説明

ケテンシリルアセタールの製造方法

【課題】
本発明は、パーフルオロアルキル基又はポリフルオロアルキル基を有し、これらの基のα位の炭素が4級炭素であるケテンシリルアセタールの簡便で効率の良い製造方法を提供する。
【解決手段】
fCOCO21で表されるα−ケトエステル(式中、Rfはパーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基、又はフルオロアルキル基を表し、R1は水素又は1価の有機基を表す)と、R234SiXで表される化合物(式中、R2、R3、及びR4は、独立して、置換又は未置換の環式又は非環式炭化水素基を表す)とを還元剤の存在下で反応させることにより、ケテンシリルアセタール:
f(R234SiO)C=C(OSiR234)(OR1
が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基、又はフルオロアルキル基を有するケテンシリルアセタールの製造方法に関する。該ケテンシリルアセタールは、医農薬を含む各種の有機化合物の中間体として用いることができる。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基、又はフルオロアルキル基を有する化合物は、これらの官能基に由来する特徴的な生物学的活性を有することから、その製造方法が検討されている。中でも、パーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基、又はフルオロアルキル基を有するケテンシリルアセタールは、医農薬を含む様々な有機化合物のための中間体として有用である。例えば、パーフルオロアルキル基としてトリフルオロメチル基を有するケテンシリルアセタールは、アルドール反応やマイケル反応等の化学変換を経て各種の含フッ素化合物に転換することができるため、注目されている。
【0003】
トリメチルシリル基を有するケテンシリルアセタールの製造例としては、トリフルオロプロピオン酸を原料として2−トリフルオロメチルケテンシリルアセタールである
CF3CH=C(OSiMe3)(OMe)
を合成することが報告されている(非特許文献1を参照)。しかし、この合成方法で得られる化合物では、トリフルオロメチル基のα炭素は3級炭素であり、α炭素をさらに置換した化合物を得るためには必ずしも適切な中間体とはいえない。そこで、トリフルオロメチル基のα炭素が4級炭素となるケテンシリルアセタールの製造方法が求められている。
【0004】
しかし、パーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基、又はフルオロアルキル基のα炭素が4級炭素となるケテンシリルアセタールの合成は、困難であった。その理由は、以下の式に示す通り、炭素−フッ素結合が還元条件下でフッ化物イオンの生成を伴って切断され、2,2−ジフルオロ体が生成しやすいためである。
【0005】
【化1】

【0006】
そこで、パーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基、又はフルオロアルキル基を有するケテンシリルアセタール、特にパーフルオロアルキル基又はポリフルオロアルキル基のα炭素が4級炭素であるケテンシリルアセタールの製造方法が求められている。
【非特許文献1】T. Yokozawa et al., Tetrahedron Lett., Vol.25, p.3991 (1984)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みなされたものであり、パーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基、又はフルオロアルキル基を有するケテンシリルアセタールの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはこれらの課題を解決すべく鋭意検討を進めた結果、α−ケトエステルを原料として使用することによって、2位に置換シリル基とパーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基、又はフルオロアルキル基とを有するケテンシリルアセタールを簡便に高収率で得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、以下のものを提供する。
[1] 式(1):
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、Rfはパーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基、又はフルオロアルキル基を表し、R1は水素又は1価の有機基を表す)
で表されるα−ケトエステルを、
式(2):
234SiX (2)
(式中、R2、R3、及びR4は、独立して、アルキル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキルアルキル基、ヘテロシクロアルキルアルキル基、アリールアルキル基、及びヘテロアリールアルキル基からなる群より選択され、同一であっても異なってもよく、
Xは塩素、臭素、又はヨウ素を表す)
で表される化合物と還元剤の存在下で反応させる工程を含む、
式(3):
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、Rf、R1、R2、R3、及びR4は、前記の通りである)
で表されるケテンシリルアセタールの製造方法。
[2] R2、R3、及びR4が、独立して、置換又は未置換のメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ベンジル基、フェネチル基、及びフェニル基からなる群より選択される、[1]に記載の製造方法。
[3] R1がアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、又はヘテロアリールアルキル基である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4] 還元剤が酸化可能な金属種を含む、[1]−[3]の何れかに記載の製造方法。
[5] 還元剤が金属単体又は合金を含む、[4]に記載の製造方法。
[6] 還元剤が、金属マグネシウム;又は、二ヨウ化サマリウム−金属マグネシウムの組み合わせ;である、[5]に記載の製造方法。
[7] 還元剤の存在下における式(1)のα−ケトエステルと式(2)の化合物との反応が−90℃から120℃の範囲で行われる、[1]−[6]の何れかに記載の方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で使用されるα−ケトエステル
【0015】
【化4】

【0016】
において、Rfはパーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基、又はフルオロアルキル基を表す。ここでパーフルオロアルキル基とは、H原子が全てF原子で置換されたアルキル基を指し、ポリフルオロアルキル基とは、2つ以上のH原子がF原子で置換されたアルキル基を指し、フルオロアルキル基とは、1つのH原子がF原子で置換されたアルキル基を指す。
【0017】
fの炭素数に特に制限はなく、好ましくはC1-8、さらに好ましくはC1-6、より好ましくはC1-4である。Rfとして、モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、テトラフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘキサフルオロプロピル基、ヘキサフルオロイソプロピル基、ヘプタフルオロn−プロピル基、ヘプタフルオロイソプロピル基、ノナフルオロn−ブチル基、ノナフルオロt−ブチル基などが例示されるが、これらに限定されない。
【0018】
1は水素又は1価の有機基を表し、反応条件下で不活性であることが好ましい。R1として、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルケニル基、アリールアルキル基、ヘテロアリールアルキル基、シクロアルキルアルキル基、ヘテロシクロアルキルアルキル基、シクロアルケニルアルキル基、ヘテロシクロアルケニルアルキル基、アミノアルキル基、アシルアルキル基、アルコキシアルキル基、チオアルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、アルコキシカルボニルアルキル基、アシルオキシアルキル基が挙げられる。
【0019】
本明細書において、単独で又は他の基の一部として用いられる「アルキル基」は未置換であっても1以上の置換基で置換されていてもよく、直鎖であっても分枝状であってもよい。アルキル基の炭素数に特に制限はなく、好ましくはC1-20、さらに好ましくはC1-12、より好ましくはC1-8、さらにより好ましくはC1-6、なお好ましくはC1-4である。アルキル基として、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソアミル、ヘキシル、オクチルが挙げられる。該アルキル基が置換されている場合、置換基としてハロゲン(F、Cl,Br,I)、SH、アミノ、アルコキシ、アルキルチオ、ハロアルコキシ、ハロアルキルチオが挙げられる。
【0020】
ここでアルコキシ基とは、前記のアルキル基に酸素が結合した一価の基を指し、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、及びtert−ブトキシ基が含まれる。アルコキシ基の炭素数は、典型的にはC1-6である。アルキルチオ基は該アルコキシ基の−O−を−S−で置換した基を指し、ハロアルコキシ基及びハロアルキルチオ基は該アルコキシ基及び該アルキルチオ基の少なくとも1つのHをハロゲンで置換した基を指す。
【0021】
本明細書において、単独で又は他の基の一部として用いられる「アルケニル基」は未置換であっても1以上の置換基で置換されていてもよく、直鎖であっても分枝状であってもよい。アルキル基の炭素数に特に制限はなく、好ましくはC2-20、さらに好ましくはC2-12、より好ましくはC2-8、さらにより好ましくはC2-6、なお好ましくはC2-4である。アルケニル基として、アリル、プロペニル、ブテニル及び3−メチルブテニルが挙げられる。アルケニル基の置換基としては、アルキル基の置換基として上に述べた基が挙げられる。
【0022】
本明細書において、単独で又は他の基の一部として用いられる「アルキニル基」は未置換であっても1以上の置換基で置換されていてもよく、直鎖であっても分枝状であってもよい。アルキニル基の炭素数に特に制限はなく、好ましくはC2-20、さらに好ましくはC2-12、より好ましくはC2-8、さらにより好ましくはC2-6、なお好ましくはC2-4である。アルキニル基として、エチニル、プロピニル、プロパルギル、ブチニル、イソブチニル、ペンチニル、ヘキシニルが挙げられる。アルキニル基の置換基としては、アルキル基の置換基として上に述べた基が挙げられる。
【0023】
本明細書において、単独で又は他の基の一部として用いられる「アリール基」は芳香族炭化水素基を指し、縮合していてもよい。アリール基には、フェニル、インデニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インダニル、及びビフェニルが含まれる。アリール基の炭素数に特に制限はなく、好ましくはC6-18、より好ましくはC6-12である。アリール基は未置換であってもよく、1以上の基で置換されていてもよい。置換基として、ハロゲン、アミノ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、アシル、アシルアルキル、アルコキシカルボニルアルキル、アルキル、パーフルオロアルキル、ポリフルオロアルキル、フルオロアルキル、アルコキシ、アルキルチオ、ハロアルコキシ、ハロアルキルチオが挙げられる。
【0024】
本明細書において、単独で又は他の基の一部として用いられる「ヘテロアリール基」は、1つ以上のヘテロ原子を環中に有する芳香環を含有する基を意味し、縮合していてもよい。ヘテロ原子には、窒素、酸素、硫黄が含まれる。ヘテロアリール基に2以上のヘテロ原子が含まれる場合、ヘテロ原子は同一であってもよく、異なってもよい。ヘテロアリール基は未置換であってもよく、1以上の基で置換されていてもよい。置換基には、アリール基の置換基として上に記載した基やオキソ基が含まれる。ヘテロアリール基の炭素数に特に制限はなく、好ましくはC3-18、より好ましくはC4-12である。ヘテロアリール基には、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、トリアジニル、テトラゾリル、オキサゾリル、インドリジニル、インドリル、イソインドリル、インダゾリル、プリニル、キノリジニル、イソキノリル、キノリル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキサリニル、オキサジアゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル、ベンズイミダゾリルが挙げられる。
【0025】
本明細書において、単独で又は他の基の一部として用いられる「シクロアルキル基」は、非芳香族の飽和環式炭化水素を指す。シクロアルキル基は未置換であってもよく、1以上の基で置換されていてもよい。置換基には、アルキル基の置換基として前述した基が含まれる。シクロアルキル基の炭素数に特に制限はなく、典型的にはC3-10、好ましくはC3-8である。シクロアルキル基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびシクロヘプチルが挙げられる。
【0026】
本明細書において、単独で又は他の基の一部として用いられる「シクロアルケニル基」は、非芳香族の不飽和環式炭化水素を指す。環内の不飽和結合は1つであってもよく、2以上でもよい。シクロアルケニル基は未置換であってもよく、1以上の基で置換されていてもよい。置換基には、シクロアルキル基の置換基として前述した基が含まれる。シクロアルケニル基の炭素数に特に制限はなく、典型的にはC3-10、好ましくはC4-8である。シクロアルケニル基の例としては、シクロペンテニル、シクロペンタジエニル、シクロヘキセニル、シクロヘキサジエニル、シクロブタジエニルが挙げられる。
【0027】
本明細書において、単独で又は他の基の一部として用いられる「ヘテロシクロアルキル基」は、1つ以上の炭素原子がヘテロ原子で置換されているシクロアルキル基を指す。ヘテロ原子には、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子が含まれる。ヘテロシクロアルキル基は未置換であってもよく、1以上の基で置換されていてもよい。置換基には、シクロアルキル基の置換基として上に記載した基及びオキソ基が含まれる。ヘテロシクロアルキル基の炭素数に特に制限はなく、典型的にはC2-9である。ヘテロシクロアルキル基の例として、テトラヒドロフリル、モルホリニル、ピペラジニル、ピペリジル、ピロリジニルが挙げられる。
【0028】
本明細書において、単独で又は他の基の一部として用いられる「ヘテロシクロアルケニル基」は、1つ以上の炭素原子がヘテロ原子で置換されているシクロアルケニル基を指す。ヘテロ原子には、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子が含まれる。ヘテロシクロアルケニル基は未置換であってもよく、1以上の基で置換されていてもよい。置換基には、ヘテロシクロアルキル基の置換基として上に記載した基が含まれる。ヘテロシクロアルケニル基の炭素数に特に制限はなく、典型的にはC2-9である。ヘテロシクロアルケニル基の例として、ジヒドロフリル、イミダゾリル、ピロリニル、ピラゾリニルが挙げられる。
【0029】
アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、及びヘテロシクロアルキル基、ヘテロシクロアルケニル基は、2以上の環を含んでもよい。その様な場合、2以上の環は縮合していてもよく、スピロ原子によって結合していてもよく、1つの環が他の環の側鎖として結合していてもよい。
【0030】
アリールアルキル基、ヘテロアリールアルキル基、シクロアルキルアルキル基、シクロアルケニルアルキル基、ヘテロシクロアルキルアルキル基、ヘテロシクロアルケニルアルキル基、アミノアルキル基、アシルアルキル基、アルコキシアルキル基、チオアルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル、アルコキシカルボニルアルキル基、及びアシルオキシアルキル基は、アルキル基がそれぞれ1以上のアリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、ヘテロシクロアルケニル基、アミノ基、アシル基、アルコキシ基、チオアルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、及びアシルオキシアルキル基で置換された基を指す。ここで、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、シクロアルケニル基、及びヘテロシクロアルケニル基は前述の通りであるが、アルキル基は直鎖であることが好ましい。
【0031】
アミノ基は、未置換であってもよく、置換されていてもよい。置換基としては、アルキル基及びアリール基が挙げられる。置換アミノ基の例としては、N−メチルアミノ基、N−エチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N−フェニルアミノ基が挙げられる。
【0032】
アシル基には、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、及びトリフルオロアセチル基が含まれる。アシル基の炭素数は、典型的にはC1-6である。
【0033】
好ましいR1として、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、及びヘテロアリールアルキル基が例示される。
式(1)で表されるα−ケトエステルの例としては、トリフルオロピルビン酸メチル、トリフルオロピルビン酸エチル、トリフルオロピルビン酸n−プロピル、トリフルオロピルビン酸iso−プロピル、トリフルオロピルビン酸n−ブチル、トリフルオロピルビン酸sec−ブチル、トリフルオロピルビン酸tert−ブチル、トリフルオロピルビン酸n−ヘキシル、トリフルオロピルビン酸シクロヘキシル、トリフルオロピルビン酸フェニル、トリフルオロピルビン酸フェネチル、2−ケトペンタフルオロ酪酸メチル、2−ケトヘプタフルオロ吉草酸メチルを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0034】
式(2):
234SiX (2)
で表されるハロゲン化シランにおいて、XはCl,Br,又はIを表す。
【0035】
2、R3、及びR4は、独立して、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、ヘテロシクロアルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキルアルキル基、シクロアルケニルアルキル基、ヘテロシクロアルキルアルキル基、ヘテロシクロアルケニルアルキル基、アリールアルキル基、ヘテロアリールアルキル基、アリールアルケニル基、及びヘテロアリールアルケニル基からなる群より選択され、同一であっても異なってもよい。これらの基は、上に定義の通りである。
【0036】
好ましくは、R2、R3、及びR4は、独立して、アルキル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキルアルキル基、ヘテロシクロアルキルアルキル基、アリールアルキル基、及びヘテロアリールアルキル基からなる群より選択され、同一であっても異なってもよい。
【0037】
さらに好ましくは、R2、R3、及びR4は、独立して、置換又は未置換のメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ベンジル基、フェネチル基、フェニル基から独立して選択され、同一であっても異なってもよい。
【0038】
2、R3、及びR4は、全てアルキル基であってもよく、2つがアルキル基であり残りの1つがアリール基であってもよく、2つがアリール基であり残りの1つがアルキル基であってもよく、全てアリール基であってもよい。つまり、R234Si−は、トリアルキルシリル、ジアルキルアリールシリル、アルキルジアリールシリル、またはトリアリールシリルでありうる。
【0039】
式(2)の化合物の例としては、塩化トリメチルシラン、塩化トリエチルシラン、塩化フェニルジメチルシラン、塩化ジフェニルメチルシラン、臭化トリエチルシランなどを挙げることができる。これらの内、塩化トリメチルシランは入手が容易であるという点で好ましい。
【0040】
式(1)のα−ケトエステルと式(2)の化合物を、還元剤の存在下で反応させることにより、式(3)のケテンシリルアセタールが得られる。還元剤として特に制限はなく、(1)の化合物の還元に際し酸化される種は、金属種であってもよく、非金属であってもよい。酸化可能な種が金属種である還元剤としては、金属単体、合金、金属塩、金属錯体、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0041】
金属単体としては、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、亜鉛、銅、鉄、カドミウム、スズ、チタン、及びナトリウムが挙げられる。合金としては、これらの金属を含む合金、例えば、亜鉛−銅合金、ラネーニッケル、銀−亜鉛合金、銅−マグネシウム合金が挙げられる。金属塩としては、三塩化チタン、二ヨウ化サマリウム、及び二塩化クロムが挙げられる。金属錯体としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムが挙げられる。非金属種を含む還元剤としては、ナトリウムナフタレニド、ナトリウムベンゾフェノンケチル錯体が挙げられる。これらの成分は単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。また、上記以外の成分と組み合わせて用いてもよい。そのような例としては、四塩化チタン−金属亜鉛系、二塩化チタノセン−金属亜鉛系、二ヨウ化サマリウム−金属サマリウム系、二ヨウ化サマリウム−金属マグネシウム系などが挙げられる。これらのうちで、金属マグネシウムを含む系、例えば金属マグネシウム、二ヨウ化サマリウム−金属マグネシウム系などが好ましい。
【0042】
金属単体又は合金の形状に特に制限はなく、代表的な形状としては粉末、粒状、塊状、多孔質状、切削屑状、線状などが挙げられる。例えば、金属マグネシウムとしては、グリニャール反応において通常使用される公知の形状のマグネシウムが使用できる。金属単体又は合金の形状としては、比表面積が大きく式(1)の化合物と効率的に接触できる形状が好ましい。
【0043】
使用される金属の量は、式(1)のα−ケトエステルにも依存するが、一般には式(1)の化合物に対して1当量以上、好ましくは2当量以上、50当量以下、好ましくは10当量以下である。
【0044】
式(1)のα−ケトエステル及び式(2)の化合物の反応は、−90℃以上、好ましくは−50℃以上、さらに好ましくは−60℃以上、120℃以下、好ましくは50℃以下、さらに好ましくは0℃以下で行われる。反応時間は反応体及び還元剤の種類、並びに反応条件に依存するが、通常10分以上、24時間以下、好ましくは10時間以下である。反応圧力は常圧付近でよい。その他の反応条件は、当業者に公知の有機マグネシウム化合物を用いる反応の条件が適用できる。
【0045】
式(1)のα−ケトエステル及び式(2)の化合物の反応は、溶媒中で行われることが好ましい。溶媒としては、反応条件下で不活性なものであれば特に制限はなく、脂肪族炭化水素(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン);芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン);ニトリル(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、フェニルアセトニトリル、イソブチロニトリル、ベンゾニトリル);酸アミド(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、ホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン);エーテル(例えば、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、1,2−エポキシエタン、1、4−ジオキサン、ジブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、置換テトラヒドロフラン)などが使用され、特にジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランが好ましい。これらの溶媒は単独で使用してもよく、組み合わせて使用してもよい。
【0046】
生成する式(3)の化合物は水との反応性が高いことが多いため、使用する溶媒は水含有量が低いことが好ましい。もっとも、工業的に入手可能な溶媒に通常混入している程度の水分は、本製造方法の実施において特に問題にならず、従って水分を除去することなくそのまま使用できる。
【0047】
溶媒の量は、出発原料の1重量部に対して1重量部以上、好ましくは2重量部以上、100重量部以下、好ましくは10重量部以下である。
式(1)及び(2)の化合物の反応を促進するため、還元剤を活性化してもよい。還元剤が固体である場合、例えば金属単体及び合金である場合には、グリニャール反応で行われている各種公知の手段をとることができる。例えば、臭素またはヨウ素などのハロゲン、グリニャール試薬、臭化エチル、ヨウ化メチル、ヨウ化メチレン、ヨウ化エチル、β−ブロモエチルエーテルなどの有機ハロゲン化物、又はオルト珪酸エチルを反応系に添加する方法や攪拌または超音波を照射する方法などを挙げることができる。これらの方法により、金属単体及び合金の表面が活性化され、反応速度が増大するとも考えられる。
【0048】
また、生成する式(3)の化合物が水と反応しやすい場合には、脱水剤として作用する化合物を添加することが好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1] 2−トリフルオロメチル2−トリメチルシリルオキシケテンシリルアセタール:
【0050】
【化5】

【0051】
の合成
50mlの蒸留したテトラヒドロフラン(THF)に溶解した塩化トリメチルシラン(7.0g、64mmol)と市販のマグネシウム(0.9g、37mmol)を秤量し、二口反応器内に加え、アルゴン雰囲気で−30℃まで冷却した。さらに20mlの蒸留したTHFに溶解したトリフルオロピルビン酸メチル(3.1g、20mmol)をゆっくり滴下し、その後5時間、−30℃で攪拌を続けた。
【0052】
反応液に無水1,4−ジオキサンを15ml添加して溶存マグネシウム塩を析出させて1時間静置した後、デカンテーションにより結晶物を除去した。得られたTHF溶液を減圧下(〜30mmHg)で濃縮し、過剰の塩化トリメチルシランおよびTHFを除去した。0.5mmHg、45℃で蒸留すると、生成物として無色の液体(4.0g、66%)が得られた。この生成物のE/Z選択性は75/25であった。生成物は、2−トリフルオロメチル2−トリメチルシリルオキシケテンシリルアセタールのE体とZ体であることがわかった。
【0053】
E−2−トリフルオロメチル2−トリメチルシリルオキシケテンシリルアセタール;1HNMR(600MHz,C66)δ0.08(s,9H)、0.15(s,9H)、3.2(s,3H);19FNMR(282MHz、C66,C66内部標準)δ97.7(s,3F)。
【0054】
Z−2−トリフルオロメチル2−トリメチルシリルオキシケテンシリルアセタール;1HNMR(600MHz,C66)δ0.09(s,9H)、0.16(s,9H)、3.2(s,3H);19FNMR(282MHz、C66,C66内部標準)δ98.6(s,3F)。
[実施例2] 2−トリフルオロメチル2−トリメチルシリルオキシケテンシリルアセタール:
【0055】
【化6】

【0056】
の合成
トリフルオロピルビン酸エステルとしてトリフルオロピルビン酸メチルに代えてトリフルオロピルビン酸エチルを用いた点を除き、実施例1と同様に反応を行った。ケテンシリルアセタールの収率は41%であった。
【0057】
E体;無色液体(沸点93℃/12mmHg); 19FNMR(282MHz、C66,C66内部標準)δ97.9(s,3F)。
Z体;無色液体(沸点93℃/12mmHg); 19FNMR(282MHz、C66,C66内部標準)δ99.0(s,3F)。
[実施例3] 2−トリフルオロメチル2−トリエチルシリルオキシケテンシリルアセタール:
【0058】
【化7】

【0059】
の合成
ハロゲン化トリアルキルシランとして塩化トリメチルシランに代えて塩化トリエチルシランを用いた点を除き、実施例1と同様に反応を行った。ケテンシリルアセタールの収率は2%であった。
【0060】
E体;19FNMR(282MHz、C66,C66内部標準)δ98.7(s,3F)。
Z体;19FNMR(282MHz、C66,C66内部標準)δ99.2(s,3F)。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の製造方法によると、原料入手の容易な2−パーフルオロアルキルα−ケトエステル類を原料として、有機合成反応において有用な2−パーフルオロアルキル2−トリアルキルシリルオキシケテンシリルアセタールを収率よく製造できるという効果を奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

(式中、Rfはパーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基、又はフルオロアルキル基を表し、R1は水素又は1価の有機基を表す)
で表されるα−ケトエステルを、
式(2):
234SiX (2)
(式中、R2、R3、及びR4は、独立して、アルキル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキルアルキル基、ヘテロシクロアルキルアルキル基、アリールアルキル基、及びヘテロアリールアルキル基からなる群より選択され、同一であっても異なってもよく、
Xは塩素、臭素、又はヨウ素を表す)
で表される化合物と還元剤の存在下で反応させる工程を含む、
式(3):
【化2】

(式中、Rf、R1、R2、R3、及びR4は、前記の通りである)
で表されるケテンシリルアセタールの製造方法。
【請求項2】
2、R3、及びR4が、独立して、置換又は未置換のメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ベンジル基、フェネチル基、及びフェニル基からなる群より選択される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
1がアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、又はヘテロアリールアルキル基である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
還元剤が酸化可能な金属種を含む、請求項1−3の何れかに記載の製造方法。
【請求項5】
還元剤が金属単体又は合金を含む、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
還元剤が、金属マグネシウム;又は、二ヨウ化サマリウム−金属マグネシウムの組み合わせ;である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
還元剤の存在下における式(1)のα−ケトエステルと式(2)の化合物との反応が−90℃から120℃の範囲で行われる、請求項1−6の何れかに記載の方法。

【公開番号】特開2006−69998(P2006−69998A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−258261(P2004−258261)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)社団法人日本化学会発行、日本化学会第84春季年会 2004年 講演予稿集II、平成16年3月11日発行 (2)The International Conference on Fluorine Chemistry’04 Kyoto、 日本学術振興会 フッ素化学第155委員会主催、2004(平成16)年5月9日から同年5月11日に開催
【出願人】(000157119)関東電化工業株式会社 (68)
【Fターム(参考)】