説明

グルコース脱水素酵素およびグルコースの電気化学測定法

【課題】特に自己血糖測定において有用である、測定精度、グルコースに対する反応特異性および電極センサーとしての保存安定性の点で、従来のセンシング技術と比較して格段に優れ、更に広い温度条件の下でも安定した測定を行うことが可能である、グルコース脱水素酵素、それを用いるグルコースの測定方法および酵素組成物を提供する。
【解決手段】50℃における活性値を100%とする場合に、20℃における活性値が30%以上、好ましくは10℃における活性値が15%以上、より好ましくは5℃における活性値が10%以上、更に好ましくは60℃における活性値が50%以上であることを特徴とする、グルコース脱水素酵素遺伝子が発現された大腸菌により生産されることを特徴とするグルコース脱水素酵素、ならびに該グルコース脱水素酵を用いたグルコースの電気化学的な測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコース脱水素酵素を用いる酵素電極法により、溶液中、特に血液中のグルコース濃度を測定する方法に関する。以下、グルコース脱水素酵素をGDHとも記載する。また、フラビンアデニンジヌクレオチドをFADと記載する。また、FAD依存性グルコース脱水素酵素をFADGDHとも記載する。
【背景技術】
【0002】
グルコースの迅速測定としては、最も広く知られている目的としては、医療分野において糖尿病患者の血糖値測定が挙げられる。また、一般産業界においても、食品工業などの分野では品質管理などの目的で、グルコース量を迅速かつ簡便に測定する技術が求められている。
【0003】
近年、糖尿病の発症率は年々増加傾向にあり、更にその予備軍といわれる潜在的な人の数も併せると、日本国内だけでも1000万人以上の数になるといわれている。また、生活習慣病への関心が非常に高まってきていることもあり、血糖値のきめ細かな自己測定が行われる機会や必要性も多くなっている。こうした時代背景において、血糖自己測定モニター(SMBG:Self−Monitoring of Blood Glucose)のための技術開発は、糖尿病患者が通常の自分の血糖値を把握し治療に生かすために重要である。血糖の測定技術に関しては、従来から多くの方法が報告されており、また実用化もなされている。SMBGのための基本手法としては、検体の微量化、測定時間の短縮、装置の小型化の点で電気化学的なセンシングによる方法が有利である。
【0004】
一般的に定着してきている血糖測定のためのセンシングの手法としては、グルコースを基質とする酵素を利用したセンサー技術が多数知られている。そのような酵素の例としては例えばグルコースオキシダーゼ(EC 1.1.3.4)が挙げられる。グルコースオキシダーゼはグルコースに対する特異性が高く、熱安定性に優れているという利点を有していることから血糖センサー用酵素として古くから利用されており、その最初の発表は実に40年ほど前に遡る。グルコースオキシダーゼを利用した血糖センサーにおいては、グルコースを酸化してD−グルコノ−δ−ラクトンに変換する過程で生じる電子がメディエーター(電子受容体)を介して電極に渡されることで測定がなされるが、グルコースオキシダーゼは反応で生じたプロトンを酸素に渡しやすいため溶存酸素が測定値に影響してしまうという問題があった。
【0005】
このような問題を回避するために、例えばNAD(P)依存型グルコース脱水素酵素(EC 1.1.1.47)あるいはピロロキノリンキノン(以下、PQQとも記載する。)依存型グルコース脱水素酵素(EC1.1.5.2(旧EC1.1.99.17)が血糖センサー用酵素として用いられている。これらは溶存酸素の影響を受けない点で優位であるが、前者のNAD(P)依存型グルコース脱水素酵素(以下、NADGDHとも記載する。)は安定性の乏しさや補酵素の添加が必要という煩雑性がある。一方後者のPQQ依存型グルコース脱水素酵素(以下、PQQGDHとも記載する。)は、基質特異性に乏しく、マルトースやラクトースといったグルコース以外の糖類にも作用するため測定値の正確性を損ねてしまうという欠点がある。
【0006】
そこで、溶存酸素の影響を受けず、補酵素の添加も必要なく、なおかつ特に基質特異性の点で優れたGDHとして、FAD依存性グルコース脱水素酵素(FADGDH)が注目されてきている。非特許文献1〜4、特許文献1〜3にはアスペルギルス・オリゼ由来のFAD依存性グルコース脱水素酵素について報告されている。また、特許文献4には、アスペルギルス属由来フラビン結合型グルコース脱水素酵素(以下、フラビン結合型グルコース脱水素酵素をFADGDHとも記載する。)が開示されている。本酵素は基質特異性に優れかつ溶存酸素の影響を受けない点で優位である。熱安定性については50℃、15分処理で89%程度の活性残存率であり安定性についても優れているとされている。また、該FADGDHをグラッシーカーボン電極に固定化して、電流測定によりグルコースを測定する方法が開示されている。こうした酵素電極を用いた電気化学的な測定方法は一般的に広く用いられている方法ではあるが、再現性や精度の点で優れたデータを取得することが難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−289148号公報
【特許文献2】国際公開2007/139013号パンフレット
【特許文献3】国際公開2008/001903号パンフレット
【特許文献4】国際公開2004/058958号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Biochim.Biophys.Acta.139(2),265−276(1967年)
【非特許文献2】Biochim.Biophys.Acta.139(2),277−293(1967年)
【非特許文献3】Biochim.Biophys.Acta.146(2),317−327(1967年)
【非特許文献4】Biochim.Biophys.Acta.146(2),328−335(1967年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、特にフラビン化合物を補酵素として必要とする、グルコース脱水素酵素を用いた電気化学的なセンシング技術により、簡便な操作で、迅速に安定したデータを得ることを可能にした、広い温度領域において十分な反応性を有するグルコース脱水素酵素ならびにそれを用いる電気化学的なグルコースの定量方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、有用なグルコースの電気化学的な測定方法を確立する上で、用いるグルコース脱水素酵素の広い温度領域における十分な反応性を有することが極めて重要であり、一定の温度安定特性を具備するグルコース脱水素酵素の適用が特に有用であることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
(1)下記の理化学的性質を有し、かつ50℃における活性値を100%とする場合に、20℃における活性値が30%以上であり、グルコース脱水素酵素遺伝子が発現された大腸菌により生産されることを特徴とするグルコース脱水素酵素。
至適温度:45〜50℃
温度安定性:50℃、30分処理による残存活性が50%以上
至適pH:7.0付近
pH安定性:5.0〜7.0(25℃、16時間)
Km:50〜80mM
(2)50℃における活性値を100%とする場合に、10℃における活性値が15%以上であることを特徴とする(1)のグルコース脱水素酵素。
(3)50℃における活性値を100%とする場合に、5℃における活性値が10%以上であることを特徴とする(1)または(2)のグルコース脱水素酵素。
(4)50℃における活性値を100%とする場合に、60℃における活性値が50%以上であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかのグルコース脱水素酵素。
(5)フラビン化合物を補酵素として必要とすることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかのグルコース脱水素酵素。
(6)グルコース脱水素酵素遺伝子が糸状菌由来であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかのグルコース脱水素酵素。
(7)糸状菌がペニシリウム(Penicillium)属もしくはアスペルギルス(Aspergillus)属に属することを特徴とする(6)のグルコース脱水素酵素。
(8)糸状菌がアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus orysae)であることを特徴とする(6)または(7)のグルコース脱水素酵素。
(9)(1)〜(8)にいずれかのグルコース脱水素酵素および緩衝材を含有してなることを特徴とする電気化学測定用酵素組成物。
(10)1種以上のメディエーター化合物をさらに含むことを特徴とする(9)の電気化学測定用酵素組成物。
(11)グルコース脱水素酵素を含有する酵素電極を用いて、グルコースの作用により生じる電流変化を測定することにより溶液中のグルコース量を測定する方法であって、該グルコース脱水素酵素が下記の理化学的性質を有し、かつ50℃における活性値を100%とする場合に、20℃における活性値が30%以上であることを特徴とするグルコースの電気化学測定方法。
至適温度:45〜50℃
温度安定性:50℃、30分処理による残存活性が50%以上
至適pH:7.0付近
pH安定性:5.0〜7.0(25℃、16時間)
Km:50〜80mM
(12)50℃における活性値を100%とする場合に、10℃における活性値が15%以上であるグルコース脱水素酵素を用いることを特徴とする(11)のグルコースの電気化学測定方法。
(13)50℃における活性値を100%とする場合に、5℃における活性値が10%以上であるグルコース脱水素酵素を用いることを特徴とする(11)または(12)のグルコースの電気化学測定方法。
(14)50℃における活性値を100%とする場合に、60℃における活性値が50%以上であるグルコース脱水素酵素を用いることを特徴とする(11)〜(13)のいずれかの電気化学測定方法。
(15)グルコース脱水素酵素がフラビン化合物を補酵素として必要とすることを特徴とする(11)〜(14)のいずれかの電気化学測定方法。
(16)グルコース脱水素酵素遺伝子が糸状菌由来であることを特徴とする(11)〜(15)のいずれかの電気化学測定方法。
(17)糸状菌がペニシリウム(Penicillium)属もしくはアスペルギルス(Aspergillus)属に属することを特徴とする(16)の電気化学測定方法。
(18)糸状菌がアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus orysae)であることを特徴とする(16)又(17)の電気化学測定方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるグルコース脱水素酵素、グルコースの測定方法および酵素組成物は、測定精度、グルコースに対する反応特異性および電極センサーとしての保存安定性の点で、従来の酵素電極を用いるセンシング技術と比較して格段に優れている。加えて、広い温度範囲において、測定精度に変動を及ぼすことがないので、あらゆる環境条件、特に熱帯、亜熱帯あるいは寒冷地のような温度条件の下においても、精度よくグルコースを測定することが可能である。本願発明のグルコース脱水素酵素は、遺伝子組み換え技術を用いることにより、大腸菌により容易に生産することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】グルコース脱水素酵素を用いた場合の、グルコースのセンシングに関する化学反応のスキームを示す図である。
【図2】本発明の実施例において用いた、グルコース脱水素酵素活性の温度依存性を示す図である。
【図3】本発明の実施例において用いた、グルコース脱水素酵素活性の熱安定性を示す図である。
【図4】本発明の実施例において用いた、グルコース脱水素酵素活性のpH安定性を示す図である。
【図5】(A)実施例で用いた電極の写真を示す図である。(B)実施例において、金電極上に溶液をマウントした状態を示す写真である。
【図6】本発明の実施例における酵素電極測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において用いられるグルコース脱水素酵素は、特に限定されるものではないが、基質特異性の観点から、フラビン化合物を補酵素として要求されるグルコース脱水素酵素を用いることが好ましい。フラビンは、ジメチルイソアロキサジンの10位に置換基をもつ一群の誘導体であり、フラビン分子種を補酵素とする酵素であれば特に限定されるものではない。フラビン化合物としては、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、フラビンアデニンモノヌクレオチド(FMN)などが挙げられるが、FADが特に好ましい。
【0015】
グルコース脱水素酵素は、メディエーター(電子受容体)の存在下で、グルコースの水酸基を酸化してグルコノ−δ−ラクトンを生成する反応を触媒する。図1にグルコースのセンシングに関するスキームの一例を示す。FAD依存型のグルコース脱水素酵素がグルコースに作用するに、補酵素FADはFADHとなるが、メディエーターとしてフェリシアン化物(例えば、「Fe(CN)3−)を存在させると、FADH2はこれをフェロシアン化物(この場合、「Fe(CN)4−)へと変換し、自らはFADへと戻る。フェロシアン化物は電位を与えると、電子を電極に渡してフェリシアン化物へと戻るので、こうした電子伝達物質をメディエーターとすることにより、電気化学的なシグナル検出が可能になる。
【0016】
本発明のグルコース脱水素酵素は、まず基本的な特性として、以下のような性質を有することを特徴とする。
至適温度:45〜50℃
温度安定性:50℃、30分処理による残存活性が50%以上
至適pH:7.0付近
pH安定性:5.0〜7.0(25℃、16時間)
Km:50〜80mM
【0017】
本発明のグルコース脱水素酵素は、上記のような特性に加えて、さらに広い温度領域において、特に低温度の環境条件においても反応性が優れることを特徴とするものである。具体的には、50℃における活性値を100%とする場合に、20℃における活性値が30%以上、より好ましくは40%以上を示すことを特徴とする。また、別な態様として、50℃における活性値を100%とする場合に、10℃における活性値が15%以上、より好ましくは20%以上を示すものが挙げられる。更に別な態様として、50℃における活性値を100%とする場合に、5℃における活性値が10%以上、より好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上を示すものが挙げられる。
【0018】
また、本発明のグルコース脱水素酵素は、高温度の環境条件においても同様に低温条件と同様に、反応性が優れることがより好ましい。具体的には、50℃における活性値を100%とする場合に、60℃における活性値が50%、より好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上を示すものが挙げられる。
【0019】
また、本発明のグルコース脱水素酵素は、熱安定性においても優れていることが好ましい。具体的には、50℃、30分間の処理後の残存活性が40%以上を示すものが例示され、好ましくは50℃、30分間の処理後の残存活性が50%以上を示すものが挙げられる。また、50℃、60分間の処理後の残存活性が20%以上を示すもの、より好ましくは50℃、60分間の処理後の残存活性が30%以上を示すものが挙げられる。ここで、残存活性とは、50mM リン酸緩衝液(pH6.0)中に10U/mlの酵素濃度条件として、50℃、30分間インキュベートした後のFAD依存型GDH活性値の、インキュベーションを行わないFAD依存型GDHの活性値に対する割合をいうものである。
【0020】
更には、本発明において用いられるグルコース脱水素酵素は、pH安定性においても優れるものが好ましい。具体的には、pH5.0〜pH7.0において、25℃、16時間処理後の残存活性が80%以上、好ましくは85%以上を示すものが挙げられる。また、25℃、16時間の処理を行った際に、pH6.5の時の残存活性に対して、pH4.5〜7.5の範囲においては60%以上、好ましくは70%以上を示すものであることが好ましい。ここで、残存活性とは、100mM濃度の各種緩衝液中に、5U/mlの酵素濃度条件で、25℃、16時間インキュベートした後のFAD依存型GDH活性値の、インキュベーションを行わないFAD依存型GDHの活性値に対する割合をいうものである。緩衝液の種類としては、pH3.5〜5.5の範囲では酢酸緩衝液、pH6.0〜7.5の範囲ではリン酸緩衝液、pH8.0〜9.0の範囲ではトリス緩衝液を用いるものとする。
【0021】
上記FAD依存型GDHの活性測定は、以下の条件で行うものである。
<試薬>
50mM PIPES緩衝液 pH6.5(0.1%TritonX−100を含む)
24mM フェナジンメトサルフェート(PMS)溶液
2.0mM 2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCPIP)溶液
1M D−グルコース溶液
上記PIPES緩衝液20.5ml、DCPIP溶液1.0ml、PMS2.0ml、D―グルコース溶液5.9mlを混合して反応試薬とする。
【0022】
<測定条件>
反応試薬3mlを37℃で5分間予備加温する。GDH溶液0.1mlを添加しゆるやかに混和後、水を対照に37℃に制御された分光光度計で、600nmの吸光度変化を5分記録し、直線部分から1分間当たりの吸光度変化(ΔODTEST)を測定する。盲検はGDH溶液の代わりにGDHを溶解する溶媒を試薬混液に加えて同様に1分間あたりの吸光度変化(ΔODBLANK)を測定する。これらの値から次の式(I)に従ってGDH活性を求める。ここでGDH活性における1単位(U)とは、濃度200mMのD−グルコース存在下で1分間に1マイクロモルのDCPIPを還元する酵素量として定義している。
【0023】
【数1】

【0024】
なお、式中の3.1は反応試薬+酵素溶液の液量(ml)、16.3は本活性測定条件におけるミリモル分子吸光係数(cm/マイクロモル)、0.1は酵素溶液の液量(ml)、1.0はセルの光路長(cm)を示す。
【0025】
本発明において用いられるグルコース脱水素酵素遺伝子の起源は特に限定されないが、糸状菌由来のものが好ましく、なかでもペニシリウム(Penicillium)属もしくはアスペルギルス(Aspergillus)属に属するものが例示される。アスペルギルス(Aspergillus)属に由来するものが特に好ましく、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)などが例示される。なかでも、アスペルギルス・オリゼに由来するものが特に好ましい。
【0026】
本発明のグルコース脱水素酵素は、遺伝子工学的な手法を用いて、グルコース脱水素酵素遺伝子を、大腸菌を宿主として発現させて生産する方法により取得することが可能である。グルコース脱水素酵素遺伝子としては、配列番号1に示すような、シグナルペプチド切断型のFADGDHをコードする遺伝子の配列が例示される。
【0027】
本発明において適用されるグルコース脱水素酵素の一例として、その遺伝子の取得および酵素の製法に関して、以下に実験例として例示する。
【0028】
配列番号45は、野生型のアスペルギルス・オリゼ由来のFADGDHのアミノ酸配列であって、シグナル配列を含む。配列番号2は、「配列番号45においてシグナル配列部分の一部または全部が欠失したアミノ酸配列からなり、かつグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質」の一例を示すものである。配列番号45と配列番号2の違いは、配列番号45がN末端側にシグナル配列を含むが、配列番号2ではシグナル配列部分の一部または全部が欠失している点であり、配列番号45の方が21アミノ酸分長くなっているが、それ以外は同じである。
【0029】
配列番号45で示される野生型のアスペルギルス・オリゼ由来のFADGDH、およびそれらをコードする遺伝子は、以下の方法により入手した。本発明者らは、National Center for Biotechnology Information(以下、NCBIと表記する)のデータベースを利用し、アスペルギルス・オリゼ由来のグルコース脱水素酵素遺伝子を推定、取得し、該遺伝子を用いた遺伝子組換え体よりアスペルギルス・オリゼ由来のグルコース脱水素酵素を取得できることを見出した。
【0030】
アスペルギルス・オリゼ由来GDH遺伝子を取得するために、自社保有のアスペルギルス・オリゼTI株の培養上清から、各種クロマトグラフィーを用いてGDHの精製を試みたが、高純度のGDHを得るのは困難であり、遺伝子取得の常法の1つである部分アミノ酸配列を利用したクローニングは断念せざるを得なくなった。しかしながら、我々はPenicillium lilacinoechinulatum NBRC6231株がGDHを生産することを見出し、精製酵素を用いて部分アミノ酸配列の決定に成功した。次いで、決定したアミノ酸配列を元に、PCR法によりP.lilacinoechinulatum NBRC6231由来GDH遺伝子を一部取得し、塩基配列を決定した(1356bp)。最終的に、この塩基配列を元に、アスペルギルス・オリゼGDH遺伝子を推定、取得した。その概要を以下の<実験例1><実験例2>に示す。
【0031】
<実験例1>、
[アスペルギルス・オリゼ由来グルコース脱水素酵素(以下、AOGDHとも記載する)遺伝子の推定]
[1]アスペルギルス・オリゼ由来GDHの取得
アスペルギルス・オリゼTI株のL乾燥菌株をポテトデキストロース寒天培地(Difco製)に植菌し25℃でインキュベートすることにより復元した。復元させたプレート上の菌糸を寒天ごと回収してフィルター滅菌水に懸濁した。2基の10L容ジャーファーメンター中に生産培地(1%麦芽エキス、1.5%大豆ペプチド、0.1%MgSO・7水和物、2%グルコース、pH6.5)6Lを調製し、120℃、15分オートクレーブ滅菌して放冷した後、上記の菌糸懸濁液を接種し、30℃、通気攪拌培養を行った。培養開始から64時間後に培養を停止し、菌糸体を濾過により除去してGDH活性を含む濾過液を回収した。回収した上清を限外ろ過膜(分子量10,000カット)により低分子物質を除去した。次いで、硫酸アンモニウムを60%飽和度となるように添加、溶解し、硫安分画を行い、遠心機によりGDHを含む上清画分を回収後、Octyl−Sepharoseカラムに吸着させ、硫酸アンモニウム飽和度60%〜0%でグラジエント溶出してGDH活性のある画分を回収した。得られたGDH溶液を、G−25−Sepharose(登録商標)カラムを用いて脱塩を行った後、60%飽和度の硫酸アンモニウムを添加、溶解し、これをPhenyl−Sepharoseカラムに吸着させ、硫酸アンモニウム飽和度60%〜0%でグラジエント溶出してGDH活性のある画分を回収した。更にこれを50℃で45分加温した後、遠心分離を行って上清を得た。以上の工程を経て得られた溶液を精製GDH標品(AOGDH)とした。なお、上記精製過程においては、緩衝液として20mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.5)を使用した。さらに、AOGDHの部分アミノ酸配列を決定するため、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーなどの各種手段により精製を試みたものの、部分アミノ酸配列決定に供することのできる高純度の精製標品を得ることはできなかった。
【0032】
[2]ペニシリウム属糸状菌由来GDHの取得
ペニシリウム属糸状菌由来のGDH生産菌としてPenicillium lilacinoechinulatum NBRC6231を用い、上記アスペルギルス・オリゼTI株と同用の手順に従って、培養および精製を行い、SDS電気泳動でほぼ均一な精製標品を取得した。
[cDNAの作製]
Penicillium lilacinoechinulatum NBRC6231について上記方法に従い(但し、ジャーファーメンターでの培養時間は24時間)培養を実施し、濾紙濾過により菌糸体を回収した。得られた菌糸は直ちに液体窒素中に入れて凍結させ、クールミル(東洋紡績製)を用いて菌糸を粉砕した。粉砕菌体より直ちにセパゾールRNA I(ナカライテスク社製)を用いて本キットのプロトコールに従ってトータルRNAを抽出した。得られたトータルRNAからはOrigotex−dt30(第一化学薬品社製)をもちいてmRNAを精製し、これをテンプレートにReverTra−Plus−TM(東洋紡績製)を用いてRT−PCRを行った。得られた産物はアガロース電気泳動を行い、鎖長0.5〜4.0kbに相当する部分を切り出した。切り出したゲル断片からMagExtractor(登録商標)−PCR&Gel Clean Up−(東洋紡績製)を用いてcDNAを抽出・精製してcDNAサンプルとした。
【0033】
[GDH遺伝子部分配列の決定]
上記で精製したNBRC6231由来GDHを0.1%SDS、10%グリセロールを含有するTris−HCl緩衝液(pH6.8)に溶解し、ここにGlu特異的V8エンドプロテアーゼを終濃度10μg/mlとなるよう添加し37℃16時間インキュベートすることで部分分解を行った。このサンプルをアクリルアミド濃度16%のゲルを用いて電気泳動してペプチドを分離した。このゲル中に存在するペプチド分子を、ブロット用バッファー(1.4%グリシン、0.3%トリス、20%エタノール)を用いてセミドライ法によりPVDF膜に転写した。PVDF膜上に転写したペプチドはCBB染色キット(PIERCE社製GelCode Blue Stain Reagent)を用いて染色し、可視化されたペプチド断片のバンド部分2箇所を切り取ってペプチドシーケンサーにより内部アミノ酸配列の解析を行った。得られたアミノ酸配列はIGGVVDTSLKVYGT(配列番号37)およびWGGGTKQTVRAGKALGGTST(配列番号38)であった。この配列を元にミックス塩基を含有するディジェネレートプライマーを作製し、NBRC6231由来cDNAをテンプレートにPCRを実施したところ増幅産物が得られ、アガロースゲル電気泳動により確認したところ1.4kb程度のシングルバンドであった。このバンドを切り出して東洋紡績製MagExtractor(登録商標)−PCR&Gel Clean Up−を用いて抽出・精製した。精製DNA断片はTArget Clone −Plus−(東洋紡績製)によりTAクローニングし、得られたベクターで大腸菌JM109コンピテントセル(東洋紡績製)をヒートショックにより形質転換した。形質転換クローンのうち青白判定でインサート挿入が確認されたコロニーについてMagExtractor(登録商標)−Plasmid−(東洋紡績製)を用いてプラスミドをミニプレップ抽出・精製し、プラスミド配列特異的プライマーを用いてインサートの塩基配列を決定した(1356bp)。
【0034】
[AOGDH遺伝子の推定]
決定した塩基配列を元に「NCBI BLAST」のホームページ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)からホモロジー検索を実施し、AOGDH遺伝子を推定した。検索により推定したAOGDHとP.lilacinoechinulatum NBRC6231由来GDH部分配列とのアミノ酸レベルでの相同性は49%であった。
【0035】
<実験例2>
[アスペルギルス・オリゼ由来グルコース脱水素酵素遺伝子の取得、大腸菌への導入]
AOGDH遺伝子を取得するために、アスペルギルス・オリゼTI株の菌体よりmRNAを調製し、cDNAを合成した。配列番号39、40に示す2種類のオリゴDNAを合成し、調製したcDNAをテンプレートとしてKOD Plus DNAポリメラーゼ(東洋紡績製)を用いてAOGDH遺伝子増幅した。DNA断片を制限酵素NdeI、BamHIで処理し、pBluescript(LacZの翻訳開始コドンatgに合わせNdeI認識配列のatgを合わせる形でNdeIサイトを導入したもの)NdeI−BamHIサイトに挿入し、組換えプラスミド(pAOGDH)を構築した。この組換えプラスミドを用いて、エシェリヒア・コリーDH5α(東洋紡績製)を形質転換した。形質転換体より、常法に従いプラスミドを抽出し、AOGDH遺伝子の塩基配列の決定を行った(配列番号41)。この結果、cDNA配列から推定されるアミノ酸残基は593アミノ酸(配列番号45)からなることが明らかとなった。RIB40株から予想されるGDHは588アミノ酸でありTI株 GDHとアミノ酸残基数が異なることが示唆された。なお、該遺伝子については、TI株ゲノムDNAを用いて配列を確認し、遺伝子隣接領域についてもRACE法を用いて確認を行った。また、PCR法を用いて、RIB40株に基づくDNA配列をもつ組換えプラスミドを構築し、同様に形質転換体を取得した。これら形質転換体を100μg/mlのアンピシリンを含む液体培地(Terrific broth)200ml中で、30℃、16時間振とう培養を行った。菌体破砕液についてGDH活性を確認したところ、RIB40株由来GDHの配列を有する形質転換体ではGDH活性が確認できなかったが、TI株由来GDHの配列を有する形質転換体については菌体内に培養液1ml当たり8.0UのGDH活性が得られた。尚、実施例1で実施したアスペルギルス・オリゼTI株の培養上清のGDH活性は0.2U/mlであった。
【0036】
<実験例3>
[アスペルギルス・オリゼ由来グルコース脱水素酵素(以下、AOGDHと示す。)遺伝子の大腸菌への導入]
シグナルペプチド切断後のFAD−GDHをmFAD−GDHとした場合、mFAD−GDHのN末端にMのみ付加してmFAD−GDHのN末端が1アミノ酸分のびた形態となっているものをS2と表現した。S2では、配列番号43のオリゴヌクレオチドをN末端側プライマーとして、配列番号44のプライマーとの組合せでPCRを行い、同様手順にて、S2をコードするDNA配列(配列番号2)をもつ組換えプラスミドを構築し、同様に形質転換体を取得した。なお、この改変FAD−GDHのDNA配列を持つプラスミドは、DNAシーケンシングにて配列上誤りがないことを確かめた。この形質転換体をTB培地にて10L−ジャーファーメンターを用いて1〜2日間液体培養した。各培養フェーズの菌体を集菌した後、超音波破砕してGDH活性を確認した。シグナルペプチドと思われるアミノ酸配列を削除することにより、そのGDH生産性が増大した。
【0037】
本発明の改変型FADGDHを取得する方法は、配列番号2(「配列番号45においてシグナル配列部分の一部または全部が欠失したアミノ酸配列からなり、かつグルコース脱水素酵素活性を有するタンパク質」の一例)のアミノ酸配列における上記で示されるいずれか位置においてアミノ酸置換を行うこと、または、配列番号2のアミノ酸配列における上記で示されるいずれか位置においてアミノ酸置換を行うことである。なお、本願発明は、他の種における上記と同等の位置においてアミノ酸置換を有するものを含む。例えば、具体的に「配列番号2のアミノ酸配列と同等の位置」とは、配列番号2のアミノ酸配列と、配列番号2と高い相同性(好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上)のアミノ酸配列を有する他のアスペルギルス・オリゼ由来のFADGDHとを、相同性分析においてアラインさせた場合に、そのアラインメントにおける同一の位置を意味する。
【0038】
なお、本発明においては、「配列番号45において変異を含むアミノ酸配列」に関し、請求項に記載されたアミノ酸配列以外に、次の(1)〜(3)のいずれかの形態もとりうる。また、本発明は、「配列番号45において変異を含むアミノ酸配列」に関し、さらに次の(1)〜(3)のいずれかの変異を加えた形態をとりうる。(配列番号2においても、上記と同様の形態をとりうる。配列番号2において、これらの変異は、変異箇所の位置をそれぞれ21ずつ減じた表記により示される。)
(1)配列番号45に記載されたアミノ酸配列を有するFAGDHにおいて少なくとも1つのアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加された一次構造を有する。
(2)配列番号45において、141位、181位、183位、184位、185位、1186位、187位、188位、190位、191位、192位、193位、201位、350位、352位、390位、492位及び572位、からなる群のうち少なくとも1つの位置においてアミノ酸置換を有する。
(3)配列番号45において、アミノ酸置換が、K141E、G181E、G181I、G181P、G181S、G181Q、S183A、S183C、S183D、S183E、S183F、S183H、S183L、S183P、G184D、G184K、G184L、G184R、S185F、S185T、S185Y、L186A、L186I、L186N、L186P、L186V、A187C、A187I、A187K、A187L、A187M、A187P、A187S、S188A、S188P、S188R、S188V、N190K、N190P、N190Y、N190W、L191C、L191F、S192I、S192K、S192M、S192Q、S192V、V193A、V193C、V193E、V193I、V193M、V193S、V193W、V193Y、A201G、V350Q、A352C、A352D、A352I、A352K、A352L、A352M、Q352V、K390R、K492R、V572A、V572C、V572T、V572Q、V572S、V572Y、(G181E+S188P)、(G181I+S188P)、(G181S+S188P)、(G181Q+S188P)、(S183A+S188P)、(S183C+S188P)、(S183D+S188P)、(S183D+S188P)、(S183E+S188P)、(S183F+S188P)、(S183H+S188P)、(S183L+S188P)、(G184D+S188P)、(S185F+S188P)、(S185T+S188P)、(S185Y+S188P)、(L186A+S188P)、(L186I+S188P)、(L186P+S192K)、(L186P+V572C)、(L186V+V572C)、(A187C+S188P)、(A187I+S188P)、(A187K+S188P)、(A187K+S188P)、(A187M+S188P)、(A187P+S188P)、(A187S+S188P)、(S188P+N190K)、(S188P+N190P)、(S188P+N190Y)、(S188P+N190W)、(S188P+L191C)、(S188P+L191F)、(S188P+S192I)、(S188P+S192K)、(S188P+S192M)、(S188P+S192Q)、(S188P+S192V)、(S188P+V193A)、(S188P+V193C)、(S188P+V193E)、(S188P+V193I)、(S188P+V193M)、(S188P+V193S)、(S188P+V193T)、(S188P+V193W)、(S188P+V193Y)、(S188P+V350Q)、(S188P+A352C)、(S188P+A352D)、(S188P+A352I)、(S188P+A352K)、(S188P+A352L)、(S188P+A352M)、(S188P+A352V)、(G184K+V572C)、(G184R+V572C)のうちいずれかである。
【0039】
ここで、「K141E」は、141位のK(Lys)をE(Glu)に置換することを意味する。
【0040】
特に、配列番号2におけるG163L、G163R、S167P、V551A、V551C、V551Q、V551S、V551Y、(G160I+S167P)、(S162F+S167P)、(S167P+N169Y)、(S167P+L171I)、(S167P+L171K)、(S167P+L171V)、(S167P+V172I)、(S167P+V172W)、(G163K+V551C)(G163R+V551C)、配列番号3におけるG184L、G184R、S188P、V572A、V572C、V572Q、V572S、V572Y、(G181I+S1188P)、(S183F+S188P)、(S188P+N190Y)、(S188P+L192I)、(S188P+L192K)、(S188P+L192V)、(S188P+V193I)、(S188P+V193W)、(G184K+V572C)(G184R+V572C)のアミノ酸置換は、改変型FADGDHの熱安定性の向上に寄与する。
【0041】
配列番号2、配列番号45で示されるアスペルギルス・オリゼ由来のFADGDHを改変した改変型FADGDHの製造法は特に限定されないが、以下に示すような手順で製造することが可能である。FADGDHを構成するアミノ酸配列を改変する方法としては、通常行われる遺伝情報を改変する手法が用いられる。すなわち、タンパク質の遺伝情報を有するDNAの特定の塩基を変換することにより、或いは特定の塩基を挿入または欠失させることにより、改変タンパク質の遺伝情報を有するDNAが作製される。DNA中の塩基配列を変換する具体的な方法としては、例えば市販のキット(TransformerTM Mutagenesis Kit;Clonetech社, EXOIII/Mung Bean Deletion Kit;Stratagene製, Quick Change(登録商標) Site Directed Mutagenesis Kit;Stratagene製など)の使用、或いはポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)の利用が挙げられる。
【0042】
作製された改変型FADGDHの遺伝情報を有するDNAは、プラスミドと連結された状態にて宿主微生物に移入される。宿主細胞には、大腸菌、酵母、糸状菌、動物細胞、昆虫細胞など目的に応じて様々な細胞が用いられる。宿主微生物に組み換えベクターを移入する方法としては、例えば宿主微生物がエシェリヒア・コリーに属する場合には、カルシウムイオンの存在下で組み換えDNAの移入を行う方法などを採用することができる、更にエレクトロポレーション法を用いても良い。
【0043】
こうして得られた形質転換体である微生物は、栄養培地で培養されることにより、多量のFADGDHを安定して生産し得る。形質転換体である宿主微生物の培養形態は宿主の栄養生理的性質を考慮して培養条件を選択すればよく、通常多くの場合は液体培養で行うが、工業的には通気攪拌培養を行うのが有利である。培地の栄養源としては微生物の培養に通常用いられるものが広く使用される。炭素源としては資化可能な炭素化合物であればよく、例えば、グルコース、シュークロース、ラクトース、マルトース、糖蜜、ピルビン酸などが使用される。窒素減としては利用可能な窒素化合物であればよく、例えばペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分怪物、大豆粕アルカリ分解物などが使用される。その他、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガン、亜鉛などの塩類、特定のアミノ酸、特定のビタミンなどが必要に応じて使用される。培地温度は菌が発育し、FADGDHを生産する範囲で適日変更し得るが、エシェリヒア・コリーの場合、好ましくは20〜42℃程度である。アスペルギルス・オリゼ株の場合は、好ましくは20〜40℃程度である。培養温度は条件によって多少異なるが、FADGDHが最高収量に達する時期を見計らって適当時期に培養を終了すればよく、通常は6〜72時間程度である。培地pHは菌が発育し買い変体朴質を生産する範囲で適宜変更しうるが、特に好ましくはpH5.0〜9.0程度である。
【0044】
培養物中のFADGDHを生産する菌体を含む培養液をそのまま採取し利用することもできるが、一般には常法に従ってFADGDHが培養液中に存在する場合は、濾過、遠心分離などにより、蛋白質の含有溶液と微生物菌体とを分離した後に利用される。蛋白質が菌体内に存在する場合には得られた培養物から濾過または遠心分離などの手法により菌体を採取し、次いでこの菌体を機械的方法またはリゾチームなどの酵素的方法で破壊し、また必要に応じてEDTA等のキレート剤及びまたは界面活性剤を添加してFADGDHを可溶化し、水溶液として分離採取する。
【0045】
このようにして得られたFADGDH含有溶液を、例えば、減圧濃縮、膜濃縮、さらに、硫酸アンモニム、硫酸ナトリウムなどの塩析処理、或いは親水性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトンなどによる分別沈殿法により沈殿せしめればよい。また、加温処理や東電点処理も有効な生成手段である。吸着剤或いはゲル濾過剤などによるゲル濾過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーにより、精製されたFADGDHを得ることができる。
【0046】
上述したような熱安定性やpH安定性を付与するために、例えば、配列番号1からシグナルペプチドを切断した配列番号2のアミノ酸配列を用いるのがよい。変異の導入は公知の方法を適用して行うことができる。すなわち、タンパク質の遺伝情報を有するDNAの特定の塩基を変換することにより、或いは特定の塩基を挿入または欠失させることにより、改変タンパク質の遺伝情報を有するDNAが作成される。DNA中の塩基配列を変換する具体的な方法としては、例えば市販のキット(Transformer Mutagenesis Kit;Clonetech社,EXOIII/Mung Bean Deletion Kit;Stratagene製,Quick Change(登録商標) Site Directed Mutagenesis Kit;Stratagene製など)の使用、或いはポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)の利用が挙げられる。
【0047】
例えば、熱安定性を向上されたグルコース脱水素酵素としては、配列番号2のアミノ酸配列において、120位、160位、162位、163位、164位、165位、166位、167位、169位、170位、171位、172位、180位、329位、331位、369位、471位及び551位の少なくとも1つの位置においてアミノ酸置換を有するものが例示される。上記のうち、162位、163位、167位、位及び551位の少なくとも1つの位置においてアミノ酸置換を有するものが例示される。
【0048】
より具体的には、配列番号2のアミノ酸配列において、アミノ酸置換がK120E、G160E、G160I、G160P、G160S、G160Q、S162A、S162C、S162D、S162E、S162F、S162H、S162L、S162P、G163D、G163K、G163L、G163R、S164F、S164T、S164Y、L165A、L165I、L165N、L165P、L165V、A166C、A166I、A166K、A166L、A166M、A166P、A166S、S167A、S167P、S167R、S167V、N169K、N169P、N169Y、N169W、L170C、L170F、S171I、S171K、S171M、S171Q、S171V、V172A、V172C、V172E、V172I、V172M、V172S、V172W、V172Y、A180G、V329Q、A331C、A331D、A331I、A331K、A331L、A331M、A331V、K369R、K471R、V551A、V551C、V551T、V551Q、V551S、V551Yからなる群から選ばれるものが例示される。ここで、「K120E」は、120位のK(Lys)をE(Glu)に置換することを意味する。
【0049】
特に、G163K、G163L、G163R、S167P、V551A、V551C、V551Q、V551S、V551Y、(G160I+S167P)、(S162F+S167P)、(S167P+N169Y)、(S167P+L171I)、(S167P+L171K)、(S167P+L171V)、(S167P+V172I)、(S167P+V172W)、(G163K+V551C)、(G163R+V551C)のアミノ酸置換が好ましい態様として例示される。
【0050】
また、pH安定性の向上されたグルコース脱水素酵素としては、配列番号2のアミノ酸配列において、163位、167位、551位、からなる群のうち少なくとも1つの位置においてアミノ酸置換を有するものが挙げられる。より具体的には、配列番号2において、少なくともアミノ酸置換がS167P、V551C、(G163K+V551C)、(G163R+V551C)のうちいずれかの位置におけるアミノ酸置換を有するものが例示される。
【0051】
なお、本発明において用いられるグルコース脱水素酵素に関しては、変異導入の基本となる配列は、配列番号2に示したアミノ酸配列と完全に一致するものに限定されるものではなく、配列番号2のアミノ酸配列との高い相同性のアミノ酸配列を有する他のアスペルギルス・オリゼ由来のグルコース脱水素酵素を、相同性分析においてアラインさせた場合に、そのアラインメントにおける同一の位置を変異する場合も含む。具体的には、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上の相同性を示す場合が挙げられる。
【0052】
なお、配列番号2においてK120E、G160E、G160I、G160P、G160S、G160Q、S162A、S162C、S162D、S162E、S162F、S162H、S162L、S162P、G163D、G163K、G163L、G163R、S164F、S164T、S164Y、L165A、L165I、L165N、L165P、L165V、A166C、A166I、A166K、A166L、A166M、A166P、A166S、S167A、S167P、S167R、S167V、N169K、N169P、N169Y、N169W、L170C、L170F、S171I、S171K、S171M、S171Q、S171V、V172A、V172C、V172E、V172I、V172M、V172S、V172W、V172Y、A180G、V329Q、A331C、A331D、A331I、A331K、A331L、A331M、A331V、K369R、K471R、V551A、V551C、V551T、V551Q、V551S、V551Y、(G160E+S167P)、(G160I+S167P)、(G160S+S167P)、(G160Q+S167P)、(S162A+S167P)、(S162C+S167P)、(S162D+S167P)、(S162D+S167P)、(S162E+S167P)、(S162F+S167P)、(S162H+S167P)、(S162L+S167P)、(G163D+S167P)、(S164F+S167P)、(S164T+S167P)、(S164Y+S167P)、(L165A+S167P)、(L165I+S167P)、(L165P+S171K)、(L165P+V551C)、(L165V+V551C)、(A166C+S167P)、(A166I+S167P)、(A166K+S167P)、(A166K+S167P)、(A166M+S167P)、(A166P+S167P)、(A166S+S167P)、(S167P+N169K)、(S167P+N169P)、(S167P+N169Y)、(S167P+N169W)、(S167P+L170C)、(S167P+L170F)、(S167P+S171I)、(S167P+S171K)、(S167P+S171M)、(S167P+S171Q)、(S167P+S171V)、(S167P+V172A)、(S167P+V172C)、(S167P+V172E)、(S167P+V172I)、(S167P+V172M)、(S167P+V172S)、(S167P+V172T)、(S167P+V172W)、(S167P+V172Y)、(S167P+V329Q)、(S167P+A331C)、(S167P+A331D)、(S167P+A331I)、(S167P+A331K)、(S167P+A331L)、(S167P+A331M)、(S167P+A331V)、(G163K+V551C)変異を加えたそれぞれのグルコース脱水素酵素を用いて、各実施例と同様の方法で測定を行ったところ、それぞれ同等の結果が得られた。
【0053】
本発明における電気化学測定法は、特に限定されるものではないが、一般的なポテンショスタットやガルバノスタットなどを用いることにより、種々の電気化学的な測定手法を適用することができる。具体的な測定手法としては、アンペロメトリー、ポテンショメトリー、クーロメトリーなどの様々な手法が挙げられるが、アンペロメトリーにより、還元されたメディエーターを印加により酸化される際に生ずる電流値を測定する方法が特に好ましい。この場合の印加電圧としては、10〜700mVが好ましく、50〜500mVがより好ましく、100〜400mVが更に好ましい。
【0054】
測定システムとしては、二電極であっても三電極系であってもよい。作用電極にはカーボン電極を用いてもよいし、白金、金、銀、ニッケル、パラジウムなどの金属電極を用いてもよい。カーボン電極の場合、パイロロティックグラファイトカーボン、グラッシーカーボン(GC)、カーボンペースト、PFC(plastic formed carbon)などが挙げられる。金属電極の場合、金が特に好ましい。通常は、作用電極上にグルコース脱水素酵素が担持されてなる。酵素の固定化方法としては、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被覆する方法、光架橋性ポリマー、導電性ポリマー、酸化還元ポリマーなどが挙げられる。あるいはフェリシアン化物、フェロセンあるいはその誘導体に代表される電子メディエーターとともにポリマー中に固定あるいは電極上に吸着固定してもよく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。典型的には、グルタルアルデヒドを用いて、本発明のFADGDHをカーボン電極上に固定化した後、アミン基を有する試薬で処理してグルタルアルデヒドをブロッキングする方法である。参照電極としては、特に限定されるものではなく、電気化学実験において一般的なものを適用することができるが、例えば飽和カロメル電極、銀−塩化銀などが挙げられる。
【0055】
グルコース濃度の測定は、例えば以下のようにして行うことができる。恒温セルに緩衝液を入れ、一定温度に維持する。メディエーターとしては、フェリシアン化カリウム、フェナジンメトサルフェートなどを用いることができる。作用電極として本発明の改変型FADGDHを固定化した電極を用い、対極(例えば白金電極)および参照電極(例えばAg/AgCl電極)を用いる。カーボン電極に一定の電圧を印加して、電流が定常になった後、グルコースを含む試料を加えて電流の増加を測定する。標準濃度のグルコース溶液により作製したキャリブレーションカーブに従い、試料中のグルコース濃度を計算することができる。
【0056】
しかしながら、上述のような方法では、測定に必要な溶液の量が多くなるため、小スケールで簡便に測定するためには、印刷電極を用いる方が好ましい。この場合、電極は絶縁基板上に形成されてなることが好ましい。具体的には、フォトリゾグラフィ技術や、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷などの印刷技術により、電極を基板上に形成されることが望ましい。また、絶縁基板の素材としては、シリコン、ガラス、セラミック、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどが挙げられるが、各種の溶媒や薬品に対する耐性の強いものを用いるのがより好ましい。
【0057】
電極の形状は特に限定されるものではなく、円形、楕円形、四角形などの形状が挙げられるが、円形であることが、固定化する酵素溶液のマウントのしやすさの点から特に好ましい。また、円形の形状である場合、その半径は3mm以下であることが好ましく、2.5mm以下がより好ましく、2mm以下が更に好ましい。酵素溶液の容量としては1〜5μL程度で十分であり、2−3μL程度の量で行うのがより好ましい。酵素溶液をマウントした後の固定化反応は、湿潤条件下で静置して行うのが好ましい。
【0058】
酵素反応に用いる溶液の種類は、特に限定されるものではないが、PBSのようなリン酸緩衝液、TRIS、MOPS、PIPES、HEPES、MES、TESなどのGOODの緩衝液などが例示される。緩衝液のpHとしては4.0〜9.0程度が好ましく、より好ましくは5.0〜8.0程度、更に好ましくは6.0〜7.5程度である。また、緩衝液の濃度としては、1〜200mM程度が好ましく、より好ましくは10〜150mM程度、更に好ましくは20〜100mM程度である。また、添加物として、各種の有機酸、塩、防腐剤などの物質を共存させることも可能である。
【0059】
酵素反応と電極間の電子移動を仲介するためのメディエーターを用いることも効果的である。適用できるメディエーターの種類は特に限定されるものではないが、キノン類、シトクロム類、ビオロゲン類、フェナジン類、フェノキサジン類、フェノチアジン類、フェリシアン化物、フェレドキシン類、フェロセンおよびその誘導体等が例示される。より具体的には、ベンゾキノン/ハイドロキノン、フェリシアン/フェロシアン化物(カリウムもしくはナトリウム塩)、フェリシニウム/フェロセンなどが挙げられる。フェナジンメトサルフェート、1−メトキシ−5−メチルフェナジウムメチルサルフェイト、2,6−ジクロロフェノールインドフェノールなどを用いてもよい。その他にも、オスミウム、コバルト、ルテニウムなどの金属錯体を用いることも可能である。水溶性の低い化合物をメディエーターとして用いる場合、有機溶媒を用いると、酵素自体の安定性を損なったり、酵素活性を失活させたりする可能性がある。そこで、水溶性を高めるために、ポリエチレングリコール(PEG)のような親水性高分子により修飾されたものを用いてもよい。反応系におけるメディエーター濃度は、1mM〜1M程度の範囲が好ましく、5〜500mMがより好ましく、10〜300mMが更に好ましい。またメディエ−ターについても種々の官能基による修飾体を用いるなどして、酵素とともに電極上に固定化させて用いてもよい。
【0060】
酵素反応は、所望の容量の反応溶液中に、所望の量の酵素とメディエーターを加えて混合された状態において、基質を含有する試料溶液、例えば血液を所定量加えると同時に測定を開始する。電気化学的な検出とは、特に限定されるものではないが、酵素反応が進行するとメディエーターを介在した電子の移動に伴って生ずる電流の変化をシグナルとして測定することが好ましい。測定に供する試料の種類は特に制約されるものではなく、酵素の基質を成分として含有する化含有する可能性のある水溶液はもとより、血液、体液、尿などの生体試料であってもよい。また、測定に際しては、可能な範囲で反応温度を一定にして行ってもよい。また、マイクロ流路デバイス等を用いた微量解析に展開することも可能である。
【0061】
上述したようなグルコースの電気化学的測定法のために用いられる、本発明における電気化学測定用酵素組成物は、広い温度範囲での反応性に優れたグルコース脱水素酵素と緩衝材を含むことを特徴とする。まず基本的な特性として、以下のような性質を有するグルコース脱水素酵素を用いることを特徴とする。
至適温度:45〜50℃
温度安定性:50℃、30分処理による残存活性が50%以上
至適pH:7.0付近
pH安定性:5.0〜7.0(25℃、16時間)
Km:50〜80mM
【0062】
上記のような特性に加えて、更に広い温度領域において、特に低温度の環境条件においても反応性が優れるグルコース脱水素酵を用いることを特徴とする。具体的には、50℃における活性値を100%とする場合に、20℃における活性値が30%以上、より好ましくは40%以上を示すことを特徴とする。また、別な態様として、50℃における活性値を100%とする場合に、10℃における活性値が15%以上、より好ましくは20%以上を示すものが挙げられる。更に別な態様として、50℃における活性値を100%とする場合に、5℃における活性値が10%以上、より好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上を示すものが挙げられる。
【0063】
また、本発明の電気化学測定用酵素組成物は、高温度の環境条件においても同様に低温条件と同様に、反応性が優れたグルコース脱水素酵を用いることがより好ましい。具体的には、50℃における活性値を100%とする場合に、60℃における活性値が50%、より好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上を示すものが挙げられる。
【0064】
上記のグルコース脱水素酵素は、熱安定性においても優れるものがより好ましい。具体的には、50℃、30分間の処理後の残存活性が40%以上を示すものが例示され、好ましくは50℃、30分間の処理後の残存活性が50%以上を示すものが挙げられる。また、50℃、60分間の処理後の残存活性が20%以上を示すもの、より好ましくは50℃、60分間の処理後の残存活性が30%以上を示すものが挙げられる。
【0065】
上記のグルコース脱水素酵素は、pH安定性においても優れるものがより好ましい。具体的には、具体的には、pH5.0〜pH7.0において、25℃、16時間処理後の残存活性が80%以上、好ましくは85%以上を示すものが挙げられる。また、25℃、16時間の処理を行った際に、pH6.5の時の残存活性に対して、pH4.5〜7.5の範囲においては60%以上、好ましくは70%以上を示すものであることが好ましい。ここで、残存活性とは、100mM濃度の各種緩衝液中に、5U/mlの酵素濃度条件で、25℃、16時間インキュベートした後のFAD依存型GDH活性値の、インキュベーションを行わないFAD依存型GDHの活性値に対する割合をいうものである。緩衝液の種類としては、pH3.5〜5.5の範囲では酢酸緩衝液、pH6.0〜7.5の範囲ではリン酸緩衝液、pH8.0〜9.0の範囲ではトリス緩衝液を用いるものとする。
【0066】
一方、緩衝材としては、リン酸塩のほか、TRIS、MOPS、PIPES、HEPES、MES、TESなどのGOODの緩衝材などが例示される。緩衝液のpHとしては4.0〜9.0程度に調整されることが好ましく、より好ましくは5.0〜8.0程度、更に好ましくは5.5〜7.5程度である。更には、上述したようなメディエーターである物質も組成物中に共存して含まれていてもよい。
【実施例】
【0067】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に特に限定されるものではない。
【0068】
実施例1:グルコース測定系を用いた改変型FADGDH熱安定性の検討
検討は、先述の試験例のFADGDH活性の測定方法に準じて行った。
まず、改変型FADGDHを約2U/mlになるように酵素希釈液(50mM リン酸カリウム緩衝液(pH5.5)、0.1% TritonX−100)にて溶解したものを50ml用意した。この酵素溶液を1.0mlとしたものを2本用意した。コントロールには、夫々の改変型FADGDH(各種化合物の代わりに、蒸留水0.1mlを添加したものを2本用意した。2本のうち、1本は4℃で保存し、もう1本は50℃、15分間処理を施した。処理後、夫々のサンプルのFADGDH活性を測定した。各々、4℃で保存したものの酵素活性を100として、50℃、15分間処理後の活性値を比較して活性残存率(%)として算出した。
【0069】
実施例2:FADGDH遺伝子への変異導入
シグナルペプチド切断型FADGDHをコードする遺伝子(配列番号1)を含む組み換えプラスミドpAOGDH−S2で市販の大腸菌コンピテントセル(エシェリヒア・コリーDH5α;東洋紡績製)を形質転換した後、形質転換体をアンピシリン(50μg/ml;ナカライテスク社製)を含んだ液体培地(1%ポリペプトン、0.5%酵母エキス、0.5%NaCl;pH7.3)を摂取し、30℃で一晩振とう培養して得られた菌体から、常法によりプラスミドを調整した。該プラスミドを鋳型として用いてDiversifyTM PCR Ramdom Mutagenesis Kit(Clontech社製)を用いた変異処理をそのプロトコールに従って実施し、グルコース脱水素酵素の生産能を有する、改変型FADGDH変異プラスミドを作製し、上記方法により同様にプラスミドを調製した。
【0070】
実施例3:改変型FADGDHを含む粗酵素液の調整
実施例2で調製したプラスミドpAOGDH−S2で市販の大腸菌コンピテントセル(エシェリヒア・コリーDH5α;東洋紡績製)を形質転換した後、形質転換体をアンピシリンを含んだ寒天培地(1%ポリペプトン、0.5%酵母エキス、0.5%NaCl、1.5%寒天;pH7.3)に塗布した後、30℃で一晩振とう培養して得られたコロニーをさらにアンピシリン(100μg/ml)を含んだLB液体培地に摂取し、30℃で一晩振とう培養した。その培養液の一部から遠心分離によって得られた菌体を回収し、50mM リン酸緩衝液(pH7.0)中で、ガラスビーズで該菌体を破砕することにより粗酵素液を調製した。
【0071】
実施例4:熱安定性が向上した変異体のスクリーニング
実施例3の粗酵素液を用いて、上述した活性測定法によりグルコース脱水素酵素活性を測定した。また、同粗酵素液を50℃で15分間加熱処理した後、グルコース脱水素酵素活性を測定し、3種の熱安定性の向上した変異体を取得した。これら3種の改変体をコードするプラスミドをpAOGDH−M1、pAOGDH−M2、pAOGDH−M3、pAOGDH−M4と命名した。
【0072】
pAOGDH−M1、pAOGDH−M2、pAOGDH−M3、pAOGDH−M4の変異箇所を同定するためにDNAシークエンサー(ABI PRISMTM 3700DNA Analyzer;Perkin−Elmer製)でグルコース脱水素酵素をコードする遺伝子の塩基配列を決定した結果、pAOGDH−M1で配列番号2記載の162番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M2では167番目のセリンがプロリンに471番目のリジンがアルギニン、pAOGDH−M3では180番目のアラニンがグリシンに551番目のバリンがアラニン、pAOGDH−M4では120番目のリジンがグルタミン酸に167番目のセリンがプロリンに369番目のリジンがアルギニンに置換されていることが確認された。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
pAOGDH−S2のプラスミドを鋳型として、160番目のグリシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号3の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、161番目のトリプトファンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号4の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、162番目のセリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号5の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、163番目のグリシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号6の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、164番目のセリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号7の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、165番目のロイシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号8の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、166番目のアラニンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号9の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、167番目のセリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号10の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、168番目のグリシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号11の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、169番目のアスパラギンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号12の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、170番目のロイシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号13の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、171番目のセリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号14の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、172番目のバリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号15の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、329番目のバリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号16の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、330番目のロイシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号17の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、331番目のアラニンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号18の合成オリゴヌクレオチド、551番目のバリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号19の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチドを基に、QuickChange(登録商標) Site−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて、そのプロトコールに従って、変異操作を行い、グルコース脱水素酵素の生産能を有する、改変型FADGDH変異プラスミドを作製し、上記方法により同様にプラスミドを調整した。
【0075】
上記プラスミドで市販の大腸菌コンピテントセル(エシェリヒア・コリーDH5α;東洋紡績製)を形質転換した後、実施例3と同様に粗酵素液を調整した。
【0076】
上記の粗酵素液を用いて、上述した活性測定法によりグルコース脱水素酵素活性を測定した。また、同粗酵素液を50℃で15分間加熱処理した後、グルコース脱水素酵素活性を測定し、16種の熱安定性の向上した変異体を取得した。これら16種の改変体をコードするプラスミドを、pAOGDH−M4、pAOGDH−M5、pAOGDH−M6、pAOGDH−M7、pAOGDH−M8、pAOGDH−M9、pAOGDH−M10、pAOGDH−M11、pAOGDH−M12、pAOGDH−M13、pAOGDH−M14、pAOGDH−M15、pAOGDH−M16、pAOGDH−M17、pAOGDH−M18、pAOGDH−M19と命名した。
【0077】
pAOGDH−M4、pAOGDH−M5、pAOGDH−M6、pAOGDH−M7、pAOGDH−M8、pAOGDH−M9、pAOGDH−M10、pAOGDH−M11、pAOGDH−M12、pAOGDH−M13、pAOGDH−M14、pAOGDH−M15、pAOGDH−M16、pAOGDH−M17、pAOGDH−M18、pAOGDH−M19の変異箇所を同定するためにDNAシークエンサー(ABI PRISMTM 3700DNA Analyzer;Perkin−Elmer製)でグルコース脱水素酵素をコードする遺伝子の塩基配列を決定した結果、pAOGDH−M5で配列番号2記載の160番目のグリシンがプロリン、pAOGDH−M6では163番目のグリシンがリジン、pAOGDH−M7では163番目のグリシンがロイシン、pAOGDH−M8では163番目のグリシンがアルギニン、pAOGDH−M9では167番目のセリンがアラニン、pAOGDH−M10では167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M11では167番目のセリンがアルギニン、pAOGDH−M12では167番目のセリンがバリン、pAOGDH−M13では171番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M14では551番目のバリンがアラニン、pAOGDH−M15では551番目のバリンがシステイン、pAOGDH−M16では551番目のバリンがスレオニン、pAOGDH−M17では551番目のバリンがグルタミン、pAOGDH−M18では551番目のバリンがセリン、pAOGDH−M19では551番目のバリンがチロシンに置換されていることが確認された。結果を表2に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
実施例5;多重変異体の作製と熱安定性
pAOGDH−M10のプラスミドを鋳型として、160番目のグリシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号20の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、161番目のトリプトファンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号21の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、162番目のセリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号22の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、163番目のグリシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号23の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、164番目のセリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号24の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、165番目のロイシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号25の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、166番目のアラニンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号26の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、168番目のグリシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号27の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、169番目のアスパラギンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号28の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、170番目のロイシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号29の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、171番目のセリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号30の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、172番目のバリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号31の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、329番目のバリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号32の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、330番目のロイシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号33の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、331番目のアラニンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号34の合成オリゴヌクレオチド、551番目のバリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号35の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチドを基に、QuickChange(登録商標) Site−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて、そのプロトコールに従って変異操作を行い、グルコース脱水素酵素の生産能を有する、改変型FADGDH変異プラスミドを作製し、上記方法により同様にプラスミドを調整した。
【0080】
pAOGDH−M15のプラスミドを鋳型として、163番目のグリシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号36の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチドを基に、QuickChange(登録商標) Site−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて、そのプロトコールに従って、変異操作を行い、グルコース脱水素酵素の生産能を有する、改変型FADGDH変異プラスミドを作製し、上記方法により同様にプラスミドを調整した。
【0081】
上記プラスミドで市販の大腸菌コンピテントセル(エシェリヒア・コリーDH5α;東洋紡績製)を形質転換した後、実施例3と同様に粗酵素液を調整した。
【0082】
上記の粗酵素液を用いて、上述した活性測定法によりグルコース脱水素酵素活性を測定した。また、同粗酵素液を50℃で15分間加熱処理した後、グルコース脱水素酵素活性を測定し、57種の熱安定性の向上した変異体を取得した。これら57種の改変体をコードするプラスミドを、pAOGDH−M20、pAOGDH−M21、pAOGDH−M22、pAOGDH−M23、pAOGDH−M24、pAOGDH−M25、pAOGDH−M26、pAOGDH−M27、pAOGDH−M28、pAOGDH−M29、pAOGDH−M30、pAOGDH−M31、pAOGDH−M32、pAOGDH−M33、pAOGDH−M34、pAOGDH−M35、pAOGDH−M36、pAOGDH−M37、pAOGDH−M38、pAOGDH−M39 pAOGDH−M40、pAOGDH−M41、pAOGDH−M42、pAOGDH−M43、pAOGDH−M44、pAOGDH−M45、pAOGDH−M46、pAOGDH−M47、pAOGDH−M48、pAOGDH−M49、pAOGDH−M50、pAOGDH−M51、pAOGDH−M52、pAOGDH−M53、pAOGDH−M54、pAOGDH−M55、pAOGDH−M56、pAOGDH−M57、pAOGDH−M58、pAOGDH−M59、pAOGDH−M60、pAOGDH−M61、pAOGDH−M62、pAOGDH−M63、pAOGDH−M64、pAOGDH−M65、pAOGDH−M66、pAOGDH−M67、pAOGDH−M68、pAOGDH−M69、pAOGDH−M70、pAOGDH−M71、pAOGDH−M72、pAOGDH−M73、pAOGDH−M74、pAOGDH−M75、pAOGDH−M76と命名した。
【0083】
pAOGDH−M20、pAOGDH−M21、pAOGDH−M22、pAOGDH−M23、pAOGDH−M24、pAOGDH−M25、pAOGDH−M26、pAOGDH−M27、pAOGDH−M28、pAOGDH−M29、pAOGDH−M30、pAOGDH−M31、pAOGDH−M32、pAOGDH−M33、pAOGDH−M34、pAOGDH−M35、pAOGDH−M36、pAOGDH−M37、pAOGDH−M38、pAOGDH−M39 pAOGDH−M40、pAOGDH−M41、pAOGDH−M42、pAOGDH−M43、pAOGDH−M44、pAOGDH−M45、pAOGDH−M46、pAOGDH−M47、pAOGDH−M48、pAOGDH−M49、pAOGDH−M50、pAOGDH−M51、pAOGDH−M52、pAOGDH−M53、pAOGDH−M54、pAOGDH−M55、pAOGDH−M56、pAOGDH−M57、pAOGDH−M58、pAOGDH−M59、pAOGDH−M60、pAOGDH−M61、pAOGDH−M62、pAOGDH−M63、pAOGDH−M64、pAOGDH−M65、pAOGDH−M66、pAOGDH−M67、pAOGDH−M68、pAOGDH−M69、pAOGDH−M70、pAOGDH−M71、pAOGDH−M72、pAOGDH−M73、pAOGDH−M74、pAOGDH−M75、pAOGDH−M76の変異箇所を同定するためにDNAシークエンサー(ABI PRISMTM 3700DNA Analyzer;Perkin−Elmer製)でグルコース脱水素酵素をコードする遺伝子の塩基配列を決定した結果、pAOGDH−M20で配列番号2記載の160番目のグリシンがグルタミン酸に167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M21では160番目のグリシンがイソロイシンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M22では160番目のグリシンがセリングルタミンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M23では160番目のグリシンがグルタミンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M24では162番目のセリンがアラニンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M25では162番目のセリンがシステインに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M26では162番目のセリンがアスパラギン酸に167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M27では162番目のセリンがグルタミン酸に167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M28では162番目のセリンがフェニルアラニンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M29では162番目のセリンがヒスチジンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M30では162番目のセリンがロイシンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M31では163番目のグリシンがアスパラギン酸に167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M32では164番目のセリンがフェニルアラニンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M33では164番目のセリンがスレオニンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M34では164番目のセリンがチロシンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M35では165番目のロイシンがアラニンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M36では165番目のロイシンがイソロイシンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M37では165番目のロイシンがアスパラギンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M38では165番目のロイシンがプロリンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M39では165番目のロイシンがバリンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M40では166番目のアラニンがシステインに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M41では166番目のアラニンがイソロイシンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M42では166番目のアラニンがリジンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M43では166番目のアラニンがロイシンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M44では166番目のアラニンがメチオニンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M45では166番目のアラニンがプロリンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M46では166番目のアラニンがセリンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M47では167番目のセリンがプロリンに169番目のアスパラギンがリジン、pAOGDH−M48では167番目のセリンがプロリンに169番目のアスパラギンがプロリン、pAOGDH−M49では167番目のセリンがプロリンに169番目のアスパラギンがチロシン、pAOGDH−M50では167番目のセリンがプロリンに169番目のアスパラギンがトリプトファン、pAOGDH−M51では167番目のセリンがプロリンに170番目のロイシンがシステイン、pAOGDH−M52では167番目のセリンがプロリンに170番目のロイシンがフェニルアラニン、pAOGDH−M53では167番目のセリンがプロリンに171番目のロイシンがイソロイシンに、pAOGDH−M54では167番目のセリンがプロリンに171番目のロイシンがリジン、pAOGDH−M55では167番目のセリンがプロリンに171番目のロイシンがメチオニン、pAOGDH−M56では167番目のセリンがプロリンに171番目のロイシンがグルタミン、pAOGDH−M57では167番目のセリンがプロリンに171番目のロイシンがバリン、pAOGDH−M58では167番目のセリンがプロリンに172番目のバリンがアラニン、pAOGDH−M59では167番目のセリンがプロリンに172番目のバリンがシステインに、pAOGDH−M60では167番目のセリンがプロリンに172番目のバリンがグルタミン酸、pAOGDH−M61では167番目のセリンがプロリンに172番目のバリンがイソロイシン、pAOGDH−M62では167番目のセリンがプロリンに172番目のバリンがメチオニン、pAOGDH−M63では167番目のセリンがプロリンに172番目のバリンがシステイン、pAOGDH−M64では167番目のセリンがプロリンに172番目のバリンがグルタミン酸、pAOGDH−M65では167番目のセリンがプロリンに172番目のバリンがトリプトファン、pAOGDH−M66では167番目のセリンがプロリンに172番目のバリンがチロシン、pAOGDH−M67では167番目のセリンがプロリンに329番目のバリンがグルタミン、pAOGDH−M68では167番目のセリンがプロリンに331番目のアラニンがシステイン、pAOGDH−M69では167番目のセリンがプロリンに331番目のアラニンがアスパラギン酸、pAOGDH−M70では167番目のセリンがプロリンに331番目のアラニンがイソロイシン、pAOGDH−M71では167番目のセリンがプロリンに331番目のアラニンがリジンpAOGDH−M72では167番目のセリンがプロリンに331番目のアラニンがロイシン、AOGDH−M73では167番目のセリンがプロリンに331番目のアラニンがメチオニン、pAOGDH−M74では167番目のセリンがプロリンに331番目のアラニンがバリンに置換されていることが確認された。結果を表3に示す。
【0084】
【表3】

【0085】
実施例5:改変型FADGDHの取得
改変型FADGDH生産菌として、pAOGDH−M10、pAOGDH−M15、pAOGDH−M75、pAOGDH−M76で市販の大腸菌コンピテントセル(エシェリヒア・コリーDH5α;東洋紡績製)を形質転換した。得られた形質転換体を、10L容ジャーファーメンターを用いて、TB培地に培養温度25℃で24時間培養した。培養菌体を遠心分離で集めた後、50mM リン酸緩衝液(pH6.5)に懸濁し、除核酸処理後、遠心分離して上清を得た。これに硫酸アンモニウムを飽和量溶解させて目的タンパク質を沈殿させ、遠心分離で集めた沈殿を50mM リン酸緩衝液(pH6.5)に再溶解させた。そしてG−25セファロース(登録商標)カラムによるゲルろ過、Octyl−セファロースカラムおよびPhenyl−Sepharose(登録商標)カラムによる疎水クロマト(溶出条件は、共に25%飽和〜0%の硫酸アンモニウム濃度勾配をかけてピークフラクションを抽出)を実施し、さらにG−25 Sepharose(登録商標)カラムによるゲルろ過で硫酸アンモニウムを除去し改変型FADGDHサンプルとした。表4に示すように精製標品においても熱安定性が向上していることが確認された。
【0086】
【表4】

【0087】
実施例6:酵素活性の温度依存性評価
FAD依存型グルコース脱水素酵素としては、配列番号2においてG163R+V551C変異を加えたものを用いた。上述した方法により、38mM PIPES緩衝液(pH6.5)中で、所定の温度条件における活性測定を行った。図2に酵素活性の温度依存性曲線を示した。縦軸は、50℃における活性値を100%として、各温度における相対的な活性値を示している。50℃における活性値を100%とする場合に、20℃における活性値が約40%、10℃における活性値が約25%、5℃における活性値が約20%を示している。また、60℃における活性値が約75%を示している。
【0088】
実施例7:酵素の熱安定性およびpH安定性特性評価
配列番号2においてG163R+V551C変異を加えた精製標品を用いて、10U/mlの濃度になるように、50mM リン酸緩衝液(pH6.0)中、50℃で所定の時間の加熱処理を行った際に、残存するグルコース脱水素酵素活性を測定した。図3に、処理前の活性に対する残存活性の比率をグラフ化して示した。本グルコース脱水素酵素は、50℃、15分の熱処理により約75%、50℃、30分の熱処理により約55%、50℃、60分の熱処理により約30%の残存活性を示している。
【0089】
上記精製標品を5U/mlの濃度で、100mM濃度の緩衝液中、25℃、16時間の処理を行った。緩衝液の種類としては、pH3.5〜5.5の範囲では酢酸緩衝液、pH6.0〜7.5の範囲ではリン酸緩衝液、pH8.0〜9.0の範囲ではトリス緩衝液を、それぞれ用いた。各条件での処理の後、残存するグルコース脱水素酵素活性を測定した。図4に、処理前の活性に対する残存活性の比率をグラフ化して示した。本グルコース脱水素酵素は、25℃、16時間の処理を行った際に、pH6.5の時の残存活性を100%とする場合に、pH4.0〜7.0の範囲においては約80%以上の残存活性を維持している。また、pH6.5の時の残存活性に対して、pH7.5の時の活性残存率が約50%を示している。
【0090】
その他の特性に関しても確認された結果を以下に示した。
至適pH:7.0付近
Km:50〜80mM
【0091】
また、基質特異性に関して、4mMの基質濃度で対比を行った結果を、表5に示す。グルコースに対する反応性を100%とした際に、例えばマルトース0.01%、ガラクトース0.11%、フルクトース0.04%、キシロース19.23%と非常に良好なものであった。
【0092】
【表5】

【0093】
実施例8:酵素電極測定による評価
上記のグルコース脱水素酵素を用いた酵素電極による測定を検討した。図5(A)に示したような、カーボンの作用電極、銀塩化銀の参照電極が印刷されてなる、DEP Chip電極(カーボン・丸型・ダム付き;バイオデバイステクノロジー製)上に、rarmAOGDH20U、フェリシアン化カリウム364mM(終濃度)を、10mM リン酸緩衝液(pH7.0)2μLに溶解した液を電極上に載せて、35℃で20分間静置することにより、酵素の電極上への固定化を行った。酵素電極を水で洗浄した後、DEP Chip専用コネクターを用いて、汎用電気化学測定器ポテンショ/ガルバノスタット1112型(扶桑製作所製)に接続した。そして、300mVの電圧を印加して、所定濃度のグルコース溶液20μLを電極上に載せて反応を行い(図5(B)を参照)、40秒後の電流値を測定した。
【0094】
反応させた各グルコース濃度における電流応答値をプロットした結果を、図6に示した。相関係数として、R=0.9608であり、非常に良好な検量線を得ることができた。更には、測定の再現性や、保存安定性の点でも優れていた。
【0095】
更に、酵素電極における基質特異性に関しても検討を行った。対比は、いずれの基質においても、15mM濃度で行った。結果は表6に示す通り、グルコース以外の主要な糖類に対してはほとんど反応性を示さなかった。特に輸液成分として含まれることから、実際の医療現場ではしばしば問題となるマルトースの影響をほとんど受けないことから、本発明におけるグルコース測定技術は極めて有用であると考えられた。
【0096】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明を利用することにより、簡便にかつ再現性においても優れたグルコースの定量を実現することができる。特に、酵素反応の初期速度を高める作用により、近年要求されている迅速な定量を実現させるうえで有用な技術である。したがって、医療現場での血糖値センサーはもとより、食品分野等でのグルコース量の品質管理などの分野における応用展開が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の理化学的性質を有し、かつ50℃における活性値を100%とする場合に、20℃における活性値が30%以上であり、グルコース脱水素酵素遺伝子が発現された大腸菌により生産されることを特徴とするグルコース脱水素酵素。
至適温度:45〜50℃
温度安定性:50℃、30分処理による残存活性が50%以上
至適pH:7.0付近
pH安定性:5.0〜7.0(25℃、16時間)
Km:50〜80mM
【請求項2】
50℃における活性値を100%とする場合に、10℃における活性値が15%以上であることを特徴とする請求項1に記載のグルコース脱水素酵素。
【請求項3】
50℃における活性値を100%とする場合に、5℃における活性値が10%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のグルコース脱水素酵素。
【請求項4】
50℃における活性値を100%とする場合に、60℃における活性値が50%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のグルコース脱水素酵素。
【請求項5】
フラビン化合物を補酵素として必要とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のグルコース脱水素酵素。
【請求項6】
グルコース脱水素酵素遺伝子が糸状菌由来であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のグルコース脱水素酵素。
【請求項7】
糸状菌がペニシリウム(Penicillium)属もしくはアスペルギルス(Aspergillus)属に属することを特徴とする請求項6に記載のグルコース脱水素酵素。
【請求項8】
糸状菌がアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus orysae)であることを特徴とする請求項6または7に記載のグルコース脱水素酵素。
【請求項9】
請求項1〜8にいずれかに記載のグルコース脱水素酵素および緩衝材を含有してなることを特徴とする電気化学測定用酵素組成物。
【請求項10】
1種以上のメディエーター化合物をさらに含むことを特徴とする請求項9に記載の電気化学測定用酵素組成物。
【請求項11】
グルコース脱水素酵素を含有する酵素電極を用いて、グルコースの作用により生じる電流変化を測定することにより溶液中のグルコース量を測定する方法であって、該グルコース脱水素酵素が下記の理化学的性質を有し、かつ50℃における活性値を100%とする場合に、20℃における活性値が30%以上であることを特徴とするグルコースの電気化学測定方法。
至適温度:45〜50℃
温度安定性:50℃、30分処理による残存活性が50%以上
至適pH:7.0付近
pH安定性:5.0〜7.0(25℃、16時間)
Km:50〜80mM

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図1】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−103770(P2011−103770A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258777(P2009−258777)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】