説明

ケトンの不斉ヒドロシリル化法

式(I)
【化1】


[式中、
Rは所望により置換されているアルキル、シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり;
R’は水素、所望により置換されている低級アルキルであり;そして
R”は水素、ハロゲン、所望により置換されているアルキル、ヒドロキシル、アミノ(例えば、一級、二級または三級)、アルケニルである]
の化合物またはそのエナンチオマー;またはそのエナンチオマー混合物の配位子と遷移金属を有する触媒を使用して基質を不斉ヒドロシリル化する方法。特に好ましい反応はケトンの不斉ヒドロシリル化を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、不斉ヒドロシリル化を使用してケトンをアルコール、例えば、二級アルコールへ変換するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
エナンチオマー的に純粋な二級アルコールの製造のための効率的な方法の開発に向けて、例えば、医薬の製造におけるこれらの中間体の重要性のため、相当な努力がなされている。エナンチオマーアルコールへの直行ルートとしてプロキラルケトンの触媒的不斉還元は最も研究および開発されている戦略の一つである。徹底的な研究が広範囲の単純ケトンに対して優れたエナンチオ選択性を示す不斉水素化に集中しているが、不斉ヒドロシリル化はまた使用される穏やかな反応条件およびその技術的容易さのために多くの注目を集めている。
【0003】
ロジウム(I)およびルテニウム(II)、チタン、亜鉛、スズならびに銅(I)の触媒が介在するプロキラル単純ケトンの不斉ヒドロシリル化は広範囲にわたり研究されている。残念ながら、多くのこれらの反応は日常的に50から500の低基質−リガンド比(S/L)で実施される。高コストの触媒および低基質−触媒比が以前のヒドロシリル化効果を商業的に魅力のないものにしている。
【0004】
より最近、Lipshutz et alはCuClおよび非ラセミ二座ホスフィン(例えば、3,5−xyl−MeO−BIPHEPまたはDTBM−SEGPHOS)とt−BuONaからインサイチュで形成される触媒システムを開発した。Lipshutz et al, ligand-accelerated, copper-catalyzed asymmetric hydrosilylations of aryl ketones, 123 J. AM. CHEM. SOC. 12917-18 (2001)参照。このシステムは安価な化学量論の還元剤、ポリメチルヒドロシロキサン(PMHS)の存在下で、関連するルテニウムベースの不斉水素化で達成されるレベルに近づく100,000までのS/Lでさえ、アリールアルキルおよびヘテロ芳香族性ケトン両方の非常に活性でエナンチオ選択性のヒドロシリル化を可能にした。しかし、該反応は最大エナンチオマー過剰率(ee)のために低温で(例えば、−50℃から−78℃)、標準的なSchlenk技術を使用して行わなければならない。さらに、塩基、例えば、t−BuONaの存在は活性触媒の生成のために必須であった。
【0005】
Olivier Riant et al.はまた最近、環境条件下で低S/L比100−200で中程度から良いエナンチオ選択性の二級アルコールを提供する、同じ変換のための塩基無しおよび空気促進CuF/BINAP/PhSiHシステムを報告した。Sabine Sirol et al., Efficient enantioselective hydrosilylation of ketones catalyzed by air stable copper fluoride-phosphine complexes, 3 ORG. LETT. 4111-13 (2001)参照。Riantのシステムは空気に安定であり、穏やかな反応温度で実施されるが、活性、エナンチオ選択性および基質範囲がLipshutzにより記載されたものには匹敵しない。
【0006】
したがって、高反応性およびエナンチオ選択性をもたらし、穏やかな条件下、通常雰囲気下および塩基の添加なしで実施される二級アルコールを製造するための方法のための触媒システムの必要性がある。本発明は、この必要性に対処する。
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
本発明は、触媒の存在下で、基質、例えば、ケトンをエナンチオマーアルコールに変換するための方法に関する。より具体的には、本発明の方法は、式(I):
【化1】

[式中、
Rは所望により置換されているアルキル、シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり;
R’は水素、所望により置換されている低級アルキルであり;そして
R”は水素、ハロゲン、所望により置換されているアルキル、ヒドロキシル、アミノ(例えば、一級、二級または三級)、アルケニルである]
の化合物またはそのエナンチオマー;またはそのエナンチオマー混合物に結合している遷移金属を有する遷移金属触媒を利用する。
【0008】
本発明の方法は、空気の存在下、例えば、通常雰囲気下で、および中程度の温度、例えば、室温から−20℃で実施できる。さらに、本発明の方法は、反応中に有機または無機塩基の使用が必要ではない。さらに、該方法は例えば20,000−500,000、例えば、30,000−250,000、例えば、50,000−100,000のS/Lモル比を使用する。
【0009】
特定の態様において、遷移金属触媒はリガンド(S)−2,2’,6,6’−テトラメトキシ−4,4’−ビス−(ジフェニルホスフィノ)−3,3’−ビピリジンまたはそのエナンチオマーおよびそのエナンチオマー混合物に結合している銅である。他の態様において、リガンドは2,2’,6,6’−テトラメトキシ−4,4’−ビス[ジ(3,5−ジメチルフェニル)ホスフィノ]−3,3’−ビピリジンまたはそのエナンチオマーおよびそのエナンチオマーの混合物である。
【0010】
さらに他の好ましい態様において、反応はケトンからアルコールへの不斉ヒドロシリル化である。さらなる態様において、反応はジアリールケトンからアルコールへの不斉ヒドロシリル化である。
【0011】
発明の詳細な説明
本発明は、触媒の存在下で不斉反応によりプロキラル基質、例えば、ケトンをエナンチオマーアルコールに変換する方法に関する。より具体的には、本発明は、空気の存在下、または通常雰囲気下で、中程度の温度で有機または無機塩基の添加なしに実施される反応の触媒作用のための遷移金属触媒に結合しているキラルジピリジルホスフィンリガンドの使用に関する。このようなキラルリガンドは、例えば、空気促進、銅(II)触媒不斉ヒドロシリル化反応のためにとりわけ有用である。
【0012】
本明細書で使用されるジピリジルホスフィンリガンドは式(I)
【化2】

[式中、
Rは所望により置換されているアルキル、シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり;
R’は水素、所望により置換されている低級アルキルであり;そして
R”は水素、ハロゲン、所望により置換されているアルキル、ヒドロキシル、アミノ(例えば、一級、二級または三級)、アルケニルである]
の化合物またはそのエナンチオマー;またはそのエナンチオマー混合物を含む。
【0013】
本明細書で使用される“所望により置換されているアルキル”なる用語は1から20個の炭素原子、例えば、1から7個の炭素原子を有する非置換または置換、直鎖または分岐鎖炭化水素基を意味する。非置換アルキル基の例は、限定はしないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、t−ブチル、イソブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、ヘプチル、オクチルなどを含む。置換アルキル基は、限定はしないが、1個またはそれ以上の下記の基:ヒドロキシル、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、シクロアルキル、アルケニルまたはアルコキシにより置換されているアルキル基を含む。
【0014】
本明細書で使用される“低級アルキル”なる用語は1から6個の炭素原子を有する上記の所望により置換されているアルキル基を意味する。
【0015】
本明細書で使用される“アルケニル”なる用語は少なくとも2個の炭素原子を有し、さらに結合点で炭素−炭素二重結合を含む上記アルキル基のいずれか1つを意味する。2から4個の炭素原子を有する基が有用である。
【0016】
本明細書で使用される“ハロゲン”、“ハライド”または“ハロ”なる用語はフッ素、塩素、臭素およびヨウ素を意味する。
【0017】
本明細書で使用される“アルコキシ”なる用語はアルキル−O−を意味する。
【0018】
本明細書で使用される“シクロアルキル”なる用語は所望により置換されている3から6個の炭素原子の単環式脂肪族炭化水素基を意味し、1個またはそれ以上の置換基、例えば、アルキルまたはアルコキシにより置換されていてもよい。
【0019】
単環式炭化水素基の例は、限定はしないが、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどを含む。
【0020】
本明細書で使用される“アリール”なる用語は環部分に6から20個の炭素原子を有する単環式または二環式芳香族性炭化水素基、例えば、フェニル、ビフェニル、ナフチルおよびテトラヒドロナフチルを意味し、そのそれぞれは所望により1から4個の置換基、例えば、所望により置換されているアルキル、シクロアルキルまたはアルコキシにより置換されていてもよい。
【0021】
本明細書で使用される“単環式アリール”なる用語はアリールの下に記載されている所望により置換されているフェニルを意味する。
【0022】
本明細書で使用される、“ヘテロアリール”なる用語は所望により、例えば、低級アルキルまたは低級アルコキシにより置換されている芳香族性ヘテロ環、例えば、単環式または二環式アリール、例えば、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、トリアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、フリル、チエニル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、インドリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチエニル、キノリニル、イソキノリニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾフリルなどを意味する。
【0023】
式(I)の化合物およびそれらの製造法は米国特許第5,886,182号に記載されており、その全体を引用により本明細書に包含させる。
【0024】
必要なとき、本発明の特定の化学変換を実施するために使用される条件下で、存在する官能基を反応成分との望まない反応から保護するために、保護基を導入し得る。特定の反応に対する保護基の必要性および選択は当業者に既知であり、保護される官能基の性質(アミノ、ヒドロキシなど)、その置換基を一部とする分子の構造および安定性ならびに反応条件に依存する。
【0025】
これらの条件に合う既知の保護基ならびにこれらの導入および除去は例えば、McOmie, Protective Groups in Organic Chemistry, Plenum Press, London, NY (1973);およびGreene and Wuts, Protective Groups in Organic Synthesis, John Wiley and Sons, Inc., NY (1999)に記載されている。
【0026】
Rが所望により置換されているアリールであり、R’がアルキルであり、そしてR”が水素である式(I)のジピリジルホスフィン化合物またはそのエナンチオマー;またはそのエナンチオマー混合物が本発明に特に有用である。Rが所望により置換されているフェニルであり、R’がメチルであり、そしてR”が水素である式(I)の化合物がまた本発明に特に有用である。式(I)の化合物の典型的な態様は、(S)−P−Phosまたは(S)−1aとしても示されている(S)−2,2’,6,6’−テトラメトキシ−4,4’−ビス−(ジフェニルホスフィノ)−3,3’−ビピリジン;および(S)−Xyl−P−Phosまたは(S)−1bとしても示されている2,2’,6,6’−テトラメトキシ−4,4’−ビス[ジ(3,5−ジメチルフェニル)ホスフィノ]−3,3’−ビピリジンである。
【0027】
本発明で使用される式(I)のジピリジルホスフィン化合物は、例えば、少なくとも85%ee、例えば、少なくとも95%ee、例えば、98%eeの光学純度を有する。
【0028】
本発明で使用する式(I)の化合物は、後に本発明で使用され得るキラル遷移金属触媒を生成するために、式(I)の化合物またはそのエナンチオマー、またはそのエナンチオマー混合物を適当な遷移金属塩、またはその錯体と反応させることによりキラル遷移金属触媒に変換できる。本発明の触媒の製造のための適当な遷移金属塩、またはその錯体の選択は、例えば本明細書に記載の説明のための実施例から選択され得る。さらなるこのような遷移金属塩の例は、例えば、Seyden-Penne、Chiral Auxiliaries and ligands in Asymmetric Synthesis, John Wiley & Sons, Inc., NY (1995)に見いだし得、これを出典明示により本明細書に包含させる。触媒はインサイチュで生成されるか、または使用する前に単離され得る。
【0029】
キラル遷移金属触媒は式(I)の化合物に結合する適当な遷移金属を含む。
【0030】
触媒システムのための適当な遷移金属は、限定はしないが、銅(Cu)、イリジウム(Ir)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)およびルテニウム(Ru)ならびにそれらの塩を含む。例えば、銅およびその塩が特に有用である。
【0031】
遷移金属が銅である触媒であり、該遷移金属がRが所望により置換されているフェニルであり、R’がメチルであり、そしてR”が水素である式(I)の化合物;またはそのエナンチオマー;またはそのエナンチオマー混合物に結合しているものが本発明に特に有用である。このような触媒の例は、限定はしないが、(S)−P−Phosに結合しているCu(II)および(S)−Xyl−P−Phosに結合しているCu(II)を含む。銅は、例えば、触媒中塩形で存在し得る。銅の塩形は、限定はしないが、CuF、CuCl、CuCl、CuBr、CuBrおよびCuIを含む。これらの触媒はまた空気および酸素の存在下で安定であることが見いだされている。さらに、本発明の触媒は、例えば、酸化剤の存在下で安定である。
【0032】
上記触媒システムは、例えば、官能化されていないケトンのヒドロシリル化に対して特に有用である。さらに、本触媒システムは有機または無機塩基を加える必要なく、多様なアリールアルキルケトンのヒドロシリル化のためのきわめて有効なシステムを提供する。このような反応は空気雰囲気下で中程度の温度で実施できる。本明細書で使用される“中程度の温度”なる用語は室温(RT)から−20℃の範囲の温度を意味する。さらに、ヒドロシリル化源、すなわち水素化物ドナーは、例えば、シラン、例えば、フェニルシラン(PhSiH)、PMHS、ジフェニルシラン(PhSiH)、(PhMeSiH)および(EtSiH)であり得る。
【0033】
各ヒドロシリル化反応(下記)は下記表1のエントリーナンバー5に示す下記代表例で実施する。
【実施例】
【0034】
CuF(5.4mg、0.054mmol)および(S)−Xyl−P−Phos(1b、2.1mg、2.72×10−3mmol)を空気下で計量し、磁気撹拌棒を備えた25mLの丸底フラスコに入れる。トルエン(5.4mL)を加え、混合物をRTで10分間撹拌する。フェニルシラン(800μL、6.43mmol)およびアセトフェノン(2a、640μL、5.43mmol)を激しい撹拌下で連続的に加え、フラスコに栓をする。反応を薄層クロマトグラフィーによりモニタリングする。完了後、反応混合物を10%のHCl(3mL)で処理し、有機生成物をエーテル(3×20mL)で抽出する。合わせた抽出物を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、シリカ栓を通して濾過し、真空濃縮し、粗生成物を得る。生成物(S)−1−フェニルエタノール[(S)−3a]の変換およびeeはNMRおよびキラルガスクロマトグラフィー分析で各々>99%および77%であることが決定される(カラム、Chirasil−DEX CB;25m×0.25mm、CHROMPACK、担体ガス、N)。純生成物をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:4)により単離する。
【0035】
分析に関して、H NMR、13C NMRおよび31P NMRスペクトルはCDCl中でVarian AS 500(500、202および125MHz、各々)でRTで記録する。化学シフト(δ)をppmで示し、残存溶媒ピーク(H NMR、13C NMR)または外部標準(85%のHPO31P NMR)を参照とする。不斉ヒドロシリル化生成物のeeはキラルGCおよびHPLCにより測定される。ガスクロマトグラフィー分析をFID検出器を備えたHP 4890Aで実施する。HPLC分析はWaters 486 UV検出器を備えたWaters Model 600を使用して実施する。旋光度を10cmセルにおいてPerkin−Elmer Model 341 偏光計で測定する。光学的に純粋なP−Phos(1a)およびXyl−P−Phos(1b)を下記文献に記載のとおりに合成する:Cheng-Chao Pai et al., Highly effective chiral dipyridylphosphine ligands: synthesis、structural determination, and applications in the Ru-catalyzed asymmetric hydrogenation reactions, 122 J. AM. CHEM. SOC. 11513-514 (2000)およびJing Wu et al., A new chiral dipyridylphosphine ligands Xyl-P-Phos and its applications in the Ru-catalyzed asymmetric hydrogenation of β-ketoesters, 43 TETRAHEDRON LETT. 1539-43 (2002)(これら両方の全体をを出典明示により本明細書に包含させる)。フッ化銅、フェニルシラン、PMHSおよびケトン基質はSigma-Aldrich Co.(St. Louis, Missouri)またはFisher-Scientific(Acros Organics)(Hampton, New Hampshire)から購入し、特に記載のない限りさらなる精製なしに使用した。
【0036】
一組のハロゲン化銅(I)および銅(II)を、(S)−1aリガンドおよび水素化物ドナーとしてPhSiHを使用する環境温度およびN雰囲気下でのトルエン中のアセトフェノン(2a)のヒドロシリル化において試験する。下記スキーム1参照。
【化3】

【0037】
反応速度の大部分は銅塩におけるハロゲンの選択に依存し、銅前駆体におけるフッ素が活性触媒の生成のために重要である。CuFは、所望の生成物、すなわち、(S)−3aを24時間後、79%のeeの定量的収率で提供する。対照的に、他のCu(I)およびCu(II)塩は他の同じ条件下でより小さい反応性(すなわち、23%未満の変換)を示した。
【0038】
表1に示すとおり、CuFおよび種々のリガンドを有する様々な触媒システムをアセトフェノン2aのヒドロシリル化において試験する。120−700mgの基質がトルエン中で0.6−1Mの基質濃度で還元されるような反応条件である。絶対配置をTakeshi Ohkuma et al., Asymmetric hydrogenation of alkenyl, cyclopropyl, and aryl ketones. RuCl2(xylbinap)(1,2-diamine) as a precatalyst exhibiting a wide scope, 120 J. AM. CHEM. SOC. 13529-30 (1998)(以後“Ohkuma”)のデータで見られる保持時間と比較することにより測定する。
【表1】

【0039】
表1はまた反応システムにおける空気の存在が顕著に、そして驚くべきことに反応速度を促進することを示す。例えば、2aのヒドロシリル化をRTでN下で3mol%のCuFおよび(S)−Xyl−P−Phos(1b)で実施するとき、63%の変換が3時間後に観察される。対照的に、空気下で、完全な変換がエナンチオ選択性の減少なしで2,000のS/Lでわずか数分で観察される。さらに、これは親リガンドP−Phos(1a)のものよりも速い。2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル(BINAP)と比較してP−Phos(1a)およびXyl−P−Phos(1b)の触媒活性の直接比較は、1aおよび1b両方のシステムがBINAPでのシステム[エントリー7に対するデータはSabine Sirol, et al., Efficient enantioselective hydrosilylation of ketones catalyzed by air stable copper fluoride-phosphine complexes, 3 ORG. LETT. 4111-13 (2001)から得られる]よりも優れていることを示す。さらなる研究が室温から−20℃への反応温度の低下がエナンチオ選択性を増強することを示す。
【0040】
表2は空気雰囲気下でCu(II)およびジピリジルホスフィン1により触媒されるアリールアルキルケトン2の不斉ヒドロシリル化を示す。
【表2】

【表3】

反応条件:100mg−42gの基質、基質濃度=0.6−1M、トルエン中、>99%の変換が全ての場合で観察される。
*絶対配置はOhkumaのデータの旋光度または保持時間との比較により決定される。
カラムクロマトグラフィーにより単離される生成物の収量は95%である。
【0041】
1bを使用することによりほとんどの基質の完全なヒドロシリル化は数時間、例えば、4−12時間で実現する。アセトフェノンの芳香環の置換基の位置が反応の結果に影響する。例えば、オルト−置換アセトフェノン(2d−2f)は中程度のエナンチオ選択性(70−77%ee)で所望のアルコールに変換され、一方、メタ−およびパラ−置換アセトフェノン(2g−2o)は常に高いエナンチオ選択性(87−97%ee)を与える。
【0042】
本発明の触媒の活性および空気安定化をさらに評価するために、RTでS/L比20,000で空気中で2oを還元する実験を実施する。非反応2oはわずか30分後には検出されない。さらに、S/L比を100,000ほど高く上げてさえこの反応は生じる。したがって、わずか2mgの(S)−1bの存在下で、42gの2oのヒドロシリル化は円滑にRTで通常雰囲気下で進行し、30時間以内に100%の変換をもたらし、常に高いエナンチオ選択性を有する(S)−3oを提供する。さらに、(S)−1b/CuF/PhSiHの触媒効率を−10℃でS/L比50,000で反応を行うことにより確認する。正味の変換および高いエナンチオ選択性は2mおよび2o両方のヒドロシリル化について維持される。これらの結果はジピリジルホスフィンリガンドを使用する、この空気促進銅(II)−触媒システムの活性がBINAPを使用するものよりも有意に大きいことを示す。
【0043】
金属ホスフィン触媒の使用と関連するよくある問題はとりわけ溶液中で空気感受性であり、反応システムにおいて微量の空気がしばしば活性触媒を破壊し、再現不可能な結果をもたらすことが既知である。驚くべきことに本発明の反応において、空気は反応速度を促進する。
【0044】
下記に表1および2のキラル二級アルコール、すなわち、3a−5hの分析条件を記載する。
1−フェニルエタノール(3a)。Capillary GC, Chirasil−DEX CB カラム;120℃;等温;t(2a)=5.25分;t(R)=10.36分;t(S)=11.09分。
1−フェニルプロパノール(3b)。Capillary GC, Chirasil−DEX CB カラム;122℃;等温;t(2b)=7.35分;t(R)=15.62分;t(S)=16.12分。
1−(2’−ナフチル)エタノール(3c)。Capillary GC, Chirasil−DEX CB カラム;160℃;等温;t(2c)=13.40分;t(R)=20.71分;t(S)=21.65分。
1−(2−メチルフェニル)エタノール(3d)。Capillary GC, Chirasil−DEX CB カラム;140℃;等温;t(2d)=3.79分;t(R)=7.78分;t(S)=8.90分。
1−(2−クロロフェニル)エタノール(3e)。Capillary GC, Chirasil−DEX CB カラム;145℃;等温;t(2e)=4.91分;t(R)=9.40分;t(S)=11.02分。
1−(2−ブロモフェニル)エタノール(3f)。Capillary GC, Chirasil−DEX CB カラム;150℃;等温;t(2f)=5.21分;t(R)=11.79分;t(S)=14.48分。
1−(3−メチルフェニル)エタノール(3g)。Capillary GC, Chirasil−DEX CB カラム;122℃;等温;t(2g)=6.90分;t(R)=14.02分;t(S)=15.05分。
1−(3−メトキシフェニル)エタノール(3h)。Capillary GC, Chirasil−DEX CB カラム;135℃;等温;t(2h)=8.11分;t(R)=16.50分;t(S)=17.63分。
1−(3−ブロモフェニル)エタノール(3i)。Capillary GC, Chirasil−DEX CB カラム;145℃;等温;t(2i)=6.65分;t(R)=15.19分;t(S)=16.32分。
1−(3−トリフルオロメチルフェニル)エタノール(3j)。Capillary GC, Chirasil−DEX CB カラム;125℃;等温;t(2i)=3.82分;t(R)=9.90分;t(S)=11.06分。
1−(4−メチルフェニル)エタノール(3k)。Capillary GC, Chirasil−DEX CB カラム;125℃;等温;t(2k)=6.93分;t(R)=10.78分;t(S)=12.01分。
1−(4−クロロフェニル)エタノール(3l)。Capillary GC, Chirasil−DEX CB カラム;144℃;等温;t(2l)=5.75分;t(R)=10.89分;t(S)=11.97分。
1−(4−ブロモフェニル)エタノール(3m)。Capillary GC, Chirasil−DEX CB カラム;150℃;等温;t(2m)=6.87分;t(R)=13.02分;t(S)=14.15分。
1−(4−トリフルオロメチルフェニル)エタノール(3n)。Capillary GC, Chirasil−DEX CB カラム;125℃;等温;t(2n)=4.72分;t(R)=12.38分;t(S)=14.53分。
1−(4−ニトロフェニル)エタノール(3o)。Capillary GC, Chirasil−DEX CB カラム;172℃;等温;t(2o)=5.86分;t(R)=14.01分;t(S)=15.30分。
【0045】
o−クロロベンズヒドロール(5a)。該変換は30m×0.25mm J & W Scientific INNOWAX カラムを有するcapillary GC;232℃;等温;t(4a)=8.60分;t(5a)=14.88分により測定される。ee値は25cm×4.6mm Daicel Chiralcel OD カラム(溶離剤、10:90 2−プロパノール−ヘキサン;流速=1.0mL/分;検出:254nm光)を有するキラルHPLC分析;t(R)=8.33分;t(S)=10.33分により測定される。
o−フルオロベンズヒドロール(5b)。該変換は30m×0.25mm J & W Scientific INNOWAX カラムを有するcapillary GC;230℃;等温;t(4b)=6.23分;t(5b)=9.95分により測定される。ee値は25cm×4.6mm Daicel Chiralcel OD カラム(溶離剤、4:96 2−プロパノール−ヘキサン;流速=0.4mL/分;検出:254nm光)を有するキラルHPLC分析;t(R)=29.96分;t(S)=34.35分により測定される。
o−メチルベンズヒドロール(5c)。該変換は30m×0.25mm J & W Scientific INNOWAX カラムを有するcapillary GC;230℃;等温;t(4c)=6.18分;t(5c)=11.76分により測定される。ee値は25cm×4.6mm Daicel Chiralcel OD カラム(溶離剤、10:90 2−プロパノール−ヘキサン;流速=0.5mL/分;検出:254nm光)を有するキラルHPLC分析;t(R)=19.96分;t(S)=21.74分により測定される。
o−トリフルオロメチルベンズヒドロール(5d)。該変換は30m×0.25mm J & W Scientific INNOWAX カラムを有するcapillary GC;230℃;等温;t(4d)=5.06分;t(5d)=6.96分により測定される。ee値は25cm×4.6mm Daicel Chiralcel OD カラム(溶離剤、10:90 2−プロパノール−ヘキサン;流速=0.9mL/分;検出:254nm光)を有するキラルHPLC分析;t(R)=6.39分;t(S)=7.64分により測定される。
【0046】
m−メチルベンズヒドロール(5e)。該変換は30m×0.25mm J & W Scientific INNOWAX カラムを有するcapillary GC;232℃;等温;t(4e)=6.90分;t(5e)=10.73分により測定される。ee値は25cm×4.6mm Daicel Chiralcel OD カラム(溶離剤、10:90 2−プロパノール−ヘキサン;流速=0.9mL/分;検出:254nm光)を有するキラルHPLC分析;t=14.96分(副生成物)および27.55分(主生成物)により測定される。
p−クロロベンズヒドロール(5f)。該変換は30m×0.25mm J & W Scientific INNOWAX カラムを有するcapillary GC;232℃;等温;t(4f)=9.20分;t(5f)=19.93分により測定される。ee値は25cm×4.6mm Daicel Chiralcel OD カラム(溶離剤、10:90 2−プロパノール−ヘキサン;流速=0.8mL/分;検出:254nm光)を有するキラルHPLC分析;t(R)=19.98分;t(S)=29.03分により測定される。
p−メチルベンズヒドロール(5g)。該変換は30m×0.25mm J & W Scientific INNOWAX カラムを有するcapillary GC;230℃;等温;t(4g)=8.13分;t(5g)=12.28分により測定される。ee値は25cm×4.6mm Daicel Chiralcel OD カラム(溶離剤、10:90 2−プロパノール−ヘキサン;流速=0.4mL/分;検出:254nm光)を有するキラルHPLC分析;t(R)=28.90分;t(S)=33.38分により測定される。
p−トリフルオロメチルベンズヒドロール(5h)。該変換は30m×0.25mm J & W Scientific INNOWAX カラムを有するcapillary GC;230℃;等温;t(4h)=4.67分;t(5h)=9.62分により測定される。ee値は25cm×4.6mm Daicel Chiralcel OD カラム(溶離剤、10:90 2−プロパノール−ヘキサン;流速=0.8mL/分;検出:254nm光)を有するキラルHPLC分析;t(R)=9.17分;t(S)=11.95分により測定される。
【0047】
表3は空気雰囲気下でCu(II)およびジピリジルホスフィン1による触媒作用で置換されたベンゾフェノン4の不斉ヒドロシリル化を示す。
【表4】

反応条件:100−150mgの基質、基質濃度=0.6−1M、トルエン中。
*絶対配置は下記文献:Takeshi Ohkuma et al., Selective hydrogenation of benzophenones to benzhydrols Asymmetric synthesis of unsymmetrical diaryl metganols, 2 ORGANIC LETT. 659-62 (2000)のデータの旋光度または保持時間との比較により決定された。
カラムクロマトグラフィーにより単離される生成物の収量は95%である。
5dの絶対配置は文献Eric Brown et al., Determination of the ee's of chiral acids by 19F NMR studies of their esters deriving from (R)-(+)-2-(trifluoromethyl)benzhydrol, 5 TETRAHEDRON: ASYMMETRY 1191-94 (1994)およびJunpai Naito et al, Enantioreresolution of fluorinated diphenylmethanols and determination of their absolute s by X-Ray crystallographic and 1H NMR anisotropy methods, 16 CHIRALITY 22-35 (2004)のデータの旋光度との比較により決定された。
【0048】
アリールアルキルケトン同様に、低い反応温度では反応速度を犠牲にして高いエナンチオ選択性を与える。一連のオルト−置換ベンゾフェノン(4a−4d)は良い乃至優れたエナンチオ選択性でベンズヒドロールに還元される。4dの場合において、98%eeの高いエナンチオ選択性は−100℃で(S)−1aリガンドで達成される。加えて、大きいオルト−置換基を有する基質は好都合に反応し、より高いエナンチオ純度の生成物を得た。何らかの特定の理論にとらわれずに、オルト置換基の立体効果が遷移状態におけるC=O官能基を有するベンゼン環の共平面性の程度に影響し、したがって不斉の偏りを生成することは明白である。メタ−およびパラ−置換ベンゾフェノン(4e−4h)は低乃至中程度のエナンチオ選択性で対応するアルコールに変換される。特に、(S)−1aまたは(S)−1bは(R)−配置を有するオルト−置換ベンズヒドロールを提供し、一方絶対配置はパラ−置換生成物に対して逆である。
【0049】
したがって、本発明は、不斉ジアリールケトンを優れたee値でベンズヒドロールに、すなわち、とりわけ98%までのee値でオルト−置換ベンゾフェノンにヒドロシリル化のための方法を提供する。
【0050】
本発明は、発明の詳細な説明と併せて記載されているが、前記説明は説明を意図するものであり、特許請求の範囲により定義される本発明の範囲を限定しないことは理解されている。他の局面、有利な方法および変法は特許請求の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

[式中、
Rは所望により置換されているアルキル、シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり;
R’はアルキルまたはアリールであり;そして
R”は水素、ハロゲン、所望により置換されているアルキル、ヒドロキシル、アミノ、アルケニルである]
の化合物またはそのエナンチオマー;またはそのエナンチオマー混合物に結合している遷移金属を含む、触媒の存在下で、不斉ヒドロシリル化によりプロキラル基質をキラル生成物へ変換する方法。
【請求項2】
Rがフェニルであり;
R’がメチルであり;そして
R”が水素である
化合物またはそのエナンチオマー;またはそのエナンチオマー混合物である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Rが置換フェニルであり;
R’がメチルであり;そして
R”が水素である
化合物またはそのエナンチオマー;またはそのエナンチオマー混合物である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
Rが3,5−(CHである化合物;またはそのエナンチオマー;またはそのエナンチオマー混合物である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
遷移金属が銅、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウムおよびルテニウムならびにそれらの塩からなる群から選択される化合物である請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
遷移金属が銅である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
プロキラル基質がプロキラルケトンである請求項5に記載の方法。
【請求項8】
キラル生成物がアルコールである請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
プロキラルケトンがベンゾフェノンであり、そしてアルコールがベンズヒドロールである請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
式(I):
【化2】

[式中、
Rは所望により置換されているアルキル、シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり;
R’はアルキルまたはアリールであり;そして
R”は水素、ハロゲン、所望により置換されているアルキル、ヒドロキシル、アミノ、アルケニルである]
の化合物またはそのエナンチオマー;またはそのエナンチオマー混合物に結合している遷移金属を含む、触媒の存在下で、塩基の添加なしに不斉ヒドロシリル化によりプロキラル基質をキラル生成物へ変換する方法。
【請求項11】
Rがフェニルであり;
R’がメチルであり;そして
R”が水素である
化合物またはそのエナンチオマー;またはそのエナンチオマー混合物である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
Rが置換フェニルであり;
R’がメチルであり;そして
R”が水素である
化合物またはそのエナンチオマー;またはそのエナンチオマー混合物である請求項10に記載の方法。
【請求項13】
Rが3,5−(CHである化合物;またはそのエナンチオマー;またはそのエナンチオマー混合物である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
遷移金属が銅、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウムおよびルテニウムならびにそれらの塩からなる群から選択される化合物である請求項10に記載の方法。
【請求項15】
遷移金属が銅である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
プロキラルケトンがベンゾフェノンであり、そしてアルコールがベンズヒドロールである請求項15に記載の方法。
【請求項17】
キラル生成物がアルコールである請求項10に記載の方法。
【請求項18】
中程度の温度で実施する請求項10に記載の方法。
【請求項19】
空気の存在下で実施する請求項10に記載の方法。
【請求項20】
高いS/L比を使用する請求項10に記載の方法。
【請求項21】
S/L比が20,000−500,000である請求項10に記載の方法。
【請求項22】
該反応が水素化物ドナーとしてシランを含む請求項20に記載の方法。
【請求項23】
式(I):
【化3】

[式中、
Rは所望により置換されているアルキル、シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり;
R’はアルキルまたはアリールであり;そして
R”は水素、ハロゲン、所望により置換されているアルキル、ヒドロキシル、アミノ、アルケニルである]
を有するリガンドまたはそのエナンチオマー;またはそのエナンチオマー混合物に結合している遷移金属を含む触媒。
【請求項24】
遷移金属が銅、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウムおよびルテニウムならびにそれらの塩からなる群から選択される請求項23に記載の触媒。
【請求項25】
遷移金属が銅またはその塩である請求項23に記載の触媒。
【請求項26】
遷移金属がCuFであり、かつリガンドが2,2’,6,6’−テトラメトキシ−4,4’−ビス−(ジフェニルホスフィノ)−3,3’−ビピリジン;そのエナンチオマー;またはそのエナンチオマー混合物である請求項23に記載の触媒。
【請求項27】
遷移金属がCuFであり、かつリガンドが2,2’,6,6’−テトラメトキシ−4,4’−ビス[ジ(3,5−ジメチルフェニル)ホスフィノ]−3,3’−ビピリジン;そのエナンチオマー;またはそのエナンチオマー混合物である請求項23に記載の触媒。

【公表番号】特表2008−530237(P2008−530237A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−556326(P2007−556326)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際出願番号】PCT/US2006/005669
【国際公開番号】WO2006/089129
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(501060541)ザ・ホンコン・ポリテクニック・ユニバーシティ (6)
【氏名又は名称原語表記】The Hong Kong Polytechnic University
【Fターム(参考)】