ケーシングボーリング装置、及びケーシングボーリング工法
【課題】地盤に貫入したケーシングを容易に揚収することができるケーシングボーリング装置を提供する。
【解決手段】下端が尖った筒状のケーシング1と、ケーシング1に荷重を下方に付与する荷重付与手段と、ケーシング1の下端付近の地盤Gを排除する除荷手段と、地盤Gに貫入したケーシング1を上方へ引き抜く揚収手段を備えたケーシングボーリング装置において、ケーシング1の外径側に、ケーシング1の抜けが可能であり、ケーシング1の抜け後に内径側への変形が可能な外筒体12を、潤滑材18を介して被覆し、潤滑材18を昇温する温度調整手段22を備えた。
【解決手段】下端が尖った筒状のケーシング1と、ケーシング1に荷重を下方に付与する荷重付与手段と、ケーシング1の下端付近の地盤Gを排除する除荷手段と、地盤Gに貫入したケーシング1を上方へ引き抜く揚収手段を備えたケーシングボーリング装置において、ケーシング1の外径側に、ケーシング1の抜けが可能であり、ケーシング1の抜け後に内径側への変形が可能な外筒体12を、潤滑材18を介して被覆し、潤滑材18を昇温する温度調整手段22を備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤の調査・観察のために行うケーシングボーリング装置、及びケーシングボーリング工法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、地質ボーリング調査は、海浜付近や山間地等の交通に不便な箇所が多く、ロータリーボーリング装置等の重量機器を使用する場合は、その装置の運搬に多大な労力とコストを要している。
【0003】
このため、下記の特許文献1に示すような軽量であって運搬し易いケーシングボーリング装置が提案されている。図1は本発明の実施形態を示すものであるが、同図を便宜的に援用して特許文献1のボーリング装置について説明する。このボーリング装置は、図1に示すように、筒状のケーシング1と、ケーシング1に対し下方に静的な荷重を付与してケーシング1を地盤Gに貫入させる荷重付与手段2と、地盤Gに貫入したケーシング1の下端付近の土砂を吸引する吸引管30を主要な構成要素としている。
【0004】
図9はケーシング1の下端部の拡大図であり、同図に示すように、ケーシング1の下端は尖っており、詳しくは、ケーシング1の下端内周面1aが先端に向かうにつれて外径側に傾斜している。荷重付与手段2にてケーシング1に下方へ貫入力Pv(等分布荷重)を付与すると、ケーシング1の下端内側の地盤に作用する直力Piと、ケーシング1の下端外側の地盤に作用する直力Po、及び剪断力Fvに分力する。ケーシング1の外側地盤には、直力Poと剪断力Fvが作用し、この直力Poに対してはケーシング1の剛性で安定する。ケーシング1の内側地盤には、直力Piと剪断力Fvが作用し、地盤にはそれに抵抗する円形状すべり面が生じて、ある貫入力の時に安定する。
【0005】
図9のようにケーシング1が初期貫入で安定している状態において、内側地盤の反力となっている土砂の上部を吸引管30で吸引排除(除荷)することにより、その取り除いた土砂重量相当分と貫入量減少による剪断力減少分だけケーシング1が再貫入する。図10は再貫入の様子を示し、ケーシング1は深さHxだけ再貫入して安定する。このケーシングボーリング装置は、この作用を利用してケーシング1の下端の内側の土砂を吸引除去することを繰り返して、地盤内にケーシング1を徐々に貫入させていくものである。
【0006】
ケーシングを地盤内に貫入させて地盤調査を行った後は、ケーシング1を引き抜く。この引き抜き作業を容易にする方法が提案されている(特許文献2)。特許文献2のものは、ケーシングの外径側に、例えばグリースやワセリン等の潤滑材を介して外筒体を配設する。これにより、ケーシングを引き抜く際、潤滑材の作用によりケーシングは外筒体の内面をスムーズに摺動して、地面へと引き上げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−257657号公報
【特許文献2】特開2008−231730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、一般的に、潤滑材は温度低下に伴いその機能が低下するため、特に寒冷地や高地で作業する場合等、温度が低いと潤滑材が機能しにくくなる。これにより、低温環境で特許文献2に記載の方法を使用しても、ケーシングがスムーズに引き抜けない場合があった。
【0009】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、地盤に貫入したケーシングを容易に揚収することができるケーシングボーリング装置及びケーシングボーリング工法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のケーシングボーリング装置は、下端が尖った筒状のケーシングと、当該ケーシングに対して荷重を下方に付与する荷重付与手段と、前記ケーシングの下端付近の地盤を排除する除荷手段と、地盤に貫入した前記ケーシングを上方へ引き抜く揚収手段を備えたケーシングボーリング装置において、前記ケーシングの外径側に、ケーシングの抜けが可能であり、ケーシングの抜け後に内径側への変形が可能な外筒体を、潤滑材を介して被覆し、使用状態における温度範囲よりも高い潤滑性を示す温度に前記潤滑材を調整可能な温度調整手段を備えたものである。
【0011】
本発明のケーシングボーリング装置は、温度調整手段を備えているので、潤滑材の温度を調整(例えば昇温)することができ、潤滑材としての機能を向上させることができる。これにより、潤滑材の温度を調整した後に、地盤に貫入したケーシングと外筒体の揚収作業を行うと、ケーシングは外筒体の内面をスムーズに摺動して、地上へと引き上げられる。
【0012】
前記温度調整手段を、前記ケーシングの内径側に設けることができる。これにより、温度調整手段はケーシングの内径よりも小さなものとできるため、装置の小型化を図ることができ、省スペースなものとできる。
【0013】
前記ケーシングに、ケーシング内外で空気を循環させる孔部を備えることができる。これにより、ケーシング内外で空気を通気させることができるため、潤滑材の温度を均一なものとできて、その機能を均一なものとできる。
【0014】
前記潤滑材は蜂蜜を含むものとすることができる。蜂蜜の滑材としての性能は高性能であり、クーロン式単純せん断試験では、ワセリンやグリースの換算せん断抵抗角φが約6.7度に対して蜂蜜は約0.85度である。また、市販品で入手が容易であり現場作業が容易に行える、低コストである、劣化しにくいとの利点がある。
【0015】
本発明のケーシングボーリング工法は、下端が尖った筒状のケーシングの外周面と、可撓性の外筒体の内周面のうち少なくとも一方に、潤滑材を塗布すると共に、前記外筒体内にケーシングを挿入する工程と、前記ケーシングに対して荷重を下方に付与すると共に、ケーシングの下端付近の地盤を排除して、ケーシングと外筒体を一緒に地盤に貫入させる工程と、前記潤滑材を、使用状態における温度範囲よりも高い潤滑性を示す温度に昇温させる工程と、地盤に貫入した前記ケーシングに対して引抜き力を上方に付与して、ケーシングを前記外筒体に対し摺動させて引き抜く工程と、前記外筒体を掘削孔内から回収する工程を有するものである。
【0016】
本発明のケーシングボーリング工法は、潤滑材を昇温して潤滑材としての機能を向上させる。これにより、潤滑材を昇温した後に、地盤に貫入したケーシングと外筒体の揚収作業を行うと、ケーシングは外筒体の内面をスムーズに摺動して、地上へと引き上げられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のケーシングボーリング装置及びケーシングボーリング工法によれば、地盤へ貫入したケーシングを、従来よりも小さな力で容易に引き上げて回収することができる。従って、大掛かりなケーシング揚収装置をボーリングの現場に持ち込む必要がなく、作業コストの削減と作業安全性の向上を図れる。しかも、温度調整手段を備えており、潤滑材としての機能を向上させることができるため、潤滑材の機能しにくい温度環境でもケーシングをスムーズに引き上げて回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るケーシングボーリング装置の実施の一形態を示す全体構成図である。
【図2】図1の装置における地盤ボーリング時の要部を模式的に示した要部縦断面図である。
【図3】図1の装置におけるケーシングであり、(a)は横断面図、(b)は縦断面図、(c)は展開図である。
【図4】外筒体の縦断面図である。
【図5】(a)は図1の装置の要部横断面図であって、(b)は(a)の拡大図である。
【図6】図1の装置における揚収時の要部を模式的に示した要部縦断面図である。
【図7】本発明の他の実施形態を示す要部縦断面図である。
【図8】本発明の別の実施形態を示す要部縦断面図である。
【図9】図1の装置におけるケーシングの初期貫入安定時の力学図である。
【図10】図1の装置におけるケーシングの貫入進行(掘進)時の力学図である。
【図11】潤滑材の減摩効果を示すグラフ図である。
【図12】温度調整手段をケーシングの内径側に設けた場合の土層温度と揚収力との関係を示すグラフ図である。
【図13】温度調整手段をケーシングの内径側に設けない場合の土層温度と揚収力との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
本発明に係るケーシングボーリング装置は、砂質地盤や軟弱粘土性地盤などの自立性の弱い地盤の比較的浅い(深さ10m程度まで)ボーリング調査・観察に適用されるものである。図1に示すように、ケーシングボーリング装置Aは、円筒状ケーシング1と、ケーシング1を地盤Gに静的貫入させるための荷重付与手段2と除荷手段3、ケーシング1を引き上げるための揚収手段4、温度調整手段22(図2参照)を備える。ケーシング1の素材としては、例えば透明アクリル樹脂等である。
【0021】
ケーシング1の上端には、延伸枠5が連結されており、延伸枠5は地盤Gへのボーリングの深さに応じて必要本数がケーシング1上に同軸に連結される。最上段の延伸枠5の上端には、荷重伝達枠20が連結され、この荷重伝達枠20の上に、荷重付与手段2として、例えば錘板からなるウェイト21が載置してある。
【0022】
地盤G上に脚立式の支持枠6が設置され、支持枠6の上端部に設けた滑車7に懸架したワイヤ8の一端に、吊り輪9を介して吊りロッド10が連結されている。支持枠6の上下中間位置に横架した軸保持枠11を吊りロッド10が貫通することで、吊りロッド10の振れが防止される。この吊りロッド10の下端部に荷重伝達枠20を連結して、延伸枠5とケーシング1を鉛直に吊下支持する。また、ワイヤ8の他端には、吊り輪41を介して、揚収手段4としてのウェイト40(錘板)が連結されている。
【0023】
図1に示す除荷手段3は、地盤G上に設置した吸引力制御装置兼土水貯留装置31から延びる吸引管30を備える。吸引制御装置兼土水貯留装置31は、外部の真空吸引手段32に連接された土水貯留タンク構造で、吸引管30から吸引された土砂、地下水を貯留する。なお、除荷手段3は、吸引管30を用いた吸引掘削以外に、オーガー掘削又はバケット掘削などの他の手段であってもよい。
【0024】
図2は図1の要部を模式的に表した図であり、図2に示すように、ケーシング1の下端内周面1aは先端に向かうにつれて外径側に傾斜して、先端が周方向に連続して尖っている。ケーシング1には、周方向及び軸方向に沿って所定ピッチで複数の孔部27が設けられている。本実施形態では、孔部27は直径3mmの貫通孔となっている。この孔部27は直径3mmで、図3(a)に示すようにケーシング1の周方向に沿って20度配置としており、図3(b)(c)に示すように、その軸方向(上下方向)に沿って20mmピッチで配設されるとともに千鳥配置としている。これは一線上に孔部27を配置することによるケーシング1の強度低下対策として行っているものである。従ってこのように千鳥配置とするとともに孔部27の大きさは3mm程度以下とするのが好ましく、これによりケーシング1の強度を維持することができる。この場合、ケーシング1全体の孔部27の配置数において、軸方向(上下方向)に何cmずつ配設するかは、地盤温度に対応したものとする。すなわち、極寒冷地であるか、氷結しない程度か、10数度かによって異なり、またケーシング径によっても異なる。ケーシング1の外径側には、可撓性の外筒体12が配設され、この外筒体12は、外径側の筒状薄膜13と内径側の薄板部材14から構成されている。
【0025】
筒状薄膜13は、塩化ビニルや軟質アクリル等の軟質樹脂製の薄い膜を筒状に形成した部材であり、薄板部材14は、アクリル等の硬質樹脂製の帯板状の部材である。図4に示すように、この筒状薄膜13の内周面に、軸方向に延びる薄板部材14が周方向に複数配設され、筒状薄膜13と薄板部材14は接着され一体となっている。
【0026】
図5(a)(b)の横断面図に示すように、各薄板部材14は筒状薄膜13の周方向に等間隔に配置され、各薄板部材14相互間に隙間Sがあることにより、外筒体12は変形し易く優れた可撓性を有する。これにより、外筒体12は、ケーシングの抜けを可能とするとともに、ケーシング1の抜け後に内径側への変形が可能となる。また、薄板部材14の配置角が小さいほど、揚収力は小さくなる。薄板部材14が平板状であるため、薄板部材14の内面14aとケーシング1の外周面1bとの接触は、線接触ないし細長い面接触となり、接触面積は少なくなっている。
【0027】
また、ケーシング1に対して外筒体12が上方へ移動するのを規制する係止部15を設けている。具体的には、外筒体12の下端を内径側に折り曲げて係止部15を形成する。この実施形態では、外筒体12の下端の折曲げ部16の先端から上方に延伸した内筒部17を形成して(図2又は図5参照)、係止力を向上させている。
【0028】
図2に示すように、ケーシング1の外周面1bと、外筒体12の薄板部材14の内面14aとの間には、潤滑材18を介在させている。潤滑材18としては、蜂蜜を含むものを使用する。蜂蜜の潤滑材としての機能は高機能であり、クーロン式単純せん断試験では、ワセリンやグリースの換算せん断抵抗角φが約6.7度に対して蜂蜜は約0.85度である。ケーシング1と外筒体12の間に介在する潤滑材18は、その内部に気泡が混入しないように非常に薄く延ばされている。なお、図5(a)(b)では、潤滑材18は図示省略している。
【0029】
温度調整手段22は、使用状態における温度範囲よりも高い潤滑性を示す温度に潤滑材18を調整するものであり、ケーシング1の内径側に設けられている。この温度調整手段22は、その周囲を昇温するものであり、図2に示すように、20Wのシリカ電球23と、このシリカ電球23を支持する枠体24と、枠体24に取付けられた4本の支柱25と、シリカ電球23を図示省略のスイッチに連結するためのケーブル26とから構成されている。スイッチを入れてシリカ電球23を点灯させると、シリカ電球は熱を発生して地盤全体が温められるとともに、潤滑材18を昇温することができる。この場合、潤滑材18の温度が80℃以下となるようにするのが好ましい。80℃を超える高温となると、潤滑材18は化学変化が生じ、それ自身が劣化することになるためである。
【0030】
以下、このケーシングボーリング装置を使用したボーリング工法について説明する。
【0031】
まず、ケーシング1の外周面1bに潤滑材18を塗布する。このとき、潤滑材18の内部に気泡が入らないように潤滑材18を布等にしみこませて、ケーシング1の外周面1bに薄く延ばしながら塗布するとよい。そして、ケーシング1を外筒体12内に挿入し、ケーシング1の下端を係止部15に当接させて組み合わせる。
【0032】
外筒体12と組み合わされたケーシング1を、地盤G上に立設し、荷重付与手段2にてケーシング1に対し下方へ荷重を付与する。次いで、ケーシング1の下端付近の地盤G(土砂)を吸引管30にて吸引除去すると、図9及び図10で説明した作用により、ケーシング1は地盤G内へ徐々に貫入していく。このとき、外筒体12は係止部15にてケーシング1に対し上方への移動を規制されているので、ケーシング1と一緒に地盤G内へ貫入される。
【0033】
所定の深さまでケーシング1と外筒体12を貫入し、地盤調査・観察を終えると、地盤Gからケーシング1と外筒体12を引き上げる揚収作業を行う。このとき、温度調整手段22を作動させて、潤滑材18を、使用状態における温度範囲よりも高い潤滑性を示す温度に昇温させる。すなわち、図示省略のスイッチを入れて、シリカ電球23を点灯させる。このとき、潤滑材18の温度が80℃を超えないようにする。このようにすると、シリカ電球23は熱を発生して地盤全体が温められるとともに、潤滑材18を昇温することができて、潤滑材18としての機能を向上させることができる。このとき、ケーシング1に孔部27を備えているので、ケーシング1の内外で空気を循環させることができる。これにより、潤滑材18の温度を均一に昇温することができ、潤滑材18の全体が温められてその機能を向上させることができる。
【0034】
この状態で、まずケーシング1にトルクを与え回転させる(静摩擦から動摩擦に変化させる)。次に、揚収手段4としてのウェイト40の重量を増やすなどして、ケーシング1に対し引抜き力を上方に付与する。ケーシング1と外筒体12の間に潤滑材18を介在してあることにより、図6に示すようにケーシング1は外筒体12の内面をスムーズに摺動して、地上へと引き上げられる。一方、ケーシング1の引上げの際、外筒体12は地盤Gとの摩擦が大きく、掘削孔内に残る。しかし、ケーシング1を抜き出した後の外筒体12は、内径側に変形可能となるので、地盤Gとの摩擦の影響を受けることなく簡単に掘削孔から引き上げて回収することができる。なお、外筒体12の引上げ作業は、作業者の手で行うか、あるいは工具を使って行ってもよい。
【0035】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更を加え得ることは勿論である。例えば、孔部27の数、形状、大きさは種々のものとすることができ、複数の孔を設ける場合、ケーシングの周方向及び軸方向に沿って定ピッチでもランダムであってもよい。図7に示すように、外筒体12の折曲げ部16(係止部15)に、金属製の環状キャップ部材19を被せてもよい。このキャップ部材19があることで、掘進の際に外筒体12の折曲げ部16が地盤Gに直接接触するのを避けることができる。これにより、折曲げ部16の損耗を抑制することができる。
【0036】
また、図8に示すように、ケーシング1の外径側に外筒体12を二重に配設してもよい。この場合、ケーシング1と外筒体12の間、及び外筒体12相互間に、潤滑材18を介在する。例えば、図2に示すように外筒体12を一重配設した場合の潤滑材18の減摩効果が1/α(潤滑材を介在しない場合のケーシングの引き抜きに要する力、に対する潤滑材を介在した場合のケーシングの引き抜きに要する力)である場合、図8に示す二重の外筒体12の減摩効果は1/α×1/α=1/α2となる。なお、ケーシング1の外径側に外筒体12を三重以上配設してもよく、このように外筒体12を複数重ねて設けることにより、減摩効果を累進的に向上させることが可能となる。
【0037】
また、外筒体12をケーシング1に対して上方に移動するのを規制する係止部15を、ケーシング1の上端に形成した外鍔部1cとし(図2参照)、外筒体12の上端がその外鍔部1cに当接することで外筒体12の上方への移動を規制してもよい。
【0038】
外筒体12を構成する筒状薄膜13の素材や厚さ、薄板部材14の素材・厚さ・幅寸法、あるいは薄板部材14の配設数や薄板部材14相互の間隔寸法などを、適宜変更することで、外筒体12の可撓性や強度、ケーシング1の引き抜きに要する力を調整することが可能である。
【実施例】
【0039】
潤滑材がケーシングの引き抜きに与える影響を確認する試験を行った。試験方法は、11cm(縦)×11cm(横)×3mm(厚み)のサイズを有するアクリル製の矩形平板2枚を上下に重ね合わせる。これら2枚の矩形平板の間に種々の潤滑材を塗布した後、上側の矩形平板を引き動かして、せん断力を測定した(クーロン式せん断試験)。潤滑材として、(1)蜂蜜、(2)グリース、(3)ワセリン、(4)防錆材、(5)潤滑材なしの5パターンとして測定した。(1)が実施例、(2)〜(5)が比較例である。
【0040】
上載荷重とせん断力の関係を図11に示す。縦軸はせん断力で、横軸は上載荷重を示している。直線が(1)の蜂蜜、点線が(2)のグリース、一点鎖線が(3)のワセリン、罰印が(4)の防錆材、二点鎖線が(5)の潤滑材なしである。これにより、潤滑材を(1)蜂蜜とした場合に最も減摩効果が大きいことがわかった。
【0041】
次に、本発明のケーシングボーリング装置を使用して、ケーシングを引き上げる際の揚収力を測定するとともに、その際の土層の温度を測定した。この場合、温度調整手段はケーシングの内径側に設けた。潤滑材は、クローバーから採取した蜂蜜を使用した。図12に、土層の温度と揚収力との関係を示す。縦軸は揚収力比(本発明を使用した場合の揚収力/従来の装置を使用した場合の揚収力)であり、横軸は土層の温度を示している。白三角印が、従来の装置を使用した場合の結果であり、黒三角印が、本発明の装置を使用した場合の結果である。これにより、土層温度が高くなるほど揚収力比が小さくなっており、土層温度を高くすると、ケーシングを引き上げる際の揚収力が小さくできることがわかった。
【0042】
次に、温度調整手段はケーシングの内径側に設けず、空調機等のケーシングから離れた位置に設けた。潤滑材は、クローバーから採取した蜂蜜を使用した。図13に、土層の温度と揚収力との関係を示す。縦軸は揚収力比(本発明を使用した場合の揚収力/従来の装置を使用した場合の揚収力)であり、横軸は土層の温度を示している。罰印が、従来の装置を使用した場合の結果であり、黒四角印が、本発明の装置を使用した場合の結果である。これにより、同一の土層温度では揚収力が小さくなっており、ケーシングに孔部を設けるとケーシングを引き上げる際の揚収力が小さくできることがわかった。
【符号の説明】
【0043】
1 ケーシング
2 荷重付与手段
3 除荷手段
4 揚収手段
12 外筒体
18 潤滑材
22 温度調整手段
27 孔部
A ケーシングボーリング装置
G 地盤
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤の調査・観察のために行うケーシングボーリング装置、及びケーシングボーリング工法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、地質ボーリング調査は、海浜付近や山間地等の交通に不便な箇所が多く、ロータリーボーリング装置等の重量機器を使用する場合は、その装置の運搬に多大な労力とコストを要している。
【0003】
このため、下記の特許文献1に示すような軽量であって運搬し易いケーシングボーリング装置が提案されている。図1は本発明の実施形態を示すものであるが、同図を便宜的に援用して特許文献1のボーリング装置について説明する。このボーリング装置は、図1に示すように、筒状のケーシング1と、ケーシング1に対し下方に静的な荷重を付与してケーシング1を地盤Gに貫入させる荷重付与手段2と、地盤Gに貫入したケーシング1の下端付近の土砂を吸引する吸引管30を主要な構成要素としている。
【0004】
図9はケーシング1の下端部の拡大図であり、同図に示すように、ケーシング1の下端は尖っており、詳しくは、ケーシング1の下端内周面1aが先端に向かうにつれて外径側に傾斜している。荷重付与手段2にてケーシング1に下方へ貫入力Pv(等分布荷重)を付与すると、ケーシング1の下端内側の地盤に作用する直力Piと、ケーシング1の下端外側の地盤に作用する直力Po、及び剪断力Fvに分力する。ケーシング1の外側地盤には、直力Poと剪断力Fvが作用し、この直力Poに対してはケーシング1の剛性で安定する。ケーシング1の内側地盤には、直力Piと剪断力Fvが作用し、地盤にはそれに抵抗する円形状すべり面が生じて、ある貫入力の時に安定する。
【0005】
図9のようにケーシング1が初期貫入で安定している状態において、内側地盤の反力となっている土砂の上部を吸引管30で吸引排除(除荷)することにより、その取り除いた土砂重量相当分と貫入量減少による剪断力減少分だけケーシング1が再貫入する。図10は再貫入の様子を示し、ケーシング1は深さHxだけ再貫入して安定する。このケーシングボーリング装置は、この作用を利用してケーシング1の下端の内側の土砂を吸引除去することを繰り返して、地盤内にケーシング1を徐々に貫入させていくものである。
【0006】
ケーシングを地盤内に貫入させて地盤調査を行った後は、ケーシング1を引き抜く。この引き抜き作業を容易にする方法が提案されている(特許文献2)。特許文献2のものは、ケーシングの外径側に、例えばグリースやワセリン等の潤滑材を介して外筒体を配設する。これにより、ケーシングを引き抜く際、潤滑材の作用によりケーシングは外筒体の内面をスムーズに摺動して、地面へと引き上げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−257657号公報
【特許文献2】特開2008−231730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、一般的に、潤滑材は温度低下に伴いその機能が低下するため、特に寒冷地や高地で作業する場合等、温度が低いと潤滑材が機能しにくくなる。これにより、低温環境で特許文献2に記載の方法を使用しても、ケーシングがスムーズに引き抜けない場合があった。
【0009】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、地盤に貫入したケーシングを容易に揚収することができるケーシングボーリング装置及びケーシングボーリング工法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のケーシングボーリング装置は、下端が尖った筒状のケーシングと、当該ケーシングに対して荷重を下方に付与する荷重付与手段と、前記ケーシングの下端付近の地盤を排除する除荷手段と、地盤に貫入した前記ケーシングを上方へ引き抜く揚収手段を備えたケーシングボーリング装置において、前記ケーシングの外径側に、ケーシングの抜けが可能であり、ケーシングの抜け後に内径側への変形が可能な外筒体を、潤滑材を介して被覆し、使用状態における温度範囲よりも高い潤滑性を示す温度に前記潤滑材を調整可能な温度調整手段を備えたものである。
【0011】
本発明のケーシングボーリング装置は、温度調整手段を備えているので、潤滑材の温度を調整(例えば昇温)することができ、潤滑材としての機能を向上させることができる。これにより、潤滑材の温度を調整した後に、地盤に貫入したケーシングと外筒体の揚収作業を行うと、ケーシングは外筒体の内面をスムーズに摺動して、地上へと引き上げられる。
【0012】
前記温度調整手段を、前記ケーシングの内径側に設けることができる。これにより、温度調整手段はケーシングの内径よりも小さなものとできるため、装置の小型化を図ることができ、省スペースなものとできる。
【0013】
前記ケーシングに、ケーシング内外で空気を循環させる孔部を備えることができる。これにより、ケーシング内外で空気を通気させることができるため、潤滑材の温度を均一なものとできて、その機能を均一なものとできる。
【0014】
前記潤滑材は蜂蜜を含むものとすることができる。蜂蜜の滑材としての性能は高性能であり、クーロン式単純せん断試験では、ワセリンやグリースの換算せん断抵抗角φが約6.7度に対して蜂蜜は約0.85度である。また、市販品で入手が容易であり現場作業が容易に行える、低コストである、劣化しにくいとの利点がある。
【0015】
本発明のケーシングボーリング工法は、下端が尖った筒状のケーシングの外周面と、可撓性の外筒体の内周面のうち少なくとも一方に、潤滑材を塗布すると共に、前記外筒体内にケーシングを挿入する工程と、前記ケーシングに対して荷重を下方に付与すると共に、ケーシングの下端付近の地盤を排除して、ケーシングと外筒体を一緒に地盤に貫入させる工程と、前記潤滑材を、使用状態における温度範囲よりも高い潤滑性を示す温度に昇温させる工程と、地盤に貫入した前記ケーシングに対して引抜き力を上方に付与して、ケーシングを前記外筒体に対し摺動させて引き抜く工程と、前記外筒体を掘削孔内から回収する工程を有するものである。
【0016】
本発明のケーシングボーリング工法は、潤滑材を昇温して潤滑材としての機能を向上させる。これにより、潤滑材を昇温した後に、地盤に貫入したケーシングと外筒体の揚収作業を行うと、ケーシングは外筒体の内面をスムーズに摺動して、地上へと引き上げられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のケーシングボーリング装置及びケーシングボーリング工法によれば、地盤へ貫入したケーシングを、従来よりも小さな力で容易に引き上げて回収することができる。従って、大掛かりなケーシング揚収装置をボーリングの現場に持ち込む必要がなく、作業コストの削減と作業安全性の向上を図れる。しかも、温度調整手段を備えており、潤滑材としての機能を向上させることができるため、潤滑材の機能しにくい温度環境でもケーシングをスムーズに引き上げて回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るケーシングボーリング装置の実施の一形態を示す全体構成図である。
【図2】図1の装置における地盤ボーリング時の要部を模式的に示した要部縦断面図である。
【図3】図1の装置におけるケーシングであり、(a)は横断面図、(b)は縦断面図、(c)は展開図である。
【図4】外筒体の縦断面図である。
【図5】(a)は図1の装置の要部横断面図であって、(b)は(a)の拡大図である。
【図6】図1の装置における揚収時の要部を模式的に示した要部縦断面図である。
【図7】本発明の他の実施形態を示す要部縦断面図である。
【図8】本発明の別の実施形態を示す要部縦断面図である。
【図9】図1の装置におけるケーシングの初期貫入安定時の力学図である。
【図10】図1の装置におけるケーシングの貫入進行(掘進)時の力学図である。
【図11】潤滑材の減摩効果を示すグラフ図である。
【図12】温度調整手段をケーシングの内径側に設けた場合の土層温度と揚収力との関係を示すグラフ図である。
【図13】温度調整手段をケーシングの内径側に設けない場合の土層温度と揚収力との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
本発明に係るケーシングボーリング装置は、砂質地盤や軟弱粘土性地盤などの自立性の弱い地盤の比較的浅い(深さ10m程度まで)ボーリング調査・観察に適用されるものである。図1に示すように、ケーシングボーリング装置Aは、円筒状ケーシング1と、ケーシング1を地盤Gに静的貫入させるための荷重付与手段2と除荷手段3、ケーシング1を引き上げるための揚収手段4、温度調整手段22(図2参照)を備える。ケーシング1の素材としては、例えば透明アクリル樹脂等である。
【0021】
ケーシング1の上端には、延伸枠5が連結されており、延伸枠5は地盤Gへのボーリングの深さに応じて必要本数がケーシング1上に同軸に連結される。最上段の延伸枠5の上端には、荷重伝達枠20が連結され、この荷重伝達枠20の上に、荷重付与手段2として、例えば錘板からなるウェイト21が載置してある。
【0022】
地盤G上に脚立式の支持枠6が設置され、支持枠6の上端部に設けた滑車7に懸架したワイヤ8の一端に、吊り輪9を介して吊りロッド10が連結されている。支持枠6の上下中間位置に横架した軸保持枠11を吊りロッド10が貫通することで、吊りロッド10の振れが防止される。この吊りロッド10の下端部に荷重伝達枠20を連結して、延伸枠5とケーシング1を鉛直に吊下支持する。また、ワイヤ8の他端には、吊り輪41を介して、揚収手段4としてのウェイト40(錘板)が連結されている。
【0023】
図1に示す除荷手段3は、地盤G上に設置した吸引力制御装置兼土水貯留装置31から延びる吸引管30を備える。吸引制御装置兼土水貯留装置31は、外部の真空吸引手段32に連接された土水貯留タンク構造で、吸引管30から吸引された土砂、地下水を貯留する。なお、除荷手段3は、吸引管30を用いた吸引掘削以外に、オーガー掘削又はバケット掘削などの他の手段であってもよい。
【0024】
図2は図1の要部を模式的に表した図であり、図2に示すように、ケーシング1の下端内周面1aは先端に向かうにつれて外径側に傾斜して、先端が周方向に連続して尖っている。ケーシング1には、周方向及び軸方向に沿って所定ピッチで複数の孔部27が設けられている。本実施形態では、孔部27は直径3mmの貫通孔となっている。この孔部27は直径3mmで、図3(a)に示すようにケーシング1の周方向に沿って20度配置としており、図3(b)(c)に示すように、その軸方向(上下方向)に沿って20mmピッチで配設されるとともに千鳥配置としている。これは一線上に孔部27を配置することによるケーシング1の強度低下対策として行っているものである。従ってこのように千鳥配置とするとともに孔部27の大きさは3mm程度以下とするのが好ましく、これによりケーシング1の強度を維持することができる。この場合、ケーシング1全体の孔部27の配置数において、軸方向(上下方向)に何cmずつ配設するかは、地盤温度に対応したものとする。すなわち、極寒冷地であるか、氷結しない程度か、10数度かによって異なり、またケーシング径によっても異なる。ケーシング1の外径側には、可撓性の外筒体12が配設され、この外筒体12は、外径側の筒状薄膜13と内径側の薄板部材14から構成されている。
【0025】
筒状薄膜13は、塩化ビニルや軟質アクリル等の軟質樹脂製の薄い膜を筒状に形成した部材であり、薄板部材14は、アクリル等の硬質樹脂製の帯板状の部材である。図4に示すように、この筒状薄膜13の内周面に、軸方向に延びる薄板部材14が周方向に複数配設され、筒状薄膜13と薄板部材14は接着され一体となっている。
【0026】
図5(a)(b)の横断面図に示すように、各薄板部材14は筒状薄膜13の周方向に等間隔に配置され、各薄板部材14相互間に隙間Sがあることにより、外筒体12は変形し易く優れた可撓性を有する。これにより、外筒体12は、ケーシングの抜けを可能とするとともに、ケーシング1の抜け後に内径側への変形が可能となる。また、薄板部材14の配置角が小さいほど、揚収力は小さくなる。薄板部材14が平板状であるため、薄板部材14の内面14aとケーシング1の外周面1bとの接触は、線接触ないし細長い面接触となり、接触面積は少なくなっている。
【0027】
また、ケーシング1に対して外筒体12が上方へ移動するのを規制する係止部15を設けている。具体的には、外筒体12の下端を内径側に折り曲げて係止部15を形成する。この実施形態では、外筒体12の下端の折曲げ部16の先端から上方に延伸した内筒部17を形成して(図2又は図5参照)、係止力を向上させている。
【0028】
図2に示すように、ケーシング1の外周面1bと、外筒体12の薄板部材14の内面14aとの間には、潤滑材18を介在させている。潤滑材18としては、蜂蜜を含むものを使用する。蜂蜜の潤滑材としての機能は高機能であり、クーロン式単純せん断試験では、ワセリンやグリースの換算せん断抵抗角φが約6.7度に対して蜂蜜は約0.85度である。ケーシング1と外筒体12の間に介在する潤滑材18は、その内部に気泡が混入しないように非常に薄く延ばされている。なお、図5(a)(b)では、潤滑材18は図示省略している。
【0029】
温度調整手段22は、使用状態における温度範囲よりも高い潤滑性を示す温度に潤滑材18を調整するものであり、ケーシング1の内径側に設けられている。この温度調整手段22は、その周囲を昇温するものであり、図2に示すように、20Wのシリカ電球23と、このシリカ電球23を支持する枠体24と、枠体24に取付けられた4本の支柱25と、シリカ電球23を図示省略のスイッチに連結するためのケーブル26とから構成されている。スイッチを入れてシリカ電球23を点灯させると、シリカ電球は熱を発生して地盤全体が温められるとともに、潤滑材18を昇温することができる。この場合、潤滑材18の温度が80℃以下となるようにするのが好ましい。80℃を超える高温となると、潤滑材18は化学変化が生じ、それ自身が劣化することになるためである。
【0030】
以下、このケーシングボーリング装置を使用したボーリング工法について説明する。
【0031】
まず、ケーシング1の外周面1bに潤滑材18を塗布する。このとき、潤滑材18の内部に気泡が入らないように潤滑材18を布等にしみこませて、ケーシング1の外周面1bに薄く延ばしながら塗布するとよい。そして、ケーシング1を外筒体12内に挿入し、ケーシング1の下端を係止部15に当接させて組み合わせる。
【0032】
外筒体12と組み合わされたケーシング1を、地盤G上に立設し、荷重付与手段2にてケーシング1に対し下方へ荷重を付与する。次いで、ケーシング1の下端付近の地盤G(土砂)を吸引管30にて吸引除去すると、図9及び図10で説明した作用により、ケーシング1は地盤G内へ徐々に貫入していく。このとき、外筒体12は係止部15にてケーシング1に対し上方への移動を規制されているので、ケーシング1と一緒に地盤G内へ貫入される。
【0033】
所定の深さまでケーシング1と外筒体12を貫入し、地盤調査・観察を終えると、地盤Gからケーシング1と外筒体12を引き上げる揚収作業を行う。このとき、温度調整手段22を作動させて、潤滑材18を、使用状態における温度範囲よりも高い潤滑性を示す温度に昇温させる。すなわち、図示省略のスイッチを入れて、シリカ電球23を点灯させる。このとき、潤滑材18の温度が80℃を超えないようにする。このようにすると、シリカ電球23は熱を発生して地盤全体が温められるとともに、潤滑材18を昇温することができて、潤滑材18としての機能を向上させることができる。このとき、ケーシング1に孔部27を備えているので、ケーシング1の内外で空気を循環させることができる。これにより、潤滑材18の温度を均一に昇温することができ、潤滑材18の全体が温められてその機能を向上させることができる。
【0034】
この状態で、まずケーシング1にトルクを与え回転させる(静摩擦から動摩擦に変化させる)。次に、揚収手段4としてのウェイト40の重量を増やすなどして、ケーシング1に対し引抜き力を上方に付与する。ケーシング1と外筒体12の間に潤滑材18を介在してあることにより、図6に示すようにケーシング1は外筒体12の内面をスムーズに摺動して、地上へと引き上げられる。一方、ケーシング1の引上げの際、外筒体12は地盤Gとの摩擦が大きく、掘削孔内に残る。しかし、ケーシング1を抜き出した後の外筒体12は、内径側に変形可能となるので、地盤Gとの摩擦の影響を受けることなく簡単に掘削孔から引き上げて回収することができる。なお、外筒体12の引上げ作業は、作業者の手で行うか、あるいは工具を使って行ってもよい。
【0035】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更を加え得ることは勿論である。例えば、孔部27の数、形状、大きさは種々のものとすることができ、複数の孔を設ける場合、ケーシングの周方向及び軸方向に沿って定ピッチでもランダムであってもよい。図7に示すように、外筒体12の折曲げ部16(係止部15)に、金属製の環状キャップ部材19を被せてもよい。このキャップ部材19があることで、掘進の際に外筒体12の折曲げ部16が地盤Gに直接接触するのを避けることができる。これにより、折曲げ部16の損耗を抑制することができる。
【0036】
また、図8に示すように、ケーシング1の外径側に外筒体12を二重に配設してもよい。この場合、ケーシング1と外筒体12の間、及び外筒体12相互間に、潤滑材18を介在する。例えば、図2に示すように外筒体12を一重配設した場合の潤滑材18の減摩効果が1/α(潤滑材を介在しない場合のケーシングの引き抜きに要する力、に対する潤滑材を介在した場合のケーシングの引き抜きに要する力)である場合、図8に示す二重の外筒体12の減摩効果は1/α×1/α=1/α2となる。なお、ケーシング1の外径側に外筒体12を三重以上配設してもよく、このように外筒体12を複数重ねて設けることにより、減摩効果を累進的に向上させることが可能となる。
【0037】
また、外筒体12をケーシング1に対して上方に移動するのを規制する係止部15を、ケーシング1の上端に形成した外鍔部1cとし(図2参照)、外筒体12の上端がその外鍔部1cに当接することで外筒体12の上方への移動を規制してもよい。
【0038】
外筒体12を構成する筒状薄膜13の素材や厚さ、薄板部材14の素材・厚さ・幅寸法、あるいは薄板部材14の配設数や薄板部材14相互の間隔寸法などを、適宜変更することで、外筒体12の可撓性や強度、ケーシング1の引き抜きに要する力を調整することが可能である。
【実施例】
【0039】
潤滑材がケーシングの引き抜きに与える影響を確認する試験を行った。試験方法は、11cm(縦)×11cm(横)×3mm(厚み)のサイズを有するアクリル製の矩形平板2枚を上下に重ね合わせる。これら2枚の矩形平板の間に種々の潤滑材を塗布した後、上側の矩形平板を引き動かして、せん断力を測定した(クーロン式せん断試験)。潤滑材として、(1)蜂蜜、(2)グリース、(3)ワセリン、(4)防錆材、(5)潤滑材なしの5パターンとして測定した。(1)が実施例、(2)〜(5)が比較例である。
【0040】
上載荷重とせん断力の関係を図11に示す。縦軸はせん断力で、横軸は上載荷重を示している。直線が(1)の蜂蜜、点線が(2)のグリース、一点鎖線が(3)のワセリン、罰印が(4)の防錆材、二点鎖線が(5)の潤滑材なしである。これにより、潤滑材を(1)蜂蜜とした場合に最も減摩効果が大きいことがわかった。
【0041】
次に、本発明のケーシングボーリング装置を使用して、ケーシングを引き上げる際の揚収力を測定するとともに、その際の土層の温度を測定した。この場合、温度調整手段はケーシングの内径側に設けた。潤滑材は、クローバーから採取した蜂蜜を使用した。図12に、土層の温度と揚収力との関係を示す。縦軸は揚収力比(本発明を使用した場合の揚収力/従来の装置を使用した場合の揚収力)であり、横軸は土層の温度を示している。白三角印が、従来の装置を使用した場合の結果であり、黒三角印が、本発明の装置を使用した場合の結果である。これにより、土層温度が高くなるほど揚収力比が小さくなっており、土層温度を高くすると、ケーシングを引き上げる際の揚収力が小さくできることがわかった。
【0042】
次に、温度調整手段はケーシングの内径側に設けず、空調機等のケーシングから離れた位置に設けた。潤滑材は、クローバーから採取した蜂蜜を使用した。図13に、土層の温度と揚収力との関係を示す。縦軸は揚収力比(本発明を使用した場合の揚収力/従来の装置を使用した場合の揚収力)であり、横軸は土層の温度を示している。罰印が、従来の装置を使用した場合の結果であり、黒四角印が、本発明の装置を使用した場合の結果である。これにより、同一の土層温度では揚収力が小さくなっており、ケーシングに孔部を設けるとケーシングを引き上げる際の揚収力が小さくできることがわかった。
【符号の説明】
【0043】
1 ケーシング
2 荷重付与手段
3 除荷手段
4 揚収手段
12 外筒体
18 潤滑材
22 温度調整手段
27 孔部
A ケーシングボーリング装置
G 地盤
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端が尖った筒状のケーシングと、当該ケーシングに対して荷重を下方に付与する荷重付与手段と、前記ケーシングの下端付近の地盤を排除する除荷手段と、地盤に貫入した前記ケーシングを上方へ引き抜く揚収手段を備えたケーシングボーリング装置において、
前記ケーシングの外径側に、ケーシングの抜けが可能であり、ケーシングの抜け後に内径側への変形が可能な外筒体を、潤滑材を介して被覆し、
使用状態における温度範囲よりも高い潤滑性を示す温度に前記潤滑材を調整可能な温度調整手段を備えたことを特徴とするケーシングボーリング装置。
【請求項2】
前記温度調整手段は、前記ケーシングの内径側に設けたことを特徴とする請求項1のケーシングボーリング装置。
【請求項3】
前記ケーシングに、ケーシング内外で空気を循環させる孔部を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2のケーシングボーリング装置。
【請求項4】
前記潤滑材は蜂蜜を含むことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のケーシングボーリング装置。
【請求項5】
下端が尖った筒状のケーシングの外周面と、可撓性の外筒体の内周面のうち少なくとも一方に、潤滑材を塗布すると共に、前記外筒体内にケーシングを挿入する工程と、
前記ケーシングに対して荷重を下方に付与すると共に、ケーシングの下端付近の地盤を排除して、ケーシングと外筒体を一緒に地盤に貫入させる工程と、
前記潤滑材を、使用状態における温度範囲よりも高い潤滑性を示す温度に昇温させる工程と、
地盤に貫入した前記ケーシングに対して引抜き力を上方に付与して、ケーシングを前記外筒体に対し摺動させて引き抜く工程と、
前記外筒体を掘削孔内から回収する工程を有することを特徴とするケーシングボーリング工法。
【請求項1】
下端が尖った筒状のケーシングと、当該ケーシングに対して荷重を下方に付与する荷重付与手段と、前記ケーシングの下端付近の地盤を排除する除荷手段と、地盤に貫入した前記ケーシングを上方へ引き抜く揚収手段を備えたケーシングボーリング装置において、
前記ケーシングの外径側に、ケーシングの抜けが可能であり、ケーシングの抜け後に内径側への変形が可能な外筒体を、潤滑材を介して被覆し、
使用状態における温度範囲よりも高い潤滑性を示す温度に前記潤滑材を調整可能な温度調整手段を備えたことを特徴とするケーシングボーリング装置。
【請求項2】
前記温度調整手段は、前記ケーシングの内径側に設けたことを特徴とする請求項1のケーシングボーリング装置。
【請求項3】
前記ケーシングに、ケーシング内外で空気を循環させる孔部を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2のケーシングボーリング装置。
【請求項4】
前記潤滑材は蜂蜜を含むことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のケーシングボーリング装置。
【請求項5】
下端が尖った筒状のケーシングの外周面と、可撓性の外筒体の内周面のうち少なくとも一方に、潤滑材を塗布すると共に、前記外筒体内にケーシングを挿入する工程と、
前記ケーシングに対して荷重を下方に付与すると共に、ケーシングの下端付近の地盤を排除して、ケーシングと外筒体を一緒に地盤に貫入させる工程と、
前記潤滑材を、使用状態における温度範囲よりも高い潤滑性を示す温度に昇温させる工程と、
地盤に貫入した前記ケーシングに対して引抜き力を上方に付与して、ケーシングを前記外筒体に対し摺動させて引き抜く工程と、
前記外筒体を掘削孔内から回収する工程を有することを特徴とするケーシングボーリング工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−87589(P2012−87589A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237383(P2010−237383)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】
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