減らしても粗生成物中に残存する不純物を充分に除去することが可能となり、グリシジルアクリレートが水層に移ることによる生成物のロスを最小限にすることができる。
固液分離の方法としては、分離効率及び操作性の簡便性から、これらの中でも、ろ過が好ましい。
固液分離をろ過により行う場合、加圧、常圧、減圧のいずれの条件で行ってもよいが、加圧若しくは常圧が好ましい。
【0012】
本発明の製造方法では、上記固液分離工程の後に粗生成物を水洗する工程を含んでいてもよい。この場合、水洗に用いる水の量は、粗生成物100質量%に対して下限が5質量%以上が好ましい。より好ましくは7質量%以上であり、更には10質量%以上が好ましい。上限は50質量%以下であることが好ましい。より好ましくは35質量%以下であり、更には25質量%以下が好ましい。
また、水洗に用いる水温の下限が0℃以上であることが好ましい。より好ましくは5℃以上であり、更には10℃以上が好ましい。上限は50℃以下であることが好ましい。より好ましくは40℃以下であり、更には35℃以下が好ましい。このような温度の水を用いることで、グリシドールを効率的に水層へ溶解させることができ、且つグリシジルアクリレートの水層への溶解を抑制することができる。
【0013】
上記抽出工程においては、更に粗生成物中に含まれる不純物が除かれることになる。グリシジルアクリレートが後述する塩基性触媒の存在下、アクリル酸のアルカリ金属塩とエピクロロヒドリンとを反応させる方法により合成される場合、粗生成物中には、塩基性触媒、塩化合物と副生するグリシドールとが含まれることになる。本発明の製造方法では、塩化合物を固液分離工程で除去した後、抽出工程では、塩基性触媒が除去されることが好ましい。
すなわち、本発明の製造方法において、精製工程は、塩化合物を除去した後、油層と水層とに分離する抽出工程によって塩基性触媒を除去する工程であることは本発明の好適な実施形態の1つである。
抽出工程においては、更に、固液分離工程で除去しきれなかった塩化合物、及び、グリシドールも除去されることが好ましい。
【0014】
上記抽出工程においては、粗生成物の容液に水層を形成する水を添加して混合し、水層と油層とに分離した後、油層を回収することになる。水層を形成するために水を加えることになるが、必要に応じて水に添加物を加えたものを用いてもよい。添加物としては、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
また、水層を形成するために加えられる水は、水温の下限が0℃以上であることが好ましい。より好ましくは5℃以上であり、更には10℃以上が好ましい。上限は50℃以下であることが好ましい。より好ましくは40℃以下であり、更には35℃以下が好ましい。このような温度の水を用いることで、グリシドールを効率的に水層へ溶解させることができ、且つグリシジルアクリレートの水層への溶解を抑制することができる。
【0015】
上記水層を形成する水の添加量としては、粗生成物の容液100質量%に対して50質量%以下であることが好ましい。より好ましくは35質量%以下であり、更には25質量%以下が好ましい。上述したように、生成物であるグリシジルアクリレートは、グリシジルメタクリレートに比べて水への溶解性が大きく、抽出工程において一部が水層へ移るため、グリシジルアクリレートの収率を高めるためには、抽出工程において用いる水の量をなるべく少なくすることが好ましい。本発明の製造方法では、抽出工程の前に固液分離工程を行って塩の除去を行っていることから、水の量をこのような範囲としても、粗生成物中の不純物を充分に除去することができ、グリシジルアクリレートのロスを少なくすることができる。
また、水の添加量の下限は、粗生成物の容液100質量%に対して3質量%以上が好ましい。より好ましくは5質量%以上であり、更には7質量%以上が好ましい。
【0016】
本発明の製造方法における精製工程は、抽出工程の後に蒸留工程を行うものであることが好ましい。抽出工程の後に蒸留を行うことで、生成物の純度を更に向上させることができる。このように精製工程において、抽出工程の後に蒸留工程を行う場合に、本発明の製造方法が更に大きな意義を有することになる。すなわち、グリシジルメタクリレートは、熱に対する安定性がグリシジルアクリレートよりも高く、熱がかかる蒸留工程においても、重合がおこる危険性は高くない。したがって、充分に時間をかけて蒸留して生成物を精製することができるために蒸留工程前の不純物除去工程は、固液分離工程、又は、抽出工程のいずれか一方のみでもよい。これに対し、グリシジルアクリレートは、グリシジルメタクリレートに比べて熱に対する安定性が低く、蒸留時の加熱により蒸留装置内で重合が起こる場合がある。このため、グリシジルアクリレートは、蒸留装置内での重合を避けるために蒸留工程をなるべく短い時間で行うことが好ましく、蒸留工程前の不純物除去工程で不純物をできるだけ除去しておくことが重要である。したがって、グリシジルアクリレートの製造においては、精製工程において固液分離工程と抽出工程とをこの順で行うことは、このような蒸留工程を含む製造方法に用いられる場合に更に大きな意義を有することになり、これによりグリシジルアクリレートを高い収率かつ高い純度で得ることが可能となる。
【0017】
上記蒸留工程においては、更に蒸留設備内に水蒸気を吹き込みながら蒸留を行うことが好ましい。水蒸気を吹き込むことで粗生成物中に残留しているエピクロロヒドリンやその他の塩素含有化合物等をより効率的に留出させることができる。
吹き込む水蒸気の量は、粗生成物の量や蒸留設備の大きさ等に合わせて適宜設定されることになるが、蒸留工程における留出量100質量%に対して0.1〜5質量%であることが好ましい。より好ましくは、1〜3質量%である。
水蒸気を吹き込みながら蒸留を行う際は、10〜40Torr(1Torr=133.322Pa)の圧力で、塔頂温度が40〜70℃の温度で蒸留を行うことが好ましい。
【0018】
上記精製工程は、抽出工程の後に蒸留工程を行い、蒸留工程で得られた留出液を抽出工程及び/又はそれよりも前の工程に戻すものであることが好ましい。蒸留においては、精製されたグリシジルアクリレートと不純物とが分離され、不純物を含む留出液が得られることになり、留出液には未反応の反応原料であるエピクロロヒドリンや目的物であるグリシジルアクリレート、副生物であるグリシドール等が含まれている。グリシジルアクリレートとグリシドールとは沸点が近く、分離しにくいため、グリシドールを含む留出液を前の工程に戻すと精製がし難くなるとも考えられる。しかし、留出液を抽出工程及び/又はそれよりも前の工程に戻すと、抽出工程等によりグリシドールが除去されるため、グリシジルアクリレートと分離することができ、グリシジルアクリレートを無駄なく回収して収率をより高めることができる。また、留出液には、未反応の反応原料であるエピクロロヒドリンも含まれるため、留出液を合成工程に戻すと、反応原料を無駄なく使用することができる。留出液は抽出工程及び/又はそれよりも前の1つの工程に戻してもよく、2つ以上の異なる工程に戻してもよい。
【0019】
上記蒸留工程は、単蒸留を行った後、多段蒸留を行う工程であることが好ましい。このように蒸留工程を分け、まず単蒸留で粗生成物中のエピクロロヒドリンの大半を除き、その後の多段蒸留で残留したエピクロロヒドリン、グリシドール等の不純物を除去するようにすると、不純物の分離効率を高くすることができ、不純物をより充分に除去することができる。そして、これらの蒸留工程で生成物と分離され、留出液として回収されたエピクロロヒドリンを合成工程に戻し、グリシジルアクリレート等を抽出工程及び/又はそれよりも前の工程に戻すことで、生成物の収率を高め、また、反応原料を有効に利用することができる。
すなわち、上記精製工程は、蒸留工程が単蒸留を行った後、多段蒸留を行う工程であり、単蒸留によってエピクロロヒドリンを回収し、該エピクロロヒドリンを合成工程に戻すと共に、多段蒸留における留出液を抽出工程及び/又はそれよりも前の工程に戻す工程であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
また、上記多段蒸留工程において留出液、及び、精製したグリシジルアクリレートを分離した後に残るボトム液は、多段蒸留工程に戻して再度多段蒸留を行うことが生成物の収率向上、及び、反応原料の有効利用の点から好ましい。
【0020】
上記精製工程は、多段蒸留の初留における留出液を抽出工程及び/又はそれよりも前の工程に戻すものであることが好ましい。未反応の反応原料であるエピクロロヒドリンやグリシドール等の不純物は、蒸留開始後初期の留出液(初留)に多く含まれることから、このような初留を抽出工程及び/又はそれよりも前の1つの工程に戻すことでより効果的に反応原料の有効利用をすることができる。初留としては、蒸留工程に供する粗生成物溶液全体を100質量%としたときに、留出開始後から50質量%分に相当する量に達するまでの留出液を用いることが好ましい。より好ましくは、留出開始後から30質量%分以下に相当する量であり、更に好ましくは、25質量%分以下に相当する量である。
【0021】
上記多段蒸留における留出液は、抽出工程に戻すことが好ましい。留出液には、グリシジルアクリレートの他に、グリシドールやエピクロロヒドリン等が含まれるが、グリシドールは主に抽出工程で、エピクロロヒドリンは主に単蒸留工程でそれぞれ除かれ、その他の不純物も抽出や蒸留の工程で除かれることになるため、製造工程全体の効率を考えると多段蒸留における留出液は抽出工程に戻すことが最も好ましい。
【0022】
上記単蒸留は、10〜200Torrの圧力下で、50〜80℃の温度で行うことが好ましい。このような圧力、温度で蒸留を行うことで、効率的にエピクロロヒドリンを分離することができる。圧力は、より好ましくは、15〜170Torrである。
また、温度は、より好ましくは、60〜70℃である。
なお、単蒸留では、エピクロロヒドリンを除去するにつれて、内容物の組成が大きく変わってくることから、内容物の組成変化に合わせて適宜圧力や温度を変化させながら蒸留を行うことが好ましく、蒸留装置内温が上記好ましい温度範囲内で変動するように温度、圧力を制御することが好ましい。例えば、蒸留開始時には、170Torr、75℃に設定して、蒸留装置内温が70℃に達すれば、減圧して130Torrに設定し、蒸留装置内温が60℃前半まで下がったら、また70℃まで昇温させ、70℃に達すれば、圧力を下げるといった操作を繰り返し、最終的には15Torr、内温70℃まで単蒸留で行う。このような操作は、本発明の単蒸留における好ましい蒸留操作の1つである。
【0023】
上記多段蒸留は、0.01〜100Torrの圧力下で、蒸留塔装置内温が30〜180℃で行うことが好ましい。このような圧力、温度で蒸留を行うことで、効率的に目的物であるグリシジルアクリレートと、残留する不純物とを効率的に分離することができる。圧力は、より好ましくは、0.1〜70Torrであり、更に好ましくは、1〜50Torrである。
また、蒸留塔装置内温は、より好ましくは、50〜160℃であり、更に好ましくは、60〜140℃である。
【0024】
上記多段蒸留における蒸留塔の理論段数は、下段が2段以上であることが好ましく、5段以上がより好ましい。また上限は50段以下が好ましく、25段以下がより好ましい。理論段数が2段より少ないと、グリシドールとグリシジルアクリレートを充分に分離することができないおそれがある。
【0025】
本発明のグリシジルアクリレートの製造方法において、合成工程は、塩基性触媒の存在下、アクリル酸のアルカリ金属塩とエピクロロヒドリンとからグリシジルアクリレートを合成し、塩化合物とグリシドールとを含む粗生成物が生成する工程であることが好ましい。合成工程がこのような反応により行われると、本発明の効果がより充分に発揮されることになる。
【0026】
アクリル酸のアルカリ金属塩としては、特に限定されず、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウムの塩等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
【0027】
上記反応において、エピクロロヒドリンの使用量としては、アクリル酸のアルカリ金属塩1モルに対し、1〜15モルであることが好ましい。この範囲に設定することによって、反応を効率的にすすめることができ、高い収率で目的物たるグリシジルアクリレートを合成することが可能になる。より好ましくは2〜11モルであり、更に好ましくは3〜9モルである。
【0028】
上記合成工程において用いられる塩基性触媒としては、また、エピクロロヒドリン等のエポキシ化合物が開環や重合を起こさないものであることが好ましく、塩基性触媒である有機塩基としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミンや、テトラメチルアンモニウム=ヒドロキシド、テトラエチルアンモニウム=ヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウム=ヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムクロリド、トリメチルエチルアンモニウムクロリド、ジメチルジエチルアンモニウムクロリド、メチルトリエチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、トリメチルベンジルアンモニウムクロリド、トリエチルベンジルアンモニウムクロリド等の第4級アンモニウム塩が挙げられる。これらの触媒は、単独で用いてもよいし、複数の触媒を併用してもよい。
【0029】
上記塩基性触媒の中でも、第4級アンモニウム塩が特に好ましい。具体的には、テトラメチルアンモニウムクロリド、トリメチルエチルアンモニウムクロリド、ジメチルジエチルアンモニウムクロリド、メチルトリエチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、トリメチルベンジルアンモニウムクロリド、トリエチルベンジルアンモニウムクロリド等が挙げられる。中でもテトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、トリエチルベンジルアンモニウムクロリド、トリメチルベンジルアンモニウムクロリドが好適である。なお、第4級アンモニウム塩は単独で使用してもよいし、任意の2種以上のものを組み合わせて使用してもよい。
【0030】
上記触媒の使用量は、反応原料であるアクリル酸のアルカリ金属塩とエピクロロヒドリンとの合計量100重量部に対して、0.0001重量部以上が好適である。より好ましくは0.0005重量部以上、更に好ましくは0.001重量部以上、特に好ましくは0.002重量部以上である。また、3重量部以下が好適であり、より好ましくは1重量部以下、更に好ましくは0.5重量部以下、特に好ましくは0.1重量部以下である。
【0031】
上記反応はまた、酸化防止剤や重合禁止剤等の安定剤の存在下で行われることが好ましい。これにより、生成されたグリシジルアクリレートの分解をより抑制して、更に収率の改善を図ることができる。
上記安定剤としては特に限定されず、通常、酸化防止剤や重合禁止剤等として用いられているものを使用することができる。例えば、リン系、N−オキシル系、フェノール系、アミン系、硫黄系、遷移金属系等が好適であり、中でも、リン系やN−オキシル系、フェノール系を用いることが好ましい。特に、上記反応工程が、アルキルフェノール系化合物(重合禁止剤)の存在下で行われる形態や、リン系酸化防止剤及び/又はN−オキシル系酸化防止剤の存在下で行われる形態は、本発明の好適な形態である。
なお、これらの化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
上記アルキルフェノール系化合物は、1つ又は複数の芳香環を有し、1つの芳香環に1つだけ水酸基を有し、かつ該芳香環にアルキル基を有する化合物である。このようなアルキルフェノール系化合物の存在下で上記反応工程を行うことによって、グリシジルアクリレートの合成を高い収率で行うことができ、生産性を大幅に向上させることができる。また、生産性が向上するため、低コスト化を図ることもできる。これは、アルキルフェノール系化合物が、アクリル酸塩が有するラジカルを一時的にトラップすることで、アクリル酸同士の反応を抑制することができることに起因するものと考えられる。ここで、例えば、1つの芳香環に2つ以上の水酸基が存在するアルキルジフェノール系化合物を用いた場合には充分な収率が得られないおそれもある。このように、上記反応工程をアルキルフェノール系化合物の存在下で行う形態は、本発明の好適な形態の1つである。すなわち、アクリル酸塩とエポキシ化合物とを、アルキルフェノール系化合物を重合禁止剤として反応させることが好適である。
なお、「1つの芳香環に1つだけ水酸基を有する」とは、1つの芳香環を形成する炭素原子のいずれかに、水酸基が1つだけ結合していることを意味する。
【0033】
上記アルキルフェノール系化合物において、水酸基を1つだけ有する芳香環は、アルコキシ基を有していないことが好ましい。水酸基が結合した芳香環に、更にアルコキシ基が結合しているアルキルフェノール系化合物である場合には、重合禁止能の効果が充分とはならないおそれがある。アルコキシ基とは、例えば、メトキシ基、エトキシ基等である。このような形態であれば、本発明で得られるエポキシ基含有アクリル酸エステルの収率をより改善することができ、本発明の効果をより充分に得ることができる。
【0034】
上記アルキルフェノール系化合物の構造は、特に限定されず、1つの芳香環にアルキル基が1つ以上結合している形態であればよい。アルキル基は特に限定されないが、炭素数が1〜10のアルキル基であることが好ましく、置換基があってもよい。
上記アルキル基として具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられるが、炭素原子が直線状に連なった鎖状の形態であってもよいし、分岐した形態であってもよい。また、環状の形態(例えば、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基)であってもよい。より好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数が1〜5のアルキル基であり、更に好ましくは、メチル基、ブチル基である。
上記アルキル基の側鎖に結合する置換基としては、1つの芳香環に2つ以上の水酸基を有するもの以外であることが好ましく、例えば、フェニル基等の芳香族置換基であってもよい。
【0035】
上記アルキルフェノール系化合物として特に好ましくは、1つ又は複数の芳香環を有し、1つの芳香環に1つだけ水酸基を有するものであって、水酸基を有する芳香環のオルト位に、置換基を有していてもよい炭素数が1〜10のアルキル基を有する形態である。このような形態のアルキルフェノール系化合物は、本発明の効果をより充分に発揮し、収率の向上を図ることができる。また、入手が容易であり、安定性が高いことからも好ましい。
【0036】
上記アルキルフェノール系化合物として具体的には、下記の化合物等が挙げられる。
2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(例えば、「アンテージW−400」、川口化学工業株式会社製)、2,2’−メチレン−ビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)(例えば、「アンテージW−500」、川口化学工業株式会社製)、1,3,5−トリス−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸(例えば、「アデカスタブAO20」、株式会社ADEKA製)、1,1,3−トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン(例えば、「アデカスタブAO30」、株式会社ADEKA製)、4,4−ブチリデン−ビス−(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(例えば、「アデカスタブAO40」、株式会社ADEKA製)、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(例えば、「アデカスタブAO50」、株式会社ADEKA製)、テトラキス−(メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタン(例えば、「アデカスタブAO60」、株式会社ADEKA製)、トリ−エチレングリコール−ビス−[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(例えば、「アデカスタブAO70」、株式会社ADEKA製)、3,9−ビス[1,1−ジ−メチル−2−{β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(例えば、「アデカスタブAO80」、株式会社ADEKA製)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(例えば、「アデカスタブAO330」、株式会社ADEKA製)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(例えば、「SUMILIZER BHT」、住友化学工業社製)、ジ(α−メチルベンジル)フェノール(例えば、「SUMILIZER S」、住友化学工業社製)、N,N’−ビス−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルヘキサメチレンジアミン(例えば、「IRGANOX 1098」、豊田通商株式会社製)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(例えば、「IRGANOX 1330」、豊田通商株式会社製)等。
【0037】
上記反応において、反応系に存在するアルキルフェノール系化合物の量は、アクリル酸のアルカリ金属塩とエピクロロヒドリンとの合計量100重量部に対して、0.001重量部以上であることが好ましい。このような範囲でアルキルフェノール系化合物が含まれることにより、反応をより充分に進行させることができ、収率を更に改善することができる。より好ましくは0.01重量部以上、更に好ましくは0.05重量部以上である。また、5重量部以下が好ましく、より好ましくは3重量部以下、更に好ましくは2重量部以下である。
【0038】
上記リン系酸化防止剤としては、特に限定されず、通常用いられるものを使用すればよい。例えば、下記の化合物等を用いることができる。
トリフェニルホスフィン;トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(シクロヘキシルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−デシロキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン等のモノホスファイト系化合物;4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、4,4’−イソプロピリデン−ビス(フェニル−ジ−アルキル(C12〜C15)ホスファイト)、4,4’−イソプロピリデン−ビス(ジフェニルモノアルキル(C12〜C15)ホスファイト)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジ−トリデシルホスファイト−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(イソデシルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(ノニルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジメチルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニルホスファイト)等のジホスファイト系化合物等。
これらの中でも、トリフェニルホスフィンや、モノホスファイト系化合物が好適である。モノホスファイト系化合物としては、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト等が特に好ましい。
【0039】
上記N−オキシル系酸化防止剤としては、特に限定されず、通常用いられるものを使用すればよい。例えば、下記の化合物等を用いることができる。
2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−N−オキシル(4H−TEMPO)、2,2,6,6−テトラメチル−4−ベンゾイルオキシピペリジン−N−オキシル、4−アセチルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−N−オキシルピペリジル)スクシネート、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチル−4−(2,3−ジヒドロキシプロポキシ)ピペリジン、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチル−4−グリシジルオキシピペリジン、セバシン酸ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシ)(商品名:EC3314A、ナルコジャパン株式会社製)、エステル結合を有する化合物等。
【0040】
上記反応における反応条件は、原料や安定剤、生成物等の種類や量等によって適宜選択すればよいが、例えば、反応温度を120℃以下に設定することが好適である。これにより、生成されたグリシジルアクリレートの分解等の副反応が充分に抑制され、より高い収率を得ることが可能になる。より好ましくは110℃以下、更に好ましくは95℃以下である。また、反応をより充分に進行させる観点から、40℃以上とすることが好適である。より好ましくは45℃以上、更に好ましくは50℃以上である。
【0041】
また反応時間は、原料や安定剤、生成物等の種類や量等によって適宜選択すればよいが、例えば、0.1時間以上であることが好ましく、また、10時間以内であることが好ましい。反応時間が短すぎる場合、反応が進行せず、充分な収率が得られないおそれがあり、反応時間が長すぎる場合、生成したグリシジルアクリレートの分解が生じたりすることによって、充分な収率が得られないおそれがある。反応時間としてより好ましくは0.5時間以上、更に好ましくは1時間以上である。また、7時間以内がより好ましく、5時間以内が更に好ましい。
【0042】
上記反応はまた、常圧下で行ってもよいし、加圧下、減圧下で行ってもよく、特に限定されるものではないが、製造方法を簡易なものとする観点からは、常圧もしくは減圧下で行うものであることが好ましい。
反応を行う雰囲気は、特に限定されるものではないが、例えば、重合禁止剤は、酸素分子が存在することにより効力を発揮する。また、酸素分子が多すぎても爆発範囲に属することとなるため、分子状酸素濃度を適度な濃度に設定することが好ましい。この観点から、反応気相部の分子状酸素濃度を0.01容量%(体積%)以上、10容量%以下に設定することが好ましい。この分子状酸素濃度の範囲は、収率、重合抑制、爆発回避、経済性の観点から有効である。より好ましくは0.02容量%以上、更に好ましくは0.05容量%以上であり、また、より好ましくは9容量%以下、更に好ましくは8容量%以下である。
なお、分子状酸素濃度の設定は、分子状酸素又は空気等の分子状酸素を含むガスと、窒素やアルゴン等の不活性ガスとを、反応器に別々に供給したり、予め混合して供給したりすることにより行われる。
【発明の効果】
【0043】
本発明のグリシジルアクリレートの製造方法は、上述の構成よりなり、グリシジルメタクリレートとは異なる特性を有するグリシジルアクリレートに最適な製造方法であって、精製工程における固液分離工程と抽出工程とをこの順で行うことで、精製工程におけるグリシジルアクリレートのロスを最小限に抑えることで高い収率を得ることができ、更に、精製工程で回収されるグリシジルアクリレートや未反応の反応原料をリサイクルすることで、更に収率を高めるとともに、反応原料を無駄なく使用することができるグリシジルアクリレートの製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明のグリシジルアクリレートの製造方法の製造工程の一例を表す概念図である。図中、GAはグリシジルアクリレートを、EpCHはエピクロロヒドリンを表す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0046】
反応液合成例1
ガス導入管、温度計、攪拌機と油水分離用のデカンターを有する冷却器を備えた内容積5Lの5つ口フラスコに、エピクロロヒドリン(EpCH)3708g、炭酸カリウム380.8g、トリフェニルホスフィン4.47g、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール4.47g、1,3,5−トリス−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸4.47g、セバシン酸ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシ)4.47gをとり、反応液中に酸素/窒素のミックスガスを吹き込みながら60Torr(1Torr=133.322Pa)に減圧してEpCHが沸騰する50℃まで昇温した。留出液をデカンターで水層とEpCH層とに分離し、下層のEpCH相をフラスコに還流しながらアクリル酸361gを約1時間かけて滴下した。滴下終了後、更に20分還流を続けた後に、テトラメチルアンモニウムクロリド1.65gを添加し、内圧300Torr、92℃に昇温して下層のEpCH相を還流しながら4時間反応させた。反応液4332g(グリシジルアクリレート(GA)反応収率64.6mol%)を得た。
【0047】
実施例1(フレッシュエピクロロヒドリン使用)
得られた反応液の塩化カリウム等からなるスラリーを除去する為にろ過を行った。得られたろ液3797gに、25℃の水535gを加えて20分攪拌し、1時間静置した後に、油層と水層とを分離した。
油層から減圧下でエピクロロヒドリンを留去後、グリシジルアクリレートを得た。得られたエピクロロヒドリン(回収エピクロロヒドリン)液は2913g(EpCH含有量93.7%、GA含有量3.8%)、粗GA液量は311g(GA純度80.1%)であった。
続いて、得られた粗GA液について多段蒸留を行い、初留液73.6g(GA含有量37.4%)、グリシジルアクリレート206.2g(GA純度99.8%)を得た。
多段蒸留は、以下の圧力、温度の条件で行った。多段蒸留に用いた蒸留塔の理論段数は10段であった。
初留カット
塔頂:31Torr、84℃まで
蒸留装置内:33Torr、105℃まで
本留
塔頂:31Torr、85〜86℃でGAを留出
蒸留装置内:33Torr、110℃で終了
【0048】
実施例2(リサイクルエピクロロヒドリン、初留リサイクル使用)
反応液合成例1で利用したエピクロロヒドリン3708gの代わりに、実施例1で得られた回収エピクロロヒドリン2913gとフレッシュエピクロロヒドリン979.5g、トリフェニルホスフィン4.47gを4.65g、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール4.47gを4.65g、1,3,5−トリス−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸4.47gを4.65g、セバシン酸ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシ)4.47gを4.65gに変えた以外、反応液合成例1と同様に行った。
得られた反応液の塩化カリウム等からなるスラリーを除去する為にろ過を行った。得られたろ液3911gに、実施例1で得られた蒸留初留液73.6gを加え、更に25℃の水570gを加えて20分攪拌し、1時間静置した後に、油層と水層を分離した。
油層から減圧下でエピクロロヒドリンを留去後、グリシジルアクリレートを得た。得られたエピクロロシドリン液は2910g(EpCH含有量93.7%、GA含有量3.7%)、粗GA液量は456g(GA純度85.9%)であった。
続いて、得られた粗GA液について多段蒸留を行い、初留液96g(GA含有量37.4%)、グリシジルアクリレート330g(GA純度99.8%)を得た。多段蒸留に用いた蒸留塔の理論段数、及び、蒸留の温度、圧力の条件は実施例1と同様であった。
【0049】
比較例1
反応液合成例1と同様にして反応を行った。
得られた反応液の塩化カリウム等からなるスラリーを除去するためにろ過を行った。
得られたろ液から減圧下でエピクロロヒドリンを留去する操作を行ったところ、途中でボトム液の重合が確認されたため中止した。
【0050】
比較例2
反応液合成例1と同様にして反応を行った。
得られた反応液に25℃の水1085gを加えて20分攪拌し、1時間静置した後に、油層と水層とを分離した。
得られた油層から減圧下でエピクロロヒドリンを留去する操作を行ったところ、途中でボトム液の重合が確認されたため中止した。
【0051】
実施例1と比較例1、2の結果から、グリシジルアクリレートの製造においては、固液分離工程と抽出工程のいずれか一方のみを行うだけでは充分ではなく、固液分離工程と抽出工程とをこの順で行うことで、その後の蒸留工程でのグリシジルアクリレートの重合を抑制して、高い収率で製造することができることが確認された。また、実施例1と実施例2との比較から、蒸留工程における初留を抽出工程にリサイクルすることにより、更に高い収率でグリシジルアクリレートが得られることが確認された。実施例2では、エピクロロヒドリンもフレッシュなものだけでなく実施例1で回収されたものも用いており、原料の有効利用も達成することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシジルアクリレートの合成工程から粗生成物を得た後に精製工程を行ってグリシジルアクリレートを製造する方法であって、
該精製工程は、粗生成物の固液分離工程と抽出工程とをこの順で行うことを特徴とするグリシジルアクリレートの製造方法。
【請求項2】
前記合成工程は、塩基性触媒の存在下、アクリル酸のアルカリ金属塩とエピクロロヒドリンとからグリシジルアクリレートを合成し、塩化合物とグリシドールとを含む粗生成物が生成する工程であることを特徴とする請求項1に記載のグリシジルアクリレートの製造方法。
【請求項3】
前記精製工程は、塩化合物を除去した後、油層と水層とに分離する抽出工程によって塩基性触媒を除去することを特徴とする請求項2に記載のグリシジルアクリレートの製造方法。
【請求項4】
前記精製工程は、抽出工程の後に蒸留工程を行い、蒸留工程で得られた留出液を抽出工程及び/又はそれよりも前の工程に戻すことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のグリシジルアクリレートの製造方法。
【請求項5】
前記精製工程は、蒸留工程が単蒸留を行った後、多段蒸留を行う工程であり、単蒸留によってエピクロロヒドリンを回収し、該エピクロロヒドリンを合成工程に戻すと共に、多段蒸留における留出液を抽出工程及び/又はそれよりも前の工程に戻すことを特徴とする請求項4に記載のグリシジルアクリレートの製造方法。
【請求項6】
前記精製工程は、多段蒸留の初留における留出液を抽出工程及び/又はそれよりも前の工程に戻すことを特徴とする請求項5に記載のグリシジルアクリレートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−46626(P2011−46626A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194492(P2009−194492)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】