説明

グロメット

【課題】高圧洗車時にグロメットが変形して浸水が生じるのを防止する。
【解決手段】自動車に配索されるワイヤハーネスに取り付けて車体パネルの貫通孔に装着するゴムまたはエラストマーからなるグロメットであって、小径筒部2の一端から拡径する円錐筒部3が連続し、該円錐筒部3の大径側先端に厚肉大径部を備え、該厚肉大径部と前記円錐筒部との間に環状の車体係止凹部5が設けられ、かつ、前記円錐筒部3には、前記小径筒部との連続側から大径側にかけた領域に、環状の山部11と谷部12とが軸線方向に交互に連続する蛇腹形状部10を設け、前記山部11の頂点に外面から切込13を入れ、外部から負荷が加えられた時に山部が無い方へ撓み易くしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に配索されるワイヤハーネスに取り付けて車体パネルの貫通孔に装着するグロメットに関し、特に、車体パネルに装着されたグロメットが外部から大きな負荷を受けた時に貫通孔からズレたり、外れたりしないようにするものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車に配索されるワイヤハーネスを車体パネルを通して配索する必要がある場合、ワイヤハーネスにゴムあるいはエラストマーからなるグロメットを外嵌して取り付け、車体パネルに穿設された貫通孔にグロメットを装着し、車室内への防水、防塵、遮音を図っている。
【0003】
前記グロメットは、例えば、自動車のフロア下部に配索されるワイヤハーネスに取り付けられ、フロアパネルに設けた貫通孔に装着し、該貫通孔を通してワイヤハーネスがフロア上方へと配索される場合がある。この場合、フロアパネルの貫通孔に装着するグロメットがフロア下方に露出する。海外等では高圧洗浄時に自動車が引き上げられ、フロア下方から高圧洗浄水が噴射される場合があり、グロメットに高圧洗浄水が直撃するとグロメットが変形し、フロアパネルの貫通孔からズレたり、外れたりする恐れがある。
また、車体パネルとサイドドアあるいはバックドアとの間に架け渡されるワイヤハーネスにグロメットを取り付け、車体パネルやドアパネルの貫通孔にグロメットの両端部を装着する場合がある。この場合も、車体パネルとドアパネルとの間でグロメットが露出し、車両ラインの作業員の不注意でグロメットに触って押す場合にもグロメットが変形し貫通孔からズレたり、外れたりする恐れがある。
【0004】
従来、特開2006−223075号公報において、高圧洗浄時の防水性を向上させた図9に示すグロメットが提案されている。
該グロメットは、拡径筒部101の大径側先端の大径環状のパネル嵌合部102に車体パネルPに圧接させるシール突起103を設けると共に、該シール突起103の外周にシール保護壁104を突設している。該シール保護壁104の先端と車体パネルPとの間に隙間を確保している。
前記シール保護壁104を設けていることにより、外部からの強力噴射水に対して、シール保護壁104で噴射水を受け止め、シール突起103への直接的な高圧水の影響を低減すると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−223075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記図9に示す高圧洗車対策のグロメットでは、シール突起103の外周にシール保護壁104を設けているが、図10に示すように、大径環状のパネル嵌合部102が車内側に位置し、拡径筒部101が車外に位置し、高圧洗車時の高圧洗浄水は撓み易い拡径筒部101に噴射される場合が多い。
この場合、拡径筒部101が高圧洗浄水によって内方へと撓むと、車体パネルPの貫通孔Hの周縁に嵌合する車体係止溝の周壁106が車体パネルPから外れる方向へと引っ張られる。これにより、車体パネルPに押圧する周壁106のシール面と車体パネルPとの間に隙間が発生し、高圧洗浄水が貫通孔を通って車室内へ侵入する恐れがある。
【0007】
前記したグロメットの問題は、高圧洗車時以外でも、車体パネルとバックドアあるいはサイドドアとの間のグロメットにも発生する。即ち、ドアを開いた時にグロメットが露出し、該グロメットの拡径筒部に乗員や荷物が当たり、拡径筒部が内方へ押圧された場合にも発生する。
【0008】
本発明は前記問題に鑑みてなされたもので、高圧洗車時等においてグロメットに負荷がかかって、グロメットの拡径筒部が変形した場合に、車体パネルの貫通孔の周縁に密着させたシール面が変形するのを防止し、浸水を発生させないことを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、自動車に配索されるワイヤハーネスに取り付けて車体パネルの貫通孔に装着するゴムまたはエラストマーからなるグロメットであって、
小径筒部の一端から拡径する円錐筒部が連続し、該円錐筒部の大径側先端に厚肉大径部を備え、該厚肉大径部と前記円錐筒部との間に環状の車体係止凹部を設け、かつ、前記円錐筒部に前記小径筒部との連続側から大径側にかけた領域に、環状の山部と谷部とが軸線方向に交互に連続する蛇腹形状部を設け、
前記山部の頂点に外面から切込を入れ、外部から負荷が加えられた時に山部が内方へ撓んで前記円錐筒部を伸び易くしていることを特徴とするワイヤハーネス用のグロメットを提供している。
【0010】
前記のように、本発明のグロメットは、小径筒部と連続させる円錐筒部の小径筒部との連続側は蛇腹形状部としているため、高圧洗浄時に水圧の直撃を受けた際に、蛇腹形状部が変形して衝撃を吸収できる。さらに、山部の頂点には切込を入れているために山部頂点が突っ張らずに内側へ容易に倒れこみ、内側へ凹むように変形するとともに軸線方向に伸びて衝撃を吸収する。よって、円錐筒部の大径端側に設けた車体係止凹部に衝撃による変形に対応した引張負荷を及ぼさず、車体パネルの貫通孔周縁に圧接させる車体係止凹部の底面が車体パネルから浮いて隙間を生じるのを防止できる。これにより、高圧洗浄水が貫通孔とグロメットの隙間を通って車室内に浸水が発生するのを確実に防止できる。前記円錐筒部の蛇腹形状部に設ける山谷は各2〜5個程度とすることが好ましい。
【0011】
前記蛇腹形状部の谷部の頂点に内面側から切込を入れることが好ましい。
即ち、蛇腹形状部の外周側に突出した山部と共に内周側に突出した谷部の頂点にも切込を入れると、該谷部の頂点から伸びやすくなり、山谷の両方の頂点を起点として円錐筒部が軸線方向に伸び易くなる。よって、負荷される衝撃に対して円錐筒部が伸びることで衝撃を吸収し、車体係止凹部に変形による引張力を低減できる。
【0012】
前記切込を周方向に連続して設けることが好ましい。
円錐筒部の山部の頂点、あるいは山部の頂点と谷部の頂点の両方に設ける切込は周方向に連続させた円環形状とすると、周方向で伸びが分断されないため、円錐筒部の全体をスムーズに延ばして衝撃を吸収させることができる。
【0013】
前記切込はV形状とし、肉厚の1/2〜1/3の深さとしていることが好ましい。 このように、切込をV形状とすると、切込を起点として軸線方向に伸び易くすることができる。
具体的には、前記蛇腹形状部の肉厚が1.2〜1.5mmであると、切込深さは0.5〜0.7mm程度としている。
なお、切込はV形状に変えて、スリット等でもよい。
【0014】
本発明のグロメットは、フロアパネルの下部に配索されるワイヤハーネスに取り付けられ、フロアパネルの貫通孔に装着され、該装着状態で前記円錐筒部がフロアパネルの下部に露出されるように取り付ける場合に、最も好適に用いられる。
かつ、車体とサイドドアとの間に架け渡されるワイヤハーネスに外装し、車体パネルおよびドアパネルの貫通孔に装着する場合にも適用できる。
【発明の効果】
【0015】
前記した本発明のグロメットは、自動車の高圧洗車時に、グロメットの円錐筒部に高圧洗浄水が噴射され、水圧の直撃を受けた場合、円錐筒部に設けた蛇腹形状部が軸線方向に伸びて衝撃を吸収し、円錐筒部の大径側に設ける車体係止凹部に引張負荷を生じさせないようにしている。よって、車体パネルの貫通孔に接するグロメットの車体係止凹部のシール面に負荷を及ぼさず、シール面の浮きを防いで、車室への浸水発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第一実施形態のグロメットをフロアパネルの貫通孔に取り付けた状態を示す概略図である。
【図2】第一実施形態のグロメットを示し、(A)は斜視図、(B)は断面斜視図、(C)は要部拡大断面図である。
【図3】前記グロメットにワイヤハーネスを取り付けた状態の斜視図である。
【図4】前記グロメットをフロアパネルに取り付けた状態を示す断面図である。
【図5】洗車時に水圧の直撃を受けてグロメットが変形した状態を示す断面図である。
【図6】第二実施形態を示す断面図である。
【図7】第二実施形態の変形例を示す説明図である。
【図8】(A)(B)は第三実施形態を示す図面である。
【図9】従来例を示す図面である。
【図10】従来例の問題点を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のグロメットの実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図5に第一実施形態のグロメット1を示す。
グロメット1は図1に示すように、フロアパネルからなる車体パネルPの下面に沿って配索されるワイヤハーネスW/Hに取り付け、車体パネルPに穿設した貫通孔Hに室内側の上方から挿入して取り付けるものである。
【0018】
グロメット1はゴムまたはエラストマーで成形しており、ワイヤハーネスW/Hを構成する電線群Wを密着させて貫通させる小径筒部2と、該小径筒部2の一端に連続して拡径する円錐筒部3と、円錐筒部3の大径側開口の周縁に設けた環状の厚肉大径部4と、該厚肉大径部4と円錐筒部3との外周面に環状に設けた車体係止凹部5とを連続的に備えている。前記車体係止凹部5は、円錐筒部側の側面5aと、厚肉大径部側の側面5bと、両側面5aと5bに挟まれた底面5cを備えている。該車体係止凹部5に車体パネルPの貫通孔Hの周縁が挿入係止され、この状態で前記底面5cが貫通孔Hの内周面に圧接するシール面となる。
【0019】
前記円錐筒部3には、小径筒部2との連続側から大径側にかけて軸線方向の略中間点までの領域に、環状の山部11と谷部12とが軸線方向に交互に連続する蛇腹形状部10を設けている。本実施形態では、山部11を4個設け、該山部11の間に谷部12を設け、山部11と谷部12のピッチは同一としている。
【0020】
前記各山部11の外方突出端である頂点には断面V形状の切込13を周方向に連続して設けている。
前記円錐筒部3の蛇腹形状部10を設けた領域は、小径側であり、車体パネルPの貫通孔Hの内径よりも小径であるため、貫通孔Hに通す際に内方へ撓ませて変形させる必要がない。よって、撓み易くするために薄肉とする必要はないが、前記厚肉大径部4と比較して約半分程度の肉厚として、1mm程度としている。
前記切込13の深さDは蛇腹形状部の肉厚tの1/2〜1/3とし、本実施形態では、肉厚tを1mm、切込深さDを0.5mmとしている。
【0021】
前記構成としたグロメット1に対するワイヤハーネスW/Hの取り付けは、図3に示すように、小径筒部2を広げて電線群Wを通し、円錐筒部3、厚肉大径部4の中空部を貫通させ、小径筒部2の先端と電線群Wを粘着テープTを巻き付けて固着している。
【0022】
前記グロメット1を取り付けたワイヤハーネスは、図4に示すように、小径筒部2側からフロアパネルからなる車体パネルPの貫通孔Hに挿入し、円錐筒部3を内方へ変形させて貫通孔Hを通し、車体係止凹部5に貫通孔Hの周縁を挿入して係止している。この状態で、車体係止凹部5の両側面5a、5bにより車体パネルの両面が挟まれ、貫通孔Hの内周面が車体係止凹部5の底面5cに圧接し、該底面5cがシール面となる。グロメット1の円錐筒部3および小径筒部2はフロアパネルから下方へと突出し外部に露出する。
【0023】
自動車が高圧洗浄される際、海外等において自動車がリフトで持ち上げられ、自動車のフロアに向けて高圧洗浄水が噴射される場合がある。其の際、フロアパネルから外部に露出しているグロメット1の円錐筒部3が水圧の直撃を受けて、図5に示すように、変形する。該変形は蛇腹形状部10を設け、該蛇腹形状部10の各山部11の頂点に切込13を設けているため、前記衝撃を受けると山部は切込13を入れた頂点より内側にへこみ易くなり、かつ、V形状の切込13は軸線方向に広がるように衝撃を吸収する。よって、円錐筒部3の大径側先端に設けた車体係止凹部5に引っ張り力を作用させず、車体係止凹部5を殆ど変形させない。
【0024】
前記のように、車体係止凹部5の変形発生を防止できるため、該車体係止凹部5の底面5cが車体パネルPから浮くのを防止でき車体パネルPに圧接した状態を保持でき、隙間を発生させない。その結果、高圧洗浄時にグロメット1と貫通孔Hを通って車室内に浸水が発生するのを確実に防止できる。
【0025】
図6に第二実施形態のグロメット1Aを示す。
該グロメットでは、蛇腹形状部10の谷部12の頂点に内面側から切込15を入れている。前記第一実施形態と同様に山部11の頂点にも切込13を設けている。
このように蛇腹形状部10の山部11、谷部12の各頂点に切込13、15を設けていることにより、該蛇腹形状部10が衝撃を受けた際に蛇腹形状部10が軸線方向に伸び易くなり、この伸び量が増加して衝撃吸収性を高めることができる。
他の構成は第一実施形態と同様であるため、同一部号を付して説明を省略する。
【0026】
なお、図7の概略図に示すように、前記蛇腹形状部10の山部11の頂点、あるいは谷部12の頂点に設ける切込13、15は周方向に連続させず、周方向に狭ピッチで設けてもよい。
また、切込13、15はV形状に変えてスリットでもよい。
【0027】
図8(A)(B)に第三実施形態のグロメット1Bを示す。
グロメット1Bはサイドドア20と車体パネルPとの間に架け渡されるワイヤハーネスに取り付けるグロメットである。
グロメット1Bは蛇腹筒部22の両端に車体係止部23A、23Bを備え、蛇腹筒部22の両端は、前記第一実施形態と同様な構成とし、小径筒部2、円錐筒部3、厚肉大径部4、車体係止凹部5を設けている。かつ、円錐筒部3に第二実施形態と同様な蛇腹形状部10を設け、該蛇腹形状部10の山部、谷部の頂点に切込を設けている。
【0028】
図8(B)に示すように、グロメット1BにワイヤハーネスW/Hを貫通させて取り付け、両端の車体係止凹部5を車体パネルPとドアパネルDPに嵌合して、車体パネルPとドアパネルDPとに取り付けている。このように取り付けたグロメット1Bの蛇腹筒部22の両端に連続する車体係止部23A、23Bはドア開放時に露出する。この状態で、車両ラインの作業者が不用意にグロメット1Bの円錐筒部に接触して円錐筒部に衝撃を与えた場合、前記第一実施形態の記載のように、円錐筒部の蛇腹形状部が軸線方向に伸びて衝撃を吸収し、車体パネルPあるいはドアパネルDPに圧接する車体係止凹部5の底面の変形を防止することが出来る。
【符号の説明】
【0029】
1 グロメット
2 小径筒部
3 円錐筒部
4 厚肉大径部
5 車体係止凹部
5a、5b 側面
5c 底面
10 蛇腹形状部
11 山部
12 谷部
13、15 切込
W 電線群
W/H ワイヤハーネス
P 車体パネル
H 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車に配索されるワイヤハーネスに取り付けて車体パネルの貫通孔に装着するゴムまたはエラストマーからなるグロメットであって、
小径筒部の一端から拡径する円錐筒部が連続し、該円錐筒部の大径側先端に厚肉大径部を備え、該厚肉大径部と前記円錐筒部との間に環状の車体係止凹部を設け、かつ、前記円錐筒部に前記小径筒部との連続側から大径側にかけた領域に、環状の山部と谷部とが軸線方向に交互に連続する蛇腹形状部を設け、
前記山部の頂点に外面から切込を入れ、外部から負荷が加えられた時に山部が内方へ撓んで前記円錐筒部を伸び易くしていることを特徴とするワイヤハーネス用のグロメット。
【請求項2】
前記谷部の頂点に内面側から切込を入れている請求項1に記載のワイヤハーネ用のグロメット。
【請求項3】
前記切込を周方向に連続して設けている請求項1または請求項2に記載のワイヤハーネ用のグロメット。
【請求項4】
前記切込はV形状であり、肉厚の1/2〜1/3の深さとしている請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のワイヤハーネ用のグロメット。
【請求項5】
フロアパネルの下部に配索されるワイヤハーネスに取り付けられ、フロアパネルの貫通孔に装着され、該装着状態で前記円錐筒部がフロアパネルの下部に露出される請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のグロメット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−166906(P2011−166906A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25450(P2010−25450)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】