説明

ケイ光ソルバトクロミック色素及びその使用法

【課題】励起波長が長波長で、モル吸光係数が大きく、ケイ光量子収率が高く、わずかな極性の変化でも大きく発光波長シフトする新規ケイ光ソルバトクロミック色素及びその使用法を提供する。
【解決手段】色素母骨格(チオフェン骨格等)、電子供与部位及び電子吸引部位を別々に合成しておき、鈴木−宮浦クロスカップリング法で直結することにより、電子吸引部位としてスルホン酸をもつ様々なチオフェン誘導体を合成した。これらは分子周辺の溶媒極性によってケイ光波長が変わるケイ光ソルバトクロミック色素であるため、脂質、タンパク質、核酸などに連結して、水中での生体分子などの微視的環境の変化をケイ光色変化で高感度に検出するケイ光プローブ等として用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶媒の極性により発光波長(即ち、発光色)が変わるケイ光ソルバトクロミック(solvatochromic)色素及びその使用法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ光ソルバトクロミック色素は、分子周辺の溶媒極性によって色の変わる色素であり、現在主に生体分子(特に脂質分子)のダイナミクスをケイ光顕微鏡でリアルタイムに高感度観測するためのプローブとして用いられている。それらの変色機構は特定の化学種との接触を必要としないので、他のケイ光色素では難しい抗原抗体反応や一塩基多型の識別が高感度にできる。
このケイ光ソルバトクロミック色素として、NBD、dansyl、prodan、Dapoxylなどがある。その中で最も性能が優れているのはDapoxylで、ソルバトクロミック色素としては珍しく長波長領域(370nm付近)に光励起が可能な吸収バンドがあり、ストークスシフトも大きく、ケイ光の量子収率も高い(非特許文献1)。
一方、本発明のケイ光ソルバトクロミック色素に近似のチオフェン誘導体は、非線形光学材料として知られている(非特許文献2)。
【0003】
【非特許文献1】Photochemistry and Photobiology, 1997, 66(4): 424-431
【非特許文献2】J. Heterocyclic Chem., 31, 1005-1009 (1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、一般に市販されているケイ光ソルバトクロミック色素(非特許文献1)は、他のケイ光色素に比べ励起波長が短波長であるため細胞や生体分子と用いた場合にこれらを光損傷する可能性があり、また、分子間に強い電荷移動相互作用が働きやすいため、溶解性が悪く合成や精製が困難であった。
そこで、本発明は、(1)励起波長が長波長で(2)モル吸光係数が大きく(3)ケイ光量子収率が高く(4)わずかな極性の変化でも大きく発光波長シフトする新規ケイ光ソルバトクロミック色素を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ケイ光ソルバトクロミック色素は、主に2種類の原料を縮環することにより合成できるが、その合成は困難であり、合成できたとしてもケイ光ソルバトクロミズムを示すとは限らない。そこで、本発明者らは、色素母骨格(チオフェン骨格又はフラン骨格)、電子供与部位及び電子吸引部位を別々に合成して、鈴木−宮浦クロスカップリング法(Chemical Reviews, 95巻, p2457-2483, 1995年)を利用してこれらを直結することにより、電子吸引部位としてスルホン酸をもつ様々なチオフェン誘導体又はフラン誘導体を合成した。
特に、そのスルホン酸基を嵩高いアルキルエステルとして保護することにより、有機溶媒への溶解性を大幅に向上させ、大量合成や精製を容易にした。この保護基は、DMF中で4級アンモニウム塩と反応させて定量的に脱保護することができ、水溶性でケイ光ソルバトクロミズムを示す種々の誘導体を合成することができた。更に、この誘導体から、ラベル化が可能なスルホン酸誘導体や、電子吸引性を高めて発光波長のシフト幅を大きくした様々な誘導体を合成することが可能である。
【0006】
即ち、本発明は、下式
【化1】

(式中、Xは酸素原子(−O−)又は硫黄原子(−S−)を表し、
mは1〜4の整数を表し、
は、下記(a)〜(e)のいずれかを表し、
(a)−O−R(式中、Rは、アルキル基の側鎖を有するアルキル基を表す。)
(b)−Y(式中、Yはハロゲン原子又はハロゲン化アルキル基を表す。)
(c)−NH(CHNH(式中、nは1〜14の整数を表す。)
(d)−NH(CHNHCO(CHY(式中、n及びoはそれぞれ1〜14の整数を表し、Yはハロゲン原子を表す。)
(e)−NH(CHCH(式中、nは1〜20の整数を表す。)
及びRは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、アルコキシ基、アシルアミノ基、アルキル基、ハロゲン置換アルキル基、アミノ基、ヒドロキシ基又はハロゲン原子を表し、但し、R及びRは共同して芳香族若しくはエーテル結合を含んでもよい脂肪族の5、6又は8員環を形成してもよく、R及びRは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子又はアルキル基を表し、R及びRは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、又は置換基を有していてもよいアルキル基を表し、但し、R及びRは共同して芳香族若しくは脂肪族の5員環又は6員環を形成してもよく、R及びRは共同して芳香族若しくは脂肪族の5員環又は6員環を形成してもよい。)で表されるケイ光ソルバトクロミック色素、又はこのケイ光ソルバトクロミック色素から成る極性検査薬である。
【0007】
また本発明は、このケイ光ソルバトクロミック色素を、アミノ基、水酸基、チオール基又はカルボキシル基を含有するアミノ酸を含むタンパク質若しくはペプチド又はポリ若しくはオリゴヌクレオチドに連結して形成されるケイ光ソルバトクロミック色素複合体である。
更に本発明は、これらのケイ光ソルバトクロミック色素やケイ光ソルバトクロミック色素複合体又はこれらを含む溶液に紫外線を照射する段階、及び該ケイ光ソルバトクロミック色素からの発光波長又は発光色を測定する段階から成る、該ケイ光ソルバトクロミック色素の周辺の極性を検査する方法である。
【発明の効果】
【0008】
本願発明のケイ光ソルバトクロミック色素は、様々な溶媒に対する溶解性が改良されている。その結果、精製が容易になるため、純度の高いケイ光ソルバトクロミック色素を容易に且つ大量に得ることが可能である。
また、本願発明のケイ光ソルバトクロミック色素は、従来の色素よりも励起波長が長波長であるため、細胞や生体分子の光損傷を極力防ぐことができ、例えば、細胞が生きたままの挙動の観測が可能になる。
このケイ光ソルバトクロミック色素は、脂質、タンパク質、核酸などに連結することができるため、生体分子などの微視的環境の変化をケイ光色変化で高感度に検出するケイ光プローブ等として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で用いるケイ光ソルバトクロミック色素は下式で表される。
【化2】

Xは酸素原子(−O−)又は硫黄原子(−S−)を表す。
色素母骨格として、チオフェン骨格又はフラン骨格を用意して、鈴木−宮浦クロスカップリング法で電子供与部位及び電子吸引部位を連結することにより、電子吸引部位としてスルホン酸を持つチオフェン誘導体やフラン誘導体を容易に合成することができる。
また、色素母骨格として、複数のチオフェン骨格又はフラン骨格を含んでもよく、mは1〜4、好ましくは1又は2の整数を表す。
【0010】
は、まず下記(a)で表される。
(a)−O−R
式中、Rはアルキル基の側鎖を有するアルキル基を表す。Rは、好ましくは−(CH−C(Rで表され、Rは、それぞれ独立して、このうち少なくとも2つはアルキル基、好ましくは炭素数が1〜4の直鎖アルキル基であり、残りは水素原子を表し、oは0〜2の整数を表す。
一般にケイ光ソルバトクロミック色素は平面性が高く、分子間に強い電化移動相互作用が働き、溶媒に対する溶解性が低い。例えば、非特許文献2に記載のRがメチル基の化合物(compound 25)はDMFに溶解しない。しかし本発明のケイ光ソルバトクロミック色素は、上記のRが直鎖ではないアルキル基(即ち、嵩高いアルキル基)であるため、このような分子間相互作用を妨げる立体障害が生じ、溶媒に対する溶解性が上がる。その結果、例えば、溶液中でのケイ光測定が容易になり、製造時に精製が容易になるなどの利点が生じる。
【0011】
及びRは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、アルコキシ基、アシルアミノ基、アルキル基、ハロゲン置換アルキル基、アミノ基、ヒドロキシ基又はハロゲン原子を表す。このアルコキシ基、アシルアミノ基及びアルキル基の炭素数はそれぞれ好ましくは1〜20、より好ましくは1〜4である。また、ハロゲン原子は、好ましくは、塩素原子又はフッ素原子である。
及びRとしては電子供与基が好ましい。このような電子供与基としては、例えば、アルコキシ基、アシルアミノ基、アルキル基、アミノ基又はヒドロキシ基、好ましくは、アルコキシ基、アルキル基又はヒドロキシ基が挙げられる。
また、R及びRは共同して芳香族若しくはエーテル結合を含んでもよい脂肪族の5、6又は8員環を形成してもよい。例えば、同一のチオフェン環又はフラン環上のR及びRは、共同して芳香族若しくはエーテル結合(−O−)を含んでもよい脂肪族の5員環又は6員環を形成してもよいし、更に、mが2以上の場合、あるチオフェン環又はフラン環上のR又はRは、隣接するチオフェン環又はフラン環上のR又はRと共同して、芳香族若しくはエーテル結合(−O−)を含んでもよい脂肪族の5、6又は8員環を形成してもよい。
【0012】
及びRは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子又はアルキル基を表す。このアルキル基は好ましくは炭素数が1〜4のアルキル基である。
及びRは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、又は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。このアルキル基は好ましくは炭素数が1〜4のアルキル基であり、置換基としては水酸基、アミノ基、チオール基、スルホン酸基などが挙げられる。
但し、R及びRは共同して窒素原子を含む芳香族若しくは脂肪族の5員環又は6員環を形成してもよく、R及びRは共同して窒素原子を含む芳香族若しくは脂肪族の5員環又は6員環を形成してもよい。
【0013】
上記のRが(a)−O−Rである色素から、公知の方法で様々な誘導体を容易に得ることができる。これらの誘導体は、そのまま又はタンパク質やヌクレオチド等に結合させることにより、様々な極性検査に用いることができる。その例をいくつか挙げる。
【0014】
上記のRが(a)−O−Rである色素(Rがネオペンチル基、R〜Rが水素原子、R及びRがメチル基である化合物を、以下「化合物1」という。)を例として、以下改変の例を説明する。反応を図1に示す。ただし、以下は説明を容易にするために化合物1を用いたが、本発明のこの他の化合物についても同様の反応が可能である。
化合物1(ネオペンチルエステル)は、スルホン酸が保護されているが、テトラメチルアンモニウムクロリド存在下DMF中160℃で攪拌することにより脱保護され、スルホン酸(化合物5)とすることができる(Tetrahedron Letters, vol.38(3),355-358 (1997))。スルホン酸(化合物5)は、5塩化リンと反応させて、酸クロリド(化合物6)に誘導化することができる。酸クロリド(化合物6)は、アミノ基と縮合しやすい。
【0015】
この酸クロリド(化合物6)に、スルホン酸アミド結合を介して、様々な官能基を導入することもできる。例えば、ジアミン(例えば、エチレンジアミン)を用いて連結して、末端にアミノ基を有する化合物とすることができる(化合物7)。
また、この化合物7をブロモアセチルブロミドなどと反応させて、末端にハロゲン原子を有するハロアセチルアミド体(化合物8)を合成することができる。
さらに、酸クロリド(化合物6)をアルキルアミンと反応させて、アルキル鎖を連結することができる(化合物9)。
一般に、エステルに比べ、酸クロリドや酸アミドの方が電子吸引性は強い。一般に、色素の電子吸引性と電子供与性が強い場合には、吸収極大波長及びケイ光極大波長が共に大きく長波長シフトし、ストークスシフトが大くなる(非特許文献1)。そのため、化合物6〜9のケイ光色素は、化合物1よりも吸収及びケイ光波長が長波長で、ストークスシフトも大きくなる。
このように、上記の方法で機能性置換基を縮合して、更なる光学特性の向上及びラベル化部位の付与が可能な誘導体とすることができる。
【0016】
即ち、上記Rが(a)−O−Rである色素から、上記Rが下記(b)〜(e)である色素化合物を誘導することができる。
(b)−Y(式中、Yはハロゲン原子を表す。このハロゲン原子としてはフッ素原子又は塩素原子が好ましい。)
(c)−NH(CHNH(式中、nは1〜14、好ましくは1〜4の整数を表す。)
(d)−NH(CHNHCO(CHY(式中、n及びoは独立して1〜14、好ましくは1〜4の整数を表し、Yはハロゲン原子又はハロゲン化アルキル基を表す。このハロゲン原子としてはフッ素原子又は塩素原子が好ましい。またこのハロゲン化アルキル基としては、炭素数1〜34、好ましくは1〜2のペルフルオロアルキル鎖、例えばペルフルオルメタンが挙げられる。)
(e)−NH(CHCH(式中、nは1〜20、好ましくは1〜4の整数を表す。)
【0017】
更に、このような色素化合物を、タンパク質を構成する様々なアミノ酸やヌクレオチドを構成する塩基に結合させることにより、複合体を形成させて、これらをラベル化することができる。その例を図2(1)〜(4)に示す。
(1)上記化合物6(酸クロリド)にジアミン化合物を連結し、酵素(トランスグルタミナーゼ)反応によりタンパク質のアミノ基含有アミノ酸(アスパラギン、グルタミン、リシン、アルギニン等)に連結することができる。その結果、タンパク質を上記Rが下記(f)であるラベル化されたタンパク質とすることができる。
(f)−NH−R10(式中、R10は、アミノ基含有アミノ酸を含むタンパク質から該アミノ基を除いたタンパク質残基、又はポリ若しくはオリゴヌクレオチドの塩基のアミノ基を除いたポリ若しくはオリゴヌクレオチド残基を表す。)
(2)このジアミン化合物を連結した化合物(化合物7)は、酵素(トランスグルタミナーゼ)反応により、タンパク質のアミノ基含有アミノ酸(アスパラギン、グルタミン、リシン、アルギニン等)に連結することができる。その結果、タンパク質を上記Rが下記(g)であるラベル化されたタンパク質とすることができる。
(g)−NH(CHNH−R10(式中、R10は、アミノ基含有アミノ酸を含むタンパク質から、該アミノ基を除いたタンパク質残基を表す。nは、例えば、1〜14、好ましくは1〜4の整数を表す。)
【0018】
(3)ブロモアセチルブロミドと反応させて色素化合物をチオール基含有アミノ酸(システイン等)に連結することができる。その結果、タンパク質を上記Rが下記(h)であるラベル化されたタンパク質とすることができる。
(h)−NH(CHNHCO(CH−S−R11(式中、R11は、チオール基含有アミノ酸を含むタンパク質から、該チオール基を除いたタンパク質残基を表す。n及びoは、それぞれ、例えば、1〜14、好ましくは1〜4の整数を表す。)
(4)上記化合物7(アミノ末端を持つ色素)と1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドなどのカルボジイミドでカルボキシル基を活性化したタンパク質を反応させると、カルボキシル基含有アミノ酸(アスパラギン酸等)に連結することができる。その結果、タンパク質を上記Rが下記(i)であるラベル化されたタンパク質とすることができる。
(i)−NH(CHNHSO−R12(式中、R12は、カルボキシル基含有アミノ酸を含むタンパク質から、該カルボキシル基を除いたタンパク質残基を表す。nは、例えば、1〜14、好ましくは1〜4の整数を表す。)
このほか、水酸基を有するアミノ酸(セリン、トレオニン、チロシン等)はアルデヒド基に誘導することにより、これら化合物と結合させてラベル化することができる。
【0019】
このような色素複合体では、色素の周辺の極性変化を知ることができるため、例えば、以下のような用途に用いることができる。
(1)バイオイメージング用ケイ光色素の分野で、生体膜プローブとして有用である。即ち、アルキル鎖などの脂質分子に連結し、局所的な環境に応答してケイ光色が変化する分子膜プローブに利用することができる。合成法としては、スルホン酸クロリド体(例えば、図1の化合物6)に、末端にアミノ基を持つアルキルなどの脂質分子と反応させて目的のプローブ(例えば、図1の化合物9、上記(e)参照。)を得ることができる。この分子は、親水環境では長波長、疎水環境では短波長のケイ光を発するため、細菌細胞膜の検出・抗菌作用の評価・ドラッグデリバリーシステムの評価など生体膜ダイナミクスの高感度リアルタイム計測に用いることができる。
【0020】
(2)イムノアッセイ(免疫測定法)の分野で、抗原・抗体反応の高感度検出に有用である。即ち、抗原又は抗体の特定のアミノ酸残基にラベル化して、抗原抗体反応を高感度かつ高定量的に測定できるプローブ(例えば、図2(1)〜(4)、上記(f)〜(i)参照。)として利用することができる。抗原抗体認識部位の近傍の特定のアミノ酸部位にラベル化することができれば、反応前はタンパク表面に露出しているので長波長の、反応後は疎水場に取り込まれるので短波長のケイ光を発すると考えられる。ケイ光ソルバトクロミック色素は、特定の置換基の認識を必要としないので、さまざまな抗原抗体反応に汎用的に用いることができる。また、ケイ光ソルバトクロミック色素は、複数波長のケイ光を発するので、波長の強度比を算出することにより抗原抗体反応を高定量的に検出することができる。
【0021】
(3)一塩基多型の検出においては、特定部位の塩基配列をケイ光色で高感度に識別するプローブとして利用できる。例えば、図3に示すように、スルホン酸クロリド体(例えば、図1の化合物6)に、核酸中の塩基から適切なスペーサー(例えば、メチレン鎖)を介して末端にアミノ基を持つ誘導体を反応させると、塩基の近傍をケイ光ラベル化することができる。既法により核酸アミダイトを合成し、固相合成により任意の塩基配列に組み込んだ核酸ポリマーを合成する。この任意の配列に、完全に相補的な核酸ポリマーをハイブリタイゼーションすれば、疎水場が形成されるのでケイ光は短波長であるが、塩基対のミスマッチが色素の近傍に存在すれば親水性が増すのでケイ光が長波長になり、塩基配列の識別がケイ光色によって高感度に識別できる。
なお、これらの用途に於て、本願発明の色素は、吸収波長が長波長であるため、励起光によるタンパク質やDNAの光損傷を避けられるため、従来の色素よりも有利である。
【実施例】
【0022】
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。
合成例1
本合成例では、4-(5-(4-(ジメチルアミノ)フェニル)-チオフェン-2-イル)-ベンゼンスルホン酸 2,2-ジメチルプロピル エステル(化合物1)を合成した。合成経路を図4に示す。
ネオペンチルアルコール(4.53g, 51.4 mmol)をクロロホルム50mLに溶かし、ピリジン(8.33 mL, 103 mmol)を加え、窒素気流下0℃で4-ブロモ-ベンゼンスルホン酸クロリド(東京化成工業株式会社製)(12.0g, 47.0 mmol)のクロロホルム溶液(20 mL)を45分かけて滴下した。その後、室温で23時間撹拌し、0.1%塩酸を加えた。ジエチルエーテルを加えて有機層を抽出した後、0.1%塩酸で1回、脱イオン水で3回、飽和食塩水で1回洗浄し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒留去後、残った固体をヘキサンで再結晶して、白色鱗片状晶の化合物2(4.17g, 13.6 mmol, 29%)を得た。以下に生成した化合物2(4-Bromo-benzenesulfonic acid 2,2-dimethylpropyl ester)の分析結果を示す。
1H-NMR (400MHz, CDCl3, TMS, r.t.) δ 7.76 (d, J = 9 Hz, 2H), 7.69 (d, J = 9 Hz, 2H), 3.69 (s, 2H), 0.91 (s, 9H).
【0023】
上記で得た化合物2(0.80g, 2.6 mmol)、ビス(ピナコラト)ジボロン(和光純薬工業株式会社製)(0.86g, 3.4 mmol)、[1,1'-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]-ジクロロパラジウム(II) ジクロロメタン錯体(シグマアルドリッチジャパン株式会社製)(0.07g, 0.09 mmol)、酢酸カリウム(0.83g, 8.5 mmol)をDMSO 9.6 mLに溶かし、窒素気流下90℃で1時間半攪拌した。放冷後、クロロホルムを加え、有機層を3回洗浄した。塩析して、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した後、ろ過し、溶媒留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー精製(ヘキサン:塩化メチレン=9:1→塩化メチレン→酢酸エチル:塩化メチレン=1:19)及び溶媒留去により、白色固体(化合物3)(0.75g, 2.1 mmol, 82%)を得た。以下に生成した化合物3(4-(4,4,5,5-テトラメチル-[1,3,2]ジオキサボロラン-2-イル)ベンゼンスルホン酸 2,2-ジメチルプロピルエステル)の分析結果を示す。
1H-NMR (400MHz, CDCl3, TMS, r.t.) δ 7.96 (d, J = 9 Hz, 2H), 7.87 (d, J = 9 Hz, 2H), 3.69 (s, 2H), 1.35 (s, 12H), 0.91 (s, 9H).
【0024】
2,5-ジブロモチオフェン(和光純薬工業株式会社製)(40.0 mg, 16.5 mmol)と上記で得た化合物3(41.0 mg, 11.6 mmol)をトルエン5 mLとメタノール3 mLの混合溶媒に溶かし、1M 炭酸ナトリウム水溶液 1.3 mLとテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(和光純薬工業株式会社製)(23 mg, 20μmol)を加えた。真空脱気と窒素置換を3回繰り返し、80℃で3時間攪拌した。放冷後、クロロホルムに溶かし、2回脱イオン水で洗浄して、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過して硫酸ナトリウムを取り除き、ろ液を溶媒留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー精製(クロロホルム)及び溶媒留去により、白色固体(化合物4)(32 mg, 8.2 mmol, 71%)を得た。以下に生成した化合物4(4-(5-ブロモ-チオフェン-2-イル)ベンゼンスルホン酸 2,2-ジメチルプロピルエステル)の分析結果を示す。
TLC;Rf = 0.09(溶離液;クロロホルム)
1H-NMR (400MHz, CDCl3, TMS, r.t.);δ 7.89 (d, J = 9 Hz, 2H), 7.66 (d, J = 9 Hz, 2H), 7.20 (d, J = 4 Hz, 1H), 7.09 (d, J = 4 Hz, 1H), 3.70 (s, 2H), 0.91 (s, 9H).
【0025】
4-(ジメチルアミノ)フェニルボロン酸(シグマアルドリッチジャパン株式会社)(13.6 mg, 82 μmol)と上記で得た化合物4(32 mg, 82 μmol)をトルエン10 mLとメタノール 5 mLの混合溶媒に溶かし、0.66 M 炭酸ナトリウム水溶液 1.0 mLとテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(和光純薬工業株式会社製)(12 mg, 10 μmol)を加えた。真空脱気と窒素置換を3回繰り返し、80℃で3時間攪拌した。放冷後、クロロホルムに溶かし、2回脱イオン水で洗浄して、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過して硫酸ナトリウムを取り除き、ろ液を溶媒留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー精製(クロロホルム)及び溶媒留去により、黄色粉末(化合物1)を得た。以下に生成した化合物1(4-(5-(4-(ジメチルアミノ)フェニル)-チオフェン-2-イル)ベンゼンスルホン酸 2,2-ジメチルプロピルエステル)の分析結果を示す。
TLC;Rf = 0.07(溶離液;クロロホルム)
1H-NMR (400MHz, CDCl3, TMS, r.t.);δ 7.86 (d, J = 9 Hz, 2H), 7.73 (d, J = 9 Hz, 2H), 7.52 (d, J = 9 Hz, 2H), 7.39 ( d, J = 4 Hz, 1H), 7.16 (d, J = 4 Hz, 1H), 3.70 (s, 2H), 3.01 (s, 6H), 0.91 (s, 9H).
【0026】
合成例2
本合成例では、4-(5-(4-(ジメチルアミノ)フェニル)-フラン-2-イル)-ベンゼンスルホン酸 2,2-ジメチルプロピル エステル(化合物13)を合成した。合成経路を図5に示す。
2,5-ジブロムフラン(東京化成工業株式会社製)(0.405g, 1.77mmol)、化合物3(0.6g, 1.69mmol)、4-(ジメチルアミノ)フェニルボロン酸(0.292g, 1.77mmol)をトルエン25ml、メタノール10mlに溶かし、水10mlに溶かしたNa2CO3(0.56g, 5.28mmol)とPd(PPh3)4(0.097g, 84μmol)を加え、更に脱気とN置換を3回行い、80℃で5時間攪拌した。放冷後、クロロホルムで3回抽出し、Na2SO4で乾燥させた。溶媒減圧除去し、シリカゲルクロマトグラフィー(溶離液;クロロホルム:ヘキサン=4:1)で分離精製し、黄色固体(化合物13)(0.137g, 20%)を得た。以下に生成した化合物13(4-(5-(4-(Dimethylamino)phenyl)-furan-2-yl)-benzenesulfonic acid 2,2-dimethylpropyl ester)の分析結果を示す。
TLC;Rf =0.23(クロロホルム:ヘキサン=4:1)
1H-NMR(400MHz, CDCl3, TMS, r.t.);δ 7.88(d, J = 9Hz, 2H), 7.82(d, J = 9Hz, 2H), 7.63(d, J = 9Hz, 2H), 6.90(d, J = 4Hz, 1H), 6.75(d, J = 9Hz, 2H), 6.56(d, J = 4Hz, 1H), 3.69(s, 2H), 3.00(s, 6H), 0.91(s, 9H).
【0027】
合成例3
本合成例では、4-(5- (4-(ジメチルアミノ)フェニル)-3,4-エチレンジオキシチオフェン-2-イル) ベンゼンスルホン酸 2,2-ジメチルプロピル エステル(化合物16)を合成した。合成経路を図6に示す。
3,4-エチレンジオキシチオフェン(シグマアルドリッチジャパン株式会社製)(1.42g, 10mmol)を50%酢酸のTHF溶液20mlに溶かし、氷冷下で50%酢酸のTHF溶液20mlに溶かしたN-ブロモスクシンイミド(和光純薬工業株式会社製)(3.74g, 21mmol)を1時間滴下添加した後、室温で2時間攪拌した。反応終了後、水100mlを加え、析出した固体を吸引ろ過で分離した。さらにろ液に水100mlを加え、析出した固体を吸引ろ過で分離した。これらの固体をさらに水で洗い、減圧下で乾燥して、白色結晶(化合物14)(2.67g, 89%)を得た。以下に生成した化合物14(2,5-Dibromo-3,4-ethylenedioxythiophene)の分析結果を示す。
TLC;Rf = 0.49(ヘキサン:酢酸エチル=3:1)
1H-NMR(400MHz, CDCl3, TMS, r.t.);δ 4.27(s,4H).
【0028】
上記で得た化合物14(0.2g, 0.66mmol)、化合物3(0.187g, 0.528mmol)をトルエン20ml、メタノール10mlに溶かし、水5mlに溶かしたNa2CO3(0.106g, 1.0mmol)とPd(PPh3)4(0.038g, 33μmol)を加え、脱気とN置換を3回行い、80℃で4時間攪拌した。
放冷後、クロロホルムで3回抽出し、Na2SO4で乾燥させた。溶媒減圧除去し、シリカゲルクロマトグラフィー(溶離液;クロロホルム)で分離精製し、黄色固体(化合物15)(0.148g, 63%)を得た。以下に生成した化合物15(4-(5-Bromo-3,4-ethylenedioxythiophen-2-yl) benzenesulfonic acid 2,2-dimethylpropyl ester)の分析結果を示す。
TLC;Rf = 0.18(ヘキサン:クロロホルム=1:1)
1H-NMR(400MHz, CDCl3, TMS, r.t.);δ 7.92(d, J = 9Hz, 2H), 7.88(d, J = 9Hz, 2H), 4.45(s, 4H), 3.67(s, 2H), 0.92(s, 9H).
【0029】
上記で得た化合物15(0.148g, 0.33mmol)、4-(ジメチルアミノ)フェニルボロン酸(0.065g, 0.40mmol)をトルエン20ml、メタノール10mlに溶かし、水5mlに溶かしたNa2CO3(0.07g, 0.66mmol)とPd(PPh3)4(0.03g, 26μmol)を加え、更に脱気とN置換を3回行い、80℃で21時間攪拌した。放冷後、クロロホルムで3回抽出し、Na2SO4で乾燥させた。溶媒減圧除去し、シリカゲルクロマトグラフィー(溶離液;クロロホルム:ヘキサン=99:1)で分離精製し、黄色固体(化合物16)(0.0153g, 10%)を得た。以下に生成した化合物16(4-(5- (4-(Dimethylamino)phenyl)-3,4-ethylenedioxythiophen-2-yl) benzenesulfonic acid 2,2-dimethylpropyl ester)の分析結果を示す。
TLC;Rf = 0.43(クロロホルム:酢酸エチル=99:1)
1H-NMR(400MHz, CDCl3, TMS, r.t.);δ 7.87(d, J = 9Hz, 2H), 7.82(d, J = 9Hz, 2H), 7.63(d, J = 9Hz, 2H), 6.74(d, J = 9Hz, 2H), 4.40(d, J = 5 Hz, 2H), 4.36 (d, J = 5 Hz, 2H), 3.67(s, 2H), 2.99(s, 6H), 0.91(s, 9H).
【0030】
合成例4
本合成例では、(2-(4-(5-(4-(ジメチルアミノ)フェニル)チオフェン-2-イル)ベンゼンスルホン酸アミノ)エチル)カルバミン酸 tert-ブチルエステル(化合物19)を合成した。合成経路を図7に示す。
4-ブロモ-ベンゼンスルホン酸クロリド(東京化成工業株式会社製)(1.60g, 6.3mmol) を塩化メチレン60mlに溶かし、塩化メチレン50mlとトリエチルアミン 2 ml(14mmol)の混合溶液に溶かしたN-Boc-ethylenediamine(和光純薬工業株式会社製)(0.84g, 5.2mmol)に1時間滴下添加した後、25時間攪拌した。反応終了後、水50mlを加え洗浄し、塩化メチレンで3回抽出し、Na2SO4で乾燥させた。溶媒減圧除去し、シリカゲルクロマトグラフィー(溶離液;クロロホルム:酢酸エチル=10:1→6:1)で分離精製し、白色固体(化合物17)(1.81g, 91%)を得た。以下に生成した化合物17((2-(4-Bromo-benzenesulfonylamino)ethyl)carbamic acid tert-butyl ester)の分析結果を示す。
TLC;Rf = 0.38(ヘキサン:酢酸エチル=3:1)
1H-NMR(400MHz, CDCl3, TMS, r.t.); δ 7.71(d, J = 8Hz, 2H), 7.64(d, J = 8Hz, 2H), 5.30.(s, 1H), 4.78(s, 1H), 3.22(t, J = 5Hz, 2H), 3.07(d, J = 5Hz, 2H), 1.43(s,9H).
【0031】
上記で得た化合物17(0.20g, 0.53mmol)と2.5-チオフェンジボロン酸(和光純薬工業株式会社製)(0.12g, 0.7mmol)をトルエン25mlとメタノール15mlの混合溶媒に溶かし、Na2CO3(0.223g, 2.1mmol)の水溶液5mlとPd(PPh3)4(0.04g, 35μmol)を加え、脱気とN置換を3回行い、80℃で4時間攪拌した。放冷後、クロロホルムで3回抽出し、Na2SO4で乾燥させた。溶媒減圧除去し、シリカゲルクロマトグラフィー(溶離液;クロロホルム:酢酸エチル=43:7)で分離精製し、白色粉末(化合物18)(0.267g, 89%)を得た。以下に生成した化合物18((2-(4-(5-(dihydroxyboryl)thiophen-2-yl)benzenesulfonylamino)ethyl)carbamic acid tert-butyl ester)の分析結果を示す。
TLC;Rf = 0.23(クロロホルム:酢酸エチル=8:1)
1H-NMR(400MHz, CDCl3, TMS, r.t.); δ 7.71(d, J = 9Hz, 2H), 7.64(d, J = 9Hz, 2H), 7.54(d, J = 5Hz, 1H), 7.47(d, J = 5Hz, 1H), 5.36.(s, 1H), 4.82.(s, 1H), 3.24(d, J = 5Hz, 2H), 3.10(d, J = 5Hz, 2H), 1.43(s, 9H).
【0032】
上記で得た化合物18(0.54g, 1.27mmol)、4-ブロモ-N,N-ジメチルアニリン(シグマアルドリッチジャパン株式会社製)(0.30g, 1.5mmol)をトルエン35mlとメタノール25mlの混合溶媒に溶かし、Na2CO3(0.27g, 2.54mmol)水溶液 10mlとPd(PPh3)4(0.117g, 101μmol)を加え、更に脱気とN置換を3回行い、80℃で22時間攪拌した。放冷後、クロロホルムで3回抽出し、Na2SO4で乾燥させた。溶媒減圧除去し、シリカゲルクロマトグラフィー(溶離液;クロロホルム:酢酸エチル=4:1)で分離精製し、白色粉末(化合物19)(0.35g, 56%)を得た。以下に生成した化合物19((2-(4-(5-(4-(dimethylamino)phenyl)thiophen-2-yl)benzenesulfonylamino)ethyl)carbamic acid tert-butyl ester)の分析結果を示す。
TLC;Rf = 0.36(クロロホルム:酢酸エチル=4:1)
1H-NMR(400MHz, CDCl3, TMS, r.t.); δ 7.84(d, J = 8Hz, 2H), 7.72(d, J = 8Hz,2H), 7.62(d, J = 8Hz, 2H), 7.52(d, J = Hz, 1H), 7.42(d, J = 8Hz, 1H), 6.79(d, J = 8Hz,2H) 5.26(s, 1H), 4.81(s, 1H), 3.25(d, J = 4.8Hz, 2H), 3.09(d, J = 4.8Hz, 2H), 2.97(s,6H), 1.43(s, 9H).
【0033】
合成例5
本合成例では、4-(5'-(4-(ジメチルアミノ)フェニル)-2,2'-ビチオフェン-5-イル) ベンゼンスルホン酸 2,2-ジメチルプロピル エステル(化合物21)を合成した。合成経路を図8に示す。
5,5'-ジブロモ-2,2'-ビチオフェン(和光純薬工業株式会社製)(0.324 g, 1.00 mmol)、化合物3 (0.248 g, 0.70 mmol)をトルエン20 mlとメタノール12 mlの混合溶媒に溶解させ、更に1.0 M Na2CO3 aq 5 mlと Pd(PPh3)4 (0.066g, 57μmol)を加え、脱気と N置換を3回行い、80℃で4時間半攪拌した。放冷後、トルエンを加えて有機層を抽出し、水と飽和食塩水で洗浄した後 Na2SO4で乾燥させた。溶媒減圧除去し、シリカゲルクロマトグラフィー(溶離液;トルエン)で精製し、黄色固体(化合物20) (0.137g, 43%)を得た。以下に生成した化合物20(4-(5'-Bromo-2,2'-Bithiophen-5-yl) benzenesulfonic acid 2,2-dimethylpropyl ester)の分析結果を示す。
TLC; Rf = 0.07 (トルエン)
1H-NMR (400 MHz, CDCl3, TMS, r.t.); δ 7.89 (d, J = 8 Hz, 2H), 7.72 (d, J = 8 Hz, 2H), 7.35 (d, J = 4 Hz, 1H), 7.12 (d, J = 4 Hz, 1H), 7.00 (d, J = 4 Hz, 1H), 6.98 (d, J = 4 Hz, 1H), 3.71 (s, 2H), 0.92 (s, 9H).
【0034】
上記で得た化合物20(0.091 g, 0.20 mmol)、4-(ジメチルアミノ)フェニルボロン酸(0.038 g, 0.23 mmol)をトルエン10 mlとメタノール5 mlの混合溶媒に溶解し、更に1.0 M Na2CO3 aq 5 mlとPd(PPh3)4 (0.017 g, 15.0 μmol)を加え、脱気と N置換を3回行い、80℃で19時間攪拌した。放冷後、トルエンを加えて有機層を抽出し、飽和食塩水で洗浄した後 Na2SO4で乾燥させた。溶媒減圧除去し、シリカゲルクロマトグラフィー(溶離液;クロロホルム)で分離精製して黄色固体(化合物21)(0.030g, 29%)を得た。以下に生成した化合物21(4-(5'- (4-(Dimethylamino)phenyl)-2,2'-Bithiophen-5-yl) benzenesulfonic acid 2,2-dimethylpropyl ester)の分析結果を示す。
TLC; Rf = 0.36 (クロロホルム)
1H-NMR (400 MHz, CDCl3, TMS, r.t.): δ 7.87 (d, J = 8 Hz, 2H), 7.71 (d, J = 8Hz, 2H), 7.47 (d, J = 9 Hz, 2H), 7.35 (d, J = 4 Hz, 1H), 7.15 (m, 2H), 7.07 (d, J = 4 Hz, 1H), 6.71 (d, J = 9 Hz, 2H), 3.69 (s, 2H), 2.99 (s, 6H), 0.91 (s, 9H).
【0035】
実施例1
本実施例では、合成例1〜5で得たチオフェン誘導体(化合物1、16、19及び21)及びフラン誘導体(化合物13)を極性の異なる様々な溶媒中でのケイ光スペクトルを測定した。
これらチオフェン誘導体及びフラン誘導体を、様々な溶媒(トルエン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、クロロホルム、ジクロルメタン、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、エタノール、メタノール)に溶解させた。これらはいずれも良好に溶解した。
なお、各溶媒の溶媒極性ET(30) (kcal/mol)を、吸光型ソルバトクロミック色素である下式のベタイン色素を溶媒に溶かし、その吸収極大波長λ(nm)を式 ET(30) = 28591 / λ に代入して得た。
【化3】

【0036】
これらチオフェン誘導体及びフラン誘導体を、0.5〜1.8 x 10-5 Mの濃度でスペクトル測定用標準溶媒(和光純薬工業社製)の溶液を調製し可視紫外分光光度計(日本分光株式会社製V-560 UV/VIS Spectrophotometer)で測定した。吸収極大波長(nm)を表1に、吸収極大波長におけるモル吸収係数(mol-1cm-1)を表2に示す。表中、化合物番号をNo.で表す。
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
次に、これらチオフェン誘導体及びフラン誘導体のケイ光スペクトルを測定した。蛍光スペクトルは、吸収スペクトルと同じサンプルを用いて、ケイ光分光光度計(日立製作所製F-4500)で測定した。蛍光量子収率(Q)は、硫酸キニーネの0.5M硫酸溶液(QR = 0.546)を基準物質とし、サンプルと基準物質を365 nmで励起した時の蛍光発光スペクトルを測定し、下式から算出した。ここで、Iはサンプルの蛍光スペクトルの面積、IRは基準物質の蛍光スペクトルの面積、Aはサンプルの365 nmの吸光度、ARは365 nmの吸光度、nはサンプルを溶かした溶媒の屈折率、nRは0.5M硫酸の屈折率を示す。
【数1】

【0039】
ケイ光発光極大波長(nm)を表3に、ケイ光量子収率を表4に示す。また、化合物1のケイ光スペクトルを図9に示す。表中、化合物番号をNo.で表す。
【表3】

【0040】
【表4】

【0041】
ケイ光発光の波長は、溶媒の極性が上がるほど、長波長にシフトし、目視で識別できるほどケイ光色が変化した。即ち、上記化合物が分子周辺の溶媒極性によってケイ光波長が変わるケイ光ソルバトクロミック色素であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明のチオフェン誘導体の製法を示す図である。図中の番号は化合物の番号を示す。
【図2】タンパク質を本発明の色素化合物でラベル化する反応を示す図である。(1)及び(2)は、アミノ基含有アミノ酸を含むタンパク質、(3)は、チオール基含有アミノ酸を含むタンパク質、(4)は、カルボキシル基含有アミノ酸を含むタンパク質のラベル化方法を示す。
【図3】核酸配列を本発明の色素化合物でラベル化する反応を示す図である。
【図4】本発明のチオフェン誘導体(化合物1)の製法を示す図である。図中の番号は化合物の番号を示す
【図5】本発明のフラン誘導体(化合物13)の製法を示す図である。図中の番号は化合物の番号を示す
【図6】本発明のチオフェン誘導体(化合物16)の製法を示す図である。図中の番号は化合物の番号を示す
【図7】本発明のチオフェン誘導体(化合物19)の製法を示す図である。図中の番号は化合物の番号を示す
【図8】本発明のチオフェン誘導体(化合物21)の製法を示す図である。図中の番号は化合物の番号を示す
【図9】各種溶媒中の本発明のチオフェン誘導体(化合物1)のケイ光スペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式
【化1】

(式中、Xは酸素原子(−O−)又は硫黄原子(−S−)を表し、
mは1〜4の整数を表し、
は、下記(a)〜(e)のいずれかを表し、
(a)−O−R(式中、Rは、アルキル基の側鎖を有するアルキル基を表す。)
(b)−Y(式中、Yはハロゲン原子又はハロゲン化アルキル基を表す。)
(c)−NH(CHNH(式中、nは1〜14の整数を表す。)
(d)−NH(CHNHCO(CHY(式中、n及びoはそれぞれ1〜14の整数を表し、Yはハロゲン原子を表す。)
(e)−NH(CHCH(式中、nは1〜20の整数を表す。)
及びRは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、アルコキシ基、アシルアミノ基、アルキル基、ハロゲン置換アルキル基、アミノ基、ヒドロキシ基又はハロゲン原子を表し、但し、R及びRは共同して芳香族若しくはエーテル結合を含んでもよい脂肪族の5、6又は8員環を形成してもよく、R及びRは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子又はアルキル基を表し、R及びRは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、又は置換基を有していてもよいアルキル基を表し、但し、R及びRは共同して芳香族若しくは脂肪族の5員環又は6員環を形成してもよく、R及びRは共同して芳香族若しくは脂肪族の5員環又は6員環を形成してもよい。)で表されるケイ光ソルバトクロミック色素。
【請求項2】
請求項1に記載のケイ光ソルバトクロミック色素を、アミノ基、水酸基、チオール基又はカルボキシル基を含有するアミノ酸を含むタンパク質若しくはペプチド又はポリ若しくはオリゴヌクレオチドに連結して形成されるケイ光ソルバトクロミック色素複合体。
【請求項3】
請求項1に記載のケイ光ソルバトクロミック色素若しくは請求項2に記載のケイ光ソルバトクロミック色素複合体又はこれらを含む溶液に紫外線を照射する段階、及び該ケイ光ソルバトクロミック色素からの発光波長又は発光色を測定する段階から成る、該ケイ光ソルバトクロミック色素の周辺の極性を検査する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−291210(P2008−291210A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23492(P2008−23492)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】