説明

グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの製造方法

【課題】高純度のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルの製造方法を提供する。
【解決手段】グリセリンと無水コハク酸またはコハク酸と脂肪酸とのエステル化生成物を炭化水素系溶剤(例えば、ヘキサンおよびトルエンなど)に溶解後冷却し、析出成分を回収することを特徴とするグリセリンコハク酸脂肪酸エステルの製造方法およびグリセリンと無水コハク酸またはコハク酸と脂肪酸とのエステル化生成物を炭化水素系溶剤とケトン系溶剤または低級アルコールとの混合溶液(例えば、ヘキサンとアセトンの混合溶液またはヘキサンとエタノールの混合溶液など)に溶解後冷却し、析出成分を回収することを特徴とするグリセリンコハク酸脂肪酸エステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリセリンコハク酸脂肪酸エステル(以下「SMG」と略記する)はグリセリン脂肪酸エステルの一種であり、グリセリンと無水コハク酸(またはコハク酸)と脂肪酸とのエステル化生成物である。SMGは、アルカリの存在下で陰イオン界面活性剤としての優れた界面活性能を示し、また良好な安全性を備えていることから、洗浄剤や化粧品のみならず、食品にも広く用いられている。
【0003】
SMGの製造方法としては、コハク酸とグリセリンモノ脂肪酸エステルの加熱反応による方法、または無水コハク酸とグリセリンモノ脂肪酸エステルの加熱反応による方法などが知られている。しかし、これら方法により得られるSMGは純度がさほど高くなく、該SMGを使用しても所望の効果が十分に発揮されているとは言い難いものであった。
【0004】
そこで、SMGの純度の向上を目的として、中性条件下のもとにジエチルエーテルを加えて液液抽出を行う方法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、この方法では、ジエチルエーテルを水相に添加すると、抽出操作時に激しい乳化がおこり、水相と有機相が完全に分離するまで多大な時間を有し、さらに塩析を行っても乳化状態に変化はないという問題があり、工業的に実施するには効率面や安定性の面で好ましいものではない。
【0005】
また、SMGの純度の向上を目的とする他の方法して、1)炭素数4以上の脂肪族モノカルボン酸エステル、脂肪族ケトン、脂肪族アルコールから選ばれる1種または2種以上の有機溶媒及び水の存在下、水相pH7〜10の条件下で第一の液液抽出を行う方法と、2)第一の液液抽出工程で得られた水相をpH1〜5の条件下、炭素数4以上の脂肪族モノカルボン酸エステル、脂肪族ケトン、脂肪族アルコールから選ばれる1種または2種以上の有機溶媒を用い第二の液液抽出を行う方法とを組み合わせることにより、水相に含まれるコハク酸モノグリセリドを有機溶媒相に逆抽出するコハク酸モノグリセリドの製造方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
しかし、この製造方法は、SMGの中でも、構成脂肪酸がラウリン酸であるラウリン酸SMGに特化したものである。ラウリン酸SMGは高い起泡性、抗菌性を有することから洗浄剤、抗菌剤、化粧品などに利用されているが、その風味上の問題から、食品にはほとんど利用されていない。
【0007】
そこで、パルミチン酸SMG、ステアリン酸SMGなどの食品用途のSMGが製造可能であって、容易かつ効率的に高純度のSMGを製造可能な方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−218597号公報
【特許文献2】特許第3823524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高純度のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、グリセリンと無水コハク酸またはコハク酸と脂肪酸とのエステル化生成物を特定の有機溶媒に一旦溶解した後冷却することにより、SMGの純度低下をもたらす不純物を特異的に除去することができ、高純度のSMGを効率良く安定的に製造することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、次の1〜6からなっている。
1.グリセリンと無水コハク酸またはコハク酸と脂肪酸とのエステル化生成物を炭化水素系溶剤に溶解後冷却し、析出成分を回収することを特徴とするグリセリンコハク酸脂肪酸エステルの製造方法。
2.グリセリンと無水コハク酸またはコハク酸と脂肪酸とのエステル化生成物を炭化水素系溶剤とケトン系溶剤または低級アルコールとの混合溶液に溶解後冷却し、析出成分を回収することを特徴とするグリセリンコハク酸脂肪酸エステルの製造方法。
3.炭化水素系溶剤がペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレンからなる群より選択された少なくとも1種であることを特徴とする前記1または2記載のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルの製造方法。
4.ケトン系溶剤がアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトンからなる群より選択された少なくとも1種であることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルの製造方法。
5.低級アルコールがメタノール、エタノール、イソプロパノールからなる群より選択された少なくとも1種であることを特徴とする前記2〜4のいずれかに記載のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルの製造方法。
6.エステル化生成物を構成する脂肪酸がパルミチン酸、ステアリン酸からなる群より選択された少なくとも1種である前記1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、(1)グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの遊離カルボキシル基とグリセリンモノ脂肪酸エステルとのエステル化反応生成物および(2)グリセリンコハク酸脂肪酸エステル相互のエステル化反応生成物などの不純物の含有量が5%以下の高純度のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の製造方法により得られたSMGのHPLCクロマトグラムを示す図。
【図2】SMG混合物のHPLCクロマトグラムを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明で用いられるグリセリンと無水コハク酸またはコハク酸と脂肪酸とのエステル化生成物(以下「SMG混合物」という)は、グリセリンモノ脂肪酸エステルと無水コハク酸またはコハク酸との反応、グリセリンと無水コハク酸またはコハク酸と脂肪酸との反応など自体公知の方法で製造される。
【0015】
SMG混合物の原料として用いられる脂肪酸としては、例えば炭素数14〜24の直鎖の飽和脂肪酸(例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸など)が挙げられ、好ましくは炭素数16〜18の直鎖の飽和脂肪酸から選ばれる一種または二種以上の脂肪酸の混合物である。
【0016】
SMG混合物の好ましい製法の概略は以下の通りである。例えば、グリセリンモノ脂肪酸エステルを溶融し、これに無水コハク酸を加え、温度約110〜130℃で約90分間反応する。グリセリンモノ脂肪酸エステルと無水コハク酸との比率は質量比で約1/1〜1/2が好ましい。さらに、反応中は生成物の着色、臭気を防止するために、反応器内を不活性ガスで置換する方が好ましい。得られたSMG混合物は、SMGの他に、コハク酸、未反応のグリセリンモノ脂肪酸エステル、反応中に分解したコハク酸、更には、反応中に生成したSMGの遊離カルボキシル基とグリセリンモノ脂肪酸エステルとのエステル化反応生成物、SMG相互のエステル化反応生成物などを含む多種のエステル混合物である。
【0017】
ここで、SMG混合物に含まれる成分のうち、SMGの遊離カルボキシル基とグリセリンモノ脂肪酸エステルとのエステル化反応生成物およびSMG相互のエステル化反応生成物を「SMG重合物」という。SMG混合物は、SMG重合物の含有量が通常約5〜15%である。
【0018】
SMG混合物としては、例えば、ポエムB−10(製品名;理研ビタミン社製)、ポエムB−30(製品名;SMG重合物の含有量13.5%;構成脂肪酸:パルミチン酸/ステアリン酸=42/58の脂肪酸の混合物;理研ビタミン社製)、サンソフトNo.681SPV(製品名;太陽化学社製)およびステップSS(製品名;花王社製)などが商業的に製造・販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0019】
本発明では先ず、上記により得られたSMG混合物を炭化水素系溶剤に溶解後冷却する。
【0020】
炭化水素系溶剤としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレンからなる群より選択された少なくとも1種のものを用いることが好ましく、より好ましくはヘキサンまたはトルエンである。
【0021】
また本発明では、上記炭化水素系溶剤に替えて炭化水素系溶剤とケトン系溶剤の混合溶液または炭化水素系溶剤と低級アルコールとの混合溶液を用いることが好ましく行われる。ケトン系溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトンからなる群より選択された少なくとも1種であることが好ましく、より好ましくはアセトンである。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノールからなる群より選択された少なくとも1種であることが好ましく、より好ましくはエタノールである。
【0022】
上記混合溶液の混合比率としては、炭化水素系溶剤/ケトン系溶剤=90/10〜60/40(w/w)が好ましく、80/20〜70/30(w/w)がより好ましい。また炭化水素系溶剤/低級アルコール=95/5〜70/30(w/w)が好ましく、90/10〜75/25(w/w)がより好ましい。
【0023】
SMG混合物を炭化水素系溶剤(上記混合溶液を含む。以下同じ)に溶解後冷却する方法としては、例えばSMG混合物1質量部に対し、2〜10質量部、好ましくは3〜6質量部の炭化水素系溶剤を加え、約45〜65℃、好ましくは約50℃〜60℃に加温しながら攪拌・溶解し、溶解液を調製する。次に該溶解液は、通常25〜45℃まで、好ましくは30〜40℃まで、通常0.5〜2時間かけて緩やかに冷却される。該溶解液の冷却温度が上記範囲内であることにより、目的とするSMGの析出が効率良く行われる。
【0024】
次に析出したSMGを含む溶解液を、例えば遠心分離するか或いはろ紙もしくはろ布に通してろ過することなどによりSMGを回収できる。
【0025】
回収されたSMGは、必要により洗浄処理が行われる。該処理は、例えばSMGを十分量の溶媒を用いて洗浄するなど、公知の方法を用いて行ってよい。次に、例えば棚式の通風乾燥機または真空乾燥機などを用いて乾燥し、SMGに残留する溶媒を除去してもよい。
【0026】
上記した製造方法により製造されたSMGは、不純物であるSMG重合物の含有量が5%以下に低減されたものである。ここで、SMG重合物の含有量は、下記のHPLC(高速液体クロマトグラフィー)分析条件により「SMG重合物のピーク面積の値」および「ピーク面積の合計値」を測定した上で、下記式に基づき求めることができる。
【0027】
<HPLC分析条件>
装置:高速液体クロマトグラフ(型式:LC−10AS;島津製作所社製)
検出器:RI検出器(型式:RID−6A;島津製作所社製)
カラム:GPCカラム(型式:SHODEX KF−802;昭和電工社製)2本連結
温度:40℃
移動相:THF
流量:1.0mL/分
検液注入量:5μL
【0028】
【数1】

【0029】
本発明の製造方法により得られるSMGは、主な不純物であるSMG重合物の含有量が高度に低減されているため、純度が高く界面活性能に優れている。また、本発明の製造方法は、通常食品に使用されるパルミチン酸SMG、ステアリン酸SMGなどに適用可能であり、特に食品の分野で利用される高純度のSMGを製造できる。
【0030】
以下に本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
[実施例1]
SMG混合物(商品名:ポエムB−30;SMG重合物の含有量13.5%;構成脂肪酸:パルミチン酸/ステアリン酸=42/58の脂肪酸の混合物;理研ビタミン社製)100gにヘキサン400gを加え、60℃に加温しながら攪拌・溶解した。SMG混合物が完全に溶解したことを確認した後、35℃まで1時間かけて徐々に冷却してから析出物をろ別した。該析出物をヘキサン100gで洗浄した後、風乾し、SMG(実施例品1)70gを得た。
【0032】
[実施例2]
実施例1のヘキサン400gをトルエン400gに替えた以外は、実施例1と同様に実施し、析出物をろ別した。該析出物をトルエン100gで洗浄した後、風乾し、SMG(実施例品2)50gを得た。
【0033】
[実施例3]
実施例1のヘキサン400gをヘキサン/アセトン=75/25(w/w)混合溶液400gに替えた以外は、実施例1と同様に実施し、析出物をろ別した。該析出物をヘキサン/アセトン=75/25(w/w)混合溶液100gで洗浄した後、風乾し、SMG(実施例品3)43gを得た。
【0034】
[実施例4]
実施例1のヘキサン400gをヘキサン/エタノール=75/25(w/w)混合溶液400gに替えた以外は、実施例1と同様に実施し、析出物をろ別した。該析出物をヘキサン/エタノール=75/25(w/w)混合溶液100gで洗浄した後、風乾し、SMG(実施例品4)12gを得た。
【0035】
[比較例]
実施例1のヘキサン400gをアセトン400gに換えた以外は、実施例1と同様に実施し、析出物をろ別した。該析出物をアセトン100gで洗浄した後、風乾し、SMG(比較例品)90gを得た。
【0036】
[試験例]
[SMG重合物の含有量の測定]
【0037】
上記実施例および比較例により製造されたSMG(実施例品1〜4および比較例品)について、HPLCによる分析を実施し、SMG重合物の含有量を測定した。また、対照として、SMG混合物についても同様にSMG重合物の含有量を測定した。結果を表1に示す。また、実施例品3およびSMG重合物のHPLCクロマトグラムを図1および図2に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1の結果より、本発明の製造方法により得られたSMG(実施例品1〜4)は、いずれもSMG重合物の含有量が5%以下であり、SMG重合物が特異的に除去された純度の高いものであった。特に実施例品3および4は、SMG重合物の含有量がHPLCによる検出限界以下であり、極めて純度の高いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリンと無水コハク酸またはコハク酸と脂肪酸とのエステル化生成物を炭化水素系溶剤に溶解後冷却し、析出成分を回収することを特徴とするグリセリンコハク酸脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項2】
グリセリンと無水コハク酸またはコハク酸と脂肪酸とのエステル化生成物を炭化水素系溶剤とケトン系溶剤または低級アルコールとの混合溶液に溶解後冷却し、析出成分を回収することを特徴とするグリセリンコハク酸脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項3】
炭化水素系溶剤がペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレンからなる群より選択された少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2記載のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項4】
ケトン系溶剤がアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトンからなる群より選択された少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項5】
低級アルコールがメタノール、エタノール、イソプロパノールからなる群より選択された少なくとも1種であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項6】
エステル化生成物を構成する脂肪酸がパルミチン酸、ステアリン酸からなる群より選択された少なくとも1種である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−173824(P2011−173824A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38586(P2010−38586)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(390010674)理研ビタミン株式会社 (236)
【Fターム(参考)】