説明

グルコシルグリセロールの使用

本発明は、ヒトの皮膚および/または粘膜を保護および安定化するために細胞保護酵素の発現を増加させることを目的としたグルコシルグリセロールおよび/またはグルコシルグリセロールエステルの使用に関する。グルコシルグリセロールが、超酸化物不均化酵素などの細胞保護酵素の刺激および活性化に効果的な役割を果たすことが示された。それゆえ、このようにして、ヒトの皮膚細胞を有害な外部の影響から効果的に保護することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品または皮膚用製剤の観点からのグルコシルグリセロールの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、化粧品または皮膚用製剤におけるグルコシルグリセリドの使用が記載されている。この性質を持つ物質は、いわゆる保湿剤として、すなわち、水分添加特性を有する物質として利用できる。ここでは、2−O−β−D−グルコシルグリセロールの使用が特に好ましい。
【0003】
グルコシルグリセロール、またはより詳しくは2−O−β−D−グルコシルグリセロールは、例えば、浸透圧保護目的のためにその性質を利用する藍色細菌から合成された天然物質である。このように、藍色細菌は、NaClの濃度が1.5Mまでである塩性媒質中で増殖することができる。その分子は、細胞質中に高濃度で蓄積し、このようにして、そのような環境における、高い塩濃度による既存の浸透圧を減少させ、それゆえ、その細胞を水の損失から保護する。ここでの例に、藍色細菌のシネコシスティス属(Synechocystis)sp.PCC6803がある。
【0004】
さらに、その分子は、ミロタムヌス科(Myrothamnus)の植物によっても合成される。これらの植物は、湿潤−乾燥(humid-to-dry)環境において生長する。ミロタムヌス・フラベリフォリア(flabellifolia)は、岩盤上で60cmまでの高さに生長するアフリカ南部に見られる小さな灌木である。この植物は、アフリカ南部に起こる、数ヶ月続く乾燥条件の渇水期において完全に無事に生存する。しかしながら、雨が降るやいなや、この植物は再び数時間以内に急に生長し始め、それゆえ、この植物は、「復活の木」の別称でも知られている。2−O−α−D−グルコシルグリセロールの構造は以下のとおりである:
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許出願公開第19540749A1号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
意外なことに、グルコシルグリセロールが細胞保護酵素の発現を増加させられることが発見され、ヒトの皮膚細胞に実施した試験によって確認された。したがって、本発明は、ヒトの皮膚および/または粘膜の保護および安定化のために細胞保護酵素の発現を増加させることを目的としたグルコシルグリセロールの使用に関する。
【0007】
グルコシルグリセロールの効率は、ケラチン生成細胞および繊維芽細胞に行った試験に基づいて実証することができた。これらの試験において、適切な細胞培養物をグルコシルグリセロール溶液および定量化された転写mRNAにより処理した。この目的のために、最初にmRNAを抽出して、逆転写酵素を用いて33P標識付き標的を生成した。これに続いて、これらの標的をcDNAチップに施し、放射能を蛍光イメージングにより測定した。このcDNAチップは、様々なタンパク質のcDNAのアレイを含んでいた。
【0008】
これに関連して、細胞保護酵素の発現が上昇することが分かった。細胞保護酵素は、特に、反応性酸素化合物を分解できる酵素である。ここでの例には、反応性超酸化物イオンに対して真核細胞を保護する酵素である超酸化物不均化酵素がある。このプロセスにおいて、この酵素の酸化形態が超酸化物陰イオンと反応し、それゆえ、酸素とこの酵素の還元形態を生成する。次いで、この形態は、第2の超酸化物陰イオンと反応して、過酸化水素を形成し、この酵素の酸化形態を再度形成する。これは、便宜上、以下の式によって表すことができる:
2O2-+2H+ → H22+O2
これに関連して、別の重要な酵素は、過酸化水素を不均化して、酸素と水を形成するカタラーゼである。このように、超酸化物不均化酵素に似たカタラーゼは、皮膚細胞に作用する酸化的ストレスを減少させる。
【0009】
グルタチオンペルオキシダーゼは同様に、酸化的ストレスのマイナスの効果に対抗する細胞防御系において重要な役割を果たす。グルタチオンペルオキシダーゼは、有機過酸化物および過酸化水素のグルタチオン依存性低減に触媒作用を及ぼす。
【0010】
反応性酸素化合物、特に、超酸化物陰イオン、ヒドロキシルラジカルおよび過酸化物を分解することのできる、いわゆる細胞保護酵素は、酸化的ストレスに対する保護において重要な役割を果たす。人体の界面および表面としては、皮膚/粘膜は、数多くの外部ストレスに曝される。ヒトの皮膚は、様々な特化した細胞種−ケラチン生成細胞、メラニン細胞、ランゲルハンス細胞、メルケル細胞など−からなり、人体を外部の影響から保護する器官である。これに関連して、ヒトの皮膚に影響があるであろう物理的、化学的および生物学的要因の間で区別をつけなければならない。物理的影響は、特に、熱的および機械的影響並びに、例えば、紫外線、可視線および赤外線などの照射線の影響である。化学的影響としては、詳しくは、特に、化学物質、毒素、フリーラジカル、アレルゲン、変性物質、DNAに付着する物質およびタンパク質を損傷するまたは不活性化する物質への曝露およびそれらの影響が挙げられる。空中浮遊粒子も有害な影響があるであろう。外部の生物学的影響は、異質有機体およびそれらの代謝産物により生じる影響を意味する。ヒトの皮膚は、熱的影響によっても影響を受けるであろう。本発明によれば、グルコシルグリセロールを使用することにより、皮膚を上述した自然の影響から保護することができる。
【0011】
細胞保護酵素がどのように刺激され、活性化されるかは、特に、超酸化物不均化酵素SOD−1およびSOD−2の場合に示される。ケラチン生成細胞に関し、0.5%のグルコシルグリセロール溶液を使用したときに、SODの発現を24時間以内に4.7倍増加させ、96時間以内に19.6倍まで上昇させることができた。SOD−2に関する限り、1%のグルコシルグリセロール溶液を使用した繊維芽細胞に関する試験により、24時間以内で25.4倍高い発現が示され、96時間以内に、34.4倍の増加を達成することができた。
【0012】
反応性酸素化合物を分解する酵素は別として、他の細胞保護酵素も、例えば、リガーゼなどのDNA修復酵素も発現が増加されるであろう。シャペロンは、別の類別を表し、タンパク質の正確なフォールディングを促進させる。
【0013】
使用されるグルコシルグリセロールは、例えば、シネコシスティス属の藍色細菌により蓄積される、天然に発生する2−O−α−D−グルコシルグリセロールであることが好ましい。しかしながら、グリセロール分子へのグルコースのβ−グリコシド結合から、または1位でのグルコースのグリセロールへの結合からも、匹敵する効果が期待できる。それゆえ、以下のグルコシルグリセロールが考えられ、D−立体配置の分子の表記のみがここに表される:
【化2】

【化3】

【0014】
グルコシルグリセロールのエステルを利用してもよい。
【0015】
グルコシルグリセロールは、化粧品、皮膚用製剤および医薬品の形態で、前述した目的のために使用してよい。その濃度は、調製品の総質量に対して、例えば、0.001質量%と10質量%の間、特に、0.01質量%と6質量%の間の及ぶであろう。
【0016】
特に、グルコシルグリセロールは水溶液で提供される。それにもかかわらず、なお、油中水(W/O)タイプまたは水中油(O/W)タイプのエマルションおよびマイクロエマルションが基本的に考えられる。
【0017】
慣例的に化粧用助剤、例えば、担体物質、防腐剤、殺菌剤、香料、ソリュタイザー、ビタミン類、安定剤、消泡剤、増粘剤、着色剤、界面活性剤、乳化剤、保湿剤などを使用してよい。
【0018】
グルコシルグリセロールを含有する化粧品または皮膚用製剤は、局所に塗布されることを意味する。それらは、例えば、溶液、懸濁液、エマルション、ペースト、軟膏、ゲル、クリーム、ローション、粉末、石鹸、界面活性剤含有するクレンジング製剤、オイル、スプレーおよび口紅の形態で使用されるであろう。
【0019】
軟膏、ペースト、クリームおよびゲルは、例えば、動物性脂肪および植物性脂肪、蝋、パラフィン、トラガント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、滑石および酸化亜鉛またはこれらの物質の混合物/ブレンドなどの慣習的な担体物質を含有してもよい。
【0020】
慣習的な担体物質に加え、粉末およびスプレーは、慣習的な高圧ガス、例えば、プロパン/ブタンまたはジメチルエーテルを含有してもよい。
【0021】
溶液およびエマルションは、溶媒、ソリュタイザーおよび乳化剤またはオイルなどの慣習的な担体物質を含有してもよい。
【0022】
懸濁液は、典型的に、水またはエタノールなどの追加の担体物質を含有する。
【0023】
グルコシルグリセロールは、国際公開第2008/034158A2号パンフレットに記載された方法にしたがって生成してもよい。この場合、サッカロースホスホリラーゼが、グリコシル供与体およびグリコシル受容体としてのグリセロールを有するブレンドと相互作用させられる。グルコシル供与体がサッカロースであることが好ましい。
【実施例】
【0024】
細胞保護酵素の発現の増加は、以下のように示すことができる:
表皮ケラチン生成細胞(NHEK、正常なヒト表皮ケラチン生成細胞)および真皮繊維芽細胞(NHDF、正常なヒト真皮繊維芽細胞)に関して、研究を行った。ケラチン生成細胞には場合、0.5%(w/w)の、繊維芽細胞の場合には、1%(w/w)のグルコシルグリセロール水溶液を処理に使用した。
【0025】
培養条件:
37℃、5%のCO2
培養媒質:
ケラチン生成細胞: 上皮成長因子(EGF)0.25ng/ml、下垂体エキス(PE)25μg/ml(Invitrogen 3700015)、およびゲンタマイシン25μm/ml(Sigma G1397)とブレンドされたケラチン生成細胞−SFM(Invitrogen 17005-034)
繊維芽細胞: L−グルタミン2mM(Invitrogen 25030024)、ペニシリン50UI/ml/ストレプトマイシン50μg/ml(Invitrogen 15070063)、ウシ胎仔血清(FCS、Invitrogen 12070098)
培養は、24時間および96時間の期間に亘り行った。恒温期間後の終わりに、細胞をPBS溶液(Invitrogen 14190094)で洗浄した。
【0026】
標準プロトコルにしたがってTriTeagentを使用して、各培養物のmRNAの抽出を行った。[α33P]−dATPおよびOligo(dT)を使用してmRNAの逆転写によって、33P標識付き標的を有する関連cDNAを生成した。
【0027】
この標識付きcDNA標的を、ミニチップに共有結合した特異的cDNAプローブに交雑した。完全な洗浄後、交雑した標的の相対量を、蛍光イメージング法により決定した。放射能を「サイクロン」Phosphor Imager(Packard Instruments;72時間の曝露時間)で測定し、ImageQuant TL−Software(Amersham Biosiences)を使用して、この分析を行った。
【0028】
以下の結果が得られた:
ケラチン生成細胞の場合のサイトゾルSOD−1の発現増加
24時間:
対照:18.2
グルコシルグリセロール溶液による処理:85
96時間:
対照:9.3
グルコシルグリセロール溶液による処理:182
繊維芽細胞の場合のSOD−2の発現増加
24時間:
対照:16.5
グルコシルグリセロール溶液による処理:419
96時間:
対照:9.1
グルコシルグリセロール溶液による処理:313

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの皮膚および/または粘膜を保護および安定化するために細胞保護酵素の発現を増加させることを目的としたグルコシルグリセロールおよび/またはグルコシルグリセロールエステルの使用。
【請求項2】
ヒトの皮膚および/または粘膜を酸化的ストレスから保護するための請求項1記載の使用。
【請求項3】
ヒトの皮膚および/または粘膜を反応性酸素化合物またはフリーラジカルから保護するための請求項2記載の使用。
【請求項4】
ヒトの皮膚および/または粘膜を化学物質、毒素、アレルゲン、変性物質、DNAに付着する物質およびタンパク質を損傷するまたは不活性化する物質または空中浮遊粒子から保護するための請求項1または2記載の使用。
【請求項5】
前記グルコシルグリセロールが2−O−α−D−グルコシルグリセロールであることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の使用。
【請求項6】
前記細胞保護酵素が、反応性酸素化合物を分解する酵素であることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の使用。
【請求項7】
前記酵素が、超酸化物不均化酵素、カタラーゼまたはグルタチオンペルオキシダーゼであることを特徴とする請求項6記載の使用。
【請求項8】
前記超過酸化物がSOD−1またはSOD−2であることを特徴とする請求項7載の使用。
【請求項9】
前記細胞保護酵素がDNA修復酵素であることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の使用。
【請求項10】
前記細胞保護酵素がシャペロンであることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の使用。
【請求項11】
前記グルコシルグリセロールが水溶液中に提供されることを特徴とする請求項1から10いずれか1項記載の使用。
【請求項12】
前記グルコシルグリセロールの濃度が0.001質量%と10質量%の間に及ぶことを特徴とする請求項1から11いずれか1項記載の使用。

【公表番号】特表2012−500781(P2012−500781A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523353(P2011−523353)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【国際出願番号】PCT/EP2009/006083
【国際公開番号】WO2010/020424
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(510126117)ビトップ アーゲー (4)
【氏名又は名称原語表記】bitop AG
【Fターム(参考)】