説明

グリース組成物

【課題】 高温下での音響特性の長期持続性と低トルク性、そして初期音響特性に優れたグリース組成物を提供する。
【解決手段】 (A)炭素数8〜22のアルキル基を一つ以上有するアルキル化ジフェニルエーテル、
(B)炭素数6〜12の脂肪族モノカルボン酸と3価又は4価の多価アルコールから構成されるポリオールエステル、及び
(C)炭素数4〜14の脂肪族モノカルボン酸と炭素数4〜14の脂肪族ジカルボン酸と3価から6価の多価アルコールから構成されるコンプレックス型ポリオールエステルを含有する基油であって、基油の合計量に対する上記(A)アルキル化ジフェニルエーテルの割合が5〜50質量%であり、かつ上記(B)ポリオールエステルと上記(C)コンプレックス型ポリオールエステルの合計量に対する上記(B)ポリオールエステルの割合が10〜65質量%である基油を含有し、
増ちょう剤として、N−置換テレフタラミン酸ナトリウム塩と脂環式ジウレア化合物を含有し、かつN−置換テレフタラミン酸ナトリウム塩と脂環式ジウレア化合物との合計量に対するN−置換テレフタラミン酸ナトリウム塩の割合が50〜70質量%である増ちょう剤を含有し、
カルシウム及びバリウムのスルホン酸塩から選ばれる一種類以上をグリース全量に対して0.5〜4.5質%含有し、
混和ちょう度が130〜295の範囲にあることを特徴とするグリース組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温下での音響特性の長期持続性すなわち音響長寿命性と低トルク性、そして初期音響特性に優れたグリース組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
材料を高温で処理する産業機械や、自動車のエンジン周辺の部品等は、高温下で使用されることから、ここに用いられるグリースは高温下で長寿命であることが求められる。さらに、近年、機械装置の小型軽量化や機器の高性能化により回転の高速化が促進されており、そこで用いられるベアリングやギヤ等の使用環境も高温化する傾向にある。そのため、これらの機械装置で使用されるグリースに対しても、高温下で長寿命であることが求められる。
【0003】
ところで、小径のベアリングの寿命の指標には、機器から発生する音が一定値を超えるまでの時間を寿命として捉える「音響寿命」が用いられる。これは、実用上、機器の異常は異音の発生により判断することが多いためである。また、機器から発生する音が小さいということ自体も重要な性能であり、これらの機器に用いられるベアリングにも音が小さいことが求められる。近年の技術の進歩により、ベアリングから発生する音として、転送面の傷や異物の混入に起因するものはなくなりつつある。そのため、グリース中の増ちょう剤繊維の噛み込みやグリースのチャーニングに起因する音が相対的に注目されている。
【0004】
そこで、このような高温下での用途に使用されるグリースには、これらグリースに起因する音が少ない性能、すなわち初期音響特性が良好であることが重要であり、さらに高温下で長時間使用されても初期の音響特性を長期にわたって持続できること、すなわち音響寿命が長寿命であること(以下、「音響長寿命性」と略す)が必要不可欠となっている。
一方、省電力・省燃費といった環境性能の観点や、寒冷地等の低温化での始動性の観点からは、グリースの抵抗が少ないこと、すなわち低トルク性であることも求められる。
【0005】
以上のような背景から、各種機器に用いられるグリースに対しては、音響長寿命性・低トルク性・初期音響特性の向上が求められており、従来からこれらの性能を向上させる様々な検討が行われている。例えば、高温下でのグリース寿命を確保するために、基油と増ちょう剤に耐熱性に優れるフッ素化合物を使用したものなどが検討されているが、初期音響特性に課題があり、初期音響特性や音響長寿命性が必要な部位へは適用できていない(特許文献1参照)。また、基油として鉱油に代えて熱酸化安定性に優れるエステル油を用いる検討、増ちょう剤の固化を防止し音響特性を維持するために添加剤として酸金属塩を加える検討、増ちょう剤として初期音響特性に優れるリチウム石けん系を用いたものや耐熱性に優れるウレア系やN−置換テレフタラミン酸ナトリウム塩とウレア系とを併用したものなどの検討が行われている(特許文献2〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−27079
【特許文献2】特開2004−359823
【特許文献3】特開2008−143979
【特許文献4】特開2000−239689
【特許文献5】特開2004−59863
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、高温下で使用される機器に用いられるグリースには、高温下での音響長寿命性のより一層の向上が求められており、かつ初期音響特性も良好で、さらに実用性能上十分な低トルク性をも備えることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のアルキル化ジフェニルエーテルと特定のポリオールエステルと特定のコンプレックス型ポリオールエステルを特定の割合で含む基油に、N−置換テレフタラミン酸ナトリウム塩と脂環式ジウレア化合物を特定の割合で含む増ちょう剤を配合し、さらに特定のスルホネートを特定の割合で配合し、混和ちょう度を130〜295とすることで、音響長寿命性、低トルク性、初期音響特性が共に向上することを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、(A)炭素数8〜22のアルキル基を一つ以上有するアルキル化ジフェニルエーテル、
(B)炭素数6〜12の脂肪族モノカルボン酸と3価又は4価の多価アルコールから構成されるポリオールエステル、及び
(C)炭素数4〜14の脂肪族モノカルボン酸と炭素数4〜14の脂肪族ジカルボン酸と3価から6価の多価アルコールから構成されるコンプレックス型ポリオールエステル
を含有する基油であって、基油の合計量に対する上記(A)アルキル化ジフェニルエーテルの割合が5〜50質量%であり、かつ上記(B)ポリオールエステルと上記(C)コンプレックス型ポリオールエステルの合計量に対する上記(B)ポリオールエステルの割合が10〜65質量%である基油を含有し、
増ちょう剤として、N−置換テレフタラミン酸ナトリウム塩と脂環式ジウレア化合物を含有し、かつN−置換テレフタラミン酸ナトリウム塩と脂環式ジウレア化合物との合計量に対するN−置換テレフタラミン酸ナトリウム塩の割合が50〜70質量%である増ちょう剤を含有し、
カルシウム及びバリウムのスルホン酸塩から選ばれる一種類以上をグリース全量に対して0.5〜4.5質%含有し、
混和ちょう度が130〜295の範囲にあることを特徴とするグリース組成物を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、上記グリース組成物において、基油の合計量に対する上記(A)アルキル化ジフェニルエーテルの割合が10〜30質量%であり、かつ上記(B)ポリオールエステルと上記(C)コンプレックス型ポリオールエステルの合計量に対する上記(B)ポリオールエステルの割合が20〜50質量%であり、スルホン酸塩が過塩素酸法による全塩基価が0.1〜50mgKOH/gのカルシウムスルホネートであるグリース組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のグリース組成物は、優れた高温下での音響長寿命性、低トルク性及び初期音響特性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1)基油
本発明のグリース組成物においては、基油として、以下に記載するアルキル化ジフェニルエーテルとポリオールエステルとコンプレックス型ポリオールエステルを特定割合で含有する。
(i)アルキル化ジフェニルエーテル
本発明のグリース組成物において基油として使用するアルキル化ジフェニルエーテルは、炭素数8〜22のアルキル基を一つ以上有するものであり、下記の式(1)で表される。アルキル化ジフェニルエーテルに結合しているアルキル基の炭素数は好ましくは10〜20、より好ましくは12〜18である。アルキル基の炭素数が少なすぎると、増ちょう剤の分散性が悪くなる傾向にある。一方、アルキル基の炭素数が大きすぎると、基油の流動性が悪くなる傾向がある。
【0013】
また、このアルキル基は、基油の流動性と熱酸化安定性の観点から、分岐鎖を有するものがより好ましい。
さらに、アルキル化ジフェニルエーテルとしては、その分子中に上記のアルキル基が1〜4つ結合したものが好ましく、1〜3つ結合したものがより好ましく、2〜3つ結合したものが特に好ましい。さらに、ジアルキル化ジフェニルエーテルとトリアルキル化ジフェニルエーテルの混合物が一層好ましい。この混合物におけるジアルキル化ジフェニルエーテルとトリアルキル化ジフェニルエーテルの含有割合は、質量比で1:9〜9:1が好ましく、2:8〜8:2がより好ましい。
【0014】
【化1】

(式中、R〜R10は水素原子又は炭素数8〜22のアルキル基であり、R〜R10の少なくとも1つは炭素数8〜22のアルキル基である。)
【0015】
(ii)ポリオールエステル
本発明のグリース組成物の基油として使用されるポリオールエステルは、炭素数6〜12の脂肪酸と3価又は4価の多価アルコールから構成されるポリオールエステルである。このポリオールエステルは、多価アルコールの水酸基のすべてがエステル化されている完全エステルであってもよく、水酸基の少なくとも1個以上がエステル化されていない水酸基の形で残っている部分エステルであってもよいが、完全エステルであることが特に好ましい。なお、エステル化は従来公知の方法により行うことができる。
【0016】
ポリオールエステルを構成する脂肪酸の炭素数は6〜12であり、好ましくは8〜10である。炭素数が少なすぎると高温時の蒸発量が大きくなり、その結果、音響長寿命性が低下する。また、炭素数が大きすぎると基油の流動性が悪くなり、その結果、低トルク性が低下する傾向にある。また、ポリオールエステルを構成する脂肪酸は、熱酸化安定性からは、飽和脂肪酸であることが好ましい。
ポリオールエステルを構成する脂肪酸中の飽和脂肪族炭化水素基は、直鎖であってもよいし、分岐鎖であってもよい。このうち、直鎖と分岐鎖の組み合わせが好ましい。
【0017】
ポリオールエステルを形成する3価又は4価の多価アルコールとしては、エリスリトール、ネオペンチル構造を有する多価アルコール(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等)が挙げられる。この中でも、4価の多価アルコールが好ましく、特にペンタエリスリトールが好ましい。
以上のようなポリオールエステルの構造の例としては、以下の式(2)で表されるペンタエリスリトール脂肪酸エステルが挙げられる。
【0018】
【化2】


(式中、R11〜R14は炭素数5〜11の脂肪族炭化水素基である。)
【0019】
(iii)コンプレックス型ポリオールエステル
本発明のグリース組成物の基油として使用されるコンプレックス型ポリオールエステルは、炭素数4〜14の脂肪族モノカルボン酸と炭素数4〜14の脂肪族ジカルボン酸と3価から6価の多価アルコールから構成されるエステルである。脂肪族モノカルボン酸の炭素数としては6〜14が好ましく、8から12がより好ましい。脂肪族ジカルボン酸炭素数としては4〜10が好ましく、5〜8がより好ましい。脂肪族モノカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸の両場合において、炭素数が小さすぎると高温時の蒸発量が大きくなり、その結果、音響長寿命性が低下する。また、炭素数が大きすぎると基油の流動性が悪くなり、その結果、低トルク性が低下する傾向にある。
【0020】
コンプレックス型ポリオールエステルを構成する炭素数4〜14の脂肪族モノカルボン酸としては、例えば酪酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、2−エチルヘキシル酸、イソオクタン酸、ノナン酸、デカン酸、イソデカン酸等が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸としては、例えばコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。
また、3価から6価の多価アルコールとしては、例えばトリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。このうち、より好ましいものは4価の多価アルコールであり、特にペンタエリスリトールが好ましい。
【0021】
(iv)基油の含有割合
本発明においては、基油の合計量に対する前記アルキル化ジフェニルエーテルの割合は5〜50質量%が好ましく、8〜35質量%がより好ましく、10〜30質量%がさらに好ましい。アルキル化ジフェニルエーテルの割合が50質量%より大きいと低トルク性が悪くなり、5質量%より小さいと音響長寿命性が悪くなる傾向にある。
また、前記ポリオールエステルとコンプレックス型ポリオールエステルの合計量に対するポリオールエステルの割合は、10〜65質量%が好ましく、18〜55質量%がより好ましく、20〜50質量%がさらに好ましい。ポリオールエステルの割合が65質量%を超えると音響長寿命性が悪くなり、10質量%未満では低トルク性が悪くなる。
【0022】
(2)増ちょう剤
本発明のグリース組成物においては、増ちょう剤として、以下に記載するN−置換テレフタラミン酸ナトリウム塩と脂環式ジウレアを含有する。
(i)N−置換テレフタラミン酸ナトリウム塩
本発明のグリース組成物の増ちょう剤として使用するN−置換テレフタラミン酸ナトリウム塩は、下記の式(3)で表される構造を有するものが好ましい。
式(3)において、R15は炭素数4〜22の炭化水素基であり、その炭素数は好ましくは8〜22、より好ましくは12〜22、特に好ましくは14〜20である。また、R15の炭化水素基は脂肪族炭化水素基が好ましく、飽和脂肪族炭化水素基がさらに好ましい。R15の炭素数が少なすぎると増ちょう剤が基油に分散しにくく、基油が分離する傾向が生じる。また、炭素数が大きすぎるとせん断安定性が悪くなる傾向にある。R15の例としては、デシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。
【0023】
【化3】

【0024】
(ii)脂環式ジウレア
本発明のグリース組成物の増ちょう剤としてN−置換テレフタラミン酸ナトリウム塩とともに使用される脂環式ジウレアは、下記の式(4)で表される構造を有する。なお、脂環式ジウレアとは、式(4)におけるR16に相当する分子の両端の構造が脂環式炭化水素基のものを指す。したがって、例えば、式(4)のR17が芳香族炭化水素基であっても、R16が脂環式炭化水素基であれば、「脂環式ジウレア」に該当する。
【0025】
式(4)において、R16は脂環式炭化水素基であり、好ましくはシクロヘキシル基である。R17は1〜30個の炭素原子を有する2価の炭化水素基であり、原料となるジイソシアネートの種類によって決まる。原料となるイソシアネートの例としては、へキシレンジイソシアネート、デシレンジイソシアネート、オクタデシレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアネート、トリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0026】
【化4】

【0027】
(iii)N−置換テレフタラミン酸ナトリウム塩と脂環式ジウレアの含有割合
上記のN−置換テレフタラミン酸ナトリウム塩と脂環式ジウレアの合計量に占めるN−置換テレフタラミン酸ナトリウム塩の割合は50〜70質量%であり、より好ましくは55〜65質量%である。増ちょう剤に占めるN−置換テレフタラミン酸ナトリウム塩が質量比で70質量%より高いと離油防止性が悪くなり、結果として音響長寿命性が悪くなる。また、50質量%より低いと初期音響特性が悪くなる。
【0028】
増ちょう剤の配合量は、上記の2種の増ちょう剤の比率と、本発明で規定する混和ちょう度を満たす量であれば特に制限はないが、グリース組成物全量に対し、8〜22質量%であることが好ましく、10〜18質量%であることがより好ましい。増ちょう剤の量が多すぎるとグリースは硬くなり、少なすぎると軟らかくなるため、上記の配合量とすることで求めるちょう度が得やすくなる。
【0029】
(3)スルホネート
本発明のグリース組成物は、カルシウムスルホネートおよびバリウムスルホネートから選ばれる1種類以上を含有する。この内、音響長寿命性の観点から、全塩基価(以下、「TBN」と略すことがある)が0.1〜350mgKOH/gであるカルシウムスルホネート又はバリウムスルホネートを用いることが好ましく、0.1〜50mgKOH/gであるカルシウムスルホネートを用いることが特に好ましい。なお、上記の全塩基価は、過塩素酸法(JIS−K−2501−7)によって測定される塩基価である。
【0030】
上記スルホネートの含有量は、グリース全量に対し0.5〜4.5質量%であり、好ましくは1〜4.5質量%である。4.5質量%より高いと増ちょう剤の繊維構造が破壊され、0.5質量%より低いと増ちょう剤が凝集してしまい、どちらでも音響長寿命性が悪化する。
【0031】
(4)その他の添加剤
本発明のグリース組成物は、上記各成分の基油と増ちょう剤と添加剤を配合するものであるが、必要に応じて上記以外の添加剤を適宜配合することができる。
添加剤としては、亜鉛系、リン系、硫黄系、アミン系、エステル系などの各種摩耗防止剤;2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールなどのアルキルフェノール類、4,4´−メチレンビス−(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)などのビスフェノール類、n−オクタデシル−3−(4´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−t−ブチルフェノール)プロピオネートなどのフェノール系化合物、ナフチルアミン類やジアルキルジフェニルアミン類などの芳香族アミン化合物などの各種酸化防止剤;硫化オレフィン、硫化油脂等の極圧剤;ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール等の各種腐食防止剤等が挙げられる。添加剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
(5)混和ちょう度
本発明のグリース組成物は、混和ちょう度が130〜295である。混和ちょう度が295より高いと離油防止性が低下し、結果として音響長寿命性が低下する。混和ちょう度が130より低いと初期音響特性と低トルク性が悪くなる。
【実施例】
【0033】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0034】
(実施例1〜13、比較例1〜16)
実施例及び比較例では、以下に示す*1〜*14の成分を表1〜5に示した配合量(質量)の割合で含有させたグリース組成物を調整した。
*4〜*7の増ちょう剤は、以下に記載するように、その増ちょう剤の原料を各実施例及び各比較例のグリース組成物で用いる基油に混合して、基油中でその原料を反応させて増ちょう剤を合成し、結果として*1〜*14の各成分を所定量含有するグリース組成物を調整した。なお、グリース組成物は各成分を所定量含有するように調整した後に、ミル処理を行ってグリース中に増ちょう剤を均一に分散させ最終的な組成物とした。
得られたグリース組成物は、それぞれの混和ちょう度、音響長寿命性、低温トルクすなわち低トルク性、初期音響特性について評価を行った。
【0035】
*1:アルキル化ジフェニルエーテル(式(1)におけるR〜R10のうち、2つ又は3つが炭素数12〜18の分岐鎖アルキル基であり、その他は水素原子であるもの。)
*2:ポリオールエステル(式(2)におけるR11〜R14が炭素数7〜9の直鎖飽和脂肪族炭化水素基と炭素数9の分岐鎖飽和脂肪族炭化水素基であるペンタエリスリトール脂肪酸エステル。)
【0036】
*3:コンプレックス型ポリオールエステル(原料に用いられる脂肪族モノカルボン酸が炭素数がC8〜C12の脂肪族モノカルボン酸の混合物で、脂肪族ジカルボン酸がアジピン酸で、ポリオールがペンタエリスリトールであるもの。)
*4:N−置換テレフタラミン酸ナトリウム(耐熱容器にアルキルジフェニルエーテルとN−オクタデシルテレフタラミン酸のメチルエステルを入れ、加熱攪拌し、その後、100℃以下に冷却して50質量%水酸化ナトリウム水溶液を加え、よく攪拌しながら徐々に加熱し、十分に鹸化を行い、鹸化終了後150℃において更に基油を加え、最高温度180℃まで加熱し、その後60℃まで冷却してか得られたN−オクタデシルテレフタラミン酸ナトリウム;式(3)におけるR15がオクタデシル基であるもの。)
【0037】
*5:脂環式ジウレア(耐熱容器に表中の各基油とジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネートを投入し、加熱し、次に、シクロヘキシルアミンを約60℃付近で添加し、約40分間反応させ、その後、攪拌しながら110℃に加熱して得られたジウレア化合物;式(4)においてR16がシクロヘキシル基であり、R17を構成するための原料はジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネートであるもの。)
*6:脂肪族ジウレア(耐熱容器に表中の各基油とジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネートを投入し、加熱し、次に、ステアリルアミンを約60℃付近で添加し、約40分間反応させ、その後、攪拌しながら170℃に加熱して得られたジウレア化合物;式(4)においてR16がステアリル基であり、R17を構成するための原料がジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネートであるもの。)
【0038】
*7:芳香族ジウレア(耐熱容器に表中の各基油とジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネートを投入し、加熱し、次に、パラトルイジンを約60℃付近で添加し、約40分間反応させ、その後、攪拌しながら110℃に加熱して得られたジウレア化合物;式(4)においてR16がフェニル基であり、R17を構成するための原料がジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネートであるもの。)
*8:カルシウムスルホネートA(商品名「NA−SUL729」、楠本化成(株)製、全塩基価=0.26mgKOH/g)
【0039】
*9:カルシウムスルホネートB(商品名「74J」、日本ルーブリゾール(株)製、全塩基価=296mgKOH/g)
*10:カルシウムフェネート(商品名「オロア5253」、シェブロンテキサコ製)
*11:カルシウムサリシレート(商品名「M7121」、インフィニアムジャパン(株)製)
*12:マグネシウムスルホネート(商品名「C9340」、インフィニアムジャパン(株)製)
*13:バリウムスルホネート(商品名「NA−SULBSN」、(株)樋口商会製)
*14:酸化防止剤(フェニル−α−ナフチルアミン)
【0040】
(測定方法)
(1)混和ちょう度
JIS K 2220ちょう度試験方法に基づき測定した。
【0041】
(2)初期音響特性
軸受けの初期音響特性を測定するのに一般的なアンデロンメータを用いて、低騒音性を測定した。アンデロンメータは、ベアリングの外輪を固定し、内輪を一定の速度で回転させたときに内部から外部に伝達される半径方向の振動成分を取り出し、スピーカーより音として出す装置である。具体的には、アンデロンメータの軸受としてJIS呼び番号608のベアリングを用い、グリースを0.3g充填し、回転数1800rpm、スラスト荷重2kgfで一分間回転させたときのハイバンドのアンデロン値を測定することによって子なった。初期音響特性は、アンデロン値が低いほど、良好な結果である。
評価は、以下の基準に従って行った。アンデロン値が、1.3以上、かつ1.5未満であるものも初期音響特性は良好であるが、より小さい方が好ましい。
【0042】
◎:アンデロン値が1.0未満である。
○:アンデロン値が1.0以上、かつ1.3未満である。
△:アンデロン値が1.3以上、かつ1.5未満である。
×:アンデロン値が1.5以上である。
【0043】
(3)音響長寿命性
高温下で軸受けの外輪を固定して内輪を一定速度で回転させ、一定期間毎にそのベアリングのアンデロン値を測定することで音響長寿命性を評価した。具体的には、軸受としてJIS呼び番号608のベアリングを用い、グリースを0.3g充填し、130℃の環境下、回転数3000rpmで回転させ、24時間毎にアンデロン値を測定した。アンデロン値の測定には(3)初期音響特性と同様の方法を用いた。アンデロン値が5以上になった時点を音響寿命とし、寿命に達するまでの時間が長いほど良好な結果である。評価は、以下の基準に従って行った。音響寿命が2500時間未満、かつ2000時間以上であるものも音響長寿命性は良好であるが、より長い方が好ましい。
【0044】
◎:音響寿命が3000時間以上である。
○:音響寿命が3000時間未満、かつ2500時間以上である。
△:音響寿命が2500時間未満、かつ2000時間以上である。
×:音響寿命が2000時間未満である。
【0045】
(4)低トルク性
グリースの低トルク性を評価するために、JIS K 2220に基づき、−40℃での低温トルク(mN・m)を測定した。評価は、以下の基準に従って行った。起動トルクが500mN・m以上、かつ530mN・m未満であるものも低トルク性は良好であるが、より小さい方が好ましい。
【0046】
◎:起動トルクが470mN・m未満である。
○:起動トルクが470mN・m以上、かつ500mN・m未満である。
△:起動トルクが500mN・m以上、かつ530mN・m未満である。
×:起動トルクが530mN・m以上である。
【0047】
なお、表中のアルキル化ジフェニルエーテル横の( )内の数値は基油中のアルキル化ジフェニルエーテルの含有割合(質量%)、ポリオールエステル及びコンプレックス型ポリオールエステル横の( )内の数値はエステル基油2種中の質量比率を示す。また、N−置換テレフタラミン酸ナトリウム及び脂環式ジウレア横の( )内の数値は増ちょう剤中の各増ちょう剤の質量比率を示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】

【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
【表5】

【0053】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のグリース組成物は、情報機器やエアコン等の家電製品、各種産業機械や自動車等に好適に使用することができ、特に自動車や産業機械等のベアリング用グリースとして適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)炭素数8〜22のアルキル基を一つ以上有するアルキル化ジフェニルエーテル、
(B)炭素数6〜12の脂肪族モノカルボン酸と3価又は4価の多価アルコールから構成されるポリオールエステル、及び
(C)炭素数4〜14の脂肪族モノカルボン酸と炭素数4〜14の脂肪族ジカルボン酸と3価から6価の多価アルコールから構成されるコンプレックス型ポリオールエステル
を含有する基油であって、基油の合計量に対する上記(A)アルキル化ジフェニルエーテルの割合が5〜50質量%であり、かつ上記(B)ポリオールエステルと上記(C)コンプレックス型ポリオールエステルの合計量に対する上記(B)ポリオールエステルの割合が10〜65質量%である基油を含有し、
増ちょう剤として、N−置換テレフタラミン酸ナトリウム塩と脂環式ジウレア化合物を含有し、かつN−置換テレフタラミン酸ナトリウム塩と脂環式ジウレア化合物との合計量に対するN−置換テレフタラミン酸ナトリウム塩の割合が50〜70質量%である増ちょう剤を含有し、
カルシウム及びバリウムのスルホン酸塩から選ばれる一種類以上をグリース全量に対して0.5〜4.5質%含有し、
混和ちょう度が130〜295の範囲にあることを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
基油の合計量に対する上記(A)アルキル化ジフェニルエーテルの割合が10〜30質量%であり、かつ上記(B)ポリオールエステルと上記(C)コンプレックス型ポリオールエステルの合計量に対する上記(B)ポリオールエステルの割合が20〜50質量%であり、スルホン酸塩が過塩素酸法による全塩基価が0.1〜50mgKOH/gのカルシウムスルホネートである請求項1に記載のグリース組成物。

【公開番号】特開2011−46898(P2011−46898A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199071(P2009−199071)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(398053147)コスモ石油ルブリカンツ株式会社 (123)
【Fターム(参考)】