説明

ケラチン含有繊維用カチオン染料

【課題】染料を使用してケラチン含有繊維、特にヒトの毛髪を処理する染色方法。
【解決手段】下記の式(3)又は(4)の染料で染色する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はケラチン含有繊維、特に人の毛髪をカチオン染料で染色するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪染色の大部分は今でもいわゆる“酸化カラー”を使用して行われている。
これは毛髪に小分子の無色前駆物質を付与しそしてこの前駆物質を酸化法で反応して着色大分子を形成するものである。これによって最も長持ちのする(“パーマネント”)染色がなされる。しかし、出発物質として使用される物質のみならず、その正確な組成が実質的に制御不可能である酸化中間生成物および最終生成物によっても毒物学的危険の可能性があるので、使用について留保条件つけられることが多くなっている。さらに別の欠点として、使用が比較的複雑であることおよび、特に、使用される攻撃的薬品による髪の損傷がある。
【0003】
他方、いわゆる“セミパーネント”毛染め、および“一時的”毛染めと呼ばれている方法では既に出来上がっている染料、一次荷電されていない分散染料あるいは比較的水難溶性の酸性染料が使用される。この毛染め方法では、カチオン染料はほとんど評価されていない。“セミパーマネント”や“一時的”という用語が示すように、このための染料は中程度乃至低度の堅牢度を有するに過ぎない。
特にカチオン染料はその低い耐加水分解および耐光堅牢性のため、かつまた、たとえば、毛根と毛先との間で髪を均染できないため良い評判を得ていない(John F.Corbett:The Chemistry of Hair-care Products,JSDCAugust 1976、p.290)。さらに加えて、公知のカチオン染料はビルド-アップ性が不十分である。すなわち、使用量を増加しても、ある比較的低い色濃度レベルを超えることができない。たとえば、実際に使用されている最も重要なカチオンヘヤーダイであるベーシックイエロー57、ベーシックレッド76、ベーシックブルー99、ベーシックブラウン16、ベーシックブラウン17を使用しても濃い黒色に毛髪を染めることはできない。同じ理由から、これらの染料を使用して比較的濃いナチュラルヘヤーを染色することは不可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
今回驚くべきことに、後記式のカチオン染料がこれらの欠点をまったく有していないことが見いだされた。これらの染料は非常に簡単な方法かつ温和な条件のもとで、優れた耐光堅牢性、シャンプー堅牢性および摩擦退色堅牢性を有する非常に濃い染色を達成するために使用することができる。その極めてクリーンな色相の故に、これら染料は混合色相の可能範囲をかなり、特に最近重要性が増しているブリリアントファッションカラーの方面で、拡大するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
したがって、本発明は下記式のいずれかの染料を使用してケラチン含有繊維を処理することを特徴とするケラチン含有繊維の染色法を提供するものである:
【化1】

【化2】

【化3】

上記の各式において、Dは式
【化4】

のジアゾ成分の残基であり、R1は未置換C1-C4アルキルまたはOH−、C1-C4アルコキシ−、ハロゲン−、CN−、アミノ−、C1-C4 モノアルキルアミノ−またはジ−C1-C4アルキルアミノ−置換のC1-C4アルキル、R2とR3は互いに独立的に水素、未置換C1-C4アルキルまたはOH−、C1-C4アルコキシ−、ハロゲン−、CN−、アミノ−、C1-C4モノアルキルアミノ−またはジ−C1-C4アルキルアミノ−置換のC1-C4アルキルであるか、あるいはR3とR2はそれらが結合している窒素原子と一緒で5員または6員環を形成する、R4は水素またはCN、R5は水素、C1-C4アルコキシ、ハロゲン、C1-C4アルキルまたはC1-C4アルキルカルボニルアミノであるか、あるいは、R5とR2はそれらが結合している窒素原子および炭素原子と一緒で5員または6員環を形成する、R6は水素または未置換C1-C4アルキルまたはOH−、C1-C4アルコキシ−、ハロゲン−、CN−、アミノ−、C1-C4モノアルキルアミノ−、ジ−C1-C4アルキルアミノ−またはトリ−C1-C4アルキルアンモニウム−置換のC1-C4アルキル、R7は水素、未置換またはOH−、C1-C4アルコキシ−、ハロゲン−、CN−、アミノ−、C1-C4モノアルキルアミノ−またはジ−C1-C4アルキルアミノ−置換のC1-C4アルキルまたはC1−C4アルコキシであり、D1は式
【化5】

のジアゾ成分の残基、Kは式
【化6】

のカップリング成分の残基、ただし、D1またはKのいずれかは陽電荷を有するものとする、R8は水素、C1-C4アルキル、C1-C4アルコキシ、ハロゲンまたはアミノR9はヒドロキシルまたはアミノ、AはCNまたはトリ−C1-C4アルキルアンモニウム置換C1-C4アルコキシカルボニル、Bは式
【化7】

の残基、Eは式
【化8】

の残基、R10とR11は互いに独立的に水素または未置換あるいはOH−、C1-C4アルコキシ−、ハロゲン−、CN−、アミノ−、C1-C4モノアルキルアミノ−またはジ−C1-C4アルキルアミノ−置換のC1-C4アルキルであるか、あるいはR10とR11はそれらが結合している窒素原子と一緒で5員または6員環を形成する、
【数1】

【0006】
本発明の目的において、アルキル基は一般に直鎖状または分枝状C1-C4アルキル基である。適当なものを例示すればメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチルまたはtert−ブチルである。
適当なアルコキシ基は1乃至4個の炭素原子を有するものであり、たとえば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシまたはtert−ブトキシである。
ハロゲンはフッ素、臭素、ヨウ素または特に塩素を意味するものと理解されるべきである。
【0007】
5とR2がそれらが結合している窒素原子および2つの炭素原子と一緒で5員または6員環を形成する場合、その環はさらにヘテロ原子、たとえば、酸素または硫黄を含有することができる。さらに、その環は、たとえば、ヒドロキシル、アルコキシ、アルキル、ハロゲン、CNまたはフェニルによって置換されていてもよく、あるいはまた、さらに1つの融合ベンゼン環を有していることができる。R5、R2、それらが結合している炭素原子及び窒素原子によって形成される好ましい環はピロリン、ジヒドロオキサジンおよび0乃至4個のメチル基を有するジ−またはテトラヒドロピリジン環である。
【0008】
2とR3もそれらが結合している窒素原子と一緒でピペリジン、モルホリンまたはピペラジン残基を形成することができる。ピペラジン残基はフェニル環に結合していない窒素原子の位置においてC1-C4アルキルまたはヒドロキシC1-C4アルキルまたはアミノC1−C4アルキルによって置換されていてもよい。好ましい置換分はヒドロキシエチルである。
【数2】

【0009】
例示すれば、塩化物、臭化物、硫酸塩、硫酸水素塩、メト硫酸塩、リン酸塩、四フッ化ホウ素、炭酸塩、炭酸水素塩、シュウ酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩などの陰イオンまたは錯塩陰イオンたとえば塩化亜鉛複塩の陰イオンである。
陰イオンは通常製造法によりきまる。好ましい陰イオンは塩化物、硫酸塩、硫酸水素塩、メト硫酸塩、リン酸塩、ギ酸塩、酢酸塩または乳酸塩の陰イオンである。
本発明の方法で染色するためには、式(1)または(2)の染料を使用するのが好ましい。
【0010】
式(1)の染料の中でも、R1が未置換C1-C4アルキル、特にメチルまたはエチルであるものが特に好ましい。
さらに、R2とR3が互いに独立的に水素または未置換C1-C4アルキル、特にメチルまたはエチルである式(1)の染料およびR5が水素、メトキシ、エトキシ、塩素、メチルまた はエチルである式(1)の染料が好ましい。
【0011】
式(1)の染料の中では、Dが式
(式中、R1は未置換C1-C4アルキル、特にメチルまたはエチル、そしてR2は水素または未置換C1-C4アルキル、特にメチルまたはエチルである)のジアゾ成分の残基であるものが特に好ましい。
【化9】

好ましい式(2)の染料はD1が式
【化10】

のジアゾ成分の残基そしてKが式
【化11】

のカップリング成分の残基であるものならびにD1が式
【化12】

のジアゾ成分の残基そしてKが式
【化13】

のカップリング成分の残基であるものである。
上記各式において、R1は未置換C1-C4アルキル、特にメチルまたはエチル、R2とR3は互いに独立的に水素または未置換C1-C4アルキル、特にメチルまたはエチル、そして、R9はヒドロキシルまたはアミノである。
【0012】
式(3)の染料においては、残基A又は残基R6のいずれかがトリアルキルアンモニウム基を有していなければならない。
好ましい式(3)の染料はAがCN、R5が水素または未置換C1-C4アルキル、特にメチルまたはエチル、R2が未置換C1-C4アルキル、特にメチルまたはエチル、そしてR6がトリ−C1-C2アルキルアンモニウムであるものである。
式(3)の染料におけるトリアルキルアンモニウム基Aは好ましくはトリ−C1-C2アルキルアンモニウム基である。この染料において、R2とR6は好ましくは互いに独立的に水素または未置換C1-C4アルキル、特にメチルまたはエチルを意味し、そしてR5は好ましくは 水素、メトキシ、エトキシ、塩素、メチルまたはエチルである。
【0013】
好ましい式(4)の染料においては、R1は未置換C1-C4アルキル、特にメチルまたはエチルであり、そしてR2とR5は互いに独立的に水素または未置換C1-C4アルキル、特にメチルまたはエチルである。
式(5)の染料の中では、R1が未置換C1-C4アルキル、特にメチルまたはエチルであるものが好ましい。
【0014】
また、R2とR3が互いに独立的に水素または未置換C1-C4アルキル、特にメチルまたはエチルである式(5)の染料が特に好ましい。
式(6)の染料においては、好ましくはR1は未置換C1-C4アルキル、特にメチルまたはエチル、そしてEは式
【化14】

(式中、R2とR3は互いに独立的に水素または未置換C1-C4アルキル、特にメチルまたはエチル、R5は水素または未置換C1-C4アルキル、特に水素である)の基である。
【0015】
式(7)の染料の中では、R1が未置換C1-C4アルキル、特にメチルまたはエチルであるものを使用するが好ましい。
また、R2とR3が互いに独立的に水素または未置換C1-C4アルキル、特にメチルまたはエチル、かつR10とR11がそれぞれ水素である式(7)の染料が特に好ましい。
式(8)の染料においては、好ましくはR1は未置換C1-C4アルキル、特にメチルまたはエチルである。
2、R3、R10、R11が互いに独立的に水素または未置換C1-C4アルキル、特にメチルまたはエチルを意味する式(8)の染料が特に好ましい。
【0016】
式(9)の染料の中では、R1とR2がそれぞれ未置換C1-C4アルキル、特にメチルまたはエチルであるものを使用するのが好ましい。
式(1)乃至(9)の染料は公知であるかまたはそれ自体公知の方法で製造することができる。
【0017】
本発明はさらに式(1)乃至(9)のうちの少なくとも2種のカチオン染料の混合物でケラチン含有繊維を処理することを特徴とするケラチン含有繊維の染色方法を提供する。
好ましくは、式(1)乃至(9)のうちの少なくとも3種のカチオン染料の混合物、特に式(1)乃至(9)のうちの黄、赤、青のカチオン染料の混合物が使用される。
【0018】
本発明の方法は毛皮および動物またはヒトの毛髪を染色するため、特に生きているヒトの毛髪および家畜の毛髪を染色するために好適である。使用される染料の高い染着性と良好な水溶性のために、いかなる助剤なしでも室温で水性溶液から染色を実施することが可能である。
【0019】
しかしながら、毛髪の染色に使用されるカチオン染料のために通常使用されている任意の助剤、たとえば、湿潤剤、膨潤剤、浸透助剤または芳香剤を使用することも可能である。さらに、本染料はシャンプー、クリーム、ゲルまたはペーストの中に配合することもできる。このような上記式(1)乃至(9)の少なくとも1つの染料とさらに助剤も含有する毛髪染色のための化粧品組成物もまた本発明の対象の一部である。
【発明の効果】
【0020】
本発明により毛髪の染色のために使用される染料の特別な利点は、それら染料のビルド・アップ性が良好なので、染色物を三色法の原理によって製造することができることである。すなわち、黄染料と赤染料と青染料を適当に混合することによって実質的にすべての色相を得ることができる。さらに、得られる色相の正確な予想が可能である。これはいわゆる“酸化染料”の場合では最終生成物の組成のばらつきのため不可能である。
比色測定法を使用すれば、毛髪の本来の色の黄成分、赤成分、青成分を測定しそして所望の色相の処方からその色相を推定することによって、天然未漂白の毛髪を予測した色相に染めることも可能である。これは従来使用されているヘヤーダイでは実現できないことである。
【0021】
得られた染色物は摩擦退色、水、洗濯および光に対して堅牢でありそしてパーマネント髪型変形剤、たとえばチオグリコール酸に対して安定である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、実施例により本発明を説明する。部とパーセントは重量ベースである。
温度は摂氏で与えられている。
【0023】
[実施例1]
編んで束ねた天然未処理のブロンド色ヒト毛髪を常用方法で下記成分を含有する染料エマルジョンを使用して25℃で5分間染色した。
下記式の青染料 0.1%
【化15】

Cetearyl Alcohol 3.5%
Ceteareth 80 1.0%
グリセリルモノ−ジステアリン酸エステル 0.5%
ステアロアミド(stearamide)DEA 3.0%
ステアロアムホプロビルスルホネート 1.0%
(stearamphopropylsulfonate)
ポリクワテルニウム−6 0.5%
(polyquaternium-6)
水 100%まで。
このあと、毛髪を十分に水ですすぎ洗いしそして自然乾燥した。濃いブリリアントブルーに染色された毛髪を得た。本発明による染色物の光、シャンプー、摩擦に対する堅牢度は優秀であった。
【0024】
[実施例2] 式
【化16】

の染料を使用して実施例1をくり返したところ、同様に優れた堅牢性を有する鮮明な黄色に染色された毛髪を得た。
【0025】
[実施例3] ココアムホグリシネート(cocoamphoglycinate)10%と水90%とを含有する界面活性剤ベース中の式
【化17】

の染料の1%溶液を漂白した中国ヤクの毛に25℃の温度で5分間付与し、そのあと毛を十分に水ですすぎ洗いして自然乾燥した。良好な耐光堅牢性を有する鮮明な赤色に染色された毛を得た。
【0026】
[実施例4〜35] 次表に記載した染料を使用して実施例1乃至3に記載した方法で染色を実施したところ、表に記載した色相の毛髪の染色物を得た。
【化18】

【化19】

【化20】

【化21】

【化22】

【化23】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケラチン含有繊維の染色方法に於て、式
【数1】

[上記の各式において、
AはCNまたはトリ−C1-C4アルキルアンモニウム置換C1-C4アルコキシカルボニル、
Bは式
【数2】

の残基、
2は水素、未置換C1-C4アルキルまたはOH−、C1-C4アルコキシ−、ハロゲン−、CN−、アミノ−、C1-C4モノアルキルアミノ−またはジ−C1-C4アルキルアミノ−置換のC1-C4アルキルである、
4は水素またはCN、
5は水素、C1-C4アルコキシ、ハロゲン、C1-C4アルキルまたはC1-C4アルキルカルボニルアミノであるか、あるいはR5とR2はそれらが結合している窒素原子および炭素原子と一緒で5員または6員環を形成する、
6は水素または未置換C1-C4アルキルまたはOH−、C1-C4アルコキシ−、ハロゲン−、CN−、アミノ−、C1-C4モノアルキルアミノ−、ジ−C1-C4アルキルアミノ−またはトリ−C1-C4アルキルアンモニウム−置換のC1-C4アルキル、
【数3】

は無色陰イオンである]の染料を使用して当該繊維を処理することを特徴とする染色方法。
【請求項2】
請求項1記載の染料の少なくとも1種及びさらに助剤を含有する毛髪染色のための化粧品組成物。
【請求項3】
請求項1記載の染料の少なくとも2種の混合物を使用することを特徴とする生きている動物およびヒトの毛髪を染色する方法。

【公開番号】特開2007−182450(P2007−182450A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51072(P2007−51072)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【分割の表示】特願2005−57793(P2005−57793)の分割
【原出願日】平成6年11月18日(1994.11.18)
【出願人】(396023948)チバ スペシャルティ ケミカルズ ホールディング インコーポレーテッド (530)
【氏名又は名称原語表記】Ciba Specialty Chemicals Holding Inc.
【Fターム(参考)】