説明

ケイ酸カルシウム板の平滑素地調整方法及び化粧ケイ酸カルシウム板

【課題】施工時に化粧ケイ酸カルシウム板が反って仮留め用の両面粘着テープが剥がれて端が浮き上がったり化粧板が脱落したりする事故がある。
【解決手段】ケイ酸カルシウム板の厚さ調整及び平滑素地調整方法において、抄造工程に於けるメーキングロール側を裏面として研削・研磨の基準面として使用し、フェルト面側を研削・研磨して厚さ調整、平滑素地調整を行うことにより裏面側に含浸シーラーを塗布しなくても両面粘着テープの接着力を20N以上確保する。メーキングロール側を表面研削・研磨の基準面として使用することにより従来の両面研削・研磨と同等の表面仕上がりと歩留まりを得ることができる。裏面への含浸シーラーを塗布しないで接着強度を高めることは従来の含浸シーラー過多の弊害を取り除きコストダウンにも寄与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裏面の状態が平滑で両面粘着テープの接着力が20N以上ある平滑表面を持つケイ酸カルシウム板の素地調整方法とそのケイ酸カルシウム板を使用して作られた化粧ケイ酸カルシウム板に関する。
【背景技術】
【0002】
濃度が数%の繊維質、ケイ酸質、石灰質よりなるスラリー液を丸網ですくい取ってフェルトに移し脱水した後鋳物製のメーキングロールに移し取り所定の厚さまで巻き付けた後、メーキングロールに埋め込まれたワイヤーにより切断されメーキングロールから剥がれてベルトコンベア上に静置されるシート状物は生板と称されパレット上に移載されプレスされる。その後にオートクレーブ処理、乾燥処理がなされる。この状態では上面側がメーキングロール側で平滑で下面側がフェルト面側で凹凸がある。最初に裏面側を#40のサンドペーパーで研磨して基準面を作り、その後表面側を#100、#150、#200のサンドペーパーを装着したワイドベルトサンダーで研削・研磨する。その後でダブルエンドテノーナ等で寸法カットがなされる。この様な工程を経て得られたケイ酸カルシウム板は厚さの精度、表面平滑性が良く加工した後の仕上がり製品歩留まりが良く化粧用基材として優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4478780号
【非特許文献】
【0004】
技術資料「スレートボード」繊維強化セメント板協会著(2009年11月発刊)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の内装化粧板の施工方法は下地の枠組みに石膏ボードを釘で打ち付けて下地を作り、その上に化粧ケイ酸カルシウム板を接着剤で貼りつける。その際両面粘着テープで仮留めを行い接着剤の硬化を待つのが一般的である。裏面が研削されているとシーラーの効果が悪くシーラーの量を多く塗布しないと20Nの接着力を得ることができない。シーラー量が少ないと施工時に両面テープがケイ酸カルシウム板の裏面から剥がれたり甚だしい場合は脱落したりする場合もある。シーラー量を増やすと不燃試験規格の8MJ/cmを超えてしまったり、揮発性有機物(以下、VOCと記載)が施工後に室内に放出され健康被害を及ぼしたりする場合もある。裏面の粘着テープの接着力を高める方法として研磨を行わない方法もあるが、従来の方法で裏面研磨を行わないと目止め処理において目止め不良が多発して歩留まりが悪くなる。その理由として以下のことが考えられる。目止め処理はナチュラルリバースロールコーターで行うがナチュラルロールで目止め塗料を平均して配り塗りを行いリバースロールで摺り込むようにしながら平滑に塗布する。この時板の裏面に凹部があるとリバースロールで擦り込む時圧力が逃げて平らに擦り込む事ができない。また、板の裏面に凸部があると擦り込む時に圧力が強く掛かり塗料が削り取られてしまい目止め不良となる。裏面が平滑であることが表面を平滑に仕上げる重要な要件となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ケイ酸カルシウム板の研削面、非研削面の両面粘着テープの接着強度、研磨面への含浸シーラー塗布量と粘着テープの接着強度、石膏ボードと両面粘着テープの接着強度を表1に示す。
使用した材料は、ケイ酸カルシウム板(商品名:エコラックス 6mm厚 メーカー名:ニチアス(株))。粘着テープは、(商品名:TMテープ WF110 20mm幅×10m メーカー名:コニシ(株)を使用した。含浸シーラーは、(商品名:UCシーラーW004K(イソシアネート系) メーカー名:DIC(株))を専用シンナーで100%希釈して使用した。塗装方法はスポンジロールで塗装した。石膏ボードは、(商品名:タイガーボード 9mm厚 メーカー名:吉野石膏(株))を使用した。
【0007】
測定はイマダ式プッシュプルスケールを用い2cm幅の両面粘着テープを長さ10cmにカットしてケイ酸カルシウム板の裏面に貼り、サポート材料として25mm×100mm×2mm厚のゴムシートを両面粘着テープに貼り付け、該面から垂直方向に引っ張り上げる。基材より剥離した時点の剥離強度を測定する。3回測定し平均値をもって接着強度とした。
【表1】

【0008】
石膏ボードと両面粘着テープの接着力が平均で20.5Nあり、それ以上の接着強度があればケイ酸カルシウム板と両面粘着テープとの間から剥がれることはない。その条件を満足するのは含浸シーラー塗布量が 7.0g/尺以上かまたは裏面研削なしである。裏面研削なしと同等の接着強度を得るためには含浸シーラーの塗布量を8g/尺で2回塗布して同等の強度が得られた。これは不燃規格の8MJ /cmを満足できない。裏面側を研削しないで表面側を平滑調整するためには、メーキングロール側を裏面として使用し表面側を平滑調整するための基準面とすることが有効でないかと考えた。目止め加工の均一性を確認するために同一条件で抄造された原板1500枚を用意し従来の条件であるフェルト側を#40のサンドペーパーで研削し基準面を作り、メーキングロール側の面を#100、#150、#200のサンドペーパーで研削・研磨した板500枚、フェルト側を研磨しないでメーキングロール側を#100、#150、#200のサンドペーパーで研削・研磨した板を500枚、反転してメーキングロール側を研削しないで基準面としフェルト側を#100、#150、#200のサンドペーパーで研削・研磨した板500枚をそれぞれ作りシーラー、UV目止めを行い目止めの品質基準合格率を比較した。合格率の結果を表2に示す。
【0009】
【表2】

【0010】
表2の結果から判断して本発明の3.メーキングロール側研磨なし、フェルト側研削・研磨の平滑調整方法は目止め効果の点からも、1.の従来法に比べ遜色なく両面粘着テープの接着力については表1から圧倒的に有利である。2.フェルト側研磨なし、メーキングロール側研削・研磨の調整方法は両面粘着テープの接着力は良いが目止め加工の均一性が悪く適当な平滑素地調整方法ではない。本発明による平滑素地調整方法は含浸シーラーを塗布しなくても両面粘着テープの接着強度が得られるので有機固形分を増やすことなく、またVOCの放散等による環境汚染、健康被害の影響を増やさない。接着力20Nは基材の反りを押さえ込むのに必要な接着強度と言われている。
【発明の効果】
【0011】
本発明で得られた片面平滑調整された繊維混入ケイ酸カルシウム板は施工時の仮留めに使用される両面粘着テープの接着力が34N以上と高く、施工中の基材の反りによる浮き上がり、脱落事故は極めて少ない。また、塗装作業において目止め不良が両面研削品と同等で塗装歩留まりが高い。裏面の接着効果を高めるための含浸シーラーに依存することなく接着効果を発揮出来るために有機固形分の増加やVOCの減少に寄与する裏面塗布の含浸シーラーを使用しない、或いは減少させる等によりコスト低減も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】丸網抄造機と後処理加工構成図
【図2】従来品の原板のパレット積載側面図。原板の上面がメーキングロール面側を示す
【図3】従来品を反転したパレット積載側面図。原板の上面がフェルト面側を示す
【図4】(a)図は従来の原板で上下両面が研削・研磨される工程の模式側面図であり、(b)図は本発明の原板研磨工程の模式側面図であり、下面が無研磨のメーキングロール面、上面がフェルト面を研削・研磨して平滑処理される加工工程を示す
【図5】石膏ボードで下貼りされた面に仮留め用両面粘着テープ、接着剤が塗布されている立体説明図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は繊維混入ケイ酸カルシウム板の原板の平滑素地調整方法と塗装方法の二つの部分より構成される。発明を実施するための最良の形態について実施例を挙げて説明する。以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
(実施例1)
【0014】
図1は繊維混入ケイ酸カルシウム板を抄造するための丸網式抄造機と後処理工程の模式図である。水、ケイ酸質、セメント(石灰質)、繊維質、増量材等をミキサーで混合し8%のスラリー液としてチェストを経由してそれぞれのタンクに供給され紙すきの原理で丸網ですき取りフェルトに移し脱水して鋳物製メーキングロールに巻き取る。大略8回転で6.5mm厚に巻き取った後メーキングロールから剥がれ、メーキングロール側を上面にフェルト側を下面にしてパレットに積み取る。
オートクレーブ養生、乾燥工程を経て繊維混入ケイ酸カルシウム原板1ができあがる。この原板は上面がメーキングロールに接したメーキングロール面2で平滑である。裏面はフェルト面に接するフェルト面3でフェルトマークが付き凸凹である(図2参照)。反転フォークリフトを用いて図3に示すようにフェルト面3を上面にメーキングロール面2を下面にした。この原板をワイドベルトサンダーで上面のみ研削・研磨して平滑調整と厚み規制を行った。原板の厚さは6.5mmであったが3連式のワイドベルトサンダーに#100、#150、#200のサンドペーパーをこの順に装着して6.0mm厚に削り込んだ。その後ダブルエンドテノーナにより910mm×1820mmに切断して910mm×1820mm×6mm厚の化粧用ケイ酸カルシウム板7を得た。図4(a)図は従来の化粧用ケイ酸カルシウム板11の研磨工程を示す模式側面図であり、原板1のフェルト面3を研磨するワイドベルトサンダーが備えられている。図4(b)図は本発明の化粧用ケイ酸カルシウム板7の研磨工程を示す模式側面図である。
本実施例では原板をパレット毎に反転フォークリフトを用いて反転したが、乾燥工程に於けるドライヤーの後に反転装置を設置し反転してパレットに積み取っても良い。また、研削・研磨のサンドペーパーの粒度は下面#40、上面#100、#150、#200としたがこれに限定するものではない。
【0015】
次に塗装工程について説明する。段落(0014)で説明した本発明の化粧用ケイ酸カルシウム板7の上面(研削・研磨面)に湿気硬化型含浸シーラー(商品名:UCシーラーW004K メーカー名:DIC(株))を専用シンナーで100%希釈してスポンジロールコーターで66g/m塗布した。塗布後棒積みで積取り24時間養生した後紫外線硬化型目止め剤(商品名:AC−12 メーカー名:DIC(株)(以下UV目止め剤と称する)をリバースコーターを用いて154g/m塗布した。塗布方法は1回で塗布しても良いが2〜3回に分けて塗布しても良い。分割して塗装する場合の乾燥方法は1回目、2回目の乾燥はセミキュアとし、3回目に本乾燥(フルキュア)とする。乾燥条件は出力80W/cm、360nmを主波長とする紫外線ランプ1本の下を通過させて130MJ/m照射する。最終照射炉は出力80W/cm、360nmを主波長とする紫外線ランプ3本の下を通過させて紫外線量400MJ/mを照射し塗布されたUV目留め剤を硬化させ目止め板を得る。
【0016】
段落(0015)に記載される工程で得られた目止め板の表面を#280、#320のサンドペーパーを装着した2連式ワイドベルトサンダーを用いて研磨し研磨粉をブラシで除去し予熱乾燥炉を通過して表面温度を45℃〜55℃に加温してロールコーターとフローコーターを用いてベージュ色のアクリルウレタンエナメル(商品名:UCカラー ベージュ色 メーカー名:DIC(株))を110g/mの割合で塗布し1分間セッティングした後80℃、100℃、120℃に温度設定された3セクションを有するジェットドライヤーを2分間通過させて乾燥させた。塗装面の温度を40℃以下に冷却した後30μm厚の発泡ポリスチレンシートを介在させ塗装面が向き合う状態で平らなパレット上に積取った。該パレット上に約1週間養生して塗料の硬化を完了させ本発明の化粧ケイ酸カルシウム板12を得た。
【0017】
施工状態を立体的に図5に示す。塗装が完了した1週間後に下張り用石膏ボード8の上に両面粘着テープ9(商品名:TMテープ WF110 メーカー名:コニシ(株))を貼り、該粘着テープと適宜間隔を開けた位置にクロロプレンゴム系接着剤(商品名:G77Z メーカー名:コニシ(株))を所定幅で塗布したのち両面粘着テープの保護テープを剥がして化粧ケイ酸カルシウム板12を貼り付けテープ近辺の化粧面を手で軽く叩いて貼り付けた。24時間後に接着状況を確認したが浮き、剥がれはなかった。化粧ケイ酸カルシウム板12の端を持って力を加え剥がしたところ石膏ボードの紙の部分が紙間で破壊した。化粧ケイ酸カルシウム板12と両面粘着テープの間では剥がれなかった。
【0018】
30cm×30cmの試験体を採取して裏面の両面粘着テープの接着強度を測定したところ34Nであった。一般的に要求されている20Nを上回る良好な結果を得た。
(実施例2)
【0019】
実施例1の段落(0014)に記述された方法で作られた化粧用ケイ酸カルシウム板7の表面をイソシアネート含浸シーラー(商品名:UCシーラー W004K メーカー名:DIC(株))を専用シンナーで100%希釈しスポンジロールコーターで66g/m塗布した。24時間経過後にホットメルト用ロールコーターにウレタン系ホットメルト接着剤(商品名:PURホットメルト706.0 メーカー名:クライベリットジャパン(株))を投入し120℃でロール上で溶融し、シーラー塗布済みの化粧用ケイ酸カルシウム板7に100g/m塗布し、ラミネートマシンで30g/mのプレコート化粧紙(商品名:トーカラシート メーカー名:東京カラーグラビア(株))を貼り合せた。はみ出した紙はカットして四周をペーパ掛けして整えた。得られた化粧紙貼りケイ酸カルシウム板の裏面の両面粘着テープの接着力は34Nで施工下地の石膏ボードの両面粘着テープの接着力20Nを上回っている。また、実施例1と同様に石膏ボードで下地を作り施工テストを行ったが浮きが出たり脱落したりしたものはなかった。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明のケイ酸カルシウム基板を利用した化粧ケイ酸カルシウム板は裏面に大量の含浸シーラーを使用することなく両面粘着テープの接着力が発揮できるので施工時の浮き、脱落のトラブルがなく表面の塗装作業、ラミネート加工において歩留まりが高く塗料の使用量の減少と合わせてコストパフォーマンスが高い。また、基材中に浸み込んで製品の中に残留するVOCも少なく健康面においてもメリットが高い。
【符号の説明】
【0021】
1 ケイ酸カルシウム原板
2 メーキングロール面
3 フェルト面
4 メーキングロール面の研削・研磨面
5 フェルト面の研削・研磨面
6 メーキングロール面(無研磨)
7 本発明の化粧用ケイ酸カルシウム板
8 下貼り用石膏ボード
9 両面粘着テープ
10 接着剤
11 従来の化粧用ケイ酸カルシウム板
12 本発明の化粧ケイ酸カルシウム板
13 ワイドベルトサンダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
丸網抄造機で抄造され、オートクレーブ処理、乾燥処理されたケイ酸カルシウム板の厚さ調整、平滑処理調整をメーキングロール面を基準としてフェルト面が研削及び研磨された化粧用ケイ酸カルシウム板。
【請求項2】
請求項1で得られたケイ酸カルシウム板の研削及び研磨された面に含浸シーラー、紫外線硬化目止め、研磨、化粧仕上げを行い、研削及び研磨を施さない裏面がシーラー補強しなくても両面粘着テープの接着強度が20N以上である化粧ケイ酸カルシウム板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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