説明

ケイ素化合物

【課題】本発明の目的はリビングラジカル重合開始基を有するシランカップリング剤を開発することであり、これで処理することにより固体表面と付加重合性単量体との親和性を高め、極性の低いものから極性の高いものまでの様々なモノマーに対して高度に制御された表面開始グラフト重合を可能にする。
【解決手段】上記の目的は式(1)で示されるケイ素化合物によって達成される。式(1)において、Aはα―ハロエステル基を有する基であり;Zは炭素数2〜300のアルキレンであり;このアルキレンにおいて、炭素数が5であるとき1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、そして炭素数が5を超えるとき隣り合わない任意の−CH−が−O−で置き換えられており;そしてXはハロゲンである。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加重合性モノマーに対して重合開始能を有することを特徴とする新規なケイ素化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
固体表面へのグラフト重合は、重合させる付加重合性モノマーの種類を変えることにより、多様な表面特性を付与することが可能であることから、これまでにも広く採用されてきた表面改質法の一つである。しかしながら、無機固体表面へのグラフト重合には、均一な表面修飾を目的として表面グラフト密度をコントロールすることや、グラフト鎖の一次構造(分子量、分子量分布、モノマー配列様式など)を厳密に制御することが困難であるという問題点がある。
【0003】
先端科学技術が発展する中で、固体表面へのグラフト重合の分野においても、高分子材料を精密な設計のもとに製造し、新しい機能性高分子表面を創成することの重要性が増してきている。このような、表面の特性を任意に制御するためには、構造の明確な重合体をグラフトさせることが極めて重要である。そうでなければ、表面グラフト重合体の分子構造と表面特性との性質を精密に解析することが困難であり、目的に合わせた表面改質を達成することができない。
【0004】
この様な背景から、リビングラジカル重合開始基を有するシランカップリング剤(以下LRP−SCAと称することがある。)を用いて、無機固体表面へのシランカップリング剤処理を行った後、この重合開始基を起点として付加重合性モノマーのリビングラジカル重合を行うといった、いわゆる表面開始グラフト重合法により、上記問題点に解決を与える試みが行われている(非特許文献1〜5)。リビングラジカル重合においては汎用性の付加重合性モノマーを適用できることを考慮すると、このグラフト重合法に用いられる付加重合性モノマーの種類を変化させることで、様々な無機固体表面への新たな特性を付与することも可能となる。
【非特許文献1】Macromolecules, 1998, 31(17), p.5934 - 5936
【非特許文献2】Macromolecules, 1999, 32(5), p.1424 - 1431
【非特許文献3】Macromolecules; 1999, 32(5), p.1694 - 1696
【非特許文献4】J. Am. Chem. Soc., 1999, 121(14), p.3557 - 3558
【非特許文献5】Macromolecules, 1999, 32(26), p.8716 - 8724
【0005】
このような優れた方法を工業レベルにおいて適用する場合、LRP−SCAそのものの極性制御が重要となってくる。これまでの研究では、合成の簡便性から極性の低いLRP−SCAが中心であったが、このようなLRP−SCAを用いて処理した微粒子を用い、極性の高い雰囲気下(例えば水中など)で重合を行った場合、微粒子同士の凝集が起こってしまい、高度に制御された表面開始グラフト重合が困難となってくる。この様な媒体中での微粒子の分散性は、LRP−SCAで処理された微粒子表面とモノマーとの親和性に強く依存しており、この概念に基づくLRP−SCAの分子設計を行うことが極めて重要であると考えられる。即ち、LRP−SCA処理された無機固体表面と付加重合性モノマーとの親和性を高めることにより、極性の低いものから極性の高いものまでの様々なモノマーに対して高度に制御された表面開始グラフト重合をさせることができる。従って、汎用モノマーに適用できるというリビングラジカル重合の利点を更に拡大することが可能となる。この様に、リビングラジカル重合法を用いた、無機固体表面への表面開始グラフト重合は多くの研究者によって行われてきたが、LRP−SCAの極性制御に対する最適化については例が無かった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、リビングラジカル重合開始能を有する新規なケイ素化合物を提供することによって、付加重合性モノマーと無機固体表面との親和性を改善し、従来の表面開始グラフト重合法に関する上記の問題点を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、α−ハロエステル基を官能基として有する、付加重合性モノマーと無機表面固体との親和性が改善される新規なケイ素化合物を見いだした。即ち、本発明は下記の構成を有する。
[1] 式(1)で示されるケイ素化合物:


ここに、Aはα―ハロエステル基を有する基であり;Zは炭素数2〜300のアルキレンであり;このアルキレンにおいて、炭素数が5であるとき1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、そして炭素数が5を超えるとき隣り合わない任意の−CH−が−O−で置き換えられており;そしてXはハロゲンである。
【0008】
[2] 式(2)で示されるケイ素化合物:


ここに、Xはハロゲンであり;RおよびRは、独立して水素、炭素数1〜20のアルキル、炭素数6〜20のアリールまたは炭素数7〜20のアリールアルキルであるが、共に水素であることはなく;Zは炭素数3〜5のアルキレン、または少なくとも1つのエーテル結合と複数のアルキレンとで構成される炭素数4〜300の脂肪族基であり;そしてXはハロゲンである。
【0009】
[3] 式(2−1)で示されるケイ素化合物:


ここに、Xは臭素または塩素であり;RおよびRは、独立して水素、メチルまたはエチルであるが、共に水素であることはなく;Zは−C−、−C−、−C10−、−(CO)−C−、−(CO)−C−、−(CO)−(CO)−C−、または−(CO)−(CO)−C−であり、そしてこれらの式において、h、k、mおよびnは独立して1〜100であって、m+nは2〜100である。
【0010】
[4] Xが臭素または塩素であり;RおよびRが共にメチルであり;そしてZが−C−である、[3]項に記載のケイ素化合物。
【0011】
[5] Xが臭素または塩素であり;RおよびRが共にメチルであり;そしてZが−(CO)−C−であって、hが1〜40である、[3]項に記載のケイ素化合物。
【0012】
[6] Xが臭素または塩素であり;RおよびRが共にメチルであり;そしてZが−(CO)−C−である、[3]項に記載のケイ素化合物。
【0013】
[7] Xが臭素または塩素であり;RおよびRが共にメチルであり;そしてZが−(CO)−C−であって、kが1〜30である、[3]項に記載のケイ素化合物。
【0014】
[8]Xが臭素または塩素であり;RおよびRが共にメチルであり;そしてZが−(CO)−(CO)−C−であって、mおよびnは独立して1〜30であり;このときmとnの合計が2〜30であって、m/nが1/29〜29/1である、[3]項に記載のケイ素化合物。
【0015】
[9] 工程(a)についで工程(b)を実施することを特徴とする、式(2−1)で示されるケイ素化合物の製造方法:


ここに、Xは臭素または塩素であり;RおよびRは、独立して水素、メチルまたはエチルであるが、共に水素であることはなく;Zは−C−、−C−、−C10−、−(CO)−C−、−(CO)−C−、−(CO)−(CO)−C−、または−(CO)−(CO)−C−であり、そしてこれらの式において、h、k、mおよびnは独立して1〜100であって、m+nは2〜100である:
<工程(a)>
式(3)で示される化合物に、式(4)で示される化合物を反応させることにより、式(5)で示される化合物を得る工程:


ここに、Zは単結合、−CH−、−C−、−(CO)−、−(CO)−、−(CO)−(CO)−、または−(CO)−(CO)−であり、そしてこれらの式において、h、k、mおよびnは独立して1〜100であって、m+nは2〜100であり;X、RおよびRは式(2−1)におけるこれらの記号と同じ意味を有し;そして、Xはハロゲンである。
<工程(b)>
遷移金属触媒の存在下で、式(5)で示される化合物と、式(6)で示される化合物とを反応させることにより、式(2−1)で示される化合物を得る工程:


【0016】
[10] Xが臭素または塩素であり;RおよびRが共にメチルであり;Zが−C−または−CO−C−であり;そしてZが単結合または−CO−である、[9]項に記載の製造方法。
【0017】
[11] シランカップリング剤としての式(2−1)で示されるケイ素化合物の使用:


ここに、Xは臭素または塩素であり;RおよびRは、独立して水素、メチルまたはエチルであるが、共に水素であることはなく;Zは−C−、−C−、−C10−、−(CO)−C−、−(CO)−C−、−(CO)−(CO)−C−、または−(CO)−(CO)−C−であり、そしてこれらの式において、h、k、mおよびnは独立して1〜100であって、m+nは2〜100である。
【0018】
[12] 固体を処理してその表面に付加重合性モノマーをリビング重合させる開始点を設けるための、式(2−1)で示されるケイ素化合物の使用:


ここに、Xは臭素または塩素であり;RおよびRは、独立して水素、メチルまたはエチルであるが、共に水素であることはなく;Zは−C−、−C−、−C10−、−(CO)−C−、−(CO)−C−、−(CO)−(CO)−C−、または−(CO)−(CO)−C−であり、そしてこれらの式において、h、k、mおよびnは独立して1〜100であって、m+nは2〜100である。
【発明の効果】
【0019】
本発明が提供するケイ素化合物は、リビングラジカル重合開始能を有する新規なケイ素化合物である。そして、本発明で得られたケイ素化合物を用いて処理することにより、固体表面と付加重合性モノマーとの親和性を高めることができる。従って、極性の低いものから極性の高いものまでの様々なモノマーに対して高度に制御された表面開始グラフト重合をさせることができるので、汎用モノマーに適用できるというリビングラジカル重合の利点を更に拡大することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明において、アルキルおよびアルキレンはいずれも直鎖の基であってよいし、分岐された基であってもよい。アルキレン中の任意の−CH−が−O−で置き換えられると定義するとき、Siに直接結合する−CH−が−O−で置き換えられることはなく、エステル基(−CO−O−)に直接結合する−CH−が−O−で置き換えられることもない。以下の説明では、式(1)で示される化合物を化合物(1)と表記することがある。他の式で表される化合物についても、同様の簡略化法によって表記することがある。
【0021】
本発明のケイ素化合物は式(1)で示される。


式(1)において、Xはハロゲンであり、その好ましい例は塩素および臭素である。Zは炭素数2〜300のアルキレンである。このアルキレンは、炭素数が5であるときは1つの−CH−が−O−で置き換えられてもよい基であり、そして炭素数が5を超えるときは隣り合わない任意の−CH−が−O−で置き換えられている基である。
【0022】
式(1)におけるAはα―ハロエステル基を有する基である。α―ハロエステル基を有する基は、α−ハロカルボニルオキシを末端基として有する基を意味する。このα−ハロカルボニルオキシをラジカル重合の開始基とする重合方法として、原子移動ラジカル重合(Atom transfer radical polymerization)法が知られている。この方法で用いられる重合触媒は、周期律表第8族、9族、10族または11族元素を中心の金属原子とする金属錯体である。この原子移動ラジカル重合において、α−ハロカルボニルオキシを有する基が優れた重合開始能を有することが知られている。この重合がリビング重合的であることもよく知られている。即ち、化合物(1)は、遷移金属錯体の存在下で優れた重合開始能を有し、リビング重合性を維持し続けることができる。そして化合物(1)は、あらゆるラジカル重合性モノマーに対して重合を開始させることが可能であり、特にスチレン系誘導体に対して優れたリビング重合性を発現させることが可能である。
【0023】
本発明のケイ素化合物の好ましい例は、式(2)で示される化合物である。


式(2)におけるXはハロゲンであり、その好ましい例は臭素および塩素である。Xもハロゲンであり、その好ましい例は塩素および臭素である。Xのより好ましい例は塩素である。
【0024】
式(2)におけるRおよびRは、独立して水素、炭素数1〜20のアルキル、炭素数6〜20のアリールまたは炭素数7〜20のアリールアルキルである。しかしながら、RおよびRが共に水素であることはない。アルキルの好ましい例は、炭素数1〜4のアルキルである。アリールの好ましい例はフェニルおよびメチルフェニルである。アリールアルキルの好ましい例はベンジルおよびフェネチルである。そして、RまたはRの好ましい例はメチルおよびエチルである。更に、RおよびRが共にメチルであることが特に好ましい。
【0025】
式(2)におけるZは、炭素数3〜5のアルキレン、または少なくとも1つのエーテル結合と複数のアルキレンとで構成される炭素数4〜300の脂肪族基である。そして、式(2)における−O−Z−の好ましい例は、−O−(CO)−C−、−O−(CO)−C−、−O−(CO)−(CO)−C−、または−O−(CO)−(CO)−C−であり、h、k、mおよびnは独立して1〜100であって、m+nは2〜100である。Zは、重合反応環境、即ち付加重合性モノマーや溶剤の極性に応じて適切に選択される。
【0026】
の具体例を次に示す。


これらの基は、右側の遊離基においてSiと結合する。
【0027】


これらの基は右側の遊離基においてSiと結合する。
【0028】
式(a−1)〜式(a−14)のうち式(a−3)が好ましい。式(b−1)〜式(b−6)のうち式(b−3)〜式(b−6)が好ましい。式(b−3)〜式(b−6)において、h、k、mおよびnは独立して1〜100であって、m+nは2〜100である。hの好ましい範囲は1〜40である。kの好ましい範囲は1〜30である。そして、式(b−5)および式(b−6)において、mおよびnはそれぞれ独立して1〜30であり、このときmとnの合計は2〜30であり、m/nは1/29〜29/1である。
【0029】
本発明のケイ素化合物のより好ましい例は、式(2−1)で示される化合物である。


式(2−1)において、Xは臭素または塩素である。RおよびRは独立して水素、メチルまたはエチルであるが、共に水素であることはない。Zは−C−、−C−、−C10−、−(CO)−C−、−(CO)−C−、−(CO)−(CO)−C−、または−(CO)−(CO)−C−であり、これらの式におけるh、k、mおよびnは独立して1〜100であって、m+nは2〜100である。Zのより好ましい例は、−C−、−CO−C−、平均分子量が200〜1,500の式(b−3)、m/nが1/3または1/1であって、平均分子量が750〜2,000の式(b−5)、および平均分子量が200〜1,500の式(b−4)である。そして、Zの特に好ましい例は−C−および−CO−C−である。
【0030】
次に、本発明のケイ素化合物の製造方法について説明する。本発明のケイ素化合物は、末端に水酸基を有し、もう一方の端に付加重合性二重結合を有する化合物に、α位の炭素にハロゲンが結合している酸ハロゲン化物を反応させ、得られた化合物とトリハロゲン化シランとをヒドロシリル化反応させることによって得られる。化合物(2−1)の製造法について具体的に説明する。


この式における記号の意味は前記の通りである。
【0031】
化合物(2−1)は、次に示す工程(a)と工程(b)を順次実施することによって得られる。
<工程(a)>
化合物(3)に化合物(4)を反応させることにより、化合物(5)が得られる。


これらの式におけるZは単結合、−CH−、−C−、−(CO)−、−(CO)−、−(CO)−(CO)−、または−(CO)−(CO)−である。これらの式におけるh、k、mおよびnは独立して1〜100であって、m+nは2〜100である。X、RおよびRは式(2−1)におけるこれらの記号と同じ意味を有する。Xはハロゲンである。ハロゲンの好ましい例は塩素、臭素およびヨウ素であり、より好ましい例は塩素および臭素である。そして、Xの最も好ましい例は塩素である。
【0032】
工程(a)において、化合物(3)は、化合物(4)と容易に反応し、化合物(5)となる。反応に際して副生するハロゲン化水素は、脱水や二重結合部位への付加等の副反応を誘発するので、これを除去するために有機塩基を共存させて反応を行う。有機塩基の例は、ピリジン、ジメチルアニリン、トリエチルアミンおよびテトラメチル尿素である。副反応を抑制し、反応を速やかに進行させることができれば、他の有機塩基でもよい。そして、有機塩基の最も好ましい例はトリエチルアミンである。この反応は定量的に進行する求核置換反応であるが、化合物(4)の使用量は化合物(3)に対する当量比で1〜10であることが好ましい。化合物(4)の使用量を多くすることで、全ての化合物(3)を反応させることが可能であるし、反応時間を短くすることもできる。
【0033】
この反応は通常、アルゴンガスや窒素ガスのような不活性気体雰囲気中で、原料に対して不活性な乾燥した有機溶剤を用いて行う。有機溶剤の例は、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環式エーテル類、トルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素類、メチレンクロライド、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類、四塩化炭素などである。そして、有機溶剤の好ましい例はメチレンクロライドである。反応温度には特に制限はない。しかしながら、この反応は発熱を伴いながら激しく進行するため、通常は低温条件下で行う方がよい。好ましい反応温度は100℃以下であり、最も好ましい反応温度は35℃以下である。実際には、変則的な反応温度調節下で反応させてもよい。例えば、初期においては、ドライアイス−メタノール浴または氷浴を用いて反応系を冷却してから反応させ、その後室温付近まで昇温させて引き続き反応を行う方法である。反応時間には特に制限は無い。通常、1〜10時間で目的とする化合物(5)を得ることができる。
【0034】
未反応の原料化合物や副生する塩の除去は、水洗やろ過による脱塩が好適である。さらに未反応の原料化合物や溶剤を除去するために、蒸留法を採用することができるが、長時間高温条件下に保持されることによって、化合物(5)が分解される恐れがある。従って、化合物(5)の純度を損ねることなく、未反応の原料化合物や溶剤などの不純物を効率的に除去するためには、減圧下での蒸留が好ましい。化合物(5)が高沸点であるため蒸留法が適用できない様な場合は、未反応の原料化合物や溶剤を減圧留去した後、そのまま工程(b)に用いることもできる。更に精製するには、カラムクロマトグラフ法も好適である。その際に使用する好ましい吸着剤は、シリカゲルなどである。好ましい展開溶剤は、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、クロロホルム、酢酸エチル、アセトンなどである。なお溶剤の混合比率は、特に制限はないが、展開溶剤に対する目的物の移動率(Rf値)が0.1〜0.7の範囲となるように調整すればよい。
【0035】
<工程(b)>
工程(a)で得られた化合物(5)と下記の化合物(6)とを遷移金属触媒の存在下でヒドロシリル化反応させることにより、化合物(2−1)が得られる。


【0036】
ヒドロシリル化反応に用いられる遷移金属触媒の例は、白金、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、パラジウム、モリブデン、鉄、コバルト、ニッケル、マンガンなどの金属を用いる触媒である。これらの中で、白金触媒がより好ましい。これらの触媒は、溶剤に溶解させた均一系触媒、またはカーボンもしくはシリカなどに担持させた固体触媒として使用することができる。ホスフィン、アミン、酢酸カリウムなどを共存させた形態で使用してもよい。遷移金属触媒の好ましい使用量は、化合物(6)中のSi−H基1モルに対して、遷移金属触媒原子として1×10−6〜1×10−2モルである。
【0037】
化合物(5)の使用量は、化合物(6)のSi−H基に対する当量比で0.1〜5倍であることが好ましい。ヒドロシリル化反応はほぼ定量的に進む反応であるから、この当量比を大きく変化させる意味はあまりない。しかしながら、未反応化合物として残留する化合物(5)あるいは化合物(6)と目的生成物である化合物(2−1)との沸点差が大きい化合物の量を多くすれば、未反応化合物として残留する化合物の減圧留去も容易となる。従って、化合物(5)の使用量は、化合物(6)中のSi−H基に対する当量比で、0.5倍であることが好ましい。そして、化合物(2−1)から未反応の原料化合物や溶剤を分離するためには、長時間高温条件下に保持されることによって化合物(2−1)が分解されるのを防ぐために減圧蒸留を採用することが好ましい。ただ、化合物(2−1)が高沸点であり、蒸留法が適用できない様な場合は、未反応の原料化合物、たとえば化合物(5)または化合物(6)および溶剤を減圧留去させるだけでもよい。
【0038】
本発明のケイ素化合物は、各種表面へのシランカップリング剤処理に用いることができる。本発明により得られたケイ素化合物をそのままカップリング剤として用いてもよいし、これをアルコーリシスによってトリアルコキシシラン(メトシキ、エトキシ、イソプロポキシなど)へ変換して用いることもできる。
【0039】
本発明のケイ素化合物は、無機微粒子、金属シリコン(シリコンウエーハなど)、マイカ、ステンレススチール、アルミニウム、セラミックス、セメント、紙、ガラス、プラスチック、無機窯業系基板、布帛などの表面に対するシランカップリング剤処理に用いることができる。無機微粒子の例は、SiO、Al、MgO、MgCl、ZrO、TiO、B、CaO、ZnO、BaO、V、Cr、およびThOであり、これらを含む混合物であってもよい。これらの原子の複合酸化物、例えばSiO−MgO、SiO−Al、SiO−TiO、SiO−V、SiO−Cr、SiO−TiO−MgOなどであってもよい。さらに、公知の磁性体、例えば、鉄、コバルト、ニッケル等の金属およびこれらの合金、Fe、γ−Fe、コバルト添加酸化鉄等の金属酸化物、Mn・Znフェライト、Ni・Znフェライト等のフェライト、マグネタイト、ヘマタイトなども無機微粒子として使用することができる。なお、本発明のケイ素化合物をシランカップリング剤として用いる対象は、これらの例に限定されない。
【0040】
本発明のケイ素化合物を用いて処理した固体表面は、付加重合性モノマーの開始剤にすることができる。例えば、本発明のケイ素化合物を用いて処理した無機微粒子から付加重合性モノマーを重合することにより、構造の明確な重合体が表面に高密度にグラフトされた無機微粒子を得ることが出来る。この高分子グラフト鎖層が表面に配設された無機微粒子は、そのグラフト鎖層を介して2次元または3次元に配列させることができる。従って、この微粒子の秩序構造体を形成させることが可能である。さらに高分子グラフト鎖の分子量を変化させることにより、微粒子間距離を制御することも可能であり、秩序構造体における無機微粒子の配列制御も可能である。また、この方法によって得られた無機微粒子は、高分子グラフト鎖が微粒子表面とシロキサン結合によって強固に固定化されているため、高分子グラフト鎖の無機表面からの脱離が著しく抑制されるといった利点もさらに有する。無機微粒子以外の表面、例えばシリコンウエハやガラスなどに本発明のケイ素化合物を処理することで、構造の明確な重合体が高密度に表面グラフトされたシリコンウエハやガラスを得ることが出来る。この方法により、シリコンウエハやガラスとは全く異なる表面特性、たとえば屈折率、誘電率、表面自由エネルギーなどの特性を付与することが可能である。また本発明のケイ素化合物を、マイクロパターンプリンティングといった方法によって、シリコンウエハやガラス表面へ転写させ、その後、付加重合性モノマーを重合することにより、構造の明確な重合体がパターニングされた表面構造を形成させることも可能である。この方法は、従来のレジスト材料とは全く異なるプロセスにより高分子のパターニングさせる方法であり、半導体分野において活発な研究が進められており、当該分野への本発明のケイ素化合物の適用も可能である。
【0041】
本発明のケイ素化合物は、リビングラジカル重合開始基を有することから、そのまま開始剤として用いてもよい。このときは、末端にシラン化合物が結合した重合体を得ることができるし、これを高分子カップリング剤として利用することもできる。
【0042】
次に、本発明のケイ素化合物またはこれを用いて処理した固体表面を開始剤として重合させることができる付加重合性モノマーについて説明する。この付加重合性モノマーは、付加重合性の二重結合を少なくとも1つ有するモノマーである。付加重合性の二重結合を1つ有する単官能のモノマーの例の1つは、(メタ)アクリル酸系モノマーである。この具体例は(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、トルイル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、3−エチル−3−(メタ)アクリロイルオキシメチルオキセタン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリレート−2−アミノエチル、2−(2−ブロモプロピオニルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2−(2−ブロモイソブチリルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、1−(メタ)アクリロキシ−2−フェニル−2−(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ)エタン、(1−(4−((4−(メタ)アクリロキシ)エトキシエチル)フェニルエトキシ)ピペリジン、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、3−(3,5,7,9,11,13,15−ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン−1−イル)プロピル(メタ)アクリレート、3−(3,5,7,9,11,13,15−ヘプタイソブチル−ペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン−1−イル)プロピル(メタ)アクリレート、3−(3,5,7,9,11,13,15−ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン−1−イル)プロピル(メタ)アクリレート、3−(3,5,7,9,11,13,15−ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン−1−イル)プロピル(メタ)アクリレート、3−(3,5,7,9,11,13,15−ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン−1−イル)プロピル(メタ)アクリレート、3−[(3,5,7,9,11,13,15−ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン−1−イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、3−[(3,5,7,9,11,13,15−ヘプタイソブチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン−1−イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、3−[(3,5,7,9,11,13,15−ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン−1−イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、3−[(3,5,7,9,11,13,15−ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン−1−イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、3−[(3,5,7,9,11,13,15−ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン−1−イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、トリフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート、2−トリフルオロメチルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロエチルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロメチル(メタ)アクリレート、ジパーフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロデシルエチル(メタ)アクリレート、および2−パーフルオロヘキサデシルエチル(メタ)アクリレートである。
【0043】
単官能のモノマーのもう1つの例はスチレン系モノマーである。その具体例は、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、p−クロルスチレン、p−クロロメチルスチレン、m−クロロメチルスチレン、o−アミノスチレン、p−スチレンクロロスルホン酸、スチレンスルホン酸およびその塩、ビニルフェニルメチルジチオカルバメート、2−(2−ブロモプロピオニルオキシ)スチレン、2−(2−ブロモイソブチリルオキシ)スチレン、1−(2-((4−エテニルフェニル)メトキシ)−1−フェニルエトキシ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(4−ビニルフェニル)−3,5,7,9,11,13,15−ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、1−(4−ビニルフェニル)−3,5,7,9,11,13,15−ヘプタイソブチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、1−(4−ビニルフェニル)−3,5,7,9,11,13,15−ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、1−(4−ビニルフェニル)−3,5,7,9,11,13,15−ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、1−(4−ビニルフェニル)−3,5,7,9,11,13,15−ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、3−(3,5,7,9,11,13,15−ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン−1−イル)エチルスチレン、3−(3,5,7,9,11,13,15−ヘプタイソブチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン−1−イル)エチルスチレン、3−(3,5,7,9,11,13,15−ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン−1−イル)エチルスチレン、3−(3,5,7,9,11,13,15−ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン−1−イル)エチルスチレン、3−(3,5,7,9,11,13,15−ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン−1−イル)エチルスチレン、3−((3,5,7,9,11,13,15−ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン−1−イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン、3−((3,5,7,9,11,13,15−ヘプタイソブチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン−1−イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン、3−((3,5,7,9,11,13,15−ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン−1−イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン、3−((3,5,7,9,11,13,15−ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン−1−イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン、並びに3−((3,5,7,9,11,13,15−ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン−1−イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレンである。
【0044】
その他の単官能性モノマーの例は、フッ素含有ビニルモノマー(パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデンなど)、ケイ素含有ビニル系モノマー(ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなど)、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステル、フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステル、マレイミド系モノマー(マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドなど)、ニトリル基含有モノマー(アクリロニトリル、メタクリロニトリルなど)、アミド基含有モノマー(アクリルアミド、メタクリルアミドなど)、ビニルエステル系モノマー(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニルなど)、オレフィン類(エチレン、プロピレンなど)、共役ジエン系モノマー(ブタジエン、イソプレンなど)、ハロゲン化ビニル(塩化ビニルなど)、ハロゲン化ビニリデン(塩化ビニリデンなど)、ハロゲン化アリル(塩化アリルなど)、アリルアルコール、ビニルピロリドン、ビニルピリジン、N−ビニルカルバゾール、メチルビニルケトン、およびビニルイソシアナートである。重合性二重結合を1分子中に1つ有し、主鎖がスチレン、(メタ)アクリル酸エステル、シロキサンなどから誘導された重合連鎖であるマクロモノマーも単官能性モノマーの例である。
【0045】
付加重合性二重結合を2つ有する多官能モノマーの例は、1,3−ブタンジオール ジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオール ジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオール ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール ジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール ジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール ジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール ジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコール ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコール ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン ジ(メタ)アクリレート、ビス〔(メタ)アクリロイルオキシエトキシ〕ビスフェノールA、ビス〔(メタ)アクリロイルオキシエトキシ〕テトラブロモビスフェノールA、ビス〔(メタ)アクロキシポリエトキシ〕ビスフェノールA、1,3−ビス(ヒドロキシエチル)5,5−ジメチルヒダントイン、3−メチルペンタンジオール ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコール誘導体のジ(メタ)アクリレート、ビス〔(メタ)アクリロイルオキシプロピル〕テトラメチルジシロキサン等のジ(メタ)アクリレート系モノマー、およびジビニルベンゼンである。さらに、分子中に重合性二重結合を2つ有し、主鎖がスチレン、(メタ)アクリル酸エステル、シロキサンなどから誘導されたマクロモノマーもあげられる。
【0046】
付加重合性二重結合を3つ以上有する多官能モノマーの例は、トリメチロールプロパン トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール テトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール モノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチルイソシアネート) トリ(メタ)アクリレート、トリス(ジエチレングリコール)トリメレート トリ(メタ)アクリレート、3,7,14−トリス[(((メタ)アクリロイルオキシプロピル)ジメチルシロキシ)]−1,3,5,7,9,11,14−ヘプタエチルトリシクロ[7.3.3.15,11]ヘプタシロキサン、3,7,14−トリス[(((メタ)アクリロイルオキシプロピル)ジメチルシロキシ)]−1,3,5,7,9,11,14−ヘプタイソブチルトリシクロ[7.3.3.15,11]ヘプタシロキサン、3,7,14−トリス[(((メタ)アクリロイルオキシプロピル)ジメチルシロキシ)]−1,3,5,7,9,11,14−ヘプタイソオクチルトリシクロ[7.3.3.15,11]ヘプタシロキサン、3,7,14−トリス[(((メタ)アクリロイルオキシプロピル)ジメチルシロキシ)]−1,3,5,7,9,11,14−ヘプタシクロペンチルトリシクロ[7.3.3.15,11]ヘプタシロキサン、3,7,14−トリス[(((メタ)アクリロイルオキシプロピル)ジメチルシロキシ)]−1,3,5,7,9,11,14−ヘプタフェニルトリシクロ[7.3.3.15,11]ヘプタシロキサン、オクタキス(3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメチルシロキシ)オクタシルセスキオキサン、およびオクタキス(3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)オクタシルセスキオキサンである。更に、分子中に重合性二重結合を2個以上を有し、主鎖がスチレン、(メタ)アクリル酸エステル、シロキサンなどから誘導されたマクロモノマーも挙げられる。
【0047】
これらのモノマーは単独で用いてもよいし、複数を共重合させてもよい。共重合させる際にはランダム共重合でも、ブロック共重合でもよい。なお、上記の「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸およびメタクリル酸の総称であり、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートの総称であり、「(メタ)アクリロイルオキシ」は、アクリロイルオキシおよびメタアクリロイルオキシの総称である。
【0048】
次に、本発明のケイ素化合物を開始剤またはこの化合物で処理した固体表面を開始点とし、遷移金属錯体を触媒として、付加重合性モノマーを原子移動ラジカル重合させる方法について説明する。本発明における原子移動ラジカル重合法は、リビングラジカル重合法の1つであり、有機ハロゲン化物またはハロゲン化スルフォニル化合物を開始剤として付加重合性モノマーをラジカル重合する方法である。この方法は、J. Am. Chem. Soc., 1995, 117, 5614、Macromolecules, 1995, 28, 7901、Science, 1996, 272, 866などに開示されている。
【0049】
重合触媒として用いられる遷移金属錯体の好ましい例は、周期律表第7族、8族、9族、10族、または11族元素を中心金属とする金属錯体である。更に好ましい触媒は、0価の銅、1価の銅、2価のルテニウム、2価の鉄または2価のニッケル錯体である。なかでも、銅の錯体が好ましい。1価の銅化合物の例は、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、酸化第一銅、および過塩素酸第一銅である。銅化合物を用いる場合には、触媒活性を高めるために、2,2’−ビピリジルもしくはその誘導体、1,10−フェナントロリンもしくはその誘導体、ポリアミン(テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチルトリス(2−アミノエチル)アミンなど)、またはL−(−)−スパルテイン等の多環式アルカロイドが配位子として添加される。2価の塩化ルテニウムのトリストリフェニルホスフィン錯体(RuCl(PPh)も触媒として好適である。ルテニウム化合物を触媒として用いる場合には、活性化剤としてアルミニウムアルコキシド類が添加される。更に、2価の鉄のビストリフェニルホスフィン錯体(FeCl(PPh)、2価のニッケルのビストリフェニルホスフィン錯体(NiCl(PPh)、2価のニッケルのビストリブチルホスフィン錯体(NiBr(PBu)なども、触媒として好適である。
実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【実施例1】
【0050】
<2−ブロモ−2−メチル−プロピオン酸−3−トリクロロシラニル−プロピルエステルの合成>


第1段:2−ブロモ−2−メチル−プロピオン酸アリルエステルの合成
Ar雰囲気下、還流冷却器、温度計、滴下漏斗を取り付けた500ml−4つ口フラスコに、2−プロペン−1−オール(10.7g)、メチレンクロライド(240g)およびトリエチルアミン(21.7g)を仕込み、溶液をドライアイス−メタノール浴を用いて冷却し、液温を約−55℃に保持した。次いで、この溶液に2−ブロモ−2−メチルプロピオニルブロマイド(40.6g、2−プロペン−1−オールに対して0.96当量)を速やかに加え、−37℃にて1時間撹拌した後、室温で更に4時間撹拌した。反応終了後、トリエチルアミン−HBr塩を濾過により除去した。得られた反応液にメチレンクロライド(20ml)を加え、炭酸水素ナトリウム水溶液(3重量%、400ml)による3回の洗浄、水(400ml)による2回の洗浄を順次行ってから、無水硫酸マグネシウム(15g)にて乾燥した。その後、ロータリーエバポレータを用い、この溶液を濃縮した。得られた液体成分を減圧蒸留(74℃、520Pa)して、透明な液体を得た(29.6g、収率:81%)。
得られた液体のガスクロマトグラフィー分析を行った結果、単一ピークを確認し、不純物等の存在はほとんど確認されなかった。下記に示すIR、H−NMRおよび13C−NMRの結果から、得られた透明な液体が式(12)で示される構造を有することがわかった。なお、実施例中のNMRデータにおける下線は、そのデータが下線が付されている原子に基づくケミカルシフトであることを示す。
GC純度:99.7%
IR (KBr法):ν=3010(H2C=C-), 2980(-CH3), 2936(-CH2-), 1738(C=O), 1651(C=C-), 1464(-CH2-), 1390(-CH3), 1373(-CH3), 1276(C-O-C), 1164(C-O-C), 640(C-Br).
1H NMR (400MHz, TMS標準:δ=0.0 ppm): 5.94(tt, 1H, CH2=CH-CH2-), 5.39(dd, 1H, CH2=CH-CH2-), 5.33(dd, 1H, CH2=CH-CH2-), 4.67(d, 2H, CH2=CH-CH2-), 1.95(s, 6H, -C(CH3)2).
13C NMR (100MHz, TMS標準:δ=0.0 ppm): 171.2(C=O), 131.4(C=C-CH2-), 118.5(C=C-CH2-), 66.4(C=C-CH2-), 55.7(-C(Br)), 30.8(-C(CH3)2).


【0051】
第2段:2−ブロモ−2−メチル−プロピオン酸−3−トリクロロシラニル−プロピルエステルの合成
雰囲気下、還流冷却器、温度計、滴下漏斗を取り付けた内容積200mLの4つ口フラスコに、上記の化合物(12)(27.0g)およびトリクロロシラン(TCS,34ml、TCS/化合物(12)モル比=2.6)を仕込み、溶液を氷浴を用いて冷却した。これに、Pt触媒/キシレン溶液(123μl,Pt含有量:3重量%,Pt/(Si−H)モル比=5.6×10−5)を添加し、氷浴温度で約35分攪拌を行った後、室温まで温度を上昇させた。反応は発熱を伴って進行し、ガスクロマトグラフィーにおけるTCS/化合物(12)とのピーク強度比が飽和に達したところで、反応終点とした(約20時間)。その後、真空ポンプを用いて、反応液中に残留する未反応のTCSおよび化合物(12)を減圧留去し、無色透明の液体(42.2g,収率:98.1%)を得た。
得られた透明な液体のガスクロマトグラフィー分析を行った結果、単一ピークを確認し、不純物等の存在はほとんど確認されなかった。下記に示すIR、H−NMRおよび13C−NMRの結果から、得られた透明な液体が式(11)で示される構造を有することがわかった。
GC純度:98.1%
IR (KBr法):ν=2980(-CH3), 2936(-CH2-), 2900(-CH2-), 1738(C=O), 1464(-CH2-), 1392(-CH3), 1373(-CH3), 1282(Si-CH2-), 1164(C-O-C), 1110(C-O-C), 698(C-Br), 590(Si-Cl), 567(Si-Cl).
1H NMR (400MHz, TMS標準:δ=0.0 ppm): 4.24 (t, 2H, -CH2-O-), 2.00 (m, 2H, -CH2-CH2-CH2-), 1.95 (s, 6H, -C(Br)(CH3)2), 1.52 (t, 2H, -CH2-Si).
13C NMR (100MHz, TMS標準:δ=0.0 ppm): 171.7 (C=O), 66.2 (-CH2-O-), 55.6 (-C(Br)), 30.7 ((-CH3)2), 21.7 (Si-CH2-CH2-), 20.7 (Si-CH2-).
【実施例2】
【0052】
<2−ブロモ−2−メチル−プロピオン酸−4−トリクロロシラニル−ブチルエステルの合成>


第1段:2−ブロモ−2−メチル−プロピオン酸−3−ブテニルエステルの合成
実施例1における2−プロペン−1−オールを3−ブテン−1−オールに変更する以外は、実施例1の第1段と同様の操作を行うことにより、式(14)で示される化合物を得ることができる。


【0053】
第2段:2−ブロモ−2−メチル−プロピオン酸−4−トリクロロシラニル−ブチルエステルの合成
化合物(12)を、上記の化合物(14)に変更する以外は、実施例1の第2段と同様の操作を行うことにより、目的の化合物(13)を得ることができる。
【実施例3】
【0054】
<2−ブロモ−2−メチル−プロピオン酸−5−トリクロロシラニル−ペンチルエステルの合成>



第1段:2−ブロモ−2−メチル−プロピオン酸−4−ペンテニルエステルの合成
実施例1における2−プロペン−1−オールを4−ペンテン−1−オールに変更する以外は、実施例1の第1段と同様の操作を行うことにより、式(16)で示される化合物を得ることができる。


【0055】
第2段:2−ブロモ−2−メチル−プロピオン酸−5−トリクロロシラニル−ペンチルエステルの合成
化合物(12)を、上記の化合物(16)に変更する以外は、実施例1の第2段と同様の操作を行うことにより、目的の化合物(15)を得ることができる。
【実施例4】
【0056】
<2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸 2−(3−トリクロロシラニルプロピルオキシ)エチルエステルの合成>


第1段:2−ブロモ−2−メチル−プロピオン酸 2−(アリルオキシ)エチルエステルの合成
Ar雰囲気下、還流冷却器、温度計、滴下漏斗を取り付けた500ml−4つ口フラスコに、2−(アリルオキシ)エタノール(21.0g)、メチレンクロライド(250ml)およびトリエチルアミン(22.5g)を仕込み、溶液をドライアイス−メタノール浴を用いて冷却し、液温を約−37℃に保持した。次いで、この溶液に2−ブロモ−2−メチルプロピオニルブロマイド(41.5g、2−(アリルオキシ)エタノールに対して0.88当量)を速やかに加え、−10℃にて1時間撹拌した後、室温で更に1.5時間撹拌した。反応終了後、トリエチルアミン−HBr塩を濾過により除去した。得られた反応液を炭酸水素ナトリウム水溶液(濃度3重量%、300ml)を用いて3回の洗浄し、さらに水(300ml)で3回洗浄してから、無水硫酸マグネシウム(15g)にて乾燥した。この反応液をシリカゲルカラムを用いて精製した後、ロータリーエバポレータを用いて濃縮して透明な液体を得た(36.7g、収率:85%)。
得られた透明な液体のガスクロマトグラフィー分析を行った結果、単一ピークを確認し、不純物等の存在は殆ど確認されなかった。下記に示すIRおよびH−NMRの結果から、得られた透明な液体が式(18)で示される構造を有することがわかった。
IR (KBr法):ν=3008(H2C=C-), 2980(-CH3), 2936(-CH2-), 2866(-CH2-O-), 1738(C=O), 1649(C=C-), 1464(-CH2-), 1408(-CH3), 1390(-CH3), 1278(C-O-C), 1170(C-O-C), 1110(C-O-C), 646(C-Br).
1H NMR (400MHz, TMS標準:δ=0.0 ppm): 5.90(tt, 1H, CH2=CH-CH2-), 5.31(dd, 1H, CH2=CH-CH2-), 5.27(dd, 1H, CH2=CH-CH2-), 4.33(t, 2H, -O-CH2-CH2-O-C=O), 4.04(d, 2H, CH2=CH-CH2-), 3.70(t, 2H, -O-CH2-CH2-O-C=O), 1.95(s, 6H, -C(CH3)2).


【0057】
第2段:2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸 2−(3−トリクロロシラニルプロピルオキシ)エチルエステルの合成
雰囲気下、還流冷却器、温度計、滴下漏斗を取り付けた100ml−4つ口フラスコに、上記の化合物(18)(24.3g)およびトリクロロシラン(TCS,20ml、TCS/化合物(18)モル比=1.95)を仕込んだ。これに、Pt触媒/キシレン溶液(630μl,Pt含有量:3重量%,Pt/(Si−H)モル比=4.9×10−4)を添加した。反応は発熱を伴って進行し、ガスクロマトグラフィーにおけるTCS/化合物(18)とのピーク強度比が飽和に達したところで、反応終点とした(約4時間)。その後、真空ポンプを用いて、反応液中に残留する未反応のTCSを減圧留去した後、ロータリーエバポレータを用いて、低沸点化合物を減圧溜去し、粘ちょう性液体(434.88g,収率:91.8%)を得た。
得られた透明な液体のガスクロマトグラフィー分析を行った結果、純度:94.0%であった。下記に示すIR、H−NMRおよび13C−NMRの結果から、粘ちょう性液体が式(17)で示される構造を有することがわかった。
IR (KBr法):ν=2938(-CH3), 2878(-CH2-), 1738(C=O), 1464(-CH2-), 1392(-CH3), 1373(-CH3), 1278(Si-CH2-), 1168(C-O-C), 1110(C-O-C), 696(C-Br), 588(Si-Cl), 565(Si-Cl).
1H NMR (400MHz, TMS標準:δ=0.0 ppm): 4.32 (t, 2H, -CH2-O-C=O-), 3.69 (t, 2H, -CH2-O-CH2-CH2-C=O-), 3.55 (t, 2H, -CH2-O-CH2-CH2-C=O-), 1.95 (s, 6H, -C(Br)(CH3)2), 1.85 (m, 2H, -CH2-CH2-CH2-), 1.52 (t, 2H, -CH2-Si).
13C NMR (100MHz, TMS標準:δ=0.0 ppm): 171.4 (C=O), 71.4(-CH2-O-CH2-CH2-C=O-), 68.2 (-CH2-O-C=O-), 64.9(-CH2-O-CH2-CH2-C=O-), 55.5 (-C(Br)), 30.7 ((-CH3)2), 22.6 (Si-CH2-CH2-), 20.9 (Si-CH2-).
【実施例5】
【0058】
<2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸 2−((3−トリクロロシラニルプロピルオキシ)−ポリ(エチレンオキシ))エチルエステルの合成>


第1段:2−ブロモ−2−メチル−プロピオン酸 2−(アリルオキシ−ポリ(エチレンオキシ))エチルエステルの合成>
2−(アリルオキシ)エタノールに替えて式(20−1)で示される化合物を用いること以外は、実施例4の第1段と同様の操作を行うことにより、化合物(20)(平均分子量:350)を得ることができる。


(日本油脂株式会社製、ユニオックスPKA−5001、平均分子量:200)


【0059】
第2段:2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸 2−((3−トリクロロシラニルプロピルオキシ)−ポリ(エチレンオキシ))エチルエステルの合成
化合物(18)に替えて上記の化合物(20)を用いること以外は、実施例4の第2段と同様の操作を行うことにより、化合物(19)(平均分子量:486)を得ることができる。
【実施例6】
【0060】
<2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸 2−((3−トリクロロシラニルプロピルオキシ)−ポリ(エチレンオキシ))エチルエステルの合成>


第1段:2−ブロモ−2−メチル−プロピオン酸 2−(アリルオキシ−ポリ(エチレンオキシ))エチルエステルの合成
2−(アリルオキシ)エタノールに替えて式(22−1)で示される化合物を用いること以外は、実施例4の第1段と同様の操作を行うことにより、化合物(22)(平均分子量:900)を得ることができる。


(日本油脂株式会社製、ユニオックスPKA−5004、平均分子量:750)


【0061】
第2段:2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸 2−((3−トリクロロシラニルプロピルオキシ)−ポリ(エチレンオキシ))エチルエステルの合成
化合物(18)に替えて上記の化合物(22)を用いること以外は、実施例4の第2段と同様の操作を行うことにより、化合物(21)(平均分子量:1,036)を得ることができる。
【実施例7】
【0062】
<2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸 2−((3−トリクロロシラニルプロピルオキシ)−ポリ(エチレンオキシ))エチルエステルの合成>


第1段:2−ブロモ−2−メチル−プロピオン酸 2−(アリルオキシ−ポリ(エチレンオキシ))エチルエステルの合成
2−(アリルオキシ)エタノールに替えて式(24−1)で示される化合物を用いること以外は、実施例4の第1段と同様の操作を行うことにより、化合物(24)(平均分子量:1,650)を得ることができる。


(日本油脂株式会社製、ユニオックスPKA−5005、平均分子量:1,500)


【0063】
第2段:2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸 2−((3−トリクロロシラニルプロピルオキシ)−ポリ(エチレンオキシ))エチルエステルの合成
化合物(18)に替えて上記の化合物(24)を用いること以外は、実施例4の第2段と同様の操作を行うことにより、化合物(23)(平均分子量:1,786)を得ることができる。
【実施例8】
【0064】
<2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸 2−((3−トリクロロシラニルプロピルオキシ)−ポリ(エチレンオキシ)−ポリ(プロピレンオキシ))プロピルエステルの合成>


第1段:2−ブロモ−2−メチル−プロピオン酸 2−((アリルオキシ)−ポリ(エチレンオキシ)−ポリ(プロピレンオキシ))プロピルエステルの合成
2−(アリルオキシ)エタノールに替えて式(26−1)で示される化合物を用いること以外は、実施例4の第1段と同様の操作を行うことにより、化合物(26)(平均分子量:900)を得ることができる。


(日本油脂株式会社製、ユニセーフPKA−5011、平均分子量:750、p4/q1=75/25)


【0065】
第2段:2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸 2−((3−トリクロロシラニルプロピルオキシ)−ポリ(エチレンオキシ)−ポリ(プロピレンオキシ))プロピルエステルの合成
化合物(18)に替えて上記の化合物(26)を用いること以外は、実施例4の第2段と同様の操作を行うことにより、化合物(25)(平均分子量:1,036、p4/q1=75/25)を得ることができる。
【実施例9】
【0066】
<2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸 2−((3−トリクロロシラニルプロピルオキシ)−ポリ(エチレンオキシ)−ポリ(プロピレンオキシ))プロピルエステルの合成>


第1段:2−ブロモ−2−メチル−プロピオン酸 2−((アリルオキシ)−ポリ(エチレンオキシ)−ポリ(プロピレンオキシ))プロピルエステルの合成
2−(アリルオキシ)エタノールに替えて式(28−1)で示される化合物を用いること以外は、実施例4の第1段と同様の操作を行うことにより、化合物(28)(平均分子量:2,150)を得ることができる。


(日本油脂株式会社製、ユニセーフPKA−5013、平均分子量:2,000、p5/q2=50/50)


【0067】
第2段:2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸 2−((3−トリクロロシラニルプロピルオキシ)−ポリ(エチレンオキシ)−ポリ(プロピレンオキシ))プロピルエステルの合成
化合物(18)に替えて上記の化合物(28)を用いること以外は、実施例4の第2段と同様の操作を行うことにより、化合物(27)(平均分子量:2,286、p5/q2=50/50)を得ることができる。
【実施例10】
【0068】
<2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸 2−((3−トリクロロシラニルプロピルオキシ)−ポリ(プロピレンオキシ))プロピルエステルの合成>


第1段:2−ブロモ−2−メチル−プロピオン酸 2−((アリルオキシ)−ポリ(プロピレンオキシ))プロピルエステルの合成
2−(アリルオキシ)エタノールに替えて式(30−1)で示される化合物を用いること以外は、実施例4の第1段と同様の操作を行うことにより、化合物(30)(平均分子量:1,650)を得ることができる。


(日本油脂株式会社製、ユニセーフPKA−5014、平均分子量:1,500)


【0069】
第2段:2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸 2−((3−トリクロロシラニルプロピルオキシ)−ポリ(プロピレンオキシ))プロピルエステルの合成
化合物(18)に替えて上記の化合物(30)を用いること以外は、実施例4の第2段と同様の操作を行うことにより、化合物(29)(平均分子量:1,786)を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示されるケイ素化合物:


ここに、Aはα―ハロエステル基を有する基であり;Zは炭素数2〜300のアルキレンであり;このアルキレンにおいて、炭素数が5であるとき1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、そして炭素数が5を超えるとき隣り合わない任意の−CH−が−O−で置き換えられており;そしてXはハロゲンである。
【請求項2】
式(2)で示されるケイ素化合物:


ここに、Xはハロゲンであり;RおよびRは、独立して水素、炭素数1〜20のアルキル、炭素数6〜20のアリールまたは炭素数7〜20のアリールアルキルであるが、共に水素であることはなく;Zは炭素数3〜5のアルキレン、または少なくとも1つのエーテル結合と複数のアルキレンとで構成される炭素数4〜300の脂肪族基であり;そしてXはハロゲンである。
【請求項3】
式(2−1)で示されるケイ素化合物:


ここに、Xは臭素または塩素であり;RおよびRは、独立して水素、メチルまたはエチルであるが、共に水素であることはなく;Zは−C−、−C−、−C10−、−(CO)−C−、−(CO)−C−、−(CO)−(CO)−C−、または−(CO)−(CO)−C−であり、そしてこれらの式において、h、k、mおよびnは独立して1〜100であって、m+nは2〜100である。
【請求項4】
が臭素または塩素であり;RおよびRが共にメチルであり;そしてZが−C−である、請求項3に記載のケイ素化合物。
【請求項5】
が臭素または塩素であり;RおよびRが共にメチルであり;そしてZが−(CO)−C−であって、hが1〜40である、請求項3に記載のケイ素化合物。
【請求項6】
が臭素または塩素であり;RおよびRが共にメチルであり;そしてZが−(CO)−C−である、請求項3に記載のケイ素化合物。
【請求項7】
が臭素または塩素であり;RおよびRが共にメチルであり;そしてZが−(CO)−C−であって、kが1〜30である、請求項3に記載のケイ素化合物。
【請求項8】
が臭素または塩素であり;RおよびRが共にメチルであり;そしてZが−(CO)−(CO)−C−であって、mおよびnは独立して1〜30であり;このときmとnの合計が2〜30であって、m/nが1/29〜29/1である、請求項3に記載のケイ素化合物。
【請求項9】
工程(a)についで工程(b)を実施することを特徴とする、式(2−1)で示されるケイ素化合物の製造方法:


ここに、Xは臭素または塩素であり;RおよびRは、独立して水素、メチルまたはエチルであるが、共に水素であることはなく;Zは−C−、−C−、−C10−、−(CO)−C−、−(CO)−C−、−(CO)−(CO)−C−、または−(CO)−(CO)−C−であり、そしてこれらの式において、h、k、mおよびnは独立して1〜100であって、m+nは2〜100である:
<工程(a)>
式(3)で示される化合物に、式(4)で示される化合物を反応させることにより、式(5)で示される化合物を得る工程:


ここに、Zは単結合、−CH−、−C−、−(CO)−、−(CO)−、−(CO)−(CO)−、または−(CO)−(CO)−であり、そしてこれらの式において、h、k、mおよびnは独立して1〜100であって、m+nは2〜100であり;X、RおよびRは式(2−1)におけるこれらの記号と同じ意味を有し;そして、Xはハロゲンである。
<工程(b)>
遷移金属触媒の存在下で、式(5)で示される化合物と、式(6)で示される化合物とを反応させることにより、式(2−1)で示される化合物を得る工程:


【請求項10】
が臭素または塩素であり;RおよびRが共にメチルであり;Zが−C−または−CO−C−であり;そしてZが単結合または−CO−である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
シランカップリング剤としての式(2−1)で示されるケイ素化合物の使用:


ここに、Xは臭素または塩素であり;RおよびRは、独立して水素、メチルまたはエチルであるが、共に水素であることはなく;Zは−C−、−C−、−C10−、−(CO)−C−、−(CO)−C−、−(CO)−(CO)−C−、または−(CO)−(CO)−C−であり、そしてこれらの式において、h、k、mおよびnは独立して1〜100であって、m+nは2〜100である。
【請求項12】
固体を処理してその表面に付加重合性モノマーをリビング重合させる開始点を設けるための、式(2−1)で示されるケイ素化合物の使用:


ここに、Xは臭素または塩素であり;RおよびRは、独立して水素、メチルまたはエチルであるが、共に水素であることはなく;Zは−C−、−C−、−C10−、−(CO)−C−、−(CO)−C−、−(CO)−(CO)−C−、または−(CO)−(CO)−C−であり、そしてこれらの式において、h、k、mおよびnは独立して1〜100であって、m+nは2〜100である。

【公開番号】特開2006−63042(P2006−63042A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249655(P2004−249655)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(596032100)チッソ石油化学株式会社 (309)
【Fターム(参考)】