説明

グリシジル(メタ)アクリレートの製造法

【課題】グリシドールの含有量が少ないグリシジル(メタ)アクリレートを効率よく製造しうる方法を提供すること。
【解決手段】(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩とエピクロロヒドリンとを反応させることによってグリシジル(メタ)アクリレートを製造するグリシジル(メタ)アクリレートの製造法であって、(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩とエピクロロヒドリンとを四級アンモニウム塩の存在下で反応させ、得られた反応混合物から副生したアルカリ金属塩化物を除去し、得られた粗グリシジル(メタ)アクリレートを蒸留精製するまでの間、粗グリシジル(メタ)アクリレートの温度を10℃以下に制御することを特徴とするグリシジル(メタ)アクリレートの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリシジル(メタ)アクリレートの製造法に関する。さらに詳しくは、例えば、塗料用原料、接着剤、紙力増強剤、繊維処理剤、樹脂原料、他の有機化合物の製造中間体などとして有用なグリシジル(メタ)アクリレートの製造法に関する。
【0002】
なお、本明細書にいう「グリシジル(メタ)アクリレート」は、「グリシジルアクリレート」および/または「グリシジルメタクリレート」を意味する。これと同様に、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸」および/または「メタクリル酸」を意味する。
【背景技術】
【0003】
グリシシジル(メタ)アクリレートは、一般に、(メタ)アクリル酸とエピクロロヒドリンとを四級アンモニウム塩の存在下で反応させる方法によって製造されている(例えば、特許文献1参照)。この方法によって製造されたグリシシジル(メタ)アクリレートには、通常、未反応のエピクロロヒドリンが含まれている。したがって、この未反応のエピクロロヒドリンを有効利用するために、グリシシジル(メタ)アクリレートから未反応のエピクロロヒドリンを回収し、回収された未反応のエピクロロヒドリンをグリシシジル(メタ)アクリレートの原料として再利用することが考えられる。
【0004】
しかし、回収された未反応のエピクロロヒドリンには、副生したグリシドールが含まれているため、このエピクロロヒドリンをグリシシジル(メタ)アクリレートを製造する際の原料として用いたとき、生成するグリシシジル(メタ)アクリレートの純度や収率の低下を招くおそれがある。
【0005】
そこで、グリシシジル(メタ)アクリレートの純度や収率が低下することを抑制するために、製造されたグリシシジル(メタ)アクリレートからエピクロロヒドリンを回収し、回収されたエピクロロヒドリンに含まれているグリシドールの含有量を低減させるメタクリル酸グリシジルの製造方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
確かに、回収されたエピクロロヒドリンに含まれているグリシドールの含有量を低減させた後に、このエピクロロヒドリンをグリシシジル(メタ)アクリレートの原料として用いた場合、得られるグリシジルメタクリレートの純度や収率の低下を抑制することができる。しかし、近年、グリシジル(メタ)アクリレートを製造した後に、このエピクロロヒドリンを精製することによってそのなかに含まれているグリシドールの含有量を低減させるのではなく、グリシジル(メタ)アクリレートを製造する段階でグリシドールの含有量を低減させることにより、もともとグリシドールの含有量が少ないグリシジル(メタ)アクリレートを容易に製造することができる方法の開発が待ち望まれている。
【0007】
【特許文献1】特許第2967252号明細書
【特許文献2】特開2006−143629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、グリシドールの含有量が少ないグリシジル(メタ)アクリレートを容易に製造しうる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
〔1〕(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩とエピクロロヒドリンとを四級アンモニウム塩の存在下で反応させ、得られた反応混合物から副生したアルカリ金属塩化物を除去し、得られた粗グリシジル(メタ)アクリレートを蒸留精製するグリシジル(メタ)アクリレートの製造法であって、粗グリシジル(メタ)アクリレートを得た後、蒸留精製するまでの間に粗グリシジル(メタ)アクリレートの温度を10℃以下に制御することを特徴とするグリシジル(メタ)アクリレートの製造法、
〔2〕粗グリシジル(メタ)アクリレートを蒸留精製する際に得られたグリシジル(メタ)アクリレートを含有する初溜と、グリシジル(メタ)アクリレートを製造する際の反応混合物とを混合する前記〔1〕に記載のグリシジル(メタ)アクリレートの製造法、および
〔3〕粗グリシジル(メタ)アクリレートを蒸留精製する際に得られたグリシジル(メタ)アクリレートを含有する初溜を洗浄した後、この洗浄した初溜と、グリシジル(メタ)アクリレートを製造する際の粗グリシジル(メタ)アクリレートとを混合する前記〔1〕または〔2〕に記載のグリシジル(メタ)アクリレートの製造法
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、グリシドールの含有量が少ないグリシジル(メタ)アクリレートを容易に製造することができるという効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩とエピクロロヒドリンとを四級アンモニウム塩の存在下で反応させ、得られた反応混合物から副生したアルカリ金属塩化物を除去し、得られた粗グリシジル(メタ)アクリレートを蒸留精製するグリシジル(メタ)アクリレートの製造法であり、粗グリシジル(メタ)アクリレートを得た後、蒸留精製するまでの間に粗グリシジル(メタ)アクリレートの温度を10℃以下に制御することを特徴とする。
【0012】
(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩は、(メタ)アクリル酸とアルカリ金属化合物とを反応させることによって得ることができる。より具体的には、例えば、アルカリ金属化合物の水溶液を冷却下で攪拌しながら、この水溶液中に(メタ)アクリル酸を滴下し、(メタ)アクリル酸とアルカリ金属化合物とを反応させ、得られた(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩の水溶液を噴霧乾燥させることにより、(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩を粉末状態で得ることができる。
【0013】
アルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウムなどのナトリウム化合物、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムなどのカリウム化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0014】
(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩とエピクロロヒドリンとを反応させる際に用いられるエピクロロヒドリンの量は、通常、(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩1モルあたり、反応収率を高める観点から3モル以上であることが好ましく、得られるグリシジル(メタ)アクリレートの精製効率を高める観点から10モル以下であることが好ましい。
【0015】
四級アンモニウム塩は、触媒として用いられる。四級アンモニウム塩としては、例えば、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラメチルアンモニウムアイオダイド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムアイオダイド、トリメチルエチルアンモニウムクロライド、トリメチルエチルアンモニウムブロマイド、トリメチルエチルアンモニウムアイオダイド、ジメチルジエチルアンモニウムクロライド、ジメチルジエチルアンモニウムブロマイド、ジメチルジエチルアンモニウムウアイオダイド、メチルトリエチルアンモニウムクロライド、メチルトリエチルアンモニウムブロマイド、メチルトリエチルアンモニウムアイオダイド、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、トリメチルベンジルアンモニウムブロマイド、トリメチルベンジルアンモニウムアイオダイド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムブロマイド、トリエチルベンジルアンモニウムアイオダイドなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0016】
四級アンモニウム塩の量は、特に限定されないが、通常、(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩1モルあたり0.003〜0.03モル程度である。
【0017】
(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩とエピクロロヒドリンとの反応は、(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩の重合を防止する観点から、重合防止剤の存在下で行なうことが好ましい。
【0018】
重合防止剤としては、例えば、フェノチアジン、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、N,N’−ジフェニルパラフェニレンジアミン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルなどのN−オキシル化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0019】
重合防止剤の量は、通常、(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩とエピクロロヒドリンとの合計量100重量部あたり0.03〜0.3重量部程度であればよい。
【0020】
(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩とエピクロロヒドリンとを反応させる際の反応温度は、特に限定されないが、通常、80〜120℃程度である。反応時間は、反応温度などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、1〜10時間程度である。
【0021】
このようにして(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩とエピクロロヒドリンとを反応させることにより、グリシジル(メタ)アクリレートが得られる。(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩とエピクロロヒドリンとの反応の終点は、(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩とエピクロロヒドリンとの反応混合物に含まれるグリシジル(メタ)アクリレートをガスクロマトグラフィーで定量することによって決定することができる。
【0022】
得られた反応混合物には、副生したアルカリ金属塩化物が含まれているので、この副生したアルカリ金属塩化物を除去する。アルカリ金属塩化物の除去は、例えば、反応混合物と水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物の水溶液とを混合し、静置したとき、反応混合物が油層と水層とに分離するが、それらの層のうち油層を回収することによって行なうことができる。反応混合物とアルカリ金属水酸化物の水溶液とを混合する際の反応混合物およびアルカリ金属水酸化物の水溶液の温度は、グリシドールの生成を抑制する観点から、いずれもできるだけ低いことが好ましいが、あまりにも低い場合には、アルカリ金属水酸化物の水溶液が凍結するようになることから、それぞれ、好ましくは0〜40℃、より好ましくは0〜25℃、さらに好ましくは0〜10℃である。
【0023】
反応混合物と水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物の水溶液とを混合し、静置することによって分離した油層および水層のうち、生成したグリシジル(メタ)アクリレートは油層に移動し、アルカリ金属塩化物は水層に移動する。したがって、反応混合物から水層を分離して除去することにより、アルカリ金属塩化物が除去され、生成したグリシジル(メタ)アクリレートを含有する油層〔以下、粗グリシジル(メタ)アクリレートという〕を回収することができる。
【0024】
回収された粗グリシジル(メタ)アクリレートは、必要により、蒸留水、純水などの精製水で2〜3回程度洗浄してもよい。このとき、精製水の水温は、グリシドールの生成を抑制する観点から、できるだけ低いことが好ましいが、あまりにも低い場合には精製水が凍結するようになることから、好ましくは0〜40℃、より好ましくは0〜25℃、さらに好ましくは0〜10℃である。また、回収された粗グリシジル(メタ)アクリレートの洗浄は、グリシドールの生成を抑制する観点から、できるだけ速やかに行なうことが好ましい。
【0025】
粗グリシジル(メタ)アクリレートの温度は、粗グリシジル(メタ)アクリレートを回収した後、これを蒸留精製するまでの間、10℃以下に制御される。本発明においては、このように粗グリシジル(メタ)アクリレートを回収した後、粗グリシジル(メタ)アクリレートを蒸留精製するまでの間、粗グリシジル(メタ)アクリレートの温度を10℃以下に制御する点に1つの大きな特徴がある。本発明では、この粗グリシジル(メタ)アクリレートの温度を所定の温度となるように制御するという操作が採られているので、得られるグリシジル(メタ)アクリレートの純度低下の主要因であると考えられているグリシドールの生成を抑制することができる。なお、粗グリシジル(メタ)アクリレートの温度は、グリシドールの生成を抑制する観点から、できるだけ速やかに10℃以下となるように調節することが好ましい。
【0026】
粗グリシジル(メタ)アクリレートの温度は、グリシドールの生成を充分に抑制する観点から、10℃以下、好ましくは5℃以下であり、冷却効率の観点から、好ましくは−20℃以上、より好ましくは−10℃以上である。
【0027】
なお、粗グリシジル(メタ)アクリレートの温度は、グリシドールの生成を抑制する観点から、粗グリシジル(メタ)アクリレートを蒸留精製するまでこの温度を維持することが好ましい。しかし、本発明の目的が阻害されない範囲内であれば、その間に必要により、粗グリシジル(メタ)アクリレートの温度を一時的に10℃よりも高い温度に調節してもよい。
【0028】
粗グリシジル(メタ)アクリレートを製造した後、蒸留精製するまでの間、粗グリシジル(メタ)アクリレートの温度を10℃以下に制御する方法としては、例えば、10℃以下の冷媒が循環する熱交換器をその内部または外部に備え、内容物の温度を10℃以下に制御することができるタンクを用い、このタンク内に粗グリシジル(メタ)アクリレートを貯蔵する方法などが挙げられるが、本発明は、かかる方法によって限定されるものではない。
【0029】
次に、粗グリシジル(メタ)アクリレートから未反応のエピクロロヒドリンを除去するために、粗グリシジル(メタ)アクリレートを蒸留精製する。
【0030】
粗グリシジル(メタ)アクリレートの蒸留精製は、例えば、蒸留塔などの蒸留設備を用いて行なうことができる。
【0031】
粗グリシジル(メタ)アクリレートを5〜10kPa程度の減圧下で30〜70℃の蒸留温度で蒸留精製することにより、未反応のエピクロロヒドリンを回収することができる。粗グリシジル(メタ)アクリレートの蒸留精製の終点は、通常、粗グリシジル(メタ)アクリレートにおけるエピクロルヒドリンの含有量が0.1重量%以下で、かつ高沸点物の含有量が1.2重量%以下となった時点とすることが好ましい。
【0032】
次に、蒸留精製した粗グリシジル(メタ)アクリレートに残存しているエピクロロヒドリン、副生した1,3−ジクロロ−2−プロパノール、2,3−ジクロロ−1−プロパノール、2−ヒドロキシ−3−クロロプロピルメタクリレートなどの塩素含有化合物を除去するために、蒸留設備内に水蒸気を吹き込みながら減圧蒸留を行ない、塩素含有化合物をグリシジル(メタ)アクリレートとともに初留として留出させる。
【0033】
水蒸気の吹き込み量は、粗グリシジル(メタ)アクリレートの量や蒸留設備の種類などによって異なるので一概には決定することができない。しかし、塩素含有化合物を充分に除去する観点から、水蒸気の吹き込み量は、この減圧蒸留による全留出量100重量部あたり、通常、好ましくは1重量部以上であり、グリシジル(メタ)アクリレートの収量を高めるとともに、用いられる重合防止剤の種類によっては該重合防止剤が水蒸気とともに留出し、その結果、初溜時から主溜時にかけてグリシジル(メタ)アクリレートが重合することによってその収率の低下を招くことを回避する観点から、好ましくは5重量部以下、より好ましくは3重量部以下である。
【0034】
前記減圧蒸留は、通常、1.5〜4.5kPaの減圧下で、35〜70℃程度の塔頂温度、60〜90℃の塔内温度で行われる。
【0035】
この減圧蒸留によって得られた初溜を分離したのち、水蒸気の供給を停止する。分離した初溜には、グリシジル(メタ)アクリレートが含まれている。したがって、このグリシジル(メタ)アクリレートを有効利用する観点から、回収された初溜を再利用することが好ましい。
【0036】
この初溜に含まれているグリシジル(メタ)アクリレートを有効利用する方法として、初溜を粗グリシジル(メタ)アクリレートに添加する方法があるが、初溜を粗グリシジル(メタ)アクリレートに添加したとき、蒸留精製の際に重合体が生成するため、この初溜を再利用することが困難であると考えられている。
【0037】
しかし、本発明者らが鋭意研究を重ねたところ、この初溜を粗グリシジル(メタ)アクリレートに添加するのではなく、アルカリ金属塩化物を除去する前の反応混合物と混合したところ、意外なことに、蒸留精製の際に重合体を生成させずに、グリシジル(メタ)アクリレートを収率よく得ることができることが見出された。
【0038】
本発明において、このように粗グリシジル(メタ)アクリレートを蒸留精製する際に得られたグリシジル(メタ)アクリレートを含有する初溜と、グリシジル(メタ)アクリレートを製造する際の反応混合物とを混合するという操作を行なった場合には、蒸留精製の際に重合体を生成させずに、グリシジル(メタ)アクリレートを収率よく得ることができるという優れた効果が奏される。前記操作を行なうことにより、このように優れた効果が奏されるのは、おそらくアルカリ金属塩化物を除去する前の反応混合物に初溜と反応混合物とを混合した場合、この反応混合物からアルカリ金属塩化物を除去するために洗浄したときに、このアルカリ金属塩化物と同時に初溜に含まれているグリシドールも除去されることに基づくものと考えられる。
【0039】
したがって、初溜に含まれているグリシジル(メタ)アクリレートを有効利用し、蒸留精製の際に重合体を生成させずにグリシジル(メタ)アクリレートを収率よく得る観点から、グリシジル(メタ)アクリレートを製造する際に、初溜と反応混合物とを混合することが好ましい。
【0040】
反応混合物と初溜とを混合する際の条件には、特に限定がない。しかし、初溜の量は、通常、反応混合物100重量部あたり5〜10重量部程度であることが好ましい。また、反応混合物と初溜とを混合する際の反応混合物の温度は、通常、0〜40℃程度であることが好ましい。
【0041】
初溜と粗グリシジル(メタ)アクリレートとを混合した場合、前記したように、蒸留精製の際に重合体が生成する。しかし、本発明者らが鋭意研究を重ねたところ、初溜をあらかじめ洗浄した後、この洗浄した初溜と粗グリシジル(メタ)アクリレートとを混合した場合には、蒸留精製の際に重合体を生成させずにグリシジル(メタ)アクリレートを収率よく得ることができることが見出された。
【0042】
本発明によれば、このように粗グリシジル(メタ)アクリレートを蒸留精製する際に得られたグリシジル(メタ)アクリレートを含有する初溜を洗浄した後、この洗浄した初溜と、グリシジル(メタ)アクリレートを製造する際の粗グリシジル(メタ)アクリレートとを混合するという操作を行なった場合には、蒸留精製の際に重合体を生成させずに、グリシジル(メタ)アクリレートを収率よく得ることができるという優れた効果が奏される。本発明によれば、このように優れた効果が奏されるのは、おそらく初溜をあらかじめ洗浄するので、その段階で初溜に含まれているグリシドールが除去されていることに基づくものと考えられる。
【0043】
したがって、初溜に含まれているグリシジル(メタ)アクリレートを有効利用し、蒸留精製の際に重合体を生成させずに、グリシジル(メタ)アクリレートを収率よく得る観点から、初溜をあらかじめ洗浄した後、この洗浄した初溜と、グリシジル(メタ)アクリレートを調製する際の粗グリシジル(メタ)アクリレートとを混合することが好ましい。
【0044】
初溜の洗浄は、例えば、蒸留水、純水などの精製水を用いて水洗によって行なうことができる。初溜の洗浄は、グリシドールの残存量が0.5重量%以下となるまで所望の水量で1〜3回程度行なえばよい。このとき、精製水の水温は、グリシドールの生成を抑制する観点から、できるだけ低いことが好ましいが、あまりにも低い場合には、精製水が凍結するようになることから、好ましくは0〜40℃程度、より好ましくは5〜35℃程度、さらに好ましくは10〜30℃程度である。
【0045】
洗浄した初溜と粗グリシジル(メタ)アクリレートとを混合する際の条件には、特に限定がない。しかし、洗浄した初溜の量は、通常、粗グリシジル(メタ)アクリレート100重量部あたり3〜10重量部程度であることが好ましい。
【0046】
減圧蒸留によって得られた初溜を分離し、水蒸気の供給を停止した後には、主蒸留を行なう。この主蒸留により、精製されたグリシジル(メタ)アクリレートが主溜として得られる。
【0047】
主蒸留は、例えば、蒸留塔を用い、0.1〜2kPaの減圧下で、60〜70℃程度の塔頂温度および80〜100℃程度の塔内温度で行なうことができる。
【0048】
このようにして粗グリシジル(メタ)アクリレートを蒸留精製することにより、精製されたグリシジル(メタ)アクリレートが得られる。精製されたグリシジル(メタ)アクリレートは、ガスクロマトグラフィーによって分析したとき、通常、99.0重量%以上の純度を有する。
【0049】
精製されたグリシジル(メタ)アクリレートは、グリシドールの含有量が少ないので、例えば、塗料用原料、接着剤、紙力増強剤、繊維処理剤、樹脂原料、他の有機化合物の製造中間体などに好適に使用することができる。
【実施例】
【0050】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0051】
製造例1〔メタクリル酸ナトリウムの調製〕
30%水酸化ナトリウム水溶液546kg(4.1kmol)を60℃以下に冷却し、撹拌しながら、この水溶液にメタクリル酸344kg(4.0kmol)を滴下し、水酸化ナトリウムとメタクリル酸とを反応させてメタクリル酸ナトリウム水溶液を得た。
【0052】
得られたメタクリル酸ナトリウム水溶液を300℃の熱風で噴霧乾燥し、メタクリル酸ナトリウムの乾燥粉末436kgを得た。この乾燥粉末の含水率は0.08重量%であった。
【0053】
実施例1〜2および比較例1〜2
撹拌機、温度計および還流冷却器を取り付けた2.5kL容の反応容器内に、製造例1で得られたメタクリル酸ナトリウムの乾燥粉末436kgおよびエピクロロヒドリン2000kg(21.6kmol)を仕込んだ後、触媒としてテトラメチルアンモニウムクロライド2.23kg(0.02kmol)(メタクリル酸ナトリウム1molあたりの量:0.005mol)および重合防止剤としてフェノチアジン0.65kg(メタクリル酸ナトリウム100重量部あたりの量:0.15重量部)を反応容器内に添加し、90℃で5時間撹拌することにより、メタクリル酸ナトリウムとエピクロロヒドリンとを反応させてグリシジルメタクリレートを含有する反応混合物を得た。
【0054】
得られた反応混合物に含まれている各成分の含有量をガスクロマトグラフィーおよび塩素分析にて定量した。
【0055】
ガスクロマトグラフィーは、FID検出により、水素ガス圧50kPa、空気60kPaにてポリエチレクグリコール20M(PEG20M)キャピラリーカラム25m、カラム温度100℃、昇温速度8℃/minの条件で200℃まで昇温し、注入口温度を250℃に調整し、キャリアガスとして50mL/minの流量の窒素ガスを用いて行なった。
【0056】
塩素分析は、乾燥管を取り付けた濃縮器中で、エチレンジアミンとグリシジルメタクリレートとを1時間還流することにより反応させ、グリシジルメタクリレート中の塩素含有化合物によって消費されたエチレンジアミンの量を0.1N水酸化カリウムエタノール溶液で逆滴定することによって求めた。なお、指示薬としてA20バイオレット指示薬を用いた。
【0057】
次に、内温を35℃以下に保ちながら、反応容器内に3%水酸化ナトリウム水溶液880kgを添加し、攪拌した後、静置することにより、グリシジルメタクリレートを含む油層と塩化ナトリウムを含む水層とに分離した。
【0058】
油層を水層と分離して回収し、この油層に25℃の蒸留水880kgを添加して攪拌した後、静置することにより、グリシジルメタクリレートを含む油層と塩化ナトリウムを含む水層とに分離した。
【0059】
油層を水層と分離して回収し、回収した2170kgの油層(以下、粗グリシジルメタクリレートという)に含まれている各成分の含有量を前記と同様にしてガスクロマトグラフィーにて定量した。その結果、回収した粗グリシジルメタクリレートには、グリシジルメタクリレート24.7重量%、エピクロロヒドリン70.6重量%、副生成物としてグリシドール0.3重量%が含まれていた。
【0060】
次に、得られた粗グリシジルメタクリレート2170kgを5kL容のタンク内に入れ、その内温を0℃(実施例1)、10℃(実施例2)、25℃(比較例1)または50℃(比較例2)に制御し、粗グリシジルメタクリレートにおけるグリシドールの含有量の経時変化を調べた。その結果を図1に示す。
【0061】
図1に示された結果から、粗グリシジルメタクリレートを内温が10℃以下であるタンク内で貯蔵した場合には、12日間経過した時点であっても、粗グリシジルメタクリレートにおけるグリシドールの含有量があまり増加しないことがわかる。
【0062】
これに対して、粗グリシジルメタクリレートを内温が25℃であるタンク内で貯蔵した場合には、12日間経過した時点で、粗グリシジルメタクリレートにおけるグリシドールの含有量は、保管初期よりも約1.5倍に増加することがわかる。また、粗グリシジルメタクリレートを内温が50℃であるタンク内で貯蔵した場合には、12日間経過した時点で、粗グリシジルメタクリレートにおけるグリシドールの含有量は、保管初期よりも約3.2倍に増加することがわかる。
【0063】
以上のことから、粗グリシジルメタクリレートを内温が10℃以下であるタンク内で貯蔵した場合には、粗グリシジルメタクリレートにおけるグリシドールの生成を効果的に抑制することができることがわかる。
【0064】
次に、実施例1で得られた粗グリシジルメタクリレートを内温が25℃であるタンク内で12日間貯蔵した後、この粗グリシジルメタクリレート2170kgを10段リフトトレーの蒸留塔に入れ、塔内温度を約60℃、塔内の圧力を6.5〜9.3kPaに調整して濃縮し、エピクロロヒドリン1325kgを回収した。その後、この蒸留塔からの留出量100重量部あたり2重量部の割合で水蒸気が吹き込まれるように蒸留塔に吹き込まれる水蒸気量を調整して水蒸気を吹き込みながら、塔内温度を約85℃、塔内の圧力を1.7〜4.0kPa、塔頂温度を36〜68℃に調整しながら蒸留し、残存しているエピクロロヒドリンをグリシジルメタクリレートとともに回収し、初溜88kgを得た。この初溜には、グリシジルメタクリレート57重量%、エピクロロヒドリン37重量%、副生成物としてグリシドール6重量%が含まれていた。
【0065】
次に、水蒸気の吹き込みを停止し、塔内圧力を0.4kPa、塔内温度を約85℃、塔頂温度を65〜66℃に調整しながら蒸留することにより、精製されたグリシジルメタクリレート(以下、精製グリシジルメタクリレートという)446kgを得た。
【0066】
精製グリシジルメタクリレートに含まれている各成分の含有量を前記と同様にしてガスクロマトグラフィーにて定量した。その結果、回収した精製グリシジルメタクリレートにおけるグリシジルメタクリレートの含有量は98.6重量%、エピクロロヒドリンの含有量は0.02重量%、塩素分の含有量は0.10重量%であることから、得られた精製グリシジルメタクリレートは、高品質を有するものであることが確認された。
【0067】
実施例3
実施例1と同様にして初溜88kgを調製した。この初溜には、グリシジルメタクリレート55.3重量%、エピクロロヒドリン38.6重量%、副生成物としてグリシドール5.8重量%が含まれていた。この初溜88kgに水20kgを添加して攪拌することにより初溜を洗浄した。洗浄した初溜には、グリシドール0.1重量%が含まれていた。
【0068】
次に、実施例1と同様にして粗グリシジルメタクリレートを調製した後、前記で洗浄した初溜を粗グリシジルメタクリレート100重量部あたり6重量部の割合で粗グリシジルメタクリレートに添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を行ない、精製グリシジルメタクリレート480kgを得た。
【0069】
精製グリシジルメタクリレートに含まれている各成分の含有量をガスクロマトグラフィーにて定量した。その結果、精製グリシジルメタクリレートにおけるグリシジルメタクリレートの含有量は98.7重量%、エピクロロヒドリンの含有量は0.02重量%、塩素分の含有量は0.1重量%であった。このことから、得られた精製グリシジルメタクリレートは、高品質を有するものであることが確認された。
【0070】
以上のことから、実施例3によれば、洗浄した初溜は、粗グリシジルメタクリレートに添加することにより、有効利用することができることがわかる。
【0071】
実施例4
実施例1と同様にして初溜90kgを調製した。この初溜には、グリシジルメタクリレート55.3重量%、エピクロロヒドリン38.6重量%、副生成物としてグリシドール5.8重量%が含まれていた。
【0072】
次に、実施例1と同様にして反応混合物を調製した後、前記初溜を反応混合物100重量部あたり6重量部の割合で反応混合物に添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を行ない、精製グリシジルメタクリレート479kgを得た。
【0073】
精製グリシジルメタクリレートに含まれている各成分の含有量をガスクロマトグラフィーにて定量した。その結果、精製グリシジルメタクリレートにおけるグリシジルメタクリレートの含有量は98.6重量%、エピクロロヒドリンの含有量は0.2重量%、塩素分の含有量は0.1重量%であった。このことから、得られた精製グリシジルメタクリレートは、高品質を有するものであることが確認された。
【0074】
以上のことから、実施例4によれば、初溜は、そのままの状態で反応混合物に添加することにより、有効利用することができることがわかる。
【0075】
比較例3
実施例1と同様にして初溜90gを調製した。この初溜には、グリシジルメタクリレート51重量%、エピクロロヒドリン37重量%、副生成物としてグリシドール12重量%が含まれていた。
【0076】
次に、実施例1において、粗グリシジルメタクリレート(グリシドールの含有率:0.3重量%)を調製した後に、この初溜を粗グリシジルメタクリレート100重量部あたり6重量部の割合で粗グリシジルメタクリレートに添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を行なったところ、初溜を回収しているときに蒸留塔のトレー上に重合体が生成したため、蒸留精製を続行することができなかった。
【0077】
したがって、比較例3によれば、精製されていない初溜を粗グリシジルメタクリレートに添加した場合には、蒸留塔のトレー上に重合体が生成するため、実施例1のように精製グリシジルメタクリレートを調製することができないことがわかる。
【0078】
比較例4
実施例1において、実施例1で用いられた粗グリシジルメタクリレートの代わりに、50℃の温度で24時間タンク内にて貯蔵しておいた粗グリシジルメタクリレート(グリシドールの含有率:0.6重量%)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行なったところ、初溜(グリシジルメタクリレートの含有率:50重量%、エピクロロヒドリンの含有率:37重量%、グリシドールの含有率:13重量%)を回収しているときに蒸留塔のトレー上に重合体が生成したため、蒸留精製を続行することができなかった。
【0079】
したがって、比較例4によれば、50℃の温度で24時間タンク内にて貯蔵しておいた粗グリシジルメタクリレートを用いた場合には、蒸留塔のトレー上に重合体が生成するため、実施例1のように精製グリシジルメタクリレートを調製することができないことがわかる。
【0080】
実験例
以下の組成からなる初溜A、初溜Bおよび初溜Cを調製し、それぞれ10gずつ秤量してそれぞれ別個の試験管に入れた後、あらかじめ100℃に調整しておいた油浴で各試験管を加熱し、各成分が重合するまでの時間を測定した。
【0081】
・初溜A:エピクロロヒドリン/グリシドール/グリシジルメタクリレートの重量比:37/6/57
・初溜B:エピクロロヒドリン、グリシドールおよびグリシジルメタクリレートの重量比:37/12/51
・初溜C:エピクロロヒドリン、グリシドールおよびグリシジルメタクリレートの重量比:37/13/50
【0082】
なお、参考までに、グリシジルメタクリレート(グリシドールの含有率:0重量%)およびエピクロロヒドリン(グリシドールの含有率:0重量%)についても、前記と同様にして重合するまでの時間を測定した。
それらの結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
表1に示された結果から、初溜におけるグリシドールの含有率が高くなると、重合するまでの時間が短くなることから、初溜の安定性が悪くなることがわかる。このことから、グリシジルメタクリレートを製造する段階でグリシドールの含有量をできるだけ低減させることが適切であることがわかる。
【0085】
また、初溜A(グリシドールの含有率:6重量%)は、グリシジルメタクリレートと対比して重合するまでの時間が大きくは異ならないことから、安定性に比較的優れていることがわかる。したがって、初溜におけるグリシドールの含有率を低下させることにより、グリシジルメタクリレートと同程度にまで安定性が高められることがわかる。
【0086】
以上の結果から、本発明の製造方法によれば、グリシドールの含有量が少ないグリシジル(メタ)アクリレートを容易に製造することができることがわかる。また、粗グリシジル(メタ)アクリレートを蒸留精製する際に得られたグリシジル(メタ)アクリレートを含有する初溜と、グリシジル(メタ)アクリレートを製造する際の反応混合物とを混合した場合には、蒸留精製の際に重合体を生成させずに、グリシジル(メタ)アクリレートを収率よく得ることができることがわかる。さらに、粗グリシジル(メタ)アクリレートを蒸留精製する際に得られたグリシジル(メタ)アクリレートを含有する初溜を洗浄した後、この洗浄した初溜と、グリシジル(メタ)アクリレートを製造する際の粗グリシジル(メタ)アクリレートとを混合した場合には、蒸留精製の際に重合体を生成させずにグリシジル(メタ)アクリレートを収率よく得ることができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】実施例1〜2および比較例1〜2において、粗グリシジルメタクリレートにおけるグリシドールの含有量の経時変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩とエピクロロヒドリンとを四級アンモニウム塩の存在下で反応させ、得られた反応混合物から副生したアルカリ金属塩化物を除去し、得られた粗グリシジル(メタ)アクリレートを蒸留精製するグリシジル(メタ)アクリレートの製造法であって、粗グリシジル(メタ)アクリレートを得た後、蒸留精製するまでの間に粗グリシジル(メタ)アクリレートの温度を10℃以下に制御することを特徴とするグリシジル(メタ)アクリレートの製造法。
【請求項2】
粗グリシジル(メタ)アクリレートを蒸留精製する際に得られたグリシジル(メタ)アクリレートを含有する初溜と、グリシジル(メタ)アクリレートを製造する際の反応混合物とを混合する請求項1に記載のグリシジル(メタ)アクリレートの製造法。
【請求項3】
粗グリシジル(メタ)アクリレートを蒸留精製する際に得られたグリシジル(メタ)アクリレートを含有する初溜を洗浄した後、この洗浄した初溜と、グリシジル(メタ)アクリレートを製造する際の粗グリシジル(メタ)アクリレートとを混合する請求項1または2に記載のグリシジル(メタ)アクリレートの製造法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−137882(P2009−137882A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−315504(P2007−315504)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(000205638)大阪有機化学工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】