説明

グリセリド組成物の製造方法

【課題】低温下での保存時における油脂の風味劣化を抑制する方法を提供すること。
【解決手段】本発明のグリセリド組成物の製造方法は、脱臭工程において、グリセリド組成物に、以下のうちのいずれかを添加する工程を含むことを特徴とする;(i)上記グリセリド組成物中0.5ppm以上10ppm以下となる量のクエン酸、(ii)上記グリセリド組成物中5ppm以上100ppm以下となる量のアスコルビン酸、又は(iii)上記グリセリド組成物中5ppm以上250ppm以下となる量のクエン酸モノグリセリド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセリド組成物の製造方法、及び該製造方法を経て製造されたグリセリド組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、油脂の風味や安定性を向上させるための試みが種々、なされている。油脂の風味や安定性等の品質の低下には、様々な要素が関係しており、それぞれの要素に応じた方法が報告されている。また、油脂中に存在する、生理活性に関係すると考えられる微量成分についても多数報告されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、3−クロロプロパン−1,2−ジオール等を含有するグリセリド組成物を、特定の温度条件にて脱臭処理等することにより、グリセリド組成物中のグリシドールの脂肪酸エステル等を低減する方法が開示されている。また、特許文献2には、少なくとも脱臭処理が施された精製パーム軟質油に、さらに、脱色処理と脱臭処理とを施し、特定の色度を有する、良好な風味を備えた再精製パーム軟質油を得る方法が開示されている。また、特許文献3には、規則充填材を具備した薄膜式カラムを用いた精製処理とトレイ式装置を用いた精製処理とを組み合わせて、全構成脂肪酸中のトランス脂肪酸含量が1質量%以下の油脂を精製する方法が開示されている。
【0004】
また、油脂の酸化による劣化に伴い、油脂の風味上好ましくない化合物の生成を抑制するために、精製された油脂は、一般的に低温下で保存される。しかし、特にパーム系油脂に関しては、低温保存時において、油脂の風味の劣化を引き起こす「戻り物質」が生成することが知られている。「戻り物質」に関して、詳細は知られていないものの、この物質が精製された油脂中に存在することにより、油脂の風味が精製前の状態に戻り、「戻り臭」と呼ばれる風味劣化が引き起こされる。
【0005】
例えば、海外で圧搾された原油は、フィジカル精製工程と呼ばれる精製工程を施され、いわゆるRBD油(Refined Bleached Deodorized)として我が国へ輸入される。輸入されたRBD油の大半は、我が国において再精製されるものの、RBD油を低温下で保存中に、油脂中に「戻り物質」が生じることがあるため、このような物質による油脂の風味劣化を抑制できる方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−074358号公報
【特許文献2】特開2011−030482号公報
【特許文献3】特許4516897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、低温下での保存時における油脂の風味劣化を抑制する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、脱臭工程において、グリセリド組成物に、所定量のクエン酸、アスコルビン酸、又はクエン酸モノグリセリドを添加することによって、低温下での保存時に生じる「戻り物質」の生成を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0009】
(1)脱臭工程において、グリセリド組成物に、以下のうちのいずれかを添加する工程を含む、グリセリド組成物の製造方法。
(i)上記グリセリド組成物中0.5ppm以上10ppm以下となる量のクエン酸
(ii)上記グリセリド組成物中5ppm以上100ppm以下となる量のアスコルビン酸、又は
(iii)上記グリセリド組成物中5ppm以上250ppm以下となる量のクエン酸モノグリセリド
【0010】
(2)上記グリセリド組成物がパーム系油脂である(1)記載の製造方法。
【0011】
(3)上記脱臭工程は、210〜265℃の温度条件下にて行われる(1)又は(2)に記載の製造方法。
【0012】
(4)上記(1)から(3)いずれかに記載の製造方法を経て製造されたグリセリド組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低温下での保存時における油脂の風味劣化を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。なお、本発明では、グリセリドは、グリセリンに脂肪酸が1〜3個エステル結合したものであり、油脂の主要成分であるトリグリセリド(トリアシルグリセロール)のほか、ジグリセリド(ジアシルグリセロール)、モノグリセリド(モノアシルグリセロール)も含むものとする。
【0015】
本発明のグリセリド組成物の製造方法は、脱臭工程において、グリセリド組成物に、所定量のクエン酸、アスコルビン酸、又はクエン酸モノグリセリドを添加する工程を含むことを特徴とする。
【0016】
(クエン酸、アスコルビン酸、又はクエン酸モノグリセリド)
本発明者による検討の結果、油脂の風味劣化は、下記の機構が一因となって生じる可能性があることが見出された。すなわち、油脂の脱色工程において、油脂中に存在する、ヒドロペルオキシド基(−OOH)を有する過酸化物が、白土等の存在下で加熱されると分解し、2−ノネナールを生成する。本発明者らは、脱色工程において生成された2−ノネナール及び/又はその誘導体等が、低温保存時の油脂の風味劣化をもたらす物質、すなわち「戻り物質」のひとつであることを特定した。また、脱色工程で一旦生成した2−ノネナール及び/又はその誘導体等は、その後、さらに脱臭工程等を行っても油脂中に残留していることも分かった。
【0017】
一方、油脂が空気中の酸素と反応し、風味劣化の原因となるカルボン酸酸化物やアルデヒド等が生成されるという、油脂の自動酸化と呼ばれる現象が存在し、光や金属はこの現象を促進することが知られている。自動酸化を促進させる金属を保持し、自動酸化を抑制するため、従来より、脱臭工程においてクエン酸、アスコルビン酸、又はクエン酸モノグリセリド等のキレート効果を有する化合物が油脂に添加されてきた。しかし、本発明者らは、脱臭工程において、油脂に、従来量のキレート効果を有する化合物(例えば、対油20〜1000ppmのクエン酸)を添加した場合、油脂中の2−ノネナールの生成量が増加してしまうことを見出した。
【0018】
しかし、クエン酸等のキレート効果を有する化合物を油脂に添加しなければ、油脂の自動酸化を抑制できずに酸化物等の生成が促進され、短時間で油脂の風味が劣化してしまう可能性がある。また、精製された油脂を低温保存しなければ、油脂の酸化が起こりやすく、油脂の風味上好ましくない化合物が短時間で生成してしまう可能性がある。
【0019】
そこで、本発明者が鋭意検討した結果、脱臭工程において、グリセリド組成物に、従来量よりも少ない量のキレート効果を有する化合物、すなわち、
(i)グリセリド組成物中0.5ppm以上10ppm以下となる量のクエン酸
(ii)グリセリド組成物中5ppm以上100ppm以下となる量のアスコルビン酸、又は
(iii)グリセリド組成物中5ppm以上250ppm以下となる量のクエン酸モノグリセリド
のうちのいずれかを添加することにより、油脂の自動酸化や、油脂の風味上好ましくない化合物の生成を抑制しつつ、低温下での保存時に油脂中の2−ノネナールの生成を抑制できることを見出した。
【0020】
本発明におけるクエン酸、アスコルビン酸、又はクエン酸モノグリセリドは、他のキレート効果を有する化合物と併用して使用することもできる。他のキレート効果を有する化合物としては、リン酸、C2−8カルボン酸等が挙げられる。
【0021】
(脱臭工程)
本発明のグリセリド組成物の製造方法においては、脱臭は、通常の油脂の製造方法で用いられる210〜265℃の温度条件下で行ってもよく、好ましくは215〜260℃であり、より好ましくは215〜245℃である。通常の油脂の製造方法で用いられる温度条件よりも低い温度条件下でグリセリド組成物の脱臭を行っても、その後にクエン酸、アスコルビン酸、又はクエン酸モノグリセリドを添加することにより、2−ノネナールの生成を好ましく抑制できる。
【0022】
脱臭工程におけるその他の条件は、特に限定されないが、減圧又は水蒸気吹込を行うことが好ましく、減圧及び水蒸気吹込を行うことがより好ましい。また、脱臭時間は、10〜150分であることが好ましく、30〜100分であることがより好ましい。
【0023】
脱臭工程において使用される装置は特に限定されないが、通常の脱臭油の製造において使用されるトレイ式装置等であってもよい。
【0024】
脱臭工程における、グリセリド組成物への、クエン酸、アスコルビン酸、又はクエン酸モノグリセリドの添加は、脱臭工程における任意の段階で行うことができる。クエン酸、アスコルビン酸、又はクエン酸モノグリセリドは、脱臭工程の加熱条件下で分解除去されるため、クエン酸、アスコルビン酸、又はクエン酸モノグリセリドのキレート効果を十分に発揮させるために、脱臭工程の終盤に添加することが好ましい。「脱臭工程の終盤」について、トレイ式装置を例に説明する。トレイ式装置は、数段のトレイを有する脱臭塔を備える。グリセリド組成物の脱臭は、この脱臭塔の上部のトレイから下部のトレイへグリセリド組成物を下降させながら、水蒸気等にさらして加熱することで行われる。脱臭塔内で下部のトレイに下降したグリセリド組成物の油温が110〜180℃となった段階を「脱臭工程の終盤」と呼ぶことができ、この時点でクエン酸、アスコルビン酸、又はクエン酸モノグリセリドの水溶液を添加することが好ましい。
【0025】
グリセリド組成物中の2−ノネナールの生成量が抑制されたかどうかは、下記の方法で確認できる。グリセリド組成物をヘッドスペース用バイアル管に分取し、50〜100℃にて30〜100分加温した際に発生する揮発性物質を吸着剤にて吸着させる。この吸着剤をガスクロマトグラフィーの注入口にて200〜250℃で1〜10分間再加熱し、揮発性物質をガスクロマトグラフィーのカラムに供する。次いで、カラムにて、単離した各成分を検出器にて検知し、2−ノネナールを同定した後、和光純薬工業製試薬(和光一級)によって定量する。
【0026】
(グリセリド組成物)
本発明のグリセリド組成物の製造方法では、上記グリセリド組成物として、特に限定されないが、精製油を用いてもよく、非精製油を用いてもよい。本発明によれば、精製油及び非精製油に関わらず、低温保存された油脂中の「戻り物質」の生成を好ましく抑制できる。
【0027】
精製油としては、例えば、常法に従って精製された、菜種油、大豆油、米油、サフラワー油、ぶどう油、ひまわり油、小麦はい芽油、とうもろこし油、綿実油、ごま油、落花生油、フラックス油、エゴマ油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油等の植物油、これら2種以上を混合した調合植物油、又は、これらを分別したパームオレイン、パームステアリン、パームスーパーオレイン、パームミッドフラクション等の食用分別油、これらの水素添加油、エステル交換油等のほか、中鎖脂肪酸トリグリセリドのような直接エステル化反応により製造された食用油を用いることができる。低温時の風味の劣化が顕著であるという理由からパーム系油脂(パーム油、パーム核油、パームオレイン、パームステアリン、パームスーパーオレイン、パームミッドフラクション等)及びその分別油が好ましい。なお、本発明のグリセリド組成物の製造方法によれば、パーム系油脂と、他の精製油とを配合したブレンド油脂においても、「戻り物質」による低温保存時の風味劣化を好ましく抑制できる。
【0028】
植物油の精製方法には、ケミカル精製(ケミカルリファイニング)と、フィジカル精製(フィジカルリファイニング)とがあるが、いずれの精製方法を用いてもよい。なお、前者のケミカル精製は、植物油の精製にて、通常、行われている方法であり、原料となる植物を圧搾・抽出した原油が、脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理、脱ろう処理、脱臭処理を経ることで精製され、精製油となる。
【0029】
これに対し、後者のフィジカル精製は、パーム油やヤシ油等にてよく行われている方法であり、原料となるパームやヤシ等を圧搾した原油が、脱ガム処理、脱色処理、脱酸処理、脱臭処理を経ることで精製され、精製油となる。
【0030】
(本発明の製造方法により得られるグリセリド組成物)
本発明のグリセリド組成物は、上述の本発明のグリセリド組成物の製造方法により得られることを特徴とする。本発明のグリセリド組成物によれば、グリセリド組成物中の「戻り物質」すなわち2−ノネナールの生成量が抑制され、油脂の風味劣化が抑制される。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら限定されるものではない。
【0032】
下記条件にて、グリセリド組成物中の低温戻り臭の有無、2−ノネナール、グリシドールの脂肪酸エステル及びトランス脂肪酸の生成抑制効果、ならびにグリセリド組成物の自動酸化抑制効果についての検討を行った。
【0033】
[比較例1]
RBDパーム油(原産国マレーシア又は/及びインドネシア製)を白土の存在下で、105〜110℃で15〜30分間脱色後、ろ過により白土を除去して、脱色油を得た。次いで、該脱色油に水蒸気を吹き込みながら、減圧下、255℃で80〜100分間脱臭処理し、脱臭処理中、油温が110〜180℃になった時点で該グリセリド組成物にクエン酸をグリセリド組成物中30ppmとなるように添加した。次いで、ろ過を実施し、比較例1のグリセリド組成物を得た。
【0034】
[比較例2]
脱臭処理を245℃で行う以外は、比較例1と同等の方法により処理を行い、比較例2のグリセリド組成物を得た。
【0035】
[比較例3]
クエン酸を添加しない以外は、比較例1と同等の方法により処理を行い、比較例3のグリセリド組成物を得た。
【0036】
[比較例4]
脱臭処理を200℃で行い、クエン酸をグリセリド組成物中30ppmとなるように添加した以外は、比較例1と同等の方法により処理を行い、比較例4のグリセリド組成物を得た。
【0037】
[比較例5]
クエン酸の代わりにアスコルビン酸をグリセリド組成物中1ppmとなるように添加した以外は、比較例1と同等の方法により処理を行い、比較例5のグリセリド組成物を得た。
【0038】
[比較例6]
クエン酸の代わりにアスコルビン酸をグリセリド組成物中3ppmとなるように添加した以外は、比較例1と同等の方法により処理を行い、比較例6のグリセリド組成物を得た。
【0039】
[比較例7]
クエン酸の代わりにクエン酸モノグリセリドをグリセリド組成物中300ppmとなるように添加した以外は、比較例1と同等の方法により処理を行い、比較例7のグリセリド組成物を得た。なお、表4中、「クエン酸MG」とはクエン酸モノグリセリドを示す。
【0040】
[実施例1]
クエン酸をグリセリド組成物中3ppmとなるように添加した以外は、比較例1と同等の方法により処理を行い、実施例1のグリセリド組成物を得た。
【0041】
[実施例2]
クエン酸をグリセリド組成物中10ppmとなるように添加した以外は、比較例1と同等の方法により処理を行い、実施例2のグリセリド組成物を得た。
【0042】
[実施例3]
脱臭処理を245℃で行い、クエン酸をグリセリド組成物中3ppmとなるように添加した以外は、比較例1と同等の方法により処理を行い、実施例3のグリセリド組成物を得た。
【0043】
[実施例4]
脱臭処理を、245℃で行い、クエン酸をグリセリド組成物中10ppmとなるように添加した以外は、比較例1と同等の方法により処理を行い、実施例4のグリセリド組成物を得た。
【0044】
[実施例5]
クエン酸をグリセリド組成物中1ppmとなるように添加した以外は、比較例1と同等の方法により処理を行い、実施例5のグリセリド組成物を得た。
【0045】
[実施例6]
クエン酸の代わりにアスコルビン酸をグリセリド組成物中10ppmとなるように添加した以外は、比較例1と同等の方法により処理を行い、実施例6のグリセリド組成物を得た。
【0046】
[実施例7]
クエン酸の代わりにアスコルビン酸を添加した以外は、比較例1と同等の方法により処理を行い、実施例7のグリセリド組成物を得た。
【0047】
[実施例8]
クエン酸の代わりにアスコルビン酸をグリセリド組成物中100ppmとなるように添加した以外は、比較例1と同等の方法により処理を行い、実施例8のグリセリド組成物を得た。
【0048】
[実施例9]
クエン酸の代わりにクエン酸モノグリセリドをグリセリド組成物中10ppmとなるように添加した以外は、比較例1と同等の方法により処理を行い、実施例9のグリセリド組成物を得た。なお、表4中、「クエン酸MG」とはクエン酸モノグリセリドを示す。
【0049】
[実施例10]
クエン酸の代わりにクエン酸モノグリセリドをグリセリド組成物中100ppmとなるように添加した以外は、比較例1と同等の方法により処理を行い、実施例10のグリセリド組成物を得た。
【0050】
[実施例11]
クエン酸の代わりにクエン酸モノグリセリドをグリセリド組成物中200ppmとなるように添加した以外は、比較例1と同等の方法により処理を行い、実施例11のグリセリド組成物を得た。
【0051】
<グリセリド組成物中の戻り臭の有無についての検討>
各グリセリド組成物を、100mlサンプル瓶に20〜70g分取し、密栓後5℃にて冷暗所に保存した。保存14日目においてサンプル瓶を取り出し、50〜80℃にて加温溶解した後に、数gを口に含んで官能評価を行った。その際の5段階評価は、表1記載の基準に従った。
【0052】
【表1】

【0053】
各グリセリド組成物についての官能評価の結果が「3以上」であるものを、低温戻り臭「無し」とし、官能評価の結果が「3未満」であるものを、低温戻り臭「有り」とした。その結果を表2〜4の「低温戻り臭の有無」に示す。
【0054】
<グリセリド組成物中の2−ノネナール生成量の検討>
各グリセリド組成物を、100mlサンプル瓶に20〜70g分取し、密栓後5℃にて冷暗所に保存した。保存3日目においてサンプル瓶を取り出し、各グリセリド組成物1〜10gをヘッドスペース用バイアル管に分取し、50〜100℃にて30〜100分加温した際に発生する揮発性物質を吸着剤にて吸着させた。この吸着剤をガスクロマトグラフィーの注入口にて200〜250℃で1〜10分間再加熱し、揮発性物質をガスクロのカラムに供した。次いで、カラムにて単離した各成分を検出器にて検知し、2−ノネナールを同定した後、和光純薬工業製試薬(和光一級)によって定量した。その結果を表2〜4の「2−ノネナール生成量」に示す。
【0055】
<グリセリド組成物中のグリシドールの脂肪酸エステル生成量の検討>
グリセリド組成物中のグリシドールの脂肪酸エステル(GE)の定量は、ドイツ公定法(DGF Standard Methods C−III 18(09))に準拠して行った。この方法では、測定試料を調製する際に、グリシドールの脂肪酸エステルが3−クロロプロパン−1,2−ジオール(3−MCPD)に変換されるため、グリシドールの脂肪酸エステルを遊離3−MCPDとして測定した。
各実施例、各比較例のグリセリド組成物100mgに、50μLの内部標準物質(3−MCPD−d5 20μg/mL溶液)を加えた後、1mLのナトリウムメトキシド溶液(0.5mol/L メタノール)を加え、室温にて反応させ、エステルのけん化分解を行った。次いで、これに酢酸を微量に含んだ3mLの食塩水(20%)と3mLのヘキサンとを加えて混合した後、ヘキサンを除去した。なお、この際に、グリシドールの脂肪酸エステルはエステル結合が切れるとともに3−MCPDに変換される。その後、250μLのフェニルホウ酸水溶液(25%)により誘導体化し、2mLのヘキサンにて抽出し、ガスクロマトグラフ質量分析装置にて測定した。
上記ガスクロマトグラフ質量分析装置の測定にて得られたクロマトグラムを用い、内部標準である3−MCPD−d5と、3−MCPDのイオン強度を比較することで、グリセリド組成物中のグリシドールの脂肪酸エステルの総量を遊離3−MCPD換算にて算出した。その結果を表2〜4の「グリセリド組成物中のGE」に示す。なお、表中、「N.D.」とは、グリセリド組成物中のグリシドールの脂肪酸エステルが未検出であったことを示す。
【0056】
(GC−MS分析条件)
分析装置:機種名 QP−2010、島津製作所株式会社製
カラム:製品名 HP−5MS(φ0.25mm×30m)、Agilent Technology社製
オーブン温度:60℃(1min)〜120℃(10℃/min)〜190℃(6℃/min)〜280℃(20℃/min)
注入口温度:250℃
カラム流量:1.88mL/min
検出器:MS(EI,SIMモード)
スプリットレス:1μL注入
キャリアガス:He
【0057】
<グリセリド組成物の自動酸化の検討>
グリセリド組成物の自動酸化を検討するため、自動油脂安定性(CDM)試験を行った。試験法は、基準油脂分析試験法2.5.1.2−1996に従った。その結果を表2〜4の「グリセリド組成物中のCDM」に示す。
【0058】
<グリセリド組成物中のトランス脂肪酸転化率の検討>
グリセリド組成物中のトランス脂肪酸転化率は、下記のように求めた。
まず、各実施例及び各比較例のグリセリド組成物における全構成脂肪酸中のトランス脂肪酸含量を、AOCS(American Official Chemists’Society)オフィシャルメソッド Ce 1f−96に基づき、測定した。
次いで、下記の計算式により、トランス脂肪酸転化率を求めた。その結果を表2の「グリセリド組成物中のトランス脂肪酸転化率」に示す。
・不飽和脂肪酸のトランス脂肪酸転化率(質量%)=((精製後の油脂を構成する不飽和脂肪酸のトランス型異性体質量−精製前の油脂を構成する不飽和脂肪酸のトランス型異性体質量)/(精製前の油脂を構成する全脂肪酸質量))×100
【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
表2〜4の結果より、脱臭工程において、(1)グリセリド組成物中0.5ppm以上10ppm以下となる量のクエン酸、(2)グリセリド組成物中5ppm以上100ppm以下となる量のアスコルビン酸、又は(3)グリセリド組成物中5ppm以上250ppm以下となる量のクエン酸モノグリセリドを添加したグリセリド組成物においては、2−ノネナール生成量が少なく、戻り臭がないとともに、グリセリド組成物中のグリシドールの脂肪酸エステルやトランス脂肪酸の生成や油脂の自動酸化が抑制され得ることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱臭工程において、グリセリド組成物に、以下のうちのいずれかを添加する工程を含む、グリセリド組成物の製造方法。
(i)前記グリセリド組成物中0.5ppm以上10ppm以下となる量のクエン酸
(ii)前記グリセリド組成物中5ppm以上100ppm以下となる量のアスコルビン酸、又は
(iii)前記グリセリド組成物中5ppm以上250ppm以下となる量のクエン酸モノグリセリド
【請求項2】
前記グリセリド組成物がパーム系油脂である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記脱臭工程は、210〜265℃の温度条件下にて行われる請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項に記載の製造方法を経て製造されたグリセリド組成物。

【公開番号】特開2013−49829(P2013−49829A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−81849(P2012−81849)
【出願日】平成24年3月30日(2012.3.30)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】