説明

ケイ素化合物の製造方法

【課題】ケイ素−ハロゲン結合を有する化合物を還元して所望のケイ素化合物を高効率かつ高収率で得ることができるケイ素化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のケイ素化合物の製造方法は、ケイ素−ハロゲン結合を有する化合物を水素化アルコキシアルミニウムアルカリ金属塩を用いて還元することを特徴とする。本発明の好ましい態様においては、前記還元は炭化水素系溶媒中で行うのがよく、前記ケイ素−ハロゲン結合を有する化合物は、1つのケイ素原子に少なくとも1個のハロゲン原子と別のケイ素原子とが結合してなる構造を有することが好ましい。また本発明の好ましい態様においては、前記還元により前記ケイ素−ハロゲン結合をケイ素−水素結合にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元によりケイ素化合物を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的な還元剤を用いる反応においては、還元剤の溶解性や反応速度の観点から、ジエチルエーテルやテトラヒドロフランの如きエーテル系溶媒が汎用されている。特にハロゲン原子を水素原子に還元する際にヒドリド還元剤として良好な反応性を示しうる水素化リチウムアルミニウム(LAH)は、エーテル系溶媒以外の溶媒に対して極めて溶解度が低く、LAHを用いた還元反応に使用可能な溶媒は実質的にエーテル系溶媒のみに制限されていた。しかもエーテル系溶媒を用いた場合においてもやはりLAHの溶解度は低いため、LAHを用いた還元反応は不均一系で行うのが一般的であった。例えば特許文献1では、トリクロロシランと第三級ポリアミンとから調製したテトラデカクロロシクロヘキサシランのジアニオンを含む塩を、ジエチルエーテル中で水素化リチウムアルミニウムと接触させることにより、前記ジアニオンの塩素原子が水素原子に還元されたシクロヘキサシランを製造できることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4519955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1におけるテトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオンの還元のように、ケイ素原子に結合したハロゲン原子をエーテル系溶媒中で水素原子に還元した場合、還元生成物であるケイ素−水素結合を有する化合物(特許文献1の場合、シクロヘキサシラン)の収率が所期のレベルに達しないことがあった。
【0005】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、ケイ素−ハロゲン結合を有する化合物を還元して所望の水素化ケイ素化合物を高効率かつ高収率で得ることができるケイ素化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ケイ素−ハロゲン結合を有する化合物を還元した際の還元生成物(ケイ素−水素結合を有する化合物)の収率低下は、還元反応が不均一系で行われていたことが起因していることを突き止めた。そしてこの知見に基づき、ケイ素原子上のハロゲン原子を水素原子に還元するにあたり従来のLAHなどと同等の反応性を発現しうるものであり尚且つ溶媒への溶解性が高く均一系で還元反応を行うことができる還元剤を見出すべく、種々の還元剤を検討した。その結果、水素化アルコキシアルミニウムアルカリ金属塩であれば、還元反応を均一系で行うことができ、良好な反応性でケイ素原子上のハロゲン原子を水素原子に置換できることを見出し、この水素化アルコキシアルミニウムアルカリ金属塩を用いることにより、高効率かつ高収率で所望の還元生成物が得られることを確認して、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明のケイ素化合物の製造方法は、ケイ素−ハロゲン結合を有する化合物を水素化アルコキシアルミニウムアルカリ金属塩を用いて還元することを特徴とする。本発明の好ましい態様においては、前記還元は炭化水素系溶媒中で行うのがよく、前記ケイ素−ハロゲン結合を有する化合物は、1つのケイ素原子に少なくとも1個のハロゲン原子と別のケイ素原子とが結合してなる構造を有することが好ましい。また本発明の好ましい態様においては、前記還元により前記ケイ素−ハロゲン結合をケイ素−水素結合に変換する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、還元剤として水素化アルコキシアルミニウムアルカリ金属塩を用いるので、均一系での還元反応が可能になり、その結果、ケイ素−ハロゲン結合を有する化合物を還元する際の反応速度の向上を図ることができる。これにより、ケイ素−ハロゲン結合を有する化合物を還元して所望の水素化ケイ素化合物を高効率かつ高収率で得ることが可能になる。さらに、水素化アルコキシアルミニウムアルカリ金属塩は、代表的なヒドリド還元剤であるLAHに比べ、空気中での安定性が高く、取り扱いが容易である、という利点もある。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明では、ケイ素−ハロゲン結合を有する化合物を水素化アルコキシアルミニウムアルカリ金属塩を用いて還元し、水素化ケイ素化合物を製造する。
【0010】
ケイ素−ハロゲン結合を有する化合物は、1分子中少なくとも1個のケイ素−ハロゲン結合を有するものであればよいが、好ましくは2個以上のケイ素−ハロゲン結合を有する。前記ケイ素−ハロゲン結合におけるハロゲンとしては、例えば塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子が挙げられ、好ましくは塩素原子である。
【0011】
ケイ素−ハロゲン結合を有する化合物を構成するケイ素原子の数は、(モノ−、ジ−、トリ−、テトラ−)ハロゲン化モノシランのように1個であってもよいし、2個以上であってもよい。ケイ素原子が2個以上の場合、各ケイ素原子は、(モノ−、ジ−、トリ−)ハロゲン化ジシランのように直鎖状に繋がっていてもよいし、ハロゲン化トリス(トリアルキルシリル)シランのように分岐状に繋がっていてもよい。またケイ素原子が3個以上の場合、各ケイ素原子は、ハロゲン化シクロペンタシランやハロゲン化シクロヘキサシランのようなハロゲン化環状シラン骨格を形成していてもよい。さらにケイ素−ハロゲン結合を有する化合物は、例えば特許文献1のテトラデカクロロシクロヘキサシランのジアニオンを含む塩のようにイオン化合物(塩)又は錯塩であってもよい。
【0012】
さらにケイ素−ハロゲン結合を有する化合物は、1つのケイ素原子に少なくとも1個のハロゲン原子と別のケイ素原子とが結合してなる構造(以下「Si−Si−X構造」と称することもある)、例えば−Si−SiXn−(ここで、Xはハロゲン原子を表し、nは1又は2であり、n=2である場合には2つのXは同じであってもよいし異なっていてもよい。)で示されるような構造を有することが好ましい。このようなSi−Si−X構造を有する化合物は、還元されると−Si−SiH−で示される構造を有することになるが、−Si−Si−結合は酸化されてシロキサン結合(−Si−O−Si−)に変換されやすい。そのため、上記Si−Si−X構造を有する化合物のように、Si−Si結合を形成する少なくとも一方のSiに結合したハロゲンを還元する場合は特に、目的物、すなわち−Si−SiH−で示される構造を有するケイ素化合物の収率が低下する傾向がある。しかしながら、本発明においては、このような場合にも高効率かつ高収率で目的とするケイ素化合物(還元生成物)を得ることができる。つまり、還元に供するケイ素−ハロゲン結合を有する化合物が上記Si−Si−X構造を有する態様において本発明の効果はより有意になる。
【0013】
なお、ケイ素−ハロゲン結合を有する化合物は、ケイ素原子とハロゲン原子のみにより構成されるのが好ましいが、ハロゲンが水素原子で置換されていてもよく、また他の置換基で置換されていてもよい。置換基としては、例えば、炭素数1〜20のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等)、炭素数6〜20のアリール基(フェニル基、ナフチル基等)などが挙げられる。これら置換基は、通常ケイ素原子に結合している。
【0014】
上記のようなケイ素−ハロゲン結合を有する化合物の好ましい例としては、例えば、トリメチルクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシラン等の(モノ−、ジ−、トリ−、テトラ−)ハロゲン化モノシラン;クロロ(トリメチルシリル)ジメチルシラン、1,2−ジクロロテトラメチルジシラン、1,1−ジクロロテトラメチルジシラン、1,1,2−トリクロロトリメチルジシラン等の(モノ−、ジ−、トリ−、テトラ−)ハロゲン化ジシラン;クロロトリス(トリメチルシリル)シラン、クロロトリス(トリエチルシリル)シラン等のハロゲン化トリス(トリアルキルシリル)シラン;デカクロロシクロペンタシラン、ドデカクロロシクロヘキサシラン等のハロゲン化環状シラン;テトラデカクロロシクロヘキサシラン・ジアニオンを含む塩等のイオン化合物又は錯塩;などが挙げられる。
【0015】
本発明においては、還元剤として水素化アルコキシアルミニウムアルカリ金属塩を用いる。水素化アルコキシアルミニウムアルカリ金属塩は、アルミニウムを中心にn個(nは1〜3の整数、特に1又は2)のヒドリドと(4−n)個のアルコキシドが結合(配位)してなるアニオンと、アルカリ金属からなるカチオンとの塩である。ここで、アルコキシドは、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜6、特に炭素数3〜5のアルコキシドであり、具体的には、例えば、メトキシド、エトキシド、2−メトキシエトキシド、tert−ブトキシド等である。またアニオンの対イオンとなるアルカリ金属は、例えばナトリウム、カリウム、リチウム等である。
【0016】
前記水素化アルコキシアルミニウムアルカリ金属塩の好ましい例としては、例えば、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウム等が挙げられ、これらの中でも、入手し易さ等の点から、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムが好ましい。
【0017】
前記還元剤として用いる水素化アルコキシアルミニウムアルカリ金属塩の使用量は、反応基質(ケイ素−ハロゲン結合を有する化合物)の種類等に応じて適宜設定すればよい。理論的には、ケイ素−ハロゲン結合を有する化合物(1/m)モル(ここでmは、ケイ素−ハロゲン結合を有する化合物1分子あたりのSi−ハロゲン結合の数を意味する)に対して、水素化アルコキシアルミニウムアルカリ金属塩が(1/n)モル以上(ここでnは、水素化アルコキシアルミニウムアルカリ金属塩1分子あたりのアルミニウム−水素結合の数を意味する)であればよいが、好ましくは(2/n)モル以上(50/n)モル以下、より好ましくは(5/n)モル以上(40/n)モル以下、さらに好ましくは(10/n)モル以上(30/n)モル以下である。還元剤の使用量が多すぎると、後処理に時間を要し生産性が低下する傾向があり、一方、少なすぎると、収率が低下する傾向がある。
【0018】
本発明においては還元剤として水素化アルコキシアルミニウムアルカリ金属塩を用いるので、従来のLAHを用いた還元反応のように使用可能な溶媒がエーテル系溶媒に制限されることはなく、エーテル系溶媒以外の溶媒を用いることも可能になる。
本発明において還元反応に用いる溶媒は、ヒドリド還元剤に対して反応性を示さないものであればよく、このような溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル等のエーテル系溶媒;等が挙げられる。これらの中でもエーテル系溶媒以外の溶媒、具体的には炭化水素系溶媒(芳香族炭化水素系溶媒および脂肪族炭化水素系溶媒)が好ましく、芳香族炭化水素系溶媒が特に好ましい。エーテル系溶媒以外の溶媒を用いることにより、所望の水素化ケイ素化合物をより高効率かつ高収率で得ることが可能になる。すなわち、エーテル系溶媒を用いると、エーテル系溶媒に起因して過酸化物が副生し、該過酸化物により目的とする還元生成物(ケイ素−水素結合を有する化合物)が酸化され、結果として収率を低下させることが懸念されるが、炭化水素系溶媒のようにエーテル系溶媒以外の溶媒を用いれば、かかる収率低下を回避でき、反応効率および反応収率をより向上させうるのである。なお、これら溶媒は、その中に含まれる水や溶存酸素を取り除くため、反応前に蒸留や脱水等の精製を施すことが好ましい。還元反応に用いる溶媒は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
前記還元反応に用いる溶媒の使用量は、反応基質(ケイ素−ハロゲン結合を有する化合物)の濃度が5mol/L以下となるように調整することが好ましく、より好ましい濃度は4mol/L以下、さらに好ましい濃度は3mol/L以下である。反応基質の濃度が前記範囲より高い場合、すなわち溶媒の使用量が前記範囲より少なすぎると、反応により生じた熱を充分に除熱できず、また反応物が溶解しにくくなる虞がある。一方、前記還元反応に用いる溶媒使用量の上限は、特に制限されないが、反応基質の濃度が0.01mol/L以上となるように調整することが好ましく、より好ましい濃度は0.02mol/L以上、さらに好ましい濃度は0.03mol/L以上である。反応基質の濃度が前記範囲より低い場合、すなわち溶媒の使用量が前記範囲より多いと、反応速度が低下する傾向があり、また溶媒を留去することにより還元反応後の反応液から還元生成物を回収しようとする際に生産性が低下する傾向がある。
【0020】
前記還元は、反応基質(ケイ素−ハロゲン結合を有する化合物)を還元剤(水素化アルコキシアルミニウムアルカリ金属塩)と接触させることにより行うことができる。反応基質と還元剤との接触に際しては、溶媒の存在下で接触させることが好ましい。溶媒の存在下で反応基質と還元剤とを接触させるには、例えば、1)反応基質と還元剤の一方を溶媒中に溶解または分散させて溶液または分散液としておき、他方と混合(他方を溶液または分散液に加えるか、他方に溶液または分散液を加えるか)する、2)両方をそれぞれ溶媒中に溶解または分散させて溶液または分散液としておいた後に、両者を混合する、3)溶媒中に反応基質と還元剤を同時にもしくは順次加える、などの混合手順を採用すればよい。これらの中で特に好ましいのは上記2)の態様である。
【0021】
また反応基質と還元剤との接触に際しては、還元を行う反応系内に反応基質および還元剤の少なくともいずれか一方(すなわち一方または両方)を滴下することが好ましい。このように反応基質および還元剤の一方または両方を滴下することにより、還元反応で生じる発熱を滴下速度等でコントロールすることができるので、例えばコンデンサ等の小型化が可能になるなど、生産性の向上に繋がる効果が得られる。一方を滴下する場合、反応系内(反応器)には他方を溶媒とともに或いは単独(溶媒なし)で仕込んでおけばよい。両方を滴下する場合には、反応系内(反応器)に予め溶媒のみを仕込んでおいてもよいし、あるいは空の反応器に反応基質と還元剤を同時または順次滴下するようにしてもよい。いずれの場合も、滴下に供する側(反応基質および/または還元剤)は、溶媒中に溶解または分散させて溶液または分散液として滴下することが好ましい。
【0022】
反応基質と還元剤の一方または両方を滴下する場合の好ましい態様としては、以下の3つの態様がある。すなわち、A)反容器内に反応基質の溶液または分散液を仕込んでおき、これに還元剤の溶液または分散液を滴下する態様、B)反応器内に還元剤の溶液または分散液を仕込んでおき、これに反応基質の溶液または分散液を滴下する態様、C)反応器内に反応基質の溶液または分散液と還元剤の溶液または分散液とを同時または順次滴下する態様、である。これらの中でもA)の態様が好ましい。
【0023】
反応基質と還元剤の一方または両方を前記A)〜C)の態様で滴下する場合、反応基質を溶質とする溶液または分散液中の溶質濃度は、0.01mol/L以上が好ましく、より好ましくは0.02mol/L以上、さらに好ましくは0.04mol/L以上、特に好ましくは0.05mol/L以上である。溶質濃度が低すぎると、生産性が低下する傾向がある。一方、反応基質を溶質とする溶液または分散液中の溶質濃度の上限は5mol/L以下が好ましく、より好ましくは4mol/L以下、さらに好ましくは3mol/L以下である。溶質濃度(特に滴下に供する溶液または分散液の溶質濃度)が高すぎると、還元反応における発熱のコントロールがしにくくなる傾向がある。
また反応基質を溶質とする溶液または分散液と、還元剤を溶質とする溶液または分散液とは、溶媒量がほぼ同量となるように各溶液または分散液の溶質濃度を設定することが好ましい。
【0024】
還元の際の反応温度は、反応基質や還元剤の種類に応じて適宜設定すればよく、通常−20℃〜150℃、好ましくは−10℃以上、より好ましくは0℃以上、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。反応時間は、反応の進行の程度に応じて適宜決定すればよいが、通常10分以上72時間以下、好ましくは30分以上48時間以下、より好ましくは1時間以上24時間以下である。
なお、還元反応は、通常、例えば窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。
【0025】
還元反応で生じた還元生成物(ケイ素−水素結合を有する化合物)は、その特性や物性に応じ公知の単離手段を適宜採用して、還元反応後の反応液から単離することができる。例えば、目的とする還元生成物が適用な有機溶媒で抽出できる場合には、抽出し、抽出液から有機溶媒を留去することにより目的物を得ることができる。
【0026】
本発明の好ましい態様においては、還元により、反応基質(ケイ素−ハロゲン結合を有する化合物)のケイ素−ハロゲン結合がケイ素−水素結合になる。このとき、反応基質に複数のケイ素−ハロゲン結合が存在する場合には、全てのケイ素−ハロゲン結合が還元されてもよいし、一部のケイ素−ハロゲン結合のみが還元されることもある。なお、本発明における還元反応では、ケイ素原子に結合したハロゲン原子以外の部分が水素等に還元されていてもよい。
【0027】
以上のような本発明の製造方法によれば、均一な反応系で還元反応を行うことができるので、高効率かつ高収率で水素化ケイ素化合物を製造できる。例えば、本発明の製造方法で得られたケイ素化合物の収率は、通常80%以上、好ましくは83%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。なお、本発明において、収率は、例えばNMRやガスクロマトグラフィー(GC)分析など通常の分析で把握すればよい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0029】
なお、実施例における全ての反応は、不活性ガス(窒素またはアルゴン)雰囲気下において実施した。また実施例における反応で用いた溶媒は、水および酸素を取り除いてから使用した。
【0030】
また、各実施例で得られた生成物の分析は以下の方法で行った。
<NMR>
生成物を脱水処理した重ベンゼン(C66)または重クロロホルム(CDCl3)に溶解させ、1H−NMRおよび13C−NMRについてはバリアン社製核磁気共鳴装置を用い、29Si−NMRについてはブルカー社製核磁気共鳴装置を用いて測定した。
<ガスクロマトグラフィー(GC)>
生成物を適当な溶媒に希釈し、この希釈溶液0.2μLを島津製作所製ガスクロマトグラフ「GC−2014」に導入して分析した。検出器としてはFIDを用い、分析用カラムとしてはアジレント・テクノロジー社製「DB−1ms」を用い、キャリアガスとしては窒素ガスを使用した。また、検出器温度は300℃とし、カラム温度は50℃で5分間保持後、20℃/分の昇温速度で250℃まで昇温し、次いで10℃/分の昇温速度で300℃まで昇温し、300℃で10分間保持する条件で行なった。
【0031】
(実施例1)
温度計、コンデンサー、滴下ロートおよび攪拌装置を備えた100mL二つ口フラスコに、ジフェニルジクロロシラン3.0g(0.012mol)とトルエン30mLとを入れた。フラスコ内の溶液を0℃以下に保持しながら攪拌し、滴下ロートより水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムのトルエン溶液(濃度約3.6mol/L)7mLをゆっくりと滴下した。滴下終了後、徐々に室温へと昇温して4時間攪拌して還元反応を行った。この間、原料および生成物は反応液に溶解しており、反応系は均一であった。その後、反応混合物を加水分解した後、シクロペンチルメチルエーテルで抽出し、抽出液を減圧下で濃縮して、無色液体を得た。得られた無色液体について、ガスクロマトグラフィー(GC)、1H−NMR、13C−NMRおよび29Si−NMRにより分析したところ、ジフェニルシランの生成が確認できた。また1H−NMR測定時に内部標準物質を添加し反応収率を算出したところ、ジフェニルシランの収率は83%であった。
【0032】
(実施例2)
温度計、コンデンサー、滴下ロートおよび攪拌装置を備えた100mL二つ口フラスコに、クロロトリス(トリメチルシリル)シラン2.00g(0.007mol)とトルエン50mLとを入れた。フラスコ内の溶液を0℃以下に保持しながら攪拌し、滴下ロートより水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムのトルエン溶液(濃度約3.6mol/L)2mLをゆっくりと滴下した。滴下終了後、徐々に室温へと昇温して12時間攪拌して還元反応を行った。この間、原料および生成物は反応液に溶解しており、反応系は均一であった。その後、反応混合物を加水分解した後、シクロペンチルメチルエーテルで抽出し、抽出液を減圧下で濃縮して、無色液体を得た。得られた無色液体について、ガスクロマトグラフィー(GC)、1H−NMR、13C−NMRおよび29Si−NMRにより分析したところ、トリス(トリメチルシリル)シランの生成が確認できた。また1H−NMR測定時に内部標準物質を添加し反応収率を算出したところ、トリス(トリメチルシリル)シランの収率は80%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素−ハロゲン結合を有する化合物を水素化アルコキシアルミニウムアルカリ金属塩を用いて還元することを特徴とするケイ素化合物の製造方法。
【請求項2】
前記還元は炭化水素系溶媒中で行う請求項1に記載のケイ素化合物の製造方法。
【請求項3】
前記ケイ素−ハロゲン結合を有する化合物は、1つのケイ素原子に少なくとも1個のハロゲン原子と別のケイ素原子とが結合してなる構造を有する請求項1又は2に記載のケイ素化合物の製造方法。
【請求項4】
前記還元により前記ケイ素−ハロゲン結合をケイ素−水素結合にする請求項1〜3のいずれかに記載のケイ素化合物の製造方法。

【公開番号】特開2013−87114(P2013−87114A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231799(P2011−231799)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】