説明

ケタールビスフェノール類の製造方法

【課題】反応速度を速くし転化率を高くして生産効率を向上させたケタールビスフェノール類の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくともジヒドロキシベンゾフェノン類とグリコール類またはアルキレンジチオール類とを、反応させてケタールビスフェノール類を製造する方法であって、前記ジヒドロキシベンゾフェノン類に対して0.1モル%〜50モル%の有機スルホン酸類または有機カルボン酸類の存在下に反応させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケタールビスフェノール類の製造方法に関し、さらに詳しくは、生産効率を向上させたケタールビスフェノール類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリエーテルケトンや芳香族ポリエーテルエーテルケトンなどの芳香族ポリケトンは、熱可塑性樹脂中最高レベルの耐熱性(連続使用温度)、耐熱変形性を有し、難燃性が優れると同時に燃焼時の発煙や腐食性ガスの発生が極めて少ないという従来にない特性を備えた結晶性樹脂である。また、機械特性、耐熱水性、耐放射線性、耐薬品性も非常に優れている。これらの性質は主として、融点が高いことと結晶性が高いことに起因する。
【0003】
しかしながら、芳香族ポリケトンの高い結晶化度は、ポリマーの重合や加工の妨げとなり、芳香族ポリケトンを製造するのに好ましい温度、例えば250℃以下の温度において典型的な有機溶媒に不溶性であり、芳香族ポリケトンの分子量を高くすることが困難であった。また、高分子量の芳香族ポリケトンが得られたとしても、高い融点と溶剤不溶性から加工方法が限定され、幅広い用途に展開することができなかった。
【0004】
このような欠点を解決するために、まず高分子量の非晶性重合体としてポリケタールケトンを合成し、その後、ケタール基の脱保護により高分子量の結晶性の芳香族ポリエーテルケトンを製造する方法が報告されている(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献3参照)。
【0005】
また、特許文献1、特許文献2及び非特許文献3は、ポリケタールケトンの原料となるケタールビスフェノール類の製造方法として、4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノンとグリコール類とをアルキルオルトエステルおよびモンモリロナイトクレーのような固体触媒の存在下に反応させる方法、あるいは酸触媒として臭化水素の存在下に反応させる方法を提案している。
【0006】
しかし、このようなケタールビスフェノール類の製造方法は、クレー触媒と臭化水素のいずれを用いた場合にも反応時間が少なくとも2日と長く、さらに、転化率が充分に高くできないなどの問題があり、安価で高純度なケタールビスフェノール類を製造することができなかった。また、より高い転化率を得るために多量のクレー触媒を使用した場合には、反応後にクレー触媒を除去するための濾過処理に多大な時間を要するとともに、多量のクレーの廃棄にも問題があり、工業的に有利な製造方法ではなかった。
【特許文献1】特公平02−14334号公報
【特許文献2】特公平02−1844号公報
【非特許文献3】Macromolecules,20,1204(1987)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、反応速度を速くすると共に転化率を高くして、生産効率を向上させたケタールビスフェノール類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明のケタールビスフェノール類の製造方法は、少なくとも下記一般式(1)で示されるジヒドロキシベンゾフェノン類と下記一般式(2)で示されるグリコール類またはアルキレンジチオール類とを、反応させて下記一般式(3)で示されるケタールビスフェノール類を製造する方法であって、前記ジヒドロキシベンゾフェノン類に対して0.1モル%〜50モル%の有機スルホン酸類または有機カルボン酸類の存在下に反応させることを特徴とする。
【0009】
【化4】

【0010】
(式中、X1、X2、X3およびX4はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基またはアルコキシ基を示す。)
【0011】
【化5】

【0012】
(式中、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基を示し、Aは酸素原子または硫黄原子を示し、Eは単結合または無置換もしくは炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基で置換されたメチレンもしくはエチレン鎖を示す。)
【0013】
【化6】

【0014】
(式中、X1、X2、X3、X4、R1、R2、R3、R4、AおよびEは前記と同じ。)
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、有機スルホン酸類または有機カルボン酸類を酸触媒として使用するので、反応が均一に進行し、反応時間を大幅に短縮すると共に、転化率を高くすることが可能になるため、大量生産や製造コスト低減が可能になり、生産効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いるジヒドロキシベンゾフェノン類は、下記一般式(1)で示される。
【0017】
【化7】

【0018】
(式中、X1、X2、X3およびX4はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基またはアルコキシ基を示す。)
【0019】
一般式(1)において炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基またはアルコキシ基の具体例としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、メトキシ基、エトキシ基などが挙げられる。具体的なジヒドロキシベンゾフェノン類としては4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,4′−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチル−ベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4,4′−ジメチル−ベンゾフェノン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチル−ベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−5,5′−ジメチル−ベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0020】
本発明で用いるグリコール類またはジチオール類は、一般式(2)で示される。
【0021】
【化8】

【0022】
(式中、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基を示し、Aは酸素原子または硫黄原子を示し、Eは単結合または無置換もしくは炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基で置換されたメチレンもしくはエチレン鎖を示す。)
【0023】
一般式(2)において、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基の具体例としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基などが挙げられる。具体的なグリコール類またはジチオール類としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、2,3−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−2,3−ブタンジオール、2,3−ジメチル−2,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、2,3−ヘキサンジオール、3,4−ヘキサンジオール、1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−ブタンジオール、2,3−ジメチル−1,3−ブタンジオール、エチレンジチオール、1,3−プロパンジチオールなどが挙げられる。
【0024】
グリコール類またはアルキレンジチオール類の使用量はジヒドロキシベンゾフェノン類に対し、好ましくは1モル倍〜30モル倍、より好ましくは5モル倍〜15モル倍にするとよい。グリコール類またはアルキレンジチオール類の使用量を1モル倍未満にすると、未反応物が多く、取出しが困難になり、30モル倍を超えると、抽出効率が悪くなり好ましくない。
【0025】
本発明の製造方法により得られるケタールビスフェノール類は、一般式(3)で示される。
【0026】
【化9】

【0027】
(式中、X1、X2、X3およびX4はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基またはアルコキシ基を示し、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基を示し、Aは酸素原子または硫黄原子を示し、Eは単結合または無置換もしくは炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基で置換されたメチレンもしくはエチレン鎖を示す。)
【0028】
ケタールビスフェノール類としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジチオラン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジチアンが好ましく挙げられる。
【0029】
本発明のケタールビスフェノール類の製造方法は、ジヒドロキシベンゾフェノン類とグリコール類またはアルキレンジチオール類とを、有機スルホン酸類または有機カルボン酸類の存在下において反応させることにより、反応が均一に進行し、反応時間が短く高い転化率が得られる。有機スルホン酸類または有機カルボン酸類の使用量は、ジヒドロキシベンゾフェノン類に対し0.1モル%〜50モル%であり、好ましくは0.5モル%〜5モル%である。使用量が0.1モル%未満の場合には反応時間が長くなり、高い転化率が得られない場合がある。50モル%を越えた場合には高い転化率が得られない場合がある。
【0030】
本発明の製造方法は、酸触媒として有機スルホン酸類または有機カルボン酸類のみを用いるものであり、臭化水素やモンモリロナイトクレー等の他の酸触媒を使用するものではない。他の酸触媒と併用した場合、例えば、臭化水素と併用した場合には転化率が著しく低下する。また、クレー触媒を使用しないので、触媒除去のための濾過処理に要する多大な時間がかからずに、多量のクレーを廃棄する必要もない。
【0031】
本発明に用いられる有機スルホン酸類または有機カルボン酸類としては、例えば、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、蟻酸などが挙げられる。好ましくは、有機スルホン酸類であり、なかでもp−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸がよい。また、有機スルホン酸類または有機カルボン酸類は、上記から選ばれる2種類以上を共に使用してもよく、結晶水を含んでいてもよい。
【0032】
本発明の製造方法において、アルキルオルトエステル類の共存下で、ジヒドロキシベンゾフェノン類とグリコール類またはアルキレンジチオール類とを反応させることが好ましい。アルキルオルトエステル類の存在下で反応させることにより、生成反応が速くて転化率が高くなる傾向があり好ましい。アルキルオルトエステル類としては、オルトギ酸トリメチル、オルトギ酸トリエチル、オルト酢酸トリメチル、オルト酢酸トリエチル、オルトけい酸テトラメチル、オルトけい酸テトラエチル、2,2−ジメトキシプロパン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソランなどが好ましく挙げられる。
【0033】
アルキルオルトエステル類の使用量はジヒドロキシベンゾフェノン類に対し、好ましくは1モル倍〜10モル倍、より好ましくは2モル倍〜5モル倍である。アルキルオルトエステル類の使用量を1モル倍未満にすると、転化率が高くならなくなり、10モル倍を超えると、経済性が悪くなり好ましくない。
【0034】
本発明の製造方法において、反応は必要に応じ溶媒中で行なわれる。溶媒としては、例えば、トルエン、キシレンなどの炭化水素類などが挙げられ、それぞれ単独でまたは2種以上を組合せて用いられる。
【0035】
ジヒドロキシベンゾフェノン類とグリコール類またはアルキレンジチオール類とを混合するには、例えば窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下、溶媒中、あるいは溶媒の不存在下でジヒドロキシベンゾフェノン類とグリコール類またはアルキレンジチオール類、有機スルホン酸類または有機カルボン酸類、必要に応じ用いるアルキルオルトエステル類を任意の順に加えればよい。
【0036】
反応温度は通常、20〜150℃の範囲で行われる。好ましくは、25℃から用いられるアルキルオルトエステル類の沸点附近までの温度で行われ、より好ましくはアルキルオルトエステル類から副生するアルコールを留去する温度で行われる。
【0037】
反応時間は通常、0.1時間以上、10時間以下であり、0.5〜8時間で反応は終了する。反応後は、反応混合物に有機溶媒を混合して中和後、水洗処理などを行ってもよい。
【0038】
ジヒドロキシベンゾフェノン類とグリコール類またはアルキレンジチオール類とを反応させて目的のケタールビスフェノール類が生成するが、ケタールビスフェノール類を取り出すには、例えば、水、有機溶媒を加えた後、未反応のグリコール類を含む水層を分液し、ケタールビスフェノール類を含む有機層を得ることができる。有機層は、必要に応じて、晶析等によってケタールビスフェノール類を単離することができる。
【0039】
本発明によって得られるケタールビスフェノール類の用途は、たとえば各種モノマー、酸化防止剤や老化防止剤等の添加剤およびそれらの前駆体、医薬品原料等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。なかでも、モノマー用途が好ましく、芳香族ポリケタール系重合体を製造するためのモノマーとしての用途がさらに好適である。
【0040】
かかる芳香族ポリケタール系重合体とは、主として芳香環から構成される重合体において、ケタール部位が含まれているものを意味する。ケタール部位以外に、直接結合、エーテル、ケトン、スルホン、スルフィド、各種アルキレン、イミド、アミド、エステル、ウレタン等、芳香族系ポリマーの形成に一般的に使用される結合様式が存在していても良い。芳香環は炭化水素系芳香環だけでなく、ヘテロ環などを含んでいても良い。また、芳香環ユニットと共に一部脂肪族系ユニットがポリマーを構成していてもかまわない。芳香族ユニットは、アルキル基、アルコキシ基、芳香族基、アリーロキシ基等の炭化水素系基、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン化アルキル基、カルボキシル基、ホスホン酸基、水酸基等、任意の置換基を有していても良い。
【0041】
芳香族ポリケタール系重合体の合成方法としては、例えばケタールビスフェノール類と芳香族ジハライドの芳香族求核置換反応を利用して合成することができる。なお、必要に応じて、ケタールビスフェノール類以外のビスフェノールを併用しても構わない。
【0042】
また、芳香族ジハライドとしては、ケタールビスフェノール類との芳香族求核置換反応により高分子量化が可能なものであれば、特に限定されるものではなく、2種以上の芳香族ジハライドを併用することも可能である。また、これらの芳香族ジヒドロキシ化合物にイオン性基が導入されたものをモノマーとして用いることもできる。
【0043】
芳香族求核置換反応による重合は、上記モノマー混合物を塩基性化合物の存在下で反応させることで重合体を得ることができる。重合反応は、0〜350℃の温度範囲で行うことができるが、50〜250℃の温度であることが好ましい。0℃より低い場合には、十分に反応が進まない傾向にあり、350℃より高い場合には、ポリマーの分解も起こり始める傾向がある。
【0044】
かかる重合反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどを使用することができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用することができるものであればよい。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用されても良い。
【0045】
芳香族求核置換反応による重合に用いる塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等があげられるが、芳香族ジオール類を活性なフェノキシド構造にしうるものであれば、これらに限定されず使用することができる。かかる塩基性化合物の存在下で反応させる芳香族求核置換反応においては、副生物として水が生成する場合がある。この際はトルエンなどを反応系に共存させて、共沸物として水を系外に除去することもできる。水を系外に除去する方法としては、モレキュラーシーブなどの吸水剤を使用することもできる。
【0046】
かかる芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるポリマー濃度として5〜50重量%となるように、モノマーを仕込むことが好ましい。ポリマー濃度が、5重量%よりも少ない場合は、重合度が上がりにくい傾向があり、一方、50重量%よりも多い場合には、反応系の粘性が高くなりすぎ、反応物の後処理が困難になる傾向がある。重合反応終了後は、反応溶液より蒸発によって溶媒を除去し、必要に応じて残留物を洗浄することによって、所望のポリマーが得られる。また、反応溶液を、ポリマーの溶解度が低い溶媒中に加えることによって、ポリマーを固体として沈殿させ、沈殿物の濾取によりポリマーを得ることもできる。
【0047】
芳香族ポリケタール系重合体のGPC法による重量平均分子量は、好ましくは1万から100万、さらに好ましくは10万から60万である。かかる重量平均分子量が、1万未満では機械特性が不十分な場合があり、一方、100万を越えると加工性に劣る場合がある。
【0048】
本発明によって得られるケタールビスフェノール類、ならびに併用するビスフェノール、芳香族ジハライド等の芳香族ポリケタール系重合体の原料モノマーの純度は、特に制限されるものではないが、98%以上であることが好ましく、さらに好ましくは99%以上である。ケタールビスフェノール類の純度を分析する方法は特に限定されないが、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)、赤外吸収スペクトル(IR)、核磁気共鳴スペクトル(NMR)等が例示できる。
【0049】
また、本発明によって得られるケタールビスフェノール類を用いて得た芳香族ポリケタール系重合体は、溶解性や加工性に優れることから、各種成型品を製造する際の可溶性前駆体として特に好ましく使用することができる。具体的には、芳香族ポリケタール系重合体として、膜状の他、板状、繊維状、中空糸状、粒子状、塊状など使用用途によって様々な形態に加工した後、必要に応じて高結晶性と高融点を有する芳香族ポリケトン系重合体に変換して使用することができる。
【0050】
また、芳香族ポリケタール系重合体および芳香族ポリケトン系重合体にイオン性基を含有させて使用することも好適であり、種々の用途に適用可能である。例えば、体外循環カラム、人工皮膚などの医療用途、ろ過用用途、イオン交換樹脂用途、各種構造材用途、電気化学用途に適用可能である。中でも種々の電気化学用途により好ましく利用することができる。かかる電気化学用途としては、例えば、燃料電池、レドックスフロー電池、水電解装置、クロロアルカリ電解装置等が挙げられるが、中でも燃料電池が最も好ましい用途である。さらに燃料電池のなかでも高分子電解質型燃料電池用の高分子電解質材料に好適であり、これには水素を燃料とするものとメタノールなどの有機化合物を燃料とするものがあるが、炭素数1〜6の有機化合物およびこれらと水の混合物から選ばれた少なくとも1種を燃料とする直接型燃料電池に特に好ましく用いられる。かかる炭素数1〜6の有機化合物としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの炭素数1〜3のアルコール、ジメチルエーテルが好ましく、メタノールが最も好ましく使用される。
【0051】
本発明によって得られるケタールビスフェノール類を用いて得た芳香族ポリケタール系重合体および芳香族ポリケトン系重合体を燃料電池用として使用する際には、通常膜の状態で使用される。
【0052】
また、本発明によって得られるケタールビスフェノール類を用いて得た芳香族ポリケタール系重合体および芳香族ポリケトン系重合体には、通常の高分子化合物に使用される可塑剤、安定剤あるいは離型剤等の添加剤を、本発明の目的に反しない範囲内で添加することができる。また、諸特性に悪影響をおよぼさない範囲内で、機械的強度、熱安定性、加工性などの向上を目的に、各種ポリマー、エラストマー、フィラー、微粒子、各種添加剤などを含有させてもよい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、以下に示す転化率は、反応混合物をガスクロマトグラフィーで下記の条件で分析し、ケタールビスフェノール類と未反応4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノンのガスクロマトグラフィーの面積値総和で、ケタールビスフェノール類の面積値を割り百分率に換算した値である。
【0054】
GC装置:島津製作所社製GC−17A
カラム:DB−5(J&W社製) L=30m、Φ=0.53mm、D=1.50μm
キャリヤー:ヘリウム(線速度=35.0cm/sec)
分析条件:
注入口温度;300℃
検出器温度;320℃
温度プログラム;Oven 50℃×1min、
Rate 10℃/min、
Final 300℃×15min
SP比 50:1
【0055】
実施例1
攪拌器、温度計及び留出管を備えた500mlフラスコに、4,4′−ジヒドロキシベンゾフエノン49.5g、エチレングリコール134g、オルトギ酸トリメチル96.9g及びp−トルエンスルホン酸1水和物0.50gを仕込み溶解する。その後78〜82℃で2時間保温攪拌した。更に、内温を120℃まで徐々に昇温、ギ酸メチル、メタノール、オルトギ酸トリメチルを留出させた後、室温まで冷却し、反応液を酢酸エチルで希釈し、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン液を得た。これをガスクロマトグラフィーで分析した結果、転化率は97%であった。
【0056】
実施例2
攪拌器、温度計及び留出管を備えた500mlフラスコに、4,4′−ジヒドロキシベンゾフエノン49.5g、エチレングリコール134g、オルトギ酸トリエチル135.3g及びp−トルエンスルホン酸1水和物0.50gを仕込み溶解する。その後78〜82℃で2時間保温攪拌した。更に、内温を160℃まで徐々に昇温、ギ酸エチル、エタノール、オルトギ酸トリエチルを留出させた後、室温まで冷却し、反応液を酢酸エチルで希釈し、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン液を得た。これをガスクロマトグラフィーで分析した結果、転化率は96%であった。
【0057】
実施例3
攪拌器、温度計及び留出管を備えた500mlフラスコに、4,4′−ジヒドロキシベンゾフエノン49.5g、エチレングリコール134g、オルトギ酸トリメチル96.9g及びベンゼンスルホン酸1水和物0.50gを仕込み溶解する。その後78〜82℃で2時間保温攪拌した。更に、内温を120℃まで徐々に昇温、ギ酸メチル、メタノール、オルトギ酸トリメチルを留出させた後、室温まで冷却し、反応液を酢酸エチルで希釈し、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン液を得た。これをガスクロマトグラフィーで分析した結果、転化率は96%であった。
【0058】
実施例4
攪拌器、温度計及び留出管を備えた500mlフラスコに、4,4′−ジヒドロキシベンゾフエノン49.5g、1,2−プロパンジオール164g、オルトギ酸トリメチル96.9g及びp−トルエンスルホン酸1水和物0.50gを仕込み溶解する。その後78〜82℃で2時間保温攪拌した。更に、内温を120℃まで徐々に昇温、ギ酸メチル、メタノール、オルトギ酸トリメチルを留出させた後、室温まで冷却し、反応液を酢酸エチルで希釈し、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチル−1,3−ジオキソラン液を得た。これをガスクロマトグラフィーで分析した結果、転化率は93%であった。
【0059】
実施例5
攪拌器、温度計及び留出管を備えた 500mlフラスコに、4,4′−ジヒドロキシベンゾフエノン49.5g、エチレングリコール134g、オルト酢酸トリメチル109.7g及びp−トルエンスルホン酸1水和物0.50gを仕込み溶解する。その後78〜82℃で3時間保温攪拌した。更に、内温を120℃まで徐々に昇温、酢酸メチル、メタノール、オルト酢酸トリメチルを留出させた後、室温まで冷却し、反応液を酢酸エチルで希釈し、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン液を得た。これをガスクロマトグラフィーで分析した結果、転化率は95%であった。
【0060】
実施例6
攪拌器、温度計及び留出管を備えた 500mlフラスコに、4,4′−ジヒドロキシベンゾフエノン49.5g、エチレングリコール134g、オルトギ酸トリメチル96.9g及びp−トルエンスルホン酸1水和物0.50gを仕込み溶解する。その後78〜82℃で2時間保温攪拌した。更に、内温を120℃まで徐々に昇温、ギ酸メチル、メタノール、オルトギ酸トリメチルの留出が完全に止まるまで加熱した。この反応液を室温まで冷却後、反応液を酢酸エチルで希釈し、ガスクロマトグラフィーで分析した結果、転化率は97%であった。有機層を炭酸水素ナトリウム溶液で洗浄した後、溶媒を留去した。残留物にジクロロメタンを加え結晶を析出させ、濾過し、乾燥して2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソランを53.5g得た。
【0061】
実施例7
攪拌器、温度計及び留出管を備えた500mlフラスコに、4,4′−ジヒドロキシベンゾフエノン49.5g、エチレングリコール134g、トルエン100g及びp−トルエンスルホン酸1水和物0.50gを仕込み溶解する。その後78〜82℃で4時間保温攪拌した。更に、内温をトルエン還流下120℃まで徐々に昇温、水を留出させた後、室温まで冷却、反応液を酢酸エチルで希釈し、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン液を得た。これをガスクロマトグラフィーで分析した結果、転化率は86%であった。
【0062】
比較例1
攪拌器、温度計及び留出管を備えた500mlフラスコに、4,4′−ジヒドロキシベンゾフエノン49.5g、モンモリロナイトクレーK10を75.0g、エチレングリコール134g、オルトギ酸トリメチル48.5gを仕込み攪拌する。その後78〜82℃で18時間保温攪拌した。更に、オルトギ酸トリメチル48.5gを追加し、内温を78〜82℃で更に24時間保温攪拌した。120℃まで徐々に昇温、ギ酸メチル、メタノール、オルトギ酸トリメチルの留出が完全に止まるまで加熱した。この反応液を室温まで冷却後、ガスクロマトグラフィーで分析した結果、転化率は83%であった。
【0063】
比較例2
攪拌器、温度計及び留出管を備えた500mlフラスコに、4,4′−ジヒドロキシベンゾフエノン49.5g、エチレングリコール134g、オルトギ酸トリメチル48.5g及びp−トルエンスルホン酸1水和物0.50gと10滴の濃臭化水素を仕込み攪拌する。その後78〜82℃で18時間保温攪拌した。更に、オルトギ酸トリメチル48.5gを追加し、内温を78〜82℃で更に24時間保温攪拌した。120℃まで徐々に昇温、ギ酸メチル、メタノール、オルトギ酸トリメチルの留出が完全に止まるまで加熱した。この反応液を室温まで冷却後、ガスクロマトグラフィーで分析した結果、転化率は76%であった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の製造方法により得られるケタールビスフェノール類は、芳香族ポリケタールのモノマーとして有用である。さらに、芳香族ポリケタールは芳香族ポリケトンの可溶性前駆体として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記一般式(1)で示されるジヒドロキシベンゾフェノン類と下記一般式(2)で示されるグリコール類またはアルキレンジチオール類とを、反応させて下記一般式(3)で示されるケタールビスフェノール類を製造する方法であって、前記ジヒドロキシベンゾフェノン類に対して0.1モル%〜50モル%の有機スルホン酸類または有機カルボン酸類の存在下に反応させるケタールビスフェノール類の製造方法。
【化1】

(式中、X1、X2、X3およびX4はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基またはアルコキシ基を示す。)
【化2】

(式中、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基を示し、Aは酸素原子または硫黄原子を示し、Eは単結合または無置換もしくは炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基で置換されたメチレンもしくはエチレン鎖を示す。)
【化3】

(式中、X1、X2、X3、X4、R1、R2、R3、R4、AおよびEは前記と同じ。)
【請求項2】
前記グリコール類またはアルキレンジチオール類がエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2,3−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−2,3−ブタンジオール、2,3−ジメチル−2,3−ブタンジオール、エチレンジチオール及び1,3−プロパンジチオールから選ばれるいずれかである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記有機スルホン酸類がトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸から選ばれる少なくとも1種の有機スルホン酸類である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
さらにアルキルオルトエステル類の共存下で反応させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のケタールビスフェノール類の製造方法。
【請求項5】
前記アルキルオルトエステル類が、オルトぎ酸トリメチル、オルトぎ酸トリエチル、オルト酢酸トリメチル、オルト酢酸トリエチル、オルトけい酸テトラメチル、オルトけい酸テトラエチル、2,2−ジメトキシプロパン及び2,2−ジメチル−1,3−ジオキソランから選ばれる少なくとも1種である請求項4に記載のケタールビスフェノール類の製造方法。
【請求項6】
前記ケタールビスフェノール類が2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジチオラン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジチアンから選ばれるいずれかである請求項1〜5のいずれかに記載のケタールビスフェノール類の製造方法。

【公開番号】特開2008−37825(P2008−37825A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216437(P2006−216437)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、燃料電池・水素技術開発部委託研究、「固体高分子形燃料電池実用化戦略技術開発 要素技術開発高性能炭化水素系電解質膜の研究開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000216243)田岡化学工業株式会社 (115)
【Fターム(参考)】